IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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タッグトーナメント、中止だよ?

 

「……おーい、束姉さーん?」

「…………うにぃ……」

 

ぷちたばねーさんのほっぺをむにむにと引っ張ってみたり、頭を気持ち強めに撫で回したり、色々なことをやってみたんだかいまだにぷちたばねーさんはぽけーっとしている。ぷちーねえさんとかんちゃんも同じようになっているんだが………もしかしたら俺はナデホでも持っているんじゃなかろうか。

 

……解説しとこうか。ナデホとは、撫でるとポッと惚れられる……のではなく、撫でられるとなんとなくほっとしてしまい、とても落ち着くと言うものだ。ナデポの類似品だが、こちらは割と現実世界でも限定的だが持っている人もいる。

例えば、俺の前世のばあちゃんとかは持っていた。撫でるのが凄まじく上手で、いつも気付いたら撫でてもらいながら寝てたなぁ……。懐かしい話だ。

 

ちなみにこの世界でも鈴と弾とののちゃん、それとシャルとかんちゃんとちー姉さんと束姉さんが持っているのを確認している。

蘭ちゃんは昔弾のナデホにやられてほっとしてから少し性格とかが丸くなったとか。ナデホすげえな。

 

そこで、体育座りで俺達のことをじっと見つめている黒いISを呼んでみた。

 

「……」

 

結構素直に寄ってきたので、なんとなく頭を撫でてみる。

 

……よしよし…………と。

 

 

 

 

 

side ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

突然に天井を破って落ちてきた黒いISを、とりあえず敵性だと判断して殲滅することにした。

 

「そう言うわけだ。とりあえず殲滅だ」

「と……とりあえずで殲滅するのはまずいよ!? もしも味方だったりしたらどうするのさ!?」

「シャルロット。戦場では流れ弾と言うものが存在してだな……」

「なに言ってるのラウラ!? 怖いってば!なにが怖いってラウラが言うと冗談に聞こえないのがすっごい怖い!」

「……冗………談…………?」

「きょとんとしてるラウラは可愛いんだけど言ってることは無茶苦茶だ!?」

「だがなぁ……ほら、見てみろ」

 

私が指差した方向には、私達に巨大な左腕の掌にある四つの砲口を向けている黒いISがいた。

 

「シャルロット。お前はあれが味方などの友好的な相手に見えるのか?」

「………ちょっと……無理かな」

 

シャルロットがそう答えた瞬間に、黒いISの掌からかなりの高熱を思わせる赤混じりの白い熱線が放出された。

 

「……さて、それではとりあえず殲滅と行こうか」

「……うん、そうだね」

 

今度は流石にシャルロットもしっかりと頷き、その両手に武器を展開した。

だが、展開した武器はどうやらいつも使っているそれとは違うらしく、どれもこれも見慣れない形をしていた。

 

「シャルロット? その武器は……」

「これ? ちょっと色々あってね。僕に会社から送られてきたやつの中で僕に合ったやつを選んで使うことにしたんだ」

 

道理で見たことのない武装ばかりな訳だ。まさかデュノアの新作とはな………。

最近のデュノアはIS事業からは半ば撤退し、ISそのものではなくISの武器製造に力をいれていると聞く。

それらの武器は性能が高く、今までデュノアが売りに出してきたそれに比べて格段に上昇していたために誰かから技術を買ったのではないかという話まであるほどだ。

 

そんなデュノアの最新の武器。現在のIS乗りなら欲しいと思わない方が珍しいだろう。

 

「まあ、この話はまた今度ね」

「ああ。今はこの黒いISを潰す方が先だな」

 

私とシャルロットは狭いピットの中を飛び回り、黒いISに狙いをつけさせないまま前から後ろから上から右から左から攻撃を加えていく。

黒いISはこの状況を打開するべく接近しようとしたり、私たちを狙い撃とうとしているが、その度に逆側にいるもう一人に出鼻を挫かれて動きを止められる。

 

……さて、それでは早めに終わらせて周りと状況確認と行こうか。

このくらいならば鈴やセシリアの方がよほど恐ろしい。一夏となど比べるまでもない。どれほど固くても、どれだけ威力があっても、ただそれだけなら裏をかいて騙し討ちをして一撃だけでも食らわせてしまえばそれで終わる。

相手は固いだけで不死身でも壊れないわけでも一夏でも教官でもない。ならばいくらでも勝つ方法はある。

 

……そう、例えばこんなこととかな。

 

AICを黒いISの足先に一瞬だけかけて動きを抑制し、その隙に私とシャルロットが左右から黒いISの手を片方ずつ掴む。

そのまま私達は黒いISの背中に移動し、両腕を引っ張りながら同時に黒いISの背中を蹴り飛ばした。

 

ISは、絶対防御で守られている。それはほぼ全て(一夏のシロはそれすら機動に回してしまうことがあるため、全てとは言えない)のISに共通することだ。

しかしその絶対防御も完璧ではなく、大威力の攻撃を当てれば貫通させることもできるし、そうでなくともとある種類の攻撃にはほぼ無力と言ってもいい代物であったりもする。

 

それを証明するかのように、今まさに黒いISの両腕が肩からへし折れ、引き千切られようとしている。

この技はこうして肩の関節に負荷をかけ、あわよくば肩をへし折るための技だ。

ただし、練習では私とシャルロットのどちらかの出力が強くて両腕を引き千切ることができなかったのだが、それでも片腕は確実に奪えたために実戦で実行した。

 

まさか最良の結果である『両腕を引き千切る』ことができるとはあまり思っていなかったのだが……運がよかったな。

 

バギィン!という音をたてて、両腕を失った黒いISを私とシャルロットの二人で踏みつけるようにして床に叩きつける。特殊合金製の床に叩きつけられ、黒いISの頭の部分がひしゃげる。

 

「……うん。この技は人相手にはまず使っちゃダメだね」

「そうだな。使うならば正当防衛あるいは一夏を助けるためでなければ私もあまり使いたくはない」

 

そう言いながら、私は左右のプラズマエッジを伸ばして黒いISを貫く。シャルロットも人間が乗っていない機体には容赦をせず、追撃でショットガンを連射して両足を可能な限り潰しにかかっている。

 

「コアは、私のプラズマエッジで貫いてしまった」

「そうなの? ……って、そんなわけないか。………わかった、そういうことにしとく」

「感謝する。シャルロット」

 

それではこのコアは、誰にもわからないように教官に渡しておかなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグトーナメント、中止だってば

 

なでりなでりと黒いISを撫でてみたんだが、なんでか空気がさらに緊迫感を無くしてしまった。

……いや、なんでかというのは間違いだな。流石にこれは原因わかるし。

 

黒いISは俺に撫でられてなんだか空気が緩んでいるし、ぷちたばねーさんとぷちーねえさんは言わずもがな。かんちゃんもとろーんと目元を緩めているからツッコミがない。

そんな状態になってしまったのは、きっと俺がこうして撫でているからなんだろう。ナデホは練習すれば誰でも……とは言わないでもできるようになるから俺ができてもおかしくはないんだが、やっぱり俺はナデホする側じゃなくてナデホされる側だと思うんだよな。うん。

 

……間違ってないよな?

