ランスの孫。ウィルの忘却編   作:神崎風水

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11話 準決勝、進化する者たち

 

 

―ネイルの待機室―

 

 

『それまで! 勝者、ランス選手!!』

「あっ、んっ!……あ~、負けたね。アニキ」

 

魔法ビジョンでランスの勝利を聞くと、ウィルの上で動いていたソウルが軽くイキ、動きを止める。

そして、自分と同じように指示の元、負けたバウンドの状況を眺める。

ヤリながら、戦いを見ていた二人。

どっちかにしろよと言いたいが、ソウルにしたら時間が勿体無いと魔法ビジョンつけながら同時進行してた。

 

「っ! ふぅ~……すまないな。二人ともわざと負けさせて」

 

ソウルのその締め付けを堪え、画面を眺めるソウルの髪を撫でる。

 

「ん~♪ いいよ。あたしに出来る事だったら、可能な限り聞くもん」

「可能な限り聞くか……いい答えだ」

 

髪を撫でなれ、目を閉じ気持ちよさそうにする。

そして、ウィルの言うことを出来る範囲で叶えると答える。

その言葉に満足げになると、髪を撫でる手を頬に当てて再び撫でる。

 

「もっちろん! 昔、ウィル兄ぃに教えられたもん。『なんでも(・・・・)言うこと聞く』って、絶対に言うなって」

 

森で教わった事を、思い出すかのように笑顔で答える。

何かをお願いする時によく言う言葉「なんでも言う事を聞く」とは、この世界において、その身を奴隷に落とす言葉。

なんでも(・・・・)とは有り金を出したり、殺されようが犯されようが構わないという事。

言われて「それは、ちょっと。他の事で」などは通用しない、奴隷宣言した時点で文句が言えないからだ。

その事を、安易に言う二人にキツく何度か言って言い聞かせたのだ。

盗賊に助けられ恩を感じても、バウンドがライハルトの言葉に従わず、ソウルが自由に部屋で過ごしてたのもソレにあたる。

恩は感じても、生きる為に殺しはするが、自分の意にそぐわない場合は断りを入れると宣言していた。

目上の者の言うこと何でも聞く「イエス・マン」ではなく、意思を持って行動する考えるよう言い聞かせた。

 

今、ソウルがウィルの待機部屋にいるのは。

 

「負けるの? おっけ~♪ 代わりに抱いてね」

「どうやって負けるんです? 何故、どういう理由か詳しく説明してくださいや」

 

ソウルは安易に了承と褒美を求めた。

バウンドは負けることに反論し、負ける方法と理由を求めた。

バウンドは少女たちに応援されてるのに負けるのがイヤだと思うのと、負ける納得できる理由を求めた。

この対等であり従事する関係が、ウィルとレス兄妹の関係と付き合い方だ。

 

「……あれ? ちょ、兄ぃ。次、試合だよね? もぉー! 中途半端だよぅ~」

 

舞台からランスと担架でバウンドが退場して、次の試合はウィル。

そのことを思いだし、視線を戻して両肩を鷲づかみし、このもどかしいまま止められる残念がる。

 

「あははは、画面見てみろ。ランスアタックで舞台にクレーターが出来ている。修復に1時間はかかるから、問題ない」

「なんだ、よかった~……あっ! だから? アニキにギリギリまで粘って、必殺技を食らえって言ったんだ!」

 

表情と全身で、悔しさと残念さをかもし出しホッペを膨らませるソウル。

それを見て、思わずウィルが楽しそうに笑う。

そして、今の状態を続けられることを説明し、肩をつかむ手を軽く叩く。

手を叩かれて、やっと肩をつかむ手にかなりの力が入ってる事に気づきながら安堵する。

そして、バウンドの負けに反感する理由を聞いた際、少女たちが納得するような流れを説明した事を思い出す。

 

「お~、正解だ。褒美やると言って、お預けはイヤだろう?」

「うんっ♪ んじゃ、続き~~♪ あんっ!」

 

中々賢くなったものだと褒め、肩を強く掴まれたお返しに胸を揉み返す。

触られ感じながら、褒められた事に喜びつつ上体を再度起こし再開した。

その後、残り時間みっちり楽しませ、おかげで試合時間に遅刻したりする。

 

 

―準決勝、第一試合―

 

 

