タッグマッチ、お相手は?
キャノンボール・ファストから少しして、専用機持ちのレベルアップを図るという狙いで全学年合同のタッグマッチをやるという発表があった。
「……今回は絶対に、負けてやんないわよ?」
こきこき、と肩を鳴らしている鈴。その背後には炎が見えるほどにやる気に溢れている。
「………ふぅ。それはこちらの台詞だ。首を洗って待っていろ」
今度は目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返していたののちゃんが、ゆっくりと目を開く。
何故か異様に張りつめた雰囲気を持っており、迂闊に触れたら切り裂かれてしまいそうだ。
「わたくしのこともお忘れなきよう。挙げ足を掬われますわよ?」
セシリーが胸の前で組んだ手を解き、鋭い視線を向ける。
「ふん。ならば掬う手ごと踏み潰してやる」
ピリピリとした空気を発散させながら、ラルちゃんが進み出る。
右目の眼帯は外され、金の瞳が露になっている。
「……私だって……負けないから………っ!」
かんちゃんは可愛いなぁ……。
「一夏。号令はお願いね?」
シャルも参戦し、なんだか更に空気が剣呑になっていく。
「……それじゃあ、さっさと始めようか」
俺の言葉と同時に、全員が身構える。
両足を前後に開き、腰だめに構えるもの。拳を作り、前に突き出すもの。両足を肩幅に、手を振り上げるものと構えは様々だが、どれにも共通する物がある。
それは、勝ちたいという思い。勝利への執念と言い換えてもいいそれが、この場にいる六人の少女の目に渦巻いている。
「み、皆さんいったい何をしてるんですかぁ!?」
どうやらこの空気に気付いて来たらしい真耶先生があげた、悲鳴のような言葉。それが引き金となり、無慈悲なる勝負が始まった。
「―――せーの!」
「「「「「「最初はグー!じゃんけんポン!!」」」」」」
何故か真耶先生が頭からずっこけた。だが、ののちゃん達はそんなことを気にする事もなく勝負を続行する。
そう、戦いはまだ始まったばかり。六人の少女達によるじゃんけんは、まだ終わらない。
side 篠ノ之 箒
全員が手を振り上げ、そしてそれぞれがバラバラに手を変えながら振り下ろしていく。
じゃんけんで一番厄介な相手は鈴。次いでシャルロット、ラウラ、セシリアが入り、最後に簪が来る。
未来予知レベルの勘で手を変える鈴と、異様な幸運を持ち合わせるシャルロットの二人はまず落としておきたい。しかし、周りの者にとっては私も相当の敵になるらしいので、協力は不可能だろう。
ならば私は周りを利用し、その上で勝ってみせよう。
そして全員に勝利し、大手を振って一夏とタッグを組む。
一夏はそれを了解しているし、周りもこのじゃんけんの勝ち負けに従うと思うので大丈夫なはずだ。
もし破ったら、次回のじゃんけんで決まったことに口を出されてしまう可能性がある。それを理解していない者はじゃんけんに参加していない。
グーからチョキへ。そしてチョキからパー……と見せてグーへ。周りの手を見ながら私も手を変えていく。
私達の中でこのスローの世界に入れないものはいないため、じゃんけんの時にも試合の時にも有効活用している。
……だが、こういった思考と理論に関することでは、セシリアが私達の中では最高峰だ。
セシリアの戦闘・小規模戦術理論は凄まじい。中から大規模理論を得意とする簪とは即応性の部分で大きく差をつけている。
ある程度大きく、予想のうちの出来事に強い、艦隊司令官のような性質を持つのが簪ならば、セシリアはその場で戦況を判断する部隊長、といった所だ。
ラウラと私は似ている。違うところと言えば、ラウラは私達の中でも群を抜く動体視力をフルに使ってその場に合わせて手を変えるが、私は気配で相手の手を読んで、それをある程度の指針として手を変える。
言ってみればラウラは近接兵で、私は弓兵といった所だろう。
……千冬さん? 完全版の巨神兵か何かではないか?
一度目のストロークが終わり、全員が全員の手を確認する。
鈴はチョキ。シャルロットもチョキ。セシリアはパー。ラウラはグー。簪がチョキで、私がパー。
結果があいこだったので、もう一度全員が手を振り上げる。
「「「「「「あいこでしょっ!!」」」」」」
また、全員の手が異様な速度で形を変える。速度を上げすぎて手に絡み付く空気が重いが、どうということはない。
グー、パー、グー、チョキ、パー、グー、チョキ…………。次々に変わる手は、またあいこを示す。
私達は、決着がつくまでひたすらじゃんけんを続けるのだった。
184回のあいこの結果、誰もが一瞬意識を外した瞬間をついて手を変えた簪が一夏と組むことになった。
余り物となってしまった私達は私達どうしで組もうとするが……やはり、奇数人であるために一人余ってしまう。
鈴はいつものようにセシリアと組み、シャルロットはラウラと組む。
私とシャルロットが組んでもよかったのだが、その場合はラウラは恐らく更識生徒会長と組むことになると言うことが容易に想像できたため、シャルロットと組むことに。
こうなったら、恐らく私は一夏曰くの猫座の生徒会長改め更識生徒会長と組むことになるのだろうな。
……まあ、どの程度強いのかは知らないが、ラウラとかなりいい勝負をしたと言っていたから………かなり強いのだろうな。
それでは私はIS訓練でもしていようか。時間はまだあるしな。
インタビュー、面倒臭い
じゃんけんバトルによってタッグパートナーを決めた次の日の二時限目の休み時間のこと。一年一組に新聞部の眉剃《まゆぞり》我鳴子《がなりこ》さんがやって来た。なんだか五月蝿そうな名前だが、きっとまた間違っているんだろうしなにも言わないでおく。
「やっほー、織斑くん。篠ノ之さん」
「………ふにぃ……なに?」
「ああまったく一夏は……失礼、なんでしょうか?」
「織斑くんは相変わらず寝てるわね……。簡単に言うと、私の姉が出版社で働いてるんだけど、」
「申し訳ありませんが、インタビューはお断りいたします」
「内容は合ってるけど最後まで言わせてほしかったかなぁ……ちなみに、こんな雑誌なんだけどね?」
そう言って祭木さんが取り出したのは、俺の人生の中でも俺が読むことはないだろう種類の本ベストエイトに入っている、ティーンエイジャー向けのモデル雑誌だった。
……たとえ俺が女だったとしても読まないと予想される本を取り出されても、正直に言って反応に困る。
「織斑くんはどう? モデルとかやってみない?」
「や」
「一文字って………そこをなんとかならないかなぁ……?」
「やだ」
「有名ホテルのディナー招待券とかもらえるよ?」
「いやだ」
四回目を言ったらノイズィハーメルンで操って辞めさせよう。周りも巻き込まれるけど、そっちは直ぐに解除させれば良いんだし。
そう思いながらじっとりと眺めると、巻紙さんは苦笑いを浮かべながらこりこりと頬を掻いた。
「あははは……そんなに嫌?」
「や」
ぴっちりしたスーツとか嫌いなんだよね。この改造しまくった制服(かなりゆったりしている。サイズがひとつ大きいだけとも言う)くらいがちょうどいい。
「……正直に言って、高級ホテルとか全く魅力を感じない。五反田食堂でみんなで食べる食事の方が好み」
「ならば今度食べに行こう。……楯無さんはどうしますか?」
「ふふふ……ばれちゃあしょうがないわね。私も行かせてもらうわ!」
扉の影に隠れていたたっちゃんは、ののちゃんの気配察知能力によって隠行を見破られてしまったが、さっさと出てきて高らかに参加を表明した。
「あ、私も良いかな?」
「いーよー」
ちゃっかりと参加したがった真狂《まぐるい》さんにもOKを出し、その場はお開きに。
……そう言えば、鈴とかセシリーみたいな代表候補生はモデルとかもやってるらしい。今度見せてもらったりとかもできるかね?
