IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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101~110

わぅわぅにゃうにゃう、きゅうきゅうきゅう

 

これは夏休みのある日の話。一夏が毎日毎日食事もせずに寝続けていた夏の、一ページ。

 

……らしいぞ?

 

 

 

side ぷちか56号

 

どうも。どんな時でも蛇革マフラーを手放さないぷちか56号ことオルトロスぷちかだ。オルトロぷちかと呼んでくれ。

 

今日もごしゅじんさまは自分の部屋でおやすみ中。寝たい子達はみんな集まってぷちか玉になって寝ている。

床一面ぷちか。右にもぷちか。左にもぷちか。前にも後ろにもぷちか。さすがに上にはいないと思ったら蝙蝠ぷちか。どこもかしこもぷちか。今の部屋はそんな部屋になっているので、起きているおれはちょっとIS学園を散歩中。お供は適当に黒豹と黒兎。見事に黒いのばっかりだ。

マフラーで二匹を包んで運んでいると、なんでかみんなよく襲撃してきたり撫でてきたりお菓子をくれたりする。

ちなみに襲撃犯が現れると、毎回どこからともなく人が現れてその犯人を連れ去っていく。粛清部隊と言っていたけど、どこの粛清部隊だろうね。

 

……まあ、どこでもいいかな。お菓子くれるし。

 

「カリカリカリカリ……」

「もしゃもしゃ……」

「わぅ!」

「カリカリ……きゅ?」

「もしゃもしゃ……にゃう?」

 

廊下で歩き食いはよくないぞ、と言ったらおれのマフラーを椅子の代わりにしやがった。これでいい? じゃなねえよよくねえよ。地味に重いんだよ。

 

「ぅにゃ」

「………わぅ」

 

まったく、おれがたい焼きなんかで釣られるのはこれが最後だぞ?

 

……もきゅもきゅ。

 

「にゃう!」

「わぅ? わぅわぅ!」

 

おれは座ってるから良いんだよ。あー美味い。

 

 

 

 

side ぷちか12号

 

白猫ぷちかだ。みんなと一緒にお昼寝中。いまだかつてないほど眠いので、とりあえず目を閉じてみることにする。

どこかで他のぷちかが身動きをすると、それがぷちか達を伝わってどこかがころりんと転がって、離れてしまったぷちかは他のところのぷちか玉に入ってまた眠る。いくらこの部屋が広くても、100近いぷちかすべてが寝転がるのは不可能。しかも、ぷちー姉さんとぷちたば姉さんも居るし。

だから何体かのぷちかは他のにのし掛かったりしている。それでも狭いけど。

 

まあ、寝るのには問題ないから、いいかな。

 

「ふみぃ……はむ……」

「……わきゅ?」

「きゅぅ~……」

 

たまに誰かにぱくりと噛まれてよくわからないといった鳴き声をあげるチワワぷちかや、のしかかられて苦しそうな呻き声を上げるイタチぷちか。羽に顔を埋められてくすぐったそうな烏ぷちかに、水を張ったたらいの中でぷかーっと浮かんでいるラッコぷちか。

……きっとちー姉さんはこれを見たら、辺りを真っ赤に染めるんだろうな。自分の血で。そして蝙蝠ぷちかがちー姉さんの顔についたままの血を舐めとっている時に目を覚まして、さらに周りが赤くなるに違いない。

 

そんなことを考えながら、おれはきゅうぅっと伸びをする。ベッドの上でぷちー姉さんとぷち束姉さんと一緒に寝ている。ごしゅじんさまだってもちろん一緒だ。

一緒に寝ているだけで、なんだか嬉しくなってくる。ぽや~とした中でごしゅじんさまの体温を感じると、なんだか幸せだ。

 

「……邪魔するわよ~」

 

鈴さんが入ってきた。すごく小声で呟いていたけど、今の部屋の状況を見てゆっくりとポケットから携帯電話とカメラを取り出した。

 

「……なによこのぷちか天国。とりあえず弾に送ってから………あと、箒達も呼ぶ必要があるわね。みんなで一緒にぷちかに溺れましょう」

 

すごい勢いでシャッターを切っているのに、どうしてか音は全くしない。凄いねそのカメラ。

 

「……篠ノ之博士に超高画質デジタルカメラを依頼しておいてよかったわ。ちゃんと音は出ないようになってるし、暗いところでも普段と変わらない明るさで撮れるし………これで撮った写真を毎回渡すだけでいいなんて、得したわね」

 

ああ、だからあの束姉さんに作ってもらえたのな。なるほどなるほど。

 

「撮ったら勝手に送ってくれるみたいだし、本当に便利ねこれ。現像とかもできないかしら?」

 

鈴が一人言のように呟くと、カメラの下部から現像済みの写真が連続して出てきた。……確かに画質いいね。

 

「………よく撮れてるわね」

 

そこでゆっくりと扉が開き、また何人かがこの部屋に入ってくる。

 

「……わぁ……わぁ……!」

「来たぞ、鈴。………うむ。桃源郷だな」

「そうだな。絶景、と言うべきか………ふぁ……」

「ちっちゃい織斑君が……こんなにいっぱい……」

「……さて、わたくしはどの場所に埋まればよいのでしょうか?」

「お~、ぷちおりむーがいっぱいだ~」

 

……なんだか人がたくさん。元々足の踏み場もないのにどうやって上がる気だろう?

 

「…………さて、それじゃああたしはぷちかの海に溺れにいくわ。皆も起こさないように気を付けてね」

 

その場の全員が無言で敬礼をして、すぐにこの部屋の中でぷちかに埋もれて眠りについた。

 

「……うぇへへへへへぇ………」

 

……駄目だこのシャル。早くなんとかしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくまともな、夏休み

 

とある日。俺はいつも通りに自室でうつらうつらとしていた。こうして起きているような寝ているような状態、つまり微睡みタイムは大好きだ。

毎日起きてから完全に体が起きるまでの時間は二時間。その二時間を微睡み続けて過ごした俺は、一応食事をしに行く。食べてないことが鈴やののちゃんやちー姉さんにばれると怒られるから。

 

ただし、面倒だから服は着替えない。だぼっとしたパシャマを着たままスリッパをつっかけて食堂に行く。

 

適当に日替わり定食を選んで食堂のお姉さんのところに渡しに行く。最近身長の伸び縮みが楽にできるようになってきたから、カウンターが高くて置けないということは無い。

少しだけ待って、出てきた定食を適当なテーブルに運んで食べる。

 

………もしゃもしゃ、ごっくん。…………おいし♪

 

ぺろりと食べ終えてから食器を返却して、自分の部屋に戻る。とても眠い。我ながら病気じゃないのか? ってぐらい毎日寝てるけど、体は完全に健康体なんだよな。理由は知らないけど。

まあ、理由を知ったところで何か得があるわけでもなし。気にしないでおこう。

 

「あ、見付けた。部屋にいなかったから探してたのよ?」

「……ん………ごめん」

「良いわよべつに。あたしが勝手に探してただけなんだから」

 

そう言って現れたのは鈴。その手にはなにやら二枚の紙切れが握られている。なんだろうな? チケット?

