IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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プロローグ、あるいは希望

 

俺は死んだ。いきなりなんだと言われるかもしれないが一応聞いておいてほしい。話半分でも全く構わないしな。

 

名前は桜道(さくらみち)一哉(かずや)。高校を卒業したばかりの新大学生だった。ついでに浅く広いオタク知識を持ってはいるが、浅いために回りのオタクたちの話にはついていける気がしない。その程度だ。

 

で、簡単に死因を言うと、なぜか上空から豆腐が落ちてきて頭に直撃。高所から海に叩き付けられると人の体など簡単に粉々になってしまうことはよく知っていると思う。

つまり、本当に豆腐の角に頭をぶつけて死んだわけだな。

そして死んでいるのに何故こうして考え事ができているのかと言うと、目の前にいる爺さんが原因らしい。まあ、よくあるミスで殺してしまいました、ってやつかね?

 

「その通りじゃ。本来ならあれで死ぬものなどおらんはずじゃった……と言うか、あれ事態が起きなかったはずのことなんじゃ」

 

へー。

……で、おわびに転生させてくれるとか?

 

「うむ、その通りじゃ。チート能力も……まあ、儂程度ではたいした能力は与えられんが、一応用意しよう」

 

……へー。

たいした能力じゃないチート、ねぇ…………結構ムズくね? 別にいいけど。

幾つまでとか制限はある?

 

「……最大で五つまで。それ以下ならばいくつでも構わん」

 

へー。大抵三つなんだけど、太っ腹。

 

……じゃあ、ネギま!に出てた、俺の思う千の顔を持つ英雄と、千の顔を持つ英雄を自由自在に操ることができる身体能力。後は……そうだな。リリカルなのはに出てきた戦闘機人の五番目、チンクのISのランブルデトネイターでも貰おうか。後は………幸運Bくらいと健康で。

 

「……欲の無い奴じゃのぉ……普通は無限の剣製とか王の財宝、最近じゃと大嘘憑きなんかを頼む者が多いんじゃが……」

 

へー。それってチートすぎだろどう考えても。できれば逃げ切る程度の能力とかもあればいいけど、それも使い方ではかなりチートだしなぁ……。

 

で、これはできるのか?

 

「……能力についてはできるのじゃが…………困ったのう。すべての能力を合わせても用意しておいたスロットの半分も使われてないわい」

 

へー。なんかそれ困るのか?

 

「儂はの。……なら、後は儂が適当に関連するものを詰め合わせておくわい。副作用のありそうなものは入れないでおくからの」

 

へー。そいつはありがたい。

 

「……最後に、これからお主が転生する世界を選ぼうかの。ほれ、籤を引くがよい」

 

へー、籤式なんだな。何でもいいけど。

 

……ああそうだ。悪いんだけど、俺の性別男でお願い。転生で転性なんて洒落にもならん。

 

「構わんよ。どうせがらがらのスロットの空きがほんの少し埋まるだけじゃしの」

 

へー。そんだけなんだ。ありがとさん。

 

…………どこに行くのかね?

 

 

引いた籤を開いて、そこにかいてある文字を読む。

 

IS〈インフィニット・ストラトス〉

 

へー、ISか。…………よし、原作に関わらない場所で静かに生きていこう。趣味の昼寝ってか睡眠できるだろうし、俺はISの才能は望んでないから動かせるなんてこともないだろう。ガンダールヴとか選んでたら動かせて大変なことになんだろうけど、俺には関係ないね。

一日十五時間睡眠を目指すぜ!

 

「……ふむ。成程。…………それでは、達者での」

 

 

爺さんがそう言うと、急に眠くなってきたのでそれに逆らわず意識を落とした。

……おやすみんさい……。

 

 

「……約束じゃし、能力をつけてやらんとの。オンオフスイッチもサービスしてやるとしよう。……む? ちんくと言うのはどれじゃ? ………ええい、纏めてつけてしまえばよかろ。千の顔を持つ英雄はこれじゃったな。たしかあの者の思う千の顔を持つ英雄の能力とは……こうか。で、身体能力じゃったの。…………気は身体能力に入るんじゃろうか? ……入れておけば文句はあるまい。千の顔を持つ英雄の使い手のこの男ほどあればいいじゃろ」

 

 

こうして桜道一哉は、神の手によってどんどんと魔改造されて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生直後、別名絶望モドキ

 

俺は転生した。転生前の名前は桜道一哉。哉の字が書きにくくて小学生の頃習字の時間に両親に文句を言いまくった。矢とか也でいいじゃん!と叫んだのも五回や十回どころではない。

 

まあ、そんなことは割とどうでもいい。で、俺はIS世界によく似たところに転生した訳なんだが…………。

 

とりあえず、俺の当初の計画を話そう。

計画といっても簡単だ。何故なら方向と目的位しか決めてないからな。

俺の計画。それは、どうせこの世界の中心は織斑一夏。そして俺はISに乗る才能を欲しいとは思っていなかったし、神にも頼んでいなかった。

よって俺がISを動かせるわけもなく、あとは適当に働いて自堕落に暮らして、最終目的は一日十五時間、惰眠を貪って生きて行くことだ!

 

どんどんどん、ぱふ~。

 

…………しかし、ここで俺の計画に狂いが生じた。

まず初めの誤算は、あの神があまりにもアバウトに能力をつっこみまくってくれたお陰で、明らかに人類の範疇を越えた身体能力と特殊能力を持ってしまっていること。インヒューレントスキル全部なんざ頼んでねえや。

そしてもう一つは……

 

「一夏? どうしたのかしら……?」

 

……俺が織斑一夏だって事だ。

畜生。ハーレムもモテモテ成分もいらねえから睡眠時間をくれ。

 

…………もういいや。諦めた。こうなったらこのまま寝てやる。目指すは変わらず一日十五時間睡眠だ。ちー姉さんが怖いが、なんとかやりとげて見せるぜ…………!

何事もなくこの世界で俺の命が終わることを願って!

