IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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用事ができた、面倒臭そう

 

俺はIS学園の俺の部屋に戻る。するとそこには疲れきったような顔をした俺が居たが、仕方無いとスルーした。

ちー姉さんにあんなことまでされて、しかも逃げられないってのはきつかったろうな。

 

内容? 色々不味いから秘密だ。ちー姉さんの名誉のためにも、俺の心の安寧のためにも………うん。

 

俺も疲れたのでそろそろ寝ようかと思っていたんだが、急にシロにプライベート・チャネルの通信が入った。

相手は誰だと思いつつ見てみると、『さいれんと☆ぜふぃるす』からの通信だと空中投影型パネルに出ていた。なんだ、マゾカか。

 

「……コノ電話ハ 現在 使ワレテオリマセン。モウ一度 番号ヲオ確カメニナッテ オ掛ケ直シクダサイ」

『む……間違えたか………』

 

ぷつっ、とプライベート・チャネルが切れる音がして、マゾカからの声が届かなくなった。

……なんか、悪いことしたかな~と思っていると、もう一度シロにプライベート・チャネルが来る。やはり送信者は『さいれんと☆ぜふぃるす』。つまりはマゾカだ。

 

『はいはいこちら織斑一夏』

『私だ』

『綿試《わたし》さん? 知らない名前ですねぇ』

『ふざけるな!私だ!織斑マゾカだ!』

 

自称でマゾカ使っちゃったよこの娘さん。楽しすぎるんだが。

 

『ああ、なんだマゾカか。ちょろータムは元気?』

『ああ。今日も元気に叫んでいる』

 

まあ、知ってるけど。それ俺だし。

 

『ところで何の用だ? 俺はこれから泥のように寝る予定だったんだが』

『ああ、そうだった。まともな方法でお前に連絡を取れるのが私だけだったから私が言うのだが………すぐに私達のいるホテルに来てくれないか? スコールが話し合いと観察と人間性を見ついでに高級ディナーを奢ってくれるそうだ』

『思いっきり狙いをぶちまけてるんだが、良いのか?』

『構わないそうだ。どうせお前が相手ならバレるだろうと言っていたしな』

 

……俺ってどこまで化物扱いされてるんだろうな? 俺はただ寝たいだけなんだが………。

まあ、やろうとすればわからないとは言わないが、ルリヲヘッドを被せるとか、いどのえにっきを使っている状態で相手の名前を(鬼神の童謡でカンニングしながら)呼ぶとか、そんなことをしなくちゃいけないからあんまりやりたくない。

 

『めんどいから行きたくないんだけど』

『来たら直接ちょろータムを好きなだけからかっていいそうだ』

『行く。どこのホテルだっけ?』

 

聞いてみるとそこは新聞部二年の升寿司《ますずし》さんのお姉さんとやらが俺達にインタビューの報酬として渡すつもりだったらしいチケットのホテルだった。行く気は欠片もなかったけど、一応パンフレットは見といたからそのくらいはわかる。

 

『わかった、それじゃあ五分ちょっとで行くから待っててくれ』

『私達はホテルの前にいる。ISで来るのは構わないが、飛び越していってくれるなよ』

 

それだけ残してマゾカからのプライベート・チャネルは切れる。

さてと。寝巻きに着替えるのは後だ。そこそこまともなスーツに着替えるか。

 

 

 

 

 

side ちょろータム

 

「いい加減にしろゴル゛ァ゛!誰がちょろータムだ!なんでここで私なんだよ!? 普通に考えてここはMだろうがぁぁっ!!」

「いい加減にするのはお前だちょろータム。周りからの視線が突き刺さっているのがわからないのかちょろータム。だからお前はちょろータムなのだちょろータム。わかったかちょろータム。こんなに視線が突き刺さっているのにも気付けないようでは戦闘員を廃業した方がいいのではないかと思うのだが、ちょろータムはどう思う? と言うか、ちょろータムは本当は気付いていて叫んでいたんだろう? 周囲からの視線が槍のように突き刺さってくるのが嬉しくてたまらないのだろう? 流石はちょろータム。エムさんと呼ばれるだけのことはあるな。どうしたちょろータム。それともエムさんと呼ばれた方が興奮するか? そのようだな。頬が朱色に染まっているぞエムさん。だが今度からはちょろータムだ。わざわざわたしがちょろータムを喜ばせてやる意味がわからないからな。ちょろータムはちょろータムらしく、ちょろちょろと地を這い回っていろ。この淫猥ちょろータムが。飼い毒蜘蛛に手を噛まれて死ね」

「そうだそうだー」

「うるっせえんだよてめえらは!なんでお前らそんなに息が合ってんだよ!? 双子か!」

 

