オリジナル展開につき、元の話から大きく外れてしまうことをご容赦ください。
また、感想のところでいくつか質問を頂きましたので、この場を借りてまとめて返させていただきます。
・英雄王は召喚しないのか?
英雄王を初期段階で召喚してしまいますと、ほぼ彼一人でいいところまで行ってしまうので、バランスを保つためにもしばらくは味方としての出番はありません。
・記憶はどこまであるの?
岸波白野は現在、EXTELLA直前の記憶まで持っています。
設定上、ムーンセルが再編される前なので、まだレガリアなどのアイテムは作られていません。
第1節でも簡単に言っていますが、ムーンセルはまだ古いままなので、学士殿などのサーヴァントも召喚されてません。
ですので、白野は現在、EXTRA、CCC、EXTELLA/ZEROまでの聖杯戦争を体験していることになります。
それでは前置きが長くなりましたが、今回からオルレアンです。
よろしくお願いします。
1人の少女が、道を歩いていく。
周囲には、その歩いていく彼女を見つめる者達。
悲しむ者、憐れむ者、嘲笑する者、尊ぶ者。
老若男女多種多様に渡り、その人を眺めていた。
歩く彼女は真っ白の服を来て、少し冷える寒空の下裸足で歩いている。
その両腕には手錠で繋がれており、まるで囚人のようだった。
否、彼女は今、囚人として大衆に見せしめとされているのだ。
彼女はとある戦争の一将として戦場に出た。
神からの啓示を受け、故郷を飛び出し、その神の言葉を信じて国を解放するために戦った。
しかし、彼女を待っていたのは、救った国からの裏切りだった。
その国のとある司祭は、彼女のことを異端だ、魔女だと断罪し、その身を火刑に処すことを決定した。
彼女の行いは、無為に終わったのだろうか。
それはなかった。聖処女と呼ばれた彼女は天啓のまま、己の信じる神のために、国のためにと立ち上がった。
その事に悔いはなく、後悔はしなかった。
見せしめとして磔にされるその直前、彼女は自分を見回す人に頼み込んだ。
「誰かーーー誰か十字架を持っていませんか?」
それは神に対する祈りだった。
それは彼女の身が助かることではない。
あえて言うならそれはひとつの感謝だった。
このような結末を迎えようとも、神は自分に天啓を与えてくれたことに感謝していた。
磔台に登る直前、彼女に一人の少女が小さな十字架を渡してくれる。
彼女はその少女に微笑みかけ、静かにお礼を言う。
やがて磔にされ、彼女のその身は炎に焼かれていく。
しかし、彼女に恐怖はなかった。
故郷を捨てた時から、彼女は神に祈り、自分を捧げてきたのだから。
「主よ、この身を委ねますーーー」
彼女の名前はジャンヌ・ダルク。
その生涯を神と、その為に生きてきたオルレアンの聖女と言われた彼女の名前だった。
その3日後、教会にて。
「ふん、やはり国を揺るがした罪人を処刑するのは気分がいい。」
ふくよかな身体を椅子にに預け、その男はワインを飲んでいた。
晴れて国を揺るがした女の存在を消すことができたのだと愉悦に浸っている。
彼はピエール・コーション司祭。
この国、基この地域一帯の宗教の司祭だ。
そして、ジャンヌを糾弾したのも彼である。
その時ドアをノックする音が聞こえた。
男が答える前にドアが開き、1人の人物が入ってきた。
今日は客人の予定はなかったはずだと思いながら、その人物に目を向けると、彼は目を見開いた。
有り得るはずがないと。
「お久しぶりです。
えぇ、とてもお会いしとうございました!
ピエール・コーション司祭!
あなたの顔をこのジャンヌ・ダルク、1日だって忘れたことはありません!」
にやりと笑いながら彼を見るその人物は、先日火刑にしたはずのジャンヌ・ダルクだった。
「ば、ばかな・・・ばかなばかなばかな!
お、おおあおお前はジャンヌ・ダルク!?
ありえない!ありえるはずがない!!
三日前に死んだはずだ!殺したはずだ!じーーー」
「地獄に堕ちたはずだ、と?
かもしれませんね、司教。」
死者は蘇らない。それは、どの世界に置いても共通することである。
世の宗教によってその解釈は様々だが、彼が信仰する宗教ではその主を除けば死者は蘇ることはない。
それは、信仰を重ねた彼は理解している。
死者は主に導かれるものなのだと。
なればこそ、先日その命を落としたジャンヌ・ダルクがここにいることはあってはならなかった。
彼女は真っ黒な鎧に身を包み、その冷えきった肌と目が司祭にありえないものなのだと認識させる。
戦場を駆けていた時の彼女の出で立ちと大きく異なるからだ。
「あ、悪夢だ・・・!