 

「そうよ。詳しい話は一夏の部屋でしましょ」

 

鈴は俺のことを抱き抱えると、揺らさないように静かに俺の部屋に向かって歩き始めた。

 

………揺れが良い感じだな……寝ちゃいそうだ。

 

「はいはい、寝ちゃってもいいけど話は聞いてもらうわよ」

「ん~……」

 

まあ、原作的に考えるとプールの誘いなんだけど………どうしようかなぁ……明日は外のケーキを買って食べる予定があるんだけど…………。

……起きてから考えよ。今は考え事なんてしたくないし。

 

…………すか~……。

 

 

 

夕方に起きると、鈴が膝枕をしてくれていた。セシリーとののちゃんとかんちゃんがベッドのすぐ横で俺のことを眺めていて、シャルとラルちゃんはどうやら落ちたらしく、部屋の真ん中に転がされていた。

ただ、ラルちゃんは普通に寝てるだけっぽい。白蛇ぷちかを抱き締めてるけど。

まあ、蛇は変温動物だから夏には涼しくて良いよな。俺にはある意味無縁だけど。

 

「ああ、起きたわね」

「……ん……一応………」

 

まだ眠いことには変わり無いけど、一応話を聞いて言葉を理解して考えて返答するくらいのことができるくらいにはなった。まあ、これなら起きてるって言っても良いだろうな。

 

「それじゃあ勝手に話すから、聞き返すなりなんなりしなさいよ? 明後日の日曜に、新しくできたウォーターワールドに行かない? みんなで」

 

……やっぱりそのお誘いだったか………。プールなんて学校以外だとここ十年は行ってないな。

……行ってみるのもいいかもな。水の上で昼寝というのも悪くなさそうだ。悪かったらプールサイドでプールに足だけ入れて寝てよう。暑いし。

 

「いいよー」

「そうよね~やっぱりイヤよ…………え?」

 

何でか信じられないものを見たっていう顔をされた。確かに俺はこういう付き合いは最悪って言えるレベルで悪かったけど、これは酷くないか?

 

「………来てくれる…………の?」

「うん」

「……落ち着きなさい私。あの一夏が来てくれるですって? よく考えるのよ。……1、これは夢で、はしゃぐとベッドから床に落ちて頭を直撃。悶絶することになる。2、あまりの暑さに見ている幻覚。本当の私は保健室でぐったりしている。3、現実は意外と優しくできている。4、一夏のあまりの可愛さに頭が沸騰して出血多量で見ているいまわのきわの幻想。あたしとしては3番だと嬉しいわね。はい、答えはどれ?」

「鈴。三番だ。良かったな」

「三番だから……安心していいよ……?」

「三番ですわ。なぜそこまでいぶかしがるのかは知りませんけれど、今回は優しい現実ですわ」

 

それを聞いても鈴は信用できないらしく、自分のほっぺを引っ張ったりつねったりと忙しそうだ。

 

「……断った方がよかった?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやそんなことは無いわよ? ただ、今までにないことで驚いただけよ」

 

ならいいんだけどね。

 

「……明後日ね。準備しとくよ」

 

水着はあるし、タオルとゴーグルもある。使うことはほとんど無いけど。

 

………あ、そう言えばプールは騒がしくなるんだっけ? そしてシロのデータ取りを真耶先生が伝えるのを忘れてたんだったっけ?

 

……あ、大丈夫だ。だってまだシロは二次移行してないし。よーし自由時間ができたな。無駄に遊び呆けるか。

じゃあ明日は外にケーキでも食べに行こう。IS学園のケーキも美味いけど、他のところのも食べたいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

甘い物、ちょっとした騒ぎ

 

鈴達とプールに行く約束をした次の日。昼頃に起きた俺はのんびりと町を歩いていた。あまり背が小さすぎると歩くのが面倒なので、130センチくらいにまで大きくなっている。

目指す場所は@クルーズ。原作だとプールに行く約束をした日に銀行強盗が立て籠った喫茶店だ。

まあ、プールに行くのは明日だし、問題ないだろ。

 

そう思いながら@クルーズの店の扉を開ける。

 

「いらっしゃいませ、@クルーズにようこそ」

「……何やってんの、シャル」

 

そう、そこにはシャルがいた。ちなみに執事服を着ている。

 

「…………え……あれ……? いち……か…………?」

「お~、昨日ぶり。……それにしても……」

 

シャルの服装を見て、やっぱり、という思いを強める。

 

「似合ってると思うよ?」

 

「…………ぅ……うわあぁぁぁん!」

 

なんでかシャルは泣きながら走っていってしまった。なんでだろうな。

 

「……なあ、ラルちゃん。ラルちゃんはシャルが泣きながら走っていってった理由とかわかる? 俺は全くわからないんだけど」

「さてな。私も理解できん」

 

俺に気付いて寄ってきたラルちゃんに聞いてみたが、ラルちゃんもわからないらしい。まあ、女心と他人の思考はいくつになってもわからないからな。

 

「……それはそれとして、一夏」

「ん? なに?」

 

ラルちゃんに呼ばれたので考えるのをやめて振り向いてみると、ラルちゃんがその場でくるりと一回転。長めのスカートがふわりと少しだけ浮いて、ラルちゃんが止まるとゆっくり元の位置へ。

そして笑顔を向けられて、一言。

 

「@クルーズへようこそ、お客様」

 

………お~。凄い凄い。つい最近まで私服を持たないまま軍服と制服とISスーツだけで過ごしてきたとは思えないな。

 

「……どうだ? 惚れ直したか?」

「惚れ直した云々は置いといて、似合ってると思うよ? 可愛い可愛い、やるじゃんラルちゃん」

「ふっ。当然だな」

 

ニィ……、と笑うラルちゃんは、それはそれは魅力的だった。ちー姉さんにちょっと似てるということは関係無しに。

 

「ああ、とりあえずおすすめの紅茶と、ケーキを全種類一品ずつお願いね。パフェはいらないから」

「……それは構わんが………食べきれるのか……?」

 

ラルちゃんがひきつったような笑みを浮かべながら聞いて来るけれど、朝も昼も食べてないから楽勝だ。

 

「……頼んだからには食べ切れ」

 

ラルちゃんはそう言って厨房の方に消えていく。さてと。俺は適当なところに座って待ってようか。

 

 

 

しばらくして、紅茶と一緒にケーキの群れが運ばれてきた。メニューを見てみたが、そこに乗っている量からするとずいぶん少ないから、多分これで第一波。周りに座っている客からざわざわと言う声が聞こえるが、気にしない。

 

「……お、お待たせいたしました。紅茶でございます」

 

主にケーキを運んできたのはラルちゃん。紅茶を慎重に運びながら、無理が出ない程度にケーキも運んできたのがシャル。ラルちゃんはケーキを机の上に並べて空きができることを確認すると、またすぐにカウンターの方に行ってしまった。

 

「お砂糖とミルクはお入れになりますか? よろしければ、こちらで入れさせていただきます」

 

顔を朱に染めながらも、シャルは仕事を全うしようとしている。流石シャル。真面目だな。

 

「それじゃあ、砂糖はいらないけどミルクたっぷりでお願いね」

「かしこまりました、それでは、失礼いたします」

 

