IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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……いや、嘘だろおい

 

ののちゃんの撃った超高密度圧縮エネルギー・ビームがギンに接近する。それは一瞬のことだったが、何でかかなりゆっくりに見えた。

そのゆっくりな世界のなかで、ギンが動く。翼のようなスラスターの砲口を全てののちゃんの方に向け、まるで鷹か鷲のような大型の鳥がその翼を広げるように、スラスターをばさりと動かした。

 

砲口が光り、単発の小さなエネルギーの羽根が撃ち出されるのかと思ったが、撃ち出された羽根がギンのすぐ前方で集束を始める。

溜めの時間は僅かだったが、三十六の砲口から随時追加され続けたエネルギーの総量は馬鹿にならない。

 

そしてギンがスラスターを羽ばたくように前に押し出すと同時に、集束しきったエネルギーの塊が羽の奔流となって放出された。

………こんな攻撃って原作にあったっけ? 束姉さん印のちょびっと魔改造か? ……ちょっとじゃねえよ!

 

空間固定は解けないし、接近してののちゃんの大出力レーザーに巻き込まれるのも嫌なので左の衝撃砲で攻撃。翼の一部を削り取ってダメージを与えるついでに、例の羽の奔流のエネルギー供給の邪魔をする。

そうしている間にゆっくりした世界の中で、ののちゃんとギンのエネルギーの奔流同士が正面から衝突した。

 

轟音が響き、エネルギー同士がお互いを消滅させ合う。どちらもエネルギー兵器であってレーザー兵器でなくてよかった。レーザーだったらお互いにすり抜けて両方に当たるから。

 

エネルギーがぶつかり合った中心で衝撃波が起き、遥か下の海面にまで被害が行っている。

先生達が海上を封鎖していてくれて助かったな。こんなところに船なんかがいたら、確実に転覆するか壊れてしまうだろう。本当に、封鎖してくれていて助かった。

 

確かに海上は封鎖されている。だから、船がいるはず無い。つまり、シロが映し出している船《これ》は『こんな所にはいない』。きっと蜃気楼かなにかだな。そうに違いない。

 

舞い踊る羽と真紅の極光はお互いに削り合い…………ののちゃんの方が撃ち負け始めた。

確かに初めのうちはののちゃんが圧倒していたが、やはりエネルギーの使いすぎが痛かったらしい。あと数秒は持つだろうけど、それ以降は保証できない。

 

だから俺はギンにかけていた空間固定を解除し、ののちゃんの所に瞬時加速で向かう。ギンにグレネードをいくつか投げ付けておくのも忘れない。

 

……間に合うかね?

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

私は福音との撃ち合いになり、拮抗しているのを見て作戦の失敗を悟った。

確かにあんな砲撃方法を福音が持っているというデータは事前のスペックデータにはなかったが、それでも失敗は失敗だ。

 

私の策は福音に大出力砲撃系の装備がないことが前提で、撃ち合いになることを想定の中に入れていなかった。

 

それに、と肩の穿千に目を向ける。

 

穿千は相当エネルギーを食う兵器だろうと予想はしていたが、まさかここまでのものだとは思っていなかった。

高速の移動と一夏の運搬でそこそこエネルギーを削られていたこともあるが、それでも七割近く残っていたエネルギーがどんどんと削られていくのがわかる。

 

エネルギー残量のゲージがどんどん短くなって行き、ついに警告メッセージが視界の隅に点灯し始めたが、私は無視を決め込んで前に視線を向ける。

 

今砲撃をやめてしまえば拮抗している福音の砲撃に飲まれてしまうし、かといってやめなくともいつかはエネルギーが切れて同じ未来が待っている。

八方塞がりとも言えるこの状況の中で、私は前だけを見つめ続ける。

 

……なぜか、目まぐるしく変わっているはずの今が遅くなり、そして私の過去にあった思い出が頭の中身を占領して行く。

 

一夏との出会い。私の実家の道場で私が竹刀を振っているのを、一夏は壁に寄りかかりながら眠そうな目で眺めていた。

 

一夏との初めての会話。いつも私を眺めているだけの一夏に竹刀を突きつけ、『稽古をつけてやる』と言ってやったこと。

 

初めての試合では、一夏は私の剣をひたすら避け続け、そして時間切れまで一度も攻撃らしい攻撃はしてこなかった。

何度も延長して試合を続けて、三回目の延長の試合で一夏は私の振った竹刀に自分から当たりにいった。

 

試合に勝って勝負に負けた私は、何度も一夏に向かっていく。この頃に学校でよくからかわれたのだが、一夏はからかわれても平然とあしらっていた。

 

ただ一度一夏が本気で怒った時。千冬さんを悪く言った教師は次の日には一夏を見るだけで恐慌状態となるようになり、学校をやめさせられた。

 

ISが世界に広まり、私は姉さんの妹と言う目で見られることが多くなった。しかし、一夏は今まで通りの私として見てくれた。

 

転校してからは電話もできず、手紙のやり取りもできないという状態が続き、私は少しだけ姉さんを恨んだが、それはすぐに政府に向いた。

 

しばらく続く色褪せた生活。完全に白黒《モノクロ》ではないだけましかもしれないが、姉さんの失踪の後に何度も行われた尋問に辟易としていた。

 

剣道大会での優勝。確かに色々なことがあってなにかに当たりたいと言う気持ちがあったことは認めるが、自分の剣のあまりの醜さを見て、頭の中身を抑え込む術を身に付けた。

 

感情を抑制し、気に入らないものをただ否定するだけということをやめてみれば、少しだが交遊ができた。やってみれば簡単なことだったのだ、と考えたな。

 

そして、一夏がISを使えるという話が広まり、IS学園への入学が決まったという話をテレビで見た。

……少し前までならあまり素直に認めることはできなかっただろうが、今ならできる。

私は一夏が好きだと。

 

そしてIS学園での再会。全く変わらない一夏に苦笑いと、それ以上に嬉しいという思いが溢れる。

抱きつかれた時には少し驚いてしまったが、けして嫌ではなかった。ここでも私が一夏のことが好きだと再確認。

 

一夏に振り回され、やきもきし、甘えてくる一夏を可愛がり、真剣に向き合い、生涯の友を得て…………今、私はここにいる。

 

…………ああ、私はまだまだ死ねないな。一夏に告白もしていないし、鈴達との掛け合いも楽しい。

 

だから、私はエネルギーの放出をやめた。

 

穿千は真紅のエネルギーの放出をやめ、がしゃんと砲口を閉じる。

それと同時に展開装甲を防御に使おうとエネルギーを集めたところで、一夏の乗ったシロが私を抱えて砲撃範囲から移動した。

 

「助かったぞ、一夏」

「なに、気にすんな」

 

一夏と私はそう言いながら笑った。

 

 

 

 

…………それにしても、お姫様だっこを一夏にされるのは……初めてだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強制睡眠、そして一時帰還

 

ののちゃんを抱えてギンの砲撃を避ける。羽根の奔流はそこそこ離れた海面に衝突してかなりの被害を出していたが、まあ、少なくとも今はどうでもいい。

海面にギンの砲撃が衝突すると同時にギン本体の方からも爆音が響く。俺が手土産に投げつけておいたグレネードが爆発し、ギンのシールドエネルギーをそこそこ削り取ったらしい。ギンの装甲が僅かに削れていたため、絶対防御も発動していただろうと予想される。

 

「……ちょっと暴れるから、下りててくれる?」

「………ああ。悔しいが、あまりエネルギーが残っていない。…………後は任せた」

 

そう言ってギンの機動用エネルギーを相当削っていったののちゃんは、海面近くにまで下りていった。

どうやら海面近くでISを解除して、エネルギーを少しでも回復させようというつもりらしい。アルカリ乾電池じゃあるまいし、無理だと思うけど。

ワンオフでも発現させれば話は変わってくるんだろうけど、今は使えないはずだし。

 

………まあ、気乗りはしないが頑張ろうかね。

 

