IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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闖入者、普通に五月蝿い

 

side シャルロット・デュノア

 

ISには、どれだけ仕様が違っても変わらない部分っていうものが存在する。

シールドエネルギーを発生させたり、現存するどんなコンピューターよりも演算力のあるISコアは当然として、ハイパーセンサーの感知系などがそれに含まれる。

 

……つまり、今僕たちの目の前で起きた事を見ることができた可能性があるのは、篠ノ之博士謹製のISを使っている箒と、左目のお陰で視力と動体視力の底上げがされているラウラのどちらかだけ。けれど、二人とも全く見えなかったらしくて目をぱちぱちとしばたかせていた。

 

……まあ、無理もないけど。まさかISが展開されていなかったのにあの速度で動ける上に空を飛んでるなんて誰も考えないって言うか人間にはいくらなんでも無理だよねそれ!?

一夏だからできそうって思っちゃったけどいくらなんでも無理だよね!? って言うかなんで出来そうって思ったの僕!?

 

ぶんぶんと頭を振ってある意味怖い考えを追い出した頃には、サイレント・ゼフィルスの姿がどこにあるかを簡単に知ることができるようになっていた。

サイレント・ゼフィルスは、アリーナのシールドバリアに叩きつけられていて、そのシールドバリアもかなりボロボロになってしまっている。

その上、口の中を切ったのか口の端から血を流している。

 

……いったい一夏は何をしたんだろう? どうしてIS無しで空を飛んでいるんだろう?

いくらシロが速いって言っても、ここまで速いって言うのは普通あり得ない。

 

なぜなら、あそこまでの加速力だと乗っている人間の体が耐えることができないから。

そのためにPICがあるんだけど、それでも打ち消すことができる限界はある。一夏のやった動きは確実にやっちゃあ駄目な動きだ。死んじゃってもおかしくない。

それなのに一夏は普通に動いて、平気な顔をしてそこに浮いている。

ISのことを知っているからこそ、目を疑う光景だ。

 

「……何をした」

 

サイレント・ゼフィルスの操縦者が、苦しげに一夏に話しかける。距離はあるけど、ISのお陰で聞こえないことはない。

その言葉に一夏は、特に気負った風もなく言う。

 

「蹴った」

「軽く言い過ぎ!」

 

なに蹴ったって!蹴ったってなに!軽すぎでしょ!

 

「じゃあ、速く近付いて蹴った」

「僕が言いたいのはそう言うことじゃあなくってねぇ!?」

「まあまあ、細かいことは後で説明するからさ」

 

そう言われたら、僕に反論することはできない。なんだかんだ言っても一夏は僕の恩人だし、僕は一夏が好きだからね。

……なんで一夏に言わないかって? 鈴達とは違って恥ずかしいっていう気持ちがあるからだよ。

簪みたいに勇気がある訳じゃないし………僕ってばダメダメだね。

 

無言で睨み合う一夏とサイレント・ゼフィルスの操縦者。片方はボロボロになったISを纏い、もう片方はスーツだけでISを使っていないという二人は、なんだかとってもおかしく見える。

 

「……大変なことに気付いた」

「っ!? どうしたの!?」

「……もしもここでこの……………名前がわからないから少女Sとしとくが、少女Sを捕まえた場合……確実に事情聴取とかでこの後の予定がまるごと吹っ飛ぶような気が……」

 

一夏がそこまで言った途端に、上空から轟音が響く。

音のした方を見てみると、原因はわからないけどアリーナのシールドバリアが破られていた。

 

「わーたいへん、てがすべってありーなのしーるどばりあにあなあけちゃった~。そのうええねるぎーをつかいすぎてにげられてもおいつけないわー」

「あらたいへん、それではわたくしがかわりに……あら、てをすべらせてらいふるをおとしてしまいましたわ」

「わざとらしい!わざとらしすぎるよ二人とも!?」

 

なんだかサイレント・ゼフィルスの操縦者の方から憐れみの視線を感じる。

み……見ないでっ!僕をそんな目で見ないでぇぇぇっ!!

 

僕が悶えている間に、サイレント・ゼフィルスはアリーナのシールドバリアに開いた穴を通り抜けて逃げていってしまった。

けれど、誰も追いかけようとはしない。みんな一夏の誕生会の方が重要だと当然のように思っているらしい。

 

……これって、おもいっきり私情だよね? 代表候補生なのに…………。

 

「ばれなきゃいいのよ。ばれなきゃ」

「……いや、いくらなんでもまずいって!?」

「はいはい、ほんとは不味いってわかってるけど……一夏が楽しそうだからあたしは構わないわ」

 

鈴が構わなくっても僕は構うんだけど……。

 

…………はぁ。もう考えるの疲れてきたや。やーめたっ。明日の朝まで細かいことは気にしないでおかないと、そろそろ頭が大変なことになっちゃうや。

 

そうだね。楽しいことを考えよう。これから一夏の家で誕生会だけど、どんな感じになるのかな~?

 

「……なんだか……色々危ない状態……」

 

簪の声が聞こえた気がしたけど、気にしなーい♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生会、その前に説明

 

サイレントゼフィルスを追い返した後、俺達はピットでのんびり

 

「さあ一夏。説明してもらうよ? さっきのはいったいなんなの?」

 

……は、していなかった。シャルが随分問い詰めてくるから。

 

「そうね。なんだかこれについてはしっかり話を聞いた方がいい気がするわ」

 

そして今回は鈴も問い詰める側に回ってしまった。シャルだけだったらともかく、鈴と一緒に誤魔化すのは無理だなぁ。

……仕方無い。誤魔化し無しで話すか。後が怖いけど。

 

「じゃあ、聞きたいことがあったら質問をどうぞ」

 

そう言うと、シャルと鈴から次々に質問が飛んできた。

 

「どうやって生身で飛んでたの?」

「生身じゃなく、クロをISスーツ型にして着てたから」

「どうやってあの速度を出したの?」

「シロの三つの特殊武装の最後の一つを使ったから」

「特殊武装の詳細を求むわ」

 

……うん、これが怒られる原因だから話したくないんだけど……。

 

「秘密じゃダメ?」

「駄目よ。なんだかこれについてはしっかり聞かなくっちゃいけない気がするの」

「そうだな。その話になった瞬間に一夏の気配が僅かにぶれたからな。なにかしらの後ろめたい隠し事があるのだろう」

「さあ、話して一夏」

 

……しょうがないな。

 

「……詳しい理論は解らないんだが、速度特化のシロを更に速度特化させる秘密兵器。装甲を捨てて軽くして、シールドエネルギーを機動用のエネルギーに変換して、そのまま動くってやつ」

 

ギンとの戦闘の時に、機動用エネルギーが無くなってシールドエネルギーが過剰に増えていたのは、この特殊武装を逆向きに使われたせいだ。

……わかる人にわかりやすく言うと、リリカルな魔法使いの三期の死神さんが使ったライオット。防御をギリギリまで削って速く動くっていう。

 

ちなみに、装甲すらもの質量分のエネルギーに転換するため、一度使うと暫くまともには使えなくなってしまう。

エネルギーから装甲を編み直し、回復していく分のエネルギーも装甲の修復に当てなければならないため、最低でも三日は使えない。

……サンライトハート改やののちゃんの協力でエネルギーを供給し続ければ、三分くらいで行けたりするけど。

 