そう言ってシャルは紅茶にたっぷりとミルクを注ぎ、静かにスプーンで紅茶をかき混ぜる。紅茶だけなら砂糖を入れてもいいけど、ケーキと一緒だったら砂糖はいらない。

 

……さてと。それじゃあ俺もケーキタイムにしようか。甘いものは嫌いじゃないし。

 

フォークでケーキを二割くらい削って、そのまま口に運ぶ。うん、美味い。そして甘い。

ぱくぱくと一つを食べ終わってから、紅茶を一口飲む。紅茶も美味しい。やっぱり紅茶はミルクティーにして飲むのが良い。個人の考えだし、レモンティー好きやストレート好きやコーヒー党を馬鹿にする気は無いけど。

 

紅茶で口を湿らせて、それから二つ目のケーキに取りかかろうとした時、急速に状況が変わった。

 

「全員、動くんじゃねえ!」

 

いきなりこの店に雪崩れ込んできた三人の男が怒鳴り、天井に向けて発砲した。

……弾痕付きの喫茶店か。まあ、世界のどこかにはそんな酔狂な店に来てみたいって思う人も居るんじゃない? どこにいるのかは知らないけど。

 

ちなみに男達の格好は、安そうなジーパンにジャンパーに覆面。背負ったバッグからは一万円札が何枚か飛び出しているのが見えていて、手には銃を持っている。

 

……どう見ても銀行強盗帰りの逃走犯です、本当にありがとうございましt(ry

 

「そこまで言っちゃったんなら最後まで言っちゃおうよ」

 

こんな時でもツッコミを忘れないシャル。そこに痺れる憧れぬ!憧れない理由は疲れそうだから。実にわかりやすい理由だな。

 

ちなみに俺は無視してケーキを食べている。とある理由から撃たれても平気だから。

 

…………面倒臭いなぁ……。

 

……あ、このモンブラン美味しい。お土産とかできないかね? ちー姉さんと一緒に食べたいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

よし、潰そう

 

俺がもきゅもきゅとケーキを食べているところに、いきなり現れて立て籠った銀行強盗帰りの三人組。仮名称コーさんゴーさんトーさん。ギンは別にいるからつけられないんだ。ごめんね?

 

……なんでこんなに落ち着いてるかって? 撃たれても平気だからだけど? まあ、大丈夫大丈夫。

 

外ではなんか警察が色々騒いでいる。なんというか、懐かしいような古めかしいような定型文を吐いている。

そんなことはどうでもいい。今はケーキだ。冷えてるうちに食べないともったいない。紅茶も冷めると味が落ちるし。

 

………あ、このショートケーキ美味しい。クリームが秀逸だ。なに使ってんのかね?

 

「ど、どうしましょう兄貴!このままじゃ、俺たち全員」

 

こっちのチーズケーキもいいな。レモン風味で甘すぎず、生地もしっとりしてて美味しい。今度チーズケーキも作ってみるか。美味しくできたらみんなで食べよう。

 

「うろたえるんじゃねえっ!焦ることはねえ、こっちには人質がいるんだ。強引な真似はできねえさ」

 

お、ミルフィーユか。サクサクの層が良いよな。クロワッサン系統のこういう生地は基本的に好きだ。歯応えがあるし。

ただ、寝てるときには嫌だな。食べにくいから。

 

「へ、へへ、そうですよね。俺達には高い金払って手に入れたコイツがあるし」

 

拳銃より大きな発砲音が響き、蛍光灯が破裂してガラスを撒き散らしたような高い音がした。

 

「きゃあああっ!!」

 

……それにしても、ここのケーキはみんな美味いな。ティラミスも美味い。水分が多すぎるということもなく、甘すぎず苦すぎずバランスがいい。

 

今度は拳銃の発砲音。そんなに弾を使うと必要なときに使えないぞ? どうでもいいけど。

 

「大人しくしてな!俺達の言うことを聞けば殺しはしねえよ。わかったか?」

 

……あ、紅茶無くなった。どうしよう? 新しいの頼もうかね?

 

「おい、聞こえるか警官ども!人質を安全に解放したかったら車を用意しろ!勿論、追跡車や発信器なんかつけるんじゃねえぞ!」

 

………まあ、いいか。バレないように千の顔を持つ英雄で補給してやれば。

カップに手を被せて、出して、ミルクと混ぜて飲む。……及第点だな。俺。

 

「おい、何してやがる!」

 

…………ん? 俺?

横を向いてみると、ハンドガンを持った覆面がすぐ近くに立っていた。やっぱり俺らしい。

 

「大人しくしてるんだからケーキを食べるくらいいいだろう。温くなったケーキと紅茶は味が落ちるんだぞ? もったいない」

 

もう話は無いだろうから、俺はケーキに向き直る。さあ、ケーキタイム再開だ。

 

「ッざけやがって!このガキ!」

 

バゴォンッ!という音と共に、テーブルに乗ったケーキがテーブルごと跳ね上がる。そしてケーキと紅茶は無惨に床に叩きつけられ、ケーキからケーキだったものに変わってしまった。

 

………………………よし、潰そう。物理的に。

 

 

 

 

side シャルロット・デュノア

 

一夏に銃を突き付けた男が、一夏に向けて怒鳴っている。自分がどれ程の事をしたのかも気付かずに、喚き続けている。

一夏の視線の先には、潰れたケーキの残骸と、割れた紅茶のカップ。そして溢れた紅茶がある。

それを見て固まっている一夏が、暴力に対する恐怖で固まったのだとでも思っているんだろうか。あの男は。

 

自分が、眠たがりの竜の逆鱗の上でタップダンスを踊っていることにも気付かない。

 

「シャルロット。お前もシリアスの中でギャグを言うようになったな」

 

………ああ、そうだね。今気付いたよ。

だけど、確かにそんな感じだと思わない?

 

全く同時にちらりと一夏の方を見て、もう一度ラウラと視線を合わせる。

 

「……確かにな」

「……でしょ?」

 

…………止めるのが大変そうだなぁ……。

 

もう一度一夏の方を見てみると、全く動いていなかった一夏が動いていた。それは、ハンドガンを持っている強盗の一人の腕を掴んでいるところだった。

 

……今のうちなら、一夏に気をとられてる残りの二人を無力化できるかな。

 

ラウラに視線を向けると、ラウラも同じことを考えていたらしく、すぐさま頷きが帰ってきた。

それじゃあ、行動開始。

 

静かにその二人の後ろに回り、そしてちょうどいい場所に立って期を待つ。

 

それはすぐにやってきた。ゴシャリ、という鈍い音が響き、リーダーらしい男のハンドガンを持った手首が一夏に握り潰される。

 

「うぐあぁぁっ!?」

「あ、兄貴っ!?」

 

その悲鳴に完全に意識がこちらから離れたのを確認して、肝臓のあたりに爪先を捩じ込んだ。防御が頭に無い状態でのこれは結構効いただろう。

ちなみにラウラは思いきり蹴り上げていた。どこをとは言わないけど。

 

悶絶するその二人を気絶させようと頭部と鳩尾と肝臓のあたりに二、三発ずつ蹴りを入れ、動かなくなったのを確認して武装解除をする。ショットガンとその弾と、内ポケットの中のハンドガンも取り上げてから、脱がせたジャンパーで両腕を縛る。足の方は……まあ、いいかなって思って放置。

ラウラも同じように気絶させ、武装解除してから縛り上げる。覆面を裂いて足を縛っていた。あ、そんな手があったんだ。僕もやろっと。

 

……ちなみに、一夏のこともちゃんと見ながらやってたよ? 心配は……一夏の心配はいらなかったみたいだけど。

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!! HA~~HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」

 

ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス!!

