気のせいか想像より閲覧数が多い。
確認するもののよくわからない。
………(・・;)?
この作品は原作知識がほぼゼロ(アニメのみ)なんで保険かけて細々とやりたいんですがね
出来てます?
唐突だが。
―――人というのは、あまりにもはかれない生物だと思う。
人それぞれの価値観と視点で物事に着目して、それで他人と衝突する。そこで相手の案を飲み込めるかどうかで人間関係は構成されていくわけだ。
だが、たまに。自分のものさしを相手に否応なく押し付ける者もいる、それはなんとかして格好よく言えば『信念がある』『自己表現に長けた』と言えるし、ダサく言えば『頑固で偏屈』『押し付けがましい』とも言える。
ものは見方によるが。それがあまりにも多すぎて、少なくとも俺は、人間というものがあまりにも計りにくく感じる。
「―――散歩にいきましょう!!」
そして、もはや居候と化した。かつて大陸を滅ぼしたと言われる『精霊』の一人が俺の祖父母の家にいる現状は、そんな人間関係以上にわからない。
まぁ、要するにただの俺の現実逃避なんだけどね。
―――既に、精霊が棲みついて何も起こらずに数日が経っていた。
「朝起きた開口一番がそれかよ……?」
「えぇ、えぇ。祐君、わかっていますよ!まずは朝食なんですよね!?」
「いやそれお前の願望。それと、ばあちゃんは今の時間寝てるから飯はまだだぞ」
「そう思って私、ご飯作ってきました」
「何その無駄に早い用意っ……マジでいるんだ。皿の上に地獄創れる奴。なに精霊のスペックこんなところで発揮してんの?」
「何か言いましたか?あぁご心配なく、祐君の分も作りましたよ!速くいただきましょう?」
「……いただくって何、貴方のお命頂戴的な?」
皿の上には、わかりやすく地獄絵図が乗っかっていた。
赤黒く原型のとどめていないモノが、まるでマグマのようで、しかも心なしか『アァァァァ』という声が聞こえる。つーか声だこれ、断末魔的な。
俺がそう言うと、リズは首をかしげた。
「何言ってるんですか?まだ寝ぼけてるんですか?」
「そうだな。これが夢オチであれば泣いて喜ぶ所だが、生憎と朝には強いんだ」
「なら食べましょう!」
「まぁ待てよ。もう正直に話すが俺にはこれが劇物にしか見えないんだ。精霊のお前ならまだしも、食うよりもむしろ喰われると思うんだが」
「なっ……乙女心に傷がつきました」
ヨヨヨ、と口元を手で覆う。
「―――お前の乙女心?俺の命よりは安いな」
「む、そんな男気の無い事ばかり言うから彼女が出来ないんですよ!」
「俺の男気よりもお前の正気を疑うわ……え?何故俺に彼女がいないと思ってるんだ?」
「え、いるんですか!?」
「いないけど」
「……」
何だその可哀想な者を見る目は、失礼な。
―――つーか目の前のセラミックな乙女心よりも俺のガラスハートの方が確実に傷ついてるわ。
俺は大きく嘆息を漏らした。
「……わかったよ食えばいいんだろ。つーかこれおかしいだろ、材料に何入れたんだ?」
「っ……えぇとですね!台所にあったものとりあえずほぼ全部入れました!」
「―――よっしお前先に食え。この兵器に精霊の胃袋が耐えられるか見てみたい」
先端が溶けた鉄のスプーンをそっと横に置いて、俺はおばあちゃんに何て言い訳するか考えることにした。
結局食べたかって?くっっそ不味いならまだしも鉄溶けてんだぞ?食えるか。
◆◇◆
結局、朝食は我らがばあちゃんがやりくりして済まし、現在。
「……んで、誰かさんが使い果たした材料の買い物がてら散歩、というより街に来たわけだが」
「わぁ!人が沢山ですね!」
「はしゃぐな、恥ずかしい」
たかが数日程度の付き合いだが、何となくリズについてはわかった気がする。
―――バカというより見た目の半分くらいの精神年齢だなぁ、と。大分失礼だが概ね間違ってないと思う。
「ま。じいちゃんが車で迎えに来るまで時間もあるし、適当にぶらつくかな」
「散歩ですね!?」
