Fate/EXTRA Order   作:神凪颯

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第3話です。
評価をくれた方、感想をくださった方、お気に入りに入れてくださった方、なにより、この作品を読んでくれた皆様に感謝を申し上げます。


第3節「薔薇の皇帝」

冬木市にある大聖杯は、冬木にある山、円蔵山の中腹にある洞窟の奥深くにあるらしい。

地上における魔術は秘匿することが義務であり、聖杯はその最たるものなので、こうして人目につかないとところに隠されているのはむしろ当然なのかもしれない。

 

その円蔵山へ向かう道をキャスターに案内してもらい、その方向に向かっている。

 

どこも壊れた街並み、廃墟と呼ぶにふさわしく、人が生活していたという雰囲気はまるでない。

 

「ここもかつては華の如く、とは言わないが・・・人の営みで盛り上がっていたのだろうな。」

 

それがネロの感想だった。

民を愛し、民のために動いていた皇帝として、思うところはあるのかもしれない。

 

もしかしたら、岸波白野が地上にいた頃、そういうありふれた生活を送っていたのかもしれない。

 

それから少し歩いた時、空気が変わった。

 

いや、変わったというよりはーーー

 

「気をつけな。来やがったぞ。」

 

それはとても純粋な殺意だった。

雑念がなく、ほかの目的は持たず、ただ目標とする相手に対する純粋な殺意。

その殺意が明確に自分たちに向けられているとはっきりと認識した時ーーー

 

「っ!」

 

ネロは突然現れた鎖のような杭を前に出てその剣で打ち落とした。

弾かれた杭は地面に突き刺さる。

 

「ようやく姿を現しやがったなてめぇ。ランサーのサーヴァント・・・!」

 

キャスターがその相手を睨みつける。

その相手、ランサーは自分たちの前に実体化して現れる。

黒いフードを深々と被っているため顔はわからないが、大きく開いた胸元と体格から女性のサーヴァントであることはわかる。

 

「キャスターのサーヴァント。

なぜ貴様は侵入者の肩を持つのです?」

 

口元をにやりとさせながら、しかしその殺気は衰えることなく問いかけてくる。

 

「たりめぇだろ。

てめぇらと組むより、こっちと組んでる方が都合がいいからさ。」

 

「そうですか。

ならば、ここで消えなさい・・・!」

 

ランサーがその槍を構える。

細く長く、その先は半円を描くように曲がっている。

あれは鎌、だろうか。

 

「ゆくぞ奏者よ。我らの力を見せてやろうではないかっ」

 

「応よ!坊主、アンタを仮契約だがマスターとして認めてやる。指揮は頼むぜ!」

 

ネロとキャスターが前に出る。

2体同時使役は初めて・・・のはずだ。

なぜそこの記憶が曖昧なのかはわからないが、少なくともネロは岸波白野の信頼するサーヴァントだ。

戦い方はわかっている。

 

所長もサーヴァントの戦いに巻き込まれないよう後に退る。

状況を確認しよう。

相手はランサー。

宝具や真名は不明。

どのような戦い方をするのか、その手を読むことができない。

あの手に持つ長い槍の他に、先程攻撃に使った鎖付き杭がある。

まだ地面に刺さったままだが、あれも拘束か牽制に使ってくる可能性がある。

 

こちらのサーヴァントはセイバーのネロと、キャスタークーフーリン。

セイバーは前衛で接近戦で戦ってもらい、後方からの狙撃、支援をルーン魔術で行ってもらう。

 

地上に来て、実質初めてのサーヴァント戦。

負けるわけにはいかない・・・!

 

 

 

Sword or Death

 

 

 

ランサーがにたりと笑うとその長身を蛇のような素早い動きでまっすぐマスターである自分を狙ってくる。

それをさせまいとセイバーが間に入り剣と槍の鍔迫り合いが始まる。

その隙を見てキャスターが空中に「F」の文字を刻むと瞬時に炎が燃え上がる。

ルーン魔術の火の魔術だ。

ランサーはその高い敏捷性を生かし、燃える直前に後退する。

後退し着地した瞬間を狙うようにセイバーが剣を延ばし突きの姿勢に入るがそれさえも見越していたかのようにランサーは簡単に回避する。

そしてセイバーは完全にランサーに背中を向けている状態になってしまった。

 

まずい、キャスター・・・!