 

 

 

結論→無理っぽい。

 

ちー姉さんがブラコン。これはまあいい。ってか、もういい、諦めた。

母さん達がなんか両親揃って裏の組織の人間っぽい。失踪した理由がわかったような気もしたが、これもまあいい。ぶっちゃけ割とどうでもいい。

…………何でちー姉さんはあんな人格破綻者と友人関係になれたのかがわかんない。あの人あれだよ? 俺の事実験動物か何かを見るような目で見てたよ? 超怖いんだけど? これよくないよ? 全く何もよくないよ。極めつけに、なんか俺、両親が所属していた組織に狙われているっぽい。しかも人質として。これもよくない。確実に睡眠時間が減る。

 

…………で、その追っ手から俺とちー姉さんを逃がすために、両親は『家族全員で』旅行に行って、その先で事故にあって来るそうだ。俺を抱きながらそういう話をするのはマジやめてほしい。夢見が悪くなるから。あとなんか涙が止まんなくなるから。

 

ついでに、決行は俺が物心がつく五歳になるくらいだそうだ。ちなみにこの事を知っているのは、恐らく俺と両親だけ。ちー姉さんには言えんだろぉ………俺にも言う気は無かったんだろうけど。

 

 

 

何が琴線に触れたのか、あのいかれマッドなクレイジー博士がいきなり俺に優しくなった。原作一夏と違って俺にはたいしたフラグ製造能力は無いはずなんだがなぁ?

ちなみに、この人は確実にしたくない演技はしないしできないタイプなので、本当になぜか俺を気に入ったらしい。なんでかね?

 

まあ、何でもかまいやしないがね。俺は寝るよ。ちー姉さんに抱かれながら。

最近抱き癖がついたけれど、特に問題はないよな?

 

 

 

桜道和哉改め、織斑一夏だ。ちなみに今年で三歳になったんだが……。

 

 

 や

 

 り

 

 や

 

 が

 

 っ

 

 た

 

  。

 

 

いや、俺の両親が、いきなり手紙残して蒸発したんだよ。いつかはわからんが近いうちにイギリス辺りで電車事故を起こして死ににいくはずだ。年単位で時間は変わるかもしれんが。

確か人を雇って電車を横転させ、事故にしか見えないように多くの人間を巻き込んで云々と言っていたはずだが………巻き込まれる者に、わずかばかり黙祷を捧げよう。

 

…………。

……………………。

……すかー……←寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学校時代、もしくは白騎士事件前

 

織斑一夏……ところで、織斑一夏の織斑って『おりむら』って読み難いよな? IS本編で織斑一夏の紹介の時、『へー、これで『おりむら』って読むのか』って感心した覚えがあるぜ俺は。

ちなみに今、俺とちー姉さんの織斑一家は、束姉《たばねえ》さんの家に厄介になっている。ほんと、頭が上がらないよ全く。代わりに寝るけど。

 

まあ、そんなことは割とどうでもいい。何でこんなことを言い始めたかと言うと、小学校に入学してすぐの自己紹介タイムだからだ。

 

「大半の方は初めまして、数名はお久し振り、約一名にはやっほー、織斑一夏です。好きなことは寝ること、嫌いなことは騒がれること、特技は特に無し、趣味は寝るのにちょうど良い場所を探すこと、ついでにゲーム。よろしくお願いします、そしてお休みなさい」

 

ガタンと着席し、同時に寝る体勢に入る。三秒後には夢の世界へ…………。

 

 

 

目が覚めると、なぜかののちゃんが腕の中に居た。騒いでいたらしく寝惚けた俺に口を塞がれている。周りでいろんな奴が騒いでいるけども、どうでも良いわな。

 

「なんだ、お前そいつの事好きなのかよー!」

「好きで悪いのか? ならお前たちは親の事が好きじゃないのか?」

 

子供の言うことだと思ってさらりと流す。ののちゃんが腕のなかで暴れようとしているが、とりあえず黙らせて耳元で囁く。

 

(悪いんだけど、こいつらに調子に乗らせたくないから今だけ付き合ってくれね? あとでいくらでもボコられるからさ)

 

そう言ったら、不満そうではあったかおとなしくなってくれた。ものわかりの良い子でよかったよかった。

 

まだなんか言ってきている餓鬼を適当にあしらいながら、ののちゃんを抱き締めるのを辞めないでいる。俺も子供だからわかりづらいっちゃわかりづらいんだが、やっぱ温かい。それにやわっこくて感触が良い。

結婚しろとか言ってくる餓鬼に

 

「へー。好きなら結婚するんだ? じゃあお前お母さんと結婚したら?」

 

とか言いまくって、ひたすらのらりくらりと避け続ける。

 

ちなみに授業の時はちゃんと放した。そして俺は授業の時も寝るために、教科書を丸暗記して寝ながら先生の問いに答えたり教科書を読み上げたりしている。先生が熱血じゃなくって助かった。

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

一夏は学校でも眠っている。授業中でもお構いなしに眠っている。

先生が指してどこかの問題を答えさせようとしても、一夏は眠ったまま答えている。しかも、正解で。

 

一夏はいつもそうだ。簡単なことなら眠ったままやるし、難しいことでも眠そうにしたまま終わらせる。

私との試合だって、一夏は半分くらい眠ったまま私の竹刀を受け止め、叩き落とし、眠ったまま面を入れる。

声を出さないから一本を取られたことはないけれど、私が一本を取る時はいつも試合の時間が終わりそうなときだけ。それも、明らかにわざと。

前にその事を抗議しに行ったのだが、一夏はそのときも眠ったまま答えた。

 

『なら、眠くならないくらい強くなってくれ。期待してる』

 

……これを聞いて、私は正直に言ってイラッと来た。つまり一夏は、私じゃあ弱すぎてつまらないから眠っていると言っている訳なんだから。

だから私は決めた。絶対に、一夏を越えて見せると。

そして、いつかしっかりと起きたままの一夏の面に、竹刀を叩きつけてやるんだと。

 

 

……そんな決意を私にさせた本人は、昼になったから起こそうとした私を抱き締め、逃れようとする私の体を巧みに抑えている。

大声をあげようとしたのだが、それを察知したのか一夏は私の口を片手で完全に塞いでしまっているため、声を出せない。

 