「そうだけどさ。自重しろよ頼むから……おいやめろ、言い出したそばから子供みたいに走り回るな。連れだと思われたくないでしょうが」
早速、心配だ。
そんな俺は半ばリズに引っ張られながら、街一番の大きなデパートに着いた。
「ふぅむ………祐君、これどう思います?」
「―――個人的に
「わかりました!なら着てみますね」
「話聞けよおい。つかやめて、俺を一人にしないで」
俺の制止に構わずリズは試着室に行ってしまった。
俺はそっと一息つき、周囲を見渡す。
「……」
ヒソヒソと話し声が聞こえると、どうしても自分に向けられているのではと錯覚してしまう。
気にしすぎ?そうかもしれないが、女性服売り場に引き摺られた挙げ句残された男の気持ちは計り知れない。まさか自分が体験する事になるとは思ってもなかった。
視線を向ければ女性服、奥を見れば下着コーナー、当たり前だが周囲には女性しかいない。
―――あ、いや一人男性がいた。鼻息を荒くして下着売り場に向かっている。
見なかったことにしよう。あれはネットで買い物を出来る今の時代では見れないレアな光景だが忘れよう。
一通り見た俺はこの状況に一言呟いた。
「やっぱ帰りたい………」
俺はコンビニで買ったガムをポケットから取り出して、銀紙を剥がし噛むことにした。気を紛らわしたいが為に。
ちなみにボトル型に入っているコンパクトな厚い長方形のではない。板ガムというのだろうか?それが好きである。何か最初に噛んだ噛みごたえが好きなのだ。
そうやって現実逃避しながら、この空間から自分の存在を希釈していると。
「―――あれ、ユー君?」
背後からリズじゃない、だが聞きなれた呼び名と声が聞こえた。
「っ」
振り替えると、長い栗色のポニーテールが先に目についた。
次に顔、白いインナーに茶色のカーディガン。そして青い丈の短いスカートと、恐らくオシャレなのであろう格好が目につく。
俺は彼女の名前を呼んだ。
「……神谷?」
神谷 恵―――彼女は俺の同級生であり、学校の準アイドル的存在である。何故準なのかというと、顔立ちというより、多分『どっち付かず』な俺と話しているのが原因だが。
クラスメイトに極端に好感度を気にする奴がいるので、色々裏で言っているとはよく聞く、そして俺は『なにそれ、女怖い』と毎日怯えているわけだが。
俺が名字を呼ぶと、彼女は笑った。どこか寂しそうな笑みで。
「も~恵って名前で呼んでって言ってるのに。それにしてもユー君こんなところにいるなんて奇遇だね―――とうとうムッツリから欲望を抑えきれなくなったの?」
そして、ニタニタとした意地悪な笑いに変わった。
「出会って秒でぶっ飛ばしてきたな神谷……確かに俺が女性服エリアにいるのは不自然だが。お前の中に俺が女の連れと来たという発想はないのか?」
「えっ………ユー君に、連れ?しかも女性!?」
目を丸くするとはこう言うことか。俺は目の前で驚く神谷を見て納得した。
――― というか。
「流石に間が長すぎると思うんだけど、え。そんなに俺って愛想ない?」
「……いつも『人の笑顔はマニュアルだ』って言ってるよね?」
「いつもじゃない。三日に一回くらいの話だよ」
いや、案外『どっち付かず』というよりも単に『捻くれている』だけか。自覚しても直さないけど。
「十分すぎるよねそれ……!それにしても、へぇ~ユー君に女かぁ」
神谷は遠い目をした。俺は女のネットワークはWIFIを優に越えると聞いているので、先に釘をさしておく。
「勘違いするなよ。あくまで連れだ」
「あくまでも連れと女性服の売り場まで来るかな?」
「それはあれだ。アイツのアスリート顔負けの、逆らうことのできない腕力によって引き摺られっ―――」
「ええっ!?」
急に背後、試着室からハンガーが放たれて俺の後頭部に当たった。
というか、うなじの辺りに軽く刺さった。
「―――このようにハンガーを投げつけてくる女を、それでも神谷さんは彼女と呼ぶのかね?」
「え、いや……それよりも私としては頭から流れてる血の方が気になるんだけど」
何?血が流れているだと!?
「っマズイ!神谷ハンカチ持ってないか!?服にかかったら弁償になる!」
「そこ!?ていうか私のハンカチが血だらけになるのはいいの!?」
「ぶっちゃけて神谷のならいいと思ってる」
「酷くないかな……!?まぁ、洗わないからいいけど」
そう言いながらも渡してくる彼女は、良い人なのだろう。
―――いや待って、この子『洗わないから』とか言った?もしや人食べてたりする?血の付いたハンカチ鼻に押し付けてトレビアン!とか言ったりするタイプ?
「手当てするから、じっとしててね」
冗談はさておき、そう言った彼女の手際が妙に良い。
何故か神谷が持っている包帯を、姿勢を低くした状態で巻かれながら、そんな事を思った。
「マネージャー歴でもあったのか?」
「ううん無いよ、どうして?」
「やけに上手いなと思うからさ、血とか見ても全く動じないし」
「―――っ」
すると、一瞬だけ神谷の手の動きが止まった。
俺は眉をひそめる。
「神谷?」
「………それにしても、どうしてまたユー君が街にいるの?確か山の中にあるお祖父さんの家に泊まってるんじゃなかったの?」
すると、半ば強引に話題を変えられた。
踏み込まれたくない事情のようである、ならばこちらも噛み付くよりも乗っかろう。それが礼儀だと俺は思ってる。
「神谷の言うとおりだよ。でも朝作られた皿の上が地獄絵図になった挙げ句冷蔵庫が空になったからその犯人と一緒に街まで買い出しに来たんだ」
「―――成程、ごめんさっぱりわからないかな?」
でしょうね。意地悪してしまった。
「まあ。まとめると買い物ついでの散歩だな」
「へぇ、それで?連れの人って誰なの?……あ!やっぱり彼じ」
「―――従姉ですね」
「そうなの?ユー君に従姉がいるなんて聞いたことな」
「従姉です」
「でも」
「従姉です」
「………うんわかったよ。従姉さんなんだね」
「理解してくれて何よりだ」
「ねぇねぇ、その人って歳上なの?」
妙に噛み付いてくる。まだ甘噛み程度だが、なんか力が強くなっている気がした。
―――というか迫力がある。これが異性関係を探る女子か。
「それは見た目か?精神年齢なら小学せっ……お前このやろういい加減にしろよ!?痛いんだぞ普通に!」
『……』
二つ目のハンガーが飛ばされた。今回はそれなりに加減されていたのか刺さらずにぶつかった頭から跳躍して明後日の方向に飛んでいった。
苛立ちを隠せずに叫ぶと、返ってきたのは沈黙だった。
神谷は苦笑する。
「ありゃりゃ、どうやら邪魔してたみたいだから。ここで私はお暇しようかな」
「そうか?じゃあな」
「うん、またねユー君!」
神谷は手を振って消えていった。
そして、入れ違いの形でリズが出てきた。
何というか、なんとも言えない形相で。
「……おい、何だその目は?」
「あの人と随分と仲良いんですね?ユー君なんて呼ばれちゃって」
「まぁ、俺の数少ない友人だからな……というか服は?着替えなかったのか」
「フン!どうせ買わなくても想像すれば着れますから大丈夫ですよ。それに……どうせ私は人一人引き摺る事なんて朝飯前なゴリラですよ~だ」
腕を組んで、そっぽを向かれた。
想像すれば着れるって何?ならここに来なくて写真でよくない?
まぁ怒りを加速させても無意味だから言わないけど。
「あれか?仕方ないだろ、精霊だなんて言えないんだから」
「それでもあの言い方は悪いです。とても、えぇとても。従姉というのはギリギリ許してあげますが、お姉ちゃんは無しですか?」
「何に怒ってるんだよ…………あ、時間としては早いけど昼飯にでも行くか?」
「―――行きましょう!!パンフレットで行きたい場所は全てメモしてありますから!」
「おい食いしん坊。さっきまでの怒りはどこ行ったんだよ……まて全部?何軒回るつもりだお前!?」
ちょろい、ちょろすぎる。
何かマニュアルみたいなの作れそう。
◆◇◆
既に夕焼け、俺とリズは公園のベンチに腰掛けていた。
「いや~しかし遊びましたね!」
「………そだね」
嬉々として話しかけてくるリズに、俺は力なく答えた。
「あれ、祐君どうしました?」
「疲れたんだよ……お前、スタミナありすぎだろ?」
「祐君が無いんですよ」
「インドア派なのは否定しないけど、いやほぼ一日遊び回るのは絶対におかしい」
むしろ俺以外の奴なら倒れてるんじゃないか?遊び回れるのが普通なの?非リアの俺がおかしいの?
