IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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お出掛け、待ち合わせ場所で

 

数日前に、シャルと出掛ける約束をした。なんでも、腕時計をくれるとか。

俺としてはあんまり必要だとは思わなかったんだが、どうしてか妙にすすめてくるので一応使ってみることにした。

………シロに時計機能があるっていうのは黙っとこう。うん。

 

そして今はその約束の時間の30分と少し前。なのにシャルはもうそこに居て、その上なんか絡まれてる。

……嫌がってるみたいだし、助けに入った方が良いのかね? 必要無い気がするんだけどさ。

 

 

 

 

side シャルロット・デュノア

 

数日前に勇気を出して一夏をデート(これ重要)に誘って、なんとかOKをもらった。

その日からずっと今日が待ち遠しくて、今日のために何日も前から服を選んだりもした。

……まさか、待っている時間がこんなにも嬉しいと思う日が来るなんて、夢にも思わなかった。

なんとなく前髪が気になって、手鏡を使って前髪をチェック。………なんか、決まらない気がする。

ちょんちょんと前髪を整えること30秒。なんとか自分で納得できる位置になったのを確認して、手鏡を鞄にしまう。

ちらりと時計を見ると、待ち合わせの時間まであと36分くらい時間があった。

 

……うん、ちょっとはしゃぎすぎてたかも。落ち着いて落ち着いて……笑顔の練習でもしてようかな。

 

にこっ、と笑顔を浮かべる。鏡では見えないけど、頬がひきつっていたり眉間に皺がよっていたりはしない、普通の笑顔を浮かべることができた……と思う。

 

……うん、大丈夫。一夏にちゃんと向けられる顔をしてるはず。変な顔とか言われないはず……大丈夫、大丈夫……。

 

「ねえねえ、カーノジョっ♪」

「今日ヒマ? 今ヒマ? どっか行こうよ~」

 

……何この人たち? 何で僕に話しかけてくるの?

………もしかして、ナンパってやつなのかな? 僕ってそんなに軽そうに見えるのかな……?

 

「約束がありますから」

「えー? いいじゃん、いいじゃーん。遊びに行こうよ」

「俺、車向こうに駐めてるからさぁ。どっかパーっと遠くに行こうよ!フランス車のいいところいっぱい教えてあげるからさ!」

 

……寝てるところを邪魔された時の一夏って、もしかしたらこんな気持ちだったのかもね。さっきまですごく幸せな気持ちだったのに、今はすっごく気分が悪い。

もしそうなんだとしたら、叩き起こされた一夏があんなに不機嫌になる理由もわかる。

 

……だって今、すっごい機嫌悪いもん。逆鱗に触れられた竜とかって、きっとこうなるんだね。暴れるのもわかるかなぁ……。

僕もできることなら暴れたいけど、一応国家代表候補生で専用機持ちだから、自重しないとね。

 

「……この地球温暖化で騒がれているご時世に、日本の公道で、よりにもよって燃費の悪いフランス車ですか………ふうん」

 

気に入らないから近寄らないでほしいという思いをふんだんに込めた笑顔を浮かべて、それを目の前の人たちに向ける。できればこれで諦めて帰ってほしいんだけどなぁ……。

そう思いながら適当にリヴァイヴの新武装を山のように使って、香水の臭いを必要以上にさせている目の前の二人の頭を何十回か爆散させる。

 

…………あの豆腐か何かが詰まってるだろう肩の上にある帽子掛けを、ショットガンの斉射で弾け飛ばすことができたら……きっとすっごくすかっとするんだろうなぁ………。

 

目の前の二人の帽子掛けや案山子の体に、弾丸やらグレネードやらミサイルやらを撃ち込む想像を繰り返すこと62回。一夏との約束の場所はここだし、どうしようかなぁ……と思っていると、二人の後ろに一夏が見えた。うん、なんだかいつもより少しだけ大きい一夏も良いね。

……120センチくらいかな?

 

「一夏!」

「おー、来たぞー」

 

片手をふりふり僕の方に歩いてくる一夏を見てると、すっごい可愛く見えてしまう。真剣な時はあんなにかっこいいのに、こんなに可愛くもあるなんて反則だよぉっ!

 

僕がそうして一夏の可愛さに悶えていると、目の前の二人は今度は一夏に難癖をつけ始めた。

 

「あぁ? なんだガキじゃねえか。悪いけど彼女は俺たちとの用事ができちゃったからよ? 向こう行っててくれるか?」

 

……殺されたいのかな、この二人。一夏に喧嘩を売るだけじゃなく、一夏を馬鹿にして……鈴や箒や織斑先生に聞かれたら、一瞬で首と体がちょんぱされちゃうよ?

僕とセシリアと簪だった場合は銃撃されたりミサイル撃ち込まれたりするから結局死ぬし、五反田支部長に聞かれたら拷問地獄らしいけど。

 

「……もしかして俺って喧嘩売られてる?」

「おいおい、弱いもの苛めなんてできねえよ。なあ?」

「そうそう。ほら、あっち行った行った」

「……シャル。約束したのか?」

「してないよ。勝手にこの二人が言ってるだけ」

「そ。……ってことなんで、お帰り願えますか? どこのどなたかも存じませぬが、無理矢理な勧誘は条例違反ですし、ついでにその趣味の悪い香水の臭いがきつすぎて公害になってるんですよ。これ以上頭の悪そうな言葉をしまりの無い口からぼろぼろ溢すのを辞めて、可及的速やかに産業廃棄物処理場と言う名の自宅に帰って荷物を纏めて財産を慈善団体に寄付して縄を一本と衣服だけで富士の樹海からあの世への旅行にでも行ってくださいな」

「うん一夏、否定する気は欠片も無いけど言い過ぎじゃないかな!? なんか殺気立っちゃってるんだけど!?」

「殺気立った産業廃棄物は自分の本性という醜い毒を、汚らわしい口から汚物のような言葉と一緒に痴呆のように垂れ流しながらだだっ子のように暴れるしか能がないんだから、それを否定しちゃったら生きる価値も存在する価値も何もかもが無くなるだろ? そんな残酷なこと俺にはできないよ。俺優しいから」

「優しいの使い方が間違ってると思うんだ!優しくないよね? 優しいどころかそれと真逆の行為を普通にしちゃってるよね!?」

「俺、間違ったこと言ってる?」

「うん!だって産業廃棄物にそんな毒を吐くなんていう高度な真似ができるわけ無いじゃないか!一人で勝手に自滅するか人に迷惑を掛けて一人で自滅するか人に迷惑を掛けて巻き添えを作って自滅するかの三択だよ!今だって人目を気にしないで殴ろうと拳を振り上げてるし!こんなところで殴ったら確実に現行犯で犯罪者になるっていうのがわかんないからそうなんじゃないの?」

「…………シャル。シャルの方が酷いこと言ってるって」

「本当のことだけど?」

「本当のことばかり言っていると、相手を傷つけてしまうだろ? どんな愚かで見苦しく醜く汚ならしい相手でも、たまには優しい嘘も必要なんだよ」

 

うん、一夏には言われたくないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お出掛け、優しいスルー術

 

相手を衆人環視の中でひたすら罵倒し続けてから少し。歯を軋ませ、憎々しげな目を向けながら去っていく二人から免許証をスり、警察に条例違反の罪と言うことで通報し、その男達が捕まったのをゾナハ虫経由で眺めつつ丁重に無視して、俺とシャルは駅前のショッピングモールを歩いていた。

 

「それで、どこから回る?」

「え、えっと……じゃあ、あそこ!」

 