「…………つまり、一夏はあの時装甲もシールドエネルギーも無い状態であんな無茶をやらかした、ってことね?」

「そうなるね」

 

まあ、実のところ防御力自体はシルバースキンを重ね着した方が強いから生身の方がいいんだけど。

それに、生身だとIS装備中は使えない帝国九七式破城鎚型魔導手甲とか斬艦剣とかピーキーガリバーとかソードサムライXとかを使いたいだけ使えるからある意味では楽なんだけど。

 

「………はぁ………………」

 

鈴は溜め息をつくと、ポケットから携帯電話を取り出した。そしてそのまま流れるようにボタンを押して、誰かに電話を掛ける。

 

「……あ、弾? 一夏がまたやらかしたから、ちょっとピットまで来てくれる? ……そう、またやったのよ? ………速くね」

 

ピッ、と電子音を発してから電話が切れる。

 

「……ねえ一夏。馬鹿なの?」

「酷いな。生き残る自信があったからやったって言うのに、それは酷い」

「馬鹿よ馬鹿。そんな動いただけで普通死ぬようなことを何でやったのよ」

「実は俺、生身でグレネード食らっても平気だったりするからそれやっても大丈夫だろうと思って束姉さんに依頼した。束姉さんはシロの取り扱い説明書にしっかりその事も書いといてくれたから、悪くないよ?」

「今の人間とは思えない発言はスルーするとして、もっと自分の体を大事にしなさい。そういうのが周りに知られたら大変なことになるかもしれないのよ?」

「そうだぞ一夏。俺たちならともかく、どこぞの国の研究者にでも知られてみろ解剖されて標本にされるかもしれないんだぞ?」

「……ごめん」

 

あっれぇいつの間に五反田さんがここに!? というシャルの叫びはスルーして、俺は鈴と弾に頭を下げる。謝るべきところで謝れるのが俺だ。

 

まあ、相手によるけど。エムさん相手だったら絶対謝らないし。

 

「ごめん」

「……いい? 危ないことは控えること。あたしから言えるのはこのくらいよ。……千冬さんのお説教が待ってるし、このくらいにしといてあげるわ」

「……そう言や俺ってここに居ちゃ不味いんだったな。また後でな~」

 

……そうだった……ちー姉さんのお説教があるんだった……。

 

「……まあ、覚悟を決めなさい」

 

鈴が親指で指した先には、腕組みをしたちー姉さんがいた。

 

……………やっぱり、行くのは少し遅くなるかも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生会、本番

 

ちー姉さんにかなり本気で怒られ、俺は現在すっごい疲れている。

……いやまあ確かに俺が悪いんだけど。珍しくかなり本気でひっぱたかれたし泣かれちゃったし。

よっぽどの事がない限り使わないと約束させられた。まあ、あったら使っていいんだし、俺も疲れるからあんまり使いたくないし、別にいいんだけどさ。

……あの状態でライドインパルス? 走っただけで普通は死ぬし、やっぱり疲れるからあんまりやりたくない。

 

そんなこんなでちー姉さんからのお説教も終わり、今は俺の家で誕生日パーティーを開いている最中だ。

 

メンバーは俺といつもの六人。そして弾と蘭ちゃんとカズの中学時代の友人たち。なぜかそこにIS学園生徒会のメンバー三人が入り、いつの間にか束姉さんが参加している。

原作では束姉さんがいない代わりに誰かがいたような気がするんだが……まあ、いいか。

 

ちなみにちー姉さんと真耶先生は結構忙しそうに働いていたが、市街地戦闘をしていないだけ原作よりましだったろうと思っている。

俺も取り調べを受けはしたが、ちー姉さんのお説教の時間を除けば15分くらいで解放された。他のみんなもそのくらいの時間で解放され、先に誕生会の準備をしてくれていた。

 

ちなみに、俺の誕生日会は一日泊まって家に帰るまでが誕生日会らしい。いつの間にかそういうことになっていた。

 

まあ、そんなことは別に良いとして……今はこれを楽しむとしようか。ちょうど腹も減ってきた所だったし。

お説教とかそう言うので昼は食べてないんだよな。

 

「はいラーメン。花嫁修行の一環で作れるようになったのよ。ご賞味あれ♪」

 

タイミングよく鈴がラーメンを出してくれた。考えてることがわかるとかそういうのも凄いが、こうしてそれ以外の予測も使って色々行動できるってのは優秀な証拠だよな。

 

「ありがと。喜んでくれたなら嬉しいわ」

「束姉さんも色々用意してきたよ!簡単なのばっかりだけどね?」

 

そして束姉さんがなぜか持っていたおかもちから、次々に料理が出てくる。常識的に考えておかもちに入る量じゃないし、種類が和洋中と……どこの料理だ? と聞きたくなるような料理も混ざっていた。

いや、美味しそうなんだけどね?

 

とりあえず延びると美味しくなくなるラーメンから食べ始める。魚介系の塩味が美味い。どうやら麺だけじゃなくスープもチャーシューも手作りらしく、やけに俺の好みに合う。

 

「久し振りに作ったけど、まだまだ衰えてないみたいね。よかったわ」

「む? これは私達の分か?」

「わぁ、美味しそう……!」

 

鈴は当然のように台所から小さいラーメンを持ってきて全員の前に並べた。確かに俺だったらともかく、ののちゃんやかんちゃん、蘭ちゃん達が一杯食べた後に追加で食べられるとは思えないし、いい判断だと思う。

 

ちゅるるる~、とラーメンを食べ終わった俺は、次に束姉さんの料理に手を出した。味か想像できないものからおよその想像がつく物まで、まさに選り取り見取りだ。

適当に一番近いところにあった料理を小皿に取り分けて、口に運ぶ。

 

……うん、辛い。でも美味い。これ子供泣かせな料理だ。

始めはかなり辛めで、少し経つと辛味が一気に消えて美味いのが口に残る。辛いのに美味いから止まらない。流石束姉さん、神算鬼謀は料理にまで役立つんだな。もうこれは一種の才能だよな。びっくりびっくり。

 

「束姉さんは天才だからね!」

「天災?」

「外れてはないかな?」

「……流石姉さん、やはりまだ修行が足りないか…………」

「う……辛いのに……辛いのに…………」

 

束姉さんの料理は好評で、どんどんと数を減らしていく。

もちろん辛くないものもあるから、辛いのがどうしても嫌な人はそっちを食べている。

 

そして、辛くないのもやけに美味い。

基本的にちー姉さんが苦手なところは得意で、ちー姉さんが得意なところはそこそこ苦手って言うのが束姉さんだし……まあ、ちー姉さんの料理の腕を考えればこのくらいはできて当然……かな?

