「グェッホ、グェッホ」
塩味の利きすぎた水を思い切り吐くワルイージ。彼の口から文句が垂れる。
「何なんだ一体!」
初めての世界でいきなりの水に落ちるなんて経験はこの男には無かった。愛用の帽子も服もどんより重い。
「静かにするヌメ」
ヌメヌメとワルイージに近づくヌルメ。声こそワルイージにかけたものの、その逆三角形のサングラスに隠された瞳には、ワルイージよりも遠くを写していた。
それに気づいたワルイージは、バシャバシャと音を立てて振り向く。
「うるさいヌメ、まあ、もう遅いヌメが…」
ワルイージは、海を注意深く観察していたが、なんの変化も無い。不思議に思い、ゲッソーの方向に振り向いた瞬間、バッシャーンと海を無理やり引っ張り上げたかの様な音がビーチに響き渡った。
「オレっちの縄張りで騒いでるやつはお前らプクな!」
ソレを一言で表すならば、デカイ緑色のプクプクだ。もう少し詳しく説明すると、頭に小さな金色の角が生えている様に見える。
プクプクは、完全にワルイージとヌルメをロックオンしていた。
「ヌルメは違うヌメ」
事実である。
「うるさいうるさいうるさーーーーい! キングプクプンの眠りを妨げるヤツはみーんな深海に沈めてやるプク」
バトルが、はじま「ヌメー」らなかった。
ヌルメから放たれた墨はキングプクプンの両目に直撃し、キングプクプンの世界は墨色に染まった。
「プ、プクー! オレっちの、オレっちの目がーーーー!」
キングプクプンはヌルメの墨を落とすためにがむしゃらに海へと飛び込む。
ヌルメは、これを好機とみてキングプクプンに殴りかかろうとするワルイージを引き止めると、ワルイージを連れてシラレズビーチから逃走した。
「あーあ、ヌルメのビーチセットがヌメ…」
キングプクプンが暴れたおかげでヌルメのビーチベットや飲みかけのココナッツジュースが波に攫われていった。
★★★
しばらく走ると、なにやらうるさい音がワルイージの耳に聞こえてきた。さっきのビーチとは打って変わって観光客も山程いる。
「ここは、ハヤリノビーチヌメ」
確かに、流行っている。観光客を対象とした海の家もそこら中に立っている。
「ところで、君は誰ヌメ?」
ワルイージはすうっと息を吸い込むと、
「ワールイージーーーーーーー」
と決めポーズ付きの自己紹介を繰り出した。
「な、なるほどヌメ」
ヌルメには、余り響かなかったようだが。
ワルイージの自己紹介のせいで何人かの観光客から注目されてしまった。近くにいた3体のゲッソーがヌルメに迫る。
「おいヌルヌル」「ヌルヌル」「ヌルヌルゥ」
このゲッソー達、左から順番にゲソシ、ゲソオ、ゲソタという。
「…」
なぜかヌルメは黙っている。
ゲソシはヌルメに近づいた。
「お前の墨はヌルヌルだから、なんの役にもたたないゴミだゲソ! サッサとこのビーチから消えろゲソ!」
ヌルメが砂浜に倒れる。さっきのキングプクプンの時は何だったのか、今は受け身のヌルメ。
「フン、お前は弟のツルメに養ってもらってるニート野郎のくせにぃ、こんなところでフラフラしていていいのかよゲソ」
「ヌ、ヌメ…」
と、自己紹介が滑ったワルイージは突然飛び上がると。
「ワルイージ!」
空中で3回転した後、どこからか取り出したバラを加えての決めポーズ。
これには、ゲッソー三人組も困惑し、
「何だこいつゲソ」「頭おかしいゲソ」「怖いゲソ」
と言って人混みへ消えていった。
「ありがとヌメ」
ヌルメは自分の為にワルイージが恥をかいてくれたと思った。
「アイツらも言ってたヌメが、ボクはニートで弟に世話になってるヌメ」
ワルイージは落ち込んでいる。が、ヌルメが話し始めたので耳を傾けた。
「さっきのシラレズビーチは静かな事だけが取り柄な場所ヌメ。そんな所に何のようがあったヌメ?」
なんとか立ち直ったワルイージは、ヌルメに事情を話した。
「デイジー姫? 知らないヌメ。弟なら何か知ってるかもしれないから、ついてくるヌメ」
★★★
同時刻。
「誰かー、俺の姿が見えるやつはいないのかー!」
シラレズビーチに薄い星型の影が現れた。
「ズズズ…どうしようズタ…。」
影は、太陽が海に沈んだことにより、闇の中へ消えた。