「人のわりに遊技場にも詳しくないですし。さては祐君、人生を謳歌してませんね?」
「うるせっ、俺には俺の楽しみがあるんだよ………ってか知ってるか?ビリヤードって玉を人に当てるゲームじゃ無いんだぞ?」
被害者は誰か、言わずもがな。
「なっ。それは謝ったじゃないですか……!まぁその後も色々壊したんですが、まぁ脆くて壊れる方が悪いのです!」
「お前は加減と自重を覚えろ!途中店員さん涙目だったからな?」
ちなみに俺は影で泣いた。
折角ばあちゃんから『余ったらお小遣いにあげるわぁ』なんて言われて渡された金額に驚き、ホクホクしてたのに。殆どプラスマイナスがゼロになってしまった。
―――もしやマイナスにならなかったのは見越してだったのだろうか。
だったらばあちゃんが何者なのだろう。
そんな事を思いながらふと時計を見て、俺は立ち上がった。
「そろそろ迎えの時間になるな。ほら帰るぞ」
「っ……はい!」
そう言ってリズは立ち上がり無理矢理俺の手を交わらせ、そして引っ張る。
―――握る手はそこまで強くないが、放してくれそうにもない。
「っ何だよ?」
「なんでもないですよ~」
鼻歌混じりな彼女は、きっと何かがあったんだろう。終始俺の目が間違ってなければ、楽しそうだったし。
……まぁ、俺も少しは楽しかったかな。
夕焼けに反射し、揺れる淡く青い髪は、不思議とよく映えていた。
「今日の出来事はデートと言うのでしょう?店員さんから聞きましたよ~?こんな美少女とデートなんて祐君も幸せですね!」
「………お前みたいな台無し系女子と一緒にいる俺の気持ちを察しろ」
「酷い!?」
幻覚だな、うん。
「……ユー君」
◆◇◆
夜、寝静まった森の中を俺は一人で歩く。夜の森の中といっても。懐中電灯もあってぼんやりと道が見えるので迷うことはなく、熊もいないので襲われる心配もない。
耳に届くのは虫の音色のみ、とても静かな空間だ。
いつも通り、静かなのだが。
「毎年より無駄に静かに感じる……」
ボソリと呟く。急にうるさくなったせいだろう。主に原因は今俺の部屋でスゥスゥと寝ている奴なのだが。
「そういやアイツ、いつまで居座る気なんだ?」
まさかずっとは無いだろう。じいちゃんばあちゃんは全然オーケーだろうが俺だって男だ、ずっと異性が部屋にいられては精神的に辛いものがある。
何故か部屋の外に逃がしてくれないし。健全な男子なのに。それに精霊には帰る場所はないのだろうか。黒い空間にーとか言ってたと思うが。
少なくとも、明日突然消えるなんてことはないだろう。
―――よし、明日の俺に任せよう。
思考を切る。
景色を楽しむこの場所では、考える事は邪魔だからな。
ようやく、開けた場所に出る。
綺麗なんだよなぁ……この景色。
―――頭上に広がるのは満天の星空。
月と星々が暗い世界を柔らかく照らし、そして視線を下げれば木々の間がら、色とりどりの街の灯りが映る。
そして、耳を澄ませば虫達が音楽を奏でる。
小さい頃にじいちゃんが手を引いて見せてくれた、この景色。
感動した俺はそれから毎年の夏休み、一人でここに来る。じいちゃんばあちゃんも特に危険は無いので黙認していて、なんならたまに月見でもしてこいと称して餅を作ってくれた。
一緒に見るのは後でいい。俺はこの景色を、一人で見たいのだ。
悩みが全部吹き飛ぶような感覚。じんわりと胸が暑くなり、子供の頃に持っていたワクワクがこの時だけは少し帰ってくる。
一人で見たい、か。でも祖父母以外の誰かといればどんな感情なのだろうか。
例えば、あり得ないが……
「ユー君」
しかし、そんな俺の感動は背後から声に消された。
聞き覚えのある声、振り向くと、栗色のポニーテールが映った。