 

「最近は束姉さんが作ることも多いからねー。頑張ってみた!」

「流石は【お母さん】だね?」

「……一応、何で知ってるのか聞いてみていい?」

「俺だから」

「いっくんだからか。ならしょうがない」

「仕方無いわね。だって一夏だもの」

「ああ。これは納得するしかないな」

「………ツッコむよ? いいね? ツッコむからね? ……………何で納得しちゃうのさ!? って言うか箒は自分のお姉さんにいつの間にか子供ができてることを当然のようにスルーしちゃってるの!? ここは普通ツッコむ所でしょ!? 相手は誰とかいつ子供ができたのとか臨海学校の時にはお腹膨らんでなかったよねとかさては一夏の寝込みを襲ったなパルパルパルパルとか色々!それなのに何で普通に受け入れちゃってるのあり得ないよねどうして僕ばっかりツッコミなのこのままじゃ僕の死因はツッコミ過ぎによる過労死かストレス性胃炎からの胃潰瘍が進化した胃癌とかそんなんになっちゃいそうなんだけどどうしてくれるのさ!? 僕に死ねって言うの!? たまにはツッコミ変わってよ僕だってツッコミたくてツッコんでる訳じゃないんだからいつだって変わってあげるよだからお願い助けて一夏!!」

「……シャルロットは時々わかりにくいボケをかますな。必死すぎて笑えん」

「仕方ないだろうラウラ。シャルロットはかなり本気でかつ必死なのだ。自分の胃の安寧のためには避けては通れない道なのだよ」

「わかってるんだったら助けてよ!?」

「………大丈夫……私は味方だよ……?」

 

かんちゃんがシャルの頭を抱えるように抱き締めた。なんと言うか、子供が自分より小さい子供を優しく宥めているようにも見える。

 

……うん、可愛い。シャルもかんちゃんも可愛いなぁ……。

 

「………」

「……? お姉ちゃん……? 何で……」

「簪ちゃんが可愛すぎるからよ。可愛い簪ちゃんを撫でない理由はないわ」

 

……先を越された。まあ、いいか。

 

 

 

 

 ~その頃のマゾカさん~

 

ひゅるるる……と秋風が吹く中で、織斑家の玄関が見える位置に少女は居た。

こっそりと近場のビルの屋上に身を隠しながら織斑家の玄関を眺めている。

少女はずっと黙っていたが、ふと自分の体を抱えるような体勢をとった。

 

「……今日は冷えるな………」

 

その言葉は、誰にも届くことなく虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生会、終幕

 

八時前にすべての片付けを終わらせ、八時には布団に入る。異様に大きなベッドだから、12人くらいは一緒に寝れる。

広すぎって? 実はここは俺の部屋じゃなく、俺の部屋のドアに入り口を作ったアンダーグラウンドサーチライトの中だったりする。

そうしないと流石に全員は入らなかったから、苦肉の策だ。ちー姉さんはまた勝手に入ってこれるだろうけど、普通の人間じゃあ無理だ。

 

ちなみに、寝ない子には『どんな子供でも寝たくなる無限エクスカリバー』を使うと脅迫したら、大半は布団に入ってくれた。

布団に入らなかったたっちゃんにはアリス・イン・ワンダーランドで幻覚を見せて、『……パトラッシュ……なんだかとっても眠いんだ…………』状態にしてからベッドに放り込む。

まあ、明日の朝には治ってるだろ。多分。

 

ちなみに虚《うつろ》さんは弾の隣で顔を赤くして小さくなってる。メールアドレスとかも交換したようだし、弾にも春が来たってことでいいのかね?

 

「弾の春はとっくに来てるわよ? 相手は一夏だったけど」

「そうなの?」

「おう。初恋の相手が男ってのは自分でもちょっと不味い気がしてたんだが………まあ、一夏相手だったらいいかと」

「俺も、相手が弾なら男相手に抱かれる側に回ってもいいと思ってる。カズもまあ、いいんじゃね?」

「あ゛~……つっこみすぎて喉が痛い………」

 

がらがら声でシャルが呟くが、つっこみは飛んでこない。喉が痛いせいか。

まあ、あれだけ全力で叫びながらツッコミを続けてたら喉も嗄れるわなぁ……。

 

「……………………」

 

シャル は 無言の重圧 を はなった!

 

一夏 には 効果は ないみたいだ……。

 

鈴 の 抱きつき!

 

きゅうしょ に あたった!

 

効果は いまひとつのようた。

 

一夏 の こうげき!

 

ぷちか召喚!

 

こうかは ばつぐんだ!

 

「ぅー☆」

「ぷぱっ!?」

 

シャル は 動かなくなった!

 

一夏 は シャル を ベッドに 引きずり込んだ!

 

……お休み。

 

 

 

夢を見る。なんだか薄ぼんやりした霧が漂い、鏡映しの影が見える。

 

一人は俺、織斑一夏。もう一人も俺、桜道一哉。

どっちも俺であるせいか、鏡映しで同じポーズをとって寝ている。

 

どちらも気持ち良さそうに寝ているが、それを眺めていてふと思う。

 

……俺って、いったいどっちだ?

 

…………まあ、いいか。どっちでも。

 

鏡映しの二人の間に滑り込み、俺はそのまま寝始める。考えるのとかもう面倒すぎる。

正直に言って、こんなことを考えるなんて俺らしくない。俺らしくなさすぎて蕁麻疹が出てきそうだ。痒い痒い。故に俺はさっさと寝る。夢の中だろうが関係無い。夢を見ているってことは脳が働いているってことだし、経験もあるから問題ないはずだ。

 

 

 

  ~その頃のマゾカさん~

 

「にゃ~」

「…………」

 

じーーーーー。

 

「にゃ~」

「………………」

 

ひたすら猫と見詰め合っていた。

 

 

 

 

 

ふと、目が覚めた。俺にしては珍しいな……と思いつつ、体を起こす。

腰の辺りに抱きついているかんちゃんを剥がし、足にぴったりとくっついていたセシリーを剥がし、するりとベッドから降りる。

………なぜか、妙に目が冴えている。前世でもたまにあったんだが、こっちではもう4年くらいはこうなってない。

 

こうして目が冴えている時には、なぜか色々なことが起きる。むしろ、色々なことが起きるのを体が予測して勝手に起きてんじゃないの? と思えるほどだ。

 

靴を履き、夜の町に歩き出す。狙われそうな気がするので、服装はシルバースキンの重ね着だ。

職務質問されることもあるが、俺が顔を見せると何事もなかったかのようにスルーされる。

まあ、実のところこんなのを着込まなくても普通に身体能力が並みじゃないから問題ないんだが。グレネードを至近距離で爆破されても問題ない体だし。

だからと言ってそれがバレるのはなんか不味い気がするから、シルバースキンでカモフラージュ。今までバレたことはない。

 

……さて、夜の散歩は久し振りだな。前回は麻薬をどこからか持ってきてばらまいてた不良グループをいくつか潰して、それから裏をとって知り合いのヤのつく自由業の人達にお願いしたんだったか。

警察の方には色々手を出して引っ掻き回してやったから、全くバレていなかった。

今回はいったいどんな事件が起きるのやら?