悪夢以外の何があるというのだ・・・!!!」
「さぁ、どうします?司教。
あなたが異端だと糾弾したジャンヌ・ダルクがここにいるのですよ?
十字架を握り、天に祈りを捧げなくてもよろしいのですか?
私を罵り、嘲笑い、踏みつけ、蹂躙しなくてもよいのですか?
勇敢な獅子のように吼えなくてよいのですか?
さぁ。さぁ。さぁ!」
彼女は司祭にどんどん迫っていく。
くすんだ金髪をなびかせて、光のないその目とそれこそ魔女のような人を嘲笑うかのようなその顔は聖女と呼ばれた人間とは程遠いものだった。
司祭は椅子から崩れ落ち、身体をガタガタと震わせている。
「たーーー」
「た?」
「たす、けて
助けてください・・・!!
なんでもします。
助けてください、お願いします!!」
彼は小鹿のように身体を震わせ、ボロボロと泣きながら彼女に救いを懇願する。
しかし、神に信仰を持ち、祈りを捧げてきた彼が、人に救いを求めることはあってはならない姿だった。
「は、ははは、あはははは!!
助けてください?助けてくださいですって!
私を嗤い、私を縛り、私を焼いたこの司祭が!
あれだけ取るに足らないと!
私は虫のように殺されるのだと、慈愛に満ちた眼差しで語った司教様が!命乞いをするなんて!
あぁ、悲しみで泣いてしまいそう。
だってそれでは何も救われない。」
彼女は、憎しみの篭った目で見ながらその司祭を蹴り飛ばし、教会の壁に叩きつける。
「そんな紙のような信仰では天の主には届かない。
そんな羽のような信念では大地は芽吹かない。
神に縋ることすら忘れ、魔女へ貶めた私に命乞いをするなど、信者の風上にもおけません。
わかりますか?司祭。
あなたは今、自らを異端者と証言してしまったのです。
だから私は悲しくて悲しくてーーー
もう気が狂いそうなくらい笑ってしまいそう!
ほら、思い出してください司祭様。
異端をどういうふうに処すか、あなたは知っているでしょう?」
それは聖女さながらの、慈愛に満ちた笑みだった。
そして、その刑が何かを彼は知っている。
数日前に執り行った刑こそが、この国において異端を貶める刑にほかならない。
火刑だ。
「い、嫌だ・・・いや、だ・・・!!
たす、けて・・・誰か助けて・・・!!」
「残念。救いは品切れです。
この時代にはまだ免罪符はありませんし。
さぁ、私と同じように、足元から始めましょうか。」
座り込み、震える身体で泣く彼の足元に火が灯る。
それが少しずつ大きくなり彼の身体を下から上へと焼いていく。
「私が聖なる焔で焼かれたならばーーー
お前は地獄の業火でその身を焦がすがいい。」
火の手は一気に回り、司祭の体を焼いていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
聖女ジャンヌ・ダルクを処刑した司祭は、その3日後に自身が焼かれることになった。
彼の身体は服の塵ひとつ残さずこの世から消え去った。
ジャンヌの私刑が終わった頃、教会のドアが開く。
「終わりましたかな、ジャンヌ」
「えぇ、塵一つ残さずにね。
ごめんなさいジル。大切な時なのに時間を無駄にしてしまって。」
「何を仰る。これも全て意義のある鉄槌ゆえ。
ほかの生き残りはどうされます?」
「そうですね。
いちいち尋問するのも面倒です。
先程召喚した彼らにやらせましょう。」
彼女は高らかに叫ぶ。
その場にはいない自分の下僕に向けて。
「喜びなさい、我が卑しい
生き残った聖職者たちは貴方達のものです。
それらの行いは、マスターである私、ジャンヌ・ダルクが全て許します。
魂を喰らいなさい。
肉を噛み千切りなさい。
湯水のように血を啜りなさい。
だって我々は正しく悪魔としてこの世に喚ばれたのですから!
私からの命令はただ一つ。
この国を、フランスをこの世から一掃する。
刈り取るように蹂躙なさい。
まずはいと懐かしきオルレアンを。
そして地に蔓延した春の沃地を荒野に帰す。
老若男女の区別なく、異教信徒の区別なく、
あらゆる者を平等に殺しなさい。
それがマスターとして、貴方たちに送る唯一の命令です。
この世界の
主の愛を証明できなかった人類に存在価値はありません。
――――恐ろしいまでに有罪です。
人類はみな、善人であれ悪人であれ平等である。
故にすべて殺しなさい。
ただの一人も、逃がすことは許されない。」
「おお!おおお!
なんという力強さ!
偽りのない真理なのか!!
これこそ救国の聖女!