入場の合図に3分も反応なく、送れて門を潜り出たところに、これまたタイミングよく雷がウィルに落ちた。

もちろん、メルフェイスが放ったメタル・ラインである。

 

『――さあ、お待たせしました。試合開始前のネイル選手が遅刻して、雷が落ちるというアクシデントが起きましたが、まもなく試合開始です。Aブロック、顔と運だけと思いきや、鋭い爪と牙を隠していた、ネイル選手 VS Bブロック、華麗な動きと、思いもよらない方法で準決勝に勝ち進んだ、チルディ選手。どちらが勝利を収めるのでしょうか!!』

「あなた……ふざけてますの? いくら時間が空いたからと、試合に遅刻するなんて……もしかして、わたくしを苛立たせるおつもり?」

「誠に申し訳ない。待機部屋で、ツイ野暮用に夢中になってしまい。怒らせるつもりはありませんよ」

(ナニしてたのかしら?……それに、カミナリが落ちたことは突っ込まないのね……てか、なんで平然としてるの?)

 

二度目に落ちた雷には、なぜか誰もがスルー。

普通心配するものだが、二回戦の時も直ぐに立ち上がったし前のボーダー戦の実力を知って「ま、大丈夫だろう」と、納得された。

それに、カミナリに打たれたネイルが、今度は3秒経たないうちに立ち上がり舞台に向かったため。

観客はネイルが何かのデモンストレーションをしたのか? と思ったのもあるだろう。

 

『それでは、準決勝。始め!!』

「……あら、刀を最初から抜くのですね」

 

パニィの開始合図を聞くと、ゆっくり刀を抜き構える。

チルディもレイピアを構えるのだが、ウィルが抜いたことに意外といった顔をして問いかける。

ボーダーとの試合で全力ではないにしろ、この大会で最上位の試合を見せてしまった。

目の前の女性はウィルにとって、口から手が出るほど欲しい技能の持ち主。

前の試合で実力は示したが、どう戦えば自分に興味を抱いてくれるか考えていた。

 

「さて……ん? ええ、もう幸運男では、通りませんので。それに、貴女にはコレは(指弾は)無駄でしょう」

「っ!? もちろんですわ。そんなモノ(・・)に当たりません!」

(あれ? 今、何か飛ばした?)

 

構えを解き、刀を持った左手と無手な右手を左右に下げ下ろし、戦闘態勢を解除したことを表す。

そして、しゃべりながら右手で指弾をチルディの耳に向かって放つ。

自分に迫る気弾が見えるので、顔を横に反らして回避する。

パニィは二人のやり取りを見ながら、髪をかすめる何かを見る。

そして、一回戦と二回戦の推測が正しいと確信する。

 

「わたくしは……貴方に勝てるとは思ってません。ですが! ただでは、負けませんわよ!!」

「望むところです!(こりゃー、癇癪みたいなもんか? 気が済むまで攻めさせるか)」

『最初に仕掛けたのはチルディ選手だ! 連続攻撃を浴びせ、それをネイル選手が受け流してるぞ!』

 

チルディは前の試合を見て、自分との実力差を思い知っていた。

過去の映像を見ていたが、ボーダーとは思えない力強さと破壊力。

それを、いとも簡単に受け流し、ネイルが最後にはあの大きな武器をも切り裂いた。

そんな斬撃をレイピアで受けたら折れるのは必須、攻撃される前に攻めるべきと連続で斬りつける。

少しでも、目の前の男の受け流す技術をモノにできるようにと。

小柄な体を活かした縦横無尽な攻撃を受け流しながら、チルディの気合を見て対応を決める。

 

 

―実況席―

 

 

チルディの猛攻に、観客も歓声が沸き起こる。

先の試合ではボーダーの剛剣を受け流し、今回はチルディの動きにあわせる様に受け流している。

チルディは攻めてるつもりだが、外野の視点の観客から見ると二人が剣の舞を踊ってるように見える。

その猛攻を見ながら、実況席のシュリが今回の特別ゲストに試合模様を問いかける。

 

「この試合。先の試合と比べてどうでしょう? チルディ選手も舞う様に攻めて、中々に見えますけど」

「傍目にはそうで見えますね。けど……コレは試合と言うより、剣の指導ですね」

「指導ですか?」

 

