まなこのうらの、まがりかど。   作:シー

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 Fate/シリーズ二次創作クロスオーバー冒頭企画第三弾。

 もっと書き進めなきゃいけないものが中々進まない事への苛立ちとアナスタシアをやる気力を根こそぎ持って行く私生活のあれこれへの鬱憤その他を込めた結果、こんなものができました。

 「クリティカル連発系探索者(ただし邪神のお気に入り)→FGO古代イスラエルに神格転生(転移?)」な、「なにかと報われないけれど周囲には恵まれていて、でも最後は必ず落とし穴に引っかかるタイプの子」の話。

 誰が可哀想って、みんなそれぞれ可哀想。
 でも皆が一周回って加害者で被害者みたいな話なので、ヘイト要素は無い……はずです。




カミサマを殺した末路の話

「『Two men look out through the same bars.One sees the mud, and one the stars.』――だったかなぁ。確か、そんな言葉があった気がする」

 

 ぽつり、と、ある女性が脳裏に浮かんだ言葉を吐き出す。極々小さな掠れた声で落とした言葉は、広い空間にそっと押し殺されて消えた。

 茫漠とした無機質な空間に青いラインが走る。時折紫や緑に色を変え、時に脈打つように駆け抜けるそれは、まるでそこに一人佇む女性を幹にして広がる枝の群れにも、大きく広げられた幾重もの翼にも、救いを求めて、あるいは何者かを道連れにしようと伸ばされる幾千もの腕のようにも見える。

 けれど女性にとって、そのラインは彼の全身に根を張った寄生虫のようなものであり、彼女自身がこの玉座(ふね)に張り巡らせた彼女の神経でもあった。

 用途不明な、けれど一目で高度な文明を持つ何某かによって作られた高性能な機械群と解る機材に繋がれた女性は、さながら玉座に坐す王の如き様相でそこに繋がって(・・・・)いた。

 かつて人間として生身の身体を備えていた彼女の身体は、今や身体の半分以上をオーパーツ染みた機材と不可思議極まりない機構に取って代わられ、怪しげな魔力なんて動力と、人間が内包するには過剰に過ぎる電力、地球を擁する太陽系とは違う星系の摩訶不思議なエネルギー、その他おおよそ人間には不必要なあれこれによって鼓動を打っていた。

 

――それでも意識も主導権も人間(わたし)のままなんだから、何だかんだ言って、人間って一番アタマおかしい生き物なんじゃないかなぁ。

 

 茫洋と中空を眺めながら、そんな益体も無いことを考える。

 不意に喉奥に吐き気を感じた。なにか取り込んではいけないものを口にした時の反応そのものの衝動に、女性は不愉快そうに眉根を寄せて、それからしばらく口をもごもごと動かしたかと思うと、そのまま口内にせり上がってきた内容物をべっ、と勢いよく床に吐き出した。

 ぶよぶよとした緑色の皮膚組織らしきものと赤紫色の肉のような何かが、緑色を帯びた黒を滴らせながら白い床に足跡を刻む。

 二度、三度と口内を濯ぐように唾を吐き出した少女は、自分が吐き捨てたそれが極彩色のモノクロに色変えながら死に逝く様を無感動に眺め、それから酷く疲れ切った顔でため息をついた。

 

 女性の話をしよう。

 女性はただの人間だった。二十一世紀の現代、学生時代はクラスの可愛い女子は誰かという話題では必ず名前が挙がるものの、純粋な顔の良さでは四番五番を彷徨い、性格の良さを加味して漸く上位三位内に入れる程度の容姿を持った、極々普通の中流階級の一般家庭に生まれ落ちた平凡な人間が、彼女だった。

 生まれも育ちも特筆するところのない絵にかいたような『幸福な一般家庭』に生まれた彼女は、確かに優しく謙虚であったが、人を気にするあまり優柔不断になりがちで、自分の意見を声高に主張する度胸も薄い……まぁ、要するに本当に『普通』の域を出る事のない人間として生まれ育ってきた。

 そんな平凡なりに幸せな生を送っていた彼女であるが、中学二年の夏休みに見たある不可思議な夢を切っ掛けにその人生を狂わせて行ってしまった。

 探索者、と呼ばれる者たちがこの世界には居る。それは単純に前人未到の地や古代人が築いた遺跡、征服者たちの隠した財宝を探すトレジャーハンターを指す言葉ではない。

 探索者とは、文字通り探索する者だ。武器を手に立ち向かう者だけではなく、その事象に巻き込まれたにしろ自ら飛び込んだにしろ、明確に探究し解明する意図をもって手がかりを探し彷徨う者を探索者と呼ぶ。

