まなこのうらの、まがりかど。   作:シー

1 / 5
Fate/シリーズ二次創作クロスオーバー冒頭企画第一弾。

 「現世(性格)→ヒロアカ(個性)→FGO(座)」の順番で何かしら引き継いで転生した「クラス:フォーリナー」な「秩序・悪」属性の「レッドピラミッドシング」のお話。




赤を被った青年の話

 確かに、この世界って滅茶苦茶過ぎじゃないかな? とは思っていた。

 前世の世界では『日常』とされたものが『超常』へと変貌した世界。夢物語だった『超能力』が『個性』として世界的に認められ、今や持って生まれて当たり前とされる超人社会の只中に生まれたぼく(・・)は、何の因果か『個性』という超常の力の概念が無い世界に、『個性』を持って生まれ落ちた。

 

 輪廻転生、という死んでようやく理解するものを実際に経験した事も、そんな経験を経たという記憶がある事も十分滅茶苦茶だと思う。これで二度目の転生という事実もそれに拍車をかけたが、それでもやっぱり今生の世界は滅茶苦茶で、そして単純に不可思議だった。

 

 僕の前世は必要悪の観念の薄い世界だった。世界には蔓延る絶対悪と完全無欠の善の象徴の二項対立しかないとでも言うかのように、善か悪かと白黒はっきりした分類を求める。

 つまるところ、結果だけがより重視される世界。悪者は理由の如何を問わず悪者で、彼らの背後にある理由(バックグラウンド)は意図的にも無意識的にも無視される。特に個性を用いて悪事を働く者は(ヴィラン)と呼称され、明確に人間社会にとって有害な、優先して排除すべき害悪として扱われる。

 対して、善の象徴である英雄(ヒーロー)は徹頭徹尾『善』であると盲目的なまでに認識されている。職業ヒーローに対してでさえ、彼らは無辜の一般市民を守れて当然なのだと断じられ、そこに僅かな綻びでも見られようなら重箱の隅をつつきまくるようにして悪し様にけなす。

 ヒーロー飽和社会には『見返りを求める善』は必然的に増え、彼らの手の届かない幾許かの闇や犠牲からの突き上げは激しくなる一方だった。

 ぼくの前世はそんな善悪がはっきり求められる世界で、とても希少かつ蛇蝎のごとく嫌厭される『必要悪』に生まれた一つの命だ。

 

 アメリカ合衆国の、とある田舎町。個性の登場により銃火器の類が個性より安全なものと誤認されやすくなり、下手をすれば高校生が懐に銃を忍ばせているこの国で、ぼくはそう言った文明の利器とはほぼ無縁な生活を送らざるを得ない家系に生まれた。

 銃を用いず、ギロチンも眼中に入れず、かといって縄や電気椅子を用いる訳でもなく、前時代以前の野蛮極まりない時代と呼称された頃から先祖代々伝わるモノ――身の丈を超えかねない程に巨大な大鉈と、一点を刺し貫く事だけを目的とした長柄槍を用いて罪人を殺す、アメリカの生きた遺物。法的に人殺しが許された『処刑人』こそがぼくの一族が生業とする職業だった。

 人は生まれながらに平等ではない。個性の有無、家柄の富貴、金銭的な余裕、家庭の環境に、生活圏内の環境、その他の諸要素は不平等に割り振られ、その大概は個人の努力ではどうにかするにも限度がある。

 ぼくの場合は生まれの不平等。ぼくは生まれながらにして『必要悪』の血と名を背負い、自分たちに石と暴言を投げつける『善良なアメリカ国民』を守らなければならない。法的に裁かれるギリギリの悪であり、法的に保護されるギリギリの善でもあるこの家業だけれど、ぼくはこれを不平等と呼びはしても理不尽とは呼ばなかった。そして抵抗はあっても嫌悪はしなかった。

 だからだろうか、転生を経験した今生が九割九分前世と重なる、いわば『平行世界の自分』に転生を果たしたような状況になってしまったのは。

 