シュリの言葉にゲストが試合の状況を答え、それを聞いて首をかしげる。

前回同様綺麗に受け流しているが、今回、稀に身のこなしだけで躱しチルディがそれに合わせて動いている。

ボーダーは形相に必死さで一杯で、ただ強引に攻めてるだけに見えた。

しかし、チルディも必死に攻撃してるが、その動きが見事で可憐に綺麗。

一見、いい勝負にも見える。

ただ、ネイルは一切の攻撃してないところは一緒だが。

 

「ネイル選手とボーダー選手の実力差は当然として、チルディ選手はソレよりも低い。決着をつけようとせず動きを誘導してますね。アレは、チルディ選手の攻撃にどういった回避、防ぐことが出来るか示してるようです」

「は、はぁ……コレ、試合なんですけど。どうして、決着つけないのでしょうか?」

 

ゲストはボーダーの実力は僅差に感じた。

だが、チルディの実力はそれよりはるかに低い、そのことを指摘する。

使ってる獲物、刀と短剣との武器の違いがある。

それでも、可能な限りどんな方法があるのか示し、動きをも誘導している事を説明する。

ゲストの言葉に一層首をかしげるシュリ。

一回戦ならまだしも、次の決勝までに体を休める時間は少ない。

早めに勝敗を決めて、体力を温存して置くものでは? と考える。

 

「チルディ選手は少しづつ動きが、鋭く研磨されて動きが最適化してます。この試合の中で成長をしています。それが、楽しいのでしょう……。(ウィル選手(・・・・・)は、強い女性が好きと聞く。成長するのが好ましいのでしょうね)」

 

困惑するシュリに、ネイル選手がチルディ選手に指導している理由を現状と予測を述べる。

言われてよく見ると、確かに疲労が見えてきたチルディだが、動きにキレが増したように見えなくもない。

シュリが視線を戻し、ゲストも試合を見ながらVIPルームで聞いたウィルの性格を思い浮かべる。

そして、刀を振るうウィルの姿が楽しそうなのを感じ取る。

あの感じは、自身がレイラ等の強者と戦うに感じる気配に誇示していると。

 

 

―舞台上―

 

 

「せぇぇいっ! やあぁっ!……っ、はぁ、はぁ(わたくしの考えを読まれてる? これは剣と躰の動きの指導。動きまで誘導されて……?!……つっ!!)」

「ん! ふ! いい攻撃です」

『すごい、本当に見事な攻撃の演舞! 一体いつまでこの猛攻が続くのでしょうか?!(これ、指導よね? しかも、短期間に動きが良くなってる。何に考えてるのかしら? それに、この動きどっかで……)』

 

今まで果敢に攻め、ウィルの動きと受け流しの技術を学習(・・)していた。

初めは自分の躰動きと剣技の向上、受け流しの技術をほぼ取得したと自負していた。

流石の連攻で息切れを起こし、冷静になり状況を思い返えす。

そして、チルディの目論見を読まれ、それを楽しそうにしているネイル選手の言葉と顔を見て流石に悔しさが沸き起こる。

一方、パニィもしっかり実況しながら現状を読み取る。

腕に覚えがあり、間近で見てるだけにチルディの動きの切れと早さに気づく。

楽しそうなネイルを見て、試合なのに何を考えてるのだろうと不審に思った。

 

「はぁ、はぁ、ふぅ、ふっ……もう、いいですわ」

「ん? 何がいいので?」

 

短剣を下げ構えを解き、動きを止めて一言言う。

同じように構えを解いて、動きを止めて問いかける。

短剣を握る手に力を入れて、今この場に立ってることに悔しさをかみ締める。

 

「何が目的かは知りません……けど、わたくしと戦えた(・・・)のだから、もう……よろしいでしょう?」

「!……何を言ってるので? 私にはさっぱり……」

『おーっとぉ? 両選手どうしたぁ! 構えを解いて、一時体力回復か?!』

(?……何の話してるの?)

