Fate/wizard of genesis   作:ゆーーーーん

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第10夜

翌日の穂群原学園は、どこか落ち着きがなかった。

 

 廊下の隅で保健委員が慌ただしく行き来し、教室では小声の噂話が絶えない。

 誰もがはっきりとは口にしないが、「昨夜」「怪我人」「原因不明」という言葉だけが断片的に漂っていた。

 

 遠坂凛は、その様子を黙って見ていた。

 

(……多すぎる)

 

 軽傷とはいえ、骨折、裂傷、原因不明の昏倒。

 しかも発生時間はほぼ同じ。

 場所も、学校周辺から港湾部にかけて偏っている。

 

 ――事故にしては、出来すぎている。

 

「死人はいない……か」

 

 それが唯一、救いだった。

 だが同時に、嫌な予感を強める材料でもある。

 

(殺すつもりがない、あるいは――殺せない何か)

 

 昼休み。

 凛は、弁当を持って席を立つ士郎に声をかけた。

 

「衛宮くん、放課後、時間ある?」

 

 士郎は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに頷く。

 

「あるけど……何かあったのか?」

 

「少し、付き合ってほしいことがあるの」

 

 その声は、いつもより低かった。

 

 

 夕方。

 校舎裏で合流した四人は、自然と無言になっていた。

 

 セイバーは周囲を警戒し、アラジンはどこか落ち着かない様子で宙を見つめている。

 

「魔力反応、かなり歪んでる」

 

 凛が告げる。

 

「ライダーの結界とは違う。

 もっと……感情に近い」

 

「感情?」

 

 士郎が眉をひそめる。

 

「怒りとか、悲しみとか。

 そういうのが、無理やり固められてる感じ」

 

 アラジンが、ぴくりと反応した。

 

「……それ、あんまり良くないね」

 

「キャスター?」

 

「うん。

 魔法じゃなくて“気持ち”が核になってるなら、

 たぶん――」

 

 そこで言葉を切る。

 

 魔力の流れを追って辿り着いたのは、港湾地区の外れ。

 使われなくなった古い倉庫群だった。

 

 空気が、重い。

 

 セイバーが小さく息を吸う。

 

「ここです」

 

 扉は、最初から開いていた。

 

 中に入った瞬間、士郎は直感的に感じてしまった。

 

(……ここは、だめだ)

 

 理由はわからない。

 ただ、胸の奥が冷える。

 

 倉庫の中央。

 背を向けた一人の男が立っていた。

 

 ゆっくりと、振り返る。

 

 その顔を見た瞬間――

 アラジンの思考が、完全に止まった。

 

「……え……?」

 

 声にならない。

 

 見覚えがありすぎる。

 忘れられるはずがない。

 

 けれど、同時に“違う”。

 

 瞳に宿る光が、暗い。

 優しさが、歪んで沈殿したような色。

 

 男は、明るかった。

 

 男は、優しかった。

 

 男は、愛されていた。

 

 男は、諦めなかった。

 

 ゆえに、運命を恨むことはないはずだった。

 

「――久しぶり」

 

 男は、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アリ……ババ、くん……?」

 

 呼んでしまった瞬間、

 世界が一段、冷えた。

 

 男は黒く暗く歪んだ鎧を身に纏い、アラジンが懐かしそうに話していたアリババという人物とは大きくかけ離れた雰囲気を纏っていた。

 

 士郎は、背筋を走る悪寒に耐えられなかった。

 この場に立つ誰もが、同じことを感じている。

 

 ――あってはならない存在。

 

 セイバーの手が、剣の柄にかかる。

 だが、抜けない。

 

 凛は、言葉を失ったまま、魔力の質を解析していた。

 

(……英霊、だけど……違う)

 

(これは――側面。

 しかも、最悪の)

 

 アラジンは、震える息で一歩前に出る。

 

「……どうして」

 

 問いは、かすれていた。

 

「どうして、君が、ここに……」

 

 男――アリババ・オルタは、無表情で語る。

 

「ある男に呼ばれた。

 家族を失い、世界に絶望した男に。

 男に力はない。

 だから、俺が代わりに――」

 

 あまりにも、穏やかな口調。

 

「俺にはわかる。

 守りたかった人たちが、傷ついた。

 仲間が泣いた。

 なのに、世界は何も変わらなかった」

 

 士郎は、歯を食いしばる。

 それは――自分も抱いてきた感情だ。

 

「だからさ」

 

 アリババ・オルタは、静かに言う。

 

「俺は運命を恨んだ」

 

 その瞬間。

 

 アラジンの中で、何かが決定的に崩れた。

 

 ――知らない。

 ――見たことがない。

 ――僕の知らないアリババくんがいる。

 

 凛が、かろうじて声を出す。

 

「……キャスター」

 

 アラジンは、振り返らなかった。

 

「それは……」

 

 言葉が、喉で詰まる。

 

 凛は、はっきり告げた。

 

「アリババであって、アリババじゃない。英霊の側面。」

 

 その言葉は、事実だった。

 

 だからこそ――

 残酷だった。

 

 倉庫の中に、沈黙が落ちる。

 

 誰も、次の一歩を踏み出せない。

 

 士郎は思った。

 

 ――闇に堕ちないと、信じていた。

 ――優しさは、壊れないと、思っていた。

 

 セイバーは、カムランの丘を思い出していた。

 「強き王」であろうとした自分と、

 「共に歩けなかった民」の姿を。

 

 凛は、理解してしまった。

 この存在が意味する“最悪”を。

 

 アラジンは、ただ立ち尽くしていた。

 

 凛はそのアラジンの表情を初めてみた。

 

 知恵があっても、

 世界の理を知っていても、

 どうにもならない“顔”を前にしたのは。

 

 アリババ・オルタは、静かに言った。

 

 「そうか、、、、堕天した俺をお前は知らないんだな。」

 

 その一言で、全員が悟った。

 

 ――これは、始まってしまった物語だ。

 

 逃げ道は、もうない。

 

 夜の倉庫に、希望はなかった。

 

 あったのはただ、

 取り返しのつかない“再会”だけだった。

 




アニメ版堕天アリババと原作アラジンの邂逅
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