拝啓、精霊を救える方へ   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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三日連続投稿です。



拝啓、出合いを貴方へ

  この世界には、精霊が存在する。

  精霊と言っても、小さくて羽のある可愛らしい存在ではなく。

 

  もっと大きく、そして恐ろしく、大陸ひとつを壊すような……そんな存在だ。

 

 

「―――ま、俺には関係ないけど」

 

  そんな中で俺――草薙 祐二は一人ごちる。

  俺は今、山奥の小さな家に棲んでおり、祖父母と共に小さな畑を耕して生活していた。

 

  とは言っても、この夏休みの約一か月程度なのだが。

 

 視界を緑が覆う、じいちゃんばあちゃんも優しい。まるで自然と一体化してる様な感覚。

 

―――なんて素晴らしい空間なんだろうか!

 

  世界は平和である。俺は精霊なんてみたことないし、そして今後も見る必要はない。

 

  誰かが奴等を殺そうと言うのであっても、それは俺じゃないのだから。

 

―――適材適所、という奴である。

 

  誰かがやる。無力な一般人の俺がすることなどないのだから。

 

「祐くん、畑にいるおじいさんにバケットを届けておくれ。お前の分も入ってるから、一緒に食べてきなさい」

 

  おばあちゃんは物腰柔らかく言って、俺に柔らかい笑顔と共にバケットの入ったカゴを渡した。同時におばあちゃんの石鹸の香りと、焼き立てのバケットの薫りが鼻孔をつく。

 

  思わず腹の虫が鳴り、恥ずかしさついでに苦笑して「わかったよ」と返して家を出た。ちなみに格好は黒いジャージ上下である。

 

  かなりラフな格好だが、別に見られる視線もない。見てくるとしたらそれは、虫か鳥、たまに小動物のどれかだしな。

 

  それに森の奥と言っても、家の周辺は開けた場所で太陽が顔を出している。

 

  学校とは違い捻くれ者と笑う者はいない。ゲームも漫画もついでに彼女もいないが。それもいいかななんて思う十七歳の俺。この社会と離れた感じが、胸を穏やかにさせてくれる。

 

  そもそも俺が捻くれてるんじゃない、世界が複雑で面倒なだけだ。

 

―――ドォォォン!!!

 

「っ!?」

 

  急な爆音と地震。木々が揺れ騒ぎ、鳥が一斉に飛び出す。

  俺はあまりの揺れに膝をつき、反射的に蹲る。

 

「……な、なんだぁ!?」

  ハッと意識が取り戻し思考を巡らす。

(……地震?まさか、どっちかつったら爆弾でも墜ちたような感じだったぞ!?)

 

  顔をあげ、急に訪れた静寂に反して心臓が全力で波打つ。

 

「近っ……煙上がってんじゃ――!?」

 

  そして、上がった煙を見て、ある事に気付いてカゴを投げ捨て走り出す。

 

(マズイマズイ!!あそこは、あの方向は)

「……じいちゃん!!!」

 

  全身から嫌な汗が流れ、俺は全力走りながら森に向かって叫んだ。

  煙が上がっているのは。森を抜けた畑の、つまりは俺の祖父がいる方向だったのだ。

 

 ◆◇◆

 

「っ」

  森を抜けた俺が見たのは、本来畑があった場所。

  巨大なクレーターと化していたそれに、愕然とする。

 

「―――じいちゃん!」

 

  そしてその端で一人佇む、祖父の後姿を見つけた。

  叫び声に近い声量で俺が呼ぶと、じいちゃんはその声に「おぉ」とゆっくりと振り返り、シワだらけの顔で申し訳なさそうに笑った。

 

「祐か、いやすまんな。畑がなくなってしもうたわ」

「えっ………いや。そんな事よりじいちゃん無事なのか!?」

「無事じゃないのぉ、腹がへったわ」

「―――うん無事だなこれ、俺の心配返せ!」

 

  正直、祖父がかなり図太い事は知っていた。

  元軍人だからだろうか。

  だが目の前のクレーターを前にして「腹へった」等と言える老人は恐らくこの世界に一人だけだろうと俺は思う。

 