 

 

 

  ~その頃のマゾカさん~

 

 

「……む、ようやく動くか」

 

織斑家の玄関をずっと張っていた少女は、漸く目当ての人物が一人で行動する場面に当たった。

 

「にゃ~」

「……済まないが、ここで別れだ、にゃーたん」

 

そう言って少女は抱き抱えていた猫を放し、静かに目当ての人物を追いかけて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の散歩は、危険いっぱい

 

夜の町をあてども無く歩く。毎回一晩限りの騒動が起きるんだが、今回はどうも静かだな。

そんなことを思いつつ、自動販売機に野口を一人突っ込んで適当にボタンを押す。

がこん、と音を立てて出てきたのは………秋茄子サイダーチーズおかき風味。味の予想がつかなさ過ぎる。

ついでに当たり付きだったらしく、もう一本選べるらしい。次はまともにホットココアを選んだ。

 

暖かいココアは寝る前に良いんだ。家にあるけど。

 

ココアの缶を開けてくぴっと一口。砂糖が多すぎる気がするが、料理では引き算はできないから仕方無い。

くるりと振り返って元来た道を歩き出そうとすると……そこに人影を見つけた。

なんだかちょっと寒そうにしてるが、その辺りは気にしない方がいいのだろうと思って流す。

 

それに、この娘さんは多分例の……サイクロン・ジョーカー? ……の中の人だし、からかえそうならちょこちょこからかうが、からかえそうにないならさっさと帰ってもらう。

………原作的に考えて、からかえそうに無いけど。

 

「…………あ、ココアいる? 寒そうだし」

「……もらおうか」

 

あ、貰っちゃうんだ。へー。

……なんかちょろそうな匂いがしてきたような気がするのは気のせいか? もしかして……ニックネームをちょろかに変えなきゃいけないフラグ!?

 

そう思いつつ……どっちで呼ぶべき? マゾカでいい? ………マゾカにしとくか……マゾカにかなりいっぱい入ったココアを渡す。

それを両手で受け取ったマゾカは、ちびりちびりとココアを飲んでいく。

時々

 

「あつっ」

 

とかいう悲鳴に似た何かが聞こえるのは気のせいではないと思う。

……猫舌なのかもな?

 

ふーふーと息を吹き掛けながらココアを舐めるようにして飲んでいるマゾカは、なんと言うか小動物的だった。どこでこんなにぶっ壊れたんだろうな?

 

千の顔を持つ英雄で薄いマグカップを作り、マゾカが持っているココアを移す。こっちの方が冷めやすいからな。

 

しばらくしてからちょうどいい温度になったようで、マゾカは僅かに湯気がたつココアを一気に飲み干した。

 

「……ふぅ……」

「……で、何の用だ? 亡国機業のドM」

「ふ……気付いていたかって違う!誰がドMだ!」

 

あ、この子凄い純粋だ。良いか悪いかは置いといて、純粋だ。

ノリツッコミができるのは純粋な奴くらいだし。シャルとか。

 

「私はMではない!私は織斑マドカだ!」

「え? 織斑マゾカ?」

「そうだ織斑マゾカ違う!!」

「どっちだよ」

「マゾカではないマドカだ!」

「わかったわかった、マゾカなんだな」

「違うと言っているだろう!」

「自分の顔をナイフで傷付け、ナイフに付いた血を恍惚の表情で舐めとるような奴がマゾじゃなくて何? 名は体を表すって本当じゃないか」

「バカな!? なぜそのことを知っている!?」

 

カマかけただけなんだが………マジでやってたのかこのドM娘。

 

「もうマゾカで良いだろ。はいけってーい」

「訂正しろ!私はマゾカではなく」

「うるせえマゾ。深夜だぞドM。騒ぐな被虐体質。喧しいんだよ興奮するな」

「わかった呼び名はマゾカでいい。マゾカでいいからせめて名前の原型くらいは残して呼べ!!」

「なんだやっぱりただのマゾか」

「…………ッ!!」

「……ちゃんとマゾカって呼んだろ。何が不満だ?」

「全てだ!」

 

……まったく、我儘なマゾだ。地獄の九所封じでも喰らってしまえ。弾なら地獄のメリーゴーラウンド以外は再現できるからお願いしてみたら?

流石に弾は生身でダイヤモンドの硬さはないが、アレを使えばかなり硬くなるし。具体的には某男爵様の鎧にシルバースキンをコーティングしたやつなんだけど。

ミサイル食らっても全く問題ない。レーザー食らっても大丈夫。ただし攻撃能力はそんなにない。背中のガン・ザックを使って突貫するくらいだ。

まあ、それでも防御能力はそこらのIS以上にあるから使いようはある。主に鎧として。

それ以外に移動用としても使えたりするが、そんなに使われてはいないらしい。

だから、悪いけど今回は色々あるから手は出さないで欲しいかな。

 

……ちなみに待機形態は蘭ちゃんにあげた腕輪と同じような腕輪。ただし色は蘭ちゃんにあげたような赤銅色ではなく、赤錆色とも言えそうな鈍い赤。

まあ、蘭ちゃんはあれで結構ブラコンだからお揃いっぽくしても良いと思ってやった。後悔は一切していない。

 

「……まあいい」

「呼び名はマゾでいいのか? だったら」

「それはよくない。最悪でもマゾカと呼べ。出来ればマドカだ」

「じゃあマゾカで」

「それでいい……いや本当はよくないが、もういい」

 

これでいいらしい。まったくマゾカはマゾだな。Mだな。流石コードネームがMなだけある。

 

「そう言えば、マゾカってちー姉さんに似てるけど、クローンか何か?」

「……いや。私はお前だ、織斑一夏」

「あっそ」

「………………それだけか?」

「おう」

「……はぁ………まあいい」

 

もしかして、マゾカの口癖は『まあいい』だったりするんだろうか? どうでもいいけど。

 

ちゃきっ、とセーフティを外しながら、マゾカは俺に拳銃を向ける。

 

「私が私たるために……お前の命をもらう」

 

マゾカはすぐさま銃の引き金を引く。

パァン!という軽い銃声が夜の町に響き渡り、拳銃が小さな弾を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の散歩は、これでおしまい

 

パァン!と銃声が響いた直後、ギィン!と硬いもの同士がぶつかり合ったような音がした。

まあ、シルバースキンに銃弾がぶつかって弾かれた音なんだけど。

 

「……やはり、この程度では傷ひとつ付けられんか。」

「俺って一体なんだと思われてんだ?」

「化物に決まっているだろう。あの速度を出して生きていられるというのもそうだし、その速度の中でまともに動けているところもそうだ。現に今も、銃弾を弾いただろう」

「いや、弾いたのは防護服のお陰だから。いつも着てる防護服のお陰だから」

「……そうなのか? 生身ではないのか?」

「化物扱いはわかったけど、俺ってどこまで化物だと思われてるんだよ?」

「素手でISに勝てるかもしれない唯一の人間だと聞いたのだが……」

 

多分それはできる。乗ってる相手と機体にも依るが、多分できる。

………ついでに、生身じゃないが男爵様モードの弾と、いかれた(イカれたのか怒れたのかは、自分で判断してください)ちー姉さんだったら勝てるかもしれない。なんとなくそんな気がする。

この世界の人間はそこそこまともな人間しかいないと思ってたんだけどなぁ…………精神面はともかく、肉体面は。

 

「……とは言え、流石にそれは言い過ぎだと思っているがな」

「まあ、普通はそうだよな」

「ああ」

 

どうやらマゾカはそこそこ常識と言うものを持っているらしい。

マゾなのに。

 

