話し合いに……なってない
「やあ☆」
「…………」
「ご、こめんごめん謝るからそれはちょっと許して欲しいって言うか何て言うかもうごめんなさいやりすぎましたごめんなさい反省してますごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………………」
起きたら目の前に変わらぬ笑顔を浮かべた猫座の生徒会長の姿があったので、その頭にもう一度手を伸ばそうとしたら本気で平謝りしてきたのでやめてみた。猫座の生徒会長の目の瞳孔が開ききってたから、つい可哀想になって。
原因俺だけど。
軽く(具体的には自転車で時速五十キロくらい出して走っていたら真っ正面から蝉が飛んできて額に直撃した時くらいの威力の)でこぴんをしてやると、消えていたハイライトが復活した。
どうやらトラウマを植え付けてしまったらしいが、最強の猫座の生徒会長だったら克服できるだろ。頑張れ。
「はっ!?」
「で、用は何? 下らないことだったらさっさと帰って寝たいんだけど」
敬語? やだなぁ使うわけ無いだろ。嫌いな相手に敬語を使うなんてのは、馬鹿にするのに有効な時と心底尊敬できる人を相手にしている時くらいでいい。むしろそれだけで腹一杯だ。
そう思っていると、目の前の猫座の生徒会長はにっこり笑ってこう言った。
「おめでとう!今日から君が生徒会長だ☆」
「………………」
「いや、だって最強である生徒会長を倒して自分こそが最強であると見せ付けたのは織斑一夏君なわけであって、負けちゃった私がどうこう言える問題ではないし、IS学園の生徒会長は最強でなければならなくってね? だから、あの、その手を降ろしてほし……………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい調子に乗りました本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい悪かったと思っていますごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい反省してますごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………………」
またこれか。
そう思いながら、俺は猫座の生徒会長の頭をでこぴんで弾き飛ばすのだった。
「俺が生徒会長をやることになったら、確実にIS学園が荒廃すると思うぞ? 俺は仕事なんてする気はゼロだから」
「そ……それはちょっと困るのだけれど………」
「だから? だったら俺を生徒会長にしようとしなければいいだけの話だと思うけど? ついでに俺はもう愛好会を作って会長をやってるから兼任なんて欠片もする気無いし」
他の部活からの苦情なんて知ったことじゃないし。大人の汚い話も知ったことじゃないし。
「覚悟ぉぉぉっ!」
ついでに、こうして襲いかかってくる相手に対する配慮とか心配とかも全く無いし。
手加減はある。死なないようにかつ再起不能にもならない程度に。
竹刀を待機状態のシロで弾き、頭を掴んで握る。
「ヒギィィィッ!?」
HAHAHAHAHA、まるで屠殺された瞬間の豚のような悲鳴だな。聞き苦しいから黙れよ。今イライラしてるんだよ潰すぞ。
ごきっ、という音が聞こえた? 気のせいだよ気のせい。
そう思っていると窓が割れて矢が数本飛んできた。
見てみると隣の校舎の窓から矢を撃ち込んでいる袴女が一人。
イラついたのでスタングレネードを20ほど呼び出してぶん投げる。向こうの袴女の顔もこっちの猫座の生徒会長の顔もひきつったが、知ったことじゃない。
「話の途中で出てくんなよ」
閃光と爆音がこの場を満たし、俺はISを発動させてなんとか平気だった猫座の生徒会長に向き直る。
「話は生徒会室でいいよな? 猫座の生徒会長さん?」
猫座の生徒会長は、こくこくと頭を縦に振ってくれた。
……そうそう、忘れてた。
廊下の掃除用具入れのロッカーの扉を開け、そこに音響弾をいくつか放り込んで扉を閉める。中身がガタガタ騒いでいるが、扉はガムテープで止めてある。
耳を塞いでさっさと移動する。……あと……3……2……1……
後ろからくぐもった爆音と、女の悲鳴が響いた。
「……容赦無いわね……」
する意味がないから。代わりに加減はしてるけど。
話し合い、生徒会室にて
猫座の生徒会長の名前を聞いたが、やっぱり覚えられなかった。逆引《さかびき》竹槍《たけやり》だっけね?
「それで、実際なんで俺に生徒会長の座を渡そうとしたんだ?」
「……私一応織斑くんより年上なんだけど……」
「敬語を使ってほしいなら使われるようなことをしてから言えや。今のところササニシキ生徒会長の株価は買ったら逆に金がもらえるくらい安くなってるから望み薄だけど」
「株価マイナス!? って言うか、私はササニシキじゃなくて更識!できれば楯無って呼んでくれると嬉しいかな!たっちゃんでも可!」
「で、笹掻《ささがき》生徒会長は」
「更識!」
「沢尻《さわじり》生徒会長は」
「更識だってば!」
「杯《さかずき》生徒か」
「さ・ら・し・き!」
「たっちゃんは」
「更識……あっ!」
「で、猫座の生徒会長殿はどうして」
「ごめんもっかいたっちゃんって呼んで!今度はちゃんと返事するから!」
面倒だから嫌。猫座の生徒会長は猫座の生徒会長で十分だ。
「……ぉ~。楯無お嬢様がここまでからかわれてるのを見るのはは初めてだ~」
「あ、のほほんだ」
「気付いてなかったんだねぇ? ちょっとだけ悲しいかも~」
気付いてたけど意図的に無視した。けどわざわざ言うこともないだろうからとりあえず頭を撫でてみた。なかなかいい感触だ。
「お~? えへへ。撫でられちゃった~♪」
「本音ちゃんと私に対する扱いの差が酷くないかしら?」
「好意の差がそのまま出てるんじゃない?」
恋愛ゲーム風に言うと、猫座の生徒会長は俺とのフラグを未来の分まで纏めてへし折ってる状態だし、ここからの挽回は相当難しいんじゃないか?