神を肯定し、人々を許す聖女に他ならないっっっっ!!」
ジャンヌの傍らに立つジルと呼ばれた男は狂乱に目を見開き、涙を流しながら叫ぶ。
「帰ってきた・・・私の光が・・・
貴女は本当に蘇ったのですね、ジャンヌ!
では私も元帥として今一度奮い立ちましょう!
まずは証を・・・我ら軍団の旗が必要ですな!
ジャンヌ、何を旗印に掲げましょう。
悪魔でしょうか、それとも―――」
「それでは、”竜”にしましょう。
偶然か必然か、此度の召喚は竜に縁近い者が多い。
災禍の象徴たる邪竜を以て、我々はこの世界を徹底的に灼き尽くすのです。」
2人は教会を出る。
その前には教会の大きさを超える巨大な竜が待ち構えていた。
彼女が従える邪竜だ。
「ああ。ついでにもう1つ命令です。
笑いましょう、
ふ・・・ふふ。
あは、あはは・・・あははははははは!!!
愉しい!愉しいわ、ジル!
こんなに愉しいのは、生まれてはじめて!」
「ええ―――ええ、そうでしょうとも。
それが正しい。それでよいのです。
人々に担ぎ上げられ、人々の旗にされ、
人々に利用され、人々に見捨てられた―――
だからこそ貴女は正しい。この地上の誰が、何が。
貴女のその本心を、裁くことが出来るのでしょう・・・?」
その後、街で5つの幽鬼が動いた。
町を破壊し、人を殺していく。
春の訪れを待つフランスの地は一刻を待つことなく地獄へと変貌した。
そして彼女は言った。人を裁き人を殺めることが愉しいのだと。
それが彼女、かつて聖女と呼ばれたジャンヌ・ダルクだった。
一眠りを終えて目を覚ます。
体調に問題はないらしい。
すぐに管制室に行かないとーーー
「ご主人様。昨夜はお楽しみでしたね♡」
言葉よりも先にグーが出た。
玉藻はまさかの添い寝をしていた。
昨夜は尻尾を枕にしていたのでこうされていてはなんとも言えないのも事実だが・・・
もちろんそんな事実はない。
このピンク狐は油断すると何をしてくるかわからないのが困ったところだ。
「みこーん!痛いですご主人様!
ちょっとした寝起きドッキリじゃないですか!」
ネロを縛って床に転がしておいてドッキリで済むものではないだろう・・・すごい形相で睨んでいるぞ。
ネロに縛られた縄を解く。
「おのれ玉藻!
狐の分際で狩人を縛るとは何事か!
しかも奏者に寝起きドッキリとか余もやりたかった!」
え、怒るとこそこなのか。
「いいじゃないですか。
この前までネロさんの独り占めだったんですし?
わたくしだってご主人様とイチャイチャしたいのです。」
「余が独り占めするのは当然であろう!
なにせ、余の奏者なのだからな!」
「貴女のではありません、わたくしたちのご主人様です!
あさイチからご主人様を困らせるのはやめて頂けます?
ご主人様もこう申しておりますもの。」
いえ、お構いなく。
「奏者は余のものと言ったら余のものだ!
他の誰にもやらん!
であろう?奏者よ!」
いえ、ほんとお構いなく。
「いい加減にしないか君たち!
夜通し喧嘩しているとは私も予想外だ。
マスターはこれから特異点探索だと言うのに、君たちはいつまでそうしているつもりなのかね?」
ドアを開くなりおかんの喝が入る。
もうこの人に仲裁任せていいのではないだろうか。
「黙れエミヤ。
余とこいつはいい加減決着をつけねばならぬと思っていたところだ。」
「そうです。
もう少々お待ち頂けます?