……まだまだ一夏には遠いらしい。

 

…………って、顔が近いわ馬鹿者っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学生時代、そしてちー姉さんの涙

 

俺は今でもちー姉さんと一緒に寝ている。ちー姉さんは織斑一夏の両親が居なくなってから雰囲気が若干固くなったが、束姉さんのお陰で少しずつ柔らかくなってきている。

しかし、ちー姉さんはあれで意外と繊細であるらしく、少し夜に起きてみたところ、声を殺して泣いていたことがあった。

 

それ以来、俺は(精神年齢的には一応)年上としてちー姉さんの心のケアをしている。

そうは言っても俺にできることなど、ただ一緒にいて、一緒に眠ることくらいしかないが。

それでも少しは効果があったらしく、ちー姉さんの表情に笑顔の割合が少し増えた。嬉しいことだ。

俺は我儘は言わないようにしているし、自分でできそうなことには挑戦している。ちなみに最近では、一人で洗い物ができるようになった。

 

それと、気付いているとは思うが、俺は基本的に他の人間をちゃんとした名前では呼ばない。理由は簡単だ。ただ、平仮名、または片仮名に直して三文字以上の名前と名字を覚えられないというだけ。

自分の名前とちー姉さんの名前はなんとかこの七年くらいで覚えたが、いまだにののちゃんと束姉さんの名前も名字も覚えていない。。

……し、し……篠野宮(しののみや)とっつきと、篠野宮タバサだったか?

 

「違うわ!篠ノ之箒だ!いい加減に覚えろ!誰が実体剣とは名ばかりの高威力パイルバンカーか!」

「うーん、束さんはいつも通り束姉さんで良いよ!でも束さんの名前は束だからね? ゆっくりで良いから、いつかちゃんと呼んでね?」

 

努力します。努力だけは。実らなくても怒らないでね? 怒られても俺は寝るけど。

 

 

 

初めのあれが悪かったのか、俺には男友達がいない。大抵寝ているからと言うのも十分理由になりそうだが、まあ、そのあたりは割とどうでも良い。気の会わない友人を作っても楽しくもなんともないだろうしな。

そしてその割に女友達は多い。これも織斑一夏本人のフラグ構築能力の一端かもしれないが、俺はそういう目では人をあまり見れない。

……良く考えてみてくれ。俺は一応転生済みで、その上毎日ちー姉さんと同じ布団で寝てるんだ。今更小学生相手に妙な感情起こすかっての。

だからと言ってちー姉さんに妙な感情を起こすわけでもない。元々そっち方向のは少ないだけだ。決してホモじゃあないからな!勘違いしたら千の顔を持つ英雄で串刺しだ。

…………まあ、するやつなんざいないと思うが。居たとして誰が得をするんだ。女顔でもないし、見ててもつまらんだろ。

 

《……ふむ……ありじゃな!》

 

へー、神得か。

……ねえよ!死ねぃ!

まあ、無理だろうけど。

 

 

 

いきなりで申し訳ないんだが、現在絶体絶命だ。俺個人ではなく日本と言う国が。

何せ核ミサイルを含む二千三百四十一本のミサイルが、世界中から日本に向かってきているのだから。

………そう言やぁ、こんなのもあったな。ちー姉さんに任せときゃ平気だとは思うんだが……バレねえように俺もやるか。幸いかどうかは知らねえが、撃ち落とすのに苦労はしねえ能力があるからな。

 

IS発動……シルバーカーテン。

ステルスとか超便利。

さて、行くかね。

 

 

 

なぜかバレた。たぶん原因は束姉さん。大天才にして大天災な束姉さんを出し抜くなんて、俺には土台無理だったって訳だ。

 

「それで、いっくんのそれはなんなの? 束さんは知りたいなぁ?」

「魔法みたいな道具です。ただし俺が武器だと思ったものしか出せない上に俺にしか使えない欠陥品です。どこからか出していたクッションもこれです」

「クッションって武器だっけ?」

 

使い方を変えれば、窒息させることくらいできるよな? ほら武器だ。

 

「まあ、良いじゃないですか。ちなみにステルスも武器ですよね?」

「それはそうだね」

 

へー、納得するんだ。

……さて、寝るか。

 

「いっくん、束さんの腕のなかでお眠り~♪」

「……じゃあ、お言葉に甘えて失礼します」

 

…………すかー……。

 

 

 

 

 

side 織斑千冬

 

ミサイルを落とし、軍をのけてから帰ってくると、一夏が束に抱かれて眠っていた。

 

「た、束!何をしている!」

「しーっ!いっくんが起きちゃうよ?」

「う……」

 

ま、まさか束にたしなめられる時が来るとは……。

そう思いながら私は眠りっぱなしの一夏に近付く。

 

「……すかー……」

「……本当にこいつがあの程度で起きるのか?」

「起きないと思うよ?」

 

そんなことを言った束には、とりあえずアイアンクローを食らわせておいた。

 

 

「……ふふふっ♪ ねえ、ちーちゃん。いっくんってすごいね」

 

急にそんなことを言ってきた束に、何となく違和感を感じる。

……こいつが、他人を凄いと誉める?

 

「束。悩みがあるなら言えよ?」

「ちーちゃんは私をなんだと思ってるのかな? 私だってたまには誉めることだってあるよ?」

「妄想は夢の中だけにしておけ」

「ちーちゃんひどい!束さんのハートはガラス製なんだよ?」

 

強化ガラスでIS用銃器の弾丸にも耐えるのだろう?

 

「……んー……喧嘩は、駄目だよぉ……ちー姉さん……」

 

一夏が寝言でそう言った。

わ、私か!? 束ではなく私に言うのか!?

