東方仮面ライダーパラドクス GAME IS ANOTHER STAGE 作:桐生 勇太
絶望的な言葉を投げられた妖夢は、しばらく口を開いては閉じて、と繰り返していたが、やがて震える声で言葉を紡いだ。
「わ、私………もっともっと、一生懸命………頑張ります………ま、毎日………空いている時間を、全部、全部使います………頑張ります………だから………!」
「お前の努力が不足しているわけではない。努力ではどうにもならんのだ」
「そん………な………」
被せられるように俺に否定の言葉を投げかけられ、妖夢はとうとう俯いてしまった。そして暫くして、また顔を上げて言葉をつづけた。
「どれほどの時間が必要でも、構いません。わ、私、半人半霊なんです………普通の人よりもずっと長生きで………100年でも、200年でも………」
「例えお前が死ぬ直前まで刀を振り続けても、最期の瞬間、薄れゆく意識の中で、お前は「すべて無駄だった」と、「祖父に近づくことなどできなかった」と思い知ることになる。………そうなりたいのか」
「わ、私には………何が足りないんですか? さ、才能なんて………ど、努力でどうにでもして見せます………! どうにもならないなんて、そんなわけ………!」
「お前に才能がないわけではない。お前の祖父とはあったことが無いから比べることはできないが、俺個人から言わせればお前の才能は一級品だ」
「………じゃ、じゃあ………どう、して……………?」
「お前は………女だ」
その一言を口にしたのとほぼ同時に、妖夢はビクリと体を強張らせた。
「女だから………刀を扱えないと? 女には………強くなることなど、出来ないというのですか………!?」
「いや………………そうだ。絶対に、お前にできはしない。お前は………女だ」
「ち………が……う……………私………は………」
本当は、もっと違う意味で言ったのだが、どうやら俺が男尊女卑をしていると勘違いしたようだ。初めはすぐに否定しようとしたが、この後の事を考えてあえて肯定することにした。
「違うというなら、俺を倒して証明しろ。自分より弱い者の意見など、価値がないと………初めに言っておくが俺はまだこの刀を手にしてからひと月も経っていない。元は別の武器を扱っていたが変えた。今は素人同然だ………そんな初心者の俺に負けたら、捨てろ」
「すて……る………?」
「俺と出会うまでの、以前のお前が歩んできた、積み重ねてきたもの全て、全て捨てろ」
そこまで言うと、妖夢の目に光が宿った。目の前のこの男さえ倒せれば、自分の未来を証明できると考えたのだろう。
「刀を抜け。かかってこい………哀れだが、お前のすべてを俺は否定する」
「………!」
瞬間、妖夢が二本の刀を抜き、大きく後ろへ飛びのいた。
長刀と短刀の二本を構え、先ほどの悲し気な表情などどこへ行ったのやら、静かな表情で俺を見据えている。
「………長刀の方に……若干重心が持って行かれているようだが………」
「………これが、祖父のいつもやっていた型でした」
「……フ…そうか………だからお前は成長できんのだ」
俺がそう言い終わるや否や、俺の懐の中へひとっ飛びで潜り込んできた。
「お爺様が間違っているというのですか!!」
懐に潜り込んでからのすくい上げる軌道の斬撃。
体を半身にし、最小限の動きで躱す。
純粋な速度で言えば、今まで出会った中でも最速だ。だが………
「速いことには速い………が、直線的で正直すぎる。速いだけでは、俺は斬れんぞ」
こちらからすぐに斬りかかることはせず、淡々と言葉を続ける。
今妖夢に必要なのは、否定だ。やり方を根本から間違えていることを、最優先で伝えねばならない。
「まだまだ!!」
二本の刀を振りかざし、妖夢が俺へと突進する。
俺は適切な距離を妖夢から取り、後ろへ少しずつ下がりながら妖夢の長刀の斬撃のみを叩き落とす。
「適切な立ち回りをして、短刀が届かぬ間合いを保てば、二刀流などさして一刀流と変わらん………いや、むしろ………」
妖夢が振り下ろした長刀を再び振り上げようとした瞬間、鞘にしまった状態の俺の刀を妖夢の手首に軽くぶつける。
力を込めていただけに、方向を変更する一瞬の脱力に合わせた一撃。
「小手有り………だ。片手で支えるため、両手で一本の刀を支えて持つよりも遥かに安定性がない………おまけに」
