LoveLive Sunshine Pallas-Athene 作:クサナギ(ドレーク)
0で出てきた粒子は、分かるとは思いますが、ミノフスキー粒子がモチーフです。一応、人型ロボット兵器が成立する基盤くらいは作ろうと思いましたが、結局こういった粒子以外に思い浮かびませんでした。
ただ、ミノフスキーやGNと違うのは、この粒子は宇宙航行も妨害する点ですね。この世界の宇宙では、航路がある程度限定されてしまいます。そうしないと、宇宙の移動ルートは自由すぎて、部隊同士がぶつからないんじゃないか、と考えての設定です。
…あと、鞠莉のセリフが難しいです。頭の中で喋らせると普通なのに、文字にすると違和感が拭えません。割と深刻な悩みどころです。
3時限目を終えた2年A組の教室は、わいわいと活気にあふれていた。今日は業者の都合で延期となった校内の保守点検がある、ということで、授業の数が普段の半分。正午に帰れるとあっては、教室が沸くのも当然のことであった。高海 千歌(たかみ ちか)もその例に漏れず、クラスメイトの桜内 梨子(さくらうち りこ)にうきうきとした気分で午後の行動を提案した。
「宇宙人の研究施設!?」
その提案を聞いた梨子の反応は、至極当然とも言えるものであった。千歌曰く、彼女たちが住む内浦コロニーには、謎の区画が存在するらしい。内浦は、コロニーの土地を升目状に区分けして区画を作り、農業区画、工業区画、居住区画、商業区画とその利用用途が区画ごとに設定されていた。地図を見れば、どこが何の区画かは明確に分かるようになっていた。ところが、地図には森林区画と書かれている場所に、謎の施設があるという噂が広まっていた。そしてこういった伝聞ではよくあることだが、その施設の正体については、宇宙人が捕獲されている施設だとか、何かしらの非人道的な実験が行われている研究所だとか、カルト宗教の神殿だとか、話す人によってさまざまな説が語られていた。その中で、千歌が掴んだ情報は宇宙人の研究施設という説で、午後にその施設を探検しようという提案をしたのである。
友人からの突拍子もない提案に困惑する梨子は、周りのクラスメイトに目線で助けを求めるが、「ごめん、梨子ちゃん!付き合ってあげて!」とでも言わんばかりの視線で返され、ため息をついた。どうせ誰かが面白おかしく脚色して流した噂話、何の変哲もない施設だと判明して、がっかりするのがオチだろう。或いは、そもそもそんな施設自体が存在しないのかもしれない。それでも、午後は特に予定もないし、断る理由もない。或いは、噂の検証はあくまでも建前で、その実は転校生の自分に気を遣って、コロニーの案内をしてくれるつもりなのかもしれない。どうせ午後は予定がないし、有難くその提案を受けよう、と梨子は受諾の返事をした。
「帰りにサンドイッチを奢ってくれるなら、付き合ってあげる」
「うん、じゃあ第2商業ブロックの『トゥット』の噴水広場に1時半で!」
「内浦」は、第3ラグランジュ・ポイント(L3)の新駿河コロニー区域に属するコロニーで、豊かな地球の自然が忠実に再現された公園区が他のコロニーよりも多く存在するのが特徴であった。居住人口は少なく、商業施設も他のコロニーと比べて少ないものの、豊かな自然環境と厳しい建築規制により、コロニー内であることを忘れさせるほどの快適さを持つ。海洋区と呼ばれる地球の海を2区画使って再現したエリアが独特で、それを目当てに観光客が集まるほどであった。
イタリア語で「全て」を意味する総合商業施設「トゥット」には、その名の通り、あらゆる店舗が揃っていた。食事はもちろん、衣服やアクセサリー、家具の店も並び、エステサロンや美容室といったサービスも受けられる。まるで一つの街の店という店を全て凝縮したかのように、バラエティーに富んでいた。梨子の出身地である「新和」にも似たような施設はたくさんあったが、ここはより密度が濃い、そう感じた。公園区の比率の高く、海洋区が2区画を占めている以上、商業区画においては、いかに狭い敷地の中に質の高い施設を作るかが求められているのかもしれない。そんな分析をしながらも、梨子は密度が濃い一方で窮屈さを感じさせない施設の設計に感心していた。