「っ―――神谷?」
俺は自然と彼女の名を呼んだ。
彼女はどこか仮面を被ったようで、むりやり感情を押し殺している様に見える。
………この時、俺はどんな表情をしていただろう。
何故ここにいるのかという驚きだろうか、景色を邪魔された怒りだろうか。それとも見たことない彼女の表情の理由や状況がついていけずに呆気に取られていたのだろうか。
俺の表情はわからないが、彼女はやはりどこかやるせない表情だった。
悲しそうな、今にも泣きそうでその気持ちを抑える、そんな表情。
それでも彼女は、そっと笑った。
「……素敵で綺麗な景色だね。隣座って良い?」
「っあ、あぁ」
「うん、ありがとう」
そう言って俺のすぐ隣で三角座りをして草に臀部を乗せる。
何故だろうか。
―――とても、居心地が悪かった。
「な、なぁ神谷」
「ユー君、従姉から離れて」
「っ」
彼女の方に視線を向けると、彼女は真顔で俺の目を見ながら言った。
「ごめんね?いきなりで、何言ってるかわからないと思う。でも聞いてほしいの、お願い」
「……」
沈黙を了解と取ったのか、彼女は言葉を紡ぐ。
「……精霊って、知ってるよね?私達の世界に突然現れて、たくさんの無実の人の命を奪った存在・・・人類の敵」
「……それで?」
「ユー君と会ってから、ゴメンね。実は監視してたの――内緒にしなくちゃいけないんだけど、私ってそういう機関に所属しててさ。変な質問だけど、ユー君の従姉さんって、本当に従姉なの?」
ここで彼女の瞳は少し揺らいでいた。
彼女はまさか、俺の家系図全部調べて従姉なんていないことを調べたのだろうか。ストーキング機関とやらは大分幅が広いらしい。
少なくとも俺が意図的にリズの事に関して嘘をいっていることには、多分気づいている。それは付き合いから彼女は妙な場面で変に鋭いからだ。
会話の流れ的にもリズが精霊だと、見当もつけているのかもしれない。
そして、その機関は『精霊を殺すか無力化』する事が仕事だと考えるのも、妥当かもしれない。少なくとも、その戦力は持っていると。
俺は少し間を置いて、答えた。
「……そうだな、それは間違いだったな」
「!っなら―――」
「従姉というより、出来の悪い姉だ」
一瞬だけ、喜びに満ちた顔が一転。
「えっ……ユー、君?」
崖から突き放されたような、そんな顔になった。
罪悪感に苛まれる。だが、俺は続けた。
「馬鹿で世間知らずで、その割りに変にお節介で。体力あるがままに俺を振り回す……そんな奴だよ」
「!ちょ、ちょっと待ってよユー君―――本気なの?」
「あぁ、俺は正直に生きてるつもりだよ」
「あの人は………精霊、なんだよ?本当は、わかってるんでしょう?」
「知らないな」
「嘘……嘘でしょ?」
―――神谷は、受け入れたくないとばかりに小さく頭を振った。
「ねぇ…………ユー君。私と初めて会ったこと、覚えてる?」
「そりゃあ、学校だろ?本読んでたら何を読んでいるのかと神谷が聞いてきて、それから友人になったんだ」
「うん。良かった、覚えてるんだね」
「俺の数少ない交流だからな。急にそれがどうかしたか?」
「ううん。何でもないよ……ユー君はお姉さんが好き?」
「唐突だな、別に普通だよ」
その普通を俺は知らんけど。
「うん、うん。そっ、か……じゃあまたね、ユー君……ごめんね」
そのごめんは、どっちの意味なんだろうか。彼女はゆっくりと立ち上がって、来た方向に消えていった。
俺の一人の時間を邪魔した事なのか?それとも―――
心地よい静寂は、もうそこには無かった。
◆◇◆
帰ってきて家の布団に入ると、背後から声が聞こえた。
「遅かったんですね」