妖夢が長刀を取り落し、地面に落ちる直前に、蓬莱刀を右手に持った俺が開いた左手で妖夢の長刀を奪った。
「こうして奪われる危険性もあるわけだ………さぁ……どうする? 地の利は互角、体術はお前、技量はどうやら俺、間合いの有利も………この場合は俺だな」
「くっ………!」
短刀のみとなった妖夢は短刀を真正面に持ち、剣道の基本、中段の構えを取った。
「今度は俺から攻めるぞ………防御してみろ」
鞘に入ったままの蓬莱刀を真っ直ぐに構え、妖夢の肩口を狙って一気に突き出す。
妖夢は斜めに短刀を薙ぎ払い、俺の突きをはじいて防御した。………だが………
「愚直に防御する奴があるか。お前は一刀、俺は二刀。お前が防御した隙に、もう一方で攻撃ができるんだぞ。………まずは避け、そして二撃目を防げ」
妖夢の首付近に長刀を揺らし、「いつでも斬れる」と挑発をする。
妖夢は悔しそうに唇をかみしめ、真後ろへ下がって距離を保ち、再び構えて見せた。
「お前が下がってどうする?短刀しかないお前では俺の間合いの外から攻撃はできない。逃げずにちゃんと攻めて来い」
「くっ………分かっています! ………し、しかし………」
「何だお前、まさか今まで「自分が二刀流で相手が一刀流」を前提で鍛錬してきたから、「自分が一刀流で相手が二刀流」の時の対処がわからないとでも言う気か?」
俺がまさかと思い質問を投げかけると、妖夢は何も言い返さずに俯いた。
「本気か………? 分かったもういい。受け取れ」
仕方なく俺は妖夢から奪った長刀を地面に突き刺し、背を向けて8メートルほど刺した位置から距離を取った。
「抜け。それを抜いてお前が構えなおしたら、再開だ」
「ふ、ふざけないで下さい!!!!」
「言っておくが、大真面目だ。刀を抜け。抜けないというのなら、お前の放棄と見なす。俺の勝ちだ」
「………ッ!」
大いに不満あり。と言う表情で妖夢は俺の言葉に従い、地面に突き刺さった自分の長刀を抜いた。そして、並々ならぬ気迫を発しながら構えを取った。
「何か………よほど自身がある技を出すつもりのようだが………」
「スペル発動………【人智剣「天女返し」】」
妖夢は構えたままその場から動かない。かなりの溜めが必要なようだ。
「この技は………ここ、幻想郷で最速と言われている鴉天狗に「目で追えない程の速度」と言わせた私の最速の技です………これで………」
「決着、と言うわけか………いいだろう、来るがいい」
やることは変わらない。海帝の剣技を防いだ時と、まるで同じように。
刀を腰に差し、居合の構えを取って俺は、ゆっくりと目をつむった。
速さで適わぬのなら気配で感じ取る。動く瞬間の起こりさえ逃さなければ、必殺技も子供のチャンバラと大して違いはない。
何より、いい意味でも悪い意味でも妖夢は少々素直が過ぎる。
ここまで意を発するのなら、間違えようもない。
………………………………ッ!動いた!!
瞬時に前へと駆け、目を開くこともなく刀を一気に抜刀する。
走りながら腰をひねり、最速の抜刀術を発動。抜き去った刀のちょうど先端に何かがぶつかり、妖夢の呆然とした声が響いた。
「嘘………」
目を開くと同時に、妖夢の長刀と短刀両方が俺の目の前の足元に落下した。
「さて………刀を拾え。今度は………俺がお前に技を見せる番だ」
放心状態の妖夢に刀を押し付けると、ようやくもう一度構えて見せた。
だが、先ほどまでの気迫はどこにもない。ただ茫然と、構えているだけだ。
「防いで見せろ………お前の速さとは比べるべくもないほど鈍重な技だが、俺の師の技だ」
妖夢はその表情こそ伺うことができなかったものの、「せめて防御くらいは」という思いは伝わってきた。
「行くぞ………セイッ!!!」
種も仕掛けもない、真正面からの面打ち。妖夢は二本の刀を交差して構え、俺の一撃目を受け止めた。重い衝撃を支えんと、妖夢の体が完全に硬直する。
俺にもまた、防がれたために反動で刀が撥ねる。
その撥ねる力を利用し、一気に刀を引いて不可避の第二撃目。胴打ち。
妖夢の体に触れるその直前に刀を急停止させると、妖夢の身体から力が抜け、妖夢はその場にへたり込んでとうとう泣き出した。
「………決着………だな………仕方ないことだ……人には、向き、不向きと言うものがある………」
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