「ふぁ・・・」
大きな欠伸をしながら、廊下を歩く。
あの後、時間たっぷり寝てしまった。どうやら、相当疲れていたようだ。慣れない環境のためだろうか。
そして制限時間が過ぎると黒スーツの男が俺の部屋まできて、付いてこいと言われたのが今の現状。ご丁寧に手錠を施錠されて。
俺が今歩いている廊下はあのオープニングセレモニーのときにも歩いたが、変な趣味している廊下だ。壁面を変な仮面で埋め尽くされている。オペラ座の怪人とかに出てきそうなデザイン。
そんな廊下を長いこと歩くと、ひとつの扉の目の前に来た。
「この先で1on1が行われる。
決着がつくまで出られない、よく考えて最善の行動をとるように」
今の今まで、俺を引率していた黒スーツの男が扉を開けるためにカードキーを通す。
すると、ゴゥ・・・ン、と厳かに扉が横開きでひらいた。
「・・・独房?」
扉の先の光景は、独房のような場所だった。
まぁ独房というには大きすぎるが、初見の感想としては適切だ。
光は天井に付いている何個かの電球だけのため、薄暗い。
辺りには、鎖やら鉄球、手錠、おおよそ独房を連想させるようなステージだ。
そんな場所のど真ん中に、1人の女性がたっていた。
「あんたが対戦相手?」
俺はおくさず話しかけた。
「えぇ、そうみたい。・・・えっと地染くん?でいいのかしら。物騒な名前よね。言葉のニュアンス的に。」
インナー下着だけを纏った女性。
目がトロンとしていてボーッとした顔をしている。それだけ見ればトロそうな女性なのだが、どこか胡散臭い感じがする。
「まぁ、物騒な名前ではあるよな。でもこの名前のおかけで友達とか簡単に作れたりするんだぜ?話のきっかけになって」
というかこの人、オープニングセレモニーのときに見たことあるな。魅音に顔色一つ変えずに話しかけてたっけ。
「ところでここってなんかすごく嫌じゃない?」
「嫌ってなにが?」
女性、香椎 鈴が今度は話しかけてきた。
「ここって独房っぽいじゃない?ジメジメしていて、陰気臭い。何よりここにいると、自分が犯罪を犯したみたいじゃない。」
「でも囚われの身ってことなら今の状況も一緒じゃないか?」
「ふふっ、それもそうね」
クスクスと笑う香椎。
和みそうな雰囲気だが、俺達の距離は依然として詰められていない。
距離として10mぐらい離れている。
これは意図的に俺が距離をとった。
まぁ一種の読み合いみたいなものだ。
すこしでもこっちに歩んできたら能力は近接系、動かなかったら遠距離系ってね。
簡単な分析だけど。
それを踏まえると、香椎は遠距離系かな。
まったく近づかず、距離を詰めようとしない。
消極的って言われればそれまでだけど。
ザザっ
『これより1on1を開始します
この場所のものと部屋から持参した道具のいかなる利用方法も認め、どちらか一方が気絶 敗北の宣言 死亡した場合のみ決着します
それでは始めてください
』
そこでスピーカーから開始の合図があった。
と、同時に手錠の解錠準備の合図も。
五秒後には戦闘が始まる。
そして俺はすこし構えた。
だが、香椎の方を見ると、自然体のまま。
「あんた、構えないのか?」
「うーん、和平でも出来ないかなって思って」
「はぁ?」
驚いた。まさか和平を求められるなんて。
「・・・本気で言ってるのか?」
「えぇ、もちろん。 戦うなんて出来ないし、あなたと仲良くしたいと思ったから」
困ったような顔をして、提案してくる香椎。
本当にその気で言ってるのか。
だったら俺のとる行動は――
「分かった、そうしようか!」
と肩の力を抜いて、
Battle start
「それはよかった!」
目の前に現れた刃物を避けた!!
「だーと、思ったよ!」
やっぱ嘘だった!
「あら、なんでわかったのかしら」
「あんた。みるからに胡散臭いからね!」
と、俺は部屋から持っていた鉛筆を香椎に向かって投げた。もちろん能力を使って。
「んー、ひどいなぁ〜。信用されてなかったなんて」
やれやれと頭に手を乗せた香椎。
すると刃物が現れて、投げた鉛筆と空中でぶつかった。
「・・・どういう仕組みだ?」
さっき同様に突然現れた刃物に戸惑う俺。
予備動作はおろか、ろくに動いてすらいなかったのに空間から刃物が出てきた。
見たまんまで能力を推理すると、空間から刃物を作り出す能力か?
いやそれだと、俺の後ろから刃物を作り出して殺せばいい。
不意打ち紛いのことをして殺そうとしているところをみると他の能力。それか制約があるだな。
知らず知らずのうちに口角が上がる。
いいじゃん。面白い。存外楽しめそうで嬉しいよ。
「ま、いっちょやったりますか!」
俺の初陣が始まった。
香椎戦start!