「……まーな、ていうか起きてたのか?」
おかしい。おかしいと言うのは短い期間にこの状況に適応した俺でもあり。そして、全くそっちの事にに意識が向かない俺でもある。
「寝付けなくて、ほら。私って祐君と一緒じゃないと寝れないじゃないですか」
「聞いたことねぇよ。お気に入りの抱き枕か」
「そう言っても、今は同じ布団の中ですがね」
「うるせぇ……っていうか今更だが、お前いつ寝巻きに着替えたんだ?そのパジャマも造ったとか?」
「そうですね。これはあの鎧を変えたと思ってくれればいいですよ……服売り場でも言いましたよ?ちなみにデザインは祐君が持っていた『ドキドキ!パジャマ女子』から抜粋しました。パジャマ系女子が好きなんですね?」
「―――待って思わぬところで俺の性癖暴露しないでくんない?いや通りで見覚えあると思ったよ」
いいじゃんか。パジャマ女子。
何か少し警戒心が抜けてるというか、気楽そうというか、ホワワンとした感じが。
クスクスと笑っていた背後から、声が紡がれる。
「ねぇ、祐君」
「何だよ?」
「―――精霊は、怖いですか?」
「!」
先程とは違う。低いトーンで言った。
「起きたら祐君がいなかったので、申し訳ないんですけど起こしておじいちゃんから、あの場所を聞きました」
「じゃあ、あそこにいたんだな……それで、どこまで聞いたんだ?」
「私が精霊だと、彼女にばれた所でしょうか」
「そうか。俺の友人はどことも知れない機関の者らしいぞ、エージェントだったらまるで映画みたいだよな」
だったら俺は巻き込まれヒロインかな。
―――あれ?性別というか色々逆じゃね?
「そう、ですか。ならきっと、本部の人達が明日にでも来るかもしれませんね」
「かもな」
「彼女達にとっては。私はやはり化け物なんでしょうね」
「……」
「街の皆が私の正体を知ったら、怖がるんでしょうね」
「―――人っていうのは、自分が許容できないものを怖がる生き物だからな」
「そう、ですよね」
「それにな。俺も皆も、きっと普通が大好きなんだよ」
「……?」
「勝手なんだ。普通じゃない事を望んでおいて、いざ普通じゃなくなったら『やっぱり日常がいい』って思うんだ。無くなってからじゃないと大事な物に気付けないんだってよ?人っていうのはきっと、そういう生き物なんだ」
「……」
「俺はごく普通の一般人で、五体満足に生まれて、健康のまま生きて、毎日三食食えて、寝る空間があって、帰る場所があって、十分すぎる幸せを感じてればそれでいいと思うんだよ……だからそれを壊されるのは、やっぱ嫌いだ」
「っでは、私は嫌われてるんですね。祐、君の日常を。壊してしまいましたから………!」
震えているのがわかる。きっと慰めるべきなんだろう。
―――しかしそんな器用な真似は出来ない。俺は嘘はいうのもいわれるのも嫌いだ。だから正直に言おう。
「バカ、嘗めるなよ」
「へ?」
「周りは知らんけど―――俺の日常はそう簡単には揺らがねぇよ?例え畑が爆発しても、見知らぬコスプレだと思った女が勝手に家に上がり込んで仲良く飯食った挙げ句俺のすぐ背中で寝ようと、明日になって笑っていられればそれは『日常』だ」
一息置き、言葉を紡ぐ。
「―――明日の俺が笑える限り、俺はお前が怖くない」
「っ……変な人ですね、祐君は」
「それ、お前にだけは言われたくなかったよ」
ふと、背中と腹に違和感を感じる。
横腹から腕を通されて、抱きつかれているのだ。なんというか柔らかい感触が、背中を通して伝わってくる。
―――待て落ち着け大丈夫だ問題ないぞやればできるぞ俺。
何をやるんだ?ヤルノカ?ヤレネェナ。いやとにかく色々不足している俺にはこれは刺激が強すぎる!