ちなみにのほほんの方は、結構仲の良い友人程度の付き合いって所だ。かんちゃんはもうちょっと…………あ。
「そう言えば、猫座の生徒会長はかんちゃんをストーキングしてなかったか?」
返事がない。目を合わせようとしてみたら反らされた。
……まあ、別にいいけどな。かんちゃんがどう思うかは別として。
「とにかく俺は生徒会長はやらないから」
「それはお姉さん困っちゃうんだけど……」
「どうしてもって言うなら、俺と勝負して勝ったら良いぞ」
ただし、勝ったらその時点で向こうの方が強いってことになるから生徒会長は猫座の生徒会長の方になるんだが。
……もしかしたら、原作の方でもこうやって二重三重に罠を仕掛けていたりしたのかね? 原作一夏は初めの罠にことごとく引っ掛かってる訳だけど。
「……それ、私が勝っても負けても織斑一夏くんには悪いこと無いじゃない」
「嫌ならやらなくても一向に構わないが? その間は仕事なんてしないし、生徒会長でも無いけど」
勝っても負けてもやらなくても、俺に損は無い勝負。なんて良い勝負だろうか。
「ちなみに種目は平和的にコーカスレースで」
「それ勝ち負けつかなくない!?」
そうだな。つかないな。
あえてそういう種目を選んだんだけど。
全員が適当な場所について好き勝手に走り、適当に好きな場所で走り終わって終わり。実に平和的だな。
その上勝っても負けても問題ない。最高の戦いだ。
「そう言うわけで、俺は帰って寝る。あと、これね」
猫座の生徒会長に俺の制服にくっついていた盗聴器と発信器を手渡すと、また盛大に笑顔がひきつった。
俺は他人が怖がっている顔よりも、普通に柔らかな笑顔を浮かべている方が好きなんだけどな。
だからと言って、泣きそうな相手に脅迫しながら笑えと命令したりするとか、そういった外道なことを命令するなんてことはは無いと思ってくれて良い。
俺は優しいからね。
「優しいの定義がわからなくなってきたわ……」
「生徒会長も大変だな」
「今は君が生徒会長よ?」
「違うけど? 認めてないし受ける気もないし」
ついでにやる気も無い。
………さてと。帰るか。
side 更識 楯無
むう……一筋縄じゃ行かないわね……。
てけてけと生徒会室を去っていった織斑一夏のことを思い出しながら、私は思考を巡らせる。
正直に言うと、私は生身で織斑君に勝てる気は全くしない。いくら戦闘になるとは思っておらず、警戒もしていなかったとは言え、あそこまで完璧に姿を見失い、背後を取られ、あまつさえ頭を掴もうとする手に気付いていたのに避けることができなかった。
かと言って、IS戦闘なら勝てるのかと言われればそれも自信がない。最速が秒二キロの相手にらくらく勝てる自信なんて持てたら、それはもう人間じゃないと思うの。
けれど、このままだと少し不味い。
別に私が生徒会長に戻るのは別に良いのだけれど、その場合はまた生徒達や教師陣から、織斑一夏を部活に入れろっていう話が出て来るだろう。そうならないためには名前だけでも生徒会長になってもらうのが一番手っ取り早かったんだけれど…………。
(見事にぶち壊されちゃったわねぇ………)
それも、予想だにしていなかった方法で。
(まさか素の戦闘力まで高いなんて……)
言いたくはないけれど、流石は織斑先生の弟……と言うことなのかもしれない。
ちなみに戦闘力云々という言葉はあのネタからつい出てきてしまったわけでは無い。無いったら無い。
『私の握力は53万です』
そうそうそれそれ。
「た、楯無お嬢様~!? 顔色がすっごく悪いよ~!?」
「? なんの話かしら?」
「自覚がないよー!おねーちゃんー!おねーちゃーん!!」
「まったく、そんなに騒がな……お嬢様っ!?」
あら? どうして虚ちゃんまでそんなに慌ててるのかしら? あまりに可笑しすぎて笑って体の震えが止まらないわ。
あははははははははは…………。(ガタガタガタガタタガタガタガタガタガタガタ…………)
「お嬢様ーーっ!?」
とある日の朝、至福の時間(鈴編)
side 凰 鈴音
一夏が衆人環視の中であの生徒会長を(文字通り)締め上げてから数日。あたしは一夏と同じ布団で眠っていた。
それも、あたしが一夏の布団に潜り込んだのではなく、一夏があたしの部屋にやって来ているのだから驚きで、そして嬉しい。
こうして一夏があたしのところに来ているのには訳がある。
簡単に言うと、部屋に猫座の女(生徒会長の事らしい)がやって来て心休まる暇がないと言って一夏があたしの部屋に転がり込んできたのだ。
始めに千冬さんに頼んだらしいのだが、千冬さんは苦虫を億単位で噛み潰したような顔をしながら握った手の爪が手のひらの皮膚を突き破るほどに握り締め、唇を噛みきってしまい血が出ている状態のまま、学校でその事が許可されていることを告げたそうだ。
そこで千冬さんの怪我に手当てをして、それからあたしのところに来たと言っていた。
一番初めに千冬さんの所に行くのはわかる。寮長だし、一番始めに相談するのが当然だろう。
けれど、その次にすぐあたしのところに来てくれたっていうのが嬉しい。
女としてもそうだけど、親友としては、親友が頼りにしてくれることほど嬉しいことはない。
きゅっ、とあたしに抱きついている一夏の頭を抱き締める。お腹の辺りに顔を埋めている一夏を見ていると、なんだか母親になったような気分になってくる。
……弾が言ってたことは正しかったわね。一夏が愛おしくてたまらないのに、いくら詰め込んでもこの愛は噴出することがないわ。
そのかわりに今までの愛も量を増やすから、そっちは今もガンガン出てるんだけどね………っ!
鼻血を止めるには深呼吸。これによって一夏への愛情と向き直り、全てを受け入れることによって自らの器を拡げ、愛情の容量を上げると共に愛情を純化して体積を減らす。
そして純粋な愛情だけを残して一夏に向き合えば━━━
「………ぅに……」
━━━この通り、一夏を見てもなんの問題もなくなる。
一夏をあたしの血で汚すことを心配しなくてもいいし、一夏の体の感触(エロい意味ではないことをここに明記しておく)を楽しむこともできる。
……一夏を除けば一番のチートは弾よね。一夏耐性一番強いし、なにげに平均的なスペックはあたしより数段上だし、実はIIIの仕事の七割近くは弾がやってた事実もあるし。
…………いや、昔の話よ? 今はちゃんとあたしがやってるわ。
まあ、なんにしろ一夏は可愛いわね。うん。
もぞりと動く一夏を撫でて、あたしは至福の時間を味わう。まったく、こんなに幸せだと怖くなっちゃうわね。
「んぅ……り…ん………」
「はいはい、大抵にこにこ一夏の側に、幼馴染みの凰鈴音よ」
「かぺっ」
……あら? 寝起きのティナが二度寝を始めたわね。起きれなくってもあたしは知らないわよ?
幸せそうな寝顔をしているし、大丈夫じゃないかって思うんだけど。
…………そう言えば、話は変わるけど一夏のファーストキスは箒のお姉さんの篠ノ之博士で、セカンドは千冬さんだって聞いたわね。
千冬さんが姉弟の壁を無視して先に進んだんだったら、あたしが親友としての壁を少しだけ越えちゃっても………なんの問題も無いわよね?
……ってことで、一夏の唇を美味しく頂いちゃおうと思いまーす♪
どんな味がするのかしらね? 甘いとか、レモン味とか、現実的には味のついてないユッケとか色々言われてるけど、あたしも初めてだからわからないのよね。
今わかるんだけど。
あたしのお腹に埋められている一夏の顔を少しだけ浮かせ、一夏の体を全体的に引き上げる。一緒にあたしの服も捲れ上がっちゃったけど、どうせここにはあたしと寝てる一夏とティナしかいないんだし、別にいいわよね。
一夏の顔が目の前に来ると、流石に少しドキドキする。半ば悟りを開いてるような状態の弾ですらあの一夏に負けたんだから、悟りを開くどころか道半ばのあたしがこうなるのは自明の理かもしれないけど。
……それにしても、一夏の肌って綺麗よね。すべすべでぷにぷにでやーらかくてあったかい。子供や眠い人の体温が高いって言うのとおんなじ理由で、一夏の体温はかなり高くて気持ちいいのよね。
一夏のほっぺにあたしのほっぺを擦り付けて、ぷにぷにとあったかいのを感じ取る。女としてちょっと嫉妬しちゃいそうよ?
一夏のパジャマ代わりのだぶだぶなワイシャツの首元をはだけさせて、日焼けなんてまったくしていない一夏の首筋を露出させる。
………うん、エロい。
それじゃあ……
「……キス、するわよ。一夏」
…………寝てて聞こえないでしょうけどね。
寝込みを襲うなんて狡いとは思うけど、ごめんね?
ゆっくりと一夏に顔を近付ける。目を閉じて、一夏の頭を抱えるようにして、ゆっくりと。
そして、あたしの唇が、温かくて柔らかなものに触れた。
目を開くとそこには一夏の顔があり、あたしと一夏がキスをしていると言うことを如実に示してくる。
━━━ああ、あたし、一夏とキスしてるんだ━━━
そう思うと、急にあたしの体が思うように動かなくなった。
にゅるん、と勝手に舌が動き、一夏の唇を割り開く。ちょっとちょっと!理性!理性仕事して!