「……どうやら私ではお前を殺せないらしい。私がISを展開したら、お前も使うのだろう?」

「勿論そのつもりだ。正当防衛立証のために全力で叩き潰して【『ぬ』のハンカチ】の刑に処してやる」

「…………なぜだ。内容が一切わからないのに、凄まじく嫌な予感がする」

「まあ、前にちょっとやってみたら、二時間後にはトラウマができていたな。黄色地に黒で小さく『ぬ』と大量に書いてあるハンカチに」

 

ちなみに内容はエクスカリバーと同じようなもの。ただし、大量の天の助が両手に『ぬ』のハンカチを持ってひたすら「『ぬ』の、ハンカチィ!!」と叫んではハンカチを投げ付けてきて、失敗してもしなくても最後には『ぬ』のハンカチに埋もれて死ぬ。

埋もれて一度(幻覚で)窒息死したら最初からやり直し。またひたすら『ぬ』のハンカチを投げつけられる。

 

…………そりゃトラウマにもなるわな。

 

「……あ、帰りたいなら帰っていいよ? 正直に言って、あんまりやる気ないし」

「そうか。ならば帰らせてもらうが………覚えておけ? 私はいつでもお前を狙っているぞ?」

「性的な意味で?」

「そうそう風呂場や寝室では気を付けろって違う!!」

 

……うん、この娘原作が一番あてにならないキャラだ。なんでだろうな?

 

「まあ、気にすんな。……そうそう、マゾカのところにエムさんいるだろ?」

「……エムは私だ」

「………やっぱりMなのか」

「コードネームだ!!」

 

そういう事をこんなところで大声で叫ぶのは辞めといた方がいいぞ? 年齢も合わさって中二臭くて仕方ないから。

 

「……あー………巻紙礼子って名乗って学園祭に来た奴に、『お前の頭の中の声の大半は俺が流してる。ざまあm9(^Д^)wwwww』って伝えといて」

「……ああ、だからあいつはずっと虚空に叫んでいたのか……わかった」

「しっかり『wwwww』まで伝えてくれよ? 明らかに見下した感じで、かつ嫌みっぽく、そしてムカつく半笑いで」

「…………難しいな……こうか?」

「そうそうそんな感じで。ただ、手はこうやってわざわざ少し高めに構えて、指を附角にして……上手い上手い」

 

しばらく授業的なことをして、俺とマゾカは別れる。

さっきの言葉のついでに、さっき買った要らないジュースも押し付けた。ちょろータムにでもやればいいと言ったら、割と普通に受け取った。

 

ISを展開して飛んで帰ったマゾカが見えなくなったのを確認してから俺は家に戻る。明日は振り替え休日だし、眠気も出てきたからゆっくり寝るかねぇ……。

 

 

 

 

 

side ちょろータム

 

「おい待て!? なんでここで私なんだよ!? ここは普通あのクソガキだろうが!!」

「喧しいぞ、エムさん」

「ぶっ殺すぞクソガキ!!」

「そうだったな、今はちょろータムだったな」

「殺す!!」

 

ちょろータムは少女に飛び掛かる。しかし所詮ちょろータムはどこまで足掻いてもちょろータム。少女にあっという間に床に押さえ付けられ、みすぼらしく床に這いつくばったまま少女にねめあげるような視線を向けることしかできなくなった。

だっせ~(笑)

 

「うるっせえんだよてめえも!ぶっ殺してやろうか!? あ゛あ゛!?」

「……そうだ、お前に伝言がある。……織斑一夏からだ」

「あぁ!?」

 

無様に惨めに這いつくばっているちょろータムに、少女は見下したような視線を向け、指差す。

 

「『お前の頭の中の声の大半は俺が流してる。ざまあm9(^Д^)wwwww』……だそうだ」

「…………あ゛?」

「聞こえなかったのか? 『お前の頭の中の声の大半は俺が流してる。ざまあm9(^Д^)wwwww』だ」

 

繰り返されたその言葉に、ちょろータムは額に青筋を立てる。小者臭がぷんぷんするなぁ……。

まあ、仕方無いか。小者だし、ちょろータムだし。

 

「殺すっ!殺してやるぞっ!織斑一夏ぁぁぁあぁぁぁっ!!」

「精々頑張れ、ちょろータム」

「まずはてめえからぶっ殺す!」

 

どったんばったん。がしゃんぱりーん。パァンパァン!ズキュゥゥゥン!デロデロデロデロデロデロデロデロデロ………………。

 

……亡国機業。本当に大丈夫か?

 

「大丈夫だ。問題ない」

「よそ見してんじゃ」

「食らうがいい、これがロメロ・スペシャルだ!」

「ぎゃあぁぁぁああぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の散歩の、裏のお話

 

side 五反田 弾

 

一夏が目を覚まして外に出掛けた瞬間に、俺は一夏のベッドから静かに起きる。

全員を起こさないように注意しながらすり抜けるようにベッドから出て、一夏の後を追いかける。

 

いつもだったら鈴は起きるんだろうが、今日は色々あって疲れているせいか、起きる気配が全く無い。

まあ、いきなり襲撃されて、一夏がなんか見えないほどに動き回って心配して、それから料理を作って飲んで(酒じゃないことを明言しとく。じゃないと千冬さんに殺されそうだ)騒いでようやく寝たところだし、仕方無いけどな。

 

一夏曰くの『男爵様の鎧』を装備し(これISじゃね? と思ったが、違うらしい。どこがどう違うかと言われると困るが、違うそうだ)、背中のガン・ザックで空を飛ぶ。

ガン・ザックはロケットっぽい構造をしているのに、異常とも言えるくらいに静かだ。

これはベルトの前部にあるスイッチ一つで火が入り、俺の体とこの鎧を上空に打ち上げることができる。左右の出力の変化で旋回とかそういうのも可能。

ついでに、飛ぶ時にはそのガン・ザックから翼が飛び出て機体制御を楽にしてくれたりもする。

 

そのまま銀色のコートを着た一夏を静かに追いかける。

すると、下に一夏の後を追いかける小さな影が見えた。

 

………あの影の骨格……重心………乱入してきたあのIS乗りじゃねえか!

 

すぐにその場に行こうとしたが、一夏に一瞬視線を向けられて牽制される。

大丈夫だからと伝えられたが、それでもやっぱり心配なものは心配だ。

……って言うか、バレてたんだな。邪魔だったか?

 

……まあ、今は一夏を信じて待機しとくか。

 

 

 

……落ち着け落ち着け。一夏が撃たれたからって怪我したわけでも無いんだし、一夏自身も気にしてないみたいだし、俺が気にすることではないと理解しているんだが………普通に考えて、理性と感情がそんなに簡単に一致するわけ無いよなぁ?