  無事がわかり胸を撫で下ろす、前に目の前のクレーターを指差した。

「………んで、これは?」

「うむ、老眼じゃからよくわからんかったが。お嬢ちゃんがおったな」

「………お嬢ちゃん?」

「そうじゃ。休もうと思って畑から離れて木の影におったら、急に凄い音が聞こえてのぉ、随分でかいと思ったらワシの真後ろじゃったわ。その真ん中にお嬢ちゃんが立っておってな?いやぁ長生きしてみるもんじゃ」

 

「……そう」

 

  カラカラと笑うが、全く笑えない。

  さっぱり状況がわからんけど。ボケた?とは聞きにくい。

 

  なんだそのお嬢さんって、幻覚だろうか?生涯一途は嘘だったのだろうか。

 

  とりあえず祖父の無事に安堵して、手を取り家の方に引っ張る。

「とにかく一旦帰ろう。あの音じゃあ、ばあちゃんも心配してるって」

「そうかのぉ?お祭りかもと笑っていそうじゃが」

「否定できない俺がいる。この二人の精神面は植物の域だったか……あぁ、伝わらないよね、何でもない」

「んー?」

  自分で歩き始めたじいちゃんから手を放し、横に並ぶようにして歩く。

 

  するとじいちゃんが首をかしげた。

「そう言えば祐はなぜ来たんじゃ?」

「心配だったからだよ。それに……あっ、昼飯投げちまった」

  俺はふと爆発に気をとられて、弁当の存在を忘れていた。

 

  すると、少しじいちゃんの顔が険しくなる。

「いけないな、食べ物は大切にしなさい」

「いや大分叙情酌量の余地あるよね……?無事だったからよかったものの、誰だって弁当よりもじいちゃんを優先するぜ?」

 

  少し強い口調で怒られてしまったが、流石に俺も反論する。

 

「そうかのぉ」

「うん、だから弁当はどっかやったのは許されると思うんだ」

 

  家族の命と一食を天秤に掛ける方がどうかしているが、話してもきりがない気がするため切り上げた。

 

(ばあちゃんには、後で謝ろう)

 

  畑と家の間には小さな森がある。俺は緊急事態のために木々を突っ切って来たけれど、本当はちゃんと舗装された道があるのだ。

 

  コンクリートの道路ではないけど。獣道だけど。

 

  獣道は小型車がギリギリ通れるレベル、真っ直ぐ先にしか道がないので迷うことはないが、左右は完全に緑である。

 

(確か森に入る前に投げたよな……土まみれになってるかもしれないけど、探すか)

 

―――そんな構造、故にだろうか。

 

  森を抜けて俺が落としたバケット……それを食べている少女の背中が直ぐに見えなかったのは。

 

「ん~♪少し土の味がしますが、美味しいですぅ」

 

  彼女はそう言って頬に手をやり、声色的に決して怒りではない、むしろ喜んでいるのがわかる。

 

 

「……」

 

―――うむ。

 

  夢オチであれば納得してやらんでもないが。

  なんだろう、今日は色々とイベントが多すぎる気がする。

 

  「祐二君って冷静だよね~」と、遠回しに『お前冷めてるよな』なんてクラスメイトから言われた頃が懐かしい。

 

  彼女はほら、あれだ。

  ちょっと話題になった山ガール的な、じいちゃんに許可取りに来た的なあれだ。

 

  もしくはアクティブな幽霊的な―――小腹を空かせた幽霊ってなに?斬新。

 

  俺が固まっていると、じいちゃんが目を細めてポツリと言った。

 

「んん?あんときの嬢ちゃんじゃないかのぉ?」

「えっ」

 

  どうやらボケてはいなかったようだ。

  すると、背中を向けていた彼女は俺達の存在に気づいた。

 

「………ふぇ?」

 

  可愛らしくも間抜けな声と共に、彼女と俺は目が合った。

 

―――すんげぇ美人だった。

  淡い青色の髪を首の中間位で切って揃えているボブカット。

  水晶のような髪留めを付け、頭の頂点には触覚のような癖っ毛があり左右に揺れていた。

  瞳は髪の色と同じで、陶器のように白いく滑らかな肌には染みひとつない。

 

  出ているところは出ているのだが……モデルもびっくりの容姿であり、そんでアイドルと間違える程に綺麗だ、見惚れてしまうのも無理はない。

 

 

……無駄に露出の高い硬そうな(コスプレ)をつけていることを除けばだが。

 

―――さぁて、草薙よ。

 

  どうしようか?この状況。

 

  『クラスの女子?会話くらいならできるよ?』レベルで俺はこのよくわからない状況を乗り越えられるのか?