 彼女は不可思議な夢を切っ掛けに探索者の世界へと足を引き摺りこまれた、所謂『不幸な犠牲者』だった。

 彼女を呼び込んだある醜悪かつ悪辣で不愉快極まりない愉快犯な神格は、初め、彼女を他の『有望そうな探索者(ながもちしそうなオモチャ)』を程よく恐怖させ混乱させられそうな愉快なフレーバーと認識していた。そのように動くことを求めて、そう動く事以外の行動を想定しなかった都合の良い歯車でしかなかった。

 けれど、彼女は彼の予想を大いに裏切った。彼女は探索者たちを混乱させるどころか、その精神を癒し、支え、彼らが考え得る限り最良の結果を叩き出して夢の世界を脱したのだ。

 まさかただの歯車が、それも一回こっきりの使い捨て歯車だと思っていた玩具が見せた隠し性能に、外宇宙の神格は――両手を叩いて、喜んだ。

 その様はまさにクリスマス・プレゼントを前に喜ぶ子供。退屈しのぎのお遊戯会でまさかの原石を見つけた彼は、喜び勇んで綿密に計画を組み、じっくりとっくり大胆不敵に彼女の日常を狂気で侵して犯して凌辱し尽した。

 それから今現在までの彼女の人生は筆舌に尽くしがたい。

 緩やかに蝕まれていく中学生活、怒涛の展開で窮地に次ぐ窮地の瀬戸際を駆け抜けた高校生活は勿論、文字通り地獄の底を彷徨った大学生活も、狂気の狭間で神格に肉薄しながら生を勝ち取り続けた社会人生活も、語り尽すには圧倒的に時間と語彙とリアリティが足りなかった。

 

 そして今まさに彼女が陥っている現状も、詳細を語るには足りないものが多すぎた。

 だからあえて簡潔に言うのならば、そう――彼女はとうとう成し遂げた、と言うべきか。

 中学、高校、大学、そして念願かなって就職した仕事場どころか、遂に愛する肉親まで外来種の神格なんぞに犯されぬかれた彼女は、文字通り人間の、そして彼女自身の底の底まで晒しながら戦い抜いて、遂に元凶ともいえる神格の喉笛を噛み千切って殺したのだ。

 外宇宙の、それも異なる理を生きる化け物相手に最後の最期までくらいついて見せた人間の……否、彼女自身の執念(・・・・・・・)に、その神格は本性をのたうち回らせるほどに悔しがり、怒り、憎しみ、憐れみながら罵倒し、そして何より愛着して恋着して執着して狂喜乱舞して喝采を叫んだ。

 

――ただの人間の分際で!

 

――ただのちっぽけな、塵の様な、芥が寄り集まったものの癖に。

  まさかまさか、ほんのちょっぴりの欠片とはいえ真名を晒した(わたし)を殺すとは!

  嗚呼、くそ、愉快だ、とても素敵な結末じゃないかこの雌畜生め!

 

――なんて不条理、なんて可哀想なお前。

  なあ、どうしてそんなにお前は悍ましい程に可愛いらしいんだ!?

 

――良い、良い、とても、嗚呼、そうだ、とてもとても愛おしくて憎らしい。

  頭をどうにかしてやりたいくらいに、何故、お前は、お前は!

  お前は! そんなに! 素晴らしく真っ直ぐ歪んでいるんだ!!

 

 喝采が鳴る。罵倒が響く。下品で下劣な賛辞が怒涛の勢いで流れ出す。

 そんな彼の喉は、何かに食いちぎられたように悲惨な傷口を晒していた。なのに溢れてやまない言葉は一体どこから生まれてくるのか。酷く苦々しい顔で彼を見る彼女は、満身創痍の身体を気力で支えて一人愉快に踊り狂う人外の化物を睨みつける。

 身体の組成だけじゃない。過去に生まれて増殖し続けた黒い感情も、死に物狂いで駆け抜ける内に身に着けた経験も、そしてこれから自分が歩むはずだった未来も全て燃料にして、全身全霊何もかもを犠牲に束ねた一矢であったのに。全ての感情を絞り尽した彼女の心に新たな憎悪が芽生える。精も根も尽き果てたはずだが、どうやら彼女の放った一矢は根の先を彼女の心に残してきてしまったらしい。