 

………や……やりすぎだよぉ…………。

 

そう思うと同時に、一つの事柄について納得もしていた。

 

……一夏は、やっぱり織斑先生の弟なんだ、って。

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 

ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス!!

 

……って、そんな場合じゃない、止めないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の話と、ミックスベリー

 

気が付いたら俺はラルちゃんとシャルに止められていた。拳は血まみれで目の前には『公共の電波に乗せるときにはモザイクをかける必要があるだろうと思われる赤黒い塊』がある。一応、人型は保っている。

 

「ええい放せ!俺はそいつを殴るんだ!グシャグシャになっても殴るんだ!ミンチになっても殴るんだ!!ペーストになるまで殴ったら綺麗にロースト作るんだ!!!」

「グシャグシャの時点でやりすぎだってば!それ以上やったらホントに死んじゃうから!」

「大丈夫。人間って意外と丈夫にできてるからこれくらいならまだ死なない」

「だから死ぬ前にやめないと駄目なんだってば!って言うかローストされたら確実に死ぬから!」

「………ふむ。確かに外傷は凄まじく見えるが、内蔵へのダメージや出血量は大したことがないのか。なるほど……」

「ラウラも感心してないで一夏を止めるのを手伝ってよぉ!大きい一夏は僕一人じゃあずっとは止められないんだから!」

「あ、じゃあやめるか。そろそろ疲れてきたし」

「止まっちゃった!?」

 

シャルはかなり驚いているようだったが、実のところミンチになっても殴ると言っていた時にはもうただの悪ふざけだった。

 

「………一夏の悪ふざけは本気にしか聞こえないんだよぉ……」

 

そう言いながらシャルはその場にへたりこんだ。どうやらかなり疲れているようだ。大変だね。

 

さてと。それじゃあ俺は頼んで来たケーキと紅茶の分の金を置いて、さっさと逃げるか。面倒事は嫌いだし。

 

「と、言うわけでこれ代金ね。じゃねー」

「え、ちょ、待っ」

 

シャルの言葉? 聞こえんなぁ。

 

 

夕方。俺はとある公園でクレープを食べていた。シンプルにチョコバナナもいいけれど、たまにはしょっぱいクレープもいいよな?

ということで、俺が今食べているのはツナレタス。これが意外と美味い。クレープ生地さえあれば家庭でも簡単に作れそうだ。

 

「それじゃあ次はこのチョコミントってやつを一つ」

「……お嬢ちゃんまだ食べるのかい」

 

俺は男だ。まあ、女扱いでサービスしてもらえるんだったら普通に受けるし訂正しないが。

 

「……はいできたよ」

「どうも」

 

代金を渡してすぐ近くのベンチでチョコミントクレープを食べる。クリームにチョコとミントのソース的な何かがかかっていてすーっとする。美味い美味い。

 

「……次はブルーベリーにするか」

 

それが聞こえたのか、クレープ屋の中で店主が動き始めるのが見えた。

 

「ブルーベリー一つ」

「お待ちどう」

 

正直二秒も待ってないけどな、と思いつつ、できたてのブルーベリーのクレープを受け取る。今日は俺にしては珍しくよく食べる日だな。

 

これでクレープは最後にしようと店を離れると、ちょうど知った顔に出会った。

と言うか、ついさっきまで会っていた顔だ。

 

「よ。なんか疲れてる顔してるけど、大丈夫か?」

「…………一夏が……それを言うの………? あのあと……どれだけ大変だったか…………!」

 

ちー姉さんもかくやという目で睨まれた。怖い怖い。

 

「まあまあ、これでも食べて機嫌直して。食いかけで悪いけど」

「何が━━むぐっ!?」

 

食いかけのブルーベリーをシャルの口に押し込み、俺は新しいクレープを買いに戻る。

 

「ラルちゃんは何食べたい?」

「ふむ……それでは、苺を貰おうか」

 

クレープ屋のメニューを見て何かに気付いたらしく、少し笑みを浮かべながらラルちゃんは苺を頼んだ。

 

「じゃあ苺とラズベリーを一つずつ」

「あれ? ミックスベリーは?」

 

ミックスベリー? …………ああ、いつも売り切れのミックスベリーの話か。確かそんなのもあったな。忘れてたけど。

 

「売り切れみたいだぞ」

「あ、そうなの? 残念………」

「……お待ちどう。……それにしてもお嬢ちゃん、よく食べるね。それでもう14は食べてるだろ?」

 

クレープを渡しながら俺にそう言う店主は、何でか苦笑いを浮かべていた。

 

「……まあ、このくらいは」

 

代金を渡しながら言う俺も、たぶん少し苦笑いをしているはず。

 

「さてと、それじゃあ食べようか。……シャルはどっちを食べたい?」

「こっちのでいいよ」

 

そうか。まあ、いいって言うならいいけどね。俺はどっちでも構わないし。

 

「……ふむ。私としては一夏の食べているそれにも興味があるのだがな」

「ん? それじゃあ一口いる?」

「貰おうか。……はむ」

 

ラルちゃんがそういったことで始まった交換会は、俺とラルちゃんがシャルにミックスベリーの種明かしをしてからかうまで続いた。

……それにしても、シャルはからかうと面白いな。いい反応を返してくれるし、ツッコミキャラだし。

 

「最近はシャルロットもボケに回ることがあるぞ? 頻度は低いがな」

「周りのキャラが濃いからしょうがないと言えばしょうがないんだけどな」

「なにそれ? 僕の影が薄いってこと!?」

 

影は濃いと思うぞ? ツッコミは貴重だし。シャルとかんちゃんの二人だけだし。その二人もタイプが違うから被ることもないし、大丈夫だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み、ウォーターワールドにて

 

今月できたばかりだというウォーターワールドに来ている。確か何かあったような気がしたんだが、何もない。普通に騒がしく、普通に静かで、水の感触がなかなか気持ちいい。

ぷかーっと浮かびながら天井を見上げていると、なんだか眠くなってきた。

 

「楽しんでるかしら?」

「ん。まあ、そこそこ楽しんでる」

 

すい~っと音もたてずに泳いで近付いてきた鈴にゆっくりと答え、また浮かんだまま流れる。かんちゃんが隣で一緒に流れていてくれるお陰か、まだ一度も監視員に声をかけられていない。

昔からこうして浮かんでいると声をかけられたり、酷いときには溺れてると勘違いされて引き上げられることがあったからな。感謝感謝。

 

あと、水着似合ってるぞ。

 

「あ……ありが……とう……」

「ふふふ……簪も可愛いわね。初々しくて。……あたしにもこんな時期があったのよねぇ……」

 