 

自分が指揮するのとほぼ同時にキャスターは駆け出し木製の魔術杖で振り下ろされるランサーの鎌槍を防ぐ。

 

キャスターの杖ってそんなに頑丈なのか・・・

 

しかし、キャスターの筋力はE。

簡単にランサーに押されてしまうが、ネロが態勢を立て直すには充分な時間だった。

ネロはその小柄を活かしランサーの死角となるキャスターの背後から跳び上がりそのままランサーへと斬りかかる。

 

ランサーはその攻撃を躱しきれず咄嗟に左腕でガードした。

決まり手にはならなかったが、ダメージは与えられたようだ。

 

「ふっ」

 

しかし2対1だというのにランサーの余裕の笑みは消えることはなかった。

状況をみればランサーの劣勢。それでも余裕が消えないということは・・・まさか、宝具!

 

一瞬・・・ほんのわずかな一瞬、ランサーの持つ槍に強い魔力が込められると、それをネロとキャスターを薙ぎ払うような一撃を繰り出していた。

 

咄嗟のことで指示が間に合わなかった・・・

これは明らかな自分のミスだ。

ここまで戦闘経験が劣ってしまっていたというのか・・・

 

「悔やむでない、奏者よ!

余は無事であるぞ!」

 

ネロはかろうじて回避していた。

否、正確には腕や脚に数箇所切り傷が出来ている。

真名解放されてないとはいえ宝具の一撃だ。

致命傷にならなかっただけでも良しとしよう。

キャスターもネロほどではないが横薙ぎの風圧でダメージを受けてしまっている。

 

「ふっ・・・よく躱しましたね。

この槍は"不死殺しの刃"

これに抉られた霊基(からだ)はどんな奇跡であっても治癒することは出来ない。」

 

ランサーが自ら宝具の話をする。

あれは泥に汚染されて暴走しているからではない。

余裕の表れだった。

 

不死殺しといえばいくつかの伝承を持った武具は存在する。

しかし、鎌のような槍の形といえばその数は絞られてくるはずだ。

加えて、ランサーのあの高い敏捷性はサーヴァントとしての動きではあるが、あれは動物の如き速さだ。

身体をくねらせて蛇のような動きとくれば、あの宝具や真名は自ずと明らかとなる。

 

ランサーはその敏捷を活かして素早くその身体を動かすとネロの背後に回り込み斬りかかる。

ネロはそれにしっかりと対応し剣で防ぎ抗戦していく。

 

「口が過ぎるぞランサー!

それでは貴様の真名を語っているようなものだ!」

 

ネロがランサーの槍を弾きその合間を縫うようにキャスターのルーン魔術による攻撃が繰り出される。

 

しかし、どうしても肝心の決まり手にはなりえなかった。

レベルで劣るネロには、どうしても火力が足りない。

コードキャストが使えれば、マスターとしてもっとサポートすることができるのに・・・

 

「岸波・・・岸波!」

 

はっとして気づく。さっきから所長が自分に声をかけていた。

 

「あなたが着ているその服。言いそびれたけど魔術礼装よ。

サーヴァントが戦う時に有利になる効果を持っているわ。

それを使いなさい。」

 

魔術礼装!?

この制服、魔術礼装だったのか・・・!

完全に盲点だった。

月の聖杯戦争では、アリーナや購買で所得した魔術礼装を装備し、それに付加されているコードキャストを使用することで、サーヴァントを補助してきた。

地上においても、この魔術礼装なら同様のサポートが出来るかもしれない。

 

「あなたが着ているそれは魔術礼装「カルデア制服」。

付加されている魔術は3つ。

「瞬間強化」「緊急回避」「応急手当」の3種類よ

効果はその名前の通りだから、マスターならしっかりサポートしなさい・・・!」

 

所長が説明しているのか怒っているのかわからないが、

なんとなくイラついてるのはわかる。

サーヴァントとの戦いに自分が何も出来ないのが歯痒いのだろう。

それは自分だって同じだ。

だけど、この魔術礼装があるなら、この状況を変えられるかもしれない!

 

ネロとキャスター、そしてランサーは一進一退の攻防を繰り返している。

ランサーの実力は本物だった。

だが、ここで終わらせないとーーー

 

礼装:カルデア制服「瞬間強化」

 

ネロの筋力を大幅に上昇させる。

ネロはその効果を受けると口元をにやりとさせながらこの状況が変わるであろうことを察知し、一気に踏み込みランサーに斬りかかる。

しかし、その攻撃は、手元に引き寄せられていた鎖突き杭で防がれてしまった。

 

それが、通常の攻撃だったならばーーー

 

今のネロの筋力は大幅にアップされている。

鎖は断ち切れ、ついにランサーに攻撃が当たる。

 

「そら、大仕掛けだ!」

 

キャスターの魔術で周囲を炎の柱が立ち並び退路を塞ぐとネロが正面から剣を構えて突き進む。

 

「愚かな。」

 

ランサーは正面から来るネロをその鎌に魔力を込め、宝具級の一撃を放つ。

 

岸波白野はその瞬間を見逃さない。

 

礼装:カルデア制服「緊急回避」

 

ランサーから放たれた攻撃はネロに当たることはなく、素通りしていった。

 

「うむ!

うむうむうむ!

さすがは奏者よ!見事な采配であるぞっ!

やはり余と奏者はイケイケなのだっ!」

 

ネロの喜びの声とともに、ランサーの懐に迫る。

 

今だ!魔力をネロに回す・・・!()()()を使え!

 

「おのれ・・・異邦者がぁぁ!!」

 

「天幕よ、落ちよ!

華散る天幕(ロサ・イクトゥス)」!!」

 

ランサーの恨みの溢れる声を裂き、大きく振りかぶるその一閃で、ランサーに決め手となる一撃を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊基に大きくダメージを受けたランサーはその姿を保つことができず、膝から崩れ落ちその肉体は消滅しようとしている。

聖杯戦争における、勝者と敗者の構図は、月も地上も変わらない。

 

「不死殺しの刃、首を狩る鎌の形状とくれば、その槍の名はハルペー。

英雄ペルセウスがとある女怪を倒すために用いられた宝具だという。」

 

消えゆくランサーを見ながらネロは語る。

女怪殺しの宝具ハルペー。

ギリシャ神話において英雄ペルセウスが形なき島に追われた3人の女神の末妹を討伐するために、神々から与えられた神具のひとつ。

不死性を持つ魔物の生命を断つとも言われ、その武器が使われたのはその戦いが最初で最後だと言われる。

 

だが、伝承ではペルセウスは男性だったはずだ。

それなら、ハルペーにまつわる英雄は、()()()()()()()()()()()()()()()となる。

ハルペーを用いるペルセウスに討伐されたギリシャ神話の女怪といえば1人しか居ない。

 

ゴルゴン3姉妹の末妹。神々の嫉妬と罰で形なき島に追われ、姉のステンノ、エウリュアレと共に過ごし、姉たちとは違い唯一成長する呪いをかけられた女神。

島に来た勇者たちを石に変え、最後は怪物ゴルゴーンに反転し最愛の姉たちも手にかけたという反英雄。

その真名は・・・「メドゥーサ」

それがランサーの真名だった。

 

「哀れなものだ。燃え上がるその愛は、その愛する姉たちをも燃やし尽くしてしまったのだろうな・・・」

 

ネロのあの表情は・・・同情、なのだろうか。

 

セイバーのその言葉を受け、ランサーは最後に今までとは少し違う、柔らかな笑みをこぼしながらその姿は消滅した。

 

これで、残るサーヴァントはアーチャーとセイバーだけだ。

 

ところでセイバー、傷の具合は?

このまま負傷したままでは・・・

 

「問題ない。ランサーが消滅したことで不治の傷も些か回復したからな。

サーヴァントの自然治癒はなかなかなものだぞ?」

 

サーヴァントは人間とは違い、マスターからの魔力供給でダメージを回復することができる。

自分とネロの魔力のパスはしっかりと繋がっているため、ネロの傷の治りもはやかった。

それなら安心だ。

 

少し休んだら先に急ごうーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大聖杯を目指して移動していると、突然電子音が鳴った。

それがカルデアで支給された自分の通信機だと気づいたとき、通信を開始した。

 

『よかった!やっと繋がった!