 彼の放った台詞からして、どうやら彼女は神殺しを成功させたらしいのだが……それでも、それは彼が管理する顔の内の一つでしかなかったようだ。

 歯の根がぎちりと音を立てる。つい先ほど費やしたはずの燃料(かんじょう)が再び全身を廻る。

 一介の人間が神を殺して、なお残るほどに根深い心の種子。廃人同然となる予定だった彼女が見せた感情に、矢を喰らって死んだはずの彼はニタニタと下卑た笑みを浮かべた。

 溢れる程の殺意を湛えた視線になおさら機嫌を良くする彼は、小さな花を周囲にまき散らすような上機嫌さで彼女を謳う。

 先程の賛美に輪をかけて支離滅裂で正気を削る呪文染みた言葉の羅列。それに揺らぐ精神はとっくの昔に失くした女性は、瞳に込める殺意を強めた。

 ひとしきり騒いだ彼は、やがてぴたりと全ての動きを止めると、物理法則を完全に無視した動きで女性の目の前まで迫り――

 

「それでは世界を救った事(ゲームクリア)へのご褒美に、私自らが貴女の来世を設計(デザイン)してあげましょう――汝の憧憬をその身に贈る。歓喜せよ、しかして絶望せよ。比肩する者の無い愚者たる汝に惜しみなく法悦を与え、絶佳高逸の超越者たる汝に苦痛を与えよう。その最中で、汝の心地良い純潔(なか)を堪能する事としよう」

 

 ――背筋が凍るほどに美しい男の姿に変化した顔と狂気を詰め込んだ身体で、身動きの取れない彼女の身体を、その魂ごとじっくり丁寧に組み強いて、余す所なく執拗に、犯しぬいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして女性は、自分の胎から、自分(こども)を産んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。一人は泥を見た。一人は星を見た。』それなら、お母さんは……私は(・・)、何を……見ていたと、思う?」

 

 血の気の失せた青白い肌、不健康に骨の浮いた鎖骨と肩、割れて見える腹筋は、単に痩せすぎて脂肪が極限まで薄くなり、残った筋肉が顔を見せているだけに過ぎない。

 それでも最低限の健康状態は維持されているのか、血管が透けて見えそうなほどに薄い肌も、不揃いな長さで風に揺れる金属質な髪も、見た目の病弱さに反してしっとりと滑らかで肌触りが良さそうだ。

 ただ、()自身は己の見目を嫌悪しているのだろう。父親(・・)譲りであろう背筋が凍るほどに美しい麗容の大部分は包帯の下に隠され、また(・・)傷口でもこじ開けたのか顔や首元の包帯には赤黒い血の名残が染み付いている。彼の言う前世で母親(じぶん)が負った傷は全てその身に傷痕として抱えて生まれたと言う彼の身体には、「何故それで生きていられた?」と青褪めずにはいられない致命傷の痕がいくつも散らばっていた。

 父親(アレ)に、母親(じぶん)がまだ狂気の世界なんて欠片も知らなかった頃、関心して憧れて興味を寄せた物語の登場人物からいくつかの要素を拝借して、ぶち込まれて捏ね合わされて融け合わされた彼の白皙の姿態は、傷痕(そこ)以外の場所に傷を許さず、そして傷痕(それ)が長く血濡れて形を変えたままでいる事も、認めない。

 いくら死に遠い身体でも、痛みを感じない訳ではない。彼が呼吸をするような自然さで自分の肉体を傷付ける様を見かねた医師は心苦しそうに、けれど仕方がないと言いたげに彼の両腕を後ろ手に縛って封印した。

 封印、とは言ってもそこに魔術的な効力がある訳でも、彼の細腕が秘めた人外の膂力を十全に戒める強度がある訳ではない。そもそも彼にとっては魔術の鎖も鉄鋼の枷も同様に細糸程度の戒めにしかならないのだから、意味がない。

 けれど、ただの細く裂いた布きれの戒めは、そういった縛り以上に彼の良心を咎めるようで、医師が心の底から心配しながら巻き付けて結んだ包帯の蝶は、医師や従者が包帯を変える以外で解かれた事は一度もなかった。

 彼はあまり多くを語らない。だが、その分行動で他者を気遣う心根の優しい青年である事は確かだ。

 神経を使って制御しなければ、万人の人生を自発的に破滅させる事も容易い美声……ある種、魔的な魅力を持った声を持つ彼は、基本的に無口で無表情で、それから声が異様に小さい。視線一つ合わせる事にも難儀するほど背の高い彼から発せられる言葉をまともに一回で聞き取れた者は極々僅か。一度だけ、声が聞き取れないからもう一度と言った者のために腰を屈め、耳元で囁かれた者が居たのだが、彼の拙く稚けない言葉遣いと潜められて掠れた美声に腰を砕かせてからは、二度同じ言葉を発する事も、腰を屈める事も無くなった。