 

一夏に銃撃しておきながら平然と逃げている女に、最高速で突貫する。

漫画の悪役のように馬鹿みたいに声を上げながらではなく、静かに素早く拳を叩きつけようとしたが、それは寸前で気付かれてしまい、避けられた。

 

「く……なんだ貴様は!?」

「お前が気にすることはない。無様に惨めに敗北し、生き恥を曝させてから千冬さんに突き出してやる!」

 

がちん、とベルトのスイッチを押し込み、既に火の入っているガン・ザックにさらに燃料をくべる。

このガン・ザックの燃料は、俺の心の力。俺の心がたぎればたぎるほど。震えれば震えるほどに出力も硬度も増していくと一夏から聞いた。

それを聞いたときに、それほど俺に合ったものは無いと思った。

 

なぜなら、俺の心は常に一夏への愛に沸き、尽きること無く産み出されるからだ。

鈴や蘭には悪いが、これについては誰にも負ける気は無いし、負けたくない。例えその相手が千冬さんでもこの想いは変わらない。

 

精神的なエネルギーを物理的なエネルギーに変える方法はよくわからないが、俺達みたいな一般的に非常識と呼ばれる人種は無意識にそれを行っているらしい。

だからこそ俺は恐れることなくガン・ザックに燃料をくべ、加速する。

 

「っらァ!!」

「くっ……」

 

ガギィンッ!と音を響かせて鎧に被われた俺の拳と相手のISの装甲がぶつかり合い、互いの横をすり抜けあう。

俺はガン・ザックを片側だけ噴射を強くして反転し、ISに向き合う。

 

「……何者かは知らんが……ここで死ね!」

 

その言葉と同時に撃ち込まれた銃弾を拳で弾き、再び突貫。左に避けようとしたので右側の噴射を強くし、追いかける。

 

まるで一世代前の戦闘機のようなデッドヒート。相手が逃げ回りながら俺を撃ち、俺はその弾丸を拳で弾き落としながら追いかける。

はじめのうちは赤いレーザーが飛んできたりもしたが、そっちは無視して弾くことすらなく突貫。それを見た相手はひきつったような顔を俺に向け、すぐさまレーザーではなく実弾に弾種を変更した。

 

その判断は間違ってない。むしろ、最善かなりに近いだろう。

しかし、最善にかなり近いそれでも、俺にはけして届かない。

 

無数の弾丸をばらまきながら、相手は空を縦横無尽に駆け回る。

優雅に、華麗に、そして無駄なく飛び回るその姿はまさに風。加えて風切り音の一つもしないその消音性能は、まるで風を支配しているかのようだ。

俺はこいつを逃がさないことはできる。ただ、落とそうとするとかなり難しい。

こいつは俺を翻弄できるが、かわりに落とすことも逃げきることもできない。

 

お互いに手詰まりのこの状況で不利なのは………俺だ。

俺の駈る男爵の鎧はISじゃない。だから男でも操縦できるし、こうしてISと互角に戦うこともできる。

だからこそ、こいつをそう簡単に人目に触れさせることはできない。

こいつが人目に触れれば、ISの発表と白騎士事件と同じように、一気に世界のあり方が変わる。

そして俺は、あまり目立つことは好きじゃない。一夏とも一緒にいられなくなるだろうし、一夏の時のように五月蝿い奴等が俺の家に群れをなしてやって来るだろう。

 

………仕方無いか。

 

ガシュン、とガン・ザックの火を一つを残して全て落とす。

それに気付いたらしい相手は、なぜかその場で止まった。

 

「……何故止まる? 私を殺しに来たのでは無いのか?」

「うるせえ。状況が変わったんだよ。行くならさっさと行っちまえ」

 

しっしっ、と追い払うように手を動かすと、相手はくるりと俺に背を向けた。

 

「次、一夏に手を出したら……本気で潰す」

 

俺のその言葉には何も返さず、その女は薄く光が出てきた空の彼方に消えていった。

 

……………俺も、帰るか。疲れたしな。一夏分の補給が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームソフト、IF

 

ゲーム。それは娯楽の対象。妄想の具現。

まあ、色々と言い方はあるが、ここではその辺りは一切無視しよう。面倒だから。

 

なんで今そんな話をしているかと言うと、俺自身も忘れていたとあるゲームソフトが目の前にあるからだ。

その名前は、インフィニット・フォーチュン。通称IF。まあ、ネタとして俺と束姉さんが適当に作って発売してみたところ、気持ち悪いほどに売れてしまったゲームソフトだ。

ちなみに初回生産版にはプレミアがついていて、捨て値で売っても6桁は普通に行くらしい。

テストプレイヤーは俺。原作知識と言う名前のネタを使って、色々とキャラを組み込んである。

 

まずは俺をモデルにした『織野《おりの》 壱佳《いちか》』。主人公と言うかヒロインと言うか……そんな立場の娘。俺みたいな特殊な能力は無い。

専用機は【白蓮《はくれん》】近接特化型。

 

ちー姉さんをモデルにした『織野 千尋《ちひろ》』。大抵スーツだが家に戻ると生活能力皆無のかっこいい系お兄さん。ただし隠れシスコン。一番ルート入りが難しい。

専用機は【夕柳《ゆうやぎ》】近接特化型。

 

ののちゃんをモデルにした『東雲《しののめ》 総司《そうじ》』。剣道の達人で、かなり面倒見がいい。

専用機は【緋桜《ひざくら》】近接よりの万能型。

 

セシリーをモデルにした『セシル・オーウェル』。イギリス代表候補生の初めは高飛車キャラ。ただし後々では性格を変えることも変えないことも可能。

専用機は【スカイ・ティアーズ】。中距離射撃型。

 

鈴をモデルにした『鳳《ファン》 廉韻《レンイン》』。中国代表候補生。鈴が嫌がりそうだからアルアルは言わない。ただし、肉まんは持っている。

専用機は【神龍】。近接・中距離格闘型。

 

シャルをモデルにした『シャルル・デュラン』。フランス代表候補生。初めは女として入学してくるが、途中でバレる男の娘。背が低くて童顔なのが悩みのツッコミキャラ。

専用機は【ラファエロ・カスタム】。近接・中距離・遠距離全てに適正あり。

 

ラルちゃんをモデルにした『ラルフローレン・ボーデルヴィフト』。ドイツ代表候補生。銀髪赤目に右目《・・》に眼帯。そして眼帯の下は金色の目のどう見ても中二キャラ。壱佳を憎んでいる。

専用機は【シュヴァルツェア・リヒト】。基本的にIS……じゃない、IFの性能と武器は原作のISとほぼ同じ。

 

かんちゃんをモデルにした『逆色《さかじき》 神薙《かんなぎ》』。努力家でいつも控え目。ただし通すべき所は押し通す気概のある眼鏡の似合う少年。

そして生徒会長である兄にコンプレックスがある。身長もほんの少しだけ届いていない。

専用機は【頑鉄《がんてつ》弐式(未完成)】。ゲーム中に完成させるにはルート入りが必須だったりする。

 

たっちゃんをモデルにした『逆色 武在《たけあり》』。天才肌で努力家な完璧超人……に見えるが、仲良くなっていけば行くほどに、そのお茶目な所やヘタレたところが見えてくる。

専用機は【ミステリアス・ジェントル】。近接・中距離技巧型。

 

真耶先生をモデルにした『佐藤 真岬《まさき》』。優しい先生で、常識人。ただし、千尋をからかおうとしてはぼこされる。そんな役割がある。

専用機はなし。ただし、訓練機でもかなり強い。

 

そんなキャラクター達がイベントを通して戦い、友情を育み、恋をしていくゲーム。

それが【インフィニット・フォーチュン】。通称IFと言うゲームだ。

 

……ちなみに、ラルちゃんとシャルとたっちゃん以外には許可をとった。隠しキャラとして束姉さんがモデルのキャラと弾がモデルのキャラも居たりするが、攻略するにはオープニングの約七秒の間に連打キーを使わずに×ボタンを百回押すという常人には難しいことをやらなければならない。