「え? あたしが出てる雑誌を見てみたい?」
「うん。駄目?」
「いや別に駄目じゃないけど………何て言うか、急に言われるとちょっと恥ずかしいわね……」
そう言って僅かに頬を朱に染めながら、鈴は鞄から雑誌を取り出す。どうやら今日はなぜか持ち合わせがあったらしい。
差し出された雑誌を受け取り、鈴がモデルをやっているところのページまでを適当に読み飛ばす。正直に言って、中国語だからなにが書いてあるのか一切わからなくてちょっと困る。
それでも適当に読み飛ばし、ようやく鈴が写っている写真を見つけた。
……どうやら、鈴の写真には大きく分けて二種類のコンセプトがあるらしい。
一つはショートパンツやらウィンドブレイカーやらを着ている元気さを前面に押し出した写真。そしてもう一つはそれとは真逆に、落ち着き払ったクールさを前面に押し出した写真だ。
ただ、これは両方鈴であるが、これだけが鈴かと言えばちょっとばかり足りない。
元気で活動的な鈴。思慮深く、落ち着いている鈴。大切なもののために熱くなる鈴。友情を大切にして、その中ではしゃぐ子供っぽい鈴。そして、恋をしている乙女な鈴。
今までに鈴は様々な顔を俺に見せてきてくれた。そんな俺が言うんだから、多分間違ってない。
……まあ、俺が何を言いたいのかを簡潔に言うと、
「……うん。似合ってる」
こんな風におめかししている鈴も、また可愛いってことだ。
「そう? ありがと」
鈴にはそんな風にスルーされてしまったが、結構本気でそう思った。
side 凰 鈴音
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいぃぃぃぃいぃっ!!
顔赤くなってたりしない!? 声震えてない!? ああもう一夏ってば不意打ちであんな笑顔は反則よまったくもう一夏ってば一夏ってば一夏ってばぁぁぁっ!!
「……鈴? 鼻血出てるよ?」
「これは鼻血じゃないわ。愛情が溢れて止まらないだけよ」
そう、だから問題ないわ。問題なんてあるはずがないのよ。
「大有りだ馬鹿者」
すぱーん!と千冬さんに出席簿で頭をひっぱたかれる。
「あたりが血まみれだ。掃除はしっかりとしてから教室に戻れ」
……あら、本当。これは確かに問題ね。
皆行こうよ、五反田食堂
約束通りに五反田食堂に行く。ただし俺はののちゃんに背負われて頭の九割以上が寝ている状態だが。
最大限小さくなっている(できるだけ小さくなってる、ってことね。だいたい88センチくらい)ので運ぶのは楽だろうが、それでも20キロくらいはあるだろうから重いんじゃないかと思っている。
ちなみに、服装は全員私服。俺は変型版シルバースキンを着ている。形は、ゆったりとしたトレーナーとズボン。寝やすい寝やすい。
「……ふふふ……役得だ」
「帰りに一夏をおんぶする人を決めるじゃんけんしましょ。箒は行きに運んだから帰りは自重して」
「ああ、構わないとも。十分と言える程度には堪能したことだしな」
「………いいなぁ……箒は……」
「お肌がつやつやしていますわね。これも一夏さん効果でしょうか?」
「ストレスにはよく効きそうだよね。胃痛的な意味で」
「……すぅ……すぅ………」
「……楯無お姉さんのことも忘れないでね?」
「寝ているボーデヴィッヒさんの写真って撮ってもいいのかしら? 新聞部のドイツの娘に本国から圧力がかかってるらしいし………人助け人助け……パシャリと」
こらこらそこのIS学園のパパラッチ。許可なく写真とか撮って、訴えられたら負けるぞ?
まあ、俺のが撮られなければ別にいいけど。
ガラガラガラ……と五反田食堂の扉を開けると、そこではいつもの通りに弾のお祖父さんの厳さんが鍋を振るっていた。
鍋を振り続けたその筋肉はきれいに引き締まり、炎の前にずっと晒され続けて浅黒く焼けている。
座席はおよそ半分くらいが埋まっていて、その間を笑顔を浮かべた弾が動き回り、料理やら水やらを運んでいた。
「いらっしゃい……一夏は相変わらずだな?」
「貫徹しようとしてる一夏なんて見かけたら多分あたし自分の正気を疑うわ」
「あっはっは………俺もだ」
そんな聞きようによっては失礼なことを言いつつ、弾は俺達を空いている席に案内した。
「それじゃあ、用があったら呼んでくれ」
そう言って弾は厨房の方に引っ込んでいった。
「……蘭か? 今すぐおめかしして店に来るといいことあるぜ? ……そうそう。早くな~」
そんな声が聞こえたが、まあ、いいや。
とりあえず俺は五反田食堂名物の業火野菜炒め定食にしようか。
「あたしは五目炒め定食っと」
「それでは私は焼き魚定食にしよう」
「……どんな物か全然わかりませんわ……」
「僕のおすすめは業火野菜炒めかな。美味しいよ?」
「焼き肉定食も中々だ。まあ、個人個人で感想は異なるだろうが……」
ここの料理は基本的に美味いけどな~。
……それはそうと、シャルやラルちゃんはここにはあまり接点がない筈なのに、妙に即決するな? 結構何度も来てたりするのか?