見てみると、一夏は束の腹の辺りに抱きついたまま眠っている。しかも笑顔だ。

 

……束の勝ち誇った顔が癪にさわったので、もう一度アイアンクローで浮かしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学生日記、実態は愚痴ノート

 

桜道一哉、ではなく織斑一夏。転生済みの判子が額に押してある……何て事はないが転生はした。

まあ、それは置いておこう。今となっては割とどうでもいいことだ。

 

学年が上がり、二年生になったんだが、五月蝿い奴はやはりまだ五月蝿い。

それも実は割とどうでもいい。本当に愚痴りたいことは他にある。

 

まずは、神からもらった能力についての話だが、どうやら俺の選んだ能力の他にもいくつか追加されているらしく、今さら、本当に今さら俺の部屋の机の上に能力についての説明書が届いた。原作で織斑一夏がISの説明書を見た時の気持ちが少し理解できた。

 

…………一番裏から見てみたら、なんとページ数八百八十七。よくあるパラパラパラと流し見るだけで理解できるって言う描写の真似をしたくなるページ数だろう? まあ、それはやってみたらできたんだが。

 

内容としては凄まじく簡単。能力でできること、できないことの大まかな場合分けと、頑張って鍛えればその力は上がるということ。追加した能力についての簡単な説明だった。

それでなぜここまでページ数が多いのかと言うと、神が老眼だから文字がでかくないと読みづらいと言うことで文字が大きいからだった。

……老眼って、神にもあるんだな。別にいいけど。

 

で、俺に追加された能力は、俺が欲しかったとぼやいた逃げる程度の能力と、黄金律C。逃げる程度の能力はどうやらほとんどのものから逃げることができるようになるためスロットの空きにいい感じに入ったから入れたらしい。

あと黄金率だが、巨万の富が入ってくるほど出はないが、その方面に努力していればかなり裕福な生活ができる程度には金の縁が巡ってくるらしい。

………ああ、道理でよく金を拾うわけだ。五百円玉とか千円札とかばっかりだが。

 

そして驚いたことに、千の顔を持つ英雄は俺の想像以上にチートだったらしい。

 

……某人形繰り師が自動人形を壊して回るサーカス漫画のゾナハ虫造れて自在に操れる上、ランブルデトネイターでいつでもどこでも遠隔爆破できるとか……想定外です。

しかもこの世界には生命の水が無く、ゾナハ病を治す方法は俺がゾナハ虫を消す以外に無いときた。

 

………つまり、ちー姉さんを困らせる馬鹿にはこれをやってやればいいんだよね? ラッキー手駒増えたー!

 

……とでも言うと思ったか? んなことしたら余計に怪しまれるわ。なんか使えればいいんだけどね。

 

「じゃあ束さんがゾナハ病について広めておいてあげようか? IS作ってから発言力も大きくなったから、『誰でも発症の可能性はある』ってことにできるよ?」

 

へー、流石は束姉さん。目的のために手段は選ばない、そこにちょっと痺れる憧れる!

 

「……で、どこから入っていつから聞いてました?」

「ドアと見せかけて窓から入って、千の顔を持つ英雄って名前が出たあたりから聞いてたよ?」

 

へー……ならいいか。

 

「それじゃあ、そのゾナハ病っていうのについて、束姉に教えて?」

「はいよ」

 

まあ、それが終わったら寝るけどな。

 

……ああ、白騎士事件だったらもう終わっている。けれども束姉さんもののちゃんもまだ転校していない。

原作では確か小学四年の終わりにののちゃんが転校して、小学五年始めにあのセカンド幼馴染みが転校してきたはずだ。

……まあ、原作キャラとはいえ俺が友人になりたくないと思えばならないだろうし、原作では出てきていないやつでも友人になることもあるだろう。俺は織斑一夏ではあるが、織斑一夏ではないのだから当然だが。

 

ちなみにちー姉さんに『白騎士かっこいいよね。会ってみたいなぁ』と言ってみたら会わせてくれた。まあ、本人だが。

内緒と言われたので内緒にしているが、初めから誰にも言う気は無い。ちー姉さんがブラコンであるように、俺もまたシスコンなのだから。

 

 

 

それからしばらくして、束姉の発表した論文に世界が震撼した。

最初のIS、白騎士による登場者の身体スキャンでわかった新事実として、人には皆とある病にかかる可能性を持っているという事がわかったらしい。

 

その病気の名前こそが、ゾナハ病。現在でも世界に数人ほどその患者がいる、不治の病だそうだ。

 

…………束姉さん、騙るの上手いなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ののちゃんの転校、あとゾナハ病発症者一人目

 

ののちゃんの転校は突然だった。何でも日本政府が関わっているらしく、このままこの場所で暮らしていると守り切れなくなるだのなんだのと言っていた。今までほとんどなにもしてこなかったくせに、こういうときだけはでしゃばってくるんだよな。

 

ちなみに今までは俺がゾナハ虫で周囲を警戒し、実行部隊の血管の中に小さなゾナハ虫を侵入させて、心臓でドカン。もしくは某武装で錬金な漫画に出てくる蝶々二種で迷わせてからドカン。ラッキーなことに破壊男爵は使わないで済んでいる。と言うかあんなん町中で使えるかっての。

 

けれども死体を残してやっても日本政府はそれをやって来たやつらに報復どころか抗議もしようとしないので、風船爆弾で身長を吹き飛ばして消滅させてやったこともしばしば。

それだけの事を俺にやらせておいて、今さら出てきて従えだ? ふざけてんのか頭の中身が無いのか両方か、はたまた俺の予想以外なのか……。

 

とは言え、もう引っ越し先が決定している状態で何を言っても遅い。と言う訳で、次来たどこかの国のエージェント(仮名)と、そいつに命令をしたド腐れ上司にゾナハ病をプレゼントしたいと思います!

 

わーわーパフパフドンドンドン!