 

悔しい表情でウィルに語りかけ、何かに気付き悟った様子。

その言葉に一瞬驚くも表面上は変化はなく、そのままとぼけようとする。

シュリの実況通り、先ほどまでの攻防から急に動きを止めるので、ブーイングに「早く続けろ」と野次が飛ぶ。

舞台で二人の会話が聞こえるパニィにとって、チルディの言葉は意味深で様子がおかしかった。

 

チルディは努力は惜しまない勤勉家であり、パラパラ杯の今までの試合を全て研究していた。

誰が対戦者になっても、何かしらの勝機見出せるように。

そのためウィルの全試合の不審点や、ソウルの動きやユラン戦の不審点とバウンドのランス戦も不審に思っていた。

そして、指導の基に誘導された動きが、ソウルの動きと酷似していることに気付く。

そこから、ウィル程の実力者が今まで実力を隠し勝ち上がって来たのなら、ボーダーの様に師弟関係でありレス兄妹に負けるように裏で指示してたと推測する。

更に、理解を超える力を持ったアッシュに対し、対策を考えてる時に部屋の前に有った『みどり14.才』が目の前の男が裏で用意したものと確信する。

つまり、今準決勝はこの男によって立たされた事であり、しかも勝敗を置いて剣の指導してるのと判断した。

 

「――と、言うことですわね? これ以上、貴方の手上で踊るのは真っ平ですわ」

(うわ~、すごい……私以外に気付く人が居たのね)

 

野次や文句が飛ぶ中、チルディが見て感じ考えた事を話す。

やはり、公に出す内容ではないのではぐらかして話すが、パニィには理解できたようだ。

舞台で見ていたからこそわかったが、魔法ビィジョン越しに見て気付いたチルディに驚く。

 

「……ふっ、ふはははっ! 良い、凄くいいぞ!!」

「な、なんですの? 気でも、おかしくなりましたの?」

 

チルディの推理を黙って聞いた後、大声で笑い出す。

不釣合いな笑い声と変貌ぶりを見て足を一歩下げ、肩を引いておかしなモノを見る目で警戒する。

事実を言われて壊れたかと、違う意味で困惑する。

ひとしきり笑い終えると、刀を鞘に収める。

そして、着物の左袖に手を入れて枷を(・・)一段階外す。

 

「いや、すばらしい推理だった、終わりにしよう。3発好きに斬って来るがいい、俺は一切手を出さない。その後、換わりに3回で、君を負かせてやる」

「!……ふざけっ……!!(違う、本気ですわね。しかも、この妙な威圧感は何ですのっ?!)」

『しょ、勝利宣言です! ネイル選手。3回無防備に斬らせ、お返しに3回斬って、勝利すると言い出しました!』

 

気配を抑えながら両腕を組み、上から目線でとんでもないふざけたこと宣言した。

その態度と言葉に腹を立て怒鳴るが、変わらない態度とよくわからない圧力を感じ、前にでれず押し黙る。

見た目にも特に変わった様子はないが、ナニが違うと気圧される。

状況が理解できない観客にわかるよう、パニィが簡潔に勝利宣言と実況する。

それを聞いた観客から驚きの歓声が沸き起こり、そんなのが可能なのかと疑問の声も上がる。

 

 

―はの5番VIPルーム―

 

 

『しょ、勝利宣言です! ネイル選手。3回無防備に斬らせ、お返しに3回斬って、勝利すると言い出しました!』

「っ!? そ、ん、な……ありえない……」

「どうかしたの? 日光さん」

(おおぅ、これは凄い。なるほどの~)

 

ウィルが会場で左袖に手を入れたところを見てた一同。

見ている事実が信じられないと日光は目を見開き、口に手を当て驚いていた。

その滅多にお目にかかれない動揺振りに、美樹が心配そうに声をかける。

一方、魔樹はウィルに起きた変化を見抜き左腕にあるモノに興味を引く。

 

「あ~、こんな公の場でアレをやる気? はぁ、馬鹿ね……」

「ふぅ、ですね。何がそんなに嬉しかったのやら」

 

一方、パニィの解説にドロシーとメルフェイスはウィルの目的を理解する。

一般に知られてはならないことを普通は気付けないにしても、その行為自体が異常なのにと。

二人してため息ついて、チルディにご執心な馬鹿に呆れる。

 

 

―実況席―

 

 

シュリは観客の気持ちをそのまま伝えた実況をする。

 

『本気でしょうか! 武器を収め腕組をするネイル選手。無防備に立ったままだで、チルディ選手を待ち構えてるぞ!』

 

大会始まって以来の異常事態に、観客もシュリのテンションも跳ね上がる。

相手に好きに斬らせるなど負けるようなもの。

それなのに、攻撃を耐えて同じ攻撃回数で勝利など一般的にありえない。

信じられない気持ちで、隣のゲストに問いかける。

 