 

 つーかそもそも夏休みの森で爆発音してクレーター見つけて、そんでコスプレ女に出会う確率ってなに、アインシュンタインもたまげるよ。

 

―――そして、ゴチャゴチャな俺の頭から出された結果は。

 

「おいお前、人の昼飯勝手に食うなよな?」

 

  滅茶苦茶勇気だして普通に話しかけてみた。

 

 

  すると、予想外の反応が来た。

「あら!これは貴殿方の物でしたか?」

「っ………あ、あぁ。変な爆発音が聞こえたから落としてしまったが、俺は俺とじいちゃんの昼飯だ」

 

  それを聞くと、彼女は顎に指を当てて唸る。

 

「うーん……成程、それは失礼しました~。爆発の犯人も多分私です、よかった。もし粗末に扱う者でしたら殺してましたよ~」

「そ、そうか―――え、殺されてたの?」

「はい。こんな美味しいものに土をつけるなんて億死に値しますよ」

 

  あっぶねぇぇ!!なんかマジっぽい目をするし、背筋が凍ったぞ!?

  つか然り気無く桁おかしいし、万死越えるのかよ、俺何回生き返らなきゃなのよそれ。

 

  すると、横のじいちゃんはケラケラ笑った。

「そうかそうか、そんなに美味しそうに食えるんじゃったら美恵も喜ぶだろう」

「じいちゃんのメンタル分けてほしいんだけど……!?ん?というか今、さっきの爆発の犯人つったか?」

「あ、はい。私が起こしました、故意じゃないですけどね」

 

―――つまりあのクレーターの犯人は彼女と。

 

  目を点にする俺に、彼女は言葉を紡ぐ。

 

  双丘を張り、フフンと鼻を鳴らして。

「これでも私は『精霊』と呼ばれていますので、一応これでも貴殿方人から恐れられているとても強くて―――」

  グゥゥゥゥゥゥ

 

「「………」」

 

  しかし、彼女の演説は彼女の腹部から放たれた音によってかき消されてしまった。

  彼女は気まずそうに固まり、俺はそんな彼女に冷たい視線をプレゼントしていると。

 

「お腹減っているのか?なら、うちで食べていきなさい」

  鋼を越えて砕けないダイヤモンドメンタルのじいちゃんが、そう言った。

 

…………え、マジで?

 

 ◆◇◆

 

  テーブルを囲み、カチャカチャと箸を動かす。

「いや~生きてて良かったです!」

「あらあら、そんなに喜んでくれると嬉しいねぇ」

「よくお食べ、美恵さんの料理は美味しいだろう?」

「あらあら、良悟さんがそんな事言ってくれたの何年ぶりかしら」

「ほふ、ほへもほーひいへふ!」

「おいおい。噛んでるときは喋るんじゃねぇよ?」

「ん―――ごめんなさい祐くん、あまりにこの料理が美味しいので」

「うふふ、いい子ねぇ。もう一人孫ができたみたい」

「んぐ……こんなに美味しい料理が毎日食べられるなら私喜んで孫になりますよ!」

「ほほー、ならば布団を用意しなくちゃな」

「部屋はどうしましょうか?」

「祐の部屋でいいんじゃないか?」

「ちょ、じいちゃんやめろよ~」

「ハッハッハッハ!」

 

「―――じゃねぇだろぉっ!?」

 