すると。大分近い、背中の方から声が聞こえた。
「……少し、私の話をさせてください」
「っ?」
「私はこの世界に生まれてきて、多分そう時間は掛かってないんです。他の記憶もありませんし、何故か能力とか力とか、そういうのは頭に残っているのですが、他はさっぱりなんです」
「……」
「そんな中で生まれて。最初はおじいちゃんを見ましたが、今の私では考えられないくらいまるで興味がありませんでした……変に騒いだりするなら、いっそ。と思うくらい」
「っ」
「そんな中、ふと美味しそうな匂いがして向かってみたらパンがありました。土が付いていましたが美味しくて、そしてそこで―――祐君と出会いました」
「最初は、その。殺そうかなぁと考えていました。敵対するなら、こんなに美味しいものを捨てるようなら……その、殺してやると」
大分、辛そうな口調で。
「でも話を聞いてその気も失せて、まだお腹が空いていたらおじいちゃんが私にご飯を食べないかと言ってくれたんですよね」
「……」
「驚きました。てっきり私は、拒絶されると思いました……それに同時に不思議な感じでした。この人達は、バカなんじゃないかなって」
「ひどい、言われようだな?」
「でも祐君も同じ気持ちだったのでしょう?見知らぬ奴でしかも奇抜な格好をしてる私を家に入れるなんて、おかしいって私でもわかりますよ?」
「……」
痛いところ突いてくるな、コイツ。
「先程現れた彼女は、きっと沢山の仲間がいるでしょう。それも精霊に対応できる武装をした仲間が。きっと私を殺すために。そして、それが『普通』なんでしょうね?」
「……」
「精霊は現れるだけで害悪となる。人々の恐れを買ってしまいます。今はゼロでも、もし……もしもあの時畑の中にまだおじいちゃんがいれば―――」
彼女の体が小さく震えたのが伝わった。
俺だってあの時、その事を危惧して走ったのだ、無駄かもしれないとわかっていても、大切な人が死なないために。
杞憂で済んだから良かったものの、もしも時があったら―――
「そうだな、そうなっていれば。俺は死んでもお前を許さなかったよ」
「っ」
さらに震えた、先程よりも大きい。
「本当に、隠さないんですね……わざとですか?」
「この数日間で学んだろ?それに。隠さなくてもわかる事だ」
「………ごめんなさい」
その言葉の後に、背中を小さく引っ張られて、胸の反対側辺りに、リズが顔を埋めたのがわかった。
何故だろうか。やはり俺という健全な男にはたまらないシチュエーションの筈なのだが、一応それなりには健全な筈なのだが。
―――どうして、胸は高鳴らずに靄がかるのだろう。
目の前にいる彼女は、人類の敵と言っても過言ではないのだろう。事実力があって、無意識にでも破壊してしまう。
しかし。どうしても俺には、目の前の彼女が『得てしまった何かを逃さまいと必死になっている少女』のように見える。そうとしか見れない。
精霊として、恐らく彼女は『普通』じゃない。いや普通じゃなくなってしまったのかもしれない。
いやそもそも、精霊自身は、リズの様に人のような人格があって。性格も十人十色なのかもしれない。
それはきっと、ナイフをもって産まれた子供のようだ。
無垢の白さゆえに、扱いは知らないがが周囲はそれを異常として、危険ゆえに、それを消そうとする。
性悪説とか性善説とかじゃなく、そのナイフを持つことが彼らの理解を越えて、危険なのだから。
「お前は、どうなんだ?」
気付けば、俺は口を開いていた。
リズが、顔をあげる。
「?……どういう、ことですか」
「お前にとって、人間って何だ?」
「っ」
その言葉に、さらに強く抱きつかれた。
うん、柔らかいけど流石にちょっと痛い。シリアスな空気だから言わないけど。
「……わかりません。最初は、やっぱり興味もありませんでした。敵対するなら、それ相応の対処だってする気、程度です」
「それで、今は?」
「今は。祐君達と会ってから……興味を持って、そして。名前を貰いました……楽しかったです。少しだけなのに、まるで昔から一緒だったみたいでっ」
彼女が顔を上げ、俺の背中を濡らしながら、訴えるように叫ぶ。
