Fate/wizard of genesis   作:ゆーーーーん

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第12夜

夜の森は、静まり返っていた。

 

木々の隙間から差し込む月明かりが、足元をかすかに照らしている。

 

アラジンは、少し離れた場所を歩く凛たちの後ろ姿を見つめていた。

 

その表情に、いつもの明るさはない。

 

アリババオルタとの戦い。そして、最後に彼を救うことができたという事実。

 

それでも、もう彼と話すことはできない。

 

一緒に過ごした時間も、交わした言葉も、今となっては思い出の中にしか残っていなかった。

 

「アラジン、大丈夫?」

 

凛が振り返る。

 

「うん。大丈夫だよ、凛さん」

 

そう答える声には、どこか力がなかった。

 

凛はそれ以上、何も言わなかった。

 

今のアラジンに何を言えばいいのか、彼女にも分からなかったからだ。

 

そのときだった。

 

――風が止まった。

 

木々の葉が揺れる音も、虫の声も聞こえない。

 

まるで森そのものが、何かを恐れて息を潜めているかのようだった。

 

「……止まって」

 

セイバーが静かに告げる。

 

その声に、凛も足を止めた。

 

「どうしたの、セイバー?」

 

「何かいます」

 

セイバーは森の奥へと視線を向ける。

 

凛も魔力の流れを探るように意識を集中させた。

 

「……魔力?」

 

微かだが、確かに感じる。

 

何かが近づいている。

 

その気配は、少しずつ、しかし確実に大きくなっていた。

 

「凛、下がって」

 

セイバーが剣を構える。

 

その瞬間、地面が小さく震えた。

 

一度。

 

そして、もう一度。

 

遠くから何かが歩いてくるような、重く鈍い振動。

 

木々の向こうに、巨大な影が揺れた。

 

凛の表情が強張る。

 

「まさか……」

 

次の瞬間、木々が大きく揺れた。

 

圧倒的な魔力と殺気が、森の静寂を押し潰す。

 

そして、その巨体が月明かりの下へと姿を現した。

 

「バーサーカー……!」

 

セイバーが剣を握り直す。

 

その隣には、小さな少女が立っていた。

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

彼女は、アラジンたちを見つめていた。

 

「イリヤ……!」

 

凛が警戒を強める。

 

イリヤは凛の反応を気にする様子もなく、周囲を見回した。

 

「おかしいな。確かに、ここから強い魔力を感じたんだけど」

 

彼女の視線が、アラジンへと向けられる。

 

「ねえ。ここにいたサーヴァントはどうしたの?」

 

アラジンは答えなかった。

 

イリヤは少しだけ目を細める。

 

「もういないみたいね。せっかく見に来たのに」

 

彼女はアリババオルタの魔力を追ってここまで来たのだろう。

 

しかし、探していたサーヴァントは、もうこの場にはいない。

 

「まあ、いいわ」

 

イリヤは小さく笑った。

 

「せっかく会えたんだもの。遊んでいきましょう?」

 

その言葉と同時に、バーサーカーが地面を蹴った。

 

「来ます!」

 

セイバーが叫ぶ。

 

巨大な斧剣が振り下ろされる。

 

セイバーはそれを受け止めた。

 

凄まじい衝撃が周囲に広がる。

 

「くっ……!」

 

セイバーの足元が大きく沈む。

 

「セイバー!」

 

凛が魔術を放つ。

 

アラジンも杖を構えようとした。

 

しかし、その瞬間だった。

 

バーサーカーの巨体が、セイバーへの攻撃を押し切るように動く。

 

その勢いのまま、近くにいたアラジンへと斧剣が振るわれた。

 

「アラジン!」

 

凛の声が響く。

 

アラジンは反応しようとした。

 

だが、身体が思うように動かない。

 

一瞬、脳裏に浮かんだのはアリババオルタの姿だった。

 

その一瞬の迷いが、致命的な隙を生んだ。

 

「ぐっ……!」

 

強烈な衝撃。

 

アラジンの身体は宙を舞い、木々をなぎ倒しながら遠くへと吹き飛ばされた。

 

「アラジン!!」

 

凛が叫ぶ。

 

しかし、彼女が駆け寄るよりも早く、バーサーカーが再びセイバーへと襲いかかった。

 

「凛! 今は彼を!」

 

セイバーが叫ぶ。

 

「でも、セイバー!」

 

「私は大丈夫です! 彼をお願いします!」

 

セイバーはバーサーカーの一撃を受け止めながら、凛に告げた。

 

凛は唇を噛みしめる。

 

目の前の敵は、セイバー一人で相手にするにはあまりにも強大だった。

 

それでも、アラジンをこのまま放っておくわけにはいかない。

 

「……分かった。無茶しないでよ!」

 

凛はアラジンが吹き飛ばされた方向へ走り出した。

 

その背中を見送ることなく、セイバーはバーサーカーへと向き直る。

 

「ここから先へは、行かせません!」

 

剣を構え、バーサーカーの前に立ちはだかる。

 

こうして、森の中には二人のサーヴァントだけが残された。

 

セイバーとバーサーカー。

 

その戦力差は、あまりにも明白だった。

 

⸻

 

セイバーは、迫り来る斧剣を受け止めた。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

そのたびに、身体に衝撃が走る。

 

バーサーカーの攻撃は重く、速い。

 

一撃を受け止めるだけでも、相当な魔力を消耗する。

 

それに対して、バーサーカーは止まらない。

 

「はあああっ!」

 

セイバーは反撃に転じる。

 

剣がバーサーカーの身体を切り裂く。

 

しかし、傷はすぐに再生していく。

 