  ガシャン!とテーブルを叩く。料理やフォークが一瞬宙を舞った。

「「「?」」」

  三人は怪訝な顔で俺を見る。

「え、何?適応できてないの俺だけ!?俺がおかしいの!?なにこのほんわかな空気!つーか誰『祐くん』って!?」

「ダメですよ祐くん。食事中に机を叩いたり、叫んではマナーがなってないです」

 

  彼女は箸で俺を指す。

 

「やっかましいわ箸で人を指すな!そもそもお前ナチュラルに何でいるの?何で飯食ってんの?何で平然と俺の皿からソーセージ奪ってんの!?」

「そんなに食べたかったんですか?」

「あらあら、祐くんも成長期だものねぇ」

「ハッハッハ。そんなに叫ぶんじゃない、戦争が起こった訳でもあるまいに」

「いや話が本当なら戦争ってか兵器ってか精霊……!!」

「『困っていればお互い様』祐が言っていた事じゃろう」

「そこにTPOがあればね!しかもそれ何年前の話!?」

 

  怒濤のツッコミの疲れで肩で息をしていると、彼女は呆れた口調で言った。

「とにかく、今は食べましょう?そんなに叫んではお腹も空きましたよね?」

「誰のせいだと………わかったよ。いやわからないが、どうにでもなれ」

  俺の腹も限界のようだ。俺はなげやりな気持ちで席につき、自称精霊の兵器と食事をとる事にした。

 

―――どーしてこうなったし。

 

 ◆◇◆

 

  一応、この家には俺の部屋と言うことで六畳ほどの空間が与えられていた。

 

  窓を開けたら、森の先にある街の観望を見られるという造りであり、無理言って掃除して小さい頃から使わせてもらってる。

 

「美味しかったです、ごちそうさまでした~」

 

「……そりゃ良かったな。礼ならじいちゃんばあちゃんに言ってやってくれ。んで来たるべき場所に帰れ」

 

  そして何故彼女が俺の部屋にいるのか、俺の回転式の椅子でクルクル回っているのか。

 

  そして最低限の電子機器として携帯があるものの『自称精霊が家に住み着きました』なんて通報したいのに出来ないこのジレンマ。

 

―――祖父母の彼女への扱いもあれば、何よりまだ目の前のコスプレ女が精霊と確定して訳じゃないこともある。

 

  いやでもクレーター見せたら説得力あるな……あ、アイツ椅子に回りすぎて酔ってやがる。

 

「なぁ、お前って本当に精霊なのか?ただのコスプレ少女とかいうオチじゃなくてか?」

 

  クラクラと体を揺らしながら彼女は答えた。

 

「ん~………ただのコスプレ少女が爆発とクレーターの側、それもこんな森の奥にいますかね?」

 

  逆に冷静に質問に返された。無駄に正論なのが腹立つ。

 

「……無いとは断言できないだろ?コスプレを極めるために武者修行的な事をするかもしれない。そのために地主のじいちゃんに許可貰おうとか」

 

「苦しくないですか?少なくとも私はそんなことしませんよ~それより祐くん、祐くんでいいんですよね?」

 

「俺の名前、祐二なんだけど」

 

  彼女は素直に驚く。

「そうなんですか?祐と呼ばれているからてっきり祐って名前だと思ってました」

 

「親しい人にはそう呼ばれるんだよ、まぁ学校にも似た感じで呼んでくる奴が一人いるし」

 

  と返して寝転がる。正直彼女の視線から逃れて話を切り上げたかったのだが。彼女は気にせず話しかける。

 

「あの二人は、優しい人たちでしたね」

 

「………そりゃな。俺の自慢の祖父母だ、普通ならお前警察に突き出されてるからな?全国の茶の間に報道されるはめになるからな」

 

「二人は優しいのがわかりましたが。祐くんはよくわかりません」

 

  彼女は、きっと怪訝な顔で俺をみている事だろう。

 

「失礼だな。俺より一般的過ぎる人間はこの世界にいないぞ?」

「それ矛盾してませんか?」

「いいんだよ面倒くさい、んで。これからどうするんだ?この家の侵略でもすんの?させねぇけど」

「はい……?」

 

  冗談のつもりだったのだが―――え、何その新鮮な反応。

 