そう思ってもあたしの体は一夏を抱き締めるのをやめず、むしろ積極的に一夏の舌を求めて動き回る。
一夏の口の中を蹂躙し、舌を絡め、唾液を交換して、また舌を絡める。ぬるぬるとした一夏の舌はずっと受動的なままで、一夏が起きていないということを教えてくれる。
一夏の味は、何でかは知らないけどほんのりと甘かったような気がする。頭が沸ききっていてよく覚えていないけれど、少なくとも十分はそうして舌を絡めていたはず。
気が付くとあたしはもう一夏に夢中になっていた。まあ、元々夢中だったんだけど。
けれど、とんとん、と背中を叩かれて気が付いた。
「……起きたらいきなりこれってのは、流石にちょっと驚いた。寝込みを襲われたのも初めてだし」
さぁっ……とあたしの顔から血の気が引いていく。さっきまで血が昇りすぎてまるで動いていなかったあたしの頭は、今度は血が足りなくてまるで動こうとしない。
どうにか言葉を返そうとするけれど、あたしの口から漏れる言葉は訳のわからない単語ばかり。
「……まあ、とりあえず落ち着きなって」
頭をきゅっ、と抱き締められて、あたしは一夏の胸に耳を当てる形で固まってしまう。
「とにかく、しばらくこうしておくから……」
ぽん、ぽん……と優しく頭を撫でられ、一夏のゆっくりとした心音を聞いていると、本当に落ち着いてきた。
「………言いたいことは色々あるけど、とりあえず一つだけ」
一夏と目が合う。そしてわかったのが、一夏は別に怒っていないし、嫌がってもいないということ。
「前にも言ったことがあるけど…………鈴だったら別に良い」
しゅるるっ、と小さくなった一夏は、あたしの事を小さな手で撫でた。
「……好きにしていい」
この瞬間。あたしの理性の糸がぶっちぎれ、そして気絶してしまったのは言うまでもない。
……今度は、一夏が寝てる間にもっと進めとこう。じゃないといつまでも本番にたどり着けないわ………。
……その点を考えると、一番近いのは弾ってことになるのかしらね? もしくはラウラかしら?
どちらにしろ、負けたくないわね。
生徒会長? やりたくない
「一夏」
急に話しかけられたので一応視線を上げると、そこにはなんでかご立腹なラルちゃんが居た。ほっぺを膨らませると可愛くしか見えないから、どちらかと言うと逆効果だと思う。
ちなみに、知ってる声でかつそれなり以上に仲のいい相手の声だったから顔をあげた。じゃなかったら無視して寝てるところだよ。
「織斑一夏くーん? あんまり無視されてるとお姉さん悲しいんだけどー?」
この猫座の生徒会長みたいに。
「なんだいラルちゃん。この猫座のストーカー長の事を聞きたいのか?」
「なんか私の呼び名がだんだん酷くなってない!? 名前で呼んでくれないとお姉さん悲しくて泣いちゃうよ!? 楯無だよ、た・て・な・し!はいどうぞっ!」
「ハ・ゲ・あ・り」
「よっしその喧嘩買ったぁ!」
「参った、はいこれでそっちの方が強くなったな猫座の生徒会長。ストーカー長からの昇格おめでとう」
「あっれぇ!? 嬉しいけど嬉しくないよ!?」
よし面倒事が減った。
「で、どうしたねラルちゃん」
「……私との決着がまだついていないのに、新たに好敵手を作るとはいいご身分だな?」
「勝手に向こうが突っかかって来るんだよ」
……ラルちゃんからこんなことを言われるのは初めてかもしれんな? なんだ? 恋人とかそっち系統には嫉妬しない代わりにこっちに来るのか?
まあ、ラルちゃんも成長してるってことでいいのかね。
「……そういう訳で、だ。私と戦ってもらおうか」
「今だったらやだ」
「いくら私でも今この場で始めようとはしない。今度のIS訓練日の話だ」
「ならいいよ」
どうせ誰かと戦いながら話ながら機動やら何やらを覚えていくわけだし、別にいいかね。
ちなみに、一番わかりづらい説明をするのがののちゃん。原作よりはマシだけど、やっぱ酷い(右足の親指の先をきゅっとして膝をぎゅんっ!と伸ばしてやる感じだ!やってみろ!)。
鈴は……自分は感覚でやってるから、他人の感覚を押し付けて俺の機動を殺すわけにはいかないと言って説明には不参加。ただし、戦闘の相手はしてくれる。
セシリーはほぼ原作通り。ただし、実際に射撃を避けるところを複数回折れ曲がるレーザーを使って実際に見せてくれる。結構わかりやすいが時間がかかる(回避するのならばこのように後方に二十度反転します。すると……このように抜けていくわけです。この時━━━(以下略))。
ラルちゃんはとにかくやり方を教えたらすぐさま実践。失敗したら弾や刃に当たる(やり方はわかっているな? それでは実践に入る。とにかく避けてみろ)。
シャルは理論と大雑把な感覚だけを教えて、あとは一緒にやりながらできるようになるまで待っていてくれる(……うん。だいたいできてるね。それじゃあ、今度は滑ってみようか)。
かんちゃんは、驚いたことに感覚的なタイプだった。仮面ライダーや戦隊もの、光の巨人に巨大ロボなどの戦闘を想像すればだいたいのことはできてしまうらしい。かんちゃんはかんちゃんで天才肌なんだと思った瞬間だった。
「わ、私も参加していいかな?」
「…………………邪魔をしないなら、好きにしろ」
明らかに邪魔な物を見る目で、ラルちゃんは猫座の生徒会長を睨み付けている。猫座の生徒会長もそれに気付いていながらも、どうやら引く気は無いらしい。
まあ、本人がやりたいって言うんだったら好きにしてくれて構わないけどな。
ただし呼び名は猫座の生徒会長で。名前で呼ぶことはまずないと思われる。
呼んだとしても間違えるだろうけど。さっきからも間違えてるっぽいし。
第四アリーナでは、軽い戦闘が行われていた。
片方は猫座の生徒会長の乗った【ミステリアス・レイディ】。俺の中での呼称はお水のお姉さん。水色で、水を使うから。ついでに名前はハイパーセンサーに表示されてたのを読んだ。
もう片方はラルちゃんの操縦する【シュヴァルツェア・レーゲン】。俺の中での通称アメちゃん。けして大阪のおばちゃんのポケットに入ってることが多いあれではない。
「あはっ♪ ラウラちゃんってば中々やるねっ!」
「伊達に一夏の練習相手を勤めているわけではないのでなっ!」
ラルちゃんがAICで猫座の生徒会長を止めようとして、猫座の生徒会長はそのAICを潜り抜けてはガトリングランスやナノマシン入りの水を使って攻防を繰り返す。
水を使えばどこにAICが張られているかもわかるし、そうでなくとも空間攻撃の【清き情熱】は辺りの湿度を上げた方が使いやすくなる。使えるところでは使わないとな。
そうこうしている間に、猫座の生徒会長の操る水がアメちゃんの装甲を削り取り、同時に爆発させる。これはかなり使い勝手のいい技だな。千の顔を持つ英雄ほどじゃないけど。
ところで、猫座の生徒会長の持ってる槍って、どう見てもガンランスだよな。龍撃砲とか撃てたりするんだろうか。
原作では似たようなのを撃ってたような気もするけど。
そんな俺の思考を知らずに、ラルちゃんと猫座の生徒会長はまだ戦いを続けている。お陰で俺は二人の戦術機動や細かい癖のようなものまで把握できるから別にいいんだけど。
早めに終わらせて、さっさと部屋で寝たいんだがなぁ………。
「はあぁぁぁっ!」
「こ……のぉっ!」
ラルちゃんのワイヤーブレードと、猫座の生徒会長のナノマシン操作の水がぶつかり合うのを見て、思う。
……しばらくは無理そうだ。
やれやれ。
結局、こうなったか
ラルちゃんとシャルが夏休みに一日だけ働いていたカフェから、メイド服が届いた。シャルの分だけは執事服も届いていた事が笑いを誘ったが、笑ったら多分シャルが泣くと思ったので自重する。俺は優しいからな。
「珍しく普通に優しいわよね」
「そうだな。一夏がそう言っていた時に一般的な意味で優しいと言うのは珍しいことだ」
「……否定、できないかな………」
「ああ、できんな」
「普通に優しい一夏さんも素敵ですが、意地悪な一夏様も素晴らしいですわよ?」
確かに一般的な意味で優しかったことは少ないが……。
って、ちょっと待った。
「……なんで鈴がここに?」
「……はっ!? そう言えばそうだよ!なんで二組の鈴が一組にいるのさ!?」
「気合いと愛の力で分身したわ」
「うっそぉ!?」
「く……鈴に先を越されたか……次に一夏への愛情の力で物理法則を越えるのは私でありたかったのだが………」
「いやいや物理法則を越えるのは色々まずいから!世界の法則が乱れるのは本当にまずいから!!」
シャルのツッコミは今日も快調だな。うんうん。
「私は行けるぞ」
「ラウラまで!?」
「そうなの? 凄いわねぇ……」
「くぅ……まさかラウラにまで先を越されるとは………こうなったら、修行あるのみだ!」
ののちゃんがなにかを吹っ切ったみたいだが、実はののちゃんはののちゃんでちょっと前に越えていたりする。
あの口振りからすると気付いていない可能性が濃厚だが、なんで気付かないんだ? 周りに居るのがちー姉さんとか鈴とか、ふとした拍子に無意識で物理法則を無視できる存在ばっかりだから、それが普通だと思ってるとか?
……つまり、ののちゃんはもう染まりきってるわけか。たーいへん。
「なんだかすっごい他人事なんだけど!?」
「実際他人事だからな」
俺としては物理法則を越えられようが越えられなかろうが、正直に言ってどうでもいい。
ただ、できれば一緒に寝てくれれば。
「……嬉しいことを言ってくれるではないか。襲っていいか?」
「なに言ってるのさ箒!? ここ一応教室だからね!? 山田先生だけど先生もいるからね!?」
「人前だから自分の思いを伝えることすらできない人生など願い下げだ!私は一夏が好きだ!それを人前で言って何が悪い!!」
「なんでいい感じに纏めようとしてるの!? かっこよく言っても内容は一夏を性的な意味で食べたいってこととなんら変わりないからね!?」
「一夏様? わたくしの指を少し強めにかじっていただけませんか?」
「はいセシリア!こっそり一夏に痛くしてもらおうとしない!」
「なら堂々やりますわ。と、言うことで一夏様。ここに乗馬用の鞭が」
「そういう問題じゃないの!」
「ならば一夏。私と寝よう。好敵手の腕の中は暖かくて落ち着くからな」
「それ僕も一緒にやるから反対側は開けといて!」
本音が出てるぞ、シャル。
「呼んだ~?」
「呼んでないが、一緒に寝ないか?」
「わ~い」
のほほんが来たのでとりあえず放課後の昼寝に誘ってみたら、嬉しそうな答えが返ってきた。
「あのぉ……一応授業中なんですけど………」
「各自のメイド服の選別(サイズ的な意味で)の時間ですけどね」
「そうそう一夏」
「ん~?」
鈴の方に視線を向けると、鈴はにっこりと笑ってメイド服を見せつけてきた。
「着てみない? 一夏だったらきっと似合うと思うのよね」
「似合うだろうけど本番でメイド服で御奉仕することになりそうだから、やだ」
……いやまあ、実際に結構似合っちゃうんだよな。ちっさい俺ってちっさいちー姉さんと似てるし。
「ちなみに俺は自分の服は持ってるから」
「え? そうなの?」
クロっていうコスプレ用IS(一応シールドエネルギーとPIC装備。出力は弱い)があるからな。
………ところで、『メイド服で御奉仕』って言った途端に、周りの女子の目が、飢えた肉食獣が極上の獲物を見る目に変わったんだけど……。
「……一夏。着てみよう? ね?」
シャルも今回は敵に回ったらしい。
「本番は執事服でいいんだったら、まあ」
そう言ったらすぐさまシャルに服を剥かれた。なんで周りの奴も止めない? 男の着替えなんて見ても楽しくないだろうに。
そう思いながらも抵抗はしない。スカートはロングだったので、ズボンは脱がされないように説得(一部脅迫)した。
そして現在。俺は女子としてのプライドをべっきりやられたらしいorzな女子たちを無視して着替え直している。
ちなみに、ワイシャツのボタンを外すときに鎖骨が出たあたりで鈴が退場。全てのボタンを外して、脱いだ時に前にいたののちゃんとセシリーが退場(決め手はヘソチラ)。後ろの方に居たのもなぜか退場(主にうなじ)。
色々あって、鈴とののちゃんとセシリーが復活したあたりでメイド服に着替え終わった俺が居たわけだが………誉めてくれたのは鈴とののちゃんとセシリーとラルちゃんとのほほんと真耶先生とシャルだけだった。
後は全員orzかなんかボーッとしてるかの二択。黒い猫耳を付け、カチューシャも付けて、気分だけはメイド………だったんだが、早々に禁止令を出されてしまった。
鈴曰く、「弾でも下手したら死ぬわね」ということで、写真を残すだけで着替えることに。
まあ、別にいいけど。そこそこ面白かったし。
ただ、これで不特定多数の人間の前に出るのは嫌だ。そこだけは言わせてもらった。
「それで~、おりむーはどんな服を着るの~?」
「一般的な執事服(に見える、束姉さんお手製の明らかに服と言うレベルを超越してしまった何か)だぞ?」
「……姉さん……何をやっているんだ………」
ののちゃんがなぜか遠くを眺めている目をしている。どうも目をそらしたいことでもあったらしい。
ちなみに、防御性能だけだったら確実にシルバースキンの方が上だったりする。凄いな錬金の戦士長。ブラボーだ。
「見せてー見せてー」
「本番までお楽しみ……って訳にもいかないか」
実際に着てみて問題があったら困るし。
と、言うことでクロを展開。服は分解されて収納され、そのかわりに燕尾服が俺に纏わりつく。
なぜか片眼鏡《モノクル》が標準装備されているらしいが、どうやらこの片眼鏡は伊達眼鏡と言うわけでは無いようだ。
ののちゃんに視線を向けると、頭の上に〈篠ノ之 箒〉と名前が出てくる。鈴に向けてもなにも出てこないことから、どうやら登録制らしい。
とりあえず鈴に笑いかけてみる。
「―――ぷふぁっ!?」
鈴は真っ赤な華を咲かせて倒れてしまった。ダイイングメッセージのように、震える指が血を使って何かを書いている。
『LOVELY一夏』
おいおい、とツッコミを入れつつ、すぐに消させてもらった。ルミノール反応すら出ないだろう。
……まったく。これだと俺が犯人だと思われるだろうが。←犯人ではないけど原因ではある。
「……鈴」
「ごはっ!?」
上半身を抱き起こして囁いたら、どうやら追い討ちになってしまったらしい。
だが、どうしようかね? ここに今動ける奴は、俺を含めて四人だけなんだけども。
俺と、ラルちゃんと、真耶先生と、のほほんの四人だけ。後は血の海。
……たーいへん。
学園祭、ちょっと前
「今日集まってもらったのには訳がある。みんなの学園祭の招待券の使い道についてだ」
俺が言うと、鈴だけは納得したように頷き、他の五人は何でそんなことを聞くのかわからずきょとんとしている。
「あたしは弾に送る予定だし、一夏は蘭に送るでしょうから……後は数馬の分ね」
「……ああ、なるほど。そう言うことか」
弾の名前が出てきた事で、ののちゃんは俺のやりたいことがわかったようだ。
「すまないが、私の分は姉さんに既に送ってしまっている。姉さんに頼めばコピーでも偽造でもしてくれそうだが、統合性が無くなるだろう」
「私は本国のクラリッサ達に送ってしまった。誰が来るかで揉めているようだが、恐らくクラリッサ本人が来るだろうな」
よっし、そのクラリネットと言う奴には色々お話タイムを設けよう。勿論普通のお話だけではなく、O☆HA☆NA☆SIもすることになるだろうが。
主にちー姉さんが、ラルちゃんがやったでこちゅー事件の重要参考人として、拳を交えた話し合いを。
「……クラリッサ。すまないが、私に教官は止められん。…………強く生きてくれ……っ!」
「何でそんな悲壮感が漂ってるのさ!? いや何となく理由はわかるから別にいいけど!」
「……あれは……キツいわよね………」
「鈴までなんか遠い目をはじめちゃったんだけど!?」
その二人はちー姉さんの必殺コンボ(常人だったらまず死ぬ)を食らったことがあるから、クラムボンの生命が………まあ、平気だろう。
……………………多分。
「私は……あげる人いないから……」
「わたくしもですわね。ですから、はい、一夏様」
「様やめ」
「はい、一夏さん♪」
こうして枚数は揃った。後は送るだけなんだが……弾や蘭ちゃんの予定とか聞いてなかったな。聞いとくか。
……あと、一枚余った分をどうしようか…………。
side 五反田 弾
どうも、一夏の町の食の殿堂、見かけによらず、味は最高。五反田食堂にて修行中の五反田 弾だ。
見かけによらず、のところで金属製のお玉が飛んできたが、とりあえずじいちゃんに投げ返しておいた。じいちゃんは本当に人間か? まだ手が痺れてんだけど。
そんなことは置いといて、ちょうど今、一夏から電話がかかってきた。
『あ、弾? 元気だった?』
……ああ、一夏の声だ。久し振りに新鮮な一夏分が補給されていく…………。
……っと、トリップしてる暇はないな。せっかく一夏が電話をかけてきたんだから、しっかり応対しねえと。
「……ああ、こっちは問題ない。で、なんだ? 鈴と喧嘩でもしたか?」
いや、無いと思うけどな。だって鈴と一夏だし、喧嘩したとしてもほっぺのつねりあいかなんかで微笑ましく平和的に解決するだろうし。
『違う違う。……で、弾』
「ん?」
『……IS学園の学園祭のチケットがあってだな。これがあればIS学園に合法的に入れるんだけど……』
「マジかっ!?」
『マジマジ』
マジらしい。
「何枚ある? ちゃんと蘭や数馬の分まであるよな?」
『当然用意してある。で、来る?』
「俺は確実に行く。蘭と数馬には俺から確認して、俺から電話を掛けるから」
『ん。待ってる』
そうして電話は切れた。とりあえず小さくガッツポーズをとってみる。
「……お兄、なにやってるの?」
「ん? ああ、一夏から学園祭の入場チケットがあるから、俺と数馬とお前の予定がなければ来ないかってさ」
「学園祭って……IS学園の!?」
「そうそう。どうする?」
「それって何日の何時から!?」
「……今月の18日の、9時からだな」
ピッピッポパッ!
……プルルルル……プルルルル……
「あ、もしもし私だけど、悪いんだけど18日に外せない予定が入っちゃって……うん、そうなの………ありがと。ごめんね?」
ぷつっ。
「行くわ」
予定無くしやがった。流石は恋する乙女だな。行動力が凄いこと。
「それじゃあ数馬の奴も誘うか………もしもし?」
side 五反田 蘭
お兄からもたらされた話は、私のその日の予定をまるごとキャンセルさせるに足る重要な話だった。
なにせ一夏さんの学園祭の招待チケット!手に入る入らないではなく、そんなものの存在も知らなかった私には、まさに夢のようなチケットだから。
とりあえず、おしゃれなの着てかなくっちゃ……えっと……このワンピースと………あ、でもあんまり余所行き用のを着てると、浮かれてるように思われちゃうかも……。
……こんな時には我が家で一番一夏さんのことを理解しているお兄に話を聞こう!
「お兄。一夏さんってどんな服が好きかな?」
「一夏の好み? さてなぁ……あんまり外見を気にしないやつだから、どうせ磨くなら中身を磨いた方が有意義だと思うが………一応言っておくと、一夏のクラスはご奉仕喫茶とか言うのをやるらしく、一夏は執事服だとさ」
「執事服っ!?」
瞬間、私はその姿を想像してしまう。
最新の設備が整った真新しい扉を開くと、まるで漫画にでも出てきそうな片眼鏡《モノクル》をかけた一夏さんが頭を下げる。
ぴしっとした燕尾服を着こなしていて、綺麗にのびた背筋を想像させる。
『いらっしゃいませ、お嬢様。こちらへどうぞ』
一夏さんは優しく笑い、私を先導して一つの机に座らせる。
椅子に座ろうとするとタイミングよく椅子を押され、ちょうどいいところに座ることができた。
目の前にメニューが開かれる。それは一夏さんが持っているらしくて、受け取ろうとしたらやんわりと拒否されてしまった。
メニューの内容は、ごくありふれた喫茶店と変わらない。けれど、一つだけ違うものがあった。
執事のご奉仕ケーキセット、と名前をつけられているそれに惹かれ、私はそれを頼む。
一夏さんはにっこりと笑うと、かしこまりました、と一言だけ残して奥に消えていった。
数分待つと、一夏さんが小さなケーキと紅茶のカップを銀色のお盆にのせて運んできてくれた。
どうしてこれが執事のご奉仕セットなのかと思っていたら、一夏さんがケーキをフォークで削り、私の口許に運んでくれた。
……確かに、これはご奉仕セットだ。そう思った私は、努めて冷静にそのケーキを食べる。
甘いクリームとスポンジは、なぜか想像以上に甘かった。
私が一夏さんにそう言うと、一夏さんは紅茶のカップを手にとった。口直しに飲ませてくれたりするのかな?
そう思っていたら、なんと一夏さんはその紅茶を自分で飲んでしまった。
それからなにも言わずに私に顔を近付けてきて………って、もしかしてこれって、口移s━━━
「蘭。蘭!平気か蘭!顔がヤバイぞ!?」
「……………」
頭が沸騰した私は、その場で崩れ落ちるように気絶した……と、後にお兄に聞かされた。
学園祭当日、執事織斑
服は黒の燕尾服。目には名前登録制の片眼鏡《モノクル》。両手には手袋常備で、懐には銀色の鎖付き懐中時計を持っている。
執事状態だったら普通に大きい方がいいよな、と思ったため大きいままだが、学園祭の準備で忙しそうにしていたほとんどがヤバイ痙攣を起こすか見とれるか、もしくはハアハアしながら俺を見つめてくる。
そんな俺が教室に入ると、いきなり目の前にちー姉さんの顔が現れた。
「一夏。さてはお前、私に襲われたいのだろう?」
「織斑先生ストーップ!ここ教室ですから!人前ですから!もうすぐ学園祭始まりますから!そして織斑くんと織斑先生は姉弟ですから!」
「? 姉弟だからどうした? 私は一夏と今日の夜に同じ布団で一夜を過ごそうとしただけだぞ? 最近スキンシップが足りていないしな」
……確かに、昔に比べて相当減った気がする。とりあえず今日はちー姉さんの部屋に泊まるか。
そしていっぱい撫でてもらうことにしよう。
「一夏。尻尾が千切れんばかりに振られているぞ」
ののちゃんに言われて確認してみると、狼の尻尾が生えていた。猫耳メイドと狼執事か。
……あり……なのか?
「……ありだな」
「無問題ですわね」
「一夏。抱き締めてすりすりしていいかい?」
「好敵手《ライバル》よ。とりあえず抱かせろ撫でさせろ。そしてそのまま昼寝をしないか?」
ラルちゃんの言葉にかなり惹かれた。だが最低限の仕事はやらないといけないので、仕方無く拒否した。
俺だって寝たいさ。学園祭の間中寝てたいさ。俺がいなくちゃ成り立たない喫茶店なんかなくなれ。休憩所にしてみんなで寝ようぜ。
………今さら言っても無駄だけどな。
次々に舞い込む注文。凄まじい速度で指名される俺。ゲームの相手とかもう飽きたんだけど。
それでも指名は止まらないので、仕方無くちゃっちゃと終わらせる。チートも使ってるし、ガンカードもしてる。
ダーツは普通にやってもまず負けないし、神経衰弱は自分の番になったときに一回で全部まとめて取るため負ける方が難しい。じゃんけんは……まあ、昔から鈴や弾とじゃんけんしていたのは伊達じゃないってことで。
その合間を縫ってケーキを運んだり紅茶を運んだり紅茶にミルクと砂糖を入れたりと、本当に忙しい。
まあ、途中で抜けるけど。
「織斑くーん!二番テーブルにケーキ持っていって、それからすぐゲームしてー!」
「……それではお嬢様方。ごゆっくり……」
……あー、めんど。
「やっほー一夏。忙しそうね」
「いらっしゃいませ、鈴お嬢様。……お似合いですよ」
「ありがと。気分がいいから後で手伝ってあげるわ」
「ありがたき幸せにございます」
そうやって軽口を叩きあいながらとある席に付く。ちなみに今の鈴は背中が開いてかなり深めにスリットの入っているチャイナ服だ。真っ赤な布地に金の龍があしらってあり、金色のラインが綺麗なかなり凝ったデザインだった。髪はシニョンで、それはそれは似合っている。
まあ、原作のままと言ってしまえばそれまでなんだが、やっぱり似合うな。
俺がタイミングよく押した椅子に当然のように座り、俺が広げたメニューにゆっくりと目を通していく。
「……そうそう、その格好、似合ってると思うわよ。格好よくて惚れ直しちゃいそう」
いたずらっぽく微笑みながらのその言葉に、俺は少し笑顔を深めて返す。
「ありかとうございます。鈴お嬢様」
お互いに笑顔を向けあい、数秒だけ見つめあう。
「……それじゃあ、ケーキセットを一つと、執事にご褒美セットを一つ。それと一夏をテイクアウトで」
「鈴っ!? 一夏をお持ち帰りして何をする気なのさ!? 駄目だからね!」
シャルのツッコミが入る。やっぱりシャルの鋭いツッコミは必要だな。
けれど、たまにかんちゃんのやわらかつっこみが恋しくなるのはどうしてだろうか?
「申し訳ありませんが、執事の飲食及びお持ち帰りは禁止されております」
「そう。残念ね」
「なんで一夏はそんなに落ち着いて反応できるのさ!? 自分の事でしょ!?」
自分より遥かに驚いている奴を見ると、なんか落ち着いてくるよな。シャルとか。
「まあ、冗談は置いておくとして……さっきの二つは宜しくね、執事さん?」
「ご注文を繰り返させていただきます。ケーキセットと執事にご褒美セットを一つずつでよろしいですか?」
「ええ」
「承りました」
メニューを閉じて、それから厨房に注文を入れる。冷蔵庫の中で冷やされていたセットは、二つともすぐに出てきた。
それを銀のお盆(千の顔を持つ英雄で出せた。縁で殴られたら痛いよな。ほら武器だ)にのせて鈴の所に運ぶ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。それじゃあはい、座って座って」
どうやら鈴は執事にご褒美セットの内容を知っていたらしい。まあ、分身して一組に入り込んでたんだし、知っててもおかしいところはなんにもないな。
「はい一夏。あーん」
「鈴。一応言っておくが、一夏にポッキーをくわえさせた後、強制的にポッキーゲームに移行する……等と言うことは無かろうな?」
ののちゃんの言葉に、鈴はピシリと固まった。…………返事がない、どうやら図星だったようだ。
「……一夏に食べさせることができるのが、執事にご褒美セットでしょう? 食べさせ方の指定は無かったはずだけど?」
「却下だ。お前や簪たちだけならともかく、他の奴まで一夏にそういうことをしようとするのは許さん」
「……確かにそれは嫌ね。わかったわ……はい、あーん」
ポッキーはひんやりしていて美味かった。尻尾がどこからか現れてぱたぱた振られていたらしいが、まあ、どうでもいいことだな。
「……和むわねぇ……」
「……そうだな……」
カリカリカリカリ……うまうま。
客人登場、そしてお迎え
side五反田 弾
IS学園の学園祭。IS学園の生徒と教師以外でチケットを持っていない者は遠くから見ることしかできないそれに参加するために、俺達はモノレールに乗っている。
朝、家を出るときに一夏に貰ったチケットがあることを確認して、駅で数馬と合流。チケットを確認して、始めは電車に乗る。
電車からモノレールに乗り換えるんだが、蘭は緊張しすぎで完全に固まってしまっている。
「蘭」
「ひゃっ!?」
声をかけただけでこの驚きよう。一夏の前に出たら、どうなっちまうんだろうな?
「少し落ち着け。慌てても学園祭は逃げないし、その服も誉めてもらえるって」
「ほ、ほんとに? ほんとに似合ってる? 一夏さんもそう思ってくれる!?」
「ああ。一夏は誉めてくれるし、似合ってるって言ってくれる」
ほっ、と胸を撫で下ろす蘭。いつもは頭の上で纏めている髪を下ろして、白いワンピースを着ている蘭は、実際に絵になっている。
その肩から下げられた鞄には、一夏から送られてきた家内安全の御守りがぶら下がっているが、それも含めて絵になっている。多分、俺と数馬が隣にいなかったらナンパが絶えないんじゃないかってくらいに。
ふと、蘭の視線が鞄にくっついている家内安全の御守りに向かう。少しだけ揺れるモノレールの中で、蘭はゆっくりとその御守りに手を伸ばす。
御守りを掴んだその手を顔の前に持ってきて、蘭は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「恋をすると女は綺麗になるそうだけど……実の兄としてはどう思うよ?」
数馬がそんなことを聞いてくるが、それこそ愚問だろ。
「誇らしいし、嬉しいに決まってるだろ」
あの蘭が恋をして、自分の魅力でそいつを振り向かせようとしてるんだ。
その恋路にはライバルも多いだろうが、俺は蘭の兄貴として応援するし、できることはしてやりたい。
「も、もう!なんの話をしてるんですか数馬さん!お兄も!」
「ああ、ごめんごめん。蘭ちゃん綺麗になってるから、一夏だって落とせるよって。な?」
数馬は楽しそうに笑い、蘭に発破をかけていく。当然俺もその言葉に乗り、
「そうそう。俺達は応援するからよ」
と言っておく。
その言葉に蘭は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまったが、真っ赤になった耳は見えてしまっている。
「……あ……ありがと」
ぽつり、と注意深く聞いていなければ聞こえなかっただろう言葉は、あえて聞き流す。返したりしたら、蘭は恥ずかしがって怒るだろうし。
素直じゃない蘭に笑顔を向け、ちらりと窓の外を見る。
IS学園はまだ見えないが、それでももう楽しみだ。
……一夏。もうすぐ着くからな。
side 織斑 一夏
……弾がもうすぐ着く、という電波が届いた。実際は電波じゃなくてただの勘なんだけど。
さてと。迎えに行くかね。
「……一夏? どうして窓を開けるの?」
「それはな、シャル。俺の友人がもう来るみたいだからだ」
「………一夏? どうして一夏は方向を確認してるの?」
「それはな、シャル。駅がどっちかを正確に知るためだ」
「…………一夏? どうして一夏は窓枠に足をかけてるの?」
「それはな、シャル。ちょっと用事ができたからでかけたいけど、まともに出ようとしたら止められるのが目に見えてるから、窓から飛び出そうとしているから……だ!」
神から貰った身体能力を使ってあいきゃんふら~い!
まあ、冗談だけどな。ちゃんとエアライナーを足下に引いてる。
「一夏っ!……って、一夏ぁ!? どうしてISも展開してないのに空中に立ってるの!?」
「それはな、シャル。クロはISだってことをシャルが忘れてるってだけの問題だよ」
大嘘だけどな。思いっきりインヒューレントスキルの方のISを使ってるし。
まあ、インヒューレントスキルもISではあるから、嘘ではないと言えなくもない。
クロは一切関係無いけどな!
「ちょっ!今一夏にいなくなられちゃうと困るよ!僕達だけでどうやってこの店を回していけばいいのさ!?」
「ぷちか五体呼んであるから、そっちに頼め!」
と、言うことで俺は走る!あとは頑張れ!
シュタッ!と片手を上げてから走り去る。後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてもスルー。
まあ、ぷちかが五体いるなら大丈夫。あいつら信じられないような特技を持ってるから。
「一夏あぁぁあぁぁぁっ!!」
まあまあ、なんとかなるって。
………あ、それ以前にサテライト30の俺自身を残してくれば良かったか。失敗失敗。
side 篠ノ之 箒
突然外に飛び出していってしまった一夏の気配を意識だけで追いながら、私は軽く溜め息をつく。
そして目の前で行われている、ぷちか達の事を見る。
「わぅ!」
「わぅ?」
「にゃ~ぅ~……」
「きゅっ?」
「…………」
上からそれぞれ、柴犬、ダックスフンド、ライオン(猫サイズ)、黒兎、ヤマネだ。
「ぅー☆」
「ぅー↑」
「ぅー↓」
「ぅー↑↑☆」
「篠ノ之さん。そこのぷちか達のテイクアウトをお願いするわ」
「申し訳ございませんが、従業員のお持ち帰りはご遠慮ください」
にっこり笑いながら言ってやるが、目の前の女達の暴走は止まりそうにない。
「ぅー☆」
そんなぷちか達を見ていたら、いきなり、かっ!と、ぷちか達が光り輝いた。
ぷちか達に見とれていた私達は一斉に目を光に焼かれ、しばらくなにも見えなくなってしまった。
暫くして視力が回復すると、そこにはぷちかではなく一夏が………いや、違う。
あれは、ぷちか達が大きくなったのか!
その考えに至った私に、大きくなったぷちかはにっこりと笑いかけてきた。
「わぅ!」
死にかけた。
邪魔者一つと、お客さん
武装な錬金のレーダー、ヘルメスドライブを使って弾とカズと蘭ちゃんを捕捉した。まだモノレールに乗っているようだが、多分あと十二分もすれば到着す
「ちょっといいですか?」
「ちょっとだけなら」
ちょっと(約0.3秒)。
「それでは」
「へ!? いやあの、ちょっと!?」
「……何さ? ちょっと待ちましたが。具体的には0.2998952秒くらい。と言うかどちら様ですか?」
適当だけど。
ちなみにここは人通りの多い校舎内。なんでこんなことを言ったかって? なんとなく。
「あっ……し、失礼しました。私、こういう者です」
そう言って手渡されたのはただの名刺。名前は巻紙礼子となっている。
…………ああ、確か原作では……。
名刺をひっくり返して名前を呼んでみる。
「巻紙さん?」
「はい。織斑さんにぜひ我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして……」
クロだ。こいつ確実にクロだ。いや俺が今も着ているISじゃなく、有罪無罪的な意味でのクロだ。
こんなところで偽名を書いてある名刺を渡してくるとか、本気で意味がわからない。それも、手袋もなしで渡してきてるから指紋も取り放題だし。
バカだね?
「必要ありませんし、まずそういう話は学校を通してからでなければこちらも受けることはできませんし、不必要ですし、この後用があるので話にお付き合いすることもできませんし、要りませんし、実は最初から受ける気はありませんし、不要ですし、あなたを信用できないので受けたくないですし、最大限にぶっちゃけますと邪魔にしかならないのでお断りしますし、遠慮しますし、断固として拒否します」
「な……んだと………じゃない」
目の前の仮面の剥がれかけた女が落ち着こうとしているうちに、俺はさっさとこの場を離れる。
「待ちや………お待ちください」
「やですよエムさん」
ビキッ!と巻紙《イニシャルM》の額に青筋が走ったのがわかった。この名前にした理由? ただの嫌がらせですが、なにか?
「巻紙だからイニシャルをとってエムさん。別にどこにも変なところは無いですよねエムさん。どうしましたエムさん? 顔色が悪いですよエムさん。いったい何があったんですかエムさん。どうしてエムさんの顔がどんどん赤くなって行くんですかエムさん。ねえエムさん答えてくださいよエムさん。手を強く握りすぎると痛いですよエムさん。ああ血が出てるじゃないですかエムさん。すぐ消毒した方がいいですよエムさん。保健室は下ですよエムさん。道中気を付けてくださいねエムさん。強く手を握りすぎて出血なんてバカらしいですよエムさん。今度から気を付けてくださいねエムさん。それではエムさん、さようなら」
さてと。俺はさっさと弾のところに行くとしようかね。笑顔を崩さないままに額に青筋を浮かべまくっているエムさん(笑)を無視して。
「よう、弾。蘭ちゃんも。夏祭りの時以来だな。カズはほんと久し振り。元気してたか?」
「おう一夏、こっちは元気だったぜ。数馬も相変わらず元気だったし、蘭も……ほれ」
とん、と弾に背中を押され、蘭ちゃんが俺の前に出てくる。
「あ……そのっ……お久し振りです、一夏さん」
「そうだな。……うん、その服似合ってるな。可愛いと思うよ」
すると蘭ちゃんは頬を朱色に染め変えて、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「あ、ありがとうございますっ!あの……一夏さんも、よく似合ってます!」
「ん? そう? ありがとな」
ぽんぽんと蘭ちゃんの頭を撫でて、にやにやと俺と蘭ちゃんを眺めている二人に顔を向ける。
「とりあえず……」
「ああ。行こう」
以心伝心だな。
ちなみに行くところは俺の教室。いつもは俺が五反田食堂で接待を受けてばかりなので、今日は俺が接待する側に回ってみることにした。
……さっきから必死に鳴り響いている電話も五月蝿いし。
「……出ないのか?」
「用件はわかりきってるし、なにもしないでももうすぐ解決すると思うし」
着信音がシャルだし。
「……なんかただの着信音がすっごい必死そうに聞こえるんだが……」
俺もそう聞こえる。
「……俺達は気にしないから、出てやれって」
「……じゃあ、そうする」
携帯を取り出して画面を見てみると、そこには予想通りに『シャル』の文字が。
「はいもしもし」
『やっと出たっ!一夏は今どこにいるのっ!?』
どうやら、かーなーり切羽詰まった状況らしい。たーいへん。
side 五反田 弾
一夏が少し離れて電話に受け答えをしている間、俺達は俺達で談笑していた。
「よかったな蘭。可愛いってよ」
「う……うん……」
顔を真っ赤にして俯く蘭は、同年代の男だったらほっとかないんじゃないかってくらいに可愛らしかった。兄の欲目もちょっとは入ってるだろうが、まあ、俺も人間だし、そのくらいは許してくれよ。
「お……お兄。……これからどうすればいいかな……」
「ん? そうだな……一夏は好きな相手にはかなり優しいし、とりあえず好きだって言われたらこっちも好きって返すとかだな。あいつは気付いててもなにも言われなければスルーしてくるから、ちゃんと言っといた方がいいぞ? なあ数馬」
「そうだな。一夏は鈍いんじゃなく、気付いててもスルーするから見てると鈍く見えるだけだし。いやまあ実際鈍いところもあるんだけど」
「え、そ……それはちょっと………恥ずかし……」
……別に俺はそれでもいいけど、恥ずかしがってるだけじゃあ前には進めないぞ? これ経験談な。
「あの、そこのかた?」
「はい?」
急に聞き覚えのない声で呼ばれたので振り向いてみると、少し年上に見える眼鏡の人がいた。IS学園の制服を着ているから、多分学園の関係者なんだろう。
「あなた達、誰かの招待? 一応、チケットを確認させてもらっていいかしら」
「どうぞどうぞ」
俺は自分の分と預かっていた蘭の分を。数馬は自分の分をそれぞれ差し出した。
「配布者は……あら? 織斑君と、凰さんと、オルコットさんね」
「オルコット……ああ、あの人か」
脳裏に浮かぶのは、金髪をカールさせた貴族風の常連客。確か彼女が名乗った名前がオルコットだったはずだと思考する。
なんでそのオルコットのがあるのかというのは、多分一夏がチケットを貰って俺達に送ってきたんだろうと予想がついた。
「はい、返すわね」
「ご苦労様です」
チケットを返してもらって、一夏のチケットを蘭に直接手渡す。キョトンとしている蘭に、こっそりとささやく。
「それ、一夏の」
蘭は真っ赤になって、そのチケットを綺麗に鞄の奥深くにしまい込んだ。
「お仕事頑張ってください」
「ふふっ。ありがとう」
その人は綺麗に笑うと、くるりと背を向けて行ってしまった。
……それにしても、可愛い人だったな。
その頃、教室にて
一夏がいなくなった教室では、非難の嵐が巻き起こっていた。
「ちょっと!なんで織斑君がいないのよ!執事姿の織斑君が!」
「で、ですから一夏はいま」
「いいから早く織斑君を連れてきてってば!」
「どこにいるかもわからないし、電話にも出てくれないし、ISのコア・ネットワークの座標把握もできないからどうしようも……」
シャルロットがなんとか押さえようとしているが、女子たちの暴走は止まりそうにない。
「……あれ? 一夏はいないの……?」
そこに現れたのは、かなり初めのうちに並んでいたのにようやく入ることができた簪。きょろきょろと視線を動かして一夏を探すその姿は、まるで親とはぐれた小鹿のようだった。
「……」
「ほ……箒? ……どうして撫でるの………?」
「お前が可愛いからだ」
うん、それはわかるかな。簪って時々妙に保護欲をそそられるよね。
……ところで箒。あの五体合体グレートぷちかはどうしたのさ?
そう目で伝えてみると、疲れたらしく裏手に引き込んですぐにバラけて寝ちゃったと言う答えが返ってきた。
……そっか、寝ちゃったか………。
「うーふーふー♪ ちっちゃいいっくんは私のものぉ♪」
「すまないシャルロット。少し用事ができたから、とりあえず千冬さんを呼んできてもらえないか?」
「え、う、うん、わかっ」
スパコンッ!
「馬鹿者。織斑先生だ」
「い、いつの間にっ!?」
「なに、少しばかり束《バカ》の悲鳴が聞きたくなってな……一夏に手を出してみろ。切り刻み、擂り潰し、湯を潜らせ、油で炒め……ドロドロになるまで痛め付けてくれる………」
「織斑先生。途中から料理教室のようになっています。織斑先生の場合は出来上がるのは料理ではなく産業廃棄ぶ」
めりっ。
「……知っているかシャルロット。実は叩かれたときに出る音とは無駄なエネルギーであり、同じ強さで叩くなら音がしないように叩かれた方が痛いんだ…………ッ!!」
「……いや、今のは箒が悪いよ。って言うか、いまのやりとりどこかで聞いたことがあるような……」
シャルロットはぽつりとそう呟くが、恐らく気のせいだろう。
「……さて、それでは私はこれよりあのバカの粛清に入る。こちらのことはお前たちが何とかしろ」
「ええ!?」
シャルロットは今も騒ぎ続けている女子の軍団に顔を向け、悲鳴をあげた。
「……とりあえず、一夏に電話をかけてみたらどうだ?」
「さっきからかけてるけど、ぜんぜん出てくれないんだよ」
何度も何度もリダイヤルをかけ直し、その度に帰ってくる合成音声に心が折れそうになる。
しかしそれでもかけ続けるシャルロットに、天はどうやら微笑んだようだ。
何度もコール音が響き、今回もダメかとシャルロットが思ったその時。
『はいもしもし』
ついに、一夏が電話に出た。
「やっと出たっ!一夏は今どこにいるのっ!?」
『校門の前に居るけど……』
「すぐ戻ってきて!すぐ!」
『……もしかして、すっごいヤバいことになってたり?』
「そうだよ!だから早く」
「ちょっと!織斑君はまだなの!?」
「ラウラ!ちょっとお相手して差し上げて!」
『……大体の状況は把握した。これから友人連れて戻る』
「早くね!とにかく早くね!」
ぷつっ、と電話が切れ、後には疲れた顔をしているシャルロットが残る。流石の女子達も今のシャルロットに鞭を打つような真似はしようとせず、シャルロットは静かにその場に取り残された。
「………ふぅ……箒」
「……どうした、シャルロット。一夏が帰ってくる目処がたったか?」
「うん。いまこっちに向かってるって」
「そうか」
箒とシャルロットの話を聞いていたのか、周りの女子達は異様なほどに盛り上がる。
「やったやった!織斑君来るって!」
「ここまで待っていた甲斐があったわ!」
「……よかった。一夏に会えるんだ………」
「あはは~。かんちゃんってば、女の子の顔だ~♪」
「ち、ちが……わないけど………」
本音に指摘されて赤くなった顔を俯かせる簪。それを見ていた数人は、口を揃えてこう言うのだった。
「簪は本当に可愛いなぁ」
「……あぅ…………」
~その頃の束さん~
「ああもういっくんってば可愛いよいっくんいっくんいっく~~んっ!私が作ったにしてもいっくんを見て自己進化してるし、このまま可愛い方に進化していったら束さんだけじゃなくってあらゆる女の子がいっくんやちっちゃいいっくんにめろめろになっちゃうよ? その前に束さんが食べちゃおうかな? いいよね食べちゃっても。大丈夫大丈夫、痛いのは束さんだけだし、いっくんは痛いどころか気持ちいいはずだし!経験は無いけど束姉さんは頑張るよっ!」
「―――ほう?」
ぴしっ、と音をたてて束の動きが止まる。まるで、時間が止まったかのように。
そして、ゆっくりと首を声のした方に向けていく。
それは錆びた歯車が軋みをあげながら動く様に似ていたが、それを咎めるものはここにはいなかった。
「ち………ちー……ちゃん……っ!?」
「ああ。私だ」
千冬は心底戦慄したという表情を浮かべる束に、にっこりと笑顔を向けてみせた。
その笑顔はとても魅力的で、誰もが見とれてしまうほどに美しかった。
だが、束にはとある副音声が聞こえていた。
『あはははっ☆ 私の大事な大事な一夏に手を出す色惚けウサギをはーっけーん♪ そんなのーみそ桃色春満開ウサギさんは、この私がぁ……ぶ・ち・こ・ろ・し・ちゃ・う・ゾ♪』
色々な意味で怖すぎる副音声だった。
数秒後。IS学園1年1組の教室から、IS学園中に響き渡るような断末魔が発されるのだった。
※束は死んでいません(重要)
「後々のことを考えれば当然だろう。いくら私がブリュンヒルデと呼ばれ、最強のIS使いと言われていても、ISの開発者である束《いろぼけうさぎ》とは重要度がまるで違うだろう。その程度のことも理解できないで一夏が護れるものか」