……それでも、ちー姉さんがモデルのキャラとのベストエンドよりはずっと楽だけど。

 

 

 

事の始まりは、ある少女(マゾカではない)が寮の俺の部屋にゲーム機を持って遊びに来たところまで遡る。……まあ、それも精々五分くらい前の事だ。

そのハードで使えるソフトがIFしか無かったので出してみたんだが、なんとその娘さんがIFの大ファンだったらしく、俺の持っていた初期生産版を羨ましそうに眺めていた。

 

「やらんぞ」

「……うん」

 

すっごい残念そうな顔をされた。

 

だが、ののちゃん達はこのゲームを知らなかったようでわけがわからないという顔をしている。

 

「まあ、色々とおまけの多い恋愛シミュレーションゲームだよ。………これの登場人物モデルがいるけど」

「……IF……恋愛……モデルがいる………もしかして、一夏がモデルとか?」

 

なんでわかるんだろうな鈴は。勘にしたって鋭すぎるだろ。

 

「そうそう。これ織斑君の話題が出てすぐに発売されたゲームで、現在の世界が男女逆転したお話なんだよね!」

「……ちなみに、製作時間は二週間。凄まじい速度で作られたノリと勢いの塊だったりする」

「もしや、私達がモデルのキャラクターも……?」

「いるね」

「……販売して大丈夫なのこれ?」

 

許可はとったぞ? 昔の話だけど。

 

「まあ、やるだけやってみようか」

 

たしか………チュートリアル画面でLRを押しながら上下下上左左右右左上右左上上下上右左左上左右上下下上右下左上左左左下上左左上左右左左右右左上下上左下下上左左右上左右左左右右右左左上左右上下…………っと。

 

『デロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデン!』

 

「え、ちょっ、なにしたの!?」

「隠しルート『千尋ベストエンド』の道を開けて、隠しキャラクター『五圏間《ごけんま》 円《えん》』を出して、隠し難易度『鬼神』を出しただけ」

「千尋さんエンド以外はどれもこれも聞いたことないんだけど!?」

「ベストエンドだから少し変わるぞ」

「なんでこんなの知ってるの!?」

「教えてあげない」

 

その方が面白そうだから。

……さてと。一応頑張ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

難易度鬼神、開始

 

『私……織野 壱佳。今日からここ、IF学園に入学します!』

 

そんな文句から始まるIFだが、難易度が鬼神だとかなり操作の自由度が上がる。

それは主に戦闘時の事で、普通は三次元の行動を横から眺めて操作する形で固定されているが、難易度が鬼神だと自分の使うキャラクターの視点で戦闘を楽しめるようになる。

……ただし、一人プレイの時のみ。

今回は周りの人のことも考えて観戦しやすい横からの視点にしているが、パイロット視点も中々楽しい。

 

それだけではなく、壱佳に一夏《おれ》らしい行動をとらせることもできる。

具体的には、高飛車セシルの揚げ足を掬い、言葉尻を捉えて言葉で惑わす……といった機能が実装されている。

流石は篠斑《しのむら》製品だよな。俺と束姉さんの作った書類上にしかない会社だけど。

経営者は篠斑 十柄《とつか》となっている。実際は違うが、ばれなければ問題ない。

 

そう思いながらフレキシブル射撃を繰り返すセシルの攻撃を高速機体制御と加減速で避け続け、そして壱佳の操る白蓮の零落白夜でセシルを落とす。

 

『これで決めるっ!はあぁぁっ!!』

 

「…………ねえ、織斑君。これってこんなに完成度高かった?」

「実は初回版以外はスペックが下がってたり」

「だからあんなにプレミアついてたの!?」

「さあ?」

 

画面の中では壱佳が零落白夜を解除し、にっこりと優しい笑顔を浮かべながらセシルに手をさしのべていた。こうしてフラグは乱立していくわけだな。

 

『……笑えばいいだろう!嘲ればいいだろう!!あれだけ大口を叩いておいて、無様に敗北した僕を!』

『……笑わないよ』

 

壱佳は、涙を流して悔しがるセシルの頭を抱き締めて、ゆっくりと撫でる。

 

『オーウェルさんは強いよ。強いから、今までずっとこうやって来たんでしょ?』

『……でもね? ずっとそうやって強く、硬く……って思っていても、硬いだけの物って結構脆いんだ』

『………だからね、オーウェルさん』

 

誰かに頼っても………泣いても、いいんだよ?

 

わー超展開、と思って見ているが、セシルは壱佳の胸に顔を埋めて泣き始めた。

テストで何度か見ているとはいえ、やっぱりよくわからない。

人間の心ってのはわかりづらいなぁ……。

 

『…………見苦しい物を見せてしまったな』

 

しばらくしてセシルはそう言う。その顔は僅かに羞恥の色に染まっている。

しかし壱佳はそんなセシルに笑顔で言った。

 

『ううん。なんだかやっとオーウェルさんの素顔が見れたみたいで、嬉しかった』

 

そこでセシルは、壱佳の胸元についた自分の涙の染みに気が付き、さっきまでの状態が想像以上に不味い状態だったと言うことに漸く気付いた。

そのセシルの視線を追って、壱佳は自分の胸を見下ろす。

 

そして少しだけ顔を赤くして、セシルに言った。

 

『……女の子の胸は、男の子の涙を隠すためにあるって円《えん》が言ってたけど………あんまりじっと見ちゃ……やだ』

 

「ぶっはぁぁっ!?」

「がはっ!? ごぼっ、ごぼっ……」

「ぐふぅ……」

 

……あっれぇ? なんか画面のセシルよりも後ろの鈴達の方がダメージでかいみたいなんだが。

 

「……ひ……卑怯よこんなの………いきなりそんな……」

「…………」(だくだくと鼻から愛情混じりの血を垂れ流しながら倒れているセシリア。恍惚とした笑顔はもう淑女を名乗れなくなってしまうほどのレベル)

 

……ちなみにこのシーン。束姉さんもヤバい感じで痙攣しながら気持ち悪い笑い声を上げてしまうほどの威力があるらしい。

千の顔を持つ英雄を使って絵を作って読み込ませてやったんだが……まあ、一秒間に52枚もあれば十分動いて見えるな。

 

わたわたと慌てるセシル。ちょっと顔が赤い壱佳。

……まったく。ゲームとはいえ、初々しいな。

 

 

 

それから色々あって、最終的に俺はなんとか千尋さんの最後の分岐に辿り着いていた。

……ここに来るには、全ての戦闘で一撃も食らっちゃいけないからかなり神経使うんだよな。

廉の拡散衝撃連砲とか、シャルのラピッド・スイッチによる弾幕とか、ののくんこと東雲の緋桜のエネルギー攻撃とか、ラルフローレンの慣性停止。シルバリウス・エヴァンジェルのエネルギー弾の雨に神薙のミサイル弾幕に武在の水分による爆破能力など、白蓮ではかなり避けづらい能力は多々あったが、それでもなんとか生き残ってきた。

……そのかわり、かなり疲れた。まあ、疲れた後の睡眠は格別だから、それもいいんだけど。

 

『……やっと……ここまできたよ。兄さん』

『……ああ』

 