「……やはり、容易には倒せませんか」

 

セイバーは息を整える。

 

かつて対峙したときと同じ。

 

いや、それ以上に厳しい戦いだった。

 

一人では、押し切ることができない。

 

アラジンの援護もない。

 

凛の魔術も届かない。

 

それでも、退くわけにはいかなかった。

 

自分がここで倒れれば、凛もアラジンも危険に晒される。

 

「まだです……!」

 

セイバーは再び剣を構えた。

 

だが、バーサーカーは容赦なく距離を詰めてくる。

 

その巨体が振るう斧剣を前に、セイバーの剣が何度も弾かれる。

 

防御するだけで精一杯だった。

 

一歩、また一歩と後退する。

 

勝機が見えない。

 

どれほど攻撃を重ねても、バーサーカーは倒れない。

 

そして、自分の身体には確実に傷が増えていく。

 

それでも、セイバーは剣を手放さなかった。

 

⸻

 

「アラジン!」

 

凛は森の中を走っていた。

 

倒れた木々の向こうに、ようやくアラジンの姿が見える。

 

「アラジン!」

 

駆け寄り、その身体を抱き起こす。

 

「……凛さん?」

 

かすれた声が返ってきた。

 

意識はある。

 

しかし、身体には大きな負傷があり、すぐに立ち上がれる状態ではなかった。

 

「もう、何やってるのよ……!」

 

凛は彼の身体を確認しながら、安堵と怒りの混じった声を漏らす。

 

「ごめんね……」

 

「謝らなくていいわよ。今は動かないで」

 

凛はアラジンのそばに膝をついた。

 

遠くから、剣と斧剣がぶつかる音が聞こえてくる。

 

セイバーは今も一人で戦っている。

 

凛はその音に顔を向けた。

 

一刻も早く戻らなければならない。

 

しかし、目の前のアラジンを置いていくこともできなかった。

 

「……セイバーさんが」

 

アラジンが呟く。

 

「分かってるわ」

 

「ぼくが、助けないと……」

 

アラジンは起き上がろうとする。

 

しかし、身体に力が入らない。

 

「無理よ! 今のあなたじゃ戦えない!」

 

「でも……」

 

「でも、じゃない!」

 

凛の声が少し強くなる。

 

アラジンは再び俯いた。

 

「……ごめんね、凛さん。ぼくは……今、何もできない」

 

その言葉に、凛は彼の顔を見つめた。

 

彼は負傷しているだけではない。

 

心のどこかが、まだアリババオルタとの別れに囚われている。

 

「アラジン」

 

凛は静かに呼びかけた。

 

「あなたが今、悲しいのは分かってる。無理に忘れろなんて言わないわ」

 

アラジンは顔を上げない。

 

「救えたことを喜んでもいい。悲しんでもいい。どちらか一つに決める必要なんてないでしょう!」

 

凛の声が響く。

 

「あなたがどれだけ苦しいのか、私には全部分からない。でも、あなたが一人で抱え込む必要はないわ」

 

凛は、アラジンの目をまっすぐに見つめた。

 

「私はあなたのマスターよ。あなたが戦えないなら私が戦う。あなたが迷っているなら、私が隣にいる」

 

遠くで、再び激しい衝撃音が響いた。

 

セイバーの声が聞こえる。

 

それは、まだ彼女が戦っている証だった。

 

凛は一度だけそちらを振り返り、そして再びアラジンに向き直る。

 

「だから、勝手に一人で諦めないで」

 

アラジンの瞳が、わずかに揺れた。

 

「……凛さん」

 

「何よ」

 

「ぼくは……アリババくんを救えたんだよね」

 

「ええ」

 

「でも、もう会えないんだ」

 

「……そうね」

 

凛は否定しなかった。

 

「寂しいよ。もっと話したかった。もっと一緒にいたかった」

 

アラジンの声が震える。

 

「でも、最後にアリババくんが笑ってくれたことは、嬉しかったんだ。ぼくがしたことを、間違いじゃなかったって思いたい」

 

「だったら、それでいいじゃない」

 

凛は静かに答えた。

 

「悲しいからって、救えたことまで悲しい思い出にしなくていい。あなたがアリババを大切に思っていたことも、彼を救えたことも、どちらも本当でしょう?」

 

アラジンは、ゆっくりと目を閉じた。

 

脳裏に浮かぶのは、アリババの姿。

 

一緒に過ごした時間。

 

交わした言葉。

 

そして、最後に見せてくれた笑顔。

 

失ったものは戻らない。

 

それでも、共に過ごした時間まで消えてしまったわけではない。

 

悲しみがなくなることはないだろう。

 

けれど、それを抱えたままでも、前を向くことはできるのかもしれない。

 

アラジンは、ゆっくりと目を開いた。

 

そこには、先ほどまでの虚ろな色とは違う光が戻っていた。

 

「……ありがとう、凛さん」

 

凛は小さく息を吐く。

 

「まったく。心配させないでよね」

 

「うん。ごめんね」

 

アラジンは、凛の手を握った。

 

「ぼくは、もう大丈夫。もう逃げないよ」

 

その言葉には、確かな意志が宿っていた。

 

凛は彼の横顔を見つめ、わずかに微笑む。

 

「そう。それならいいわ」

 

遠くでは、今もセイバーとバーサーカーの戦いが続いている。

 

剣と斧剣がぶつかる音が、夜の森に響き渡る。

 

セイバーはまだ倒れていない。

 

しかし、その戦いに勝機は見えなかった。

 

アラジンはその音に耳を傾ける。

 

そして、静かに拳を握った。

 

――もう一度、前を向くために。

 

 

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