ちょーっと呪う程度なので?」
「ーーー放っておこうマスター。
朝食の準備はできている。
食堂で頂くとしよう。」
そうしよう。
この2人は1度思いっきりぶつかってもいいのではないだろうかと思う。
でもとりあえず、無理だけはしないように。
これから特異点探索なのにHP尽きて動けないだけは勘弁してもらいたい。
部屋を出ると割と本気の殴り合う音が聞こえたが、今だけは聞こえないふりをすることを許して欲しい。
サーヴァントはサーヴァントにしかわからない世界があるかもしれない。きっと、たぶん。
「やるではないか玉藻。
うむ、今だけは貴様を認めてやらんこともないぞ?」
「いやもうほんと、セイバークラスと殴り合いだなんて金輪際御免こうむるのですけど、ネロさんは認めて差し上げてもよろしいかと?」
2人ともボロボロになりながらも管制室に来たかと思うとなぜか打ち解けあっていた。
なんだろう。河原で殴り合う不良みたいなものだろうか。
サーヴァントの自然治癒で回復が早いとはいえ、2人のそんな姿は見ていられなかった。
なけなしの資金で購買で購入したサーヴァント用回復アイテムを2人に使う。
ちなみにこの資金はカルデアに訪れた時に渡された前金のようなものだ。
念の為にと買っておいたアイテムをここで使うことになるとは。
「ま、まさかこのようなところでポーションを使われることになるとは・・・
アイテムは浪費してこそだと思うのは皇帝たる余なのであるが、ここで使われるとちと心が痛む。」
「申し訳ありませんご主人様。
わたくしがいながらこのような無駄遣いをさせてしまって・・・」
資金の心配はしなくていい。
2人が傷ついてる姿を見てることの方が自分にとっては辛い。
それに、自分のできることで元気になってくれるのなら、自分は喜んでやろう。
「奏者、感謝するぞ。」
「ありがとうございます、ご主人様。」
「まったく・・・これに懲りたのならば、あまり喧嘩はしないでくれたまえ。」
エミヤもやれやれと肩をすくめる。
昨日も喧嘩の仲裁に入ったらしいし、彼にも迷惑をかける。
「やっと全員そろったみたいだね。
ブリーフィング始めたいんだけどいいかな?」
ロマニが顔を出す。
時間がかかって申し訳なかった。
こちらの準備は出来ているのでいつでも大丈夫だ。
「よし、じゃあ準備に取り掛かろう。
今回向かうのは西暦1431年のフランス、オルレアンだ。
この時代は人類のターニングポイントである、百年戦争があった時代だ。
君たちはこの時代にレイシフトし、その特異点の起点となっている原因を排除してもらいたい。」
大雑把にいえば、やることは冬木と変わらない。
ただ、昔の時代に遡れば遡るほど、神秘の色は強くなる。
冬木よりも危険は増すかもしれない。
「その通り。だから岸波くん、君にはこれを渡しておくよ。」
手のひらより2回りくらい大きな円盤のようなものが渡される。
これは一体ーーー
「それは擬似召喚フィールド発生装置で、その土地の霊脈の強い部分に設置するとカルデアからの支援が受けやすくなるものなんだ。
だからこれから特異点に行ったら、まずは霊脈のポイントを探してほしい。
そしたら通信もしやすくなるし、ある程度の物資を渡すことも出来る。」
なるほど。
孤立無援よりよほどマシになる。
わかったと頷いてそれを持つ。
「簡単なブリーフィングは以上だ。
実際オルレアンが今どうなっているのかは現地に行ってみないとわからない。
敵が接近してるかどうかも、岸波くんを中心とした観測しか得られない以上、行き当たりばったりになってしまうことには目を瞑ってほしい。」
わかっている。自分としては支援してもらえるだけでとても心強い。
「よし、じゃあコフィンに入ってくれるかい?
冬木の時は不安定なレイシフトだったけど、コフィンなら確実なレイシフトを保証するよ。」
一人用のコフィン。なにかのカプセルのようだと思い中に入る。
サーヴァントたちはどうするのだろうか。
「霊体である彼らは、岸波くんのレイシフトと同時に自動的に転送される。
君と同じ場所に召喚されるはずだから、安心していいよ。」
なるほど、と頷きコフィンに入るとそのドアが閉まる。
「コフィンと言ったか・・・まるで棺桶だな。」
ネロが小言で言っていたが、既にコフィンの壁の外なのでよく聞こえなかった。
目を閉じて意識を強く持つ。
「よし、では第1特異点、オルレアンへのレイシフトを開始する!」
ロマニがコンソールを動かしてレイシフを開始させる。
『アンサモンプログラムスタート。
全行程完了。
第1特異点、実証を開始します。』
アナウンスと共に、岸波白野の精神と肉体は過去へ飛んだ。
目を開けると見渡す限りの平原地帯だった。
風は春の訪れを待つような少し肌寒いものであったが、天気は悪くない。
大きく呼吸して地上の空気を感じている。
自然に生きるというのはこういうことなのかもしれない。
気づくとネロ、玉藻、エミヤの3人も無事オルレアンにレイシフトされてくる。
特に問題なく行われたようだ。
「ほほう、この穏やかな地は、我がローマを彷彿とさせるな。」
「まったくいい天気ですこと。
せっかくでしたら、お弁当をお持ちするべきでしたねぇ?