「あの~、あんな事言ってますが、可能なのでしょうか?」

「……(なんだ、この震え……何が起きてる?)! あ、いえ、どうでしょう。可能……なのかもしれませんね」

 

シュリが顔色を伺うと、ゲストは軽く震える腕の様子に意識を集中させていた。

ウィルを見ていると何故か体が震え、恐怖は無いし特に変化は見えない。

ただ、武者震いのように腕や体が震えるのだった。

 

 

―舞台上―

 

 

未だに動かない二人。

このまま睨み合っても仕方ないと動きを見せる。

 

「……(このままいても、仕方ありませんわね。)」

「ほら、来いよ。3回まで何もしなんだからな」

「やあぁぁ!!」

『チルディ選手! いったー!!』

 

ウィルの言葉を引き金に、チルディが動きシュリが叫ぶ。

剣先を横にねかせ、真っ直ぐ水平にして突撃する。

間合い一歩前で前に跳び、勢いと全体重を乗せた突きを胸に向けて突き刺した。

 

「ん! いい攻撃だ」

「!(進まない!?)いやああぁっ!!」

 

確かにウィルの胸に剣先は刺さり着物と肉に食い込んだ感触はある。

だが、肋骨に当たった感触がないのに剣がこれ以上先に進まなかった。

力を入れても刺さらないので、困惑しつつも今度は体を回転して遠心力で首に斬りかかる。

 

「んっ! ほう、流動力の使い方が上手い」

「!! そんなっ! 嘘ですわ! うああぁぁっ!!」

 

首に短剣を斬りつけられながら、勢い・体重力・遠心力と、小柄と女性の力の無さを補う戦い方を褒める。

着物の下に何かを着込んでいたのかと首を狙ったが、確かに首筋に食い込んでいてもそれ以上進まない。

その事実に目を見開き、叫びながら今度は力任せに上段から肩から腰に向けて振り下ろす。

その斬撃は見事に着物を切り裂き、胸や腹の肉を切り裂く。

ただ、切り裂いてはいるものの、血が溢れずにじみ出る程度のキズしかついてない。

 

チルディは冷静さを失ない、今度は左脇を斬ろうと短剣を振るう。

 

「とっ! 4回は無しだ」

「!? こ、のぉっ! 放せ!」

『ありえません! 突き・首切り・斬り下ろしの3撃をそのまま受け。4撃目を指で挟み止めたゾォっ!!』

「う、嘘でしょう」

 

ウィルは脇に迫る攻撃を指でレイピアの刃先を掴み、チルディはそれを力任せに振りほどこうとするも微動だにしない。

今まで物腰が柔らかい淑女だったが、今はそんな風には見えず言葉使いも荒々しい。

シュリの実況に観客も同感と思える状態。

皆、驚きながらも歓声が沸き起こる。

パニィも目の前で起きたことが信じられない。

確かに着物を斬り、首や着物から血がにじみ出てる。

なのに、ウィルは平然として、刃を指で止めると言う神業をやっている。

皆が驚く中ウィルが指を離すと、チルディは振りほどこうとする勢いで後ろに倒れこむ。

起き上がるのを確認すると、刀を抜いて構え。

 

「んじゃ、行くぞ! (妙技、手加減)剣舞斬!!」

「っ!!……」

 

目に見えない3回の斬撃を峰打ちで浴びせる。

同時に走る痛みに意識を失い、チルディが倒れこむ。

その際に、しっかり抱きとめパニィに気絶してる事を確認させた。

 

『チルディ選手戦闘不能! 勝者ネイル選手!!』

 

パニィの宣言と同時に沸き起こる歓声。

コロシアム始まって以来の異例の勝利に、観客も盛り上がった。

 

その後、直ぐに来たドクターと一緒に、ウィルはチルディを抱えて退場する。

もちろん、パニィには治療するためドクターと一緒に連れて行くと言うが、向かう先はウィルの控え室。

ドクターはそのまま一緒に待機室の前を通過して、医務室に向かうだろう。

 

 

―準決勝、第二試合―

 

 

『さあ! まもなく準決勝第二試合の開始です』

 

 

舞台の上には既に二人の選手が入場入りをはたしていた。

シュリの実況にランスは相変わらずリラックスしており、剣を肩に担いでいる。

一方、ユランの方は顔が真剣で決勝のような意気込みにも見える。

 