「まあ、月に2~3回は来るな。そろそろ常連扱いしてもいいんじゃねえか?」
そんなに来てたのか。IS学園の食堂の料理も美味いけど、ここの料理も美味いからなぁ……。
「……一夏ってば……嬉しそうね」
「美味しいご飯は睡眠の次の皆の次の楽しいことの次に好きだから」
「あら、結構上位」
「ちなみにその次は嫌いな相手を罵倒すること。ただ、ここから先は自分から進んでやろうとは思わないけど」
例えば、俺が来た時には既にそこにいたマゾカをわざわざ馬鹿にしようとはしない。
マゾカは色々と驚いたような顔をしている。弾とは少しばかり因縁があるはずだが、弾もマゾカもそれを表に出すことは無い。
……まあ、マゾカは弾の顔を知らないだけかも知れないが、弾はマゾカの顔を知っているはずだ。
何度も空中でぶつかりあっていたし、その時に顔くらいは見えていたはずだ。
………弾だったら、顔が見えていなくとも気配やら雰囲気やらで個人の特定くらいは簡単にやりそうだけど。
「いやいや。いくらなんでも一瞬見ただけの相手とか初対面の相手の特定は……」
「できないの?」
「……名前はわからないが、できるぞ」
初対面の相手の名前がわかったら、いくら弾でも驚きだよ。
多分マゾカの名前とかもわかってないだろうし、その事情とかもわからないはず。
わかってても客として店に来た場合はちゃんと客として扱うだろうし、どれだけ腸が煮えくり返っていてもそれを表に出すことは無いと思う。
俺の親友は、たまにこっちが心配になるくらいに内心を隠したりするのが上手いから……俺がこうして見に来たりする。
でも、結局隠し事が上手いことには変わりなく、俺にはガス抜きくらいしかできないんだけどな。
「はいお待ち。……それで、そちらのお二方のご注文は?」
弾は営業用の笑顔を浮かべ、たっちゃんと幕張さんの二人に向けた。
「……私、一夏と同じの……」
「あ、じゃあ私も!」
「え……じゃあ私もそれに」
「毎度!」
かんちゃんとたっちゃんの姉妹と、升隙《ますずき》さんの注文を受け、弾はまたカウンターに引っ込んでいった。
五反田食堂、蘭ちゃん登場
弾が蘭ちゃんに電話を掛けてから約十分。ずいぶんめかしこんだ蘭ちゃんがエプロンをつけて現れた。
なんというか、よそ行きの服にエプロンって言うのはなかなか見ない格好だが、蘭ちゃんくらい可愛いとそれでも似合ってしまうから不思議だ。
「い……いらっしゃいませ、一夏さん」
「やっほー蘭ちゃん」
もきゅもきゅと野菜炒めを食べながら、蘭ちゃんに向かって片手を上げることで挨拶をする。
久しぶりってほど久し振りでもないし、挨拶は簡単に。
「ん~? なになに織斑くん、この可愛い娘? ひょっとして彼女とか?」
「九月四日の全校集会終了間際のたっちゃんみたいになりたくなければ黙れ」
「一夏普通に脅迫しちゃった!?」
「いったいその日に何があったんですか!? って言うか何をしたんですか!? そしてどうなったんですか!?」
シャルと蘭ちゃんのダブルツッコミ。息のあったツッコミは見ていてなんだか楽しくなってくる。
あまり関係はないが、蘭ちゃんは目の前で何度も鈴や弾が俺に『あーん』で食べさせているところを見ているため、そういったことには耐性がある。
それどころか蘭ちゃん自身が俺に『あーん』で食べさせたことも、俺に『あーん』で食べさせてもらったこともある。
毎回毎回初々しい反応が帰ってきてくれるから、本当に飽きない。やっぱりかんちゃんと似てる。
きっと蘭ちゃんはISを動かす時には感覚でやっちゃうタイプだろう。なんとなくだがそう思った。
「あ……あははは……ちょっとそれは嫌かなぁ……なんて…………」
「……お……お姉ちゃん? なんだか目が虚ろだよ……?」
「あははははは……だいじょうぶよかんざしちゃん……おねえちゃんはまだだいじょうぶよ……あはははははははははははははは………………」
大丈夫ではないように見える。ただし原因は俺なんだけど。
「世の中には知らない方が良いことってのがあるんだよ。胃痛的な意味でも他の意味でも」
「胃痛の方には全力で同意しようかな。たまにキリキリ来るもん」
あら、シャルってば胃痛持ち? それは大変だ。今度俺が胃に優しい食事でも作ってやろう。
ちなみにこの胃に優しい料理は、酒を飲みすぎたちー姉さんや自作のゼリー飯ばっかり食べていたせいで固形物を受け付けなくなった束姉さんも絶賛していた。
まあ、束姉さんの方はその後にしっかりご飯を食べるように教育したけど。いくらなんでもそこまで行くのは不味いからね。
俺が言って良い台詞じゃないって? 俺は良いんだ。魚雷……じゃない、そこまで行く前に食べてるから。
「……そう言えば、最近何食べた? キャノンボール・ファストの時は忙しくてあんまり見てあげられなかったけど……」
「……水?」
「他には?」
「…………そうそう、豆腐ハンバーグを食べた。カロリー控えめのやつ」
「いつ?」
「……………昨日の昼?」
色んな所から食べ物が突き出された。弾もそれを聞いていたらしく、厨房で厳さんに追加注文をしている。
「……食え」
「頼んだっけ?」
「あそこの客からだ」
示された方を見てみると、マゾカが俺に憐れみの目を向けていた。お前って俺を殺したいんじゃなかったか?
……まあ、食うけど。
ののちゃんたちから差し出されているのを食べ、新しく出てきたのを食べようとすると、なぜかそれは蘭ちゃんの手の中に。
「は、はい一夏さん。あーん」
……何故に?
……まあ、いいか。
「ぁむ」
もきゅもきゅ……。
おいしっ。
そのまま新しく来た分が無くなるまで蘭ちゃんに『あーん』で食べさせてもらった俺は、じゃんけんの勝者であるシャルの背中で寝こけている。
マクロスさんは蘭ちゃんに食べさせてもらったり、口許を拭いてもらったりしていた俺を見て色々と囃し立てたため、暫くの間黙ってもらうことになった。今はたっちゃんの背中でひたすらごめんなさいを繰り返している。
……ひぎぃって声を聞いたのは、昔ちー姉さんが束姉さんにアイアンクロー(格闘タイプ)その他で上げさせていたのを聞いて以来だ。
ちなみに、その時束姉さんが悦んでいたことは言うまでもない。束姉さんって相手は選ぶけど大体のことはできちゃう超ハイレベルな変態だからな。セシリーと同じくらい変態なのかもしれない。
………いや、それは無いか。……無いよな? ………無いよね? …………無いといいなぁ………。
現実逃避ということも含めて、ポケットの中の蘭ちゃんの学園の学園祭の招待券に意識を向ける。
ニヤニヤと笑っている弾と、チェシャ猫のような笑顔を浮かべていた蓮さんと、いつものように豪快に笑う厳さんに見守られ、蘭ちゃんは俺にこのチケットを渡してきた。
よかったら来てください、と言っていたが、あれは多分かなり本気で来てほしいんだろうな……。と思い、行くことにした。
原作では当日に束姉さん絡みで何かあったような気がするが、取り調べとかはサテライト30で作った分身に任せてやればいい。
そうすればちゃんと時間通りに蘭ちゃんと学園祭を回れるし、取り調べも受けられる。
……取り調べとか面倒臭い、IS委員会と俺んところに来る実行部隊と世界中の政府関係者にゾナハをばらまいてやればボイコットできんじゃないかと思ったりなんてしてないよ!
