試合は誰もがセシリアの有利になると思っていた。
そりゃそうだろう。いくら(彼女らにとって)変な大会で優勝していても、所詮はただのゲーム。素人の悠夜に勝ち目なんかない。そう思っていたのに、だ。
「どうしたどうした! 俺はここだぜ!」
明らかにセシリアは悠夜の機体スピードに翻弄されていた。
「へへんだ。当たらねえんでやんの」
セシリアの攻撃を次から次へと避ける悠夜。
人型から鳥のような戦闘機へ。そして戦闘機から人型へと素早く変形する悠夜。これまで見たことがない相手ということもあるだろう。
そしてセシリアは自身の機体名と同じ武装を飛ばす。
「行きなさい!」
それを視認した悠夜は戦闘機型へと変形してすぐさま上空へと逃げる。セシリアもビットの操作範囲から出さないように後を追った。
だが悠夜はその場で反転し、突っ込んでくる。
「わたくしのことを甘く見―――!?」
セシリアが構えた時には既に悠夜は後ろへ飛んでいる。しかしそれはまるで―――スピードを出し過ぎて止まれないそれの動きだった。
セシリアも素早く反転し、悠夜を狙う―――が、
―――ゾワッ
急に悪寒を感じたセシリア。自分の胸が後ろから掴まれていたのだ。そんなことをする不作法な相手は一人しかいない。
しかし、セシリアが悪寒を感じたその隙が命取りだった。悠夜はビットが停まった隙を逃さず、ミサイルを飛ばしてビットを爆発させた。
ブルー・ティアーズには4基の遠隔操作ビットと2基のミサイルビットが装備されている。
4基のビットは先程の一夏との試合でも壊されたが、それはセシリアのある弱点を突かれた作戦で、しかも1基ずつ破壊された。しかし今のは4基ほぼ同時である。
その状況で彼女の思考はある答えを導き出したが、胸を揉まれたことによって変な感覚を覚えさせられた。
「ふむ……さしずめDと言ったところ……いや、Eか?」
「さ、さっきから何をしていますのあなたは!! この変態!!」
「否定はしない……が、そこで口が出る辺り流石だな」
言われたことが理解できなかったセシリアだが、次に言われたことによって納得させられた。
「確か、胸の部分だったよな? 心臓があるのって」
「…………あ」
―――ドンッ!!
セシリアに激痛が走る。そして心臓を撃ったことによって絶対防御が発動してシールドエネルギーが一気に消費された。
―――ドンッ!!
2撃目。セシリアは衝撃の強さに意識が飛んだが、
―――ドンッ!!
3撃目で意識を強制的に戻される。
「ガッ!? ………ゴホッ!…ゴホッ! ……あ…あなたという人は―――」
そして、試合終了の合図が鳴った。
セシリアは自分が今何をしていて、どうするべきだったかを思い出す。
「……………そんな………何で……」
「まぁ、心臓に直接内蔵式小型バンカーを食らえばそりゃ潰れるだろうよ。ってことでご苦労さん。どうせ何人かはイギリスにいるんだろ? 数日は待ってやるからちゃんと呼べよ、マイスレイブ」
悠夜は不気味な笑みを浮かべてさっきまでいたピットに戻る。
「………織斑先生」
「桂木、わかっているだろうな」
「さぁ。でもま―――」
悠夜の後ろをラファール・リヴァイヴを装備する教師が取ったが、すぐさまその教師たちは悠夜の攻撃で吹き飛ばされた。
「生憎私は女性に対して手加減するような趣味は持ち合わせちゃいないんですんで、全員殺して良いですよね?」
「調子に乗ってんじゃないわよ、男ふぜ―――」
―――ドンッ!!