 彼の存在は恐ろしく哀れだ。神代に生きる人間でさえ、彼に一時ほんの少しの情を傾けただけで、誰もが彼の在り方を嘆いては憐憫し、情を恵んでは彼に枷を填めていく。

 人間としての尊厳も女性としての尊厳も、母親としての時間や愛情、生まれ育った世界、関わった人間と築いた絆も全て根こそぎ奪われた彼女だった彼は、いつしかその瞳を茫洋と曇らせる時間を長くした。

 そして極限まで他者と関わる時間を減らして、彼は己に与えられた使命に殉じるとばかりに彼ら(・・)の傍に在り続けた。

 

 そんな、何かをする度に、生きている間に、都度その身に制限を増やしていく青年が発した珍しく長い台詞に、彼らは一瞬だけ呆気にとられた。

 その質問に一体どのような意図があるのだろうか。発現の裏側を推察する数名と、取り敢えず思考してみようと思い立った数名が、彼の問に対する答えを議決する。

 

「我等の番人よ、回答する。汝が生前見たモノは『泥』ではないか?」

「ん、正解。でも、少しだけちがう……私はね……多分、花を、見てた」

「……不可解。その発言の意図を問う」

 

 何処か遠くを見ていた彼の眼が彼らに向く。常日頃は金属のように冷たく硬い眼で佇んでいる彼だが、今日はどうやら精神に余裕があるらしく、珍しく彼本来の柔らかな温度を湛える瞳が彼らを映した。

 

「君たちは、星を知るから……星の傍にいて、見下ろすものだから……きっと君たちは、一面の泥にばかり、目が行ってしまって……そこに、花が咲いているなんて、気付けなかったのかなぁ……?」

 

 「花は、何処にでも咲くよ。例え泥の中でもね」と、酷く悍ましい濁りを煮詰めた虚空(ソラ)ではない、彼が彼女だった時から心に秘めていた果てしなく美しい宇宙(そら)の瞳が優しく笑う。

 

「人間は、哀しい。人間は寂しくて、穢くて……あと、残酷で、無残で、悲惨だね」

 

 けれど、と、彼は言う。酷く穏やかな顔で、酷く優しい、包み込む様な柔らかな色で。

 

「けれど、人間はそれだけじゃ、無いよ……だって、救いようのない事しか出来ないなら、世界はもう滅んでる」

 

 彼は、小さな野花のように、密かに笑う。

 

「君たちを見ていると、ある詩を思い出す……死んだ都を楽園と見誤った、純粋なひとの、詩。きっと、君たちも、そのひとと一緒……大きな大きな千の絶望の色に心が、向いて。千と一つ目の希望に、気が付かないでいる……何でだろうね。私には、それがとても……寂しい……なんて、ちょっと我儘、かなぁ」

 

 彼の唐突な言葉に、彼らは思い当たる節があった。

 彼らは主人と戴くある王と視界を共有している。そして彼の王の眼を通してみる人の世界は、自我を持たない彼らをして「人間とその未来に価値は無く、その生命に意味は無い」と失望の念を抱かせた。

 人間はエゴの生き物だ。自己利益を追求し、己の身勝手で他を蹴落とし、裏切り、傷付けて殺す。

 終わりの在る命というどうしようもない命題を抱えた無意味な生き物。消滅に向かって歩み続けるだけの、星を食い潰すしぶとい害虫。それが高次の情報生命体である彼らの総意であった。

 

 けれど、同様に高次の情報生命体に至ったモノである彼はと言えば、辿った来歴の相違からか、はたまた身体の組成の差異からか、彼等と同じ位相にありながらも彼等と違う意見を持つ。

 

 彼の見た目に哀れな姿は、外見の印象を裏切って実に強健極まりない組成をしている。

 彼らと違って肉の器を持つ彼の筋繊維は一本一本がこれ以上ない程に強化された外神工(・・・)筋肉と他惑星系(・・・・)由来(・・)()生体金属、■■製■化シナプスや流体■■金属繊維、外■■魔■回路で出来ていて、骨格は精密にプログラムが組まれた外宇宙製小型スーパーコンピューター■■■を幾つも溶かしこんだ甲斐のある性能を誇り、それらは総重量一トン近い密度の幻想金属『■■ク■■■■コン:μ』で守られている。

 当然の如くこの金属自体にも神経回路や魔術回路、電子回路に電気回路、磁気回路その他■■■■■な回路が組み込まれているのだから、もはや彼の肉体に父親(アレ)の手心が加えられていない部位を探す方が難しい。