「自分たちがやらなくても誰かがやる。誰かでもやれるなら、自分たちがやる」

 

 これは、随分とお人好しな性質だった初代様が残した言葉だ。正義感の強さで処刑人に名乗り出た友人の代わりになろうと自分から血を被りにいった男の、どうしようもない自己犠牲の言葉。

 起点からして前世と同じ、という点でも不可思議極まりない出来事なのだけれど、それはそれとして原点から同じなのだからぼくの魂は余程処刑人の業に馴染んだのだろうと考えると、こう言っては何だがぼくはぼく(・・)として生まれるべくして生まれたのではないかと勘ぐってしまうのは、仕方がない事だと思う。

 前々世の平凡極まる少女の観点から見ればどうしてそうなったと頭を抱えてしまうが、まぁ馴染んだのなら仕方ない。

 兎も角、初代処刑人となった我が家とは対照的に、その友人は代々街の警察官の家系の祖となった。その縁もあってぼくらの血筋は街に無くてはならない家業として守られ、生活していくうえで色々と便宜を図ってもらえている。

 確かに、ぼくには人殺しの血が流れている。そしてぼくは実際に人殺しだ。もう何度この手を血で濡らしたかわからない。

 それでもぼくは、自分の家業に誇りを持っていた。誰かの命を奪う事に抵抗や嫌悪を忘れない父や祖父が、淡々と、けれども罪人の命にさえ敬意を払って苦痛の無い死をと日々過酷な鍛錬に励む背中が、かつて無意味に命を散らされたぼくの眼には酷く尊いものに映ったからだ。

 処刑場では厳かに、確実に一刀一刺で命を絶つ姿は、見た目こそ恐怖と絶望に満ち溢れていた。処刑人は畏れられて当然のものでなければならない。処刑人の存在こそが犯罪への抑止力となるのだと信じたぼくの家系は、先祖代々研究を重ね、ついには人々に恐怖される生きた伝承になるまでに至った。

 

 罪には罰を。

 司法の名の下に制裁を。

 されど余りにも重い罪過には、かの処刑人を。

 鉄を振るえ。槍を持て。ただ一度の暴虐にて命を絶ち、罪を殺せ。

 流れた無辜の血を悲しむならば、それは抑止の化身となるだろう。

 罪悪を感じる心根があるのならば、それは救いの現身となるだろう。

 己の生み出した悪逆非道に酔うのならば、それは絶望の権化となるだろう。

 

 血を流せ。死を想え。お前が殺した人間の生に悔いろ。

 罪人を殺せ。狂信の徒を殺せ。神と名乗る化け物を殺せ。

 聖女も聖母もあるものか。此処には哀れな女子供が居るばかり。

 神の御業に人が立ち入るなど愚かにも程がある。

 神の復活は時が成す。神の復活は天使によって成される。

 神は人の腹に宿るに非ず。人の腹には人が宿る。

 人に神が宿るのならば、人は道を外れて堕ちるのだろう。

 神は人の腹に宿るに非ず。神は堕ち行く人の腹を蹴って天へ昇る。

 だが、そのような神を誰が祀る?

 救済などと、罪人共が烏滸がましい。

 救済は死の果てにある。贖罪せよ、全ての始まりはそれからだ。

 罪人は殺す。狂信者も殺す。神とて殺す。罪成す全てをこの手で殺す。

 そして廻れ。転じて生きろ。死と贖罪の果てには無垢なる生こそ相応しい。

 天使に貶められた神なる一柱、ヴァルティエルの回す輪のままに、生きて死ね。

 それでも真の神が宿ると言うのならば、それはヴァルティエルの領分だろう。

 神の生殺与奪はかの従者の手に。処刑人でもあるかの神ならば、十全に成る。

 人の業は人が裁く。神の業は神が裁く。

 神の名を騙る化け物は……人の業が生み出したモノは、人が捌いて殺すが道理。

 