 

ちなみに初めから強いものではなく、始めは弱いもので発作もそこまで酷くはないが、徐々に酷くなってきて最後には『ああ』なるように調節する。基本は体内の虫の量で、最後は『アポリオン』を入れてやるだけで済むのでそれなりに楽だ。

これを繰り返していれば、手を出してくる奴は減るだろう。束姉さんには悪名がついて回るようになるかもしれないが……

 

「別に構わないよ? 束さんは箒ちゃんとちーちゃんといっくんが居れば満足だからね」

「へー。そうですか。それじゃあよろしくお願いします。あと今回はどちらから?」

「天井裏からだよ!」

 

そう言って束姉さんはにこにこ笑いながら天井を指差した。

 

へー、天井裏か。また妙なところから入ってくるな? 別にいいけど。

 

「ああそうだ。ののちゃんにこれ渡しといてもらえませんか? 画面が空間投影型のテレビ電話なんですけど」

「……いっくんの番号教えてくれたらいいよ?」

 

……教えなくっても束姉さんなら自力で調べあげられるでしょうに。

まあ、別にいいけど。

 

「ところでこれってどうやって作ったの? 材料とかは?」

「情報って武器だと思うんですよね」

「うんわかった、あれだね」

 

理解が早くて助かりますね。

ちなみに俺は自衛と寝るためのクッションとタオルケット以外に千の顔を持つ英雄を使ったことは無い。例外が寝具と言うのは、実に俺らしいだろう?

これは割と堂々と使っているので、ちー姉さんも知っている。殺害経験有りと言うことは秘密にしてあるが、まあ、正当防衛と言うことで一つ。

 

 

 

 

あ、来た。どっかの国の者らしいエージェント的な人間。

とりあえずバタフライな武装錬金で方向感覚と距離感を失わせ、その霧に紛れてゾナハ虫をイン・ザ・体内。ぜひぜひやってるそいつの所属を束姉さんに調べてもらい、そいつに命令したのが誰かを教えてもらってその国にゾナハ虫を送る。

他の人間には最低限まで被害を押さえようとしたけれど、そいつの周りに居たド腐れには遠慮なくかかってもらった。気前がいいと思わないか?

 

……さてと。目標も終わらせたし………寝るか。

ちー姉さんは最近忙しそうにしていて、あまり家に帰ってこないので、仕方無く一人で眠る。腕の中の寂しさはクッションで埋めるが……

 

…………ちくせう。腕の中が寂しいぜ……。

 

 

 

 

sied 篠ノ之 束

 

 

「今日ねえ、いっくんに会ってきたよ」

 

ちーちゃんが暮桜に乗っている時にそう呟いてみると、ちーちゃんはすっごく動揺した。

 

「あ、知りたい? 最近ちょっと会ってないいっくんのこととか知りたいたいいたいいたいよー!」

「やかましい」

 

ちーちゃんに照れ隠しのアイアンクローをされた。IS装備のままアイアンクロー何てされたら、束さんの脳みそがつぶれちゃうよ!?

 

「ふん」

「ぷぎゅ!」

 

ぽい、と捨てられて、地面に激突する。しかも頭から。

 

「ちーちゃんの愛がいたいっ!」

「何が愛だ、馬鹿者」

 

ちーちゃん酷い!でもそんなちーちゃんが好きだよ?

 

「……で?」

 

 

ちーちゃんがそっぽを向きながら私に話しかけてくる。やっぱりちーちゃんはいっくんのことが大好きなんだ~?

 

「…………」

 

そう思っていたらまたアイアンクローで持ち上げられた。すっごく痛い。ほんとにつぶれちゃったらどうするのさ!

……加減してくれてるのはわかってるけどね。

 

「いたたた……いっくんのことだね? ちょっとさみしがってたかな。いっくんって抱き癖があるから、ちーちゃんと一緒に寝てるときが一番幸せそうだよ?」

「……そうか」

 

……ちーちゃんは気付いてないと思うけど、すっごいにやにやしてる。すっごく嬉しそう。

 

「まったくちーちゃんは素直じゃないたいいたいいたいよーつぶれちゃうよー」

 

しばらくちーちゃんは私の頭をギリギリと締め上げてから、ぽいっと投げ捨てる。確かに叩いたり殴ったりするよりはこっちの方が調節しやすいとは思うけど、それでもやっぱりいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友人作り、意外と簡単かも

 

ののちゃんが転校してからすぐに、この学校の俺のクラスに転校生がやって来た。その名前は鳳《ファン》……なんとか。略称がリンだったはずだから……離任?

……絶対違うな。なんだっけか?

 

………まあいいや。気が向いたら覚えよう。向くかどうかわからんが。

 

 

 

予想では友人なんざ俺にはできないと思っていた。何故なら俺は大抵寝ていて、絡みにくいやつのはずだからだ。前世でも仕事仲間はいたが友人なんざ高校・大学の睡眠愛好会(会長は俺)の会員とバンド組んでた数人程度だ。

……だが、今回はなぜか友人がいる。質が悪い勧誘を(手を掴んで無理やり遊ぼうぜとか言ってる感じの男子に)受けていた女子達に、かつあげされかけていた男子生徒数人。いじめを受けていた奴に喧嘩の場で何故か共闘することになったやつが一人。

…………何で俺はこんなにも厄介事に巻き込まれるんだろうな? そんなもんはいらないから寝かせてくれ。

 

「よう一夏。なんだやっぱ眠いのか?」

「……弾か。おう、超眠い……鈴居ねえ? 抱き締めて寝たいから」

「………お前いつか刺されるぞ? あと鈴は居ねえ」

「なんとかなる………居ねえのか……じゃあお前でいいや」

 

仕方がないので弾を抱き締める。男も女も関係なく、抱き締められればオッケー。

 

「ちょっ、待て一夏!俺にはそんな趣味はねえ!」

「……やかましい、寝れねえだろうが…………すか~」

「寝てんじゃねむぐぅ!?」

 

……すか~…………。

 

 

 

起きたら弾が鈴に変わっていた。何を言っているのかわからないと思うが、俺にはわかる。何てことはない、俺を起こそうとして自爆ったんだろう。顔が真っ赤だ。

ちなみに弾は自分の席に戻っていた。多少睨み付けられたが、アイコンタクトでなんか作ってやると言ったら睨むのをやめた。ちょろ。

 

……ちょろいと言えば、この作品の中にはちょろいと言われる金髪ツインドリル……名前は…………せ、せ……ぜ? ゼヒュロス・オウビート? だっけ? なんか強そうなやつだな……。