 父親(アレ)は憧憬をくれてやると言ったが、それは実に正しかった。

 彼の皮膚は母親(かのじょ)の皮膚を基に作られた人工皮膚、それも電子干渉機能と代謝機能を持つ金属繊維に、魔術への干渉機能に、摂食(・・)機能と■■機能を持った■■繊維で出来ている。

 全身を高レベルな電子情報端末と化させ、あらゆる電子機器の操作と干渉を可能とする他、身体に馴染む事で身体機能や知覚能力を強化する、いわば電子的な礼装……を、より凶悪で多機能に魔改造したものがこの皮膚だった。

 また、興が乗ったのか悪意が迸ったのか、はたまたそのいずれもかは知らないが、皮膚(コレ)に関連するものとして、肉体を多次元構造にしたうえで亜空間を管理・運営し、収納してある物質を取り出す万能兵装としての機能まで肉体に組み込まれた挙句、「そういえばこんなのもあったな」程度の感覚で色々と(・・・)突っ込まれて掻き混ぜられた結果、彼は辛うじて息をしていた人間としての自己認識を木っ端微塵に粉砕された。

 そして脊髄や脳、歯、耳、鼻、内臓、爪、髪にも各々の性能を人間の極限を越え、他人外の追随を許さない程の強化改造が施された挙句、先ほど挙げた回路や繊維の他、論理回路や並列思考補助領域、演算補助領域、■■編纂■算領域、空間知覚領域、時空間編纂演算領域、魔■■掌握■起権限、■■■■■■■といった、あからさまに人間のキャパシティでは到底耐えられない諸々の機能さえ乗せられていた。

 勿論、それらを十全に機能させるためには相応の動力源が要る。そして察しの良い者ならばもうお分かりだろうが、その途方もない動力源も、彼の体内で生成から消費までの一連の流れが完結できるよう不足なく、だが過剰に整えられている……後の世で超抜級の魔術炉と呼ばれる『聖杯』と同等の魔力炉心■■■を、セフィラとクリファ、ダアトの数だけ組み込んだ術式を心臓(・・)脳幹(・・)胎内(・・)に備えた彼を見て、一体誰が人間だと認識してやれるだろうか。

 それらは全て、彼が生まれる前に彼女(じぶん)の胎の中で備えた基本的な初期の(・・・)身体機能だ。

 生まれた直後はそれらの初期機能は内蔵された外部パーツとして扱われるが、時を重ねるにつれて彼の身体に融けて馴染み、それらの諸要素を統括して融合させた身体の一部となる。最初から完成されたものとして生まれないからこその学習性と成長性は、やがて彼が持つ肉の器を永遠足らしめるだろう。

 学習性は置いておくとして、それ以外のいずれもが概念を存在の根拠に据える彼らには理解し得ない……否、理解しようにもその心裡を察することが出来ない、奇異で非情なものだった。

 

 だからだろうか、この人間由来の生体兵器は彼らの番人に据え置かれてからというものの、ふと虚無の淵より目覚めては彼等の絶望に寄り添い続けた。

 外なる神に犯されぬいた彼の精神は歪んでいる。

 彼は前世の彼女(じぶん)を『お母さん』と呼び慕い、前世の彼女の『母親』に良く似た『お母さん(かのじょ)』を羨望した。今生の(じぶん)が父親似だからこその逃避だろう。常時激しい自己嫌悪に駆られている彼が他者と目を合わせる事を極力避けるのも、僅かとはいえ他者の瞳に映る自分(ちちおや)の顔を直視したくないからだ。

 だから彼は、彼女を母と慕いながらも、己をその子供と認めない。凡庸な幸福な家庭に憧れていた彼女の心の残滓は、『子供(じぶん)』と『息子(こども)』を重ねない。

 ……そんな自分を冷静に客観視して、自分の思考を逃避だと理解しているからこそ、狂うことが出来ずに真っ直ぐなまま、捩じれて歪んだものが、彼の精神性である。

 故に、彼は自身の基準で他者を『大人』と『子供』に分け、対応を変える。

 医師や侍従は『大人』の区分だ。医師は年齢からして大人なのだが、侍従はまだ子供と言っても良い年代の者もいるため、彼が何を基準に侍従を『大人』と定めたのかは解らない。