まあ、なんにしろ俺は今まで通り浮かんで流れ続けるだけだけどな。

……あと、悪いんだけど今の鈴の言葉がすっごい年より臭く聞こえた。

 

「……せめて大人っぽいって言ってくれないかしら?」

「だ……大丈夫……鈴も、可愛いよ……?」

「ありがと。簪に言われると自信を持てるわ」

 

鈴はそう言うけれど、実のところ始めからあんまり気にしていないようだ。雰囲気を読むのはそこそこ得意だし、鈴も隠す気はないようだからそれが楽にわかる。

 

「……そう言えば、なんかイベントなかったっけ?」

 

気になっていたことを鈴に聞いてみた。確か、原作ではセシリーと一緒に出てISで暴れて大会そのものがなくなったはず。

 

「水上ペアタッグレースのこと? それだったら昨日のことよ。そんなのがあったら一夏が落ち着いて遊べないだろうし、あたしもそんなのよりも一夏と一緒に流れてる方が好きだしね」

「ありがと鈴。そんな思いやり深い鈴が好きだよ?」

「あたしもこうして素直に心情を顕す一夏が好きよ?」

「わ……私も……好き………」

 

平然としたまま返してくる鈴と、顔を真っ赤にして口許まで沈んじゃったかんちゃんを見ていると、なんだか暖かい気持ちになってきた。かんちゃんは可愛いねぇ……。

 

「……? どうして……撫でるの?」

「簪が可愛いからよ。ねえ一夏」

「そうだな。かんちゃんが可愛いから撫でる。おかしいことなんてなにもない」

 

と、いうことでなでなでタイム。かんちゃんを俺と鈴が撫でながら、ちょっとの間流される。

 

「……そういや、ののちゃんとラルちゃんは?」

「箒とラウラ? 確か、ラウラが一夏の真似をして浮きながらぼんやりしてたからついて行くって言ってたわよ? ちなみにシャルロットは妄想の海で溺死して賢者モードら

 

しいわ」

「なに、それ……?」

 

そうか、賢者モードか。女でもなれるんだな。驚きだ。

弾は一時期常時その状態で、厳さんと蓮さんと蘭ちゃんに本気で心配されてたっけな。あの時はショック療法で直したんだっけ?

確か、当時も寝巻きとして使ってたちー姉さんのお下がり(にしては以下略)のボタンを上から二つ開けて、首輪つけて鈴つけて肉球つけてにゃん♪ って鳴いたんだったな。

その後軽く襲われて、弾だったら男相手でもまあ良いかな~と思って抵抗しないでいたら鈴と蘭ちゃんに弾がしばかれてた。二人ともキレると瞳孔が縦長になるのな。まるで猫科の動物みたいだ。

まあ、ちー姉さんがキレた時の白いところが黒く、黒いところが赤黒く変わった目よりは怖くないけど。

 

…………ああ、比較対象にするのがそもそもの間違いだったな。あの状態のちー姉さんと同等に怖いものなんて、明らかにイカれた笑い声をあげながらキーボードを十枚くら

 

い同時に叩いている束姉さんくらいしか知らない。人間の声帯ってあんな音(声とは認めない)を出せるんだと知ってびっくりした。

 

ちなみにその日に寝たら夢の中でひたすらその束姉さんが笑い続けていたのでちー姉さんの布団に潜り込んだら、最初はまた出てきたけどすぐにちー姉さんが夢に出てきてアイアンクローで止めてくれた。ありがとねちー姉さん。

 

「あ、一夏。その水着似合ってるね」

「ん、ありがと。シャルも似合ってると思うよ」

 

プールサイドでにこにこ笑いながら俺のことを見ているシャルは、なんと言うか本当に落ち着いていた。多分今ボケても普段みたいなツッコミは返ってこないんだろうなぁ……。

 

「ツッコミだけなら来るわよ? ただ、いつもとはかなり違うツッコミだけどね」

「そうなのか?」

「まあ、いつもとは違うと思うよ? 今なら僕をIS学園に送り込んだあの人と顔を会わせても延髄に踵落としを決めるだけで許してもいいかなっていう気分だし」

「シャルがそれで許したら、その後に俺が男として再起不能にしてやるけど」

「そしてあたしが本妻の方を女として再起不能にして、」

「私が刀で精神崩壊まで追い込み、」

「私がそれを物言わぬ蛋白質の塊に変えればいいのだな?」

「なら、わたくしはその場所を都合する裏方にでもまわりましょうか」

「はははっ。その時はよろしくっ!…………なんてね」

 

本当だ。随分と芸風が違うな。いつもならもっと慌てて俺達を止めようとするだろうに。

 

「え……あ……えっと………だ、駄目!」

 

かんちゃんが急に大きな声を出した。一体なんだろうと見てみると、かなり慌てていた。

 

「お、織斑君……そんなことしたら……駄目」

 

…………もしかしてこの妙にアグレッシブなところのある娘さんは、今の冗談を本気で受け取ったのだろうか。

…………可愛いなまったく。プールの入り口近くの柱の影にいる誰かさんとは大違いだ。

 

「え……な、なんで……撫でるの……?」

「さっき言ったばっかりよ? 簪が凄く可愛いからよ」

 

まあ、それ以外に理由なんて無いわな。可愛い可愛い。

 

「かんちゃんって可愛いよな」

「そうだな。私も撫でていいか?」

 

ののちゃんの問いに、かんちゃんは顔を真っ赤にしたまま答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り、神楽舞

 

ののちゃんの実家の神社で祭があるので、行ってみることにした。甚平で。

祭に行くなら甚平だろうと前世の父親に教えられていたので、その辺りは一応こっちの世界に来てからも守っている。

 

ちなみに俺の甚平姿はなかなか好評で、賢者モードから抜け出したシャルといつも通りのちー姉さんを含む生徒達(ちー姉さんは生徒じゃないけど)があたりを真っ赤に染め変えていた。ちょっと困る。

毎朝起きると全身が赤くて鉄臭い物で被われていて、寝間着があっという間に駄目になってしまうのが特に困る。ワイシャツなんてもう色が染み付いてとれないし。

中学生時代にその血がついたままのシーツ(量はすこしで真ん中よりすこし下の方に点々と付いていたやつ)を見た弾が俺のことを押し倒してきたり、鈴が押し倒してきたりしたから毎回漂白するようにしたという出来事もある。

 

……それとこれは余談だが、押し倒された時にはかなり詰問された。端から見てれば完全に強姦一歩手前の状況だったと思われる。頭の上で両手を抑えられたり、着ていた部屋着のボタンが上からいくつかとれたりしてたし。

 

………まあ、俺が説明を終えた後は自分の勘違いに気付いて呆然としてたけど。

その時に腕にできた痣と服のボタンのことから一日泊まらせて、寂しい夜の抱き枕になってもらったことは言うまでもない。

 

 

ののちゃんには秘密で出発し、神社に到着。秘密にした理由は、その方が面白そうだったから。

 