ご主人様とピクニック・・・キャー!考えただけでもワクワクします!」
「特異点と言うからには荒廃している荒野を想像したのだが・・・なんとも穏やかな場所なんだ・・・数キロ先に街が確認出来るが、ここが特異点とはとても思えないな。」
冷静に状況を分析しているのがエミヤだけだった。
たしかに冬木が完全に瓦礫の街になっていたので、ここもそうなってるのではないかと思ったが、オルレアンはそうではないようだ。
とりあえずまずは霊脈のポイントを探さなければならないのだが、自分にはどこが霊脈のポイントなよかがわからない。
そもそも霊脈というのは、その土地の地脈、魔力の流れを表す航路のようなものだ。
そしてそれが最も集まりやすい場所のことを霊脈という。
しかし、岸波白野にそれを感知することは出来ない。
すると腕につけておる通信機がなり、カルデアにいるロマニとの連絡がついた。
『よかった。無事レイシフトできたようだね。
霊脈のポイントなんだが、申し訳ない。
そこからは随分離れたポイントにあるようだ。』
ならば仕方ない。
むしろ探索なども含めて自由に動けるのならば霊脈探しも捗るというものだ。
それに、エミヤの話によると数キロ先に街があるようだから、そこで現地の人に話を聞いてみるのもいいかもしれない。
『そうだね。大切なのは情報だ。
なるべく多くの情報を貰えるよう頑張らないとね。』
その通りだ。戦いにおいて相手のことをよく知ることから始まる。
戦うにはその情報、分析が必須になる。
まずは、あの街に向かおうーーー
「ところでご主人様、そちらの発生装置、重たくありませんか?よろしければ、わたくしがお持ち致しますが・・・」
手に持っている擬似召喚フィールド発生装置について玉藻が聞いてくる。
とくに重たくもないし、片手で持てるから大丈夫だと伝えるが・・・
「あ、いえ、ここは良妻としてご主人様には余計な負担をかけたくないと思いまして。」
そこまで言われてしまったらここで渡さないのも悪い気がしてしまう。
ありがとうと礼を言って装置を渡す。
もしかしたらキャスターである彼女の方が、霊脈などは探しやすいのかもしれない。
「ところで奏者よ、こう、平原ばかりというのはいささか飽きてくるのだが・・・」
それは仕方が無いことだ。
といっても自分はとくに飽きているわけではない。
アリーナの中を散々走り回っていたし、こうして3人ものサーヴァントと共に一緒に探索が出来るのならば、それだけでも価値はある。
それに目的地としては、外観が見えてきた街に行き、現地の人に話を聞いて情報を集めなくてはならない。
やることはたくさんある。
だが、街に着く少し前、ロマニから通信が入った。
『大変だ!今君たちのところに強い敵性反応が来ている!
注意して!』
特に何も感じないが、恐らくサーヴァントかなにかが迫ってきているのだろうか。
「下がれマスター。どうやらお出ましのようだ。」
エミヤが前に出て空から来る敵に標的を定める。
あれは、まさか・・・
『
生物の中でも幻想種に位置するクラスのものだ!
なぜこんなところに!?』
ワイバーンといえば、よく物語などで目にする腕が翼の鋭い爪を持つ空を飛ぶ竜だ。
西暦も1400年を越えて既に地上から神秘がほとんど失われているとはいえ、フランスにはこの時代幻想種が存在していたのだろうか。
『そんなはずはない。
この時代のフランスは既に人のものだ。幻想種は存在していない。
そのワイバーンはこの特異点だからこそ存在出来る生物だ。
だからと言っても、ワイバーンはとても獰猛だ。ここで倒してしまおう。』
了解した。
たしかに、現地の人にも危害が及ぶかもしれないし、なにより、あのワイバーンはこちらを見据え既に餌にしようと決めていると見える。
ならば、迎撃しないわけにはいかない。
「マスター。すまないが、これは私に任せてもらえないかね?」
背中越しにエミヤが語りかけてくる。
それは構わないけど、こちらは3人いるのにわざわざ1人でやる必要はーーー
「たしかにそれはないかもしれん。だが、久方ぶりの召喚でこれが初陣なのだからね。
折角だ。改めて君に指揮をしてもらい、改めてこちらの実力を把握する必要があると思うのだが、どうかね?」
わかった。
エミヤがそこまで言うのなら任せよう。
「ほう、エミヤよ。貴様の実力とやらを見せてもらうぞ?」
「くれぐれもご主人様のご迷惑にならないでくださいましね?」
「承知している。
全力で応えようとも。
準備は出来ているな?行くぞ、マスター!」
状況を確認する。
敵はワイバーン1体。
大きさは軽く3mはあるが、問題ない。
あの大きな爪で攻撃してくるだろう。
エミヤは投影魔術による遠近両用の戦い方が出来る。
問題は指示のタイミングだが、ワイバーンの攻撃の特性上、近・中距離戦がメインとなるだろう。
これがエミヤの初陣だ。
マスターとしてしっかりサポートしなければならない。
ワイバーンが咆哮をあげながら突進してくる。
こちらの予想通り、やはり接近戦が主体なのだろう。
エミヤは投影魔術により二振りの夫婦剣を投影する。
名を
白黒の陰陽を表しており、白が干将、黒が莫耶。
名前はそれぞれの名であり、互いに引き合う性質を持つ。
エミヤはワイバーンの爪の攻撃を片手で受け流しながら空いた手でワイバーンの足元から切りつける。
ワイバーンは細かい挙動はできないようで、爪による攻撃も大雑把だった。エミヤはそれを軽々と回避していく。
あまり戦いを長引かせるのも良くない。
エミヤ、スキルを使え!
「了解した。マスター。」
彼は持っている双剣を左右に投げる。
投げた剣は回転しながら大きく広がっていく。が、その剣は吸い寄せられるようにお互いに引き合うかのごとくワイバーンに向けて飛んでいく。
干将莫耶の引き合う性質はここにある。投擲してもそのまま引き合うように合わさる。それが夫婦剣と呼ばれる所以でもある。
そしてこれは、エミヤ独特の投影魔術によるもの。
彼の投影は自身の内にある世界にある剣を取り出して投影する。
通常の投影魔術は作り出しても長時間の保持は出来ないが、エミヤの場合はそのイメージが崩れない限りは長時間の運用が可能である。
そして干将莫耶は、投影する魔力量のコストの面からみてもとても彼と相性がよく、いくつでも量産することが出来る。
一振り目の干将莫耶を投げ放ったあと、再び干将莫耶を投影、そして同じく投擲する。
計4本の剣がワイバーンを囲むように回転しながら迫っていく。逃げ場はない。
そしてさらに三振り目の干将莫耶を投影し、エミヤはワイバーンに駆ける。
6本からなる剣の投擲による包囲と正面からの剣技、逃げる場所はなく対抗するには正面からぶつかるしかないこの英霊の絶技。
「
その刃はワイバーンを切り裂き、その命を断つ。
その場でワイバーンは絶命し、地に堕ちる。
その亡骸は消滅し消えていく。
この時代のものではないので、亡骸はその時代には残らないというのが、後のロマニの意見である。
「やれやれ、もう少し手応えがあると思ったのだがね。」
スキルの使用も特に苦であったわけもなく、彼の初陣は終わった。
投影していた剣が消えると彼は不満なのか満足なのかもよくわからない表情でこちらに戻る。
「ほほう?貴様、アーチャーのくせに剣を使うのだな?
弓はどうした弓は。」
「生憎と、私は普通の英霊とは多少異なるのでね。
クラス通りの戦い方は望めないと思ってくれ。」
皮肉混じりにエミヤは答える。
クラス通りの戦い方をしないサーヴァントは何人かいる。
その辺彼は気にしていないと思っていたのだが・・・
それに玉藻だって、呪相と言いながら筋力依存の攻撃をしていたような・・・
「ご主人様、今時物理で殴ることも出来ないようではキャスターとしては時代遅れなのですよ?」
キャスターって流行りとかあったのか。
英霊の座はどうなっているのだろうか。
どこで形成されているかわからないサーヴァントコミュニティが少し気になる。
ワイバーンを撃退した後、ようやく街までたどり着いた。そんなに大きい街ではないようだが、見張りの人がいるわけでもなく、散歩の途中で立ち寄るかのように自然と街に足を踏み入れる。
最初に感じたのは違和感だった。
この時代のフランスの建造物は芸術的だとか、穏やかな気候に合う外観が似合うとか、それ以前に、胸を圧迫するような違和感がある。
違和感というよりは、プレッシャーなのだろうか。
そしてその圧迫感は街の中心まで来た時にはっきりした。
人が誰もいない。
否、岸波白野は目をそらしていた。
この街は既に死の街に変わり果ていた。
たしかに人は誰もいない。
なぜなら、生者が1人も存在しないのだから。
地面に広がる血の跡、横たわる遺体。
だが、これは現実だった。
恐らくこの街に住む人々は全員何者かによって殺害されている。
先程のワイバーンの仕業なのだろうか。
1体ならもともかく、群れのように現れて襲われたのならわからなくもない。
それにしては、街が外観を保ちすぎなよではないだろうか。
ワイバーンの攻撃はとても大雑把だった。
あの大雑把な攻撃で建物を破壊しないで人だけを殺すことは可能なのか。
「たしかにひどい有様だな。
だが奏者よ、これは、先程の飛竜の手によるものでないな。」
「はい。微かですが、魔力の残滓が見られます。
どうやら敵さんはサーヴァントのようですね。
魔力の痕跡を隠すつもりもないようですし?」
「魂喰いにしてはやりすぎだな。
通常の聖杯戦争では、能力の低いサーヴァントは一般人の魂を喰らうことで力を増すことができるが、なにも殺す必要まではない。ならばこれは、ただの殺戮。
それこそ、自らの趣味、もしくはマスターの命令に準じているかのようなものだ。」
この世界におけるサーヴァント。
それがこの惨状を引き起こしたのならば、早めに倒さないとまた被害が増えてしまう。
『岸波くん!すぐに離れて!