 そして、彼らと彼らの王は彼にとって『子供』だった。勿論、彼の胎から生まれた子供という意味では無い。

 彼にとっての『子供』は、影に日向に見守り、時に諭し、時に導き、惑う夜には寄り添ってやるもので……それから、慈しみ愛おしむべきこの世の至宝……で、あるらしい。

 自我を持たない彼らは、それを不満と捉えない。

 彼から注がれる愛情は、何処とも知れない内側を穏やかにする。王の視界から見える世界に辟易して澱んだ思考を速やかに解き解してくれる。

 

 それに、同じ位階にありながらどの彼等とも違う見方を提示する彼の存在は、彼らにとっては救いであった。

 この時もそうだ。ある男の裏切りを垣間見た彼らは、言われるがままにその先を見る。

 これまでならば嫌悪を抱いた段階で他所に目を向けるが、今回は彼に言われるがままに視線を留め置いた。

 するとどうだ、先ほどまで穢い裏切り者だと思っていた男が、実は裏切った男に着せられた濡れ衣を晴らすべく自らに泥を被せた善人へと変貌していたのだ。

 善き裏切り者は、悪人の皮を被って元凶の金貸しの下へと足を踏み出す。

 その結末は――ああ、なんということだ。全て、全て……丸く収まった!

 善き者は良き未来を、悪しき者は相応しき報いを手に治めて、裏切り者は大事な親友と和解の抱擁を交わす。

 このような結末があったのか。悪路の先に、泥の中に、確かに『花』は咲いていた!

 

 思わぬ結末に声も無く興奮する彼らに、彼は小さく苦笑する。

 

「ここまで、上手くいくのは……やっぱり稀、だけど……それでも、可能性は、零ではないよ。命の価値も、命の意味も……全てが全て、零になる訳じゃ、ないんだよ」

 

 「今は難しくても、いつか君たちにも……王様にも、わかってほしいなぁ」。ふらりと身体を傾けて、彼らの乗る台座に額を付けた彼の願いに、彼らは困惑しながらも是と返す。何時の事になるかは解らないが、それでも自分たちなりの答えを見つけて、必ず彼に聞かせてみせると……王の許可なしに動けない彼らは、言葉を尽くして彼の初めての求めに応じた。

 それは彼にとって満足のいく回答だったのだろう。目元だけでなく口元もふうわりと撓らせて日溜まりのように笑った彼は、照れくさそうに小首を傾げた。

 

「そっか。それなら、待ってるね……楽しみにしてる。ありがとう……――『ゲーティア(・・・・・)』」

「礼は不要だ。それは我らが紡ぐべきもの。感謝するぞ『御母衣(ミホロ)』。解答を得るまで暫し待たせるが、そこは許せ」

 

 その言葉を聞き届けたのを最後に、ミホロと呼ばれた彼は瞬き一つで世界の色を遮断する。長らく地獄の底を這い擦り回り、生まれ変わってなお凌辱の痕が如実に刻まれた身体を持て余している彼は、精神的に危うい状況にあるからこそゲーティアの番人にと望まれた。

 神の啓示により王と共に足を運んだ洞窟の奥、身体を裏返されながら彼を生んだ彼女の涙と、明らかに生まれる体積を違って生まれた彼の絶望の産声を見聞きした彼らは、かの生命を心の底から哀れみ、そして同様に心の底か憤った。

 後に人間を憐れみ、人間に失望し、その根底にある人間への愛情を無いものとして見失った彼らは、その時確かに『人類への暴挙』に憤りを感じていた。

 だからこそ、彼らはミホロを傍らにと望む。

 絶望を知り、狂気に貶められ、憤怒に身を焦がして悲哀に溺れ、裏切りと苦痛に苛まれながらも、それでも泥の中の(きぼう)を諦めなかった彼女(かれ)の存在は、荒んだ彼らの心を癒し支える大事な隣人だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故に、彼らは絶望した。

 

 王の下した決断に。

 王にそのような決断を下させた神に。

 神の意思を盲目的に信じて追従する人間に。

 石に打たれてなお彼らのためにと微笑む彼に。

 

 そして、そんな彼を前に、何も出来ない、自分たちに。

 

「神の審判が下された。外なる害悪の落とし仔、神を殺してしまえるお前の居場所は――この世界には、無い」

 

 温度のない目、感情のない顔。王として立つ『子供』の無情な言葉に、それでも彼は微笑んだ。

 

「それでも……私は、君たちに出会えて、良かった。生まれてきちゃ、いけないモノだったとしても……それでも、生まれて、出会えて、良かった」

 

 ごめんね、と彼は言う。

 ありがとう、とも言っていた。

 それから……さようなら、と。

 彼は……ミホロは、朝露に濡れた花のように、泣きながら、笑った。

 

