「1番 ショート 天野君 背番号6」
俺は、打席に向かう
「おい!初っ端からこの2人の対決だぞ!」
「投の本郷と、打の天野か。どっちが勝つんだろうな」
「そりゃ、本郷だろ!140km/hにスプリットだぞ!?中学生に打てるわけねぇ!」
「いやいや、天野だろ!全国でも4本ホームラン打ってるぞ!それに、俺、天野が凡打したの見た覚えがないぞ!?」
様々な声が、スタンドから聞こえる
ちなみに、俺は、自分で言うのはあれだが、馬鹿みたいに打ってる
俺は、足で打席の土をならし、左打席に入り、いつものルーティーンをする
その間、本郷は、マウンド上から俺を睨みつけていた
ただ、目付きが悪いだけかも知れないが
俺は、重心を低くして、バットを立てて構える
これが、俺が磨き上げてきたフォームだ
「プレイ」
さて、本郷の140km/hどんなもんかな
140km/hの投手は何度か当たってるがホームランも打ってるし打てないイメージはない
本郷のワインドアップ
「ぐっ!」
想像以上の球だった
インコースに豪速球が投げ込まれた
俺は手が出ない
おいおい、これは、ヤベェ
バックスクリーンには145km/hの表示がある
審判の手は上がっている、ストライクだ
ふんといった表情の本郷がボールを受け取る
これにスプリットもあるんだろ?バケモンか
もし、次がストレートだったら
…確実に三振する
このスピードからのスプリットなんて初見殺しだ
次のストレート狙うぞ
ここで、ストレートを選択しないキャッチャーはまずいないだろう
それとも、他の変化球もあるのか?
「翔!」
ん、信ニがなんか言ってるぞ
てか、聞こえるって、俺、結構、緊張してないのか
「ごちゃごちゃ考えてねぇでバットを振れ!来た球を打つ、それがお前のスタイルだろ!曲げるんじゃねぇ!」
「…」
そうだな
原点回帰、来た球を打つ
それが俺のやり方だ
そんなことも忘れてたのか
ふぅ…と軽く息を吐く
「しゃぁ!!」
俺は声を出して気合いを入れる
「おい、翔さんが声出したぞ」
「お、おう!震えてきた」
「…翔の本気が久しぶりにみれるぞ」
俺は本郷の方を見て構え直す
もう、本郷しか見えない
周りの声も聞こえない
これは、入っちゃってるなと思った
本郷がワインドアップで2球目を投げる
ボールがしっかり見える
そこで変化が生じる
急激にボールが落ちる
すんごい変化だな
円城も裏をかいたつもりだと思うが
今の俺は…
俺は、バットを振り抜く
「まじかよ…」
「翔さん!」
「えぐいな、あの人」
甲高い音を立てて打球はバックスクリーン横に突き刺さった
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
歓声が地鳴りのように鳴り響く
「しゃぁぁぁ!」
柄にもなく声出ちまったよ、おい
俺は、腕を突き上げる
どうだ、東条
お前を負け投手にはしねぇ、見てろよ
優勝してやる
これで、1-1
松方シニアが追いついた
しかし、その後の、打者は頑張ったもののランナーに出ることはできなかった
信ニは頑張ったがセンターライナーだった
そして、2回表
「松方シニア 守備の交代をお知らせします。ショートの天野君がピッチャーに入り、負傷した東条君に変わりまして、蒲田君 背番号14」
「ピッチャー 天野君 背番号6」
俺がマウンドに上がった
「天野が出てきたぞ!」
「これは!」
スタンドが湧く
今大会、リリーフ主体で投げているが、被安打1だ
これはすごいことなんじゃないかと俺は思ってる
投球練習をしてみて思ったが、かなり調子イイぞ
相手の5番打者が右打席に入る
「プレイ」
主審のコールが響く
俺はワインドアップでモーションにはいる
見とけよ、これが…
この一球で俺の道が変わるとは思ってなかった
オーバースローから投げられた浮き上がるようなボールは風を切りながらキャッチャーのミットをかすめ、バックネットに飛んで行く
キャッチャーの技量が俺の球に追いついていなかった
相手も降ったが当たる気配はない
これが俺の球だ
バックスクリーンには、147km/mの表示がある
この時の相手の絶望したような顔は忘れられない
ここからは、緊迫した投手戦だった
「しゃぁ!!!」
「うぉぉぉ!!」
俺と本郷の魂の削りあい
その目にはお互い意外見えていない
絶対に負けない
俺の2打席目は完全にやられた
初球のストレートをジャストミートしたがファール
2球目は変化球が来ると読んでいたがストレートで見逃し
3球目はストレートだった
アウトコース低めのギリギリ
手が出なかった
全球ストレートの見逃し三振
本郷は吠えていた
いつのまにかキツさは消えて楽しくなっていた
それは、本郷も同じだろう
あいつに負けたくない
その思いだけで投げ続けてきた
「ふぅ」
俺は渾身の力を込めて投げる
「ぐ!!!」
ど真ん中だったが、本郷のバットは空を切る
「ストライク!!バッターアウト!!」
「しゃぁぁぁぁぁぁ!!」
自然と雄叫びとガッツポーズが出た
相手のスコアボード 7回の表に0が浮かぶ
両チーム0行進で最終回まで来て、俺は抑えた
俺も本郷もランナーは出せども、ホームには帰らせないピッチングでここまでたどり着いた
「翔!!お疲れ!」
「秀明!!!」
病院に連れて行かれた秀明は足をギブスで巻いていた
折れてたんだな
「お前…だい」
「ほら!翔からでしょ!早く行ってきな!」
秀明に促され準備する
「翔!力抜いてけよ!」
「俺が決めてやるから、ランナーに出ろ!」
秀明と信ニの声を背に打席に向かう
信ニ…最優秀選手賞取られるからそれはやだ
打席に入る
マウンド上の本郷は疲労の色が見えるが
笑っていた
自然と俺も笑みが浮かぶ
周りから見れば、何笑ってんだって思うけど
俺は、この勝負が楽しくて仕方がない
お互いギリギリの中
そして、中学最後の本郷との対決なるだろう
本郷はワインドアップで今日見た中で一番のストレートを投げてきた
スピードも球威もキレも最高
惚れ惚れするストレートだ
俺は、その球をフルスイングで迎え撃つ
全く感触はなかった
甲高い金属音が鳴り響く
打球は
勝利への架け橋となるように、スタンドへのアーチを描いたのだった
「この子は…絶対うちに来て欲しいわね。」
この試合を見ていた、1人の女性はそう呟いた
無理矢理感がすごいけど…書き切りました!