武装な錬金のレーダー、ヘルメスドライブを使ってののちゃんを捕捉した俺は、遠くから神楽を舞うののちゃんを見ている。気配を読まれてバレているだろうけど、まあ気にしない。気を散らしたら悪いから、できるだけ気配は消してるつもりだけどな。あくまでつもりだけど。

 

………は~、綺麗だな。しばらく見ていたいね。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

懐かしの私の生家に戻ってみれば、そこはほとんどなにも変わっていなかった。変わっているものと言えば、壁にかけられた木製の名札の数と、それに書かれた名前くらいだろうか。

 

昔は私と千冬さんと一夏の三人と、私の父を入れても四人だけという状態だったが………と、しっかりと手入れのされている道具を見ながら思う。

 

ふと、昔の情景が私の前に現れた。

 

床に置かれた面を拾い、小さな一夏に竹刀を突きつける小さな私が、壁に寄りかかったままぼんやりとした目で私を見つめる一夏に言う。

 

『今日こそお前に勝ってみせる!剣を取れ!』

 

それに対して小さな一夏は、ゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと大きく吐き出した。

 

『……一戦だけね』

『臨むところだ!』

 

すぱんっ!すぱぱぱんっ!ぴしっ!ぱんっ!べしっ!ばしばしっ!パンばしっ!べしっ!すぱんっ!べしっ!べしっ!べしっ!べしっ!べしっ!すぱんっ!びしっ!

 

……ぺち。

 

『……まあ、頑張って』

『くぅ……明日こそ……明日こそ勝ってみせる!』

 

………………ああ、そう言えば無言で打ってくるせいで一本を取られないからと、ぼっこぼこにされていたな。

……後に響かないように優しく、それでいてけして手加減はせずに。

 

あの頃の私はそうしてもらっていることにも気付かないで、ただがむしゃらに向かっていっていたな。

………懐かしく、それでいて少しばかり恥ずかしい話だ。

 

生徒手帳を開き、中に入れてある数枚の写真を見る。

 

それらは私の思い出の写真。一つは折り目がついているが、今ではその折り目は伸ばされている私と一夏と千冬さんと姉さんの集合写真。折り目は当然、私と一夏のツーショットに見えるようになる場所に入っている。私も子供だったものだな。

 

二枚目は最近撮ったもので、IS学園の屋上で私が一夏に膝枕をしている。自分で言うのもどうかと思うが、この写真の私はかなり優しげな笑みを浮かべている。記憶にある母の笑顔のようだ。

 

三枚目はこれまた最近撮った物で、私と姉さんが二人で写っている。

私のことを後ろから抱き締めながら心底楽しそうに笑っている姉さんと、それを見て苦笑いを浮かべている私の写真だ。

 

くす……と笑ったところで外に気配を見つけた。恐らく雪子叔母さんだろう。遅くなった私を探しに来た、というところだろう。無理を言って手伝いをしているというのに、悪いことをしてしまったな。

 

写真の挟まった生徒手帳を閉じて、もうすぐ雪子叔母さんが見えるだろう扉の方に向き直る。

 

「箒ちゃん、ここにいたの」

「ええ。懐かしくて、つい。すみません」

「あら、いいのよそのくらい。元々住んでいた所だもの。誰だって懐かしくて見て回るわよ」

「そう言って頂けると、ありがたいです」

 

……ああ、やはりこの人も変わらない。それが私は、たまらなく嬉しい。

 

「……神楽舞は、六時からでしたか」

「そうよ。……それにしても、よかったの? 夏祭りのお手伝いなんてして」

「迷惑でしょうか?」

「そんなことないわよ。大歓迎だわ」

 

恐らく雪子叔母さんの中には、誘いたい男の一人でもいるのではないか、というのがあるのだろう。

だが、相手はあの一夏だ。あの眠たがりがこのような祭にわざわざ参加しにくるわけがない。

 

…………私の神楽を見てほしいという思いはあるのだが、それを強制することはできないしな。

 

 

 

舞装束に身を包み、金の飾りをいくつか装う。それだけで私の意識は純粋に舞うことに向かう。

昔から私は影響を受けやすかったらしく、この格好をすると舞うのだという意識が強くなる。

 

口紅を塗り、鏡を見て、綺麗に塗れていることを確認した私は、渡されていた扇と雪子叔母さんの持ってきた宝刀を持つ。

 

「そう言えば箒ちゃん、昔はこれを一人で持てなくて扇だけだったわねぇ」

「ええ。そうでしたね。懐かしい話です」

 

だが、今は持つことができる。

 

刀を抜いて右手に持ち、左手には鈴のついた扇を持つ。

それでは、練習も兼ねて一差し舞うとしようか。

一応練習も続けてはいたし、そこまで酷いことにはならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り、屋台荒らし

 

ののちゃんの神楽舞を見終わってから本格的に祭に参加。

 

…………しようと思ってたんだが、何年か前に作った悪名のことを思い出して諦めた。

仕方がないから焼きそばを買って食べつつお守りでも買おうとお守り売り場に行ってみると、ののちゃんがにこやかに売り子をやっていた。

 

「やっほーののちゃん。神楽綺麗だったよ。あとお守り14個ね。健康祈願が8で家内安全が5、あと安産祈願が1」

「なんだ、見ていたのか……ありがとうな。14か……構わないが……そんなに買ってどうするつもりだ?」

「配るんだけど?」

 

健康祈願がかんちゃんとラルちゃんとシャルとセシリーと鈴と真耶先生とカズとちー姉さんで、家内安全が束姉さんとののちゃんと弾と蘭ちゃんと俺。安産祈願はネタでシャルに一回渡してから冗談だって健康祈願を渡すつもり。

 

「……そうか。シャルロットも不憫にな……」

 

そう言いながらもののちゃんはお守りを種類別に包んでくれている。手際が良いな。何で不憫なのかはわからないけど。

 

「あ、そうそう。どうせだし一緒に祭を見て回らない? 一人よりその方が楽しそうだし」

「……ふむ。それは面白そうだが、生憎と仕事があってな」

 

そっか。残念。

 

「あら、あらあらあら? ………うふふふふ♪ 箒ちゃん、あとは私がやるから、夏祭りに行ってきなさいな」

「……よろしいのですか?」

「いいからいいから。ほらほら急いで。まずはシャワーで汗を流してきてね。その間に叔母さん浴衣を出しておくから」

 

なんだか話が良い方向にばかり進んでいく。夢か? それとも現実か? 現実だったら嬉しいね。いろんな意味で。

 

「ちょっとだけ待っててね。彼女を待つのも彼氏の役目よ」

 

そう言ってその人(多分ののちゃんの叔母さん。話には聞いていたけど会うのは初めて)はののちゃんをつれて行ってしまった。

そう言えば、お守り売り場に誰もいなくなったんだが………ほっといていいのか? 良いなら良いんだけど。

 

 

 

十五分くらいで浴衣で現れたののちゃんは、綺麗と言うより可愛いという感想の方が合っていた。まあ、どっちにしろ似合ってることには変わりないんだが。

 

俺のいる場所から少し離れた所でののちゃんは目を閉じて、それから数秒後に俺に視線を向けた。気配で俺を探してたんだな。

 

「……一夏。どうやってそんなところに座った。危ないから降りてこい」

「はいはい、っと」

 

