東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
食事を終え、何もやることがなくなりぼうっと座り込んでいたが、不意に後ろから刀が振り下ろされた。もっとも、刀と言っても鞘に納められた状態だから危険もクソも無いが反射的に横にずれて回避する。
「あらびっくり。妖夢ならうまくいくのに……」
「主殿、何用か」
悪戯っぽく頬を膨らませて憤慨する幽々子に何か用があったのか聞くと、ひどく驚いた顔をされた。
「………? 何か?」
「固いのは嫌いだし、幽々子でいいわ」
「む………しかし、俺は今は使用人。適切な言葉を…」
「そんなに硬くならなくていいってば。使用人なら、もう家族の一員も同然だわ」
そんなものでよいのかと首をひねるが刀を置いた幽々子はふわりとどこかへ………って
「浮いた!?」
よもや飛べるとは思っておらず、情けなくも大声が出る。
俺が飛ばされたこの世界は、本当に不思議な場所だ。どうみても、普通の人間にしか見えないが…
「………考えても、意味はない……か。それにしても、この刀………」
師より賜った刀、「蓬莱海・真打」幽々子が俺から取り上げていたものだ。武器を相手に返却したということは、一応は信用されているということか。刀を腰に差し、中庭へ出て砂利の上におもむろに正座し、目を閉じる。
瞼の裏、師とかつて戦っていた記憶を頼りに、空想上の師を目の前に作り出す。
空想の師が形になったタイミングで、瞼を開く。目の前に変わらずあり続ける、師の胸像。
立ち上がって向かい合い、まずは軽い礼を。三歩前へ歩を進め、刀を互いに抜いて蹲踞。どちらともなく立ち上がり、実戦形式の稽古が始まる。
師、海帝が行った最初の攻撃は、種も仕掛けもない真正面からの面打ち。
普通なら刀で受け止める所だが、付き合うつもりはない。大きく後ろへ飛び、刀の制空権の外へ飛び出す。無論、師もそれを黙って見過ごすことはない。再び大きく前へ出、再び面打ち。
次は横に飛ぶ。これ以上後ろに不必要に下がれば、壁に追い込まれる可能性も十分にある。
右、左、右斜め前と、円を描く形で回避を続ける。最小限の移動距離を維持すれば、避けるだけならたやすい。問題は、何処まで避け続けられるか。
俺は慌ただしく足をばたつかせながら無様に右へ左へ動くしか能がないが、師は見事なすり足の重心移動によって最低限の運動量かつ動きで俺に面を打ち続ける。
30分程回避をつづけ、僅かな息切れと共に体に熱がこもり始め、高揚感と心地よい疲労感が体にわき始める。この時が、最もよく動けるタイミングだ。
体の筋肉のほとんどがほぐれ、温まり始める。楽しいと感じるようになる。
そう。基本的に、この瞬間が最も危険な瞬間だ。
動けるようになればこそ、相手の動きに慣れてこそ、少しの油断と、多少は甘い行動をとってもいいかと言う馬鹿げた思考を期せずして許してしまうことになる。
「ッ!」
不用心に横回避をし過ぎたツケがとうとうやってきた。早くに避けようとするあまり、反復横跳びのような飛び回避を選んだのは失策だった。
軽すぎる砂利がブレーキをかけながら着地しようとする俺を支えきれず、横滑りする。
体勢をほんの一瞬崩し、踏みとどまったその瞬間に振り下ろされる、不可避の面打ち。
もう避ける選択はない。刀を横に持ち、振り下ろされる刀を受ける意外に出来ることがなくなった。
受けたくなかった。絶対に。
瞬間、腕に訪れる確かな痺れの予感。高速で振り下ろされた刀の勢いを止めんと、体がこわばり岩のように硬直する。迫りくる刀を無事跳ね返すことに成功するが、問題はここからだ。
跳ね返された刀の後方に飛ぶ勢いを、自身の刀を引く力として利用し、コンマ00の時間で繰り出される二撃目、薙ぎ払いの胴打ち。
師の得意技。やっていることは基本中の基本、面打ち→胴狙いのセットプレーだが、その完成度と極限までそぎ落とされた一切の無駄のなさにより、必殺の連携になりうる。
面を受け止めた体勢を利用し、曲げた足を一気に延ばして跳躍する。
俺の胴に滑り込まんとする白刃が、跳躍の気配を察知して急停止。すぐさま斜めの状態の刀を真正面に整え、中空の俺を串刺しにせんと突きをくリ出してきた。
横に刀を薙ぎ払い、突きをはじくことで何とか着地に成功する。
ドシャリとやかましい音を立てて着地し、再び続きをしようと前に目を向けるが、師はすでに消えていた。
「………まあ………当然か」
実は、この勝負、途中で決まっていた。面打ちからの胴への攻撃を俺は飛んで避けたが、それは本来ならば
想像故に、重さや衝撃まで再現できなかったのだ。
結果として本来どうすることもできないはずの攻撃と言う事実から目をそらし、浅ましくも空に逃げ込んだ俺にあきれてしまったのだろうか。
先ほどまであれほどはっきりと想像できていた師の姿は、もうどこにもなかった。さしずめ、「今日はここまで」と言ったところか。
「………………少し休むか」
集中を解き、ため息を漏らしながらふと目を屋敷のように向けると、俺の事を食い入るように見つめて微動だにしない少女、妖夢の姿があった。
「………もしかすると、庭でこういった鍛錬を行うのは問題か?」
俺が気付いたことにようやく気づいたのだろうか。
飛び上がらんばかりの勢いで驚いたように後退し、一言だけ、
「お、お邪魔しました~~!!」
とだけ叫んで屋敷の奥の方に引っ込んでしまった。
「………何だ?」
そんなに変なことをしていただろうか。よもや、俺に見とれていたわけでもあるまいに。
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