ちょろータムはだんだんと地団駄を踏み、マゾカと一夏の二人を指差しながら怒鳴りつける。

指差された二人は不思議そうに顔を見合わせ、口を揃えて言った。

 

「「相手がちょろータムだからな」」

「理由になってねえんだよぉぉぉぉぉっ!!!」

「はいはい。マドカもあまりこの娘をからかわないの」

「……チッ」

「す……すこぉるぅ……」

 

スコールはしくしくと泣きながら胸元に顔を埋めてくるちょろータムの頭を優しく撫で、それから僅かに緩んだ顔を引き締め……ようとして失敗し、その失敗に気付いていて無視しながらマゾカに顔を向ける。

 

「……それで、彼はなんて言っていたの?」

「……ISを使うのかあの空飛ぶ鎧を使うのかは知らんが、五分で来るそうだ」

「……そう」

「そうだよ」

 

…………ん? とおかしいと言うことに気付いたのはほぼ同時。すぐさまその声の聞こえた方向に目をやると、そこには真っ黒いスーツに身を包んだ一夏が立っていた。

 

「いつの間に……」

「さっき掛け合いしたのに気付いてなかったんだな?」

 

からからと笑う一夏に、マゾカが眉を潜めて問う。

 

「五分後に来ると言う話だったが……」

「ああ、俺は五分前行動主義者なんだ。時によって主義がころころ変わるけど」

 

そんなことを楽しそうにのたまう一夏だったが、その場にいる見知らぬ女に気付くと、何かを奥深くに隠している束のような笑顔を浮かべて言った。

 

「一応、初めまして。亡国機業《ファントム・タスク》のスコーンさん」

「美味しそうな名前ね。でも私のことは違う名前で呼んでくれると嬉しいわ。織斑一夏くん」

「じゃあ大雨さん」

「……それでいいわ」

 

なんとも締まらないこの出会いが、亡国機業のスコールと、後に人外筆頭と恐れられる織斑一夏の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い話と、美味い飯

 

大雨さんに連れられ、マゾカに手を引かれ、ちょろータムに後ろから睨み付けられながらホテルの展望レストランへ。一応この為だけにスーツを来てきたわけだし、食べるんだったら美味いものを食べたいよな。

 

あと、どうやら俺達は家族連れか俺のハーレム状態の二択に見えるらしく、微笑ましく眺められるか射殺すような目で見られるかで少し面倒だと思った。

まあ、悪意まみれの目を向けられるのは慣れてるし、別にいいけど。

 

「……なあ。さっきからお前を睨み付けていた奴等が急に喉を抑えて苦しみ始めたのだが」

「急にゾナハったりしたんじゃないの? ドイツではラルちゃんのISに妙な改造をしたり、ちー姉さんを真似するシステムを研究していたところに『苦しめ~苦しめ~』と呪いを送ったら全員ゾナハったらしいし」

「あら、あれの原因は一夏くんだったの?」

「呪ったら『偶然』ゾナハがそこで蔓延しただけだよ。俺は悪くないし、何も知らない」

 

そう、全ては『偶然』だ。例え銀の煙がその研究所を被うのが見られていようが、それと同じものが寮の俺の部屋から飛び出していくところを見られていようが、俺は知らないしやってない。だから関係ない。

 

「……そういうことにしておくわ」

「賢明な判断だと思うよ」

 

 

 

そんな風にくだらない話をしている間にレストランに………と思ったら、着いたのはなんだか奇妙なほど高そうな服屋だった。どうやらここでマゾカとちょろータムの服を買うらしい。

先に買っとけと思わなくもないが、どうやら俺がマゾカとちょろータムに似合いそうな服を選ばなくちゃいけないらしい。

……中身はともかく、外身はかなり良いんだから適当でもいいと思うんだけど?

 

「まあまあ。そう言わないで選んであげて? 意外かもしれないけど、この子達は結構楽しみに」

「してねえ!絶対にしてねえ!」

「顔が赤いぞ、ちょろータム」

「目が腐ってんじゃねえのかてめえ」

 

ぎゃんぎゃんと騒いでいる仲のいい二人に合った服を適当に見繕う。わざわざ俺が作る気にはならないし、適当にそこらにあるのでいいだろ。最大限ぶっちゃけると面倒だし。

まあ、食うのに邪魔にならない程度に洒落てる奴で、値段的にも手頃な奴を………これとこれでいいや。

 

適当に見ていた中にあった黒いドレスと藍色のドレスを選んで大雨さんに渡す。大雨さんは自分のを持ってるだろうし、とりあえず大雨さんの物欲しげな目は軽くスルー。

 

……って、なんで俺はこいつらの服を選んでやってるんだ? 俺が選んでやる必要は全く無いだろうに。

 

…………まあ、いいか。

 