サーヴァントの反応だ!』
ロマニから突然の通信が入るのとほぼ同時に身が震えるほどの殺気を感じる。
その直後自分に向かって真っ直ぐに飛んでくる槍をネロが間に入り弾く。
槍の持ち主は肩までかかる銀色の長髪をいかにもおじさまと呼べるような人だった。
しかし、彼の今の動きは、明らかにサーヴァントだ。
「貴様、いきなり奏者を狙うとは何事か!
名を名乗れ!その首落としてくれる!」
「バーサーク・ランサー
名をヴラド三世。」
ヴラド三世。ワラキア公国の王であり、当時最強の軍事力を誇っていたオスマン帝国の侵攻を幾たびも退けた大英雄。
かつて船を山に登らせるという奇策を使い、三重防壁に囲まれた東ローマ帝国を滅ぼしたメフメト二世ですら、敵兵を平然と串刺しにして見せつけた悪魔には手も足も出なかった。
やがて彼は東欧においては英雄として、西欧においては悪逆の存在として認識されていたが、そこまでであれば小国の英雄として世界には知られることなく消えたのであろう。
しかし、アイルランドの作家ブラム・ストーカーが書いた「ドラキュラ」のモデルとされたことでその知名度は爆発的に広まった。
ただし、それはメフメト二世を撃退した小国の英雄としてではなく、「ドラキュラ」に登場する災厄の吸血鬼、ドラキュラ伯爵としてであったが。
そんな伝承で伝えられた彼が、ランサーとして現界している。串刺し公と呼ばれたその所以からか、槍を持つのはわかる話だ。
だが、バーサークということは、狂化の属性が追加されていると考えていい。
バーサーカーではなく、他クラスに無理やり狂化をかけて体良く理性を奪わせるという英雄の尊厳を無視するやり方が彼らを召喚している者ならば、許すことは出来ない。
「お気をつけくださいませ、ご主人様。
まだひとつ、隠れております。
えぇ、わかりますとも。隠しきれない。いえ、隠すつもりもありませんね、この血の香り・・・」
ランサーとは逆方向に玉藻が睨みを聞かせる。
「その身の隠し方、アサシンとお見受け致します。
気配遮断による気配は消せても、その身体に付いた血の匂いまでは消えていませんよ。
いえ、それよりもまず・・・そんな外道の血の匂い、わたくしのご主人様に向けないでくださいます?」
「あら、構わないと思わなくて?
だって、あなた達も、結局は私にその血を献上するのだから。」
真っ白な肌に仮面を付けた女性が物陰から出てくる。
スラリとしたスタイルでその仮面の下は美人であると連想させる。
「彼が名乗ったのだし、私も名乗らせてもらいます。
はじめまして、異邦のマスターとそのサーヴァント。
私はバーサーク・アサシン
真名は・・・カーミラ。」
カーミラ。その名は通名であり、その本名はエリザベート・バートリー。
ハンガリー家の名家、ドラゴンの歯を紋章とするバートリ家に生まれ、生涯に渡り領地の若い少女の血を浴び続け若く美しくあることに取り憑かれた女性。
最期は明かりの届かない牢獄に閉じ込められてその命を終えたという実在した人物。
だが、岸波白野が知っているエリザベートとは容姿が著しく異なる。
自分が知っているのエリザベートは少女の姿をしていた。
ならばあの姿は恐らく少女のエリザベートが成長した姿。
吸血鬼カーミラとして伝承に恐れられた人物そのものが現れている。
なればこそ、月の裏で出会ったエリザとカーミラを同一視してはならない。
伝承通りの人物として現れたのならば、その残虐性はエリザよりも吸血婦人に相応しいものなのだろう。
「さぁ、あなた達の血を頂きましょうか。
あ、そこの無骨な男の血はいりませんのでランサーに譲ります。」
「さぁ、串刺しの時間だよ。」
敵のランサーとアサシンに挟まれている。
気づけばワイバーンが何体もこちらに集まっていて、あのワイバーンがあちら側なのならば、こちらは完全に包囲されてしまった。
はっきり言ってピンチである。
どうにかしてこの包囲を突破して、街を出なくてはならない。
「マスター、はっきり言って今の我々に勝ち目はない。
私でよければ殿を務めても構わないが?」
それは出来ない。自分のサーヴァントを置いて逃げることは岸波白野の選択肢には存在しない。
やるとするならば・・・
「一点突破だな。わかっているぞ奏者よ。」
「わたくしと致しましては、そうですね・・・あのいけ好かないお嬢様に一撃入れてやりたいところですが、仕方ありません。
ここは撤退の後、体勢を立て直すのが良策かと。」
その通りだ。
だからこそ、一人もかけることなくここを突破しなければならない。
「あら、逃げられると思っていて?