 

頑張ろうと言ったが、結局やることは変わらない。相手の撃ってくる弾幕を避けて、こちらの攻撃を当てる。

羽根の弾幕自体の速度があまり速くはなかったことが救いとなり、今のところ被弾ゼロ。ただしそろそろ決めないと機動系統のエネルギーが不味い。三割くらいしか残っていないし。

 

遠距離系の武器はあの弾幕を抜けられず、接近戦に持ち込もうにもやはり弾幕に遮られる。

もう一度空間固定で止めてしまえば良いのだろうが、ギンをまるごと止めるとなるとかなりのエネルギーを持っていかれるし、かなり離れているから余計に持っていかれる。

近ければ近いほど、止める空間が狭ければ狭いほど、使うエネルギーは少なくなるが………逆に言えば遠ければ遠いほどエネルギーを使うわけだ。

 

はっきり言って、制限解除していないシロだとエネルギーが不安。と言うか、まず足りない。

 

……や~れやれ。後が怖いぜ………。

 

束姉さんに頼んでシロにつけてもらった特殊な武装は三つ。

 

一つは曲げ撃ち可能な衝撃砲。かなり初期にお披露目となった、両拳の狡い武器。

 

一つは空間固定能力。使いどころは限られるが、かなり使える第二の能力。

 

そこにちー姉さんのリクエストで雪片弐型が入り、偶然(物語的には必然)に零落白夜が入るが、俺がお願いした能力ではないので除外する。

 

三つ目の特殊な武装。それはさらにピーキーで、試合ではけして使えない能力だったりする。

 

それを使おうとした所で、違和感が走る。

確認のためにシロに捜査を頼むと、すぐに結果が出てきた。

 

ほんの数秒前までは三割くらいは残っていた駆動系エネルギーが、全くのゼロになっていた。

 

そして駆動系のエネルギーが減った分、満タンを越して増えているシールドエネルギーを見て確信した。

 

…………束姉さん。確かにこうすれば俺はISの絶対防御の致命領域反応のお陰で動けなくなるし、確実にしばらくの間退場させられるだろうけど―――

 

動きが止まった俺に、ギンが翼のようなスラスターの砲口を向ける。

そしてそこから一斉に発射されたエネルギー弾幕が、俺の視界を埋め尽くす。

 

―――いくらなんでも、これは酷いだろ。

 

そう思いながら、俺はののちゃんにプライベート・チャネルを繋ぐ。

伝える言葉は一言。

 

『ごめん、なんか無理っぽい』

 

それと同時に、あるものをののちゃんのISであるアカに送りつける。

そして全身に衝撃が走り、シールドエネルギーがガリガリ削れていく。

……こっそり体を強化しているからあんまり痛くはないが、シールドエネルギーがひどく削られていくお陰で意識が飛び始めた。

 

…………任務失敗かぁ……。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

一夏からの通信が入った瞬間に、私は再び紅椿を展開して空を舞う。

福音の砲撃の直撃を受けて巨大な爆発に包まれた一夏を必死に探すと、爆煙の中から生身の一夏が落ちてきた。

 

私は一夏の体を受け止める。どうやらなんとか生きているようだが、ISの絶対防御の効果で眠っているらしく、目を覚まさない。

いつもならば私が呼び掛ければ軽く返事をする一夏だが、いまはなんの返答もしてくれないところからもその事がわかる。

 

…………私はまだ戦うことはできる。エネルギーは僅かだが、戦える。

しかし、一夏は今は戦うことができない。気絶しているからと言うだけではなく、ISであるシロもボロボロであることが予想できてしまうからだ。

 

私は福音を睨み付ける。ギシリと噛み合った歯が軋みをあげ、頭の中身と太陽が入れ替わったような熱が私を焼くが、それでも私は福音に背を向ける。

……もう一度、私は福音と戦うことになるだろう。先生達が止めようとも、確実に。

 

そのために必要な物は、ついさっきに一夏から送られてきた。これのお陰で私はまだ戦えるし、一夏と一緒に戦うことができる。

 

そう思うと同時に、紅椿の装甲から金色の光の粒が溢れ出し、削られるばかりだったエネルギーが回復していく。確認してみると、そこには『絢爛舞踏』という文字が躍り、これがワンオフ・アビリティーだと示していた。

 

……もう少し早く出てきてくれればよかったのに、という思いを打ち切り、私は回復したエネルギーをフルに使い、全速力で戦場を離脱した。

 

 

……それにしても、なぜ一夏は避けなかった? まるで、残っていたはずのエネルギーが一瞬にして消えてしまったかのような動きをしていたが…………。

 

……まさかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還後、密かに支度中

 

 

一夏は眠る。起きる気配は一向に無い。

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

全速力で一夏を旅館に連れ帰った私は、他の専用機持ちと同じように待機していた。

ただ、エネルギーは既に全て回復させ終えていて、今は時を待っている。

 

ベッドの上で『大きな姿のまま』眠る一夏に目を向け、頬を撫でる。熱を持っていることに安堵し、そして力の無かった自分と、一夏に怪我を負わせた福音に怒気を向ける。

 

……私は、一夏の隣に立ちたくて、姉さんにISの作成を頼んだ。姉さんは私に答え、素晴らしいISを作り上げてくれた。

最強にして、最硬にして、最速に最も近い最高のIS。紅椿を。

 

それなのに私は、そんな素晴らしいISを作ってくれた姉さんにも、信じてくれた一夏や鈴達にも、応えることができなかった。

昔のように力に流されてしまう自分はいない。だが、それと同時にどこかで慢心していた自分も居たのだろう。そうでなければ、こうして昏睡している一夏の隣で、ただ座っている等ということもなかったはずだ。

 

だから今は、そんな私を私の中から追い出し、ひたすらに思い出し続ける。

 

一夏が福音に落とされた時の驚愕を。

爆煙の中から落下した一夏を受け止め、反応が反ってこなかった時の憤怒を。

激情の中で福音に背を向けた時の、私への憎悪を。

この場所に戻ってきて、治療を終わらせた一夏の顔を見たときの悲しみを。

 

そしてそれらを纏め、純化し、昇華させて行く。この感情は、昔に感じたことがある。

当時はこの感情をなんと呼ぶのか知らなかったが、今ならばわかる。

 

これは、殺意だ。

 

…………とは言え、実際に殺すことは無いだろう。私も抑えるし、一夏もあまりよく思わないだろうと考えればどうとでもなる。

 

そして、私の中の全ての感情が福音への殺意に転換し終わった時。誰かが突然ドアを開いた。

……この気配は…………鈴か。

 

「箒。あたしの言いたいことはわかるわね?」

「ああ。丁度私も瞑想を終わらせ、これから有志を募ろうとお前たちに順次声をかけていくつもりだったのだ」

 

私は立ち上がり、閉じていた目を開く。そして鈴と目を合わせて……そこでふと、少し前に鈴から直接聞いた話を思い出した。

 

鈴は元々激情家。だが、一夏と関わっていくうちに角がとれ始め、少しずつ丸くなっていったという話だ。

 

その話を聞いた時は半信半疑だったが、今の鈴を見てなるほどと思ってしまった。

 

その目は、私と同じようで全く違う色に染まっていた。

 

例えるならば、私が純化した氷のような殺意を持つとすると、鈴のそれは何もかもを取り込みながら静かに燃える炎のような殺意。

……私達は、私達が自覚している以上に似ているのかもしれんな。

 

「………場所はわかるの?」

 

鈴の問いに私は首肯して答える。

 

「ああ。一夏が落とされる前に、福音に発信器をつけていたらしくてな。その受信コードを受け取った。それによると、福音は現在三十キロ離れた沖合上空に居る」

「そう。流石は一夏、と言うべきなのかしらね」

 

私と鈴の視線が同時に一夏へと向き、辺りには沈黙が広がった。

 

「……一夏がこうなったのは、あんたのせいじゃないわ」

「……感謝する」

 