シャルの指差した方向を向いてみる。しっかりと女性用下着売り場が顔を見せていた。

ついでに、ちょうど会計の途中らしい蘭ちゃんも見えたが……ここは優しくスルーしておくところだろうな。

 

顔を戻すと、自分の指差した所がどこかを理解したらしく、顔を真っ赤にしてから大急ぎで手首から先をぶんぶんぶんと高速で振っていた。

 

「ち、違うよ!? これはちょっと間違えちゃっただけであって、一夏に好みの下着を選んでもらおうとかそんなこと全く無いから!」

「シャル、ここ公共の場だから。声が大きいし、それ以前に凄い悪目立ちしてるから」

 

はっ、とシャルが気付いて回りを見るが、どうも少しばかり遅かったようだ。周りの人からの奇異の視線が中々痛い。

 

「……い……一夏……さん………?」

 

見つかっちゃったか。まあ、別に問題は無いからいいけど。

 

「やっほー蘭ちゃん。元気だった?」

「え、えと、はいっ!」

 

おやおや蘭ちゃんもずいぶん元気だな? 元気なのはいいことだけど。

 

「ちょうどいいし、紹介しとこうか。こっちがシャル。フランスの代表候補生で、いつものように俺はそう呼んでる」

 

シャルを指して紹介すると、シャルは一歩前に出てにっこりと笑った。

 

「初めまして……じゃないよね。文化祭でも会ったし………シャルロット・デュノアです。よろしく」

「えっと……前に二人組みでうちのお店に来て、業火野菜炒めを二つ頼んでからお兄になにかをもらっていた方ですよね?」

「覚えててくれたんだ?」

「……正確には、覚えていたんじゃなくて忘れられなかっただけですけど」

 

ああ、何となくわかるような気がする。あの笑顔は忘れようとしてもなかなか忘れられないだろうな。

……まあ、俺の周りでは中学時代あたりからそれが日常茶飯事だったんだが。

 

「ん……まあ、とにかく、よろしくね?」

「はい。よろしくお願いします。………あ、私は五反田蘭です」

「うん、わかったよ……そういえば、自己紹介はしてなかったね」

 

そうなんだよな。一緒に働いたのに、なんでか自己紹介はしてなかったんだよな。

まあ、あの時は忙しかったし、しょうがないっちゃしょうがないんだけど。

 

……ああ、そう言えばキャノンボール・ファストの特別指定席のチケット渡す相手を誰にしようか迷ってたんだけど……丁度いいしここで渡しとくか。

弾には鈴から渡してもらうとして……カズは………どうしようかねぇ?

 

「蘭ちゃん、携帯持ってる?」

「は、はひっ!」

「そう。それはよかった」

 

使い慣れない携帯を弄って、蘭ちゃんの携帯にチケットデータを送る。

 

「俺の誕生日と同日にある、キャノンボール・ファストの特別指定席のチケット。いらなかったら誰かにあげるなり転売するなりしていいから」

「いえ見に行きます!絶対!」

 

なんだか蘭ちゃんは興奮しているようだ。理由は知らないけど、まあ、想像すればなんとなく予想はつくな。

 

「弾には多分鈴から行くと思うけど、席はランダムだから気にせず見れると思うよ」

「ありがとうございますっ!」

 

喜んでくれたなら幸いだがね。

 

 

 

それから十数分後。時計店のディスプレイを眺めながら、俺はのんびり考え事をしていた。

ちなみに、シャルだけではなく蘭ちゃんもここにいる。

 

どうも蘭ちゃんは今日は丸々空いていたらしく、時間はたっぷりあるし今帰っても暇だから、と俺達に同行していいですかと言ってきた。

まあ、なんとなく理由はわからないでもないが、野暮なことを言う気は無い。

 

……時計くらいだったらいつでも作ることができるし、シロに時計の機能はあるんだけど……まあ、いいか。これも十分野暮なことにはいるだろうし。

 

「一夏。気に入ったのあった?」

「ん? とりあえず、腕時計より懐中時計の方が寝る時にいちいち外す必要がなくて楽そうだよな。装飾は無いに等しいくらいシンプルなのがいい」

「……ほんとに一夏は睡眠優先なんだね」

「まあ、俺だし。それにちー姉さんに作ってあげた時も装飾は控え目の懐中時計だったし」

「うん、ツッコミどころが出てきたね。作ったって、なに?」

「だから一から作ったんだよ。時計」

「どうやってさ!?」

「束姉さんに少し協力してもらって」

 

ただし材料は千の顔を持つ英雄で、束姉さんの協力はデザインとあったら便利な機能をあげてもらったくらいだけど。

 

とりあえずIS用の132ミリ口径銃弾を800m/sで秒間144発撃ち込むのを五時間続けても傷ひとつつかない上、時間のズレがほぼ皆無という時計ができた。

これで心臓の辺りを撃たれても『……ふっ……こいつが私の命を救ってくれたのさ……』ができると束姉さんと適当に盛り上がったり、デザインをちー姉さん好みのシンプルなのやつにしたり、とても楽しかった。

ちなみに、今でもしっかり使ってくれているのを知っている。

動力は束姉さんに唆されてノリと勢いで作った永久機関。ただし小規模すぎて一度に取り出せるエネルギーは多くないけど。

 

「まあ気にしない気にしない。胃が荒れるよ?」

「誰のせいだと思って……っ!」

 

俺のせいじゃないことは確かだな。うん。

 

「いや……一夏さんのせいだと思いますよ……?」

 

そんな馬鹿な。

 

「あっはっは」

「『あっはっは』じゃないよもう……」

 

シャルはなんでか頭を抱えてしまった。まるで束姉さんの話を聞いた時のののちゃんみたいに。

蘭ちゃんに慰められているシャルを見ながら、俺はのんびり懐中時計を選ぶのだった。

 

……あ、この銀のやつ安いしシンプルだしいいかも。これにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼御飯と、プレゼント

 

時計店でシンプルな銀色の懐中時計を買うと、丁度昼食の時間になっていた。

そこで、適当に近くにあった雰囲気の良さそうなカフェに入る。……ランチメニューは蟹クリームスパゲッティか。美味そうだしこれでいいか。

 

「あ、あの……ここって結構高いですよ……?」

「大丈夫。聖徳太子が10人居るから」

「聖徳太子……って古っ!? 今でも使えるんですか!?」

「使えるぞ? ただ、オークションとかで売った方が得だし、諭吉も25人くらい居るからそっち使うけど」

「なんでそんなに持ってるんですか!?」

「色々あって、会社を一つ所有してるから」

「それ僕も初耳なんだけど!?」

 

あれ、言ってなかったっけ?

 

「まあまあ、いいじゃないか。ほら入るよ」

「え、ちょ、えぇぇえぇぇぇ!?」

 

あっはっは。シャルはからかうと楽しいなぁ。

 

「あ、ところで二人ってなにかアレルギーとかあったっけ?」

「え? あ、私は何もないです」

「僕も大丈夫だけど……急にどうしたの?」

「何頼んでいいのかわからなかったから、とりあえず絶対アウトな奴は聞いといたってだけ」

 

まあ、なにもないなら平気だろ。

 

 

 

と、言うことで適当に蟹クリームスパゲッティを含むランチメニューを食べている。たまにはIS学園以外の食事も良いもんだ。高いけど。

 

「……一夏ってさ……こうやって外食するのに慣れてるの?」

 

なんでかシャルからそんな言葉を頂いた。別にそんなことはないんだが、確かに手慣れてるように見えたかもな。

 

「別に慣れてる訳じゃないな。外食するより家で適当に作って食って寝るか、食わずに寝る方が多かったし」

「食べないのはどうかと思うんだけど……」

「今は食べてるから大丈夫」

 

もきゅもきゅ……ごっくん、と飲み込んだところで、シャルが紙ナプキンを一枚取った。

 

「一夏。こっち向いて」

「ん?」

 

シャルの言葉に従ってシャルの方に向くと、今取ったばかりの紙ナプキンで口許をきゅっと拭き取られた。

 

「ソースついてたよ」

「あ、そう? ありがと」

「どういたしまして」

 

そう言ってシャルはまたスパゲッティを巻き取る作業に戻る。なんか今のって、母親の行動そっくりだったな。お母さんって呼んでみても良いだろうか?