私たちから逃げることなど不可能です。
ここで散りなさい。」
「血に塗れた我が人生をここに捧げようぞ。」
「全ては幻想の内、けれど少女はこの箱に――」
まずい、これは間違いなくーーー
「宝具がくるぞ!全力で防ぐ、魔力を回せ!」
「ご主人様、ネロさん、わたくしの後ろへ。
全力でお守り致します・・・!」
エミヤと玉藻が前に出てそれぞれのサーヴァントから放たれようとされる宝具を防ぐために前に出るが、恐らく間に合わない。それが、本能で告げていた。
「
「ぶっちゃけ、私の主戦力です。」
「
「
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「呪層・黒天洞!」
地面から現れる大量の槍と、巨大な拷問器具、アイアン・メイデンによる同時攻撃。
両方とも正面からの攻撃しか防ぐことの出来ないエミヤのアイアスと玉藻の黒天洞では防ぎきることが出来ない。
万事休す、そう思った。
今の状況を覆すことは出来ないのだとーーー
「我が旗よ。我が同胞を守りたまえーーー」
ひらりと1人の人物が自分たちの前に降り立つ。
その身長よりも大きな旗を前に構えるその姿はとても美しく堂々としていた。誰なのかはわからないが、綺麗な金髪をなびかせて、紫を主体とした鎧と凛とした立ち居振る舞いから女性であることがわかる。
「
その旗から放たれる光により、ランサーとアサシンの宝具はこちらに届く前にまるで壁に阻まれてるかのようにして止まる。
自分が状況を飲み込む前に先に動いたのはエミヤだった。
「撤退だ、マスター!」
すぐさま自分を抱えるとサーヴァントの素早い脚力で敵サーヴァントやワイバーンの包囲の少ないところを見つけそこに駆け込む。
ワイバーンがそれをは阻むように来るが、ネロがワイバーンを斬り伏せることで道を開き、その後に玉藻と先程の女性も付いてくる。
ランサーとアサシンがこちらを追ってきている。
すぐに追いつかれる訳では無いが、このまま逃げ続けるのも限界がある。
頼む玉藻!スキルを使って足止めをしてくれ!
「かしこまりました、ご主人様!」
懐から御札を数枚取り出すとそれを追ってくるサーヴァントに向かい投げ放つ。
「氷天よ、砕け!」
呪相・氷天。
魔力によるスキルで氷の柱が形成され、その中にランサーとアサシンを封じ込める。
狂化されているせいで回避する判断が遅れていたことが幸いし、氷の中に閉じ込めることが出来た。
しかし、長時間足止めできる訳では無いので、今のうちに距離を稼がなければならない。
今のうちに遠くへ逃げよう。
街から離れたところに大きな森を見つけた。
そこに身を隠してなんとかやり過ごすことが出来た。
ワイバーンやサーヴァントがこちらに追ってきている様子はない。
エミヤに降ろしてもらい、倒木に腰をかける。
なんとか逃げきれたのだとほっとしたところで、自分たちは改めて確認しなければならないことがある。
先程自分たちを助けてくれた女性についてだ。
彼女は自分たちから少し離れたところに立ち、少し申し訳なさそうな顔をしている。
「ふむ。一先ず、余の奏者の窮地を救ったことは感謝せねばなるまいな。
それに貴様、よく見るとなかなか可愛らしい顔をしている。余の好みに合致するが、それよりもまずは聞かねばならぬことがある。
そなた、さてはサーヴァントだな?やつらの仲間か?
でなければ、ここで名を名乗り、身の潔白を明かすが良い。」
「・・・はい。私はたしかにサーヴァントです。
しかし、先程のサーヴァントたちとは敵対関係にあります。
あなた達を助けたのは、主の導きがあり、いずれ訪れる来訪者であることがわかっていたからです。」
皇帝の威厳のあるネロの言葉にも臆することなく、光の宿る綺麗な瞳で真っ直ぐこちらを見る彼女は教えてくれる。
つまり、一応敵ではないということだけはわかる。
主からの導きということは、彼女は何かしらの信仰に繋がりのある英霊ということだろう。
「ーーーあ、申し遅れました。
私はジャンヌ・ダルク。
此度は
星の観測者のみなさん、お逢い出来て、本当によかった・・・!」
第6話でした。
オリジナルとだいぶ展開が異なるので読んでいて違和感は大きかったと思いますが、あくまで別世界の出来事として大目に見ていただけるようみなさまの広い心に期待しております。