鼓膜が吹き飛びそうな音が千冬を襲う。悠夜に対して発言した教員の機体が一瞬で機能停止に追い込まれ、何の躊躇いもなく頭に脚部装甲を乗せた。
「じゃあな。恨むなら自ら戦おうとしない世界覇者を恨みな」
「待て」
千冬の制止に悠夜は足を止める。
「何です? ああ、もしかして不意打ちは男らしくないとでも言うのですか? 止めてくださいよね、そう言うの」
悠夜の目の色が変わった。
虚ろになり、茶色のままの瞳からは何故か光が映らない。
「人間とはそういうものでしょう? 特に今の世界なんて女がちょっとでも変なことを言ったら男の立場を怪しくなる。そんな状況でまともな手段なんて取るわけないでしょう?」
「そういうじゃない。こちらは降伏する」
「………アンタらの身体はいらないよ?」
年上は精々1つ程度だと既に決めているからな。
「そういうことじゃない」
「なら良いけど、先にそっちがISをしまったらね」
すると各々悔しそうに俺を睨みながら機体を降りる。どうやら最初からそれは決まっていたようだ。
「だが、事情聴取はすることになる。どこでその機体を手に入れたのか、とかな」
「解放してこれまで通りにしてくれるならねぇ」
「安心しろ。ただ私の心労が増えるだけだ」
「どうせ委員会とかいう気取ったクソ共の相手だろ? それくらいだったら俺も手伝うよ」
「いや、いい。面倒になるだけだ」
あ、これあれだ。俺が引っ掻き回すことがバレている奴だ。
ISが俺が踏んでいる女以外終わったのでその場から移動する。当然、移動の際はISは解除した。
「…………するんじゃなかったな」
「ん? どうしたんですか?」
「ああ、ちょっとな。生徒が外で待機している。たぶんその機体絡みだろう」
「うっへー。面倒だな」
とはいえ、その状況を考えていなかったわけじゃない。むしろ確信していた。
「ま、こんなところで油を売っていても仕方ないでしょ。行きましょ、ちっふー」
全力で回避する。あっぶな。もう少しで何かが吹き飛ぶんじゃないかってぐらいな圧を感じた。
「次にそんなことを言ったら殺す」
「なんかすみません」
もしかしたら昔にそんな呼ばれ方をしていて、ちょっとトラウマ……とかだったりして。
外に出ると、案の定というか迫ってきた。IS学園に入学する奴らって何故か知らないが容姿は整っている奴しかいないから事情を知らない奴が見れば幸せな光景かもしれない。
「織斑先生、今回の事は一体どういうことですか!」
「何故桂木が専用機を持っているんですか!」
「おかしいでしょう! こんなの!」
いや、全然おかしくねえよ。むしろ必然だ。
だが興奮してその辺りのことは忘れているらしい。
「―――黙れ」
本当、こういう時って結構楽だよな。たった一言で全員を黙らせたよ。
全員が織斑千冬に対して恐怖を抱く。俺はまさしく虎の威を借りる狐状態だな。なんて思っていると俺の顔に石が飛んだ。
気付いた俺は咄嗟に反応―――だがまぁ、所詮強いのはISとかだけなので普通に当たった。
「今誰がや―――」
咄嗟に織斑先生の口を塞ぐ。それがまた嫌がらせであり、投げたと思われる方向を見て言ってやった。
「ま、これが特別と非特別の差だってことだ。どれだけ石を投げようが物をぶつけようが、お前ら女はこうも簡単に相手にされないし憧れの織斑千冬にすら触れられない。どれだけ自分たちが上だと言っても、俺の方が圧倒的に特別であり希少な存在に変わりない。その他大勢の米粒風情が、専用機すら勝ち取れない雑魚共が喚くな。いや、喚いたっていいか。所詮、負け犬の無様に吠えて負けたことをアピールするしかない哀れな生き物だし」
「桂木、貴様という奴は………」
「だって事実だし。それに俺はこいつらのように施されるのを待つのではなく勝ち取ったんだ。さえずる雛鳥みたいな奴らと一緒にされるのはごめんだね」
言われたことが理解できなかったのか、それとも俺があまりにもアレなので相手にするのも馬鹿らしくなったのか、ともかく俺と織斑千冬はアリーナを去って校舎内の会議室に移動した。
「でだ、あの機体は一体どこで手に入れた?」
俺たちよりも少し遅れて知らない教員が現れて調書を取っているのを一度見てから話す。
「場所はたぶん女権団の研究施設か軍事施設じゃないか? 詳しくは知らないけど、そこから機体を奪った」
「………何?」
「だってそうしないと死ぬし」
「ちょっと待て。一体どうしてそんなところにいた!? そんなことをすればお前は下手すれば―――」
「死ぬね。………まぁ、最初から話すしかないか」
一応の身内の恥を晒すようで嫌だったが、こうなることはわかっていたしいっそのこと話すか。
「たぶん知ってるけど思うけど、俺が小4の時ぐらいに親父が今の母親と再婚したんだけど、その親が女権団に所属していて、しかも幹部だったんだよ」
それから俺はIS学園に来るまでの経緯を軽く話した。
ISを動かしたことで親には施設に入れと言われたが本格的な勉強のために留年覚悟でIS学園に入学すると言ったこと。それが口論に発展して、結局は義妹の乱入によってそのまま分かれた後に誘拐されてひたすら殴られたこと。隙を見て武器を奪って逃げだし、ISを奪って逃走。その間に2機のISを撃退して逃亡したことをだ。
「………そうか。だからお前は最近まで顔が腫れていたわけか」
「そ。喧嘩で顔を腫らしたと思った? 残念。割と命が危なかったです」
あの時は本当に肝が冷えたからな。むしろ生きていることが凄いと思う。……あれ? 考えてみれば俺って元々はここまでエロかったわけじゃないから……もしかして保存本能でも働いているのか?