俺は鳥居の上に座っていたが、ののちゃんに呼ばれて飛び降りる。場所はののちゃんのすぐ手前だ。

ちなみに普通にジャンプしたら登れた。久し振りにチートを凄いと思った。

 

「浴衣似合ってるな。可愛いと思うぞ」

「そうか。……ふむ。案外嬉しいものだな」

 

とりあえず褒めてみると、ののちゃんはまんざらでもなさそうな顔をした。うん、可愛い可愛い。

そんな可愛いののちゃんの手を取って、祭の喧騒の中に歩を進める。

 

「それじゃあ、久々の祭を楽しもうか」

 

すっ、と大きくなり、ののちゃんに見合う大きさに。多分こっちの方がののちゃんは嬉しいだろうしな。

そうするとののちゃんは珍しく頬を少し朱に染め、僅かに恥ずかしそうに付いてきた。

 

「……むぅ………その姿は慣れないが……格好良いと思うぞ。一夏」

「ありがとよ」

 

褒められたら礼を返す。まあ、当然の部類に入る事だよな。

 

……それじゃあ、行くか。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

一夏につれられて神社の中にある出店を回る。色々な店があるが、なぜか一夏入るか食べ物を扱うところにしか行こうとしない。

焼きそばや焼きとうもろこし。チョコバナナにソース煎餅。そういった店をいくつか回ってから、ふとその事実に気が付いた。

 

「一夏。覚えているか? 小さい頃にこうして屋台を回りながら、何度も勝負をしたな」

「ああ、やったな。懐かしい話だ」

「……どうだ、再戦でも」

 

しかし一夏からの返答は色好いものではなかった。

一夏は何となく私から目をそらしながら、一言だけ呟くように言葉を発した。

 

「……いや、無理だと思う」

 

ここで私の興味を引いたのは、一夏が言った言葉が『嫌だ』とか『断る』と言った拒絶する系統の物でなく、不可能だという答えを返してきた事だ。

 

『無理』とはどうして『無理』なのか。どうしてそのような答えが帰ってきたのかを知らないまま、私は一夏を金魚すくいをやっている店の前につれていった。

 

「いらっしゃ………なっ!? そんな馬鹿な……『屋台荒らし』だと!? く……去年の祭に参加していなかったから油断した……っ!」

 

………………は? 『屋台荒らし』? なんの話だ?

そう思いながら一夏を見てみると、なぜか一夏は苦笑いをしている。

 

「あー、安心してくれ。今回は前みたいに金魚がお椀に山積みになってるのを無視してひたすら掬い続けるとか、跳弾で景品をまとめて持っていくとか、籤で良い方から四つ全部持っていくとか、そういうことはしないから」

「…………一夏。お前はそんなことをやっていたのか」

 

確かにそんなことをしていれば『屋台荒らし』と呼ばれる訳も理解できるが……。

 

「まあ、そんなわけで俺は基本的にそういう屋台から出入り禁止されてるんだよ」

 

……まあ、それなら一夏が『無理だ』と言った理由もわかるな。それは確かに無理だ。

 

「……まあそれは置いといて……俺は駄目でもののちゃんは平気だよな?」

「……まあ、お前さんじゃなければ大丈夫だろうが………」

「だってさ。やる?」

「……いや、やめておこう。」

「そっか。見てるだけでも結構楽しいから、少し残念だ」

 

一夏はそう言ったが、私としては一夏と一緒でなければつまらないからな。

私はそうして一夏と一緒に金魚掬いの店の前を離れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り、初対面の二人

 

ののちゃんと一緒に食べ歩きをしていると、なぜか色々と面白い事が起きる。

例えば射的屋で土下座されてお引き取り願われたり、輪投げ屋で土下座されてお引き取り願われたり、籤引き屋で土下座されてお引き取り願われたり、スーパーボール掬いで土下座されてお引き取り願われたり…………。

 

なんだ、いつものことか。

 

「お前はいったいどれだけ屋台荒らしをしたのだ」

「大してしてないぞ……あ、焼きそばのおっちゃんやっほー」

「おぉ、織斑の坊主か。久し振りだなぁ。とりあえず持ってけ。二百円だ」

「ありがとおっちゃん」

「バカヤロォ、お兄さんだ」

「………なあ、一夏。あの方とはどのような経緯でこのような関係に?」

「ん? 焼きそばのおっちゃんは何年か前からここの祭で焼きそば屋台を出してて、それを食べて美味かったからまとめ買いしたらそれが呼び水になったのかかなり儲けが出たらしくて、それ以来の付き合いだな」

「…………そうか」

 

ののちゃんはなんでか納得していないような雰囲気だったけど、まあ、気にしたって変わりゃしないんだからほっとけって。

確かに焼きそばのおっちゃんはかなり強面で子供が見たら泣き出して、泣いた子供が凄まれたら涙と呼吸と心臓が纏めて止まりそうな顔してるけど、優しい人だぞ? ヤクザの中でそこそこの地位に居るらしいけど。

 

「完全に危険人物では………いや、顔と経歴だけで人を判断するのは良くないな。確かに怖いが」

「ののちゃんってば酷いね。初対面の人にそんなことを言うなんて」

「さっきあそこまで言ったお前には言われたくはない」

 

まあ、そうだよな。

 

ちなみにこの祭で食べるものを売っている所には大概強面のおっちゃんorおじちゃんorお兄さんがいたりする。毎年のことで突っ込みを入れる人はほとんどいないが、久し振りに帰ってきたののちゃんには刺激が強かったようだ。

でも、喧嘩があったりすると店から出てきてすぐ止めてくれるし、基本的に気のいい人ばかりだから問題ないとは思うんだがね。

 

………未成年だろうがなんだろうが、気に入った相手に酒をすすめてきたり、あと組に入らないかって誘ってきたりするところは多少マイナスだけど。

 

「……まあ、とにかく今は祭を楽しもうぜ? ほらののちゃん、あーん」

「む……あー……ん」

 

もぐもぐと焼きそばを食べていたののちゃんの目に、驚愕の色が浮かび上がる。

気持ちはわかるけどな。焼きそばのおっちゃんはヤクザをやってるのに、なんでか妙に焼きそばを作るのが上手い。そしてこの焼きそばは美味い。

 

「……美味いな」

「俺が焼きそばのおっちゃんを‘焼きそばのおっちゃん’って呼んでる理由がわかった?」

 

ただ焼きそばを作ってるだけじゃそうは呼ばないとも。その焼きそばが美味いからそう呼んでいるんだよ。顔のせいか売り上げはそこそこらしいけど。

 

「それじゃあ、今度は飲み物でも買ってくるか」

「そうだな。人混みの中はやはり暑苦しい」

 

それに息苦しいしな。

 

「なにがいい? ラムネ? オレンジ? 緑茶?」

「焙じ茶があればそれだな。なければ緑茶でも構わんが」

「それじゃあ間をとって鳩麦茶を」

「それでも良いぞ」

 

驚いたことにOKが出た。それじゃあ一緒に買いに

 

「━━━あれ? 一夏……さん?」

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。この声は……

 

「やっぱり蘭ちゃんか。久し振り」

「あ、は、はい。お久しぶりですっ」

 