 

「……………」

「はいはい、束姉さんとちー姉さんが起きるまでは撫でといてやるよ」

 

黒いISとの戦闘は、まだ先のことになりそうだ。

……やれやれ。随分と原作から外れたものだ。大筋はともかく、細かい筋はもうあてにならないな。

……その方が楽しそうだからいいけどさ。

 

ところで、他の皆は大丈夫かね? ダルイさんとフォクシーさんは自力で何とかするだろうし、それ以前に割とどうでもいいけど、ののちゃん達は心配だ。

怪我してたりとかしてないかな? してないといいなぁ………。

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

「……えっと……箒ちゃん? 質問があるんだけど……いい?」

「? はい、なんですか?」

 

私が視線を向ける先では、楯無さんが口許をひきつらせたまま私に問いかけている。

ぱくぱくと何度か口を開閉して、それからもう一度口を開いた。

 

「…………私の出番は?」

「ごちそうさまでした」

「全部食べられちゃってる!?」

 

ちなみに、私の足元には黒いISだったものの破片とコアが散らばっている。そのうちコアは勝手に紅椿の中に入ってきたが、どうやら悪いようにはしないようなので放置している。

紅椿の強化に役立つために姉さんが送り込んできたのかどうかは知らないが、とりあえず姉さんがやることなら最終的に悪い方には行かないだろう。

 

ちなみに、私がこの黒いISを壊した方法は不意討ちだ。落ちてきたところをすぐさま空裂を使った新技で切り捨てた。

そのやり方は、空裂を振ると出る帯状のエネルギーを圧縮し、刀身に纏わせたまま相手を斬りつけると言うもの。

圧縮したまま放てば遠距離攻撃にもなり、更に捻りを加えて突けばドリルのようにもなるという使い勝手のいい技だ。

 

ちなみに雨月でも同じような事ができ、通常は何発も出てくるエネルギー弾を纏めあげて威力を上げたり、自動で持っていかれるエネルギーを割り増しして威力を上げたり、同じように剣に纏わりつかせて近距離でのほぼ一撃必殺(殺さないぞ? ただの比喩だ)の攻撃へと変えたり、そんなことが紅椿にはできてしまう。

 

……そして一番恐ろしいのは、それらのことで威力を底上げするためにエネルギーを過剰に送り込む行為に上限が存在しないということ。それはつまり、絢爛舞踏で生み出したエネルギーを全て一本の刀身に込めて斬撃を行うことができると言うことだ。

 

全身の展開装甲から真紅の光刃を生やし、両手に深紅のエネルギーを纏う双剣を持ち、真紅のエネルギーの尾を引きながら剣を振るう。まさしく【絢爛舞踏】だな。ここまで考えてこの名をつけたのならば、恐れ入る。

 

……まあ、確実にそこまで考えられているのだろうが。流石は姉さんだ。

 

『えっへん!すごいでしょー? 束さんは頑張ったのだ!誉めてくれてもいいんだよ?』

 

とりあえず今度会った時に頭を撫でておこう。よしよし、と。

 

『わーい!』

 

喜んでくれて何よりです。

 

…………さて、それじゃあこの残骸は楯無さんに任せて、私はのんびりと休むことにしようか。

エネルギーを操作し、応用する技は使うと中々に疲れる。穿千の高威力圧縮エネルギー砲の応用技まで使うことにならなくてよかった。あれは本当に疲れるから、連発すると一夏のように眠ってしまう可能性が高いからな。

今でも結構辛いのに、そこにあの疲労が来ては色々と不味い。

 

紅椿を解除し、壊れていないベンチに腰掛ける。

恐らく一夏のところにも同じものが行っているだろうが、私に倒せたのならば心配はいらないだろう。

むしろ相手の方を心配するべきだな。はっはっはっは。

 

…………ふぁ……。

 

「ちょ、ちょっと箒ちゃん? なんで眠たそうなの!? 一夏君のことはどうするの!?」

「……一夏なら大丈夫でしょう。今も一夏の気配が二つ感じられますし、ぷちか的な姉さんとぷちか的千冬さんの気配が一つずつ。それに簪の気配もしっかりと感じ取れます。恐らくこれはリラックス状態ですし、戦闘はもう終了しているか、もしくは始めから敵が来ていなかったと言う可能性もあります」

「なんでそこまでわかるの!? 普通は無理よ!?」

「嫌ですね楯無さん。一般的とか普通なんて言葉は、所詮他人が積み重ねてきた行動の大多数のことを言うのです。その大多数の中に私はいなかったというだけの話ではありませんか」

 

……それにしても、なんだか私もよく舌が回るようになってきたな。それに、気配一つで相手の状態などを把握することもできるようになってきた。

これならば、いつでも一夏が寝たいと思っている時に一夏の所に行って抱き枕になることができる!

 

そうと決まれば私は眠るとしよう。一夏が眠りたい時にいつでも一緒に眠ることができるようにせねば!

 

「ちょっと箒ちゃん!? 本当に寝ちゃうの!?」

 

そう叫ぶ(ツッコむ)楯無さんをスルーして、私はベンチに横になった。

こうなればタッグトーナメントは中止だろうし、面倒なところが終わるまで眠っていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグトーナメント、なくなりました

 

はっ!とぷちたばねーさんとぷちーねえさんが正気に戻り、ててててててっ!と走ってピットから逃げ出してから30秒。かんちゃんを復活させて黒いISを撫でるのをやめ、そして簡単に状況を説明してから黒いISに向き合う。

……うん、何て言うか、本当に待っててくれてありがとう。

 

「……つまり、私達はあの黒いISを倒せばいいの……?」

「そういうことだね」

 

かんちゃんがおおよその話を理解したところで、俺とかんちゃんは黒いISに顔を向ける。

黒いISはそんな俺達の視線を真正面から受け止め、そして俺達をそのラインアイで見詰め返している。

そこにはさっきまでのような緩んだ空気は存在せず、俺達に敵対するという断固たる意思が存在していた。

 

「……一夏」

「ん。行こうか」

 

かんちゃんはISを展開し、IS用の薙刀を展開する。

それと同時に俺も雪片弐型を展開して、黒いISに向けて構える。

……さて、戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

side 更識 簪

 

一夏に頭を撫でてもらっている間に現れていた黒いIS。少し前までの私だったら逃げていてもおかしくなかったそれを目の前にして、私は別段恐怖を感じてはいなかった。

正確に言うと、怖くはあった。けれど、所詮はこの程度と笑い飛ばせてしまう程度の恐怖しか感じなかった。

 

なぜなら、私の隣には、世界の誰より頼りになる、私の大好きな人が居るからだ。

 

一夏が隣にいてくれるなら、私は本部長のように空間を跳び越え、何人も同時に存在し、世界をねじ曲げることだってやってみせる。

……流石に、ちょっと人間離れしちゃっているという自覚はある。けれどこのくらいできないと、きっと一夏についていけなくなる日が来ると思うから、後悔はしていないしする気もない。

 

私は【夢現】を構え、黒いISに向き合う。その腕のブレードや砲口はやっぱり恐いけど……一夏と一緒だから、頑張れる。

 

ゴッ!と言う音と共に黒いISの太い方の腕から熱線が放たれる。私達はそれを短距離瞬時加速で回避し、すぐに私達に都合のいい場所にステージを変える。

狭いピットの中では、シロの超高速機動も私のミサイルも使えない。あまりに狭すぎて自爆してしまうからだ。

今の私達が使える武器は、近接用の雪片と夢現。それから跳弾の心配が無いエネルギー系の射撃武器の荷電粒子砲と、けして多くはない。だからこそのピットからアリーナのフィールドへの移動だ。

 

一夏の持つブレードが白く輝き、アリーナのシールドを切り裂く。

切り裂かれ、口を開いたシールドを通り抜けてアリーナに入る。私達に続いてあの黒いISが飛び込んできて、ようやく私はまともに戦うことができるようになった。

 

「じゃあ、パーティーを始めようか」

「うん!」

 

そして私達が呼び出すのは、何度か一夏も使ったことがある悪夢のような武装。私と一夏が同時に呼び出したそれの名前は―――

 

「「ジェノサイドサーカス!」」

 

刹那。無数のミサイルの弾幕が黒いISに降り注ぎ、その動きを強制的に縫い止める。

黒いISはシールドユニットを使ってミサイルの雨を防いでいるけれど、ジェノサイドサーカスの前では耐え抜くことはあまり意味がない。

なぜなら、ジェノサイドサーカスの弾数は文字通りの無限。いくらシールドユニットを使って耐え、エネルギーが多く、効率がよかったとしても―――無限の弾幕の前ではいつかその数に溺れてしまう。

 

そうならないためには弾幕を避けて私達に攻撃を加えるか、私達ごとミサイルを纏めて攻撃するか、尻尾を巻いて逃げるかしか無い。

けれどあの黒いISは、耐える道を選んだ。つまり、この勝負はもう詰んでいるも同然だ。

 

ジャミングのお陰でミサイルの照準はつけづらかったが、ここまで多ければそんなのはほとんど関係ない。文字通りの絨毯爆撃で、アリーナの床や壁ごと壊れるまで撃ち続ければそれで終わる。

……なんだか、ちょっと一夏に染まってきちゃってるのかな……?