「私がおかしいんでしょうか?生まれたばかりだから?自意識を持ったばかりだから?胸に沸き上がるこの感情は変なんでしょうか?」
「おかしいかどうかは二の次だ……俺が聞きたいのは、お前がどうしたいんだ?」
「―――一緒にいたいです。もっと三人の事を、祐君の事を知りたいです!」
そして、噛み締めるように。
「―――居なくなりたくないです………っ!」
「……ハハ」
俺は、内心で良しと言っている自分に苦笑した。
「そこまで言えたなら上等だよな。やるべきことは一つだ」
「ぇ……?」
俺は無理矢理リズから離れ上体を起こして立ち上り、徐に着替え始めた。視線が痛いので上だけだけど。
「祐、君?何ですかその体―――?」
「ん、コイツ?じいちゃんにボコボコにされた体だよ。竹刀持つと人変わるんだよなぁじいちゃん」
「?、?」
あ、そうだ。
俺はドアに向けて声をあげる。
「じいちゃん!ばあちゃん!今のリズの言葉聞いたろ?」
すると、ドアがキィと空いた。
「え!?」
「……ホッホッホ、ばれておったか。しかし若いってのはいいのぉ」
「そうですねぇじいさん。でも私達の可愛いリズちゃんを奪おうとするなんて……お仕置きが必要ねぇ」
「まぁ平然と聞き耳たてる二人も大概だけどね?さて、お客様のために準備しようぜ?いつ来るか知らんけど」
「籠城かのぉ。久し振りじゃ、若い頃を思いだすわい」
「なら私は夜食でも作ろうかねぇ、応援するよ」
じいちゃんは不敵に笑い、ばあちゃんは階段を降りていった。
おいてけぼりになり目を点にしていたリズが、俺に向く。
「え、えっと?祐君、何して―――」
「ん?あぁじいちゃんは元軍人でな、俺がガキの頃はよく絞られたし、なんかその頃の癖で色々持ってるし、色々出来るんだよ……いやぁマジで平和って素晴らしいよな」
たまにじいちゃんの語る話の内容はあまりにも重く、そして俺の考えの指標になる。
「い、色々?平和?そうではなくて、何をしようとしてるんですか!?」
「―――徹底抗戦」
「は?」
「お前の本心も聞いたし。やれるだけは、な?」
俺はじいちゃんと似た笑みを浮かべた。
我が儘通して何が悪い?自分の望むままに生きて何が悪い?
例えそれが世界を滅ぼす精霊だろうと。
もう、リズは俺にとって赤の他人じゃないんだ。
世界戦争なら他所でやれ、崩壊も勝手にしてれば良い。
――だがそれらで俺の日常を壊すもの。お前だけは駄目だ。
俺は生憎と未熟だから、自分のことしか守れない。
兵と親元を離れ駆り出され、国のために命を投げた兵士たちを、俺は到底真似できやしない。
だからと言って、はいそうですかと日常を割り切る訳もない。
「軍だか秘密組織だかしらんが付き合ってやるよ、最後まで。先に折れた方が負けさ」
俺は黒い薄めのジャンバーを着て、言った。
「―――さてと。ちっぽけな俺達の
あ、ダメだ。空気に乗せられて調子乗ったけどメッチャはずい。
◆◇◆
ほぼ、同時刻。
『……神谷か?例の件について何かわかったのか?』
「はい。新たな精霊の正体と、隠れ蓑にしている場所を突き止めました」
『そうか。よくやった、大雑把に教えてくれ』
「はい、精霊の髪は青く短髪……そして『記憶の操作や洗脳の類い』が出来るものと思います。現在隠れ蓑にしているのは、山奥にある家の老夫婦で、そこには今夏休みということで高校生一人が同居していてます」
『洗脳だと………?すぐに支部に戻り情報の明細を共有しろ……場合によっては今夜すぐに出る。精霊がその家族を襲う可能性は?』
「……かなり低いかと、推測します」
『なら出は明日の明朝だ。十分に準備させてから精霊を排除する、洗脳されていると思われるその一般人三人は拘束させる。何するかわかったもんじゃないからな』
「はい、わかりました」
『ではお前も休め。後は監視班に任せる』
「で、ですがっ」
『ただでさえ戦力のお前が監視に着いたことを容認してやってるんだ。こちらの言うことも聞け』
「……はい」
『しかし、高校生のお前が夏休みを謳歌しないとはな。精霊にそこまでの恨みがあったのか?まぁいい。連絡は以上だ、切るぞ』
「はい、失礼します」
「……ごめんなさい」
神谷恵は、一人そう溢した。
―――それは、誰に言ったものなのか。