そう言って画面の二人はIFを展開し、空中に浮かんで睨み合う。

 

『……どうしてもやるのか?』

『うん』

 

千尋の問いに、壱佳は短く答える。

二人とも使う獲物は剣。近接特化、速度と攻撃力に特化した二人の間では、恐らくこの空間はゼロに等しいだろう。

 

『……行くよ、兄さんっ!』

『来い、壱佳』

 

そして壱佳と千尋がぶつかり合う絵が流れ、バトルが始まった。

 

……ちなみに千尋の専用機である夕柳の唯一仕様の能力は、壱佳の白蓮と同じ零落白夜。ゲーム内ではまともに当たれば一撃必殺だが、発動中はHP代わりのシールドエネルギーが無くなっていく仕様になっている。

オンオフは自由にできるが、使い所が難しい能力の一つだったりする。

 

そして今、画面の中では零落白夜同士が干渉しあって火花を散らしている。

お互いに少しずつシールドエネルギーが減っていくが、それでも零落白夜発動中の千尋と鍔迫り合いをするのに零落白夜を使わないわけにはいかないのでこうして戦っている。

時間は3分。この間に、自分のシールドエネルギーを守りきり、かつ千尋を落とさなければならない。

後ろで目をキラキラさせているのほほん達の期待に応えるのも、まあ、悪くない。

ただ、それは神経を疲れさせるついでだけど。

 

さあ、行くか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

難易度鬼神、おしまい

 

千尋との戦闘は、なんとか壱佳の勝利で幕を閉じた。

零落白夜を使用中の千尋の強攻撃はほぼ一撃必殺なので、すべて避けるか同じように零落白夜を発動しているこちらの強攻撃で打ち落とした。

 

斬り合い、防ぎ合い、お互いの動きを牽制し、そして最後に千尋を切り捨てた壱佳は、今は千尋に膝枕をしていた。

 

『……兄さん。兄さんは覚えてないと思うけど……私の夢は変わってないんだよ?』

 

ほんの十秒ほどの短い回想。壱佳が笑い、千尋に抱きついている。

 

『お兄ちゃん。私、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!』

 

それに千尋は苦笑して、壱佳の頭を撫でる。

 

『じゃあ、兄さんより強くなったらな?』

『う……頑張る!』

 

そんな、幼少期の一コマ。

 

『……兄さん。私、強くなったよ? 料理も上手にできるし、掃除も洗濯もできるよ?』

 

壱佳は、千尋の髪を撫でながら話しかける。

シールドエネルギーを一気に削られて気絶した千尋はそれを聞いてはいないが、それに構うこともなく。

 

さらりと千尋の前髪を掻き分け、壱佳はにこりと笑顔になった。

 

 

 

学園を卒業した壱佳は、代表候補生の座を蹴り、IF関係の研究所で働いている。

千尋に勝利した壱佳は、事実としてIF操縦者としての最高峰に居るが、本人はそんなことはどうでもいいと切り捨てて、未だに千尋と一緒に暮らしている。

 

……ただ、その関係は今まで通りの物とは少し変わっているようだったが。

 

『……兄さん。千尋兄さん!朝だよ、起きて!』

『む……』

 

もぞり……と千尋は身動ぎし、自分の体を揺する壱佳に視線を向けた。

 

『おはよう、千尋兄さん』

『……ああ』

 

ジャージ姿で布団から這い出す千尋に、壱佳はしょうがないなぁと言うような視線を向ける。

 

『ご飯はできてるから、一緒に食べようね』

『……ああ』

 

まだ少し寝ぼけている千尋は、素直に言葉を返す。

そしてゆっくりと立ち上がり、壱佳に続いて自分の部屋のドアを開けた。

 

そして、壱佳に向けて一言。

 

『おはよう、壱佳』

 

壱佳は千尋の言葉に、にっこりと笑って返した。

 

 

 

「……これで終わりと。どう見ても熟年夫婦だよな」

「……ぐぷっ……壱佳が一夏をモデルにしてるからって……脳内変換しすぎたわ…………」

 

どさっ、と倒れる音がして、ついに最後まで残っていた鈴が倒れてしまった。

ちなみに。ラルちゃんとのほほんは途中で俺のベッドに侵入して寝息をたて始めていた。

 

「……ところで、何でこのルートのことを知ってたの?」

 

あ、シャルが復活した。自分の血は自分で片付けようとポケットからティッシュを出している。

ありがたいな。血の匂いの中でも寝れないことは無いけど、あんまり良いもんじゃないからな。

 

……で、俺が知ってる理由だっけ。

 

「製作者の意向により、テストプレイヤーは俺がやったからコマンドとかルートとかは大体知ってる」

「こんなところにまで関わってるの!? 一夏って何者!?」

 

転生チートな一般人。ただし異常に眠たがり。

……とは答えられないよなぁ……。

 

「化物じゃね? 知らないけど」

「知らないのに自分で自分を化物扱いしちゃうの!?」

 

面倒だからな。

 

……さてと。いい感じに疲れてきたし…………寝るか。

 

電源を落とし、ソフトを取り出した後のゲーム機を屍のようになっている持ち主の上にそっと置いておく。

ソフトはケースにしまってから元々置いてあった所に戻す。

それからさっさと布団に入って、中に入っていた抱き枕を抱き締めながら寝る。

……ちょっとむーむー言っていたような気もするが、きっと気のせいだろう。

 

 

 

side 更識 簪

 

一夏が眠ってから、私はむくりと起き上がる。

それをきっかけに、本部長も箒も起き上がる。

 

「……一夏は寝たみたいね」

「そのようだな」

 

箒と本部長はそう言いながら窓を開け、それから鼻血の後始末を始めた。

 

カーペットの両端に移動し、同時に片手をカーペットに叩き付ける。

するとなぜかカーペットから血の塊が跳ね上がり、粉々に砕かれながら窓の外に飛び出していった。

 

「え、ちょ……どういう原理!? どうなってるのそれ!?」

 

小声で叫びながらシャルロットがツッコミを入れる。

 

「あれは愛情が具現化したものだから、体内に戻すのは流石にできないけどこうやって操るくらいは……ね?」

「『ね?』じゃないよ!? 普通無理だよ!? と言うか人間だったら無理じゃないと色々不味いよ!?」

「大丈夫よ。愛と気合いと愛情とラヴでなんとかなるわ」

「そのうち三つは同じだから!実質二つだから!」

「じゃあ追加でアモールと意気を」

「それでも二つだよ!?」

 

………大変そうだなぁ。

 

そう思いながら、私は一夏の寝顔を枕元で眺める。一夏が抱き締めているのは………本音らしい。そう言えば、先にベッドに入ってた……。

 

「…………本音は……いいなぁ……」

 

一夏の背中にはラウラがくっついている。なんだかラウラは、いつも一番目ではなく二番目の位置にいるような気がする。

すやすやと眠る一夏を見ていると、なんだか私も眠くなってくる。

私はディスプレイを外して一夏の枕元に置かせてもらい、ぼんやりと一夏を見つめながらゆっくりと眠りに落ちていく。

 

そうしていると、肩になにか布がかけられた。多分、かけてくれたのは本部長だと思う。

 

誰かに頭を優しく撫でられながら、私は薄く開けていた目を閉じた。

 

 

 

 

 

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