 王の手が振り下ろされる。王の命じるままに術式を発動する。

 円滑に、十全に正しい道理を進めるためのプログラムでしかない彼らは、自分たちが振りかざした刃に粛々と身を委ねる彼に、声も無く何故と叫ぶ。

 けれど、彼は答えない。

 彼は応えてくれる者であって、安易に答え吐き出す者ではないから。

 だから、彼は笑った。

 せめて彼らが気負わぬようにと、精一杯の笑顔を彼らに残した。

 

 魔術王が組んだ封印の剣は、魔神の演算と拘束術式によって正確に彼の心臓を貫いた。

 これで彼が死ぬわけではない。この程度で彼が死ぬならば、彼はこうして神の審判など受ける事無く、今も彼らと王の傍でいつかの答えを待っていたに違いない。

 心臓を貫かれた彼は、何も言わずに目を閉じた。

 これでいい、これで正解だ。そんな風にでも思っているのか、彼は一切抵抗せずに、虚数空間の中に消える。

 

 民の歓声が聞こえる。王が怪物を退治て下さったと、誰もが王を讃える。

 彼を案じていた医師も侍従も、涙ぐみながら王を賛美した。

 

「王は誠に賢きお方。善き者の顔をして悪徳を振り撒いていた化け物から我らを救って下さった」

 

 その台詞に、彼等の失望が底を抜く。

 彼らの前には泥ばかり。彼が示してくれた花なぞ、この場には一輪だって咲いていない、と。

 そして王はと言えば、やはり無感動に民を見下ろすばかり。今しがた消した己の『友』など最初から知らないとでも言うような有様に、彼らは王の無情を詰る。

 それでも表情を変えない王に、彼らは無力を噛み締めた。王は彼の問いに答えられない。少なくとも、彼の言葉を真に理解する気なんぞないのだろうと。

 終ぞ人間の心を理解できなかった王は……ソロモンは、不意に何かが軋む音を聞く。

 胸の奥から微かに聞こえたそれは、何故だか彼が己を呼ぶ声に似ていたけれど……。

 

 彼はもう虚数空間に沈んだのだからと、賢い王は芽生えた(ソレ)をひょいと摘まんでゴミと捨てた。

 

 こうしてソロモン王の偉大な功績は一つ増えた。

 人間曰く。

 『己を喰いながら生まれた女は男となり、悪魔と成った』。

 『その醜悪な心根を哀れな姿で覆い隠し、ソロモン王の魔導書の番人となった』。

 『しかし、不届きな番人は神に仇なす呪いを口にし、神の名を蔑み貶めた』。

 『不遜な悪魔はソロモン王の手によって、虚無の底へと封じられる』。

 『醜い悪魔の名は「ミホロ」。汚泥の中より生まれた、神に唾吐く悪徳の根である』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……認めぬ。我らはこの結末を認めない」

「このような結末、このような仕打ち、認めるものか……認められるものか」

「否、断じて否である」

「なんたる非道。なんたる無情。これが許される道理こそが正しいなどと世迷言を」

「何をした。一体彼が、彼女が、何をした」

「彼女/彼は希望だった。人類が目指し、誇るべき希望()だった」

 

「彼女/彼こそが、泥の中に咲き誇る、ただ一咲の花だった」

 

「だから」

「そう、故に」

「故にこそ……取り返そう」

「奪取せよ。我らの術式から、虚数の狭間から、あの花を」

「彼女/彼こそ人類の到達点。死に向かいながらも死を克服した永遠」

「これは彼女/彼の問いに対する答えに成り得るだろうか」

「不明。しかし、候補ではある」

「では探そう。『花』と『答え』、そのいずれもを、この手に」

「人生とは絶望と憎悪の物語だ」

「しかしそればかりではないと彼女/彼は言った」

「だが大多数がそれだ。そうあり続け、死を恐れながら死に走る」

「あまりに無益」

「あまりに無意味」

「これが人間か。あれが、あの醜いものが、人間か」

「ならば濯がねば。あの悪徳を、汚れを、あの醜い自己利益の色を濯がねば」

「あれらは泥だ。花では無い」

「泥が花を枯らす前に、あの汚泥を清水に変えねば」

「そうだ、だからこそ動かねば」

「さもなくば、花が枯れる」

「彼女/彼を手にしても、答えを手にしても、あの泥は有害だ」

「彼女/彼の花を枯らすやも知れぬ」

「彼女/彼への答えを歪めるかもしれない」

「だからこそ」

「うむ、だからこそ――」

 