……なんかいま一瞬束姉さんっぽくなった。ちー姉さんに怒られる。
……ああ、怒られて暴行を受けるのは束姉さんだ。束姉さんは人間かどうか怪しくなるくらい頑丈だから、多分大丈夫だとは思うけど。
IS魔改装、誤字にあらず
side セシリア・オルコット
わたくしは思う。わたくしには、ミサイルビットは合っていないのではないかと。
ミサイルを使う時なんてまず無いし、ミサイルを使うよりも一発でも多くレーザーを撃った方が効率的だと思うことも多々。
それに、ミサイルは遅いしわたくしの方で軌道を変えることもできないから使えたとしても牽制程度。鈴さんや箒さんだけでなく、ラウラさん、シャルロットさん、簪さんにはすぐさま叩き落とされ、その爆煙がむしろこちらの邪魔になってしまう。
ミサイルを使うのならば、もっと数を増やしてでなければ効果が相当薄くなってしまう。
「……と言うことで、ミサイルビットをシールドビットに変えてくださいな」
わたくしは現在、本国のIS整備部門担当者に国際回線で電話を掛けています。
元々この機体、つまりブルーティアーズは、BT兵器の実働データのサンプルを取るためにわたくしに預けられた物。例えばこれが実弾兵器を送れといった内容ならば突っぱねることも可能でしょうが、今回わたくしが要求しているのは実弾兵器であるミサイルビットを、BT兵器であるシールドビットに改装すると言うもの。早々拒否されることは無いはずです。
『なぜシールドビットなのですか? 通常のレーザービットでも問題は無いように思われますが』
「シールドビットはBTエネルギーによるシールドを張る装備です。それをミサイルビットと同じように腰元に常備しておけば、最後の切り札と言う面では最高の結果を出せると思われます。レーザービットではそうはいきません」
それに、BTエネルギーシールドはシールドとして発現していても元はBTエネルギー。シールドそのものを変形させ、近距離用の武器として扱うことも可能なはず。
そして恐らく、今のわたくしにはそれが実際にできてしまう。
『しかし―――』
「ああもう。それでは言い方を変えますわ」
わたくしはいつまでもうだうだと無益に言葉を続ける整備部門担当者に、さっさと腹を決めるようにと言葉を紡ぐ。イメージは、わたくしの事をひたすら虐め抜いた、乱暴で鬼畜な一夏様。
息を吐いて、吸って、
「―――あなた方が亡国機業にシールドビット付のサイレント・ゼフィルスを奪われたお陰で、こちらに凄まじい被害が来ているのです。あなた方の尻拭いくらいは自分でやってくださいな。わたくしもあなた方の拭き残しがついた汚い尻を磨いてやるなんて面倒なことはお断りしたいのですが、それをやらなければわたくし達に被害が来ますのでやっているのです。自分達で失態を拭えないって言うなら、せめて便宜の一つや二つははかりなさいな。それすらもできない……なんて自らの無能をひけらかすようなことは、ま・さ・か、いたしませんわよね?」
言外に『サイレント・ゼフィルスを奪われたという失態を隠せなんて命令は受けてないから、シールドビットの二つ三つを送ってくれなければぶちまけますわよ?』と言っているに等しい言葉を吐く。
脅迫? いいえ。これはあくまでもただの『お願い』ですわ。
ただ、向こうの方では完全に絶句していますが………まあ、気にしない方向で行きましょうか。
「……それで、お返事は?」
わたくしは見事にミサイルビットをシールドビットに変えることに成功いたしました。
しかし、このころからわたくしは本国で『女王様』という渾名をつけられることになってしまいました。
……嫌ですね。わたくしは一夏様のペットになることを心から望んでいる、ただの白豚なのですが…………。
side 凰 鈴音
「衝撃砲は両方通常型の貫通衝撃砲で、双天牙月は刀刃仕様にして、腕部衝撃砲は外して高電圧縛鎖《ボルテック・チェーン》をつけて。それから追加スラスターで速くなくていいから転回能力を上げられる奴を一つに、脚部の隠し武器を解禁させてね。衝撃砲についてはこっちでどうにでもするわ。三日で仕上げてよ。仕上がった甲龍に乗って使い心地を確かめなくっちゃいけないんだから」
『なっ……そんな、三日なんて無理です!』
……あ゛? 今なんつった?
『それに脚部のブレードの解禁は少し時間がかかりますし、腕部の衝撃砲を外して高電圧縛鎖を取り付けるというのも許可をとってからじゃないと』
「おい」
『ヒッ!』
むこうでグダグダしている馬鹿に、たった一言だけ呟いた。
それだけで相手は小さく悲鳴をあげて黙り込む。そんな相手に、私はさらに言葉を続ける。
「聞こえなかった? あたしは『やれ』って言ったのよ。申請なんてこの内容なら普通に通るわ。結果が出る前に作り始めれば間に合うでしょう? 個人で作る分には軍は口を出してはこれないわ。例えそれが実際に使われることになっても、結果がついてくればいいのよ。…………だから、やれ。三度は言わないわよ?」
ブツンッ!と通信を切り、あたしは衝撃砲【龍咆】の最大出力の砲撃を行う。
圧縮され、左右の衝撃の弾丸が共鳴して威力が上がった衝撃砲は、アリーナの床に綺麗な穴を開けた。
……威力の拡散しない、いい砲撃ね。
あたしはそれにやや満足し、頷く。
……前回……キャノンボール・ファストではうやむやになっちゃったけど……今回はそうは行かないわよ……?
ねぇ、一夏?