ぐっ、と拳を作り、さらに力が加えられる。この痛みも、恨みも、また純化してゆく。

 

「簪が手伝ってくれたから、全員パッケージのインストールはもう終わってるわ。専用機は動くけれど、まだ少し不安なところがあって参加できないからせめて、って言ってね」

「そうか。簪にも感謝しなければな」

 

私の紅椿はパッケージのインストールが必要ない。つまり、既に私達の準備は全て終わっていると言うことだ。

 

「……それでは、行こうか」

「ええ。鬼の居ぬ間に堕天使狩りね」

 

堕天使とは、言い得て妙だな。

 

機械の体と機械の翼を持ち、電子の意思で暴れまわる『銀の福音』。なるほど、確かに堕天使のようだ。

 

私は、左腕の紅椿を握り締める。

 

…………我儘な操縦者で済まない。だが、もう少しだけ……お前の力を私に貸してくれ。

 

そう思うと、私の左腕の紅椿から、ほんの少しだけ気配の揺らぎがあった。

 

「……ありがとう」

 

私はそれだけ呟いて、鈴達の作戦会議に混ざっていった。

 

 

 

side 織斑 千冬

 

…………馬鹿者共が。あんなに大きな声を出しておいて、気付かれていないわけが無いだろうが。

確かに誰にも言わずにここまで支度を終わらせていたのには驚愕するが、一夏の周りであのような話をするような馬鹿があるか。

 

「……でも、止めないんですね」

 

山田先生が私に笑いかけながら言う。

 

「ああ、止めん。………と言うか、山田先生は止められるのか?」

「………無理ですね」

 

ならば、私達にできることは限られているだろう。責任をとるのは……大人の仕事だ。

 

「そうですね、織斑先生」

 

……さて。それでは書類を作ろうか。『私達が専用機持ちを全員作戦に参加させた』という書類をな。お前にも手伝ってもらうぞ、束。

 

「はいはーい♪ ちーちゃんの頼みだったら何時でもウェルカムだよ~。四十六十喜んで!」

「五月蝿いぞ。それと、箒が気になるのはわかるが手は抜くなよ」

「もっちろん!」

 

……やれやれ。また面倒なことになるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏の夢、そして接敵

 

 

よくわからないが、なんでか俺は海に居た。ここがどこかもわからないし、何でここにいるかもわからない。

確か、俺はギンを相手にしているときに妨害を受けて落とされたはずなんだけど………。

そう思いながらあたりをきょろきょろと見回してみると、なんでかそこには真っ白いワンピースを着た真っ白な髪(白髪《しらが》とは言いたくない)の少女が歌いながら踊っていた。楽しそうだな?

 

とりあえず、俺は寝ることにした。近くにあった流木の端を枕にして、俺は砂まみれになるのも構わず横になって目を閉じる。

潮騒と少女の歌が良い感じに混じりあって……………俺は浅く眠り始めた。

 

 

 

 

side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

ハイパーセンサーに映し出された福音に照準を合わせる。胎児のようにうずくまっているその姿は、まるでなんの力も持たない少女が自分の宝物を身の内に隠そうとしているかのようだ。

だが、私達は知っている。事前に見たスペックデータと、直接相対した箒からの新情報で、福音が相当の戦闘能力を所有していると言うことを。

 

私はためらうことなく引き金を引いた。ほんの数秒で【ブリッツ】から吐き出された砲弾は五キロの距離を詰め、大爆発を起こした。

 

『初弾命中。続けて砲撃を行う』

 

福音が私を見つけるより早くもう一射。これも命中したが、これで私の場所はばれてしまったな。

向かってくる福音に、ブリッツからの砲撃を連射する。しかし福音にそのほとんどを落とされ、もしくは避けられてしまう。予想より…………僅かに遅く飛びながら。

 

……なるほど。相当量のエネルギーを削ったと言っていたな。箒のあの砲撃とほぼ等量と、一夏を落とした時のあの砲撃分。さらに通常の弾幕による波状攻撃分を数十分に、だめ押しで機動分がかなりの量になる。

ここまで削られてしまえば、流石の福音も少々危なくなってきた、と言うことか。

 

反動相殺のために機動力の低下したシュヴァルツェア・レーゲンは、元々機動力に特化している福音の攻撃を避けることは難しい。

使う武器が実弾兵器ならばAICで止めることもできただろうが、生憎と福音の射撃武器にエネルギー系以外の武器は存在しないため、止めることは不可能だ。

 

………だが、私は元々避ける気など持ち合わせていない。

 

「―――鈴!」

 

オープン・チャネルで呼び掛けた瞬間、上空から炎を纏った四つの衝撃が、福音を海面に叩き付けた。

 

「はっ!ざまぁ見なさい!」

 

ステルスモードを解除した鈴は、わざと必要以上に目立つ大声を上げながら福音を叩き付けた海面を…………否。ちょうどその場所にステルスモードで潜り込んでいたISを見つめた。

 

「……首尾はどう?」

「完璧だよ、二人とも」

 

そこにいたのは、防御パッケージを装備したシャルロット。ステルスを解除した直後に福音に向かって瞬時加速で突っ込んで行くのがハイパーセンサー越しに見えた。

 

「……気を付けろ? シャルロットのそれは………痛いでは済まないぞ?」

 

 

 

 

side 凰 鈴音

 

シャルロットが左拳を突き出しながら瞬時加速で飛び込んでいく。弾幕にシールドエネルギーを削られながらも左腕のシールドを弾き飛ばす。

 

そこから現れたのは、あたし達の中ではシャルロットの武器と言えばこれという印象が最も強い、二世代機の最強装備。そう…………

 

 

とっつきだ。

 

「違うからね!? こんなときにまで変なこと言わないで……よっ!」

 

そう叫びながらもシャルロットは福音の腹に【灰色の鱗殻】を叩き込む。

それも、瞬時加速で福音をラウラと逆方向に押しやりながら。

 

「ああぁぁぁあぁああぁぁぁっ!!」

 

ズガンッ!!という轟音が五度響き、左腕の先から福音が抜け出した。

けれど、そのくらいは予想済み。むしろ少し遅かったわね。

 

「わたくしの狩り場にようこそ。ゆっくりしていってくださいな」

 

シャルロットに弾幕を張ろうとしていた福音に、青いレーザーが六本突き刺さる。

そのうち四本はビットから。残りの二本はセシリアの持つ二丁のライフルから放たれていた。

 

大型BTレーザーライフルの【スターダスト・シューター】と、長大な大出力ライフルの【ブルー・ピアス】。どちらもセシリアによって偏向されていて、ほぼ確実に福音の体に突き刺さっている。

 

「もちろん、あたし達のことも忘れないでよね」

「僕のことは別に忘れちゃっていいよ? その隙に壊してあげるから」

「私達の全力をもって………な」

 

あたし達は福音を逃がさないように砲撃と射撃を繰り返す。ここで一番ダメージを与えているのはやっぱりセシリアだろうけど、MVPはラウラね。

逃がさないように砲撃で薄いながらも弾幕を張って、逃げ道を一つ一つ潰してくれている。

そのお陰であたし達は逃げることのできない福音をひたすら攻撃し続けることができる。まるで発狂しているかのように。

 

ラウラの砲撃とシャルロットの射撃が福音をこの場に抑え込み、あたしの衝撃砲でスラスターを、セシリアのレーザーで装甲を削り、少しずつ機動力を奪い取る。接近するとあの弾幕にやられるのでけして近付かず、着実に。

 

あたし達の射撃から身を守るように弾幕を張り、弾を打ち払っていた翼の片方に、大きく皹か入る。続けざまにもう片方の翼にも皹が入り、急激に福音の機動力が落ちた。

 

だけどあたし達は戦い方を変えたりしない。

人間はゴールが見えると自分の力量を忘れて突っ走ってしまいやすくなる。脇目もふらずに走るから、ゴールの寸前にある罠に気付きもしないで。

昔に聞いた一夏の言葉を思い出して、逸る気持ちを抑えながら攻撃を繰り返す。

削って、削って、削って、削って、削って、削って、削って、削って、削って、削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削って削りきる。