 

「駄目だよ」

 

駄目だそうだ。ちょっと残念。

 

「あ……あの………」

 

なんでかちらちらとシャルを見ながら、蘭ちゃんが話しかけてきた。

……ん~……確かあの時もこんな感じだったよな………。

 

「ん? どしたの? 」

「い、一夏さんとシャルロットさんって、付き合ってるんですか!?」

「友達付き合いって意味だったら付き合ってるな。そうじゃなかったらこうして一緒に出掛けるとかしないで寮で寝てると思うし」

 

やっぱりそうだった。前にののちゃんと祭りで会った時にも、こんな感じでののちゃんを見ながら聞いてきたんだっけ。

ほんとに一月くらい前の話なのに、なんでかかなり昔に感じる。まあ、色々あって密度が高い生活を送ってきてるからな。当然と言えば当然のことか。

 

俺の言葉を聞いて、蘭ちゃんはほっと息を吐く。流石にこれを『なんで?』とは聞かない。原作一夏じゃあるまいし、このくらいのことはわかる。

 

……まあ、なんでもいいか。俺は別に独り身でもいいし、寝れればおよそOKだ。

 

「……もう。またほっぺについてるよ?」

「んむ……ごめん。ありがと」

 

 

 

昼御飯も終わり、買い物も終わり、後は帰るだけになったので蘭ちゃんを送っていくことにした。女性上位の時代でも……いや、女性上位の時代だからこそ、危ない時は危ないからな。

 

「あの……ありがとうございましたっ!」

「おう。弾にもよろしく言っといて」

「は、はい」

 

のんびりと笑いながら蘭ちゃんを見ている俺に対して、蘭ちゃんはずいぶん落ち着きが無さそうだ。

まあ、理由は何となくわかるけども。

 

「そ、それじゃあ、その、また誕生日会で」

「そうだな。……大会の方も、まあ、そこそこでいいから応援してくれよな」

「それはもう!頑張ってくださいね!」

 

蘭ちゃんは元気だね。

 

…………あ、そうだ、忘れてた。キャノンボール・ファストでなんか起きるんだった。

原作では平気だったけど、この世界は原作と似ているだけの別世界だから保証は無い。一応保険は懸けとくべきかな。

 

「蘭ちゃん、利き手どっち?」

「へ? え、あ、み、右手……ですけど………」

 

右手ね。じゃあ形は腕輪でいいか。

 

蘭ちゃんの右手を取って、手の大きさやら手首の周径を確認する。そしてそのデータを元に、千の顔を持つ英雄で腕輪を作る。勿論ただの腕輪ではない。

顔を真っ赤にした蘭ちゃんの手に、懐で作った赤銅色の腕輪を嵌める。先に言っておくと、ISの待機形態ではない。

 

「あ……あの………」

「お守り。なんか嫌な予感がするからほんとは来ないのが一番なんだろうけど、来たいでしょ?」

 

何がなんだかわからないという顔をしながらも、こくこくと頷く蘭ちゃん。可愛い可愛い。

 

「だからお守り。肌身離さず持ってると、もしかしたらいいことあるかもよ?」

 

まあ、確実にあるんだけど。10トントラックに跳ねられても無傷でいられるくらいのシールドっていうご利益が。

もう一度。ISじゃないってことを明記しておく。

 

「あ……ありがとうございますっ!」

「気にすんなって。……そうそう、弾に『来るならアレ付けて来い』って言っといてね」

「アレ? アレって……」

「秘密」

 

その方が面白いしね。

強いて言うなら、ののちゃんに渡した物に似ているとだけ言っておく。

 

「じゃあ、またね。伝言よろしくー」

 

ひらひらと手を振りながら、俺はIS学園に戻る。弾ならアレがあれば大体の事はなんとかできるはずだし、安心しておこう。

 

「……えっと……どんな予感がしたの?」

 

シャルが興味深げに聞いてくる。俺はそれににっこりとした笑顔で、簡単に返した。

 

「ちょっとしたテロが起きる気がしただけ」

「駄目だよねそれ!?」

 

シャルに駑級のツッコミを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大暴露、大暴走

 

蘭ちゃんと別れてIS学園への帰路につく。その道中で、なんでかシャルはご立腹の様子。

ちょっと蘭ちゃんに似合いそうな赤い腕輪をプレゼントしただけなのに、なんで拗ねてんだろうな?

 

「……拗ねてなんてない」

「拗ねてるように見える」

「拗ねてないってば」

 

拗ねてないらしい。というか似たようなことを前にもやったことがある気がする。

まあ、やったことがあろうがなかろうが別にいいけど。

 

「……こんなに正直じゃないシャルの分は、懐にしまっちゃおうね~」

「えっ!?」

 

ちなみにシャルの分は金色。大した特殊能力は無いけど、なんでか異様に硬い。

まあ、蘭ちゃんにあげたやつも大した能力じゃないんだけどさ。

 

「ほら、手を出して」

「う、うん!」

 

さっきまでとはうってかわって嬉しそうな表情で俺に腕を出すシャル。やっぱり笑顔の方が可愛いと思うんだけどね。

 

そう思いながらシャルの右腕に腕輪を通す。きつくなく緩くなく、抜こうとしなければ抜けないようなちょうどいいと思われる大きさの腕輪を作ったつもりだったんだけど……ちょうどよかったらしい。

 

「わあ……わあ………!」

 

シャルはかなり嬉しそうで、自分の右腕の腕輪をキラキラとした目で見つめている。

 

「これ、ほんとに貰っちゃっていいの!?」

「いいよいいよ。材料費なんてかかってないようなもんだし」

「へ?」

 

なんでかシャルが妙な声をあげた。なんでだろうな?

 

きりきりきり……となにかが軋れるような音をさせながら、シャルは俺に視線を向ける。

 

「……もしかして………一夏が作ったの?」

「そうだけど?」

「デザインも?」

「シンプルなのしかできないけどな」

「………ほんとに?」

「おう」

 

シャルはどうしてかそんなことを聞いてくる。弾とか束姉さんとかだったらもっと凄いのを作れるし、大したことは無いと思うんだけどな。

だってあの二人はこの世界原産の公式チート。そのくらいの事はブランチ前のはず。ちなみにブランチってのは、およそ10時くらいに食べる朝昼兼用の食事のことらしい。よくは知らない。

 

「……一夏って……凄いね」

「ありがと」

「……ところで、これの材料ってどうしたの?」

 

千の顔を持つ英雄で作った……とは言えないので、ちょっと嘘をつく。

 

「さっき言った会社の給料的な物で買った」

「そうなんだ? へー……一夏の会社の名前ってなに?」

「デュノア」

「………………へ?」

 

さっきより間の抜けた『へ?』を頂きました。

 

「シャルの目の前でなんとハッキングしたことがあったろ? あのときにちょちょっと弄って俺の物ってことにしたんだよ。………言ってなかったっけ?」

「一切聞いてないよ!」

 

おお、驚いた。

 

「まあ、やり過ぎたかもとは思ったけど、後々のことを考えたらこの方が後腐れも面倒もなくていいなって。ちなみに、シャルに最近よく送られてくる非常識な装備だけど、あれも俺の指示」

「えぇっ!? ほ、ほんとに!?」

「ついでに、一部の部品は俺が命じて作らせた」

「うっそぉ!?」

 

後々のことを考えて云々ってところと、武装を送らせたってところ以外は嘘だけどな。

実際は千の顔を持つ英雄で作った部品を直接組み込んでるから開発命令なんて出してないし、実はやりすぎだとも思ってない。むしろもう少しやっとけばよかったと思ってる。

 

「非常識なのは仕方ないだろ俺なんだし。まあ、これでシャルはデュノアを自分から辞めない限り首になることもないし、卒業後も会社の面倒事に混ざらなくても良くなったわけだ」

「そ……そうなんだけど………なんと言うか……」

「殺るときは徹底的にと言うのがちー姉さんと束姉さんから教わったことの共通項だからな。ここは守っとかないと」

「殺るの!?」

「シャルの父親は人間的にはもう死んでるぞ? ちょっと洗脳して自分の意思で行動してると思い込んだまま生活してるし」

「知らない所でなんかすごいことになってた!? 一夏ってそんなことまでできるの!?」

 

千の顔を持つ英雄をしっかり使いこなせれば楽勝だ。

使いこなせるようになるまでがかなり大変なんだろうけど、その辺はチート凄いと言っておこうか。

 

「まあ、鈴や弾が俺への愛で物理法則を越えるのと同じような物だよ。シャルのことは好きだし」

「ふぇっ!?」

 

なんだかさっきからシャルは驚いてばっかりだな。ビックリした顔も面白いから別にいいけど。

 

「さて、それじゃあそろそろ歩かない? ずっとバス停前じゃあ目立つし」

「ちょ、言いたいことだけ言ってすぐに帰るって……一夏ぁっ!?」

「あっはっは。詳しい説明を聞きたかったら寮の部屋に入る前に捕まえてごらーん」

「一夏の本気に追い付くにはリヴァイヴ使わなくっちゃいけないような気がするんだけど……」

 

それは確実に気のせい。俺を捕まえるならシロの最速状態を使い潰すつもりで来ないと可能性すら無くなると思うぞ?

つまり、リヴァイヴじゃあ無理だと思う。

 

「いや、いくら一夏でもそれは……」

「ちー姉さん」

「うんなんか納得できた。そうだね、一夏だもんね。織斑先生の弟さんで、世界一理不尽で常識はずれな一夏だもんね」

「失礼な。一番の常識はずれは束姉さんだ」

「……篠ノ之博士もかなり常識はずれな人だとは思うけど、一夏も一夏で相当常識はずれな人間だと思うんだけど………」

 

細かいことを気にしすぎると禿げるよ。

 

「禿げないよっ!」

 

しゅたたたた……と怒ったシャルから逃げる。怒ったシャルは恐いんだ。

まあ、鈴や弾やちー姉さんの怒った時に比べれば大したことさないかな。

怒ったちー姉さんの恐さを完全再現できたら、それ以上に怖いものは無さそうだけど。

 

……引き合いに出すのが間違いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久し振り、休息時間

 

学園祭という面倒極まる行事を乗り越え、ついでにエムさんをからかい倒し、キャノンボール・ファストまでは時間があり、それでいて機体調整も(今回は完全に自力で)終わらせたところで俺は寝ようとしていた。

ちなみに、今回自力で機体調整をした理由は、かんちゃん達に手を抜かないで欲しいと言われたからだったりする。

情報を渡さないように自分で調整して、機材は千の顔を持つ英雄で作り、場所は武装な錬金の避難壕《シェルター》であるアンダーグラウンドサーチライトを使って用意した。

見様見真似と束姉さんのテレビ電話講義のお陰であまり時間はかからなかったけれど、かなり疲れた。

 

まあ、それも終わったし後は寝ようと着替えを始める。最近ようやく小さくなるのが止まったので、その体に慣れようとしているところだ。

 

制服の上着を脱いで、ハンガーにかけて皺を伸ばす。ちー姉さんの弟がしわしわの制服を着ていたなんて、ちょっとばかり恥ずかしくてできやしない。

まあ、実際に皺になったとしても二秒で伸ばせるんだけど。

そしてワイシャツを脱いで別のハンガーにかけて、寝巻き用のだぶだぶなワイシャツを着る。ボタンは真ん中あたりにあるのを一つ二つつけて、それで終わり。

 

歯磨きも終わってるし、ズボンを脱いで━━━

 

「一夏~? 昼御飯……」

「……あ、鈴」

 

急に入ってきた鈴に、少しばかり驚いた。こういうのは普通立場を逆にしてやるもんじゃないのか?

 

そう思いつつも俺はベルトを外したズボンをそのまま脱いで、さっさとハンガーにかける。鈴はそんな俺をじっと見つめているが、なんでか動こうとも話し始めようともしない。

 

「……一緒に寝る?」

「くぷはぁっ!?」

 

俺がそう聞くと、鈴は急に真っ赤な液体を鼻から噴き出して倒れてしまった。

仕方がないので鈴の顔を綺麗にしてから布団に運び込み、そのまま抱き締めて目を閉じる。

朝になったらもっとヤバいことになってそうな気がしたが、完全に気のせいと言うことにしておこう。

 

 

 

気のせいじゃなかった。と言うか、なんか予想以上に酷いことになってた。

 

具体的に言うと、なぜかそこら中に女物の服が散乱している。それも、すごく見覚えのあるやつが。

それから俺の隣で寝ているのが鈴一人からちー姉さんとラルちゃんの二人になっていた。鈴はベッドの近くの床で簀巻きになっていた。

そこに折り重なるようにののちゃんとシャルとセシリーが倒れていて、一様に苦しそうな呻き声を

 

「あ……あはぁ……♪」

 

……訂正。約一名を除いて苦しそうな呻き声をあげていた。折り重なっているから結構重いんだろうな。

 

………ってののちゃん達を簀巻きにしてるのって俺の明日の布団のシーツ(敷き布団、掛け布団、マットレス用)じゃん。千の顔を持つ英雄で出したやつ。

明日のシーツは……まあ、明日また出せばいいか。……やれやれ、仕方無いなぁ。

 

ちー姉さんを抱き締めて、二度寝の体勢に入る。もう夕方だし、昼も食べてないけど眠いのだから仕方無い。

 

 

 

 

side 更識 簪

 

……こっそりと一夏の部屋に入り込んで、そっと扉と鍵を閉める。一夏を起こすわけにはいかないから、慎重に慎重に……。

 

足音を立てないように一夏が寝ているはずの布団に近付いて……ふと違和感を見付けて立ち止まり、そのまま違和感の現況である足下に視線を下ろす。

初めは暗くてよく見えなかったけど、少ししてからそれが人影だとわかった。あれは……本部長達だ。

しかし、本部長達が縛られているにしては一夏の布団の膨らみが大きいことに気付いたところで、さらに慎重に近付く。

 

そして一夏の寝顔が見えたときに、私は嬉しくてつい笑ってしまった。

 

それから持参した毛布を羽織って、一夏の眠っているベッドの端に頭を預ける。

ディスプレイはケースに入れてしまってあるから大丈夫と思って、私はそのまま目を閉じる。

 

……一夏の臭いだけじゃなくて、誰か他の人の臭いもするけど、そんなのはいつものことだから気にならない。すんすんと鼻を鳴らしながら、一夏のベッドに顔を埋める。

……本当は、男子の部屋に泊まるのはよくない事なんだけど……これはお泊まりじゃなくて、休憩だから大丈夫。休憩してるときに寝ちゃうことって、よくあるよね?

 

「あるある~……」

「……あるよね~?」

 

……あれ? 今一夏の声が聞こえたような気が……。

 

……うん。きっと気のせいだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高速機動、実は巡航速度

 

「はい、それでは皆さーん。今日は高速機動についての授業をしますよー」

 

なんだか久し振りに聞いた気がする真耶先生の声が第六アリーナにに響き渡る。そして、なんでかその実演は俺とセシリーがやることになった。

セシリーは高速機動型になっている。ただし、腰のあたりにくっついているビットの砲門は封印されていない。これなら加速しながら撃つってことが簡単にできそうだ。

 

「その分、多少最高速度は落ちますが……妨害能力は数段以上に伸びますわ」

「わー怖い。お手柔らかに」

 

ちなみに俺はほぼ通常状態。ただし、いつもよりスラスターに振る割合が大きいけど。

右手に振る分は全部スラスターに行ってるし、左手の方も二割くらいはスラスターに行ってる。一人で調整頑張ってみた結果がこれだ。なかなかだと思う。

ちなみにこの状態でも空間固定は使えるが、使うとエネルギーが削られるからやる気はない。

左手の方もあんまり使う気がないのに、空間固定みたいな燃費の悪い物を使う気にはなれないって。

 

高速機動補助バイザーを起動して、空中に浮き上がる。……なんと言うか、あまりにも鮮やかに見えすぎて気持ち悪い。

 

『慣れないと酔いますわよ。お気をつけて』

「ありがと」

 

まあ、気持ち悪いけど酔いはしなさそうだ。気持ち悪いけど。

 

セシリーが俺の隣に浮き上がり、にっこりと笑う。さてと。もうすぐスタートだな。

 

「準備はできましたね? それでは……3・2・1・ゴー!」

 

真耶先生の合図と同時に、キュンッ!と風を切って加速する。

最高速はまだ出さない。そして今回は妨害もなし。授業だしね。

 

いつもより少しだけ気を使ってカーブを曲がり、速度を上げたり落としたりと色々確かめながら塔を周回する。

……うん、まあ、大体感覚は掴めたな。最高速はまだ出してないし、最後の切り札っぽい特殊装備の三つ目は使ってないけど、多分大丈夫。

 

……できれば永遠に使う機会が来なければいいんだけど……。

………これ、もしかしてフラグか? 嫌だねぇ。

 

『流石ですわね一夏さん』

 

なんでかセシリーに誉められた。しかもセシリーはいつの間にか隣に並んでいる。ちょっと性能を確かめるのに時間を使いすぎたか?

……それと、セシリーの技量を上方修正しておく必要がありそうだな。鈴とシャルとののちゃんとラルちゃんの分も。

代表候補生(約一名違うけど)の技量は甘くは見れないっと。

 

「まあ、ありがと。どうせだし、一緒に行く?」

『是非!』

 

嬉しそうに頷かれたので、セシリーと並んで塔の周回をする。たまにはゆっくり飛ぶのもいいもんだ。

いつもISを使う時は急ぐ時ばっかりだからな。

 

 

 

戻ってきてから俺は少しだけ調節をする。よく考えたら左手では衝撃砲ではなくグレネードランチャーでも持てばいいので全面的にカットし、スラスターに回すことに。

原作だと既に二次移行していて、荷電粒子砲なんて物を装備していたが、シロには今のところ移行する気配は無いからな。こうして遠距離武器を使わないと遠距離攻撃が気弾か居合拳モドキか剣を投げるくらいしかないからな。

気弾は流石に不味いし、居合拳は鞘の代わりのポケットが無いから不可能。あってもやらないけど。そして剣を投げるのは、人前のIS戦では却下。

 

まあ、銃とかミサイルとかを出せるから別にいいんだけど。

 

ちなみに、ののちゃんは絢爛舞踏と展開装甲をフルに使っての仮想高機動体。無尽蔵に近いエネルギーを利用しての高速機動状態での瞬時加速は恐ろしい物があると予想できる。

……ああ、怖い。轢かれたらどうしよう。

 

……面倒臭いが作戦を考えておくべきだな。それも、早急に。

 

とりあえず、先制して何かしらのことをしてやれば出鼻はくじけるよな。

そしてキャノンボール・ファストはレースなんだから、先にゴールした方がいい。

 

………あ、狡いけど有効そうな手を考えた。これを成功させれば少しは時間稼ぎにはなるだろう。

勘のいい鈴と、動体視力のいいラルちゃんには効くかどうかわからないけど、やらないよりはマシなはず。

 

…………すっごい批難されそうな事だけど、禁止されてないからルール的には大丈夫。

人道的には………まあ、問題ない……と思う。

 

……本番は頑張ろうかね。そしてその後、俺は自分でも呆れるくらい寝るんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾丸よりも、なお速く

 

キャノンボール・ファスト当日。会場は大入り満員で、空には花火が上がっている。

弾丸よりも速いもの、と言われると、どうしても俺は『黒のヴィルマの流星』が出てきてしまう。かっこいい死に方だったけど、俺は死ぬ時は今度こそ布団の上でのんびり眠るように死にたいね。

 

……あ、弾と蘭ちゃん発見。チケットの都合で少し離れてるけど、何かあったらすぐに合流できるくらいの距離だな。よかったよかった。

弾には俺のせいでなにかと迷惑をかけることになるだろうからと、IS学園に入学が決まった時に色々渡してあるからそこまで心配はしてないけど、蘭ちゃんにはあんまり渡せてないから心配だ。

鈴に言ったら、弾のことは心配するだけ無駄だと言っていたし、蘭ちゃんも弾が守るだろうから多分大丈夫だと言っていた。そこそこ安心できた。

 

……さてと。俺は俺で頑張るか。卑怯な手も反則にならない範囲で使う予定だし、ある程度インヒューレントスキルの方のISも使うつもりだし。

……解りづらいから、インフィニット・ストラトスの方のISはIS、インヒューレントスキルの方のISは【IS】と表記することにしようか。

 

シルバーカーテンで空中に浮かした金属塊を不可視にしたり、金属塊の近くをすり抜けようとしたところをランブルデトネイターで爆破したり、レイ・ストームで拘束光線と破壊光線の撃ち分けをしたり、ディープダイバーを使って実弾系銃器と実体系近接武器の無効化をしながら飛ぶとか……使い道はいくらでもある。

 

……多分、ディープダイバーは使わないけど。反則過ぎるから。

 

「一夏。もうすぐ出番だし、準備しといた方がいいわよ?」

「ん? そう? わかった」

 

鈴に呼ばれて俺はピットの中に向かって歩き出す。

その途中でピタリと止まり、くるりと振り返る。

 

視線の先にはおめかしした蘭ちゃんと、色々装備している弾の姿があり、二人とも興味深げにレースの行く末を見つめている。

 

………俺の日常は、沢山の欠片から出来ている。その欠片の中でも取り分け大きいものが、ちー姉さんと弾だ。

最近ではののちゃんや鈴、セシリーにシャルにラルちゃんにかんちゃんに蘭ちゃんも中々大きくなってきているが、やっぱりこの二人の存在が大きい。

 

俺の日常は、欠片ひとつの形が変わっても元が同じなら変わらず動くが、欠片がさらに欠けては途端に回らなくなってしまう。

 

……だから、できるだけ護らないとな。

 

俺は全身を被う形のISスーツ(の形をしているクロ)に身を包み、視線を前に戻して歩き出す。

 

『……よろしく、たっちゃん。今度かんちゃんも一緒に昼でも食べよう』

『任されたわ!』

 

嬉々として答えを返すたっちゃんには視線を向けず、俺はぽっかりと開いているピットの入り口に歩を進めた。

 

 

 

ピットに到着した俺は、ゾナハ虫を使って二年生のレースを見物している。

専用機を持っている二人は参加していないから訓練機しかいないが、それでも技術は一年平均と比べたら段違いだ。

 

特にイギリス代表候補のサラって選手が凄い。セシリー曰く専用機は持っていないらしいが、素人目にも相当なもんだと思う。

 

……とは言え、戦闘中はどんな手を使ってもいいんだったら負ける気はしないけど。

 

「……終わったようだな」

 

ののちゃんがそう呟いた。確かにその時終わっていたし、歓声のピークがそこだったことを考えれば大体の予想はつけられるだろうけど、やっぱりののちゃんの気配探知能力は凄まじいものがある。

 

「……それじゃあ、そろそろあたし達の出番ね。……一夏。負けないわよ?」

「もちろん、わたくしも全力を尽くしますわ」

「ふむ、一夏。一番の障害はお前だ。全力をもってして勝ちに行くから、覚悟していろ」

「……負けない!」

「あははは……みんなやる気満々だね。僕もそうだけどさ」

 

皆が皆俺に意思表明をかけてくる。ののちゃんには少し前に貰った。

……こっちも手を抜く気は無いから、安心してくれていいよ?

 

「そうか。ならば良い」

 

全員がISを展開する。異様なくらいに速度を求められたISが、その姿を見せる。

 

鈴とセシリーとラルちゃんは原作とあまり変わっていないはず。ただ、細かい仕様の変更はあるだろうから、注意はしておく。

ののちゃんは胸部・腹部・腰部に追加の展開装甲が取り付けられ、さらに器用な行動がとれるようになっている。

シャルは会社から送られてきた新型の増設スラスターを両肩に二つ、腰の両脇に二つ、背中に一つの系五つ配置している。これも当然、千の顔を持つ英雄を使っているため壊れにくい。

そしてかんちゃんだが、どこからか大型のスラスターを持ってきて、背中と両肩に三基取り付けている。これだけあれば十分な加速と速度が得られるだろう。

 

俺の仕様は前に言った通り、特殊武装を二つとも封印してスラスターに全振り。さらに雪片も零落白夜を封印した状態で受けることを主体に使う。

 

……攻撃は、作戦が上手く行けばしないで済むからあんまり考えていない。上手くいかなかったら罠を張るし、ジェノサイドサーカスを使ったミサイル弾幕ならいつでもできる。

 

「みなさーん、準備は良いですかー? スタートポイントまで移動しますよー」

 

真耶先生のマーカー誘導に従い、スタート位置につく。俺は七人いる選手の真ん中に並んでいる。

 

『それでは皆さん、一年生の専用機持ち組のレースを開始いたします!』

 

大きなアナウンスが会場に響き、観客からの歓声がさらに大きくなった。

しかし、カウントが始まる段階になるとその声が一斉に小さくなる。

 

シグナルランプが点灯し、スタートの時間が近付いてくる。

 

三色のランプから青が消え、黄色が消え………赤が消えると同時に、弾丸より速いレースが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一周目、卑怯戦法

 

side 凰 鈴音

 

開始の合図と共にあたし達は一気に加速した。

 

ビンッ!

 

「ォフッ!?」

「ゴフッ!?」

「かはっ!?」

 

その直後にあたしのお腹から腰にかけてのあたりがぎゅっと締め付けられて急制動がかかり、がくんと手足が前方に投げ出されるような形になって止まった。

周りを見てみると、あたし以外も同じように急制動がかけられたみたいでその場に止まっていた。

 

よくよく見てみると、あたしを含んだ全員の体には、薄いくせに強靭な細布のような物が三本巻き付けられていて、それが後ろで固定されていたからシートベルトをつけている時の事故のようになってしまったらしい。

 

全員がそれを確認すると同時に、背後で轟音が響く。

全員がそっちに振り向く。その先では、一夏が太い釘のようなものを地面に打ち込んでいるようだっ……た?

 

……もう一度よく見てみると、あたし達を捕まえている細布は釘と一緒に地面に埋め込まれていて…………。

 

呆然としているあたし達の横をすり抜けて、一夏が先頭に躍り出る。

それからあたし達の方を向いて、にっこり笑った。

 

「ごめんね?」

 

それだけ言い残して、一夏は背中を向けて飛び去っていった。

 

会場全体が静寂に包まれて━━━

 

い……

 

「「「「「「一夏ぁぁああぁぁぁあぁっ!!!」」」」」」

 

あたし達は爆発した。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

箒は全身から出る攻性エネルギーの刃でその細布を切り刻んで脱出し、

 

「ええぃっ!」

 

シャルロットは新装備らしいナイフで細布を切り払った。

 

ラウラはビームエッジで細布を焼き切り、セシリアも同じように凝縮レーザーで焼き切る。

あたしは圧縮集束衝撃砲で力尽くでぶち破り、簪はなんと一部ずつISを解除することですり抜けた。

 

それぞれの方法で一夏の拘束を抜け出したあたし達は、一夏を追うために再度加速した。

 

バンッ!

 

「ブッ!?」

「ヘブッ!?」

 

そして、すぐに見えない壁にぶち当たった。

 

そこからのあたし達の行動は早かった。

まずあたしが衝撃砲で壁の一部に皹を入れ、ラウラがレールカノンでその穴を広げる。

その穴には箒がすぐに飛び込み、次の壁にエネルギーの刃を突き立ててすぐに退散。そしてシャルロットがグレネードで爆破し、簪が次の壁に薙刀を突き刺して下がり、あたしの衝撃砲で風穴を開ける。

 

透明な壁は三つで終わりらしく、後はひたすら加速を繰り返す。

 

どうやら一夏はエネルギーの節約を考えているらしく、一番燃費の良い状態で飛び続けているのがわかる。

……あれなら、ギリギリだけど追い付ける!

 

衝撃砲の口径をすぼめ、飛距離を伸ばして一夏の後ろ姿に撃ち込む。

セシリアとシャルロットも同じように攻撃するけれど、くるりと振り返った一夏の雪片に叩き落とされてしまった。

 

「……一夏さぁ……今、レーザー斬らなかった?」

「……グレネードも斬っていらしましたわね」

「……衝撃も叩き落としてたよね。剣で」

 

……やっぱり、一夏は千冬さんの弟ね。理不尽だわ。

まあ、あたし達も人のことは言えないんだろうけど。

 

「次々行くわよ!」

「言われずとも!」

 

衝撃砲とBTレーザーの雨を、衝撃は避け、レーザーは当たる前に叩き落としながら一夏は飛ぶ。じりじりと距離は縮まっているけど、このままだとちょっと足りないかも………。

 

「私も……やる!」

 

簪が突然二丁の荷電粒子砲を展開し、高速で連射する。あたしの衝撃砲とセシリアのレーザー、そして簪の荷電粒子砲の連射に、一夏は避けることを最優先にしているらしくどんどんと距離が縮まっていく。

 

…………あれ?

 

「……なあ、私はあまり勘には頼らない方なのだが……」

 

あたしがなんとなく嫌な予感を感じたのと時を同じくして、ラウラがポツリと呟く。

それはあたし達にはなんとか聞こえるくらいの声だったため、全員が僅かにラウラに意識を向ける。

 

「…………なぜか、凄まじく嫌な予感がするのだが」

「奇遇だな。お前もか、ラウラ」

 

箒も同じように呟くけれど、その理由がわからない。

だって、一夏のISに……シロに遠距離武器は…………

 

そこまで思い出したところで、恐らくあたし達全員の顔がひきつった。

理由? ここに来てみればわかると思うわよ?

 

だって、今まさにあたし達に向かって五百は軽く越えていると思われるミサイル発射口が開いているんだもの。

 

「……ああ、なるほど。私達が嫌な予感を感じるわけだ」

「ああ。反則レベルの勘を持つ鈴ならともかく、これを直接食らったのは私達だけだからな」

 

箒とラウラはなんだか虚ろな目をして言葉を交わしているけれど、別に諦めているわけではないらしい。

あの時の箒は訓練機だったし、習熟もいまいちだったけれど……今の箒は違うものね。

 

あたし達は、雨のように降り注ぐミサイルに向かって突貫していく。勿論、防ぎきれるだけの自信はある。

 

「ノルマは一人百発!できる限り潰すわよ!」

 

あたしは叫びながら衝撃砲でミサイルを落とす。隣ではセシリアがライフルから飛び出したレーザーを束ねて何発も撃ち抜いていた。

箒はまた全身の展開装甲からエネルギーを放出して今度は砲撃し、シャルロットは両手に大口径のショットガンを束ねて持ち、それでミサイルを落としている。

簪は相変わらず……と思ったら、一番効率よく数を落とせる所を正確に狙って荷電粒子砲で砲撃。誘爆で結構すごいことになっている。

ラウラはなんと、ワイヤーブレードをぶん回して大量に叩き落としている。あれ便利ね。

 

すべてのミサイルを叩き落としたけれど、その間に一夏は先に先にと進んでしまっている。

一気に追い付きたい所だけど、確かあれの後には馬鹿みたいな量のガトリング砲が待ってるのよね。

 

最初の二つ以来ダメージは受けてないけど、ちょっとあの威力のあの密度の弾幕に飛び込んでいくのは遠慮したい。

 

「……セシリア。ここから一夏だけを狙い撃てない?」

「…………避けられたり打ち落とされたりということを度外視すれば、可能ですわ」

「じゃあ、やって」

 

そのくらいやらなきゃ勝てないと理解したセシリアは、ブルー・ピアスとかいうライフルで一夏に狙いをつける。

 

そしてその直後に一夏を赤い光条が襲い、一夏が身をくねらせるようにしてそれを避けた。

 

セシリアのライフルからは、まだなにも発射されていなかったのに。

 

あたし達はすぐに一夏に追い付き、そして一夏に砲撃をかました闖入者に視線を向ける。

 

「……サイレント・ゼフィルス……!」

 

それは、少し前に亡国機業のISパイロットをあたし達の攻撃から連れ去った機体だった。

 

……とりあえず、リベンジと行こうかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闖入者、静かな……何?

 

突然現れていきなり俺に狙撃してきた相手を見上げる。骨格とかが中学生ぐらいのちー姉さんに瓜二つだ。

あと、顎の形とかそんなのもそっくり。なに? ちー姉さんのクローンか何か?

……まあ、そんなことは正直どうでも良いんだけど。

 

視線を動かさずに客席を見る。弾と蘭ちゃんは………よし見付けた。蘭ちゃんはたっちゃんに連れられて安全地帯に行ってて、弾はそれを確認して追っかけてるみたい。

……これなら、暴れても被害は弾と蘭ちゃんの方にはいかないだろう。

 

すぐに何が起きたのかを察したらしい鈴達が俺の近くに集結する。あんだけ足止めしといたのに、たった数秒分しか離せなかったか……予想以上に速いな。

 

「……で、なんの用だ? いきなり入ってきていきなり銃撃してくるなんて、知り合いのヤの付く自由業の鉄砲玉みたいだぞ?」

「こんなときにまで悪口は欠かさないの!? もう少しシリアスに」

 

そんなことを言った瞬間、目の前のIS操縦者はまた狙撃。しかも今回はビットも使った七発同時攻撃だ。

とりあえず危ないから全弾雪片弐型で叩き落とす。強度も耐熱性もかなりのもんだから十分使える。

 

ただ、相手の顔は少しひきつったように見えたけど。

 

「……そりゃあひきつりもするわよ。レーザーを剣で打ち落とすってどんな悪夢よ」

「現実と言う名前の覚めない悪夢ではないか?」

「ああ、それなら納得ね」

「納得しちゃダメだよね!? なんでそんなに落ち着いてるの!? さっきから思ってたけどおかしいでしょいくらなんでも!? なんでレーザーを、それも一発だけじゃなくて七発全部打ち落とせるのさ!? どんな反射神経と動体視力と機体性能さ!?」

「束姉さん謹製だから仕方無い」

「うむ、姉さん謹製だからな。仕方あるまい」

「きっとクロックアップとか体感時間をゆっくりにしたりとかもできるに違いないわね」

 

鈴はそんなことを言っているが、流石に時間操作は難しい。カタログスペックには載ってないし、きっと無理。

…………束姉さんだったら、隠し技とかそんなのでできるようにしそうだけど。

 

とりあえずそんな思考はどっかそこらへんに置いといて、ちょびっとイラついてるしさっさと追い返そう。

時間の無駄だし、これが終わればさっさと寝られるだろうし。

 

そう思うと、今度はこっちから青い光条が二本飛び、カカッと折れ曲がって目の前のISに襲いかかる。セシリーはどうやら更に一つ武装を展開したようで、両手に一つずつ長いライフルを持っている。

一つはさっきから持っていた【ブルー・ピアス】。そしてもう一つは、普段から装備している【スターライトmkⅢ】だった。

 

……ところで、俺はつい最近までこのスターライトmkⅢの【mkⅢ】の所を、『マジで空気読めない三号機』だと思ってたんだが……どうやら違うらしい。

 

「全然違うから!」

 

シャルのツッコミが入る。一番気が抜けてるのはシャルじゃないかと思ったんだが、シャルはシャルで88口径ガトリング砲を構え、臨戦態勢を整えていた。

 

セシリーのレーザーが当たる直前、サイレント・ゼフィルスは自分の側に控えさせていたビットからシールド状のレーザーの幕を張った。ここから見ていると、スプーンの裏に水道の蛇口から水をかけた時の水の膜みたいに見える。赤いけど。

 

「……やはりシールドビットを……。鈴さん、箒さん、ラウラさん、シャルロットさん、簪さん。多角攻撃を三組にわかれて波状攻撃しますわよ」

「……俺は?」

「逃走防止のための最後の一枚をお願いしますわ。わたくし達の中で最も機動力があるのは一夏さんなのですから」

 

……まあ、早く終わるんだったらそれでいいけどさ。

 

セシリーの腰から四本の光条が伸び、サイレント・ゼフィルスに向かって進路を変える。

同時に鈴が下から衝撃砲を叩き込み、片側の衝撃砲の進路をねじ曲げて背後から襲わせる。

 

その攻撃を、サイレント・ゼフィルスはシールドビットで受け止める。うまく流すように受け止めているため、サイレント・ゼフィルスのエネルギーはあまり減ってはいないだろう。

 

そこにシャルからの銃弾の雨が降り注ぐ。88ミリ弾頭は流石に堪えるらしく、凄まじい回避能力でシャルの弾丸を避け続けている。

当然避けきれずに被弾はしているが、直撃だけは綺麗に避けている事からもサイレント・ゼフィルスの操縦者の実力が伺える。

 

そんな中にののちゃんの砲撃が乱入し、不意を打たれたサイレント・ゼフィルスを飲み込んだ。

しかしサイレント・ゼフィルスはシールドビットを重ねてののちゃんのエネルギー砲を防いでおり、致命的なダメージは受けていない。

 