IS魔改装、こっちも!?
side シャルロット・デュノア
……なんだかよくわからないけど、デュノアから様々な装備が送られてきている。一夏の指示かどうかは知らないけど、送られてくる武器の内容は凄まじいの一言。
………たまにネタとしか思えないようなのもあるけど、そのあたりは気にしない方向で。
送られてきた装備をあげていくと……対レーザー用の盾。キャノンボール・ファストでも使った振動ナイフの強化版(【GK-06】っていう名前で、なぜか一角獣の画像がついている)。25連ミサイルポッド。携行型88ミリ口径ガトリング砲が2つと、その弾が500000発くらい。新型の8連装パイルバンカー(しかも最後には杭が飛ぶようになっている上に威力も割り増しされている。名前は【ラギアント・ジ・ゼモルク】)。レーザー砲とレーザー用の弾丸パック(一つで56発撃てるらしい)が20。6連装ショットガン(名前は【君の熱いショットガン】)が2つと、その弾が斉射18回分。小さいのに半径30メートルに爆炎と衝撃をばらまくことができるグレネードが3ダース。高速機動用の新型補助ハイパーセンサー。小型の追加スラスター(ちっちゃくたっていちにんまえ、と書いてある)五基。ワイヤーブレード四本。などなど……本当に多岐にわたる。
どうやらデュノアはISを三世代機にするのではなく、二世代機の性能を上げてそこに三世代の武器を詰め込むことによって、擬似的な三世代機を作り上げてしまったらしい。
………そんな発想が出てくるほどあの父親は頭が柔らかくはないから、きっとこれも一夏が何かやったんだろうなぁ……。
そう思いながら思考操作式のワイヤーブレードを試しに振り回し、その使い心地を確かめる。
…………うん、中々いいかな。でも、精密に動かしながら戦闘をちゃんと続けるのは二本が限界かな?
大雑把でいいなら全部動かしながらでも大丈夫だと思うけど、それだと多分僕自身にはわからない隙とかができちゃってそうだし………便利なんだけど、扱いに困るなぁ……。
「いや、初めて使ったにしてはかなりの物だぞ」
「そ、そうかな?」
「ああ。数ヵ月前の私と同等かそれ以上だ」
「そんなに!?」
それって世界の代表候補生が中距離のメイン武器として活用できるレベルってこと!? そして今のラウラはそれを遥かに越える技術を持ってるって解釈しちゃっていいのかな?
「ああ。昔の私は未熟に過ぎたからな。今でも成熟したとは言いがたいが、それでも数ヵ月前の私自身と戦えば余裕をもって勝つことができるだろうよ」
「ラウラ凄っ!? 普通あそこまで強くなったら後は第二形態移行とか新装備とかそういうのを使わないと一気に強くはなれないと思うんだけど!?」
「私にとっては実に衝撃的な事があったぞ? 鈴とセシリアに敗北し、一夏とシャルロットに敗北し、あれだけ数を揃えたにも関わらず福音を落とせず、サイレント・ゼフィルスには荷物ごと逃げられてしまった。……これだけのことがあれば、よっぽどのことがない限りは自分がまだまだ弱いと。そして、まだまだ強くなることができると思うのは当然だろう?」
ラウラはなんだか獰猛な獣や猛禽を思わせる笑みを浮かべた。正直に言って、かなり怖い。
「……ちょうどいい。私とシャルロットのコンビ結成記念に、お互いの力量を知るための模擬戦をしないか?」
ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを展開して言う。僕はとりあえず広げていた武装と弾を全て収納し、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ(いつの間にかさらに改造されてて驚いた。なんか拡張領域がさらに倍近くなってたし………)を展開する。
武器はとりあえず山のように送られてきた中から使いやすそうなものを適当に選んで装備している。
……そう言えば、ラウラと一対一で模擬戦をするのって初めてかもしれない。
そう思いながら、周りに人がいないことを確認してから、キィン!と軽い音をさせてコインを上に弾き飛ばす。
アリーナのバリアに直撃しない程度に力を抑えて弾かれたコインは。ゆっくりと重力に引かれて落ちてくる。そしてそれがゆっくりと見えているうちに、僕とラウラは戦闘準備を整える。
3……2……1………
コインがアリーナの床に叩きつけられると同時に、僕とラウラは動き始めるのだった。
side 更識 簪
……ふと思った。今の私にマルチ・ロックオン・システムは本当に必要なんだろうか? と。
マルチ・ロックオン・システムは確かに便利。けれど、後から操作して軌道を変えたり、相手の迎撃をかわしたりするにはマニュアルでの操作が一番いい。
最近は一夏を相手にミサイルのマニュアル操作をしながら近接戦闘をこなせるようになってきたから……そうやってみるのもいいかなぁ……?
……そうそう、一夏と言えば、シロを調整し直した。
燃費はそこそこ考えられているけど、攻撃も防御も一切考えていない速度特化のシロをさらに速度に特化させたような状態になっていたから、戦闘に耐えられるくらいの状態に戻した。
お陰でシロは最高速度と加速力は若干落ちたけど、それを上回る燃費と攻撃、防御、機動力を手にいれることに成功した。
……それが無くても、一夏だったらみんなに勝てると思うけど。
……そうだ。ちょうどいいし、一夏からもらったミサイルを打鉄弐式に組み込んでおこう。これで少しは一夏に近付ける……と思うし。
……頑張ろう。優勝のためにも、私と一夏のためにも。
……優勝すると、食堂のデザート無料券がもらえるらしいし。
そう言えば、あったなぁ
ぼーっと寝ていたら、なぜかふと少し前のことを思い出した。
今の今まで忘れてたんだが、思い出したんだし実行しようか。
確か、調理室と言うか厨房と言うか、そんな場所を使うこともできたはずだし、さっさと終わらせちゃおうかな。
……料理を作るのは久し振りだけど、まあ、なんとかなるだろ。多分。
とりあえず、何度か失敗しても大丈夫なように材料は多目に用意しておこう。
ちなみに、作るのはクッキーだ。カロリー控えめなやつ。バターを使わないで作ればカロリーは結構抑えられるから、そうやって作るつもり。
俺にはよくわからないが、なんでか女ってのは基本的にカロリーとかそう言うのに偏執的なほど拘るからな。そうしといた方がいいだろう。
………さて、それじゃあまずは買い物から始めようか。アレルギーとかは……まあ、平気なはず。前にクッキー食べてるところは見たことがあるし。
何を作ろうか? アーモンドもいいし、メープルもなかなか。ココアや抹茶も作ってみよう。ざらめを乗っけてみたりするのもいいかもしれない。夢は広がるな。
side 五反田 弾
朝早くに枕元で携帯が震える。どうやら電話がかかってきたらしい。
画面を見てみると、そこには『鈴』の文字。こんな朝っぱらからいったいなんなんだろうな?