くいくい、とののちゃんに軽く袖を引かれたので視線を向けてみると、困惑した顔のののちゃんが俺のことを見ていた。

 

蘭ちゃん。弾の妹で、初代睡眠愛好会の特別学外会員二号だ。

 

そう思ってみると伝わったらしく、袖をつまんでいた指が離れた。

 

「……それはそれとして、蘭ちゃんは浴衣も似合うな。いつも洋服のイメージだったけど、可愛いと思うぞ」

「はぅ!あ、ありがとうございますっ!」

 

うんうん、やっぱり蘭ちゃんも可愛いな。流石はIS界の二大妹属性の一角にして、唯一の年下属性と言ったところか。

 

蘭ちゃんの後ろできゃいきゃいと蘭ちゃんと同い年くらいの娘達が騒いでるけど、まあ、あのくらいの女子にはよくあることだろ。前世でも普通にあったし。

……前世のは結構腐ってたような気がするけど。性根じゃなくて趣味嗜好が。

 

「……元気だな」

「ああ。そうだな」

 

あそこまで元気だと、もはや少し羨ましくなってくるよ。

 

てけてけてけー、と人混みの中を浴衣を着ているとは思えないほどの速さで駆け抜けていくその娘達のことを見てから、俺は蘭ちゃんに向き直った。

 

「……蘭ちゃんがよければだけど、一緒に回る?」

 

そう言うと、蘭ちゃんは凄く嬉しそうな笑顔を浮かべて

 

「はいっ!」

 

と、元気に答えた。

 

 

 

「……そう言えば、そちらの人は………彼女さんだったり………」

「安心しろ。まだ違う」

 

ののちゃんはからかうようにそう言って、手に持っていた綿飴を噛み千切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り、屋台遊び

 

ののちゃんと蘭ちゃんを連れて祭の屋台を回る。俺が参加しなければ屋台のおっちゃん達も土下座したりはしないので、そこそこ楽しく回ることができた。

あと、蘭ちゃんの射的は凄かった。よくあの鉄板をあの銃で倒せたもんだ。

本人にそう言ったらなんか微妙な顔をしてたが、何でだろうな。

 

「女心という物は複雑なのだ。そっとしておいてやれ」

「そうする」

 

ちなみに蘭ちゃんが落としたのは液晶テレビ。いくら俺でもそんな物を蘭ちゃんに持たせたまま祭の見学を続行しようとは思わないので、蘭ちゃんの代わりに俺が持っている。そこそこ重いが、前に運んだことがあるIS一機よりは楽だ。

 

「それはそうだろう」

「? 何がですか?」

「ん? 五反田は一夏の思考がわからないのか?」

「わかるんですかそれ!?」

「一夏への愛情を満ち溢れさせれば、自ずと理解できるようになるはずだが………そうか、まだまだと言うことだな」

「むっ!そんなのわかるのは箒さんだけじゃないんですか?」

「私以外には鈴とセシリアとラウラと……最近簪がわかるようになっていたな。それに千冬さんもわかるぞ」

「ついでに弾もわかるよ」

「お兄が!?」

 

蘭ちゃんはなんでか驚いている。弾が俺の思考を読めるって知らなかったのか?

 

「知りませんよ!と言うかそんなの普通の人間にできるわけないじゃないですか!」

「五反田………いや、蘭。お前もいまこの時よりまともな人間ではなくなったぞ。おめでとう」

「なんの話ですか!」

「蘭ちゃん、ついさっき読んでたからな?」

 

蘭ちゃんはそれを聞くと、ピシッ、と固まった。

 

「まあまあ、お前もようやくこの高みまで登ってこれたんだ。歓迎するぜ」

 

あ、弾だ。甚平似合ってるぞ。格好いい。

 

「ありがとよ」

「…………ほんとに読んじゃってるし……と言うか、さっきまで私お兄に一夏さんへの愛情で負けてたとか…………」

「まあ、蘭も私達と同じ場所に立ったのだ。これからいくらでも挽回できる」

「……ありがとうございます」

「そうだぜ蘭。俺は蘭を応援してるぜ?」

「うっさい、バカ兄」

 

……その後に蘭ちゃんが言っていた『………でも、ありがと』という言葉は聞かなかったことにする。ちなみに、俺はたしかに鈍いが原作一夏ほど鈍くはないからそれだけでも十分わかる。

………と言うか、前にも言った気がしなくもないけどあれでわからない原作一夏は異常。

 

まあ、かなりどうでもいいけど。あいついつか刺されるだろうという予想を含めて全部。

 

「まあ、そんなことより祭を見て回ろうぜ。適当なとこで俺は抜けるけど」

「抜けるんだ?」

「おう。いくら俺でも他人の恋路の邪魔はしねえよ」

「私は弾がいてくれても一向に構わないが? 誰になんと言われようが、私の想いは変わらないのでな」

「そうか? まあ、なんにしろ抜けるけどな。現像しなきゃならない写真が大量にできたし」

「一組だ」

「毎度」

 

ののちゃんと弾は仲良さげに笑っている。仲がいいのはいいことだ。

 

「それじゃあ一週間以上たってから来てくれ。それまでに焼き増ししておくから」

「かたじけない、支部長殿」

「いいってことよ、粛清部隊副隊長」

「なにその物騒な呼び名!? 箒さんもなんで普通に受け入れてるの!?」

「まあまあ、ののちゃんたちにはののちゃん達の事情があるんだよ。よく知らないけど」

「知らないんですか? 本当に?」

「まあな。いいからまた回ろうぜ」

 

蘭ちゃんの手を取り、弾とののちゃんを呼んでまた歩き始める。

さてと。楽しまなくっちゃな。

 

 

 

 

side 五反田 蘭

 

なんでなんでどうしてなんでなにがどうしてなんでなにがなにしてなになになのをなにしてなんのなにでなにをなんでどうしてこうしてなにかなにをなんだなにかなにがなに

 

なになんのなに!?

 

『落ち着きなさい、見苦しいわよ私』

『そうそう、ちょっと一夏さんに手を繋いでもらって』

『ばかっ!意識したら私達まで…………あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう…………』

『どどどどうしよどうしよ一夏さんと手なんか繋いじゃってああなんだか一夏さんの手って柔らかいような固いようなふにふになのにごつごつしてるようなああすべすべした指が私の手の甲をつつって……つつぅ……って………!』

『え……えへへへ……手……繋いじゃったぁ………♪』

『……なんというかここまですべすべだと、女としてすこしプライドが……』

『一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さん一夏さあぁぁああぁぁぁんっ!!』

 

あああぁあぁぁああ頭が沸騰してしこうかいろがしょーとしてもうなんにもかんがえられないよぉぉぉっ!

 

「……あれ? おーい。蘭ちゃーん? 頭から煙出てるぞー?」

 

あぁぁああぁぁぁ一夏さんの顔が近い近いちかいちかいちかいちかいちかいちかいちかいちかいあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅぅぅぅぅぅっ!!

 

結局頭の中身がショートした私は、ここで一夏さんに連れられて家に戻ることになってしまった。

……ああ、もう。

 

 

 

 

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