そうだとすると……嬉しいけれど、やっぱりちょっと恥ずかしい。一夏色に染まるなんて………ま、まだ私には早いと……っ!

 

「かんちゃん? 顔が真っ赤だけどどうかした?」

「別に……なんでもない……。………私は一夏のことが……す、好きっていうのを……再確認してただけ、だから……」

 

……ああ、なんだか顔が凄く熱い。きっと、一夏の言った通りに真っ赤に染まっているんだと思う。

 

爆煙と爆炎と爆風と衝撃とに包まれながら、私はそんなことを考える。もうちょっとロマンチックなところがよかった……と思わないでもないけれど、一夏だから仕方ない。

 

私はそっと一夏に寄り添ってみる。一夏は雪片弐型を持っていない左手で、私の頭を撫でてくれた。

……ちょっとごつごつしていたけれど、十分優しい撫で方に、私はなんだかほっとした。

 

…………ほぅ……。

 

 

 

 

 

side ダリル・ケイシー

 

「なあ、フォルテ」

「なんスか、先輩」

「……もしかして俺達、かなり蔑ろにされてねーか?」

「……そっスね。頑張ってみても出番はこれだけっスしね」

「…………しっかりコアを壊さないように、頑張ったのになぁ……」

「…………仕方ねっスよダリル先輩。うちらまだキャラがしっかり固定されてないんスから」

「……メタ発言だぞ~……」

「……たまにはこんな愚痴も言いたくなるのが人間っスよ」

 

…………はぁ……。やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘後には、睡眠タイム

 

戦闘が終わった後には、皆で一応身体検査をしてから解放される。取り調べは明日になるらしいが、明日は蘭ちゃんの所の学園祭なんだよなぁ………どうすっか。

……よし、サテライト30で分身しよう。あれはもう一人の自分を作る能力だから取り調べも受けられるし、蘭ちゃんの所の学園祭にも行ける。大丈……夫……大………じょ…………。

…………すか~……。

 

 

 

 

 

side シャルロット・デュノア

 

一夏が猫耳を着けていたので、僕も猫耳をつけてみた。

流石に一夏の耳みたいにぴこぴこ動いたりはしないけれど、それでも結構細かく作り込まれているから見苦しくは……無いよね?

 

「ふふふふ……シャルロット? そういう格好をするなら誇りなさい? じゃないと恥ずかしいだけよ? 楽しみなさいな」

「う……うん……って鈴!? なんで鈴も猫耳!?」

「あたしがつけたかったからよ。文句ある? あってもよっぽど重要な理由がなければ無視するけど」

「えぇ………」

 

いつの間にか僕の隣に佇んでいた鈴も、なぜか頭に黒い猫耳がくっついていた。そして鈴は、すやすやと眠っている一夏の隣に潜り込んでいった。

そしてそのすぐ後に、その布団からぴょこりと顔だけ出して僕に言う。

 

「ほら、シャルロットも入ったら? 多分途中で千冬さんに放り出されると思うけど」

「なんでそれがわかってるのに一夏の布団に入るの!?」

「あたしが一夏を愛しているからよ。……ラウラは直接ここに来るけどね」

「いつもいつの間にかいなくなっていつの間にか帰ってくると思ってたら、いつもいつも一夏のところに来てたの!? 狡いや!!」

「いいからシャルロットも早く入りなさいよ。ラウラはもう来てるわよ?」

「早っ!?」

「……もちろん」

「わたくしたちも」

「いるぞ?」

「なんで!? さっきまで一夏の布団の膨らみって一人分だけだったよね!? いったいいつから……いや、どうやって入ったのさ!?」

 

僕の素朴な質問に、なぜかそれぞれ犬やら猫やら兎やらといった動物の耳をつけている皆は、寝間着のまま僕に言った。

 

「愛だ」

「愛……」

「愛ですわ」

「当然、愛よ」

「……く~……」

 

……ラウラは寝ていて答えは返って来なかったけれど、起きていたらきっとみんなと同じことを言ったに違いない。

なんだか力が抜けちゃった僕は、ごそごそと一夏の布団に潜り込む。一夏のベッドは大きいから、僕達が全員入ってもまだ余裕がある。

……たくさんの人が入っているベッドの中は、なんだかぽかぽかしていて眠くなってくる。ラウラじゃないけど、すぐに寝ちゃいそうだ。

近くにいた誰かを抱き締めて、僕は目を閉じる。多分これは、セシリアかなぁ……?

 

…………おやすみなさい。みんな。

 

…………く~……。

 

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

……恐らく束の仕業であろう襲撃事件の後始末のうち、今のうちにできるものはできる限り終わらせてから寮長室に戻る。

一夏分が足りないが、それは明日の取り調べで膝の上に座らせながらの取り調べで補給できるだろうから………それまでの我慢だ。

 

……ふと気付いたとき、私の手は一夏の部屋のドアを開こうとしていた。どうやら気付かないうちに一夏を求めてこんなところにまで来てしまっていたらしい。

私は扉から手を離し、後ろ髪を引かれるような気分でその場を後にした。

一夏と寝ることができないのは痛いが、それでもどうにかして我慢しなければならない。

私が一夏にここまで甘いと言うことが委員会に知られれば、一夏の取り調べは私ではなく別の誰かがすることになってしまう。それでは取り調べの記録を改竄したり、一夏を効率よく守ることができなくなってしまう。

そうなっては困るのだ。私は一夏を護りたい。あらゆる害から。私の手の届く限り。

 

…………だから今は、我慢だ。

 

私は私にそう言い聞かせ、深く大きく深呼吸をする。

……さあ、寮長室に戻ろう。そして明日の取り調べのことを考えながら、早く眠るとしよう。

 

 

 

そう考えていた矢先に、私は一夏と同じ布団で寝ている。

だが、私が我慢できずに一夏の部屋に行き、小娘共を千切っては投げ千切っては投げして一夏を独占したわけではない。私の部屋のベッドの中で、一夏がすやすやと眠っていただけだ。私は悪くない。

 

勿論一夏は抱いて寝た。一夏分を補給するのは現時点ではかなり優先するべき出来事だったし、そうでなくても一夏分はあればあるほといいものだ。

一夏がそこで寝ているのに、一夏を抱き締めないと言うのはもはやそれは罪だ。私が決めたそう決めた。

 

だが、私はなんと言われようと誰彼構わず一夏を抱き締めさせはしない。

理不尽? だからどうかしたか? 一夏は私のものだ。誰にもやらん。

 

…………いや、一夏が認めた相手ならば話は別だが………とりあえず、まだ一夏は私のものだ。

 

私は一夏の頭を撫で、優しく抱き締める。

 

……お休み。一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り調べと、学園祭

 

目を開いて二秒で鈴。一秒目は眩しくてよく見えず、二秒目で目が明かりに慣れてきて鈴が見える。間違ってない間違ってない。

 

……えーっと……確か今日はIS学園の取り調べと、蘭ちゃんのところの学園祭だな。とりあえずシルバースキンを着て行こう。マゾカがあそこに居たから、もしかしたら殺しに来るかもしれないし。