そう思いながら俺は震え続ける携帯電話の通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし?」
『だ……だぁん~~………ひっぐ……えぐ……』
「何があった」
鈴がマジ泣きとか、よっぽどのことがあったとしか思えないんだが……。
とりあえずえぐえぐとしゃくりあげる鈴を宥め、どうにか話ができるくらいにまで落ち着かせる。
「……それで、何があったんだ?」
そう聞いた途端に鈴の声の震えがぶり返す。しかし今度は何を言っているかわからないということはなく、しっかりと聞き取れるくらいの震えだ。
『一夏が……いぢかがぁ……』
「……一夏が?」
「…………こんな朝から起きてるのぉ…………」
……とりあえず、割と本気で頬をつねってみた。割と本気で痛かった。
……次に、足の親指の爪の付け根をかなり本気で押してみた。かなり本気で痛かった。
最後に、机の角を足の小指で蹴り飛ばしてみた。机もかなり動いたが、足の小指の爪は想像以上に痛かった。
それからもう一度携帯電話を耳に当てて、鈴に言う。
「お前疲れてるんだよ」
『あ、やっぱり? そうよね~!一夏がこんな朝早くから起きてるなんて』
急に電話の向こうで扉が乱暴に開かれたような音がした。そして、ここ最近でよく知るようになった声が早口で捲し立てる。
『り、鈴っ!一夏が、あの一夏がこんな時間に菓子を作って………っ!』
『あははははは、変なことを言うのね箒は。もしかして熱でもあるの?』
『違う!私は本当に―――』
『違わないわ。あれは疲れていて見てしまった幻覚なの……そうに違いないの………箒も、熱があるのよ……』
『う………』
『……ねぇ………箒は、疲れてるのよねぇ……?』
……こっちは聞いてるだけだが、それでもなんかおどろおどろしい雰囲気が伝わってくるぞ………。ぶっちゃけ、超怖い。
しかし、ここで再び電話の向こうでドアが開く音。それと同時にまた一夏の報告。
…………これは、本格的に不味いことになったな。もしかしたら今日で世界が滅ぶのかもしれない。一夏が約束したわけでもなく起きているなんて…………。
そこまで考えて、ふと思い付いた。もしかしたら、誰かに菓子を作って渡す約束でもしていたのかもしれない、と。
一夏は基本的に約束は守るタイプ……と言うか、守れそうな約束しかしないタイプだ。
そしてそれと同時に、家族や自分にとって近い相手には底抜けに優しい。つまり、千冬さんや他の誰かに菓子を食べさせたいと思ったりとか、そういう約束をしていたのなら…………。
「鈴!おい鈴!」
『っ!? な、なによ弾。まさか弾まで一夏が起きてたなんて妄言を……』
「誰か一夏に菓子を作ってもらうとか、そうでなくてもお礼をするとかなにかあげるとか渡すものがあるとか言われた奴はいないか!?」
俺がそこまで言うと、鈴もどういうことかを理解したらしく、そこにいる一夏に近い人間に話を聞いていく。
『ねえ箒!一夏からなにかをもらうとか、お礼をするとか言われてない?』
『い……いや、言われていないが……』
『シャルロットは!? セシリアは!? ラウラは!? 簪は!?』
『僕は言われてないけど……』
『わたくしも知りませんわね』
『私も知らん』
『……知らない』
しかしどうやらそこにいる人間には該当者がいないらしく、全員が不思議そうに答えを返してくる。
となると、一夏に直接聞くのが一番手っ取り早いな。
「鈴」
『わかってる。一夏に直接聞いてくるわ』
俺達以心伝心だな。多分親友より進んだ関係になることはないと思うが。
side 織斑 一夏
クッキーを焼き上げ、いくつか味見をしてからその焼きたてのクッキーをいくつかに分けて包む。
これを誰に渡すのかと言うと、真耶先生に渡すつもりだ。
なぜ真耶先生に渡すのかと言うと、セシリーとの決闘(笑)の時に『今度クッキーでも~~』と思ったのをすっかり忘れていたから今作っているだけ。つまり、真耶先生は俺がクッキーを作っていることも渡そうと思っていたことも知らない。ただの俺の自己満足だ。
勿論真耶先生の分だけではなく、ちー姉さんの分や鈴達の分。そして束姉さんや弾や蘭ちゃんの分も一緒に作っている。
みんなで一緒に美味しく食べればハッピーだよな。
そう考えながら、俺は一人一人の分として個別に取った袋にリボンを巻く。
喜んでくれるといいなぁ…………。
タッグトーナメント、開始……せず。
もうすぐトーナメントがあるが、それはまだ少しばかり未来の話。今は作りたてのクッキーを持って職員室に向かっているところだ。
職員室には真耶先生だけではなく、他の先生方もいるだろうからそこにもクッキーを渡しておいて、それから鈴達に会ったらその都度渡していくと言う予定を立てている。
コンコンと職員室のドアを叩くと、中から声が聞こえてくる。どうやら目当ての人はこの中にいるようだ。
「失礼します」
かららら……と軽い音を立てて職員室に入り、真耶先生の前に立つ。
「? もしかして、私になにか用ですか?」
「はい。これどうぞ」
そう言って渡すのはクッキーを包んだ袋。なぜか真耶先生はそれを両手で受け取って、呆然と俺の顔と自分の手の中のクッキーの包みの間で視線で往復させる。
「え……えっと……これって………」
「クッキーです。そこそこ自信作です。要らなかったら捨ててください」
それだけ言ってさっさと退散する。ちー姉さんは放課後じゃないと受け取ってくれなさそうだし、後回し後回し。
「ちみゃぁぁぁぁぁ!!」
なんだか職員室から真耶先生の悲鳴が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。
…………あ。他の先生達にクッキー渡してくるの忘れた。仕方無いし、もう一回行くかぁ。
俺はくるりと今歩いて来た道を引き返し始める。
……やれやれ。
なぜか俺がいなくなっていた数分にも満たない時間で、真耶先生に渡しておいたクッキーは無くなってしまっていた。
どうやら他の先生方に奪われてしまったらしく、真耶先生は半泣きになってしまっている。
そして真耶先生の周りにいる先生方の口元にはクッキーかなにかの食べかすがついており、何があったのかは一目瞭然だ。
「……はい、真耶先生。本当は他の先生方の分なんですけど、なんだかもう食べちゃってたみたいなんで」
「ぅ~……ありがとうございますぅ……」
真耶先生はクッキーを奪われたことを思い出したのか、半ば涙目の目をさらに潤ませて俺からクッキーの包み(二つ目。先生方の分のまとめだから前のよりもかなり多い)を受け取った。
「「「あぁぁぁっ!!」」」
そんな声が周りの先生方の方から聞こえたが、俺は一切気にしない。
「それじゃあ、皆さんで仲良く食べてくださいね?」
俺はそう言って、今度こそ職員室を後にした。
「ぴゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
……あーあ。俺しーらない。真耶先生も可哀想に。
………また今度、二人だけになったときにでも新しいのを渡してあげよっと。……じゃないとあまりに不憫だ。
教室に入ったら、何故かいきなりののちゃん達に詰め寄られてしまった。
どうやらいつもいつも眠ってばかりの俺が早起きしたのがなにかの病気のように思われているらしく、妙に体の心配をされてしまった。
ちょうどよかったのでその時にクッキーを渡してしまう。なんでかぽかーんとしていたが、すぐにみんな笑顔で受け取ってくれた。
ただ、クッキーを食べた直後にシャルとセシリーがorzになった。
「ま……負けた……」
「壁が……壁が高すぎますわ………」
そんなことをぶつぶつ呟いていたもんだから、理由はなんとなくわかったが………俺としてはあまりそういうことは気にしない。
飯がいくら美味くても、一緒にいて楽しくないやつと付き合おうとは思わないし、シャル達だったらむしろこっちから一緒にいてほしいとお願いしたいくらいだしね。
……あ、HRが始まる時間だ。早く座っておかないとちー姉さんに出席簿使用逆水平チョップとか食らっちゃう。
「馬鹿者。誰がそんな真似をするか」
あ、ちー姉さんだ。おはようちー姉さん。
仕事中は織斑先生って呼んだ方がいいんだろうけど、頭の中だからセーフだよな?
……よし、セーフだセーフ。俺が決めた結構前に決めた。頭の外で呼ぶときは織斑先生と呼べばいいだろ。
俺としてはちー姉さんはちー姉さんだし、呼び方一つで変わるような関係じゃないし。
昼に一組に来た鈴とかんちゃんにクッキーを渡す。なんでかぽかーんとしていたが、素直に受け取ってくれた。
鈴の好みは知っているので喜んでもらえると思ってたんだが……一年で好みが変わったのか?
だとしたら、ちょっとばかり記憶に修正を入れなくっちゃならないんだが……。
そう思っていたら、鈴は包みを開けて固めのクッキーをかじった。
「……美味しい………」
……どうやら、修正は必要ないらしい。よかったよかった。わざわざ覚え直すのって、実は結構手間だからな。
ちなみにかんちゃんの方は適当に詰め合わせた。何が好きかとかをよく知らないから仕方ないだろ?
タッグトーナメント、始まるよー
時は流れて………とか言ってみたのはいいけど、実際は精々数日くらいしか過ぎてないんだけど……まあ、その辺りは一切気にしない方向で。
何が言いたいのかと言うと、もうすぐ原作で言う束姉さんの襲撃……じゃない。タッグトーナメントが始まるってことだ。
それに合わせて俺とかんちゃんはタッグ技(マッスル・ドッキングとかそういうものではないことをここに記録しておく。そういうのもネタでやったけど、それはツープラトンで別カテゴリ)を練習していたし、かんちゃんも新(?)兵器を用意している。
なぜ新(?)なのかは、実際に使用しているところを見れば理解できるだろう。
……まあとにかく、始まるわけだ。
ちなみに、たっちゃんが考案した賭け……じゃない。優勝ペア予想応援・食券争奪戦のオッズは、本命がたっちゃんとののちゃんペア……ではなく、なぜか俺とかんちゃんペア。対抗が二年のピアノ・ルビーさんと三年のダラシ・ナイシーさん………名前のことは気にしないで。多分間違ってるから。
「……フォルテ・サファイアさんと……ダリル・ケイシーさん……だよ?」
「ありがとかんちゃん」
……何で俺はあんな変な間違いをした? 確かに音楽記号だとフォルテの逆はピアノだけどさ。
……話を戻そう。三番人気はセシリーと鈴のペア。四番がラルちゃんとシャルのペアで、その次がにたっちゃんとののちゃんのペアだ。
…………原作はもうほとんど信じてないけど、ここまで変わるともうなんか面白くなってくる。
原因はなんだろうな? 全校生徒の前でアイアンクローで気絶させちゃったことか?
……まあ、なんでもいいけどさ。
俺も賭けた。俺くらいしか賭ける奴はいないだろうと思ったが……シャルと鈴も同じように賭けていて驚いた。
俺と違って原作知識が無いのに『大会中止で決着つかず』に賭けるなんて………鈴の勘とシャルの幸運は凄まじいな。
……束姉さんの新作が来てるのかって? 来てる来てる。現在はIS学園上空で五体が大人しく体育座りで出待ちしている。
約一体はなんだか待ちきれなさそうにわくわくしてるが、あれって本当に中身が無いのか?
もしかしたら遠隔操作で束姉さんが操ってるのかもしれないが、それにしては妙だしなぁ……。
本当にかなり人間臭い。前回のアレはどうだか知らないが、もしかしたらISのコアの人格ってのは束姉さんの方でかなり自由が利くんじゃないか?
そうじゃなかったらぷちか達の性格の起点を俺と同じ『眠たがり』になんてできないだろうし。
……まあ、例えそうだったとしてもどうすることもできないんだけどさ。
できることと言えば、ぷちたばねーさんを抱き締めつつ問い詰めるとか、ぷちたばねーさんを膝にのせて頭を撫でつつ問い詰めるとか、ヘルメスドライブで束姉さんのところに転移して直接問い詰めるとか、そのくらいのことしかできやしない。
「と言うわけで束姉さん。キリキリ吐くがいい」
「いっくんの手だぁ~……はふぅ……えへへへぇ………」
「…………むぅ」
そんなわけでぷちたばねーさんの頭を撫でながら優しく問い詰めていたら、かんちゃんが不機嫌になってしまった。年頃の娘さんはよくわからない。
だが、不機嫌になりながらも擦り寄ってくるかんちゃんが何を欲しがっているのかはわかるので、久々にサテライト30の出番だ。
とりあえずかんちゃんの頭をなでりなでり。たっちゃんの髪よりちょっとだけ柔らかい髪に指を通して、ゆっくりのんびりなでりなでり。
それと同時にぷちたばねーさんの髪もなでりなでり。ちっちゃいせいか束姉さん本人より髪が柔らかい。
「ん~……」
「……んぅ……」
なんと言うか、二人とも可愛いねぇ。束姉さんも、あんまりこういう事件とかを振り撒かなければもっとちー姉さんに好かれててもおかしくないのにねぇ。ちー姉さんって実はかわいい物好きだし。
くいくい、とズボンを引っ張られているのに気が付いて下を見てみると、ぷちーねえさんがよじよじと俺の足に登ろうと頑張っているのが見えた。
…………おや? いつの間にぷちーねえさんが?