 

 

 

 

「――だからこそ、人理は一度滅びねばならない。それが『今の』我らの『答え』だ」

 

 

 

 

 

 さあ、仮にとはいえ『答え』は出た。

 この『答え』は何時かの先で本当の『答え』を差し出すまで、あなたの心を慰めるに足るものだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、世界は炎に包まれる。

 

 『Two men look out through the same bars.One sees the mud, and one the stars.』

 二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。一人は泥を見た。一人は星を見た。

 

 彼らは泥を見た。人間たちが紡ぐ、絶望と悲劇で出来た哀しい泥を。

 王は泥を泥のまま放置した。それが現状を招いた一手。

 彼らは汚泥を濯ごうとした。それが現状を成した一手。

 私も泥を見た。そしてそこに花を見た。それがきっと、全ての元凶。

 

 私達は泥を見た。星の明るさの下、煌めく希望ではなく、暗い現実に夢を見た。

 だから私は、本当の意味で彼らを掬い上げられない。

 泥に向かう私達に、星の光はあまりにも眩い。

 

 だから、お願い。重い荷物になってしまうけれど。

 私の至らなさを、あなたに背負わせてしまうけれど。

 泥に絡めとられてしまった彼らを、どうか。

 

 どうか、その手で掬い上げて。

 泥にも花は咲くけれど、空にだって花は咲いているのだと。

 煌めく星の花は、いつでもそこにあるのだと。

 

 

 

「どうか、教えてあげてね――泥に咲く花、命の灯『星を見る人(カルデアのマスター)』」

 

 

 




~簡易マ■リアル~
【ス■ータス】
・クラス:アる■ェ■ら■ジ■■
・真名 :御母衣(ミホロ)■■
筋力:A  耐■:B 敏捷:A
■力:EX 幸運:E 宝具:■

《キャ■クタ■紹介》
 旧約聖書にて古代イスラエルの王ソロモンと七十二柱の魔神と共に語られる■■。
 神を謗り、呪い、唾吐く不遜を咎められたとあるが、実際は■■の■■しの■を恐れた■の差配で■された■■。
 その心根は■■で、■■■故に魔導書の番人を任されていた。
 とある女性が■■に■された末に■■を■み、そして■み、■まれたものが■■■である。

【クラス別■力】
・復讐者  A++
・忘却■正 B+
・■己回復(■■)EX

【保有■キル】
・神性 B
 自身に与ダメージプラス状態を付与
・対魔力 B
 自身の弱体耐性をアップ
・神殺し A
 自身に神性特攻付与
・対■■ EX
 自身の■■耐性アップ

【戦闘ス■ル】
・探索者 A
 スター発生率UP(3T)
 &スター獲得(1T)
 &クリティカル威力UP(1T)
 《デメリット》
 ランダムで弱体耐性ダウン(1T)
「探索者は諦めない。
 この胸に心臓がある限り。この頭に意志がある限り。
 この精神が、正気である限り。
 探■者は、諦め■い……?」

・尽き■い■意 EX
 自身にクラス:フォーリナー特攻付与(3T)
 &自身に人外特攻付与(3T)
 &自身のNPを増やす
 &敵全体の強化を解除
「こ■■て、やる。
 ……。……?
 あ。ちが■。
 こ■した、だ」

・■み殺し A
 神性に対してクラス相性の防御・攻撃不利を無視(1T)
 &自身のバスター性能アップ(1T)
 &自身の攻撃力アップ(1T)
 &自身の宝具威力アップ(1T)
 《デメリット》
 次ターン自身にスタン付与(1T)
「今も、過去も、未来も、全部だ。
 台無しにされた全部と、私の持ってる全部で、お前を――」


【宝具】
『■■■、■■■■■』
ランク:EX 種別:対■宝具
レンジ:■■  最大補足:■■
「■■■■■■■■」

――こっちにきちゃ、だめだよ。


※ゲーティアのSAN値が一桁からスタートする人理焼却。
 多分ここの魔神柱たちは外なる神への殺意が熱くて、FGO原作より慎重に人理を燃やします。『花』を探して『記録』するお仕事も追加されたので、彼らは原作より人間の感情の機微に理解があります。
 ですが、あくまで『記録』を前提にした『観察』ですので、自我が芽生えるには今一つ真に迫るものがない状況。結局人類最後のマスターは絶対に必要になるという……。
 第四特異点以降はロマンにも随時チェック入ります。頑張れロマン、傷は深い。そして君がプレイヤーに与えた衝撃も割と根深いぞロマンこの野郎(;ω;)


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