「やっぱり、所々に草木があるからかなぁ…」
思えば「新和」ではほとんど植物を見ることがなかった、と以前の地の暮らしを思い出しながら、梨子は噴水広場で千歌を待った。今の季節設定は夏。水の飛沫は見ているだけで、涼しくなれるからか。或いは、人工的に気候を調整できるコロニーにおける夏は、地球のそれよりもずっと過ごしやすいからか。二、三十分の待ち時間も何らストレスを感じることなく、あっという間に過ぎ、そして梨子は遠くからやってくるオレンジ色の髪の少女の姿を認めた。特徴的な跳ねた毛は、間違いなく彼女のものであった。
「ごめん、結構待ったでしょ?美渡姉の注意が長くて…」
「ううん、ここ来るの初めてだったから、いろいろ見れて逆に楽しかったよ。じゃあ、例の区画に行きましょう?」
「トゥット」を待ち合わせ場所に選んだのは、この施設が第2商業区画の端に位置するからで、区画境界を挟んだ先に第3公園区画があり、その先に例の森林区画が存在するからであった。梨子は「内浦の全長は…確か25kmだっけ?それを5分しているわけだから、5km歩くのね…」と頭の中で出した計算結果に少し憂鬱な気分を覚えながら、千歌と共に第2公園区画へと歩みだした。しかし、そのブルーな気持ちも、第2公園区画に入るまでの心情であった。その区画に入った瞬間、「すごい…」と思わず声を上げた。そこに広がるのは、まさに大自然。コロニー内だから、人工的に造られた自然ではあるが、映像で見る地球の自然がそのまま現実になったようだった。木々がそびえ立ち、鳥や虫の鳴き声が響く。どこからか、小川のせせらぎも聞こえるような気がする。観光地たる所以を見せつけられ、圧倒された。
「ね?すごいでしょ?ここは、内浦の中でも一番のおすすめスポットなのだ!」
千歌は、言葉を失った梨子の様子を見て、誇らしげに胸を張る。内浦のような自然に重きを置く建造思想を持って造られたコロニーを除けば、ほとんどのコロニーがその土地の全てを住宅や工場、農業、商業施設といった物に割り当てている。それは、巨額な建設費を要するコロニーの土地を効率的かつ合理的に使うための配置であるが、自然が人間にもたらす心のゆとり、安らぎを犠牲にしているとも言える。やはり、人は自然の中でしか豊かな生活を送れないんだ、と感慨に浸りながら、梨子は眼下に広がる雄大な自然を満喫した。作曲が趣味である彼女には、この大自然がメロディーの宝庫にも思えた。そんな自然の音と景色に見惚れている内に、彼女たちは区画の端へと到達した。
公開されている地図を見ると、確かに「森林区画」とだけ書かれている。境界線の先に森林が広がっているのは確かだが、本来の区画分類に当てはめれば、公園区画に設定されるはずだ。しかし、この森林区画はそもそも訪れる人々を迎える道すら存在しない。そして、土地が限られているコロニーでは重要であるはずの利用用途がどこにも記載されていないのは、明らかに不自然である。梨子もその点は認めざるをえなかった。
「確かに不自然なことは不自然ね。宇宙人がいるかどうかはともかく、何かありそうなのは間違いないわ」
好奇心と共に、不安も湧き上がる。確かに、区画の正体は気になるが、知ってしまったらとんでもないことになるかもしれない。第一、これほど噂になっているにも関わらず、誰もその正体について明瞭な回答が出てこないのである。口封じとまでは考えたくはなかったが、あり得ない話でもない、とも梨子は思い始めた。新駿河コロニー区域を管理しているのは、小原家。その小原家にとって、隠したい秘密がここにあるのだとすれば…。好奇心を囁く悪魔と、危険性を囁く天使が梨子の心中で競り合っていた。
「梨子ちゃん、何やってるの?置いてっちゃうよ!」
「え!?…千歌ちゃん、ちょっと待ってよー」