「そう言えば、今フランスとイタリアが何か企んでるらしいわよ? 私達に秘密裏に接触しようとして来たもの」

「ああ、一応知ってる。ののちゃんの身柄の話だろ? 一応潰しておいたはずだけど」

「やっぱりね。急にキャンセルされたから結構驚いてたのよ?」

「あっそ。ところで、そんな話をここでしていいのか?」

「大丈夫よ。問題ないわ」

 

そう言われると問題があるように聞こえてしまう俺がいる。

まあ、実際には問題ないんだろうし、問題があったとしても無くなるけど。正確には無くすけど。

 

「ちなみに、俺のところに攻めて来るんだったら相応の準備をしとかないと無様に惨めに敗北して生き恥を曝す……ことすらできずにちー姉さん達に拷問紛いの事をされてから束姉さんの発明品で頭の中の情報だけ引っこ抜いてコンクリ詰めにされて魚の餌にされると思うから」

「……肝に命じておくわ。まだ私は死にたくはないし、あの娘も死なせたくないもの」

 

大雨さんは反応を苦笑いに止めたが、内側ではどうやら更なる戦力増強ををすることを決めたらしい。

まったく、弾に比べてなんとわかりやすいことか。これで組織の偉いさんだって言うんだから、世も末だよな。世紀末まではあと90年くらいあるけど。

 

「……着替えが終わったみたいよ?」

「そうだな」

 

試着室から出てきたマゾカとちょろータムは、俺が選んだドレスを見事に着こなしていた。

これが鈴とかののちゃんとかだったら素直に誉めるところだが………相手がマゾカとちょろータムじゃなぁ……。

まあ、一応元がいいから似合わないわけじゃないし、誉めてやってもいいんだが……ちょろータムは色々騒ぎそうだから無視しよう。

 

「似合ってると思うぞ」

「そうか」

「おいおいエム。顔がにやけて」

 

からかいの言葉を受けたマゾカがちょろータムの足を払い、肩から頭の上を通して顎と膝の少し上を掴んだ。

そしてそのまま、ちょろータムの体を頭の上で弓なりに反らす。

そう、その技こそとある王朝に代々伝わる伝統の技。

 

「タワー・ブリッジ!」

「おげぇぇぇっ!?」

 

ミシミシギシギシとちょろータムの背骨が悲鳴を上げる。まったく。この二人は……。

 

「本当に仲がいいな」

「ええ。そうね」

 

どうやら大雨さんも俺と同じ意見だったようで、そんな二人の掛け合いを暖かい目で見守っている。

……そろそろ食べに行かないか? これでも結構気を張ってるから疲れるし、腹も減るんだが……。

 

そう思ってみたんだが、大雨さんからはなんの反応も返ってこない。

そう言えば、読心術は固有スキルだったな。あまりにも当然のように使われていたから忘れかけてたよ。

 

「そろそろ行かないか?」

「そうね。行きましょうか……ああ、代金はいつもの所にね」

「はい、ミス・ミューゼル」

 

ようやくか。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!?」

「鳴け!喚け!貴様の悲鳴は実に心地いい!!」

 

…………そろそろふざけてないで止めるべきか、それとも未来の敵がここで消えてくれることを期待して止めないでおくか……。

 

……まあ、一応止めておくべきか。これでもこれから一緒に食事するわけだし。

 

ゴギッ!!

 

「ごふっ!?」

 

…………少しばかり遅かったか。まあ、冥福くらいは祈ってやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く本番、高級ディナー

 

ホテルで通されたのは明らかにVIPな席。景色は綺麗だしサービスも行き届いている。行き届きすぎて、もはや鬱陶しいくらいだ。

庶民的な俺には合わないな。多分今回が最後でもう二度と来ない。

 

……まあ、料理には一切問題は無い。それは確かだ。

 

「……あまり楽しくは無さそうね? そんなに私達との食事は楽しくない?」

「いや、堅っ苦しいのは苦手だからここには多分もう来ないなと」

 

なんでか大雨さんの内側の顔がひきつった。失礼なことを言ってるのはわかっているが、仕方ないだろう。これが俺の本心だ。

まあ、前述の通り料理に文句はない。これは完全に俺の気分の問題だ。直せと言われても多分無理だ。やる気も起きないし。

それに、大雨さんにも悪いところは無い。原因は完全に俺にあるし、そもそも俺には文句はない。

 

もきゅもきゅと出された料理を食べ、その合間に時折談笑する。そう言うのも悪くはないが、なんと言うか………性に合わない。

ついでにここで驚いたのは意外や意外、ちょろータムがテーブルマナーを一通り身に付けていた事だ。

あまりにも意外すぎてマゾカにちょろータムは頭でもぶつけてきたのