断片集   作:xelt

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或いはもっといいやり方を知っていたのかもしれない。
ご都合主義の被害者へ。


口供

夢を見た。

 

そこは灰に飲まれた都市だった。沈み逝く船の上だった。炭となった家屋だった。星の降り注ぐ丘だった。割れる世界の中だった。

何一つ噛み合わない情景。ただ、どうしようも無い事実のみが羅列されている。

失敗。きっと余は失敗したのであろう。選択肢は提示され、何もかもを救うには余りにも遅すぎたのだろうと。

 

景色は曖昧に移り行き、最後に燃える針葉樹林を映し出した。木々は火花を散らし、微かに雪を溶かしていく。

炎の裏に人影が映り込む。黒で統一された軍服は不格好な裂け目が幾つも入っていた。腕はあらぬ方向へと折られ、白く染まる吐息は乱れきっていた。

それは過去の自分であった。それは見知らぬ誰かだった。

 

夢を見た。

 

それはいつかの記録だった。サンドスターの見せる夢。誰かの淡い、苦い思い出。

倒れ伏す我が身に雪が降る。呼吸は荒く、浅い。そこには威厳も神秘性も無かった。

これで良かったのだろうか。間違った道を示してはいないだろうか。皆の安否は。余の従者は。事の顛末は。

 

まとまらない思考。鈍る痛みと重くなる瞼。

一呼吸する度に、大切な何かが消えていく感覚がする。

光が体よりこぼれ落ち、空へと散っていった。

爆ぜる木々の音。降りしきる粒の音。彼方に響く残響。

ふと、雪を踏みしめて歩く音が聞こえた。

 

夢を見た。

 

隣には従者が座っていた。最早力の入らぬ手を握りしめて。世界で一番価値のあるものだと言わんばかりに。

「どうして……戻ってきた……?」

声に出した本人が驚くほど弱々しい声。既に生きる事さえ難題となり、それでも尚尋ねずにはいられなかった。

余の為した事を無碍にするような事を聡明な彼女がするだろうかと。

ほんの僅かな時間目を瞑り、そして従者は語り出した。

「……せめて」

不安げなか細い声で彼女は語る。

「せめて、最期の時は共にしたいと。それが私の願いですから」

炎が視界を照らし、従者に影を作り出す。

「……そのほう……本当に良いのか?」

「当然です」

ほんの僅かに頬が緩む。

「……そのほう……らしい……」

彼女も無言で微笑んだ。どこか誇らしげに。

静寂が訪れる。

 

夢を見た。

 

視界が歪む。もう時間がきたらしい。

そして、従者をここに留めて置く事も許され無いだろう。それならば。

「……」

揺らぐ意識。軋む体。翼に手をかける。羽を取り、従者の手へ。視界は白く。

「----をしない----さ--!」

既に力は入らない。体が冷えていくのが分かる。

「後は……」

幽かな嗚咽が聞こえる。

「生------わった----ても、も----度貴--の----にな--------」

朧気に聞こえる声。眩む眼中の光景に、微かに忌むべき物語主義者の姿が映り込んだ。夢は途切れた。

 

 

 

目覚めは最悪だった。未だに揺れる景色の幻覚を見ながら、ゆっくりと上半身を起こす。苔むした祠の隙間から僅かに漏れる朝日。せせらぎ、鳥の声、騒がしい静寂。

 

ふと隣に手を伸ばした。空を切った手のひらに、一抹の寂しさを覚えた。そこには誰もいなかったし、何も無かったはずだというのに。

なんとはなしに六畳程の祠の中を見渡す。所々隙間が空いて、そこから日光が差し込んでいる。角には蜘蛛の巣が貼られ、少々みすぼらしい有様だった。

「……掃除でもするべきか」

もし仮にも彼女ともう一度出会った時。このような有り様では締まらないだろうから。

 




「この鏡は紅く塗らねえのかい?」
「貴様……塗りたいのか!?」

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