「お前、なにか目的があるんじゃないのか?」

 

  俺が起き上がって彼女を見ると。彼女は顎に指を置き、唸り。

 

「ん~……さぁ?知りませんね」

 

  と、言って俺に視線を戻す。

 

―――俺は呆れた。というか絶句した。

 

  精霊と言うからには、なんかこう……破壊!みたいなイメージがあったのだ。

  現に俺の記憶正しければ大陸一つ滅んでるし。

 

  しかし、しかしだ。

  目の前にいるコイツは何だ?旨いものを食えば笑い頭頂部の癖っ毛が犬の尻尾のように揺れる、少し(疑問)変というレッテルは付くが、それ以外は普通のコスプレ少女である。

 

  この半日でそれなりにわかった事だ、後所々天然というか抜けている節もあり、クレーターを作り食べ物を粗末にするやつは殺すと。

 

  あれ?やっぱ普通ではないな。うん。

 

 

「知らないって……そもそもあのクレーターは何だ?お前が作ったんだろ?何処から来た」

「えぇと。私が気付いた時には、その中心に立っていたんですよ。いい匂いがしたので直ぐにパンに直行しましたが―――何処から、と言われましても~黒い空間?何も感じない空間に放り出されてプカプカ浮いてるような場所です」

 

「…………へー」

 

  成程、わからん。

  黒くてプカプカってなに、宇宙から来たのかな?

 

「俺はてっきり地球でも滅ぼしに来たと思ってたぞ?」

「そんなことしたら、美味しいものが食べられなくなりますよ。それに」

「それに?」

 

 

「―――寂しいじゃないですか?」

 

  苦笑してこちらを向き、彼女は言った。

 

「………はぁ。寂しい、ねぇ」

 

  やっぱり、わからない。

  出会って数時間ほどでわかるわけもないのだが……そもそも精霊と人間の価値観は同じなのだろうか、少なくとも地球を滅ぼせるか否かで彼女が否定しなかったことは放置するが。

 

―――深く考えるのはやめよう。

  なんかそうでもしないと面倒だ、それに『俺はどうこうも出来ない』のだから。

 

………もう、どっと疲れた。コイツはいるが気にするものか、寝てやる。

 

 

  すると、ふとあることに気付く。

 

「あれ……そういやお前、名前は?」

「名前ですか?私の、名前は―――」

 

  突如、家のチャイムが鳴った。

 

 ◆◇◆

 

「すいません……どちら様で?」

「私たちは……役場の者です。失礼ですが、ここの周辺で大きな爆発があったのはご存じですよね?」

「えぇ、勿論」

  畑まるごと無くなったし、なんなら元凶イン俺の部屋だし。

「何か不思議な事はありませんでしたか?何か見た、聞いた、等」

 

  随分と雑な聞き方である。女性の視線が鋭いので言わないが。

 

―――どうやら、彼女を探しているのは間違いないみたいだ。しかも細かくはわからないが多分『その手』の人間なのだろう。人間観察が趣味の人間嘗めるなよ。

 

  これは好機である。好機何だが―――

 

「何があったんですか?俺はてっきり、戦時中の古い地雷でも作動したのかと思いましたよ」

 

  たまーにあるんです。なんて言って笑う。

 

  事実ここは元々そういう場所であったのだから説得力はあるはずだ。

(ま、地雷は嘘だけど。というか地雷であの規模はどうかしてんだろ……)

 

  しかし、目の前の女性は俺の目を見て少し沈黙し、一礼する。

 

「そうですか。いえ、何もないのであれば大丈夫です……ちなみにここの近隣にご住まいの方は?」

「こんな山奥、俺達だけですよ」

「そうですか。では失礼します」

「あの、すいません」

「……何ですか?」

「何があったんですか?前に起きた時は、貴女方のような人達は来ませんでしたが」

「それは機密ですので言えません。それでは」

  そうサバサバ言って彼女は背中を向けた。

 

………機密ですので言えませんって、名目は役場なのにストレートな人だな。

 

 ◆◇◆

 