 

「……多分違うと思うわよ?」

「そうか?」

「私の名前、フルネームで」

「鳳《ファン》鈴震《リンシン》」

「鈴音《リンイン》よ」

 

へー。そうだったか。すまんな。

とりあえず撫でておく。初めの頃は名前を間違える度に怒鳴り散らされたが、それが自分だけではないと知り、そして略称を呼ぶようになってからは大人しくなった。

恐らく、ちー姉さんの名前を覚えるのにすら数年と言う時間をかけたと言う事実に呆れたか、諦めたかしたのだろう。

 

「諦めたのよ。私は鈴でいいわ」

 

へー、それじゃあ鈴でいいな。覚える努力も放棄するわ。

 

……か~……。

 

 

 

 

side 鳳 鈴音

 

「……すか~……」

「…………はぁ……」

 

全くこいつは……。

 

今私を抱き締めながら幸せそうな顔で眠っている男は織斑一夏。この学校で一番に私と友達になり、そして親友になり、私を惚れさせた男だ。

 

初めは何を考えているか全然わからない気持ち悪いやつ、という印象だったのだが、そいつは何故か私がからかわれているときはいつも助け船を出してくれた。

お礼を言っても自分のためだと言ってあまり受けとることもなかったのだけれど、そのうちにそれが半分くらいは嘘だということに気がついた。

 

一夏は寝ることが好きだ。それは見ていればすぐにわかる。授業中も大抵寝ているし、休み時間も大抵寝ている。起きているときなんて精々ご飯を食べる時と体育の授業中くらいだ。……いや、たまに体育の授業中すらも寝たまま動いている。

その時に周りで楽しく騒ぐだけならば、一夏は何も言わずに寝続ける。

しかし、何故か誰かを苛めたり、大人数で一人をからかっていたりするといつの間にか起きてきていてそいつらの邪魔をする。

 

その他にも、例えば喧嘩をしていて相手が多かったりすると力を貸してくれたりもするし(弾情報)、家庭科の授業で困っていると班を越えて助けてくれたりもする(女子の中では有名)。

とにかく一夏は面倒くさがりで眠たがりで、そしてとても優しい男だ。あと妙に女子に人気がある。

その証拠に、一夏に抱き締められている私には、周りの女子からの羨ましそうな視線が突き刺さっている。

 

「……すか~…………」

「……少しは気付いてあげなさいよね……」

「……鈴。そりゃ無理だろ」

「わかってるわよ、言ってみただけ!」

 

弾が私に呆れたように言ってくるけれど、私だってそのくらいのことはわかってる。

一夏は絶対に気付かないだろうし、万が一、億が一、兆が一気付いても積極的に動くことは無いだろう。

 

「……だよなぁ」

「……仕方ないわよ、好きになっちゃった方の負けよ」

 

そんな私の言葉を全く聞かずに、一夏はすやすやと眠り続けている。

 

「……んー……鈴……♪」

 

そう言いながらぎゅっと私に巻き付けている腕に力をこめる。私はその腕に自分の手を乗せて、一夏に背中を預けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業、その前に誘拐

 

第二回モンド・グロッソ。ISの世界大会である。ちなみに第一回の優勝者は当然のことながらちー姉さん。ブレード一本でよくもまあ……。

たまに目で追えない移動とかをやっていたので、ちー姉さんが本当に人間かどうか怪しいと思うようになってきた。

神の説明書が正しいとすると、一応俺の身体能力はネギま公式バグキャラクターのラカンと同等はあるらしいんだが、それでも一瞬視界から外れてみせた。

 

ISに乗っているとはいえ、本当に人間なのか?

……違っていたとしてもどうこうするつもりはないが、一応知っておきたいと思う。

……あと、やっぱり俺が選んだ能力はIS世界では使い道が暗殺くらいにしかない。ディープダイバーとか確実に要人暗殺用だよな。

……正直に言って同じラノベでも、もっと平和な僕は友○が○ないとかそういうバトルなしの世界に行きたかった。そして千の顔を持つ英雄で黄金を作って換金して自堕落に死んでいきたかった!

……何が言いたいかと言うと、誘拐されかけた。流石にISを使っては来なかったからパピヨンのアレでどっかんと吹き飛ばしたんだが、どうもそれが原因で大会は中止になってしまった。テロかと思われたらしい。ごめんねちー姉さん。

 

それから俺が吹き飛ばした誰かさんたちをちー姉さんが見つけて俺に聞いてきたから、とりあえず正直に誘拐犯と答えておいた。俺が爆破したとは言ってないけど、束姉さんから防犯装置をもらったことにしておいた。よっぽどテンパっていたらしく疑うことなく信じた。なんか少し心が痛い。

それにまたちー姉さんを泣かせたのも精神的にきつい。そんなにごめんって言われてもちー姉さんは悪くないでしょうに。

……とりあえず、おやすみ。できれば俺が起きたときに、そばにいておくれ。

無理ならいいけど。

 

 

 

特に無理ではなかったようで、現在俺はちー姉さんの背中で揺られている。あまり揺らさないようにしてくれているのか、派手な揺れはなく寝心地がいい。あー、やっぱ俺ちー姉さんのこと好きだなぁ……。

……じゃまされたくないんだよね。この生活。IS学園には入りたくねえ。まあ、ISに触らなければいいだけの話だし、それ自体は恐らく難しくないよな?