まあ、本当はそんなのが無くても平気なんだが、そこは前にも言った通り生身でそれはマズいからカモフラージュはしとかないとな。

……手遅れだって? そうかもしれないが、気にしない。

 

さてと。それじゃあ俺はさっさと行こうかね。真耶先生に呼ばれて取り調べを受けるのは、ちー姉さんの所にいる俺でいいだろ。

シルバーカーテンで姿を隠し、シロとクロをステルスモードに切り替え、エアライナーで作った道をモーターギアを片足に二組ずつ使ったスカイウォーカーモードで駆け抜ける。

モーターギアのスカイウォーカーモードなら普通に空を飛ぶこともできなくはないが、やっぱり地面の上を走る方が速い。だからこそのエアライナーだ。

エアライナーで空中に足場を作ってやれば、モーターギアは空を飛ぶのの約二倍くらいは速くなる。

……物理法則を考えれば二倍程度だとむしろ足りないような気がしなくもないが、まあ、便利だからいいだろう。

 

よし。それじゃあ窓を開けて、エアライナーを引いて、行ってきまーす。

 

 

 

目が覚めて二秒でちー姉さん。ついさっき……と言っても正確には俺の部屋から出ていった俺が起きたのより少し早いんだけど、ついさっき出ていった俺とは別の俺だ。

 

ちー姉さんは随分疲れているらしく、俺が起きているのにまだ眠っている。

……こうしていると、まだちー姉さんが家によく居た頃を思い出す。

俺は眠いのを我慢して、毎日朝昼晩と食事を作ってたっけな。

……ああ、懐かしい。実に懐かしい。あの頃はまだ社会のことをあんまり考えずに動けたのになぁ……。今じゃあ俺もちー姉さんも自由に動けやしない。

……やれやれ。困ったもんだ。

 

だが今はそんなことは考えず、ちー姉さんの髪を梳く。なんだか弛んでいた頬がさらに弛み、俺を抱き締める腕の力が増した。

ここ最近は色々あって疲れていたんじゃないかと思ってたんたが、妙につやつやしている。昨日の午後はなんだか少し肌がかさかさしていたような気がしたんだが、まるでそれが気のせいだったかのようだ。

 

今はさっき言った通りになんだかつやつやしているから別にいいけど、ちょっと心配だったんだよね。ちー姉さんって理性的に無茶しちゃうタイプだから。

無茶だとわかってて無茶しちゃうちー姉さんって、見てるとちょっと怖かったりするんだよ。

 

……お、ちー姉さんが目を覚ます。

 

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

ゆっくりと目を開くと、私のことをほっそりとした目で見つめている一夏が私の腕の中に居た。

とりあえず一夏を抱き締め、頬擦りし、その香りを胸一杯に………おや、なぜか鉄の匂いが混ざって……。

 

「ちー姉さん。鼻から赤いの出てるから。鼻血が出てるから」

「む、そうか」

 

……やれやれ。急速に新鮮な一夏分を吸収しすぎたせいで愛が滲み出してしまった。

ぺろりと溢れた愛情を舐め取り、それからまた一夏を抱き締める。

 

「……ちー姉さん。ちょっと……苦しいかも」

「ああ、すまない」

 

腕の力を抜くと、一夏は私の首元に顔を埋める。

それから私の頭を抱き締めるようにして、私の耳元で囁いた。

 

「おやすみ。ちー姉さん」

「ああ。お休み」

 

そう言うと一夏はゆっくりと寝息を立て始めた。どうやらすぐに眠りに落ちてしまったらしい。

私はそんな可愛らしい一夏を抱き締め、ゆっくりと頭を、背中を撫でる。

 

………………ん? なにか忘れているような……?

私は寝起きのせいか、それとも一夏を抱き締めているせいか、奇妙なほど鈍い頭をできるだけ回転させて思い出そうとする。

 

……そうだ。今日は取り調べがあるのだったな。昨日の夜は一夏と一緒に眠れるとは思っていなかったため、今日の取り調べで膝の上に一夏を乗せて……等と言うことを考えながら部屋に戻ってきたんだった。

 

……だが、今の私はその程度では満足しない。膝に乗せたら常に一夏の腹を直接私の手でじっくりたっぷりねっぷりと撫で回し、眠りそうになったら耳に息を吹きかけたり、耳朶を甘噛みしたりして起こしてやろう。

多少腹を撫でている手が上向きや下向きに『滑る』ことや、なかなか起きない場合には首筋や耳を私の舌で擽って起こすこともあるだろうが、まあ、いいだろう。

 

……いやいや、これはセクハラではない。尋問だ。取り調べだ。

一夏にとっては寝れないというのはきついことのはずだが、こちらも仕事だし、一夏をIS管理委員会の屑共から守るためにもしっかりとした調書を作らねばならないからな。

 

………誰にも見られることはないし、時間もたっぷりあるからと言って、一夏を食べる気は無い。一夏は基本的にそういった欲求が薄いし、二年ほど前に一夏を風呂に連れ込んだ時にも大した反応は返ってこなかったからな…………悔しいことに。

だから今も一夏にセクハラ紛いのことをしても一夏はくすぐったがるだけだろうし、問題はない。

 

つまり、これは正当だ!

 

…………とは、言わない。いくら暴走気味とは言え、私は理性はあるからな。

……たまに理性を振り切っていつの間にか手や体が動いている時もあるが、その辺りはあまり気にしなくても大丈夫だろう。

 

とりあえず、こうして気持ち良さそうに寝ているところ悪いが、一夏には一度起きてもらうとするか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭、こうなるよね

 

蘭ちゃんの通う…………なに学園だっけ? 聖クロニカ学園だっけ? 忘れたけど。

……ついに人名やIS名だけじゃなく、学園名まで覚えられなくなったか?

 

……IS学園。藍越学園。そういう訳じゃあないらしい。普通に覚えてなかっただけか。

 

……とにかく、蘭ちゃんのいる学園に到着した。途中でIS用のライフルの弾とかが飛んでくる……なんてことはなく、実に平和だった。

ただ、人の視線が突き刺さってくる。まあ、想定の範囲内だな。シルバースキンって帽子をかぶって顔を隠していると普通に怪しいし、シルバーカーテンを解除してすぐだといきなり現れたようにしか見えないもんな。

 

そこで、さっさとシルバースキンの帽子を脱いで顔をさらす。別にそれで困ることは……いや無くはないけど無いと言うことにして、それからポケットから出したヘルメスドライブを使って蘭ちゃんを探す。

ついでに眉間にライフル弾が飛んできたのでヘルメスドライブで叩き落とし、モーターギアをお返しに飛ばしておく。まったくマゾカは。予想通りにならなくて良いところばかり予想通りにしやがって。

 

……あ、蘭ちゃん発見。ここは……生徒会室かね? 三階だけど。

 

流石にこれだけの人目のある中での転移は不味いので、歩いていくことにしよう。

……それも、学園祭が始まってからのことだけど。

それまではのんびり待っていようかね。

 

 

 

 

 

side 五反田 蘭

 

なんだか学園中がどたばたと騒がしい。毎年学園祭の時期はこんな風だけど、どうしてか今日はいつもより騒がしいような気がする。

ふと窓の外を見てみると、校門のところに人がずいぶんと集まっている。いったいどうしたんだろう……?

 

「五反田さん!ニュースニュース!」

 

急に扉を開いて現れたのは、私と同じ生徒会役員の一人で、私の友達だった。

いったい何がニュースなんだろう……? と思っていたら、その娘はある種信じられないような話を始めた。

 

「今校門の所に銀色のコートを着た男の人が来てるんだけどさ!なんとそれがあの織斑一夏なんだよ!」

 

………………え?