  何事も無かったかのように部屋に戻ると、青髪が俺を睨んでいた。

 

  何故だろうか?俺も睨み返せばいいのだろうか。

 

「何で睨むんですか!?」

「解せねぇ」

 

………女心って難しい。そう思っていると、彼女は真剣な顔で聞いてきた。

 

「―――どうして黙ったんですか?」

「ん、何の話だ?」

「誤魔化さないでください。先程の事です」

「役場の人か?それとも俺の嘘の事か?よく聞けば支離滅裂だし、冷静に考えればすぐ嘘だってわかるけどそれが?」

「違います。私が言っているのは、どうして私の事情を話さなかったのかという事ですよ?」

 

「………下手な事してじいちゃんばあちゃんを人質にされるかもしれないだろ?それに食いしん坊なコスプレイヤー一人を差し出しても………なぁ?ほら理にかなってる」

「ふざけているんですか?」

 

「別にお前を庇った訳じゃねぇよ……そうだな、俺がお前の思うよりも馬鹿だっただけだ」

 

  言い訳ももうちょっとうまく言えたと思うし。

 

  すると彼女は複雑そうな顔をして、深い嘆息を漏らした。

 

「………祐くんは、やっぱりよくわかりませんが。悪い人では無いんですね?変な人ですが」

「なに言ってんだ。俺より善良な市民はいないからな?」

「わぁデジャヴです。もうさっきの女狐の事はいいです。先程の続き、話しましょうか?」

「何の話だっけか……ちょっと待てお前女狐つった?」

「私、名前無いんです」

「―――え、無視?無視なの?」

 

  俺の言葉を無視して勝手にシリアスになるとか許せないんだが。

………だがいいだろう?俺は空気が読める男だからな。

 

「お前馬鹿だし忘れたとかじゃねぇの?」(←読めてない)

「決して忘れた訳ではないですよ……ならいっそ祐くんも祐ちゃんにしますか?」

「どういうこと!?やっぱさっきの人に突き出してやろうか?何その地味な反撃、そんなに傷付いた?」

 

  それにその響きだけだと俺、辛い過去を持つ吸血鬼を狩る悲劇のヒーローになるんだけど。

 

「っと―――本当に名前がないのか?」

「私というより私達が、ですかね?名付け親がいないから当たり前と言えばそうなんですけど」

「へぇ……精霊はよくわかんねぇな」

「薄いリアクションですね、呼び名すら無いんですよ私は?可哀相じゃないですか!?」

 

「それを自分で、しかも元気一杯に言うんじゃねぇよ」

 

「ですから祐くんが名前つけてください!もう私達運命共同体じゃないですか!」

「重いんだけど。数時間ちょいの関係でなにをぬかしてんの?正直に言って俺の中でお前の認識『馬鹿』だからね?」

「むぅ、じゃあ馬鹿なのであの街壊しましょうか?」

「止めろよ?まるで俺が指示したみたいになるだろ」

「もっと無いんですか!?『街の人に手を出すな』的なの!」

「無いな正義感とか………だがわかったよ。名前つければいいんだな?」

「!本当ですか!?」

「あぁ、だがしかし―――」

 

 ◆◇◆

 

 

「―――第一回!このお馬鹿さんに名前を付けようコンテストォ!!!」

 

「………ふぇ?」

 

  茶の間に移動し、奴は間抜けな声をあげた。

「俺は名前が悪いだのダサいだの後々後悔するだのとグチグチ言われるのが怖いからな!あえてじいちゃんとばあちゃんと案を集わせ、多数決を採る!そうすれば例えお前が気にくわなくても責任は分散されるからな!」

「―――祐くんってチキンですか?」

「うるさい黙れ!つーわけだじいちゃん、ばあちゃん。コイツの名前を考えてみてくれ!ボルトよりも早く!」

「これはどうじゃ?」

「おおっ、早速か!」

  そうしてじいちゃんが鉛筆で紙に書いたものを見せる。つーかノリいいなうちの祖父母!