 

福音のスラスターと装甲にはいくつもいくつも皹が走り、もうほとんどなにもできない状況まで追い込んだ。

 

鈍い音を響かせ、両の翼をもぎ取られた福音は、崩れ落ちるように海へと落ちていった。

 

 

だけど、私の勘は言っている。

 

『まだ終わっていない』

 

と。

 

「……まだだ」

 

ラウラが呟く。恐らくその目でなにかを確認したのだと思う。あの速度のなかで、よく見えたわね。

 

「ええ。まだ福音のシールドエネルギーは切れていませんわ。何かあるかもしれません」

 

セシリアも、海中の福音に二丁のライフルを向けたまま気を抜いていない。

 

「……うん。大丈夫。わかってるから」

 

シャルロットも、一発だけ残っている灰色の鱗殻を格納し、新しくショットガンとマシンガンを一丁ずつ構える。

 

……さあ、第二ラウンドの準備はできたわよ? 福音《あなた》も早く上がってきなさい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く夢、続く戦闘

 

 

浅い眠りからゆっくりと意識を浮上させると、少し状況が変わっていた。

白い少女は歌うのをやめ、俺のことを見つめている。そして枕にしていた流木の代わりに、その白い少女とほとんど同じ姿をした少女が膝枕をしてくれていた。

 

……どういう状況なんだこれ? 何がどうしてこうなった? いつも右腕にくっついているはずのシロもいないし………どうなってんだ?

 

…………いや、いるのか、シロ。どこにいるかはわからない……と言うか、どこにでもいるような気配がある。……なんともわかりづらい状態だな。

 

「もう少し分かりやすいヒントが欲しかったよ」

 

俺はそう言って、膝枕をしている真っ白な少女の長い髪を摘まんでみる。

 

「……シロ……の、一人で良いのかな? 代《シロ》」

 

白い少女の一人は、驚いたように俺のことを見つめる。何に驚いてるんだろうな? 呼び名か?

 

ちなみに【シロ】と言う名前は少しは考えてつけてある。色が原作で白かったからという理由が一番大きなものだというのは変わらないが、それ以外にも。

 

【シロ】は、20のコアを繋げて作られた、『総体』としての名前。今言った【代《シロ》】は、中心となる【白《シロ》】のコア以外のいくつかに付けた名前。その意味は『材料となるもの』。

同じように【素《シロ》】と【料《シロ》】が居て、これらの【シロ】は基本的に演算やら何やらのスペックの底上げをしてくれている。

 

【代《シロ》】は主に速度や反応の即応性の上昇にその演算能力を使い、【白《シロ》】の演算の『代』わりをしてくれているからそう呼んでいる。追加されたうちのほとんどが、この【代《シロ》】だ。

 

【素《シロ》】は武器や装甲の容量、つまり拡張領域を増やしている。これによって俺の頼んだ特殊武装や能力を使用可能にしているわけだ。武装や装甲、能力の『素』を補っていると言うことだ。

 

【料《シロ》】はエネルギー方面を増やし、衝撃砲や空間固定のエネルギーだけでなくシールドエネルギーまでを産み出し、溜め込んでいる。ここで生まれた燃『料』は、【素《シロ》】や【代《シロ》】を通り、【白《シロ》】を動かしているわけだ。

 

……まあ、ただの言葉遊びだ。つけている最中はそこそこ面白かった。

 

「……それで、何か話があるんじゃないのか?」

 

いつの間にか初めの白い少女を入れて『20人』になっていた少女達に話しかけると、なんでか白い少女達の中から騎士風の女性が進み出て問いかけてきた。

 

「力を欲しますか……? 何のために……」

 

 

 

 

side セシリア・オルコット

 

福音が落下した海面を睨む。落下してから数秒しか過ぎていないのに、わたくしには数分にも感じられた。

 

突如、注視していた海面が、強烈な光に吹き飛ばされる。

球状に吹き飛ばされた海面の中心にいるのは、自らを抱き締めるようにして浮かんでいる、青い電光を纏った福音だった。

 

…………とりあえず撃っておきましょう。動かないようですし、こんなチャンスを逃すなんてバカのやることですわ。

 

全員がそう考えていたらしく、福音にラウラさんの砲撃が直撃する。

それに僅かに遅れて鈴さんの真っ赤な炎に包まれた衝撃砲と、わたくしのレーザーが突き刺さった。

爆煙に包まれていて肉眼は見えませんが、ハイパーセンサーの映像ではかなりのダメージを与えられたらしく、装甲に無数の皹が入っているのがわかる。

 

これならあと少しで倒すことができる……と思った瞬間。その全身の皹から、眩く輝くエネルギーの翼が映えた。

 

「………これは、不味いわね」

 

鈴さんの勘が危険警報をこれでもかとばかりに鳴り響かせているらしく、その口調はいつもより遥かに重い。

 

「……ええ。まさかここでセカンド・シフトをするなん」

「セシリア!垂直降下!全速力!」

 

即座にわたくしは瞬時加速で高度を急落させる。すると直前までわたくしの居たところを、銀のISが貫いた。

 

「皆さん、お気をつけて!先程までとは比べ物にならない速さですわ!」

 

そう言いながらわたくしはレーザーを撃つ。それは軽々と避けられてしまいましたが、そのくらいのことは予想済みですわ。

 

ハイパーセンサーを振り切る動きはしていない。つまり、どこに居るのかはわからなくともどの方向に居るのかは十分わかる。

それだけわかってしまえば、後は偏向射撃で撃ち込むだけ。

 

グンッ!と曲がったレーザーは福音の胴体に直撃し………胴体の皹から生えたエネルギーの翼に防がれた。

同じように、鈴さんが撃った衝撃砲もシャルロットさんが撃ったアサルトライフルも、全てエネルギーの翼に弾かれてしまった。

 

………あれは、まるで攻性防壁ですわね。それも、相当性格の悪い方がお作りになられたものでしょう。

 

何よりも驚愕するのはそのエネルギーの絶対量。あれだけの弾幕を張り、あれだけ飛び回り、あの巨大な砲撃を二度も撃っておきながらもいまだに切れないエネルギー量。まるで、一機の中に二機分のエネルギーがあるかのよう。

 

今もわたくし達は射撃を続けていますが、そのエネルギー量を活かした防壁によって全てを防がれてしまっています。

このままでは、わたくし達のエネルギーが切れるのが早いか。それともあちらのエネルギーを削りきれるかというマラソンになってしまいます。それはできれば回避したいですわね。

 

………だから、多少の無茶は許してくださいね。

 

……ブルー・ティアーズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は終わり、眠たがりは戦場へ向かう

 

 

急に言われた問い。何のために力を求めるのか。その答えは、実は凄まじく簡単なことだったりする。

 

前にも言ったが、俺の本音はただ寝たいだけ。それを邪魔するやつを排除するためだったり、そもそも邪魔をさせないようにするために力をあの腰の低い神から受け取った。

その力を人前で使うと目立つというところから、俺は新しくISを求めた。その時には既に俺がISに乗れるとばれてしまっていたため、あまり悩むことはなかった。

 

だから、俺が力を求めることになった理由は、簡単に言ってしまえば睡眠時間の確保のためだ。

 

とは言え、今はそれだけではない。

今は周りに好きなモノが増えすぎた。

 

弾や鈴、ののちゃん達といった友人達。ちー姉さんや(たぶんもうこの世に居ない)両親。この学園の生活も、そこそこ楽しいしな。

 

だから、なんのために求めるかって理由は………

 

「今のまま過ごすため」

 

……かね?