こちらはカルデア管制室だ。

岸波くん、そこにいるのかい?』

 

カルデアに残っていたロマニの声だ。

よかった。彼は無事だったようだ。

 

『あの後なんとかね。

君の方こそ・・・』

 

「ちょっとロマニ!?なんであなたがそこにいるの!?

レフはどうしたのレフは!」

 

『えええっ!?し、所長!?

生きてたんですか!?』

 

所長が間に割って入りさすがのロマニも驚いている。

確かに、あの地獄のような管制室の中で生き延びていたのだ。しかも無傷で。

それならば、このように驚いていも仕方ない。

自分だって驚いたのだから。

 

『だ、だって、レイシフト適性もマスター適性もなかったのに、あの状況の中よく無事で・・・』

 

レイシフト適性とマスター適性がない・・・?

マスター適性がないのはなんとなくわかっていた。

所長というポジションにいながら、前線に立つこともなければ、そのサーヴァントも確認できないのならば、もしかしたらと・・・

しかし、レイシフト適性がないというのは・・・

 

「そんなことはいいから!

レフを早く出しなさい!」

 

『・・・レフ教授は、管制室でレイシフトの指揮をとっていました。

あの爆発は管制室が発生源ですので、その中心にいた以上、生存は絶望的かと・・・』

 

それは、岸波白野もなんとなくわかっていたことだ。

自分があの地獄のような光景を目の当たりにしていて、所長どころかレフさえも生き残っていたのならば、もしかするとと考えたが・・・

それは、希望的観測でしかなかった。

 

『加えて、現在生き残っているカルデアの正規スタッフは20人にも満たない。

ボクより上の階級の生存者がいないため、今はボクが作戦指揮を任されています。』

 

「じゃあ他の適正者たちは!?」

 

『岸波くんを除いた47名全員が危篤状態です。

医療器具も足りず、全員を助けることは・・・』

 

「ふざけないで!

すぐに凍結保存に移行しなさい!

蘇生方法は後回し、死なせないことが最優先よ!」

 

地面を足踏みしながら所長は憤慨する。

肉体の冷凍保存・・・岸波白野はそれを知らない訳ではない。

 

それに、所長のあの焦りは、人の命がかかっているという責任をどうにかしようというものに見えた。

所長はまだ若い女性だ。

47人の生命を背負って生きていけるほど強いひとではないのかもしれない。

いや、きっとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど。状況は確認しました。

こちらはレイシフト設備の復旧を急ぎます。

通信はまだ不安定だけど、緊急事態になったら遠慮なく連絡を。』

 

ロマニからの通信は今もまだ続いている。

このあたりはまだ通信感度がいいのだろう。

でも今、所長は確かに小さい声で言っていた。

 

ーーーだれも助けてくれない

 

その心から振り絞ったような声をしっかりと聞いたのは、おそらく自分だけだっただろう。

だが、岸波白野にそこに踏み入るつもりはなかった。

元々助けが来ることは不明なこの特異点。キャスターやネロが助けてくれたことこそが奇跡に近い。

だから自分は、彼女に対してなにか言葉をかけることができなかった。

 

『ところで岸波くん、君には令呪が宿り、サーヴァントとのパスが確認できるけど、君はもしかしてサーヴァントと契約したのかい?』

 

もちろんだと返事する。

岸波白野にとっては大切なサーヴァントだ。

 

「うむ、ロマンとやら。

余こそが奏者のサーヴァント、ネロ・クラウディウスであるっ

此度はセイバーのクラスにて現界しておる。

よろしく頼むぞ?」

 

胸を張ってそれこそ褒めてと言わんばかりにネロは威張っていた。

ちなみにこの通信装置、音声のみである。

映像はこちら側からは確認できていない。

 

『ネロ・クラウディウスだって・・・!?

ローマの皇帝って、かなりの大物じゃないかっ!