 

  遠藤 三恵(みえ)

 

「私嫌ですよこれ!?何か時代の差を感じますぅ!」

「時代の差とかお前マジで精霊?それに中々失礼だからな……というかじいちゃん。こればあちゃんの名前を文字一文字変えただけじゃん!『美』が『三』になっただけじゃん?」

「どうしても美しいと聞くとこの字が浮かんでしまうのでな、ならばと一文字変えてみたぞ」

「!……あらあらまぁまぁおじいさんったら」

 

「―――いっや然り気無く好感度あげる出汁に使わないでくんない!?」

 

「そうですよ、嬉しいけどダメですよおじいさん。この子はもっと可愛らしい名前でないと」

「おぉ、おばあちゃんわかってますね!ではお願いします」

「えぇ、えぇわかっていますとも」

  遠藤 幸江(さちえ)

 

「じいちゃんの時ツッコマなかったけどそもそも二人は『遠藤』縛りからまず抜けろよどうして不動なの!?」

「幸江……サチエって、やっぱり何故か時間の経過を感じますね」

「あらあらうふふ、そういうと思ってもう一つあるわよ」

 

  遠藤 キラリ

 

「―――おい急に漢字からちょっと古い感じのカタカナになったぞ。それでも尚抜けない遠藤って何だよ呪われてるのかよ?」

 

「「孫が一人増えたみたいだから」」

 

「遠藤ってそういや二人の名字だったね!?母方だから忘れてたわ!」

  俺の名字は草薙だけど、母さんの旧姓は遠藤だ。

 

  奴も明らかに不満そうだ。ムスッとしている。

 

「孫扱いは嬉しいですが……むぅ、それで。祐君はどうなんですか?」

「―――えっ、俺?」

「散々言ったんですから、いい案があるんですよね?」

「うっ、いや。それは……」

 

 

  璃水(りず)

 

  俺の書いた名前を見て、祖父母どころか、精霊すらもキョトンと目を丸くした。

 

  え、やらかした?草薙祐二のセンスなかった?

 

「え、と。何故この名前なんです?」

「………いや、お前のイメージカラーが水色だから、水に関係してて、そんで水でとりあえずそれで浮かんだから」

「そう、ですか」

 

―――うっっわ、なにこの空気。

 

  え?無難じゃないの?ハッチャケちゃった?もしかして『青龍』とかの方が良かった?

 

『…………』

  何この空気、消えたい。この場から消えて皆の記憶ごと消したい。

 

「い、いや。気に入らないならそれはそれでリアクションしてもらわないとなんか申し訳な―――」

「何言ってるんです?気に入りました!これからはリズと呼んでください!」

「えっ」

  そう言って嬉々として俺が書いた紙を奪う。

「璃水……さぁ祐君、呼んでください!私を、私の名を!さぁ!」

「~~そんな期待された眼差しで見るなっ!」

 

  何かさっきとは別に恥ずかしい。そんな俺に三人は暖かい視線を送った。

 

 ◆◇◆

 

  俺は自室の机に向かって、持ってきていた学校の課題に手を付けていた。

  色々、本当に色々とあって疲れていたものの。やはり高校生は勉強する身、やはり勉強は一日たりとも欠かせないのだ。

 

「よし、宿題も一段落っと……そろそろ寝るか」

  ペンを置き、一度背伸びをした後にイスを回して、準備していた布団へと振り返る。

 

「そうですね、お休みなさ~い」

「…………OH」

  前方およそ一メートル先。

  そう言って俺の布団を被った女がいた。

 

―――幽霊ですか?

 

―――いいえ、精霊です。

 

「そぉい!」

  一瞬の間の後。俺の敷き布団を掴み、掛け声と共に思いきり引き抜く。

  それはさながらテーブルクロスの様に。まぁ奴は枕と共に明後日の方に行き「へぶっ」と声が聞こえたので、テーブルクロスとしては大がつく失敗だが。

 

  そんな事は気にしない。所詮ものの例えだ。

 

―――というかよくそんな飛んだね?