 

…………なんでかここにいる全員にくすりと笑われた。なんというか、シャルにはできないけど鈴やののちゃんにはできそうな『まあ、一夏だからね』という笑いかただ。

少しイラッとしたので、とりあえず近くにいた【代《シロ》】のほっぺをつまんでみた。

 

……なぜかさらに笑みが深くなった。あと視界の外で鼻を押さえている奴がいる気がするんだが………気のせいだといいな。気のせいじゃないだろうけど。

 

「じゃあ、行かないとね」

 

その声の聞こえた方向に視線を向けると、そこにいたのは初めに見付けた歌う白い少女。多分、【シロ】。

寝転がっている俺を起こすために俺に向かって手を差し出しながら、俺のことを眺めて笑っている。

 

「……そうだな。そろそろ行かなくちゃ不味いか」

 

俺はシロの手をとって、体を起こす。すると急にこの場所全体が白く輝き始めた。どうやらこれで目が覚めるらしい。

 

………そう言えば、騎士風の女性(多分【白《シロ》】)はどこかちー姉さんに似ていたような気がするなぁ……。

 

 

 

ふっ、と目が覚める。ここはどうやら旅館の一室らしい。

周りには誰も居ないが、どうやら一応見張りはついているらしく、戸の外に気配をいくつか感じ取れる。カメラの数はわからないが……まあ、壊してしまえば同じだな。

 

ゾナハ虫を数匹カメラに送り込み、同時に全て爆破する。当然爆発音を聞いて外のが入ってくるわけだが、その時にはディープダイバーで俺はこの部屋の床をすり抜けて消えている。

後はシルバーカーテンで姿を消して、堂々と歩いて外に出ればいい。

 

『……織斑君………起きたの……?』

 

何故ばれたし。

 

『……シロが、ステルスモードになったから………』

 

おぉう盲点だった。確かにそれなら場所はわからなくとも、起きたってことはわかるな。

………どうしようかね?

 

『……私も連れていって』

『んな無茶な。まだIS完成してないんじゃないの?』

 

参加してなかったのもそれが原因のはずだし……。

 

『……ついさっき、最終調整が終わった。………確かにロックオン・システムは従来のままだけど…………十分、戦える』

『…………もし、置いていったら……?』

『…………泣く。みんなに迷惑かけないように……声を殺して布団にくるまって……泣く』

 

やべえ罪悪感が半端ない。流石はIS界最強の妹属性の座を蘭ちゃんと奪い合っているかんちゃんだ。そりゃああの生徒会長もシスコンになるわ。

 

『わかったわかった、今どこにいる?』

『……さっきまで……織斑君が寝てた部屋に……』

『よしわかった。迎えに行くから窓を開けて顔を出して待ってて』

 

……さてと。アグレッシブなお嬢さんが同伴することになったが………まあ、いいか。後はちー姉さんに話を通しておかないと困るだろうし(もう遅いかもだけど)、エネルギーの問題も…………ん? 満タンになってる?

 

「陰謀暗躍困った時はすぐに呼びましょ束姉さんだよっ!」

「……なんで束姉さんがその陰陽師の歌を知っているのかは束姉さんだから聞かないけど、とりあえずありがとう。そして後ででこぴんします」

「なんでさ!?」

「シロの能力を逆向きに使って俺が動けないようにしたでしょ」

 

束姉さんはそっぽを向いた。その上口笛まで吹いている。なんで『ロイツマ』なんだよ。ぷちかにしか歌わせたこと無いぞ。言葉は全部わぅわぅにゃぅにゃぅだけど。

 

「……帰ってきたらまずでこぴんです」

「いっくんが帰ってくる前に逃げちゃうもんねー」

「帰ってきた時に居たらでこぴんの後抱き枕の刑です」

「……抱き枕……でもでこぴん…………うーん…………………………」

 

なんだかすっごく悩み始めた。まあ、放っておいても大丈夫だろ。多分。

じゃあ、行こうか。

 

 

 

 

side 更識 簪

 

さっきまで織斑君が寝ていた部屋で、私は織斑君を待っている。

爆発が起きたこの部屋は少し煤けているけど、そんなことは気にならない。

打鉄弐式を組み上げるのは大変だったけれど、このときに間に合って良かったと思う。織斑君には感謝しなくっちゃ。

 

……もちろんそれだけじゃなく、私に色々なことをアドバイスしてくれた先輩達にも。

 

織斑君を見ていて、私は変わった。

昔の私はどうしても人の手を借りずに打鉄弐式を完成させて、姉さんの隣に立てるように……せめて正面から向き合えるようになりたいと思っていた。

けれど今は、あまりそういうことは思わなくなっている。……と言うか、織斑君を見ていると、そういったことがどうでもいいことに思えてきてしまう。

 

織斑君は自分がお姉さんと違っていても気にしていない。完璧といえるお姉さんを持っていても、自分を変えようとしない。

自分を貫き通せる心の強さを持っている人は、かっこいいと思う。もちろん織斑君だけじゃなく、織斑先生や凰本部長。それに姉さんの……お姉ちゃんのことも、そう思う。

 

……たまに悪い方向に頑固な人も居るけれど。

 

空を眺めながら考え事をしていると、不意に私の頭に影が射す。顔を上げてみると、そこにはいつも通りに眠そうな織斑君が、シロを展開して飛んでいた。

 

「……待ってた」

「悪い。ちょっと人にでこぴんの約束をしててな」

 

でこぴん? と不思議に思ったけど、そんなことをしている場合じゃないと思い直して、私は窓から身を踊らせる。

 

「おいで……打鉄弐式」

 

私の右手の中指に填まっている指輪が輝き、打鉄弐式が装着される。ISスーツは脱がないでいたから、そのままで大丈夫。

 

「それじゃ……行こ?」

 

私は織斑君に手を伸ばす。

私のヒーローは、にっこりと笑ってその手を取ってくれた。

 

「ああ。行こうか」

 

私達は、赤くなりそうな空に向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ。ちー姉さんには報告いれてあるから大丈夫だよ。後で相当怒られると思うけど。これは出席簿クラッシュですむかどうか……」

「……怖いこと言わないで……早く行かないと……」

「そうだな。じゃあ、しっかり捕まってろよ? シロのこの状態での最速は―――秒速2キロだ」

 

………………え?

 

呆然としている私を抱えて、織斑君はなにかを確認してから加速を始める。

それは打鉄弐式では到底出せないような速度で…………

 

「きゃああぁぁぁあっ!!」

 

私の悲鳴を置き去りにして飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場は移ろい、表情を変える

 

 

side シャルロット・デュノア

 

……これは、ちょっといけないかな……。そう思いながらも、僕はどうすればこの化物を落とすことができるのかを考えていた。

 

今の速度は、確実に僕たちの誰よりも速かった。僕たちはきっと、あのエネルギーの翼に押し留められて攻撃を当てることはできないだろうと思う。

だからといってなにもしないわけじゃない。保険はまだあるし、うまくいけば誰も落とされずに落とすことができるかもしれない。

エネルギーの翼を全身から生やした福音は、ゆっくりと僕に向き直り―――

 

『キアアアアアアア…………!!』

 

異様に高い獣の咆哮のような声を上げて僕に飛びかかってきた。

その動きはまるっきり獣で、そのあまりの速度に僕は簡単に捕まってしまった。

 

「……まあ、いいけどね」

 

だって……もう一発だけ残ってるからねぇ!

 

最速で灰色の鱗殻を呼び出し、即座に顔面に叩き込む。それはエネルギーの翼で防がれてしまったけど………それでも十分。

だって、こうしている間は確実に福音の動きが止まってるっていうことだからね。

 

エネルギーの翼がゆっくりと僕を包み込んでくる。セシリアがレーザーを撃ち込んで助けてくれようとするけれど、絶対的に出力が足りていなくて、福音が僕から離れることはない。

 

「……ふふふふふふ………」

 

それでも僕はにっこりと笑い、呟いた。

 

「今だよ、箒」

 

瞬間、真っ赤な閃光が飛来して、福音がその光に飲み込まれた。

 

『……着弾を確認。無事か? シャルロット』

 

プライベート・チャネルから声が聞こえる。僕達がここに着く前から福音のことを狙っていて、後詰めをお願いされていた最後の保険。

 

「ありがとう、箒」

「なに、構わんさ。私も友が落とされる所を見るのは忍びない」

 

赤いエネルギーの奔流が書き消え、ステルスモードを解かないまま箒は場所を移動し始める。またしばらくしてから福音に狙撃をするんだろう。

今の箒にはワンオフ・アビリティーでエネルギーを回復する手段があるし、かなり本気でお怒りモードだから手は抜かないだろうね。怖いくらいに。

 

「それじゃあ、僕もそろそろ秘密兵器のお披露目をしちゃおっかな」

 

まあ、盾なんだけどね。対エネルギー弾体用の特殊コーティング仕様の。エネルギーを散らすのにいいんだってさ。どうやって作ったのかは知らないけど。

………あの時に一夏が何かしてから、デュノアの兵器部門の発展が尋常じゃないんだよね。何をしたのかなぁ?

 

そう思いながら僕はエネルギーの弾幕を盾で受け止め、そして突貫してくる福音を実体盾で弾き飛ばす。

その間にセシリアのレーザーや鈴の衝撃砲がエネルギーの翼のない部分に当たって僅かずつ削り、たまに飛んでくる箒の赤いエネルギー砲が福音を飲み込もうとする。

 

その度に福音は別の誰かを狙おうとするけれど、無理矢理に僕とラウラがその道を塞いで狙いを僕に向けさせる。

防御能力だけなら、今の僕は(箒の展開装甲を防御に回した時を除いて)トップだからね。そうそう落ちてはあげないよ?

 

「…………!お前達。どうやらもうすぐ心強い援軍が到着するらしい。気合いを入れろ!」

 

箒からオープン・チャネルでもたらされた情報に、少しだけ首をかしげる。

援軍って言っても、今の僕達は秘密でここにいるわけだし、例え僕達が外に出ていることを知っていたとしてもここにいるのがわかるとは思えない。

けれど、箒は確信を持って『援軍が来る』と言っていた。

 

…………更識さんかな? でも、まだ専用機が完成していないって……。

 

「一夏と簪に一夏のお昼寝ブロマイド」

「では私は一夏さんに一夏さんのお昼御飯の写真を」

「私が参加するのはフェアではないからな。ラウラはどうする?」

「むう……あれだけの攻撃を受けて起き上がれるとは思えん………教官達教師陣に一夏の『にゃん♪』の写真を賭けるか。ワンサマーアルバムを一グロス買ったらダブったのでな」

「一グロス!? どれだけ買ってるのさ!? っていうか賭けしてる暇なんて無いでしょもう!一夏と更識さんに織斑先生とのお昼寝写真!」

「……シャルロットも参加してるんじゃない」

 

だって僕も一夏ブロマイド欲しいんだよ!可愛い一夏が大好きなんだ!僕は悪くない!

 

そう心の中で叫んでいると、突然シールドのない横から羽根の形をした弾が装甲の一つに突き刺さり、爆発を起こした。その方向を見てみると、伸びたエネルギーの翼の一部だけが盾の隙間から覗いていた。

 

すぐに下がって翼から逃げようとするけど、その翼は当然のようについてきて僕に弾幕を浴びせる。

まあ、防いではいるけれど、かなり鬱陶しい。

 

攻撃はほとんど効かない、凄く速い、攻撃力もかなりある、操作性は抜群。まったくもう。僕はどうやればこの鉄屑をグチャグチャパラダイスにすることができるのさ?

 

「とりあえず……力を借りればいいと思うわよ?」

「誰のさ? 鈴達の力ならこれでもかってくらいに借りてるよ?」

「誰のかって……遅れて来たヒーローと同胞の、かしら?」

 

その瞬間に横から飛んできて福音を吹き飛ばしたのは、さっきから飛んできている赤い閃光ではなく、白い三本の荷電粒子砲の光だった。

そっちの方を少し見てみると、そこには大マジな目をした一夏と、そのとなりに浮いている更識さんが荷電粒子砲を構えていた。

 

「全員無事か? 無事じゃないやつは大声で返事しろ?」

「無事じゃなかったら返事できないよね?」

「まあ、一夏だし、それであってるような気もするけどね」

「そうですわね。おはようございます一夏さん。ブルー・ティアーズに背中を押してもらうなんていう無茶なことをしたセシリアを叱ってくださいまし♪」

「おあずけ」

「そんなひどいぃ♪」

「やれやれ。最近ましになってきていたと思ったが、セシリアはやはりセシリアか」

 

……一夏が現れた瞬間、空気がいつも通りになっちゃった。かくいう僕も、さっきまでの頭が沸騰しそうなほど冷静な状態を抜け出している。

 

「油断はダメ……まだ動いてる……」

「おうとも」

 

バジュンッ!と空気を引き裂きながら一夏に飛び掛かる福音を見て、一夏は当然のように雪片で一番大きな翼を切り落とす。

切り落とされたエネルギーの翼は爆発し、衝撃を盛大に撒き散らした。

 

「………エネルギーって斬れるんだね。びっくりだな」

「あまり驚いていないようだけど?」

「驚きすぎて逆に冷静になっちゃったかな」

 

そう言いながら僕は特殊シールドに隠れる。僕の後ろには更識さんがいて、福音に荷電粒子砲を向け……あ、当たった。止めてないのに何で当たるんだろ?

 

「努力と勇気と友情と気合いと愛と練習と根性……だよ……?」

「うんわかった、更識さんも理不尽《そっち》側なんだね」

 

努力と練習はわかる。根性と勇気と……友情も……まあ、わかる。

気合いと愛って………。

 

「…………あ、それとノリと織斑君」

「一夏も入るの? っていうか一夏に対する愛情だったりするのかな?」

 

更識さんは顔を真っ赤にして、コクンと頷いた。

 

……あれ………? なんだか胸がきゅんってしたよ? なにこの可愛い娘。あといつの間にか一夏が福音をぼこぼこにしてるんだけど。零落白夜って凄いね。

 

……まあ、それもこれも、一夏だから仕方無い…………のかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の話と、『お仕置き』と

 

 

こうして戦闘を終わらせて旅館に戻ってきた俺達だったが、今はちー姉さんによるお説教の真っ最中だ。

まあ、命令がなかったのに出動するのはまずいわな。全員正座中。そろそろセシリーの顔色がやばい。かんちゃんとののちゃんは平気そう。慣れてるのか?

 

「織斑。気を散らしている余裕があるのか?」

「すみませんでした織斑先生」

 

今回は本気で心配させたと思うので、俺は全力で平謝り。ちゃんと起きている状態で。

 

「………まあ、貴様らには帰ってすぐ反省文の提出と懲罰用特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでな」

「はい、織斑先生」

 

この後、一度休憩が入ってから体に異常がないかの診察があったはずなんだが……。

 

「……それと、一夏」

 

おや、名前で呼ばれた。なんだろね?