 

呆然としている私を置いて、その娘は話を続ける。

 

「どうも誰かに呼ばれたみたいなんだけどね? チケットを確認しに行ったシスターが言うにはちゃんとチケット持ってたみたいで、誰が呼んだのか話題に……五反田さん?」

 

名前を呼ばれて思考の渦から抜け出す。

…………とりあえず、一夏さん。来るの早すぎです。

 

私は頭を抱えてしまう。これじゃあどう考えても目立っちゃう……こ、恋人とか思われちゃうかも……。

……既成事実って言葉はいい言葉だってお兄も言ってたけど………いいかも。

 

そうと決まったら迎えに……ああでも生徒会の仕事がまだ終わってない………一夏さんは鈴さんや箒さんみたいにしっかりした人が好みだと思うし……ああでもこうしている間にも一夏さんに声をかける人がいるかもしれないし………いやいや一夏さんがついていく筈が無いって言うことはわかるんだけどそれでも心配で………………。

 

……よし。できる限り早く仕事を終わらせて、そしてすぐに一夏さんを迎えに行こう。そうすれば一夏さんに声をかける人を駆逐することが………いやいや何を考えているの蘭!駆逐しちゃあ駄目でしょ!ただ一夏さんは私の者(誤字にあらず)だって見せつけるだけなんだから!とりあえず手を……いやいや手を繋ぐくらいじゃまだまだインパクトに欠けるから、とりあえず腕を組むくらいはしないと!それからクレープを食べたり学園中を二人で歩いて回って一夏さんにあーんで食べさせて一夏さんにあーんで食べさせてもらってちょっと失敗してほっぺにくっついたクリームを指で取ってもらって……一夏さんが舐めるの? それとも私が舐めるの? 舐めるって……一夏さんの指を? ………いいわね。このくらいしないと鈴さんや箒さん達には届かないと思うし……今はとりあえず仕事よ仕事。これはこうでこっちはこれで、ここをこうして……あ、誤字見つけた。後で訂正させとかなきゃ。これ書いたの先生だけど、間違いは間違いだもんね。なんだか周りがゆっくり動いている中で私だけが普段の倍速で動いているような感覚があるけど気にしない方向で行くわ。具体的には周りの早さがいつもの25分の1くらいで、私がいつもの2.2倍くらい? もうちょっと早いかもしれないけど、それはもうどうでもいいから早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くっ!

 

………あ、もう書類が無い。ってことはこれで仕事は放課後まで無いわね。それじゃあ早く行くわよ蘭!

 

私はまだゆっくりしている空間の中で、シスター達に見つからないように全速力で移動する。走ってないわよ? 跳ねてるの。校則違反じゃないわ。

生徒達の長である生徒会長が校則を犯すわけにはいかないものね。

でも校則に『敷地内で走ってはいけない』っていう記述はあっても、『敷地内で跳んではいけない』なんて言う記述は無いから……大丈夫大丈夫。

 

詭弁? 屁理屈? そう言うならシスター。あなた達の理論でこの私の言い分を論破して見せなさいよ。確かに校則には『跳ねてはいけない』とか『時速~キロメートル以上の速度を出してはいけない』なんて言う記述は無いわ。書いてないなら大丈夫なのよ。

常識的な行動をすることとは書いてあるけど、常識なんて人それぞれでずいぶん変わるからあてになんてならないし。

 

…………それ以前に、今の私を止められるとは思わないけれど。

 

 

 

校門が見えてきた。それと同時に一夏さんと、シスターが数人見える。

 

「なぜ早く来てはいけないのですか? そんなルールはどこにも無いはずですが」

「敷地内に部外者が入ることは禁止されて」

「ここはあなた達の学校の敷地内ではなく。校外です。校外であると言うことは、貴女方の決めた校則はこちら側には関係の無いことであり、私がどこに立っていようが文句を言う権利は貴女方にはありません。私は通行の邪魔になりましたか? 生徒や職員に被害がありましたか? 今の貴女方は、家の前にバス停があってそのバスのクラクションが五月蝿いからとバスの運転手に殴りかかるような方と変わりありません」

「し、しかし、」

「しかしなんですか? 男の癖に生意気だとでも? それとも教師の面子や下らない個人のプライドで引くに引けないとか? そんなものはさっさと捨てるべきだと思いますが? 教師としては、間違ったことをしたならすぐにそれを認め、そして次の機会に活かすと言うことを大切な生徒達に教えなければならないのでは無いでしょうか?」

「う……」

 

……一夏さんだなぁ……そう言えば昔もこうやっていろんな人を言いくるめたりしてたっけ……。

私も何度かこうやって正論で押し込まれて、詭弁と屁理屈を所々に混ぜ込まれてもそこを論破できずにさらに押し込まれて、そして最後にちょっと誉められたり持ち上げられたりしてうやむやにされちゃった人を見たことあるし……。

 

「……まあ、貴女は『怪しい人影がある』とか言う報告を確認しに来たんでしょう? そしてその場所に俺がいて、色々と話を聞こうとしたと」

「……はい」

「職務に真面目なのは良いことですが、猪突猛進は駄目です。もっと周りを見て、状況をしっかり確認してからやるようにしましょうね。何度も言いますが、職務に真面目なのは良いことです。私は色々言いましたが、貴女も貴方なりに生徒達のことを考えていたんですよね? それは実に正しいことです」

「……はい」

 

あ、一夏さんが纏めに入った。こうして『最低でも自分は悪くなく、そして相手は正義感からのちょっとした暴走をしてしまったために情状酌量の余地あり』で終わらせるつもりなのかな?

まあ、一夏さんらしいよね。いつもはあんなに可愛いのに、決める時は決める一夏さん………ああ、かっこいい……!

 

「……わぁ……なんか織斑一夏って想像以上にかっこいい……」

 

うんうん!一夏さんはかっこいいよね!

頭を下げたシスターにひらひらと片手を振って別れを告げた一夏さんは、またのんびりと校門に寄りかかって帽子をかぶり、腕を組んで固まってしまった。

 

……それじゃあ、もうすぐ学園祭も始まるし………誰かが一夏さんに声をかける前に私から行かないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り調べ、いやこれただの……

 

くすぐったくて目を覚ましたら、どうしてかちー姉さんに抱えられて取調室にいた。

なぜわかったかと言うと、前にもここには来たことがあるからだ。具体的にはちー姉さんのお仕置きの後とか、ちょっと前のキャノンボール・ファストの後とかで。

毎回あまりいい思いでは無いのでこの場所はあんまり好きじゃないんだが、まあ、あれだけのことがあったんだから仕方無いか。

 

……ところで、なんでちー姉さんの手が俺の服の中に入ってるんだ? すべすべしてるしあったかいからまあ悪くはないけど、これって取り調べだろ?

 

「ああそうだ。ほら一夏。知っていることをみんな話せ」

 

そう言ったちー姉さんの左手はペンを持って調書を取ろうとしているから、多分これはちー姉さんの趣味か新感覚の調書の取り方なんだろう。どっちかは知らないけど。

 

そう考えていたら、急にちー姉さんの右手が動いて俺の腹を撫で回した。ちょっとくすぐったい。

 

「話せって言われても……急に来た黒いISにかんちゃんと一緒にミサイルを浴びせかけたくらいしか……」

「よしよし、いい子だ一夏。その少し前はどうだ?」

 

するり、とちー姉さんの手が滑り、指先が臍を軽くつついて行った。

ちー姉さんはなんでかいつも、俺の腹を撫でる時はこうして臍にちょくちょくちょっかいを出していく。どうしてだろうな?