『チャンピオン、ユラン選手 VS 初登場、豪剣の使い手ランス選手。どちらが決勝に勝ち進むのでしょうか!』

「がははは! 約束忘れてないだろうな。覚悟しろよ」

「ああ、覚えてるよ。あんたには負けられないからね。それに……」

 

シュリの実況が進む中、ランスは勝利すること当然だと褒美の確認をする。

ユランもしっかり約束の事を了承していると答え、こちらも勝利を掴むべき真剣に合図を待つ。

何かを言おうとしたのだが途中で黙り、剣を抜き構える。

それを見て、パニィが試合開始の合図をする。

 

『では、準決勝二回戦、始め!!』

「おぉ、りゃあぁ!!」

「っ! はあぁ!!」

 

試合開始と同時にランスが飛び上がり斬りかかるりそれを、素早く躱し反撃をする。

何度もランスが斬りかかるが、ユランはそれを確実に躱し手数を多く斬りかかる。

豪剣のランスの攻撃を受け止めたら駄目だと、十分理解している様子。

準々決勝から、今大会の攻防レベルは逸脱しており観客の熱の入りもいつも以上だ。

 

「だぁぁ!! 避けるな! 当たれ! 早く負けろ!」

「無茶言うね! 負けたら私の貞操どうしてくれる!」

(……痴話げんかに聞こえるのに、攻防だけは激しすぎるのよね~)

 

ユランの斬撃を盾と剣で防ぎ火花が散り、ランスの攻撃を避け舞台の石板にヒビが入る。

高いレベルの攻防がいつまでも続くと思われ、それを見る観客は興奮する。

ランスの攻撃を回避した際に反撃をせずに、今回は距離を取り集中力を高めに入る。

 

「ちぃ! 駄目だね、ジリ貧だよ。やってみるかい……」

「うがぁ! 避けるのが上手い奴だ!……ん?」

 

自分の攻撃は簡単に防がれ回避される。

こちらは軽く息が上がっているのに対し、ランスにその気配はなく逆に勢いがましてきていた。

そこで、試合前に覚えた技を試してみようと気を高める。

避けられ苛立ち文句を言ってたランスだが、ユランの様子を気の高まりを感じて警戒する。

 

「この躰は、正に夢幻の如し……この動きは幻夢……幻夢舞踏!」

「なんだ? うごおおぉぉ!!」

『おーっと? 今回初! ユラン選手の攻撃にランス選手が押されたぞ!!』

(え? どういうこと? 変よ!)

 

 

ユランが言霊を言い終えると、一気にランスに詰め寄り斬りかかる。

珍しくユランから攻めてきたので、何事かと思って攻撃を受け止めるが想像以上の力に押され後退する。

初めての展開に、シュリの解説に力が入りファンも熱を上げて歓声を飛ばず。

パニィはいち早くユランの状態の異変に気付き驚く。

ありえないことが起こっていたのだ。

 

「はっ! やっ! せぇぇいっ!!」

「んぐ! んぎ! んがぁ!!(何で、こいつが使えて(・・・)るんだぁ!!)」

『ん?……あれ? 気のせい? じゃない!! ユラン選手が3人に霞んで見えるのは気のせいじゃない! どういうことだぁ!!』

 

ユランの攻撃にランスが防戦一方で、内心で気を扱える事に驚いていた。

動きは読み取り難く捕らえにくいが、ユランの攻撃は気の力で強いが幻夢のように変化なく単調で読みやすい。

そして、反撃をするのだが簡単に回避、ではなく攻撃がすり抜けるのだ。

明らかに気を用意ての必殺技だが『幻夢剣』以外聞いてない。

それにユランが霞み3人に見えて、狙いが定まらないのだ。

それを、シュリや観客も気付いて声を上げる。

 

「いいねー。体が軽いし、力がみなぎる! 最高の気分だよ!」

 

ユランは『幻夢舞踏』の効果で気が体に満ちて、普段以上に動け戦える事に興奮し奮闘する。

先ほどまで、確実にランスのが実力が上で劣勢だった。

しかし、今はどうだ目の前の男を力でも押し、攻めるられる機会が少ない。

立場が逆転して、いつものチャンピオンとしての自分がいる。

 

「ちっ、さっきの試合同じで、面倒……! あの、やろう!!」

 

一方、ランスは久しく長い闘気法を運用しながら、バウンド戦を思い出す。

大抵、気を使えば一撃で勝利する事ができる。

しかし、今は継続して使い防戦一方だ。

この状況が先の試合の延長で、ユランの言葉を思い出し助言をした相手にあたりをつける。

その一瞬の隙をつかれ、バスターソードを弾かれる。

 

「! しまっ!?」

「もらったー!!」

 

剣を弾かれ体勢を崩し、目で追ってしまう。

チャンスとばかりに迫るユランに、無防備状態のランスは絶対絶命に陥る。

 

「(やばい、どうする! 目標定まらんし、剣もないっ!?)電磁結界!」

「ぎぃやあぁぁあががが!!」

『なんとー!? ランス選手剣を弾かれ、窮地を魔法で撃退した?! 戦士ではなかったのかぁ!!』

 

一瞬の思考の中、使える切り札の一枚をきる。

体勢を崩して回避は難しく、3人に霞むユランに攻撃は当たらない。

そこで、広範囲の電磁結界を無詠唱で放ち窮地を脱出する。

まともに魔法を食らい、ユランは悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。

シュリの解説には、皆も驚きを隠せない事実を語っている。

 

「はっ、っと。あぶねー。んぅ?(無詠唱だから威力ねぇな。あのレベルの魔法つかって、疲れる筈が問題ないぞ?)」

 

直ぐにその場を離れ、転がってる剣を取りに向かい手に掴む。

滅多に使わない切り札である魔法を使い、魔力の消費で体力の低下を心配したが問題が無い。

それは、城で見つけた黒いビンの魔力総量増加のおかげだった。

 

「アレか。くそ、またアイツお陰かよ」

「……ぐ、や、やられたね。まさか魔法を使えるなんて(不味いね、痺れて幻夢舞踏が発揮できそうにない)」

 

互いに状態と状況を確認し、互いの出方を伺う。

ユランの状態はきびしく、足に痺れが残り『幻夢舞踏』を使える状態ではない。

どうしたものかと考えてると、簡単なところで答えが出る。

 

「く……(馬鹿だね、あるじゃないか。私の必殺技が)どうした? こないのかい?」

「ちっ、いいだろう。一気にいってやる!」

 

ユランは何時もの自分を思い出し、剣を持たない手で手招きして挑発する。

脚の微々たる振えを見て『電磁結界』の効果で足にキテると判断し、ユランの挑発に乗って一気に距離を詰める

 

「うぉりゃ! くらいやがれぇ!」

「(ああ、あんたの言うとおり、ランスのが強かったよ。けど、だからこそ私が勝てる!)軌道、正に夢幻の如し……」

 

迫りくるランスに幻夢剣の軌道を描き、必殺の剣を放ちにかかる。

単体の上位者に対して、3倍の攻撃力を誇る必殺技を。

しかし、ランスはその軌道を見て内心あざ笑う。

 

(がははは、来たか。そんなものは効かん)

「くらいな、幻夢剣!!」

 

間合いに入ると「幻夢剣」放つが、ランスの鎧に当たると滑り軌道が反れる。

ユランは勝利を確信していたのに、何故剣が滑ったのか困惑する。

そして、雷撃魔法で脚の痺れと『幻夢舞踏』と『幻夢剣』の疲労で膝を付く。

一試合に一回しか使わない『幻夢剣』と使い慣れない初の『幻夢舞踏』の使用で疲労した為だ。

『幻夢剣』が滑った理由は、ランスがメイドから聞いた対処方法を今朝、ウィルにもらったヒララレモンを鎧に塗りたくった為。

 

「くっ、そんな! どうして!?」

 

混乱と悔しさを叫び膝を突いた状態でランスを見上げると、止めと言わんばかりに跳び上がっていた。

 

「がはははは! 今度はコッチの番だ。ランスアタァック!!」

「っ!? (直撃と衝撃波から逃げないと!)」

 

ランスアタックは前の試合で見ている、それに彼から聞いていたので技の性質も出来る。

痺れる足に鞭打って、慌ててその場から後ろに跳び退く。

その時、言われてた言葉の一つが頭に思い起こされる。

 

《ランスを甘く見るな。アンタと違い手札が多い。一つしか持たないアンタじゃ、勝てんよ》

 

試合前に言われた忠告だが、それは『電磁結界』だったろうと逃げながら思う。

しかし、それは次の瞬間勘違いと思い知らされる。

 