 

「ここにうつ伏せで寝ろ。すぐにだ」

 

そう言われて指差されたのは、ちー姉さんの足元。ああ、昔よくあったあのお仕置きか。

そう考えながら移動して、ちー姉さんの足元で寝転がる。そしてちー姉さんは俺の背中に足を置き、強弱をつけて踏みつけた。

 

「……まったく貴様は。もう少し周りの事を考えて行動しろ。お前はお前自身の想像以上に周囲への影響力が強いんだからな」

「うぎゅ、うみゅっ、ふぎゅぅっ!」

 

肺を背中から押し潰されるから、どうしても猫が踏み潰された時の鳴き声っぽいのが出ちゃうんだよな。

勝手に出るんだから、まあ、仕方無い。

 

「それと、なぜ起きた時に直接会いに来ない。心配をかけたという意識が足りんぞ」

「ふぎゅぅぅぅぅ……」

「自分の健康管理もなっていない。落とされて気絶していた直後に直ぐ様ISに乗ろうとするとは何事だ。せめて健康診断をして、私と顔を合わせてから行け」

「うきゅ、ぅ、きゅぅ、うにゅっ」

 

それから三十分近くの間、俺はちー姉さんに楽器のように鳴かされるのだった。

 

「大体だ。なぜお前は簡単に体を他人に預けたりする。そういうのは家族であり、姉であるこの私が初めに候補として出てくるのが…………」

「ふにゅっ!うきゅっ!きゅぅぅぅぅ………っ!」

 

なんだか話がずれていってる気がするよ~~……。

 

 

 

疲れたからご飯抜きで寝ようとしていたら、鈴とかんちゃんとののちゃんとラルちゃんに布団を剥がれて運ばれてしまった。尻尾わしゃわしゃするわよ、と言われたら起きるしかないじゃないか。

うぅ……鈴の意地悪………。

 

あの背骨の内側がぞくぞくするような感覚は、正直に言って色々やばいから好きじゃない。頭がぼんやりして何も考えられなくなるし、何より疲れる。ついでに恥ずかしい。

今はあそこまで酷くはないのかも知れないが、試してみたくはない。後で束姉さんに聞いてみよう。

 

「はい一夏。あーん」

「……あむ…………もきゅ……もきゅ…………」

「……かなり疲れてるみたいね」

 

まあ、あれで疲れてなかったら変だろ。大して疲れてないけど。

だけど眠いのは本当なんだよな。気合い入れて動くとかーなーり眠くなる。なんでだろうね?

 

……ふぁ……。束姉さんのでこぴんどうしようかなぁ………。

 

 

 

「紅椿の稼働率は72パーセント。うんうん、相当扱いにくいはずの紅椿をたった三回でここまで乗れるようになるなんて、さっすが箒ちゃんだね!お姉ちゃんは鼻が高いよ!でも鼻ってそんなに高いと邪魔だよね? いっくんにすりすりする時とか!」

「それより先にこっち向いてほい」

「は~いったぁ!!?」

 

バッヂィン!!という高い音が響き、束姉さんの額にでこぴんが直撃した。そしてのけぞった束姉さんは、そのまま柵の向こう側に落ちていった。

 

「束さん復活!いきなりなにをするのさいっくん!束姉さんの眉間から上が消し飛ぶかと思うくらい痛かったんだよ!? ISを応用した移動型ラボを展開してたのに!」

「気合いを入れたでこぴん。それだけ」

「いっくんのでこぴん怖い!旧時代の兵器の直撃にも耐えるシールドエネルギーを楽々ぶち抜いてきたよ!? ちーちゃんより強いんじゃないの?」

 

さて、それはどうかね? 力だけなら負ける気はあんまりしないけど………実際戦うとなるとなぁ……。わかんね。

ただ、装備にYシャツ(ちー姉さんのお下がり。ただ、お下がりと言うには貰ったときは新品のように綺麗だったし、ちー姉さんのサイズより二つ三つサイズが大きかったような気もする)を装備し、犬耳(ガルム、ゴツい首輪と鎖付き)で行ったら戦いにならないと思うね。色んな意味で。

 

ちなみに、前に一度やってみた。今生のセカンドキスが実姉になった。ちー姉さんは頭が沸いていたらしくて忘れているみたいだけど。ファースト? 束姉さんだよ? 母さん父さん除けばだけど。

 

「まあ、旧時代のミサイルより強いでこぴんができるかどうかなんて置いておいて、早く来ないと教員部屋までアイアンクローで運びますよ」

「そ……それは困るかな………」

「それじゃあ、はい」

 

手を優しく掴んで出発進行。テンションあげたくとも眠くて上がらない…………。ふぁ………。

 

「……いっくんってば………魔性の男の子になっちゃって……」

 

知らないよ、そんなこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、これにて終幕

 

 

朝起きたら束姉さんがちー姉さんに変わっていた。ついでに俺の体が全体的に真っ赤になっていた。多分鼻血で。出血多量で死んでもおかしくない量だぞこれ。平気か?

……まあ、ちー姉さんは大丈夫そうだな。束姉さんは………あ、部屋の片隅でシーツ巻きになってる。

 

「乙女のたしなみ、縄脱け~♪」

 

どんなたしなみだ。そんなのたしなむな。

 

「さ~てそれじゃあいっくんの寝顔を眺めてくんくんしてから帰ろっかな。くーちゃんも待ってると思うしね」

 

くーちゃんが誰かは知らないが、なんだか貞操のピーンチ。ちー姉さんに抱き締められてて逃走は不可能。万事休すか?

まあ、束姉さんに少しの理性があることを期待しよう。もしくはヘタレであることを。それならなんとかなるかもしれないし。

 

「……くんくん……すんすん………いっくんの匂いがするよぉ……」

 

たーすけてー。だーれかたーすけてー。

 

「ふっふっふ。助けを呼んだって無駄なんだよ? ここの人間には暫く大人しくしてくれるように起床時間ぎりぎりまで起きないように」

「た ば ね?」

 

あ、ちー姉さん起きた。ついでに放してくれると嬉しいかな。

 

「なっ!? ち、ちーちゃん!? どうしてちーちゃんが起きて……!?」

「一夏の助けを求める声が聞こえた。ならば姉である私は万難を排して助けねばならないだろう」

「くぅ……流石はちーちゃん!この束さんが唯一認めた同格のブラコンだけはある……でも!今のちーちゃんは無理して起きているだけ!それなら束さんには勝てないよ!」

 

なんだろうかこの暑苦しい展開は。俺はどういう反応をすればいいんだ? リス耳でも着けて『喧嘩はダメだよ?』とでも言っておくか?

 

「ふ……残念だったな。薬など一夏への愛の暴走で全て外に出ている!」

「な、なんだってー!?」

「詰めが甘いんだよ貴様はなぁ!」

 

そこで俺はちー姉さんと束姉さんを同時に布団の中に引きずり込んだ。

 

「なっ!? い、一夏っ!?」

「……喧嘩はだめ。お仕置き」

 

そう言って俺はちー姉さんと束姉さんを抱き締める。ちー姉さんが慌てたり束姉さんが発狂しそうになってるのは意図的にスルーすることにした。

 

「ま、待て一夏!今そんなことをされたら私は……私はっ………ぷふぁっ!?」

「くんくん……すぅ~………コペッ!」

 

……対象沈黙。作戦完了。これより二度寝に入る。

 

…………すか~………。

 

 

 

帰りのバスの中で俺は寝る。隣は二百数十回の読み合いの結果、偶然他の全員がチョキを出した時にグーを出していたシャルがかっさらっていった。

 

ああ、それと尻尾の件はやっぱり束姉さんが何かしていたらしい。設定を前の状態に戻してもらって事なきを得た。

だから今シャルに尻尾をわしゃられても大丈夫なわけだ。少しくすぐったいけど。

 

「……ぅぇへへへへほへへほほほへへほへへへへ……」

 

……駄目だこれ。早くなんとかしないと取り返しのつかないことになるぞ………。

 

「シャルロット。シャルロット!よだれ凄いわよ」

「ほへぇ……? ………………っ!??!!!?!?? ■■●□△◆▽∀∝※っ!?」

「………悪いんだけど、できれば人間の理解できる言語でお願いできる?」

「ああ。流石に『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』では何が何だかさっぱりわからん」

「……よく発音できるな。普通は『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』など聞き取ることも発音することもできないだろうに」

「そうよね。まあ、たとえ『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』っていうのを聞き取って発音できても、『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』の意味なんてわからないから意味無いけど」

 

さっきからなんの話をしてるんだ? 『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』『■■●□△◆▽∀∝※っ!?』と五月蝿いぞ?