 さあ罪を知れ。

 罰を受けよ。

 死による贖罪を求める。

 死による救済を与える。

 命を乞うて涙するならば、次なる生こそ真摯に生きよ。

 それが罪人たるお前に許された、ただ一つの赦しである。

 

「おやすみなさい、尊い命。ヴァルティエルが導く日まで、次なる生を待ちなさい」

 

 鉄でできた三角形の被り物の中で紡いだ言葉は、外見のシンプルさに反して複雑な内部機構に阻害されてくぐもり、神経を逆撫でするような不気味な音と化す。

 言葉の意味など伝わらないだろう。そもそも言語として認識されたかどうかさえ怪しい。鉄錆びたにおいに包まれながら、罪人たちが最期に聞いたのは異形の姿に身を窶した処刑人の鳴き声だ。決してその生を想う言葉では無い。

 それがほんの少しだけ寂しいと思いながら、今日も今日とて時代錯誤な処刑人はその手を赤に染め上げる。

 抑止である処刑人が居てさえ、この地には罪が混沌と渦巻いている。それは偏にこの街に巣喰う、土着信仰を改悪(・・)した『教団』の連中のせいだ。

 奴らさえ居なければ、この街はもっと住みよい街になったはずだ。風光明媚な我が故郷に吹く穏やかな風は、きっとどこか遠くの花の匂いを運んだだろう。けれどここ最近では血腥い臭いばかりが鼻を突く。早々に片を付けたいと思うのだけれど、処刑人は司法に属するものである以上、法の許し失くしては槍も鉈も振るえない。

 

「まぁ、処刑人(ぼくら)の法も公的に有効だから殺せない事は無いのだけれど……」

 

 処刑人の法を用いてしまったら、今度は処刑人が槍玉にあげられてしまうだろう。公に認められているとはいえ、反感は確実に買う。ただでさえ最近は色々とキナ臭いのだから、不用意に付け入る隙を生むのは得策とは言えない。

 だから後手に回るしかない現状が歯がゆくない訳ではないけれど、ぼくの感情など使命に比べれば些末も些末、吹いて飛ばしてしまえる程度の感傷でしかない。

 願わくば早々に警察が奴らの息の根を止めるだけの情報を持ち帰ってくれますようにと、赤黒く染まった手指を水に晒しながら祈る。最近の処刑は回数も人数も多すぎるのだ。

 

 救済を願うならば、贖罪の果てに望めばいいのに。

 そうして生まれ変わって、今度は優しい世界に生きてくれたなら、ぼくらはそれだけで報われるのに。

 罪を犯す事でしか生を歩めなかった貴方たちが、日溜まりで笑える未来があるかもしれないのに。

 

 そう願いながらも決して己の領分を侵す事無く、真摯に罪人に向き合う。その日々がいけなかったのだろうか。

 例え公人の領分を逸脱してでも罪人を殺していれば、全ては未然に防げたのだろうか。

 全てはぼくの怠慢で、ぼく自身が法を犯した罪人になってでも手を下していれば、開ける未来があったのだろうか。

 そんなもしも話を重ねながら、けれどと反論する。

 

 けれど、けれども、だからといって、コレはない。

 コレは、こんなことは、こんな赤い世界は、救済では、ない、でしょう?

 

 眼前に広がる赤、赤、赤。

 燃える街並み、燃える家、燃える畑、燃える教会、燃える燃える燃える、世界。

 一瞬だった。大地が大きく鳴動したかと思えば、一瞬で世界は赤色に染まった。

 さっきまで和やかに見下ろしていた世界に色々なものが焦げた臭いと炎が逆巻く音に溢れる様は、地獄以外の表現が咄嗟に出てこないほどに、赤黒かった。

 愛している町が、店が、人が、一瞬で炎に包まれ、灰になる。赤黒く倒れ伏す人影の群れは悲鳴を上げる暇さえなかった。

 青かった空が、赤い。

 黒かった道路が、赤い。

 クリーム色の壁が、赤い。

 色とりどりの服を着て歩いていた人間が、赤い。

 さっきまでおしゃべりをしていた親子が、赤く、黒く、燃えている。

 