「っと! 見せかけて、ランススラッシュ!!」

「! なんだって?! きゃあぁぁ!!!」

 

剣を振り下ろしすかと思いきや、そのまま着地し剣を振り上げ叫ぶ。

『ランススラッシュ』は斬撃を飛ばす必殺技で、逃げ飛び退くユランに向かい飛んでいく。

その直撃を食らい、ユランの鎧は弾け飛び、そのまま場外まで飛ばされ壁に背中を打ち付ける。

なんとか意識は保っているが、体を動かすことも出来ず場外負け。

そして、ランスの手札が魔法ともう一つあり、それが一瞬警告として思い出せたのにと、ため息をつく。

 

『……じょ、じょじょ。場外!!勝者、ランス選手!!』

 

ユランが場外に飛ばされても、会場は目の前で起きた事が信じられない。

コロシアムの覇者であるユランが、今まで見せたこと無い力を魅せ戦っていたのだ。

それが、今場外で力なく壁にもたれている。

それに、ランスアタックの弱点は皆もなんとなく理解でき、回避できてまだチャンスはあると誰もが思っていた。

しかし、ランスアタックではなく、ランススラッシュでユランを場外に追いやり勝利したのだ。

ユランが負けたことを、少しの間と共にシュリが宣言する。

コロシアムの覇者であったユランを倒したランスに対し、新しいチャンピオン登場と観客の歓声が今まで以上に沸き起こる。

もちろん、ユランのファンからは、負けたことに嘆きの声が多く聞こえてきた。

 

「――ほい、チャンピ「違うよ」ほっほっほ。ユラン選手、薬じゃ」

「ん? ああ、そうか。ありがとう頂くよ」

 

舞台で剣を掲げ、歓声に答えるランスを眺めるユランにドクターが歩み寄る。

そして、チャンピオンと呼ぶのを遮られながら、3本預かった薬の最後の一本をユランに手渡す。

差し出された薬を見て、直ぐにソレが彼からの手配と理解する。

この怪我の状態でランスの相手をしたら体を壊しそうなもの。

一気に薬を飲み干すと、痺れた足や打ちつけた背中にキズがどんどん癒えるのを感じる。

 

「すごいね、コレは。ほぼ完治じゃないか」

「そりゃそうじゃろ。アヤツの薬はそこらのモンと別格じゃ」

 

手を握り締め、状態を確認するユラン。

ドクターはそれが当然だと、今まで二人の回復を見て当然と理解している。

そこに、歓声と祝福の声を受けながらランスが二人の元にやってきた。

 

「がはははは! 勝ったぞ! 約束通り、待機部屋で早速ヤるぞ!!」

「ぷっ……ははは。ホントにその事ばかりだね。いいよ、約束さ。好きにすればいい」

「ほっほっほ。それじゃ、爺はお暇するかの~」

 

大笑いするランスに呆れながら立ち上がり、軽く笑い約束を果たそうとする。

ドクターはお先にその場を去り、ランスとユランも続いて入場口を潜り部屋に向かう。

 

そのままランスの待機部屋に着くと、時間が経つのを忘れてベットの上でランス(・・・)が主に楽しんだ。

 

 

 





    ≪技≫

   【幻夢舞踏】

ユランの制約系、身体幻夢強化術。

常に気を体に纏って、攻撃・防御・速度と強化される。
更に、ユランが3人にブレて見え攻撃が当たり難い。
ただ、攻撃は幻夢の効果がなく、普通の斬撃と変わらず防がれやすいが、威力は平時より高い。

ユランの言霊制約を進化させて、攻防速ともに高め一体多数戦闘を可能にするべき開発された。
コレにより、コロシアム意外でも負けなしになれるかもしれない。


  【ランススラッシュ】

ランスの遠距離放出爆発系の必殺技。

元ネタはOVA「砂漠のガーディアン」より。
アニメで剣を振り上げ緑色の斬撃波を飛ばし、盗賊をまとめて吹き飛ばしたモノを起用。
(記憶があいまいで、多分そうだったはず)

ランスの斬撃系の遠距離飛び道具必殺技。
威力はランスアタックより劣るも、逃げる敵にランスアタックとのコンビネーションに使うと効果発揮する。
回避行動中に食らえば効果大。
ランスアタック同様、着弾点から多数の敵にダメージを与えるが直撃以外は効果が薄い。
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