……難しくないといいなぁ…………。

…………すか~……。

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

私の背中で気持ち良さそうに眠っている一夏。両親が私達を捨ててからの、私のたった一人の弟《かぞく》。私の宝物。

けれど一夏は私のせいで誘拐されかけた。束に貰っていたという防犯装置とか言うのが無かったら本当に誘拐されていたかもしれない。束には感謝しなければ。

あの馬鹿が居なければ、一夏はもしかしたら殺されていたかもしれない。それどころか、もっと酷い目にあっていたかもしれない。

 

カメラに写っていた記録を見た。一夏が私の試合を見ているときに、何人かの黒い服を着た者達が気付かれないように一夏を拐おうとしていた。

すると一夏の手が光り、そこから黒い蝶が数匹飛び立った。

そしてその蝶は黒服に近付くと、爆発した。爆発の跡を見てみると、一夏の方向には全く衝撃は行っていないようだったが、爆音はちゃんと届いたのか耳と目を塞いでいた。

それを聞き付けてやって来た警備員が一夏に説明を求めているが、先程の爆発でカメラの集音機がいかれたのか何を話しているのか聞こえない。

だがそれでも警備員は黒服達が不審者だと考える程度の頭はあったらしく、黒服達を無力化してから連行していった。

しばらくしてから私が現れて、一夏を抱き締めていた。そこから先は見る必要が無いと感じ、見るのをやめたのだが……束め。いくらなんでも爆発物を一夏に持たせるとはなんだ。しかも会場の警備にばれないようにするとは……。

 

……ああ、ようやく着いたか。

救護室に入り、他国の選手達と同じように一夏を寝かせる。なぜか寂しそうにしていたので頭を撫でてやると、私の手を取って抱き締めるようにしてから嬉しそうに笑った。

 

……やれやれ。一夏は眠るのが好きだな。

私は苦笑しながら、一夏のさせたいようにさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事環境、ちー姉さんはドイツ

 

鈴。本名は確か鳳《ファン》鈴神《リンジン》。

 

「鈴音よ」

 

……だそうだ。

俺の友人の一人であり、よき理解者であり、原作とは違って何故か異様に精神が大人である。

具体的には、俺が抱き締めたまま寝落ちしても完全スルー。そのまま授業を受けることもしばしば。

その他にも、少し前にちー姉さんがドイツに行ってから料理をするのが面倒臭くなったのでとりあえず生きていければ良いと言うレベルしか食事をしていなかったら実家の食堂に引きずり込んで食事をとらせたり、俺が気力を取り戻せるように、毎日弁当の中身の交換会を開催してくれたり……本当に色々と世話になった。

 

「別にいいわよ。あたしだってあんたに助けられたんだし、好きでやってるんだしね」

 

へー、そうかい。まあそれでも礼は言うけどな。

 

ちなみにちー姉さんがドイツに行くことになった理由は俺のせいだ。やっぱりあの爆発は不味かったらしく、無かったことにしてやるから一年ほど教官やってくれないか? と言う話があったらしい。ごめんねちー姉さん。

 

「はいはい、全く一夏はシスコンなんだから」

「そうだな」

 

自覚はあるよ。ぶっちゃけこの世界に来て三番目の恩人だし。

ちなみに一番二番は文字通り命懸けでちー姉さんと俺を守って見せた両親。ちー姉さんは嫌っているようだけれど俺は別に嫌いじゃない。

 

「……か……い…か……一夏!」

「……すか~……」

「もう昼なんだから起きなさい!ご飯よ!弾!」

「おうよ!」

 

俺は二人に引きずられながら屋上まで運ばれたのだった。

……すか~…………。

 

 

「はい一夏。あーん」

「……あむ。むぐむぐ……うまい」

 

半ば寝ているが、それでも料理の味くらいはわかる。鈴の弁当も弾の弁当も美味いな。

給食じゃないのかって? 俺に言われても知らんよ。

 

 

「……さて一夏。お前昨日の夜何食った?」

 

何故か俺は弾に詰め寄られている。まあ、とある日からはいつものことになっているのだが、この時だけは俺は弾に勝てる気がしない。

 

「何って………………あれ、食ったっけ……?」

「……じゃあ、朝は何食った」

 

朝か。それは覚えているぞ。

 

「水と飯と塩と砂糖と刻んだキャベツ」

 

いきなり弾と鈴の雰囲気が怖くなった。畜生勝てねえ。別にいいけど。

ずい、と弾が俺に向かって箸を付き出してくる。

 

「食え」

 

そして鈴も箸を付き出してくる。

 

「食べなさい」

 

怖いので俺は素直に食べる。うん美味い。

結構な量を食べさせられたが、弾と鈴の弁当の中身は初めのおよそ半分にまで減っていた。こいつらは平気なのか?

 

「少なくとも今の一夏よりは平気よ」

「俺らのことはいいからさっさと食え」

「いや一応自分でも作ってきたからな? 寝てたから持ってきてねえけど」

「「なら今は食え」」

 

……まあ、いいか。

 

 

 

side 五反田 弾

 

「……すか~…………」

 

俺達の弁当を食い尽くした後、一夏はいつも通りに眠りについた。

……やれやれ。こいつは本当に自分の事を大切にしない奴だ。

一夏に膝枕をしている鈴も同じように考えているらしく、俺と鈴は揃って溜め息をついた。

 

「……それじゃ、俺は一夏の弁当持ってくる……食ってもいいよな?」

「良いと思うわよ? どうせ一夏は私達の分として昼だけ豪勢にしてきてるんだから」

 

そう。こいつは自分のために美味い料理を作ろうとはしない。そもそもこの眠たがりの面倒臭がりが料理を始めた理由が、姉である千冬さんの負担を減らすためであると言うのだから。

その千冬さんがいなくなってから、この姉馬鹿は料理に力を入れなくなった。

 

朝は水と塩と砂糖に生卵、昼は無しか水道の水、夜は生野菜とハム一パック。そんなのが普通になっていた時に俺と鈴が遊びに行って、食事環境を知って鈴が一夏をぶん殴ろうとしていつも通りに抱き締められ、それから家の中華料理屋に引きずり込んで事情を話して飯を食わせてからまともな弁当を俺達が食わせることになった。

俺もその事を母さん達に言って弁当を多めに作ってもらうことにして、鈴と一緒に一夏に食わせている。

 

一夏は食わないでも生きて行けるみたいだったが、食うときは本当に食うらしく、俺達の分まで食っても実はまだたりていないらしい。一夏は隠しているようだったが、簡単にわかる。

一夏も悪いと思ったのか次の日から弁当を持ってきて一緒に食べるようになったのだが、……これがまた美味い。こんだけ美味いのが味気無く感じるとは、こいつの寂しがりもかなりのものだと鈴と二人で笑いあったこともある。

 

そんなこんなでなかなか苦労もしているが、俺はこいつらと一緒にいるのが大好きだ。

 

「……か~……」

「おぅっ!? 一夏、絞まってる!いたいいたいうぉあ~~っ!?」

「……頑張ってね弾」

「助けろよ!?」

 

……ああ、こういうこともあるが、好きだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちー姉さんの帰還、それに伴うパーティー

 

ちー姉さんがドイツから帰ってきました。と、言うわけで今日は自宅で豪勢な料理を作ろうと思う。

そのために学校で料理の献立と栄養バランス材料の有無を確認してノートに写していたら、弾と鈴にあり得ないものを見る目で見られた上に早退して病院に行くことを進められた。酷くね?