しかし、その競り合いも千歌の好奇心の前では、些末な出来事。ずんずんと草木をかき分けて、奥に進んでいく千歌を慌てて、追いかけるしかなかった。好奇心、或いは思考に沈み、注意を払っていなかったせいか、本来ならば彼女たちを止めるはずの「この先立ち入り禁止」の文字が二人の目に入ることはなかった。
この森林区画は何かがおかしい。入った瞬間に、二人はそう感じた。公園区の森と違い、整備がされていない自然そのままの風景がそこにはあった。自然そのままというと聞こえはいいが、勝手気ままに育った植物によって、コロニーの大地を照らすはずの人工太陽光が遮られた薄暗い森は、入った者に不気味な印象を与えた。しかし、この場、少なくとも千歌にとっては好奇心が勝った。「念のため持ってきておいてよかったね」と千歌がリュックから懐中電灯を取り出し、薄暗い森を照らしながら進んでいく。謎の正体を突き止めるか、或いは帰らなくてはいけない時間に達するまで、退くつもりはない。そのことを察した梨子は、千歌についていくしかなかった。
「…まるで何かを隠しているみたいね…」
森の中を歩きながら、こぼした一言の感想。梨子は思わず口に出してしまったことを後悔した。彼女にとっては不安を意味する感想だが、千歌にとっては好奇心に火を付けるものとなってしまう。実際、「隠している」と聞いた千歌は、その秘密への探求心が高まったのか、進むスピードが速くなった。「歩きやすい靴で来てよかった…」と安堵しながら、梨子はその背中を追いかける。木の根やら石やらで、デコボコした地面は、少しでも気を抜くと、転んでしまいそうだった。しかし、こんな薄暗い森の真ん中で迷子になりたくはなかった。位置情報システムで帰ることはできるかもしれないが、その前に精神が病んでしまいそう。森はそんな陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
「梨子ちゃん!」
地面に埋まる根に気を付けながら、歩いていた梨子は、千歌の呼びかけを聞き、前を向いた。そこには、灰色の建物がいくつか見えた。装飾がなく味気ない建物の外装は、研究施設や政府の秘密施設を連想させる。数個ある建物全てに、窓が存在しないのも不気味であった。噂話だの都市伝説だのと笑い飛ばしていたが、いざこうして実物を見てしまうと、とんでもない過ちを犯してしまったのではないか、という不安が風船のように膨張していく。森林区画に入る前から一抹の不安を抱えていた梨子だけでなく、好奇心に満ち溢れていたはずの千歌にも不安の表情が浮かんでいた。しばし二人の間に沈黙が流れ、そして結論が出た。
「…うん、梨子ちゃん。私たちは何も見ていないんだ。帰ろう」
何かを悟ったかのように千歌が帰り道を指さす。何も見なかったことにして、帰るという提案であったが、梨子はこれを受諾することができなかった。
「千歌ちゃん…後ろ…」
そこには、黒いスーツを着た大男が立っていた。彼は観察するような目で二人を見ると、「間違いありません。高海千歌と桜内梨子です」と電話の先の誰かに報告をした。有名人でもないのに、名前が知られている。二人の心は恐怖でいっぱいだった。身元を知られてしまったら、もう逃げることができない。フィクションであるような「お前は知りすぎた」みたいな展開が頭を過る。最悪の想像に震える二人に、大男は持っていた電話を差し出した。この電話で施設の管理者と話せ、ということなのだろうか。想像の余韻で僅かに震える手を抑えながら、千歌は電話を受け取った。
「…タカミ チカとサクラウチ リコね。申し訳ないけれど、秘密を知ってしまった落とし前、きっちりと付けてもらいマース」
聞こえてきた声は、二人の想像よりも遥かに若く、高い声色だった。自分たちと同じくらいの歳だろうか。だとすれば、地位と年齢が釣り合っていない。想像したような低い男の声でなかったことに二人は安心を感じたが、それは雀の涙程の微かなものであった。彼女が言う「落とし前」、一体自分たちは何をさせられるのだろうか。変な噂と妙な好奇心に釣られて、とんでもない領域に足を踏み入れてしまった。二人はそう感じずにはいられなかった。