 

「んっ……その前は……ぷちーねえさんとぷちたばねーさんを撫でてて……そしてかんちゃんも……あぅっ!?」

 

なんだかちー姉さんの指に怒られた。臍に結構強く爪を押し付けられたし、俺の自前の耳を軽くかじられた。

それから噛まれた耳をちー姉さんに舐められる。その音はすごく近くて、なんだか音が直接脳まで響いているみたいだった。

 

「そうかそうか。それが一番始めの状態だな? あの時私は妙に気分が高揚して気持ちよかったのだが、まさか一夏の仕業だったとは………」

「……怒ってる?」

 

そう聞いてみると、ちー姉さんは俺の腹を優しく擦った。どうやら怒ってはいないらしい。

 

「さあ、続きを話せ。その後は、どうやってアリーナの中であの黒いISにミサイルを浴びせたんだ?」

 

……あの、ちー姉さん? もしかして、ちー姉さんは俺で楽しんでない? なんだか腹にあった手が少しずつ胸に近付いてきてるし………。

かぷ、と噛みつかれた。どうやらこの事は気にしてはいけないことだったらしい。痛くはないが、噛み痕に這うちー姉さんの舌とか何度も落ちてくる唇とかがくすぐったい。

そのくすぐったいのを我慢して、俺はちー姉さんの問いに答えようと口を開く。

 

「アリーナのバリアは零落白夜で切り開いて、俺達を狙っていたあの黒いISを誘き寄せて……」

「それから飽和攻撃を食らわせた、と。なるほどな」

 

そう言ってちー姉さんは調書を取っていた右手も俺に回して抱き締める。ってかこれもう確実に調書を取るのが目的じゃないよな? 調書から手離しちゃったし。

………だが悔しいことに、俺の体は動かない。ちー姉さんに色々………色……々? されたお陰でかなり疲れてる。そう言うのは普通ベッドの上とかそう言うのじゃないのか?

……まあ、ちー姉さんに常識は通用しないってことだな。うん。

 

かり、と耳を噛まれた。結構強く噛まれたが、痛くはない。普通の人間だったら結構痛がりそうだ。

 

「勝手に人を常識外れの人外にするな。馬鹿者……お仕置きだ」

 

にゅるん、と口の中にちー姉さんの右手の指が入ってきた。ちー姉さんの人差し指と中指は、俺の舌を好き勝手に弄んでいる。

喋ろうにも喋れない。呼吸は鼻でできるからまだいいとしても、取り調べで喋れなくするのは色々本末転倒じゃ……?

 

………ああ、そうか。ちー姉さんの狙いは始めからこうして『今回の無茶に関するお仕置き』をすることだったか。趣味がずいぶん混ざっているようにも思えるが、ちー姉さんだし仕方無い。理性的に一番やばい所だけは避けてくるのがちー姉さんだからなぁ……。

口の中で蠢く指が舌を絡め取り、ちー姉さんの指の太さの分だけ開いている口から唾液が溢れる。

しかしその唾液は顎から滴となって滴り落ちる寸前に、ちー姉さんに舐めとられてしまう。

 

………ちー姉さん? 理性とか倫理観とかをどこに置き忘れてきたの?

 

「小さい私を撫でて撫でて撫でて撫でて撫でて撫でて撫でて私を焦らして焦らして焦らして焦らして焦らして焦らして焦らして我慢を効かなくしたのは、他ならぬ一夏だろう?」

 

自業自得だったらしい。あーあ。

 

もしかしたら、俺はこのままこの場所でちー姉さんに美味しく頂かれてしまうのかもしれない。胸を弄っていた左手がまた少しずつ下に行ってるから、なんとなくそんな気がする。

 

………この世界の初めては、理性の箍が外れたちー姉さんかぁ……。まあ、一応想定の範囲内だな。無いと思ってたんだけど。

どちらかと言うと、束姉さんの方が我慢が効かないと思ってたんだけど、どうやら近い分ちー姉さんの方が先に限界を迎えてしまったようだ。

もうこれは笑うしかないな。あっはっはっはっはっはっはっはっはっは。

 

……って、おーいちー姉さん? 流石に学園内で生徒と教師がそれは不味いって。しかもここ取調室でカメラとか回ってるんだから。

 

「手は回してあるから安心しろ」

 

わぁ用意周到。計画的犯行だねぇ。

いつもなら俺と一緒にいる鈴やののちゃん達も今なら自分の取り調べで忙しいし、邪魔するものは誰もいない。その上この部屋は使用目的から完全防音。それをなんとかするためにカメラが回っていたんだが、こちらもシャットアウト。

極めつけに俺はちー姉さんに色々されていて、もう何をされても逃げられないと。

……いや、逃げようとすればできないことはないんだが、ちー姉さんに怪我させたりそれに近いことをするほど嫌じゃないから精神的にあんまり抵抗する気にもなれない。

 

………これでIS学園を退学になり、ちー姉さんもクビになったら……どうしようかねぇ………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭、楽しく回ろう

 

シスターを適当に言いくるめて少しして、蘭ちゃんがかなり近くにいるのがわかった。

目だけを動かして蘭ちゃんに視線を向けてみると、そこにはやっぱり蘭ちゃんの姿が。

 

だが、その姿は残念なことに俺を囲む生徒達の輪からそこそこ離れている。俺に近付いて来てはいるが、これは俺から近付いていった方がかなり早いな。

 

モーターギアを回して、とんと跳ねる。すると俺の体は軽々と浮き上がり、生徒の輪を飛び越えて蘭ちゃんの目の前に着地することができた。

俺は帽子を脱いで、蘭ちゃんに笑いかける。

 

「来たよ。蘭ちゃん」

「はい!ありがとうございます、一夏さん!」

 

蘭ちゃんは笑顔で頭を下げるが、どうもその笑顔は余所行きの物のような気配だ。別にいいけどね。

シルバースキンの手袋を外し、蘭ちゃんの頭を撫でてみる。すると仮面が取れたと言うべきか、鍍金が剥げたと言うべきか、見慣れた蘭ちゃんの顔になる。

まあ、蘭ちゃんは基本的に俺の前だと笑ってるか慌ててるか恥ずかしがってるか照れてるか……あと怒ってたり混乱してたりすることもあったな。とにかくそんな年相応の可愛らしいところを見せてくれるのが俺の一番よく知っている蘭ちゃんだからな。

 

「……あ……あの五反田さんが……」

「……笑っ………た…………?」

 

蘭ちゃんは学校ではどんなキャラだったんだろうか。凄く気になる。

まあ、蘭ちゃんがどんなキャラを作っていたとしても、俺にはあまり関係ないから別にいいけどね。

 

「あ……あの……」

 

急に話しかけられて少し驚いたり驚かなかったりしたが、とりあえず声の聞こえた方に顔を向ける。

どこかで聞いたことがある気がしたから視線を向けたんだが、聞き覚えがなかったら完全に無視してたかもしれないな。

 

……どこで聞いたんだっけ? 結構最近のような気がするんだけど………。

 

……ああそうだ。確か夏祭りで蘭ちゃんと一緒にいた生徒会の一人だ。今の今まで忘れてたけど。

 

「えっと……織斑一夏さん………ですよね?」

「そうだけどどうかした?」

 

俺がそう聞いてみると、なぜかその女の子は怯んでしまった。今はそんな怖い顔をしてた覚えはないんだけど……。

蘭ちゃんを撫でながら待っていると、その女の子はなんでかこんなことを聞いてきた。

 

「あの……蘭とはどんな関係なんですか……?」

 

………面白そうな答えを返すんだったら迷わず『色々《・・》あったんだよ』って言ってるんだろうけど、今回は別に面白い答えを求められてる訳じゃあ無いからなぁ……。

 

ここは普通に『友人の妹』って答えを

 

「……大切な人だよ。少なくとも俺にとってはね」

 

あっれえ口が勝手に事態を面白くなりそうな方向に転がしちゃった。

まあ、確かに間違いではない。確かに蘭ちゃんは大切な娘(恋愛的な意味は皆無。主に親友の妹とかそういった意味)だし、蘭ちゃんがどう思ってるかは知らないから『少なくとも俺にとっては』という言葉がついてもおかしいところは一つもない。

 

………なのに、どうして聞き耳をたてていた奴等は顔を真っ赤にしたり崩れ落ちたりしてるんだ?