「なるほど。だがわからないことがある。何故隠していたISを今になって出した? 別に命が危ないとかではないだろう?」
「普通のISじゃ満足できないって言うのが一つ、そしてあのISならば俺ならばオルコット相手に勝てることができるという確信があったからだ」
「その根拠は?」
「これだよ」
空中にあるファイルを出して該当するページを開ける。予め付箋を貼っているからどこかというのはすぐにわかった。
「………死神「破鋼」、またもや完勝……これは何だ?」
「俺が優勝したゲームのインターネット対戦での記事だよ。ISが出てからというもの、男たちはこっちに逃避する奴らが多くてな。まぁ、あれだ。こっちで慣れていたからこそ、もしかしたらと勝機がある方を使ったわけだ」
……他にも整備したいとか、隠したままじゃまともに練習ができないというのもあるが。
「わかった。最後に確認するが、私たちに一度預けて―――あ、いや、アレだ。事情は把握しているし、何もデータを抽出しようとかそういうわけではない。学園では専用機持ちには学園用の識別コードを持っていてもらっているんだ」
「………それってアレか? 有事の際にどこの誰かが襲われているか確認するための奴?」
「そうだ。去年までは多少のいざこざはあれど、そこまで大きなことは発展していないと聞く。だが今年はお前と織斑がいるため、面倒なことが起こるかもしれないと考えている者も少なからずいるわけだ」
「お、織斑先生、いくら何でもそれは―――」
「いや、こいつはおそらく既に知ってしまっている。むしろ隠し立てしている方が協力は得難い」
「よくご存じで」
実際、何も知らないよりかは知っている方が楽に決まっている。
「ま、そういうことだ。とりあえず聴取はこれで終了とする。すぐに登録に行くぞ」
「わかりました」
早速その足で俺たちは破鋼を登録しに行った。
「あ、そうだ織斑先生」
「何だ」
「俺、勝ったしクラス対抗戦でも負けた奴を奴隷にしかしないから、クラス代表辞退しても良いよね?」
心からため息を吐かれた気がするけど、気のせいだと思うことにした。
めでたしめでたし………という風にはいかないようだ。
「さて、説明してもらいましょうか?」
「実は動かしたその日に女権団に―――」
「ああ、そっちじゃないわ。いつから私に気付いていたかってことよ」
「え? そりゃ最初からに決まってるだろ。風呂の時に口を塞いだのも知らない女だったら普通しないって―――」
そう説明するととても怖かった記憶しかない。
なんとか宥めたが、それでも微妙な関係になったわけで………。
「あれ? オルコットは?」
「さぁ……。そう言えば来ていませんね」
いつもならとっくに教室にいるというのに、今日は珍しくいない。
「オルコットなら今日は休むそうだ」
「突然現れるとか、おたく、忍者?」
「アホなことを言っている暇があるなら席に着け」
………たぶんこれ、ゲームならば選択肢が出る奴じゃないか?
言うなればこれはヒロイン救済イベント。普段はちょっといけ好かない奴でも、死なれたら目覚めが悪いから。
「桂木、どこに行く」
「ルートが見えたから回収してくる」
そう言って俺は教室を出てオルコットの部屋に行こうとしたが、あることに気付いた。
「ところで、オルコットの部屋番号ってどこ?」
「…………1452だ」
「サンキュ」
さて、進撃するとしようか。
1452室に着いた俺はドアを開けた。どうやって開けたかと言うと、ピッキングである。
「失礼しますよ~」
中に入ると、朝だというのにとても暗いので電気を点ける。
「……だ……誰……」
「いつもニコニコ這い寄る混沌、桂木悠夜ですよ~」
「ヒッ!? こ、来ないでくださいまし!! 嫌ですわ!!」
早速の拒絶。まぁ、あれだけ酷い目に遭わせて今更ってのはないだろう。それでもしますが!