そこに二本の荷電粒子砲が突き刺さり、サイレント・ゼフィルスは今度こそよろけた。

サイレント・ゼフィルスの視線の先にはかんちゃんが居て、腕の下を通して砲門はサイレント・ゼフィルスを向いている。

サイレント・ゼフィルスは苦々しげな顔をして後ろ向きに飛ぼうとして……がくんとその動きが止まる。

その背後には眼帯を外したラルちゃんが、サイレント・ゼフィルスに向かって右掌を突き出していた。

 

「チェックだ」

 

そう言いながらラルちゃんは左手にプラズマブレードを展開し、サイレント・ゼフィルスに斬りかかっていく。

 

しかし、サイレント・ゼフィルスの操縦者はその上を行く。

 

サイレント・ゼフィルスの指先が僅かに動き、その手の中にあったライフルの引き金を引く。

するとそこから予想通りのレーザーが発射され、急角度で軌道をねじ曲げてラルちゃんの鼻先を掠める。ラルちゃんがそれに気付いて高速で後退していなければ直撃していただろうことは予想に難くない。

 

そして今まではシールドビットとしての仕事ばかりをさせられていたビットからそれぞれ一条ずつ、合計六条のレーザーが撃ち出され、その内二条がセシリーに。二条がシャルに。残りの一条ずつがかんちゃんと鈴に向かっていく。

 

同時にラルちゃんに向けてライフルを撃ち、ギリギリ避けられたレーザーを次の一撃を撃つ隙を狙っているののちゃんに向けて曲げる。

ののちゃんはすぐに射撃を中断してその場から離れ、穿千を格納して雨月と空裂を展開して、サイレント・ゼフィルスのレーザーを空裂のレーザーで打ち落とす。

 

……上手いなぁ。

 

そう考えながら俺はサイレント・ゼフィルスの操縦者の頭を片手で掴み、

 

 

 

おもいっきりアリーナのバリアに叩き付けるように突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闖入者、どこが静か?

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者の顔面をアリーナのバリアに叩きつける。急激な加速と衝撃になにをされたのかと一瞬呆然としていたサイレント・ゼフィルスの操縦者だったが、すぐに俺に叩きつけられたのだと気付いてライフルの引き金を引く。

 

ライフルの銃口から光が溢れようとしたその瞬間に、俺はサイレント・ゼフィルスを片手でバリアに押し付けたまま、高速で平行移動を開始した。

 

「あ……あぁぁああぁぁぁっ!?」

 

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!と激しい音を立ててシールドエネルギーが干渉し合い、火花に似たエネルギーが飛び散るのを無視して俺は更に速度を上げる。こんな状況でもライフルを離さないサイレント・ゼフィルスの操縦者には、ある意味尊敬の意を持ってしまう。

まあ、尊敬の意を持つのとこれは関係無いから引き回しは続くんだが。

 

アリーナのバリアを一周半したところで、徐々に下に降りていく。更に半周した時には、実体の壁が一部螺旋を描くように削られている痕ができてしまったが気にし

 

キュンッ!と横から飛んできたレーザーを避けるが、その時にサイレント・ゼフィルスの操縦者には逃げられてしまった。

どうやらサイレント・ゼフィルスの操縦者がビットを追い付かせて射撃したらしいが、あの状態で良くビットの操作ができたな。

 

俺から離れながらシャル達に牽制としてレーザーを放つサイレント・ゼフィルスの操縦者に視線を向けると、やはりと言うかなんと言うか、睨まれた。

 

だけどまあ、サイレント・ゼフィルスの操縦者の力量は凄まじいものがある。サイレント・ゼフィルスを上手く使っているし、荷物があったとはいえ極限まで速度に特化させたシロにビットを追い付かせるのは難しい。

それをやってのけるんだから、凄いよな。

 

…………でも、なんか少し悔しいような気がするな。

 

束姉さんの作ったシロが、何か他の物に追い付かれるってのは………なんか、悔しい。

 

そこで俺は、ずっと存在すら隠し続けていた秘密兵器のお披露目をすることにした。

ちー姉さんには怒られるだろうけど、それはまあ仕方無い。負けず嫌いなのは織斑家の家風なんだから、諦めてもらうしか無いだろう。

ちなみに、名前を覚えてもいないこの世界の両親も、俺の元居た世界での両親も負けず嫌いだった。

……うん、仕方無いな。悪いのはDNAだ。遺伝子が悪いんだ。俺にはどうすることもできやしない。

 

と、言う訳で実行だ。さっきガリガリ削ったお陰でアリーナのバリアの強度が心配だけど、まあ、なんとかなるだろ。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

……うむ。一夏の非常識さには慣れたつもりだったのだが、やはり一夏は私の予想など遥かに越える非常識なのだな。

私はそう考えながらサイレント・ゼフィルスを引きずり回す一夏を眺める。

結構な被害が出ているような気もするが、その辺りはなんとかなるはずだ。

 

気配を読みながらの見物はなかなか難しいが、今の一夏に加勢をすることほど難しくはない。

今の一夏には追い付けないし、射撃でサイレント・ゼフィルスだけを狙うこともできない。

このままならば放っておいてもサイレント・ゼフィルスのシールドエネルギーは削りきられてしまうだろうが、あれだけの攻撃を受けきったサイレント・ゼフィルスがこのままで終わるとは思えない。

 

それは全員が同じ感想を抱いているらしく、武装を解除している者は一人もいない。

 

そして、私達の予想を裏切ることなくサイレント・ゼフィルスは一夏の手から抜け出し、今は私達を全員同時に注意しながら退く頃合いを見計らっているようだった。

 

そこで、状況に変化が起きる。

バシュン!という音と共にシロの装甲が姿を消し、一夏が全身を被うだけのISスーツ姿になったのだ。

前に見たエネルギー切れによる消え方ではない。しかし、装甲が消えるというのはそれだけで重大な欠陥だ。

 

一瞬。私達が呆けていた時間はたったのそれだけだった。

その一瞬の間に、サイレント・ゼフィルスは一夏に銃を向け、邪悪に口元を歪める。

 

「死ね《・・》、織斑一夏《・・・・》」

 

サイレント・ゼフィルスはバイザーに隠れていない口からその言葉を紡ぎ……ゆっくりと引き金を引く。

……否。ゆっくりと引いたのではなく、私達の思考が早くなっているだけのようだ。

 

鈴が衝撃砲を展開し、射撃して当たるまで……この距離ならば0.3秒。セシリアが引き金を引くまで0.2秒。シャルロットが狙いをつけて弾をばらまくまで0.5秒。ラウラが最速で攻撃するまで0.4秒。簪の荷電粒子砲が発射されて当たるまで0.2秒。私の最速で一夏とサイレント・ゼフィルスの間に割り込みをかけるのに必要な時間は0.15秒。

そして、サイレント・ゼフィルスの撃ったレーザーが一夏を捉えるまでの時間は、およそ0.2秒弱。

 

ギリギリだが―――私ならば間に合う!

 

展開装甲を全て開き、全速力で一夏の前に飛び出す。流石にGがきついが、泣き言を言っている暇はない。

サイレント・ゼフィルスの持つライフルからレーザーの光が溢れようとした時、

 

「よいしょっと」

 

そんな気の抜ける声と同時に一夏の姿が消え、同時に金属質の何かが砕かれるような音が周囲に響く。

 

音の原因だと思われるサイレント・ゼフィルスを振り替えると、そこにサイレント・ゼフィルスの姿は無く、ISスーツ姿の一夏だけが浮いていた。

 

 

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