 

「……い………一夏さん……? 恥ずかしくないんですか?」

「好きな相手に好きと言い、大切な相手にお前は大切だと言うのに何を恥じる必要がある? 好きな相手に好きと伝えることもできないなんて、そんな息苦しい人生は嫌だね」

「なんだか一夏さんがかっこいいこと言ってる!?」

「会長がツッコミ!?」

 

なんだかカオスなことになってきてるなぁ。面白いからいいけど。

 

俺は蘭ちゃんの手を引いて、色々と話をしている間に学園祭が始まったのを確認して校門を潜る。

聖マリアンヌ女学園は女子校なだけあって、出ている店も大抵クレープやたい焼きなどのお菓子系統ばかり。一部でたこ焼きを売っていた所もあったが、甘いものばかり食べていてしょっぱいものが食べたくなったらしい女の子達がちょこちょこと並んでは買っていっている。

 

ちなみに俺は弁当を持参していたりする。昼に長くなりそうな食堂やらカフェやらの列には並びたくないから、作って持ってきた。

量はそこそこだが、味は………IS学園の味に慣れているちー姉さんが無言でおかわりを催促するくらい。結構自信作だったりする。

一見すると持っていないように見えるが、実は一番外側のシルバースキンの内側にアンダーグラウンドサーチライトの入り口を作ってそこに保管している。こうすれば持ち運びも楽々。凄いね千の顔を持つ英雄。

 

同じようにしてシロの掌にアンダーグラウンドサーチライトの入り口を作って暗器使いの真似をしてみたり、犯罪に使おうとすれば窃盗強盗誘拐拉致監禁等々使い道は様々だ。

まあ、俺は主に手荷物の持ち運びと静かで安全な寝る場所を確保するためにばかり使っているが。

 

この中から取り出したと見せかけて千の顔を持つ英雄でリアルタイムで作ることもできる。

 

…………今はそんなことはどうでもいいな。それじゃあ、事件も何もない学園祭を楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭、楽しいねぇ

 

蘭ちゃんと手を繋いで聖マリアンヌ女学園を歩く。蘭ちゃんはなんだかいつも以上にご機嫌だ。

俺の奢りでクレープを食べたり、テニスボールをラケットで打って的に当てる射的を楽しんだりしている蘭ちゃんは、見ていて何となく微笑ましい。

 

……俺? 俺がやるのは不味いだろ。確実に荒らしになるだろうし。

やる以上は加減はしないし、加減しなかったらまず荒らしちゃうし。射的とか的当てとかそういった系統の事だったらほぼ確実にそうなるからな。

 

……加減しろと? そんな無茶な。

 

そんな風に俺は一歩下がって蘭ちゃんを眺めていたんだが、蘭ちゃんに手を引かれて学園祭を回っているうちになぜか俺を一歩下がって眺めている集団ができてしまった。

別に言いがかりをつけられたりはされていないから構わないんだが、やっぱりあまり好ましいとは思えないな。

それに、なんでか俺が蘭ちゃんの彼氏だとかそういった噂が流れてしまっているし、そろそろやめさせた方が……と言うか、巻いた方がいいかもしれない。

 

「……? 一夏さん? どうかしたんですか?」

 

俺の空気が少し変わったのを敏感に感じ取ったのか、蘭ちゃんが不思議そうな顔で俺のことを見上げてくる。

そんな蘭ちゃんの頭を撫でて、俺は答える。

 

「なに。ちょっと巻こうと思ってな。今の時間で人が少ないところと言えばここって所はある?」

「え、えっと………屋上とか、時計塔の最上階とか……?」

 

なるほど。人は少なさそうだ。

 

そうと決まれば話は早い。蘭ちゃんをひょいっとお姫様だっこして、モーターギアを回して文字通り飛ぶ。

校則では『敷地内では走らないこと』と言うのがあるが、飛んでいるから問題ない。実際に俺は走ってないし、校則で縛ることはできないだろう。

それに、ISも使っていないから法律的にも問題ない。千の顔を持つ英雄を禁止する法律なんて無いし。

 

「え、えぇぇぇっ!? と、飛んで………っ!?」

「しっかり掴まってなよ蘭ちゃん。じゃないと落ちるよ?」

 

そう言うと蘭ちゃんは俺の首にしっかりと手を回し、そして顔を真っ赤にしながら俺の胸に額を押し付けた。

顔どころか耳や首まで真っ赤になっている蘭ちゃんは、やっぱりかなり大人しかった。

 

 

 

人のいない時計塔の上で弁当箱を開く。近くには大きな鐘や歯車があったりするが、そんなことは別に気にはならない。

埃はネギま世界のアーティファクト『オソウジダイスキ』で纏めて掃いたから全く無いし、歯車とかに差されていた機械油が滴ってできたと思われる床のの染みなんかはマットを敷いて服が汚れないようにした。

俺と蘭ちゃんはそのマットの上に座り、いつもならまず見ることはないだろう景色を眺めながら俺が持ってきた弁当に箸をつける。

 

……一応言っておくと、箸はちゃんと二人分用意した。だからお約束の『あーん』はやっていない。

なんだか蘭ちゃんが残念そうな顔をしているのは、きっと気のせいじゃない。

 

まあ、それでも俺はあえてなにもしないんだけどさ。面倒だし。

 

あらかじめ弁当と一緒に用意しておいた小皿と箸を取り出し、蘭ちゃんに手渡す。

俺も同じものを持って二人で弁当箱を挟み、欲しいものを互いに欲しいだけ小皿に取る。

 

「簡単なものの寄せ集めで悪いね」

「いえ!すっごく美味しいです!」

「喜んでくれてなによりだよ」

 

自分が作った料理を美味しそうに食べてくれる相手がいるっていうのは、いいことだね。ちー姉さんや鈴達にも、また食べてもらいたいなぁ……。

 

「……ほんと、美味しいです!」

 

蘭ちゃんはにこにこ笑いながら弁当箱から取った唐揚げを食べている。前にののちゃんが作ってくれた唐揚げの改造版だけど、気に入ってくれたみたいでよかったよかった。ご飯と一緒に食べると美味いよね。

もぐもぐとしっかり何度も噛んで、とても美味しそうに食べてくれる。まったく、こんなに美味しそうに食べてくれると、作った者としてはかなり嬉しいねぇ……。

 

「まあ、唐揚げ以外にもいっぱい食べな。まだまだたくさんあるからさ」

「はい!」

 

蘭ちゃんはそう言ってもきゅもきゅと食べる速度を上げる。けれどその箸捌きは見事なもので、こぼしたりとかそういったことは一切無い。流石は定食屋の娘ってことで……いいのかな?

 

…………ん? 誰か来るな。ここの教師かな? ここに来る時にシルバースキンは使ってたけど、シルバーカーテンは使ってなかったし。バレても仕方無いっちゃ仕方無い。

……それじゃあちょっといたずらしようか。俺は寝るのが大好きだけど、人をからかったりするのも好きだからな。

弁当箱から卵焼きを取って、蘭ちゃんの口に運んでみる。蘭ちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていて……うん、可愛いね。

 

「あ、あの……一夏さん……?」

「あーん」

「恥ずかしいですよぉ……」

「いいから。はい、あーん」

 

外の誰かが扉の影から俺と蘭ちゃんを見ていることには気付いていたが、それに見せ付けるようにして……ぱくっと食べさせる。

扉の向こうで誰かさん達が声無き悲鳴を上げたようだが、俺はそれを無視して蘭ちゃんに食べさせたはいいが口に入りきらずに箸に残ってしまったところを食べる。

 

「―――ッ!?!?」

 

するとなぜか蘭ちゃんがかなりびっくりしてしまっている。何があったんだろうな?