今はまだレベルが低いようだけど、そのサーヴァントの潜在能力はすごい・・・。

岸波くんはよほどサーヴァントに恵まれてるのかもしれないね。』

 

「当然だなっ。

なにせ、余の奏者なのだから当然であろう?」

 

『真名がわかっているということは・・・もしかして宝具も?』

 

大丈夫だ。それもしっかりと把握している。

宝具は英霊の持つ伝承や偉業を元にしたスキルであり、その英雄が英霊の座に記されるほどの何を成したのかを表している。

同時に、宝具の解放というのは英霊そのものの真名を教えているのと同じである。

聖杯戦争において基本真名は隠すものである。

もし真名がバレてしまった場合、その英霊の弱点なども伝承通りのため、有名な英雄ほど弱点が多かったりするためだ。

 

「ところでキャスター?

あなた、そろそろ真名は名乗ったらどうなの?」

 

「絶対に言わねぇ」

 

所長の問いに即答されてしまった。

クーフーリン本人からすれば、ランサーのときならば堂々と名乗りたかったのだろうが、今の彼はキャスターだ。本人もあまり乗り気ではないようで、魔術戦は苦手なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如通信装置がノイズまみれになり反応がなくなった。

 

瞬間ーーー

 

空からまた剣を模した矢の攻撃が開始された。

アーチャーに発見されたようだ。

 

「移動するぞ!」

 

キャスターが所長を抱える。所長は悲鳴をあげながらも彼はそれを無視してその場を移動する。

 

「ゆくぞ奏者、捕まれっ!」

 

自分もネロに抱えられてキャスターの後を追う。

矢が放たれてる場所もわからないが、その射撃が止まるや否や上空からの殺気。

ネロは自分をうしろに降ろし上空から飛来する敵、アーチャーの二振りの双剣と自らの大剣で応戦する。

 

岸波白野はその姿に見覚えがある。

これはどの記憶なのかも自分でははっきりとわからない。

敵で戦った気もすれば、共にサーヴァントとしてアリーナを駆け抜けた記憶も存在する。

だが、今はその記憶に混乱している場合ではない。

二刀使いのアーチャー。

真名は・・・無銘の英霊だった、はずだ。

 

凄まじい殺気のアーチャーはネロに剣を押し返されて回転しながら地面に降り立つ。

 

「珍しく表に出てきたな。

セイバーの傍にいなくていいのかい、信奉者さんよ。」

 

「信奉者になった覚えはないがね。

だが、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ。」

 

泥に汚染されて黒く歪んでしまっているが、あれは間違いなく岸波白野が知っているアーチャーだった。

自分の記憶は、はっきりと思い出せるところもあれば、ひどく曖昧なところもある。

月の聖杯戦争、ネロと共に駆け抜けたことは事実だ。

しかしそれと同時に、自分の傍にはネロではない別のサーヴァントがいた気がする。

 

ふと、一瞬記憶にノイズが奔る。

 

月の聖杯戦争。何回戦かはわからないが、その決着がつき、自分は敗者として地に伏している。

その傍らには赤い外套のアーチャー。

ムーンセルによる敗者の死の壁の向こうにいる勝者・・・真紅の薔薇のようなセイバーと共にたち、こちらに涙を流しながらその勝利を悔やむ、岸波白野自身の顔だった。

ならば、この記憶を持つ自分は一体ーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもうっ!

次から次へと!」

 

所長の苛立ちの声で現実に戻る。

所長自身の魔術でアーチャーに攻撃を行うも、あっさりと弾かれてしまった。やはり通常の魔術ではサーヴァント相手には無意味なのだろう。

 

「お前らは先に行きな。

こいつは俺が引き受ける。」

 

キャスターが前に出る。

まさか、1人で相手するつもりなのか?

 

「こいつとは少しばかり因縁があるんでね。

わりぃがやらせてもらうぜ。」

 

キャスターの決意は本物だった。

ならば、サーヴァントとしての矜恃を見せる彼に、自分たちは考えている時間はない。

ありがとうキャスター。後で必ず合流しよう。

 

「応よ。セイバーの野郎にがつんとお見舞してやれっ」

 

アーチャーが自分たちを逃すまいと接近してくるが、キャスターはそれを防ぐ。

戦闘がどうなるのか気になるが、キャスターが足止めしてくれている今がチャンスだ。

 

時間もあまり残されてない。大聖杯に急ごう。

 




第3話終了です。
本当は最後まで行くつもりだったのですが、文章量がこれの倍になりそうだったので次回に持ち越しです。
次回で冬木篇完結です。
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