 

「ちなみに写真も撮ったわ。こんな顔をしてたのよシャルロットは」

「私も撮ったぞ。姉さんの改造のお陰でパネルが空間投影型になり、相当画像が細かくなった」

「お願いだからやめてよぉぉぉっ!!」

 

シャルは半泣きだ。まあ確かにあの顔を写真に残されるのは嫌だろうな。俺でも嫌だ。

 

…………まあ、頑張れシャル。

 

…………すか~……。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

一夏が寝落ちしてすぐ、バスに見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねえ、織斑一夏くんっているかしら?」

 

すぐさま気配を読み取ってそこに悪意が無いかを確かめる。全く同時に鈴とセシリアもこの女性の観察を始めていて、ラウラはいつでもナイフを抜けるように構えていた。

 

「ちょ、なんなのいったい?」

 

………特に悪意に当たるものは感じ取れないな。少なくとも、一夏に向かってのものは。

鈴とセシリアに顔を向けて確認すると、二人とも同じ答えに辿り着いたらしく頷きを返してくる。すぐ近くにはシャルロットも居るし………まあ、問題ないだろう。何かをしたらソードサムライXの出番だが。

緋宵は切り口から足がつきやすいと言われたのでこっちに。こっちの方なら確実に隠し通せるらしい。

 

「……失礼しました。少しばかり過剰反応してしまいました。あそこで寝ているのが一夏ですが、起こさないでください」

「少しって……」

「問答無用で刻み潰していないので、少しです」

「それってどんな基準よ!?」

 

どんなと言われてもなぁ? こんな、としか言えんが。

 

「常識だよな?」

「常識よね?」

「常識ですわよ?」

「常識だな」

「自分のじょーしきを~、世界のじょーしきとは思わない方が良いよぉ?」

 

む、布仏は良いことを言ったな。その通りだ。

それができない奴が宗教に嵌まると色々と訳のわからないことをやることがあるから面倒だ。

 

「……はぁ……それじゃあ、伝言をお願いできるかしら?」

「なんでしょうか?」

「『銀の福音』の操縦者から、ありがとう、ってね」

「承りました」

 

それだけ言ってその女性はバスを降りていった。

 

…………しまったな。名前を聞き忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み開始、驚愕の事実

 

 

夏休み。それは俺にとって最高の一月。

理由は実に簡単。俺がいくら寝ていても、文句を言われることがまったく無いという理由だ。

 

と、言うことで俺は寝る!…………と言いたい所なんだが、前にやったことで少しばかり驚く結果が出てきているのでそっちの方を終わらせてからにする。

 

何が原因でどんな結果が出たのか。これも簡単。原因はデュノア社で、結果は頭がいかれてるんじゃないのかと言うレベルの黒字の預金通帳だ。

デュノアを買収した時に作った偽造金庫がいつの間にか本物の金庫になってしまっている。それもこれも黄金律と幸運のせいだろう。

兵器の部品に千の顔を持つ英雄を使っているものをデュノアの製品として売り出し、かなりの売り上げを得ている。もちろんこれにも意味はあり、できれば世界中の量産機の武装をデュノア製にしてしまえと思っている。

 

………敵対された時にその部品だけ消して暴発させてやることができるし、消すのではなく爆破することもできる。それができるようになれば量産機の脅威が欠片もなくなる。

……IS本体? 知らんよそんなの。

 

そして今はそうしてできた黒字の金庫から引き出して、ちょっと弾の実家である五反田食堂にむかって歩いている。ライアーズマスクって顔だけじゃなく姿形を変えるから便利だよな。

身長を変えるのは無理らしいけども、それはなんでか俺ができるから大丈夫。

こうして面倒なのに絡まれないようにして、さて、行こうか。

 

 

なんでか五反田食堂にシャルとラルちゃんが居た。シャルは私服だけどラルちゃんはいつも通りの制服でアホみたいに分かりやすかった。まあ、それがなくてもわかりやすい容姿をしてるんだけど。

二人は同じテーブルを使っていて、真剣にメニューを睨んでいる。

 

「あ……あの……お水………です」

 

蘭ちゃんが恐る恐る二人の前に水の入ったグラスを置いて、そそくさとカウンターに戻

 

「注文、いいかな?」

 

……ろうとしたところで、シャルに捕まった。蘭ちゃんは何でかびくびくしながらシャルとラルちゃんの所に戻った。

 

「は、はい。なににいたしますか……?」

 

蘭ちゃんの、今まで聞いたことのない妙な敬語を聞いて、ちょっと面白いと思ってしまった。随分緊張してるねぇ。それとも怖がってるのかな?

まあ、その二人はいきなり噛みついてきたりはしないよ。

 

「この……『業火野菜炒め』っていうのを、二つもらえるかな?」

「は、はい」

 

蘭ちゃんはなんでかびくびくしてる。なんでだろうね?

 

「あ……い、いらっしゃいませ」

 

ん? ………ああ、そう言えばライアーズマスクを解いてなかったな。面倒だし今回はこのままでいいや。

 

「ん。それじゃあ業火野菜炒め単品と、焼き魚とフライの盛り合わせ定食を」

「えっ、あ、はい」

 

蘭ちゃんは慌ただしく引っ込んでいった。大変そうだね。

 

そこで、入り口の方から見知った影が大量の袋を持ってやってきた。

 

「ふぅ、やれやれ間に合った。シャルロット・デュノアさんが六つでラウラ・ボーデヴィッヒさんが一つね」

「あ、こっちですこっち」

 

シャルが急に弾に向かって手を振る。いったいなんの話だろうか?

そう思っていると、弾と目があって―――

 

「……一夏?」

 

なぜばれたし。ってかよくわかったな。女の格好してるのに。

 

「お前への溢れんばかりの愛情の成せる業だ。写真撮っていいか?」

「可愛く撮ってね?」

 

特に意味は無いけど言ってみる。スカートを履くのは躊躇われるので、外見的にはGパンを履いているように見えるはずだ。

 

パシャッ!と弾はどこからか取り出したカメラで数枚俺のことを撮り、それからシャルとラルちゃんに向き合った。

 

「遅くなって悪いな。予約されてたワンサマーアルバムだ。初回利用特典でレア写真一枚サービスしといた。これからもご贔屓に」

 

弾はにっこり笑ってから、すぐにエプロンを装備してカウンターの中に入っていった。まあ、弾やシャル達にも色々あるんだろうな。知りたいような知りたくないような………。

 

「……ふむ……なるほど、一夏は小さい頃から変わっていないのだな………」

「そうみたいだ………っ!? こ……この写真は……っ!?」

「シャルロット。ここは公共の場だ。我慢しろ」

「わ……わかってるけど………頭に血が昇ってくらくらするよぉ……」

 

いったい何を見たんだあの二人は。

 

「お待たせしました」

「ん? ああ、ありがとう」

 

丁度蘭ちゃんが業火野菜炒めと定食を持ってきてくれたのでそれを食べる。もきゅもきゅ……美味い。

 

そして食べながら弾とアイコンタクト。

 

『なんでそんな格好してんだ?』

『ここに来るまでの雌避け。直そうとしたら顔見知りがいてびっくりしてついこのまま入ったんだけど、よくわかったね?』

『まあな。鈴ほどじゃないが勘は良い方だし、なんとなく一夏と気配が似てたし、目付きが一夏だったし、後は少し考えればな』

 

弾すげー。平均してハイスペックな弾すげー。

ちなみに鈴は勘が廃スペック(言わずもがな)。ののちゃんは気配察知が廃スペック(同じく)。そしてセシリーは思考能力が廃スペック(ビットのマニュアル操作をそろそろ六つ同時にできそうだと言っていた)。

 

…………あっれぇ? 弾にできないことってなんだ?

 

『彼女』

 

自分で言ってて悲しくないのか弾は。

 

『別に? いつか好きなやつができたら報告するわ』

『その時はきっと応援するよ。ちー姉さんが相手だったら三発くらい殴るけど』

『ねーよ』

『ちー姉さんの何がダメだって言うんだ!』

『えぇぇぇ良いのか悪いのかどっちだよ!?』

『あ、冗談だよ? 弾はちー姉さんのことをそういう風に見れないってのはよく知ってるから』

『……一夏ァ………』

 

怒られちゃった。ごめんね?

 

 

 

 

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