 感覚を引き延ばし、自分の『なかみ』を裏返したのは咄嗟の反応だった。

 ぼくを中心に勢いよく『個性』を展開し、赤い世界を取り込みながら現実世界を侵食して捕食する。

 展開された『内側』は『虚空』。轟々と音を立てて燃える世界を無色の凶器で黙殺すれば、人の名残の黒い残骸が、不定形の白いナニカに変貌する。

 一般的に化け物と呼称されるだろうソレらは、崩壊した世界で怨嗟の、悲嘆の、憤怒の、狂乱の、恐怖の、嫌悪の、諦念の、絶望の産声を上げた。

 何故、と問う声が嵐と化して、鉄と灰と血肉の世界でがなりたてる。

 「なぜ」「こわい」「どうして」「あつい」「なにがあったの」「かみよ」「だれか」「ママ、ママ」「こわいよ」「たすけてくれ」「いたいいたいいたいいたい」「うちのこはどこ」「どこにいるの」「せいこうした」「なんで」「あついよ」「うわああああ」「どうしてこんなことになったんだ」「かみのごかごを」「だれのせいだ」「いやだいやだ」「しにたくない」「いたい」「こんなはずでは」「おかあさんどこ」「まって」「いや」「なんでわたしが」「にいさんが」「あああああああ」「くらい」「ごめんなさい」「いたい」「こわい」「なんでなんだろう」「だれもいない」「どうしてこうなった」「わからないよ」「もうだめなのか」「おれはまちがってない」「あかいね」「なんでだ」「いったいどうして」「どこのだれが」「だれか」――――「たすけて」。

 疑問。疑惑。否定の言葉に悔恨が混じり、狂乱の歌が子供の泣き声に紛れて死ぬ。

 

 世界が壊れる音がした。

 常識が死んで、非日常が産声を上げる。誰の制止も聴かないで放たれた神を名乗る成り損ないの化け物が起こした狂乱に、怨嗟の声が満ち満ちる。

 吹き上がる疑念の声がする。それらは焦燥や憤怒や悲嘆や絶望を経て、やがて見知っていたのに看過していた元凶を、この惨状を生み出した奴らを恨み憎み呪い、やり返して殺したがる懇願に変化した。

 心を映す世界が――『人の精神活動を見通す個性』が、彼等の強固な意思を余すことなく汲み取って、霧の世界に反映される。意識も無意識も全てがどす黒い極彩色の混沌に染まる群衆の叫びを受け、理解の追い付いていなかった頭が強制的に覚醒を促され、どうしようもない現実が、ぼくの願いを赤黒く染め上げる。

 

 奇しくもその勢いと色は、なんてことの無い日常を塗りつぶした数瞬前の焔に似て。

 

 煮えたぎる眼球の裏側、脳髄が冷えて思考が冴え渡る。

 意味も無く鳴る喉を戒めるように、言葉は喉奥で蟠る。

 強烈な憤怒と悲哀に強張る身体を、数多の意思に応えるように背筋は反って天を仰がせる。

 見上げた赤い空、霧の中の赤と黒の空模様の向こうに透けて見える人ならざる存在に敵の意図を透かし視たならば、力を込め過ぎて固まっていた四肢の筋肉が解れ、最適な処刑を求めて小刻みに震えた。

 

「――懸命に生きる命の芽が、悪戯に摘み取られないように」

 

 意味を成せと命じられた唇が、言葉を紡ぐ。

 

「命が繋いだ軌跡が踏み荒らされないように」

 

 赤黒い廃墟の世界に叩き付けた爪先から、灰色の霧が溢れ出す。

 

「無辜の命も罪深い命も、遍く生が終わりに微睡むように」

 

 血肉色の声に満ちた世界で発せられる鮮烈な言葉に、世界は形を変えていく。

 

「終わりの先で、また始まることができるように」

 

 赤黒い廃墟はそのままに、あちらこちらに絶望の化身が、住人たちの名残が産声を上げる。

 

「安らかに、平らかに、在るがままの命が、在るがまま生きて死ねるように」

 

 現実世界を浸食した精神世界が、現実世界の理をなぞり、空を鈍色に塗りなおし、霧の世界は完結する。

 

「偽りの神に、報復を。この理不尽を成した悪逆非道に、我等が裁きの一手を」

 

 中空を揺蕩う元凶に、処刑人は何時もの様に鋭く研いだ槍を差し向ける。

 ぐげゃ、ぎひぃと品無く笑う悍ましい化け物と、その脚に引っかかる母胎と思しき幼い少女を透徹な眼で見据え、鉄でできた三角形の被り物を被る。

 

「贖罪せよ、傲慢なるもの。度し難くも幼い生命を冒涜した、愚かな罪人よ――その命で、罪を贖え」

 

 きっと、この声は意味のある言葉として届かなかっただろう。何時もの様に、処刑人の上げる不明瞭で怖気がたつ鳴き声だと思われたに違いない。

 けれど、其れで良い。処刑人の真意は罪人に伝えるものでは無く、己を戒めるものなのだから。

 血水を被り、肉を割く感触に狂ってしまわぬよう、狂気の安楽に身を委ねないよう、人の道を外れぬようにと、己を理性の側に置き、その苦痛で自己を律するための、処刑人の宣誓。

 あんな神を騙る化け物に聞かせるには些か高尚な口上かもしれないと思わないでもないが、理性と感情を切り離す為に、心に楔を打ち付けた。

 

 全身の筋肉を用いて投擲した槍は、寸分違わず未熟な神擬きの心臓を穿ち、天舞う身体を地に落とす。

 落下地点に素早く駆け付け、痛みと驚愕に悶えながら落下する肉塊の首を、落下の勢いをも借り受けて切り落とした。噴き出す血の色の黒さに慄くことも無く、振り抜いた大鉈を軽く振って血を飛ばせば、余りにも呆気ない神の死に怨嗟の声すら沈黙した。

 不可思議な泥土に変貌する肉塊から、虫の息の少女を抱き上げる。この子は罪人ではないから、ぼくはこの子を殺せない。どれだけ苦しんでいても、死にたがっても、罪を知らない命を処刑人(ぼくら)は殺せない。

 様子を見る限り痛みは無いのだろう。アドレナリンで痛覚が麻痺していると思われるが、さて。

 

「――おやすみなさい、尊い命。ヴァルティエルが導く日まで、次なる生を待ちなさい」

 

 罪人に対する届かない手向けであり、ぼくらが人である為に必要な苦痛でもある言葉。罪のない子供に聞かせるべきではない言葉で、そもそも言語として認識できない音だけれども、今こうして死に逝く少女にぼくが与えられるものはこの言葉しかなくて。

 内臓ごと毀れた血が、少女の命すらも巻き込んで溢す。一拍おいて大きく跳ねた矮躯は急速に温度を失くして鼓動を止めたのだが、しかし、死に体の少女の耳には届いたのだろうか?

 母体として無残に命を食い荒らされた少女は、確かに最期の瞬間、彼を呼んで、微笑んだ。

 

 とある警察官の娘で、年の離れた兄妹のようにひっそりと仲睦まじく育ってきた少女は、確かに目の前の処刑人を「幼馴染のお兄ちゃん」と認識して笑ったのだ。

 

 酷く安心しきった顔で紡がれた名前は――伝承に至った最後の処刑人を、一人の純朴な青年に戻した。

 

 理性で以て人を殺す刑罰の現身の魔法が解ける。

 感情を置き去りに、感傷だけを供に連れた理性の怪物が人間に戻る。

 握りこんでいた大鉈がするりと手から滑り落ち、空いた手が片腕で抱き上げていた幼い命の背に回る。

 真面目な努力家で、温厚で優しく、いつもあどけない顔で穏やかに笑う青年は……いつだって誰かの為に涙を堪えて歯を食いしばって頑張ってきた、少女の初恋のお兄ちゃんは、もう息を吹き返さない少女の亡骸を強く抱きしめ、空を裂くような声を上げて、泣いた。

 いつからか泣くことを忘れた青年は、いつだって自分の傍で綺麗に咲いていた花を想って、砕け落ちる世界の中で、いつまでもいつまでも泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、アメリカ史上最大最悪のカルト事件の末路。

 炎の海に消え、霧の腕に呑まれた街で、最後に全てを終わらせた血塗れの英雄(ヒーロー)の物語。

 住人の殆どが虐殺された街で、人とは思えない有様になってまで『聖母(しょうじょ)』を求めた狂信者から『幼馴染(いもうと)』の亡骸を守り抜いて息絶えた、心優しい『処刑人(おにいちゃん)』のお話。

 

 

 

 

 『アメリカ最後の処刑人』、『赤い三角頭(レッドピラミッドシング)』、あるいは事件現場となった街の名である『サイレントヒル』そのものと呼ばれた青年は、伝承と共にその眼を閉じた。

 

 

 




~簡易マテリアル~
【ステータス】
・クラス:フォーリナー

筋力:A 耐久:A 敏捷:C
魔力:D 幸運:E 宝具:B


《キャラクター紹介》
 赤い炎に包まれて、狂える街は沈黙を選んだ。
 流転する理は内側に閉じて、赤黒い祈りと共に鎖される。
 灰の降る日、鉄錆びた臭い、神の悲鳴を聞いたのならば、己の罪を思い出せ。
 霧の日、裁きの後。
 この世の何処でもない場所へ。赤い天使は環を喰った。

【クラス別能力】
・領域外の生命 EX
・陣地作成 A
・狂気 B
・神性 C

【スキル】
・処刑人の心得 A++
 自身に[悪]特攻状態を付与(1T)
 自身のBusterカード性能をアップ(1T)
 敵単体の即死耐性ダウン(3T)

・霧の日 A
 味方全体の防御力をアップ(3T)
 &NP獲得量をアップ(3T)
 &敵全体のクリティカル発生率ダウン(1T)
 【デメリット】
 味方全体のクリティカル発生率ダウン(1T)

・ヴァルティエルの加護 EX
 自身の弱体状態を解除
 自身にガッツ状態を付与(1回/4T)
 復活時自身のNPを増やす(発動後3T以内)

【宝具】
『処刑強行』
ランク:A 種別:対人(対神)宝具
レンジ:1  最大補足:1人
「■■■■■■■、■■■」
 自身にクラス相性の攻撃不利を打ち消す状態を付与(1ターン)
 敵単体に超強力な攻撃
 高確率で即死効果<オーバーチャージで確率アップ>
(幕間の物語クリア後:敵全体に確率で恐怖状態付与)
【デメリット】
 低確率で自身にスタン状態付与

 それは神すら殺す天使の技法。
 罪を犯したもの全てに対する贖罪の絶対強制。
 街の法は犯され尽し、街の正義は足蹴にされ、街の善は正気を違えた。
 残されたのは処刑人の法。処刑人の正義。処刑人の善。
 それは罪過の全てを裁く意志。
 罪悪感の有無は関係ない。処刑人の法に則って行われる断罪に冤罪などない。
 死を前に足掻くならば畏れよ。
 死を前に涙するならば懼れよ。
 死を前に悔やむならば恐れよ。
 それは暴力の化身。赤を被った鈍色の死。必罰を是とする断罪の天使。

 そしてそれは、ある純朴な青年が背負った命の救済のカタチである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。