 

「なんでまだいるんだオイ」

 

  布団を持ったまま絶対零度な視線を向けると、彼女は打ったのか頭を擦りながら

 

「えぇ~だって私宿無しですよ?泊めてください」

「図々しすぎるだろうが。何で泊める雰囲気なってんだよ、その意気ならこの夏場でも生きていけるから出てけ」

「おじいちゃんとおじいちゃんの許可はおりてますよ?『いつまでも泊まってっていいのよ~』って」

「それはあれだ、社交辞令だ。友達とか遊びに来たときに言う決まり台詞だから本気じゃない」

 

  いやあの二人なら割りと本気かも……駄目だ。考えたら駄目だ。

 

「祐くん、友達とかいたんですか?」

「喧しいわ!数えるくらいにはいるわ!!」

 

―――いるよな?

 

「む、祐君大きな声は駄目ですよ。おじいちゃんとおばあちゃんはもう寝ているのですから」

「いやそうだけど!まず全ての根源がどっかにいってくんない!?少なくともこの部屋じゃなくていいだろ」

「そんな……私と一緒は、いやですか?」

  上目遣いで、俺の布団を抱きながら言った。

 

「話を反らすな」

 

  俺への効果はいまひとつだが。

 

「むー、女の子に冷たい返しです。さては彼女いませんね?」

「何故精霊に恋人事情を語らねばならんのだ。いいから、もうその布団持ってってもいいから、この部屋から出てくれ」

「まさか図星でふっ」

  腹が立ったので枕を投げつけた。

「やりましたね!お返しです。それっ」

「おいおい遊ぶなよ、俺はそんなつもりじゃ―――」

 

  彼女が投げた枕が俺の耳元を通り過ぎた。

 

  ブォン!という風を切る音がした時には、既に枕はバァシィン!と壁に当たりポスンと床に落下していた。

「………」

 

「次行きますよ~」

「―――いや待って、今の絶対枕を投げた音じゃない。枕の出せる音じゃない!こんな所で精霊のスペック出すなよ!?」

「ほらほらまだいきますよ~?」

「いや聞けって……つか何でまだ持ってんだよ!?枕は一つだけだろ!?」

「私の精霊の能力ですよ。物をコピーして造り出せるんです」

 

「へぇ―――お前今さらっと凄いこと言わなかった?

 

「話は後です!一緒に寝るまで枕を止めませんよ!」

「いや、何で!?まっ……あぁぁぁぁ!!!」

  その後、同じ部屋で寝ると口に出すまで枕の雨は降り注ぎ、俺は二度とそば殻枕を使わないと決めた。

 

痛い。

 

 ◆◇◆

 

  翌朝。

「昨日は楽しかったですね~?」

「……」

「無視しないでくださいよ?」

 

  おい、今ご飯噛んでるんだから揺らすな。

  まぁ無視したいのも事実だけど。

 

  すると、ばあちゃんが向かいのテーブルから俺の顔を覗き込むように見る。

「……それにしても祐君どうしたんだい?その目の下の凄いクマ?」

「………」

 

  俺は依然としてモグモグと顎を動かして「今喋れません」アピールで返す。

 

  結局、昨日の俺は満足な睡眠を取れなかった。

  というか異性が部屋で寝ているシチュエーションで寝られるわけがない。そこまでのプレイボーイな経験など無い。

  なにも起きなかったことに心配よりもむしろ称賛してほしいんだけど。普通に思春期真っ只中なんだけど。

 

 すると、じいちゃんがばあちゃんの肩に手を置いて追及を止めた。

 

「ばあさん。それは聞いちゃあいけねぇ...祐も大人の階段を上ったってことさ、静かに見守ってやるのが大人ってもんじゃよ」

 

―――せめて別の場所にしてほしいものだ。何故俺の目の前で話す。無駄に良い顔で「お前も男だなぁ」とか言わないでくれない?サムズアップしないでくんない?間違ってるから。

 

  どうしよう。どんどん誤解が加速していく。

 

  漸く飲み込み、空いた口で弁明を図る。

「違う、単に枕で殺されかけた挙げ句に脅迫されただけ」

「なにそれ酷くないですか!?」

「なら否定してみろ」

「………」

 

  ちょいとそこの精霊さん。何故明後日の方を向くんだい?

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