……第一、病院に行ったとして何科に掛かれば良いんだよ?

 

…………まあ、それは割とどうでもいいな。今はとりあえず買い物だ。少しだけ贅沢するが……これくらいは別にいいよな?

……それにしても一年とちょっとぶりか。ちー姉さんの声だけは電話で聞いてたとはいえ、声は抱き締められないんだよなぁ……。

ちなみに抱き癖はいまだに治っていない。そして治す気もあんまり無かったりする。面倒だし。

 

…………そう言や今さらだけど、弾って原作じゃあ中学からの付き合いのはずなんだが、俺達のとこだと小五の半ばで友人関係になっているんだが…………まあ、似たような世界だと言うことで納得しておこう。悪いことじゃないし。

 

……お、卵が安いな。買っていこう。豚小間肉も少し……いや、ちー姉さんは夜はあまり食べないから、明日の朝の分も買っていこう。となるとあれは夜のうちに仕込みを終わらせて、夜はさっぱり終わらせようか。

 

……鈴と弾は俺が起きている理由を聞いたら一応納得して見せたが、今の俺を見たらたぶんもう一度びっくりするんだろうな。

 

「……い………一……夏……?」

「……一夏が………鼻歌……?」

 

今みたいに。

……確かに俺は鼻歌歌う暇があるなら寝る、飯は寝ながら食う、夢の中でも寝る夢を見て、夢の中の夢でまた眠るような奴だが……そこまで驚かなくても良くないか?

 

「……いや、驚くわよ。だってありえないもん」

「……だよな。俺達間違ってないよな鈴」

「当然でしょ。一夏が完全に起きたまま鼻歌歌って買い物なんて、明日世界が滅びてもおかしくないわ」

「へー……言いたい放題言ってくれやがって……」

「「事実だし」」

 

鈴と弾は綺麗にユニゾンしてくれやがった。俺だってはしゃぐことくらい…………!

 

「ど、どうしたの?」

「……ちー姉さんがもうすぐ帰ってくるような気配………晩飯を作り始めないと間に合わねえ!つー訳ですまん、また明日な!」

 

やばいやばい、つい話し込んじまった。晩飯は軽く、腹持ち良くなく腹に溜まるものを作らねえと……。

風呂の準備もしておいて、ちー姉さんの部屋の掃除は……昨日やったな。毎週やってるけど。

後は……時間があれば明日の朝の下ごしらえもしておいて……マッサージも一応覚えてみたし、準備しておこう。いつでも洗面台の下に色々常備されてるし、道具の手入れもできてるけどな。

 

それより今は晩飯の準備だな。急いで作らねえと。失敗は許されねえし、許さねえから……気を付けろよ?

 

……そう言や、弾と鈴は何で一緒にいたんだろうな? 偶然か?

……まあ、割とどうでもいいな。今は料理だ。いつも使ってる前全部を隠すタイプのひよこエプロンにかけて、ちー姉さんの満足する料理を作って見せるぜ!

 

………ああ、そうだ。確か前に束姉さんに、

 

「これをつけるとちーちゃんば喜ぶよ!きっと疲れがみんな吹き飛ぶくらいね!天才の束さんが言うんだから間違いないよ?」

 

と言われてホイホイと貰ってしまったあれがあったはずだ……ちー姉さんも疲れているだろうし……使ってみるか。

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

一年ぶりの日本。ようやく帰ってこれたと一息ついて、それからもう一度気を引き締め直す。

私は、織斑千冬。一夏の前ではかっこいい姉でありたいと思い、そしてそれを実践してきた。

 

……たまに一夏に慰められたり、家事を任せきってしまったりと言う点ではだらしない所を見せてしまってはいるが、私よりも一夏の作った料理の方が数段美味いので(私の料理は料理ではないらしい。束すら気絶させ、二日間腹痛を起こさせたと言う事実もあるので否定できない)、こればかりは一夏に頼りきりだ。

 

気を張り直した私は、一夏の待つ家に向かう。荷物はすべて先に送ってあるし、後は私が手荷物を持って家につけばいい。

 

 

私は、一夏の前ではかっこいい姉でありたい。そして一夏を心配させたくない。

 

―――そう。だから……だから―――

 

「ちー姉さん、お帰りなさい!」

 

ピコピコと動く、とがった犬耳。

 

嬉しそうに振られる、上向きに反り返った尻尾。

 

この世の春とばかりの、一夏の笑顔。

 

 

―――一夏の前では、この愛の放出を我慢しなければ……ッ!

 

 

 

……まあ、無理だったんだがな。食事が終わって気が付いたら布団の中に居たさ。

そして私のとなりにはまだ耳をつけたままの一夏が、私に抱きついたまま眠っていた。

 

これでもう一度昇天しそうになったが、目尻に浮かんでいる涙を見て抑えきった。

まだ夜の三時だったので、一夏を私からも抱き締めてもう一度眠りについた。

 

一夏が起きた後、あれをどこで手に入れたのかを聞いてみると、束が私が喜ぶと言って渡してきたらしい。

さすがに命に関わるので使用禁止にしたが、その時に落ち込んだのかとがっている耳も丸まっていた尾も、しゅんと萎れていた。

 

おもいっきり抱き締めて撫でてやったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

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