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。俺は普段は紳士だから手荒な真似はしませんよ~」
「し、紳士ならば試合中にあんなことはしませんわ!!」
「あれは勝負だし仕方ない」
「嫌ですわ!!」
これは困った。
にしてもデカいベッドだな。天蓋付きベッドだけじゃなくて壁紙とかも変わってら。
「オルコット、少し話をしよう」
「嫌ですわ!」
「仕方ない。襲うか」
「それも嫌ですわ!! もう帰ってくださいまし!!」
嫌よ嫌よも好きな内。とはいえ、確かに今は分が悪いか。―――と考えて引くわけがないだろう。
こうなったら無理矢理落ち着かせようとすると、誰かの声が俺の耳に届く。
「―――相変わらず、女性の扱いがなっていませんわね、桂木悠夜」
「!? そ、その声は!?
「そう。私は英国から舞い降りた天使。マジカルガール―――なわけないでしょうが!! それに何故「ブラ」で止めたんですかねぇ?」
「そう、あれは5年前のことだった。俺たちの世代では珍しくブラジャーを付けていたチェルシーのあだ名は「ブラ」となり、当時はやっていた魔法少女と掛け合わせて「チェルシー・ブラ」という愛称が学校中に広まったのである。ま、広めたのは俺だけどな」
「………なるほど。やはりあなたが犯人だったのですか」
にしても久々に会ったな。……いや、会うとすら思っていなかったが。
「ちぇ……チェルシー……」
「お嬢様」
「ごめんなさいチェルシー。わたくし、あなたを……あのケダモノに………」
「いいえ、お嬢様。桂木悠夜は口ではああ言っていますが、本当はお嬢様のお身体にも私の身体にも興味はあっても手を出すことはまずありません。ヘタレですので」
おい。何言ってんだアンタ。
「あなたが欲しかったのは、これでしょう。英国貴族の名家メイド服&執事服コレクション」
「流石だな。そうそう、これが欲しかったんだよ」
流石は英国メイド。俺が欲しがるものをちゃんとわかっている。
そう。俺はオルコットとかそのメイドとかは全く………とは言わないが、欲しいのはこっちの方なのだ。
「…で………ですがわたくしは胸を………」
「それは作戦上のことでしょう」
「そうそう。どうしても欲しかったからな」
いやぁ、これでコスプレの幅が広がるってもんよ。
「………じゃ、じゃあわたくしとチェルシーをもらうっていうのは……」
「もちろん嘘。まぁ、少々頭に来たから虐めてやっただけだ。だからまぁ、気にせずまた来いよ。って言うか今すぐ着替えろ」
「………さ、流石に殿方を前に着替えるのは―――」
「いや、出ては行くから」
そう言って俺は外に出ると、少してチェル………もといチェルシーが出てきた。
「着替えの手伝いはしなくて良いのかよ?」
「ええ。それくらいはお嬢様もできるわ。……お嬢様が色々と迷惑をかけたようね、ユウ」
昔に呼んでいた愛称で呼んでくるチェルシー。どうやら今はそういうことらしい。
「まぁそこは許してあげて。彼女は3年前に両親が亡くなって遺産目当てで親類が迫って来たから周りが信じられなくなったのよ。例外は私くらいかしら」
「………そっか。で、その親類のほとんどが男でなおさらってところか」
「相変わらずの洞察力ね。………ところで」
俺は咄嗟に飛んできたナイフを弾いた。
「お嬢様の胸を揉んだとは、どういうことかしら?」
「気持ち良かった、と言っておこう」
俺の爪には伸縮自在の鋼並の強度を誇る爪が仕込まれている。というかそれがなかったら明らかに死んでいただろう。
俺とチェルの学園寮内でハードな戦いが行われたが、それはオルコットがチェルを止めたことで終わった。
前回と同じように、悠夜とチェルシーは顔なじみという設定にしました。大体小学校でもこんな感じです。
・桂木悠夜
留年して1年からやり直した16歳。かなりの変態だがヘタレであり、できてもキス程度という致命的な欠陥を抱えている。
主に下ネタを使って相手を潰すことを好み、敵とみなした相手には容赦ない攻撃を繰り出す。
楯無、チェルシーとは小学校時代に付き合いがあり、チェルシーとは規模は小さいが大体言い争っていた。
明らかに異常な技術力を保有しているが、それはすべて彼の父親から譲り受けたもので彼が作ったものではない。
基本的に年下の女子には優しいが、それは悠夜は本当の妹というものを知らないため。セクハラしているのは敵か箒のように胸が大きいだけでなく身体のバランスも整っている事自体が珍しいから。なので、胸が大きいということを知らない本音に関しては一度もセクハラをしていない。
※なお、セクハラは犯罪である
・破鋼
悠夜が作成したプラモを元に作られたIS。武装は一部を除いてほとんど同じであり、装甲のデザインに至っては拡大したかとすら思わせる程である。
セシリア戦では半分遊びでしており、すべての武装を見せたわけではない。