シルバースキンの中のアンダーグラウンドサーチライトから、麦茶の入った水筒を取り出して蘭ちゃんの口許まで運んであげる。すると蘭ちゃんはすぐにその水筒のコップに口をつけて、一気に麦茶を飲み干した。

 

……さてさて。どんな噂が立つのか……蘭ちゃんには悪いけど、ちょっと楽しみかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭、おしまい

 

色々と蘭ちゃんをからかったりしながら学園祭を回り、明日からはかなり蘭ちゃんのイメージが変わるだろうな~と思いながらもそんなことは表に出さないようにしておいた。その方が面白そうだったしね。

それと、俺は結局色々な所で荒らしのようなことをやってしまった。

蘭ちゃんに誘われたり、呼び子をしていた生徒達に『是非!』と言われてしまったので参加したんだが……やっぱりやめとくべきだった。

テニスだったはずがテニヌになってしまったり、輪ゴム鉄砲を無意識に強化してしまい、威力その他が酷いことになったまま射的を楽しんだり、なぜかまたついて回るようになった中の数名が俺と蘭ちゃんの顔を見ただけで妙に恥ずかしそうに顔を赤くしていたりしたが………きっと俺の悪戯とは関係無い。

 

まあ、色々あったが楽しかった。やっぱり聖マリアンヌ女学園はIS学園とはずいぶん違ったが、これはこれで面白い。

ただ、不純異性交遊だのなんだのと言われるのが鬱陶しかったな。手を繋いで歩いてただけだってのに、なんでこれが不純異性交遊になるのかがわからない。これが不純異性交遊だって言うんなら、純異性交遊ってのはどんなものかを教えてもらいたいもんだ。

……教えてもらったとして、それを実行するかどうかはまた別の話だけど。完全に実行したら多分人間は滅びるだろうし。

 

「今日は、来てくださってありがとうございます」

 

蘭ちゃんが俺にぺこりと頭を下げた。

 

「いやいや。楽しかったし来れてよかったよ」

 

俺はそんな蘭ちゃんの頭を撫でて、楽しんだことを告げる。特に意味がある訳じゃないが、俺は頭を撫でられるのは好きだが撫でるのも嫌いではないと言うだけのことだ。

蘭ちゃんの柔らかい髪を撫でる。蘭ちゃんの髪はまるで流れる水の中に指を入れているようなしなやかさと柔らかさを持っていた。

……やっぱり、蘭ちゃんの髪は気持ちがいいね。

 

「あ……」

 

すっ、と蘭ちゃんの頭から手をどかすと、蘭ちゃんが残念そうな物欲しそうな声をあげる。なんと言うか、かなり可愛らしい。

 

「まあ、また今度ね」

「……はい」

 

蘭ちゃんは寂しそうに笑顔を浮かべ、それからちょっと恥ずかしそうに俯いた。

 

「あ……あの………」

「ん?」

 

もじもじと指を動かしながら言葉を選んでいる蘭ちゃんは、弾が見たら笑いながら俺に推してくることが簡単に予想できるくらい可愛らしかった。どうしてこの世界の妹キャラは(原作のマゾカは除くとして)みんな可愛いんだろうな? かんちゃんしかり、蘭ちゃんしかり、ののちゃんしかり……。

 

暫く待っていると、蘭ちゃんは何かを決心したらしく俺の顔を下から見上げる。

それから俺の右手を取って下に引っ張り、自分も背伸びをして―――

 

俺の頬に、柔らかいものが当たった。

 

蘭ちゃんは顔を真っ赤にしてしまったが、俺としてはなんと言うか……かんちゃんに続いて蘭ちゃんも大胆になったなぁ……と思うばかり。弾や蓮さんに伝えたら赤飯でも炊きそうだ。

 

「そっ……その、ま、ま……またっ!」

 

蘭ちゃんはそれだけ言い残して、学校の中に走り込んでいってしまった。

 

……色々言われると思うけど、頑張れ蘭ちゃん。俺はそんなちょっと隙の多い蘭ちゃんを応援してる。

 

……それにしても、あれ以降はマゾカやちょろータムの襲撃は無かったな。シルバースキンを着てたのが無駄になったが………まあ、平和なのが一番か。

 

俺はてくてくと歩いてIS学園に向かう。ちー姉さんに取り調べ(あくまでも取り調べということにしておく)を受けている俺には悪いが、休むのは暫く後になりそうだ。

お土産とかも買っていかなくちゃならないし。マフィンとかそう言うのでいいよな。

いや、自分で作るか。それじゃあ材料は………千の顔を持つ英雄で作ればいいか。粉は空中に撒いて火をつければ凄い爆発を起こすから武器だし、砂糖や塩は大きな結晶にして指弾にすれば痛いから武器。その他果物も秒速200mでぶつけりゃ痛い。武器武器。

 

……屁理屈だと言うかもしれないが、その屁理屈が通っちゃってるんだから仕方無い。千の顔を持つ英雄は本当に便利だな。

 

 

 

 

 

side 五反田 蘭

 

生徒会室に戻った私は、凄まじい勢いで襲いかかってくる質問の嵐を―――

 

「はいそれじゃあ質問あるなら仕事を片付けてからね。次はこれをお願い」

「くぅ……やったら正直に答えるのね!?」

「もちろん。でも、あんまり踏みいった質問には答えないわよ?」

「言質は取ったからね!」

 

―――こうやって受け流していた。

ちなみに今のところ聞かれたことは、一夏さんとの関係(恋人ではないと答えておいた)、一夏さんの好みのタイプ(一夏さん流の殺す笑みで見つめ続けたら泣きながら撤回してきたので答えていない)、好きな食べ物(基本的に何でも美味しく食べる。けどこれといった好きなものは知らない)、生年月日(プライベートな情報だから答えていない。星座や血液型も同じく)、知り合った方法(兄の学園祭に行った時に一緒に)。

 

……ほんと、こういうときの皆って押しが強くて困るね。

………なに? 妙に落ち着いて見えるって?

……種明かしをすると、人を言いくるめるときの一夏さんの真似をしている私を表面に出しているだけ。私の中では小さな私達がわーわーと話し合いにもなっていない意見の主張と暴走と悶絶を繰り返していたりする。

それを表に出さないで済むって言うのは生徒会長としてはいいことだから重宝しているけれど、どうしてこんなことができるようになったのかな?

 

『ぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅぁぅ…………』

 

そこ、五月蝿い。鬱陶しいから悶えてないで。

 

『……ちゅって……ちゅってぇ………っ!』

 

はいはい嬉しいねそれはわかるよ? でも今は仕事ができなくなるから黙ってて。

 

『やわらかかったなぁ……あったかかったなぁ……うふふふふふ…………♪』

『しっとりだった……すべすべだった……』

『はぅあ~~~………』

 

………どうして私はこんなに内側と外側を違う状態にできるんだろう……? もしかして、お兄みたいに一夏さんへの愛情の力で常識崩壊したのかな?

外側が一夏さんの真似で、内側をほんとの私にして………多分だけど、こういうのって誰でもできることじゃ無いよね?

 

……つまり、私もようやくお兄と同じ‘常識外れ’の域になったんだね。

お兄は超高水準の万能型。箒さんは気配察知特化型。鈴さんは勘に特化しすぎてて、シャルロットさんは幸運特化。ラウラさんは高水準万能型。セシリアさんは頭脳特化で簪さんは大局を見ることに長ける。

 

…………じゃあ、私はどうなんだろう?

 

そう思いながら仕事と後始末を片付けて、時々仕事を一区切り分終わらせて質問に来る娘達を適当にあしらう。

 

………まあ、いいや。また今度考えよう。

 

 

 

 

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