そう思いはしたが、気にしないでぷちーねえさんをぷちたばねーさんの隣に並ぶように座らせて一緒に撫でる。ちー姉さんはこうやって頭を撫でさせてくれたりはしないからなぁ………。代わりに撫でてくれるけど。
その分俺はぷちーねえさんを撫で、ぷちたばねーさんを撫で、そしてかんちゃんを撫でる。
……あ、束姉さんに何を企んでるのか聞くのを忘れた。
…………まあ、いいか。束姉さんが何を企んでるのかは知らないけど、多分悪いことじゃあないし。
享楽的で嘘つきで、人間としてぶっ壊れていて天才過ぎるのが一周半して基本的に馬鹿で、何を考えているかわからなくても………ののちゃんやちー姉さんに向ける愛情は本物だと信じているから。
……信じたいだけかもしれないって言うのが自分でも嫌になるけど。
「大丈夫ぅ……いっくんだったら大丈夫だよぉ……」
そんなことを考えていたらなんだか束姉さんからそんな声が。
まあ、気休めくらいにはなったかねぇ……。
タッグトーナメント、はい中止
ぷちたばねーさんとぷちーねえさん、かんちゃんの三人を撫でていると、急にどーん!と言う轟音が響き、目の前に全身鎧のISが降ってきた。
その形は黒いマネキンに似ているが、左腕だけは前の奴と同じようにかなりの太さがある。
その上、砲口は四つになり、それはまるで地獄に繋がっているかのようだった。
遠距離攻撃用と思われる左腕に対して、右腕は肘から先が巨大なブレードになっていて、格闘性能の点では前の物に比べて随分と向上しているようだ。
「束姉さん? なんか来たよ?」
「……ぅに~………」
ああ、ダメだこりゃ。完全にだらけモードに入ってる。
「………………(汗)」
ああほら落ちてきた方もどうすればいいのかわからなくて流れるはずのない冷や汗流してるし、もう少しちゃんと………無理か。束姉さん本体だったらともかく、ぷちたばねーさんだもんな。
悪いんだけど、もう少し待っててくれよ?
そんな感じの視線を落ちてきたISに向けると、そのISは素直にピットの端っこで体育座りをした。どうやら本格的に待つ姿勢らしい。
……なんと言うか、予想外に素直な子だな。束姉さんの作品らしいと言えばらしいんだが。
side 凰 鈴音
いきなり天井を破って降ってきた見覚えがなくもないISに、埃殺(誤字にあらず)の代わりに圧縮重複衝撃砲を連射する。
全て楯で防がれてしまっているけれど、その間にセシリアが凝縮レーザーの準備をしているのできっと大丈夫。
確かにこの楯は気持ち悪いくらいに硬いけど、セシリアのレーザーはその楯をきれいに避けながら本体に突き刺さるだろう。それで大体のISは戦闘不能になるはずだ。
……千冬さんの仕事を減らすためにも、ISのコアは粉々になるまで破壊しといた方がいいわよね? これが篠ノ之博士の新作だって言うんなら、きっと世界に認知されているコアのどれとも違うはずだから。
とりあえず、今の状況なら正当防衛になるはずだ。もしかしたら過剰防衛って本国の上の方が言ってくるかもしれないけど、いつも言っている通りにバレなければ問題ないし、バレたとしても「過剰防衛になる前に戦闘をやめろという命令が無かったもので、現場の判断で破壊しました。そして現場の判断はあたしに任されています」とでも言っとけばいいわ。
それでも騒いだら………そうね。篠ノ之博士に協力を依頼してスキャンダルてもぶちまけましょうかしら。
そうすれば騒いでいた五月蝿い口も閉じるでしょうし、一夏から離れないでも済む。あたしにとっては一石二鳥ね。
………自作のぷちか人形(大中小極小四段重ね。ただし大サイズで30センチくらい)でなんとか協力をお願いできないかしら……?
『いいよー!』
どこからか篠ノ之博士の声が聞こえた。さっきからセシリアにプライベート・チャネルを送っても全然通じない中で普通にプライベート・チャネルが通じているってことは、やっぱりこれは篠ノ之博士の差し金らしい。
まあ、協力してくれるんだったら………安い買い物だったと思わなくちゃ。ぷちか人形はまた作ればいいわ。
そうしていると、目の前で何枚も重ねられている楯から、ビギキッ!という皹の入る音が聞こえた。どうやら一枚目の楯はそろそろ限界みたいね。
「……で、そろそろいけんじゃないの? こっちは多分一枚目の楯を破壊される直前に熱線とか撃たれる気がするから早くしてほしいんだけど?」
「行くだけならばいつでも行けましたわよ? ただ、時間をかければかけるほど威力は上がりますが」
「じゃあ」
ぞくぅ!と背筋に走った嫌な予感に従い、瞬時加速で高速上昇。その直後に楯を貫通するように熱線があたしのいた所を吹き飛ばした。どうやら威力は随分と上がっているらしい。
「セシリア!」
「わかっていますわ!」
凝縮レーザーが奔り、楯をカカッと避けて上から黒いISを貫こうとする。
しかしその黒いISは、体を奇妙にくねらせてセシリアのレーザーを避けた。
「避けたわ!次!」
「あれを避けたんですの!?」
セシリアは驚愕しながらも次の弾を作るためにビットやライフルから何十発も連射する。
その隙を相手が見逃すはずもなく、黒いISは楯ごとセシリアに突撃していく。
その間にあたしが入って黒いISを押し留め、楯を払って振るわれた右の巨大なブレードと双天牙月が火花を散らす。
しかしそれも一瞬。このままでは押し負けると理解したあたしは、すぐさま双天牙月を柄を中心に回転させて黒いISのブレードを受け流す。
流されながらも次々にブレードを振り、あたしを倒そうと躍起になっている黒いISに、あたしはひたすらその攻撃を流すことで対応する。
…………けれど、それもそろそろ終わることになりそうだ。
双天牙月で流すと同時に双天牙月から手を離し、右のブレードの付け根と、ブレードに流されてかあたしの近くに来ていた左腕の手首あたりの部分を掴む。
これで箒みたいに全身からビーム出すとか、一夏みたいに空中にミサイル出してどっかんとか、ラインアイからビームとかされない限りはまず攻撃は当たらない。
そのままあたしは人間で言えば顎のあたりに膝蹴りを打ち込む。見事に体を反り返らせた黒いISの背中に、青い光球が突き刺さった。
その光球は、黒いISのエネルギーシールドを簡単に貫き、装甲を撃ち抜き、そして見事にコアに食い込んだ。
「……溜め時間が三秒もなかったにしては、随分と威力高くない?」
「三秒ではありませんわ。それはさっき一度外した方です」
「はぁ!?」
話を聞いてみると、セシリアは地面の中でBTエネルギーのスフィアを作って保持していたらしい。つまりあれは一度外しはしたが、それそのものが囮だったと言うわけだ。
「そもそもレーザーが進行方向以外から見えると言うことは、それだけ大気中でエネルギーが散ってしまっていると言うことです。漏れ出るエネルギーを最低にして球体を作れば、誰にも見えず、そしていつまでもエネルギーを保持することができると言うことですわ」
「……空中でそれやったら機雷がわりになりそうね」
「わたくしも考えましたが、レーザーを束ね、凝縮し、完全制御状態のまま空中にスフィアを作るにはまだ実力が足りず……8発分を42箇所に置くのが精一杯なのですわ」
あたしはそれでも十分使い物にはなると思うけどね。
……あたしも衝撃砲で撃った衝撃の速度を変えられればなぁ……そうすれば重複衝撃砲がもっと簡単になるし、威力も上がるのに。
あたしはそんなことを考えながら、黒いISからレーザーの熱で溶けてしまったISコアを引きずり出した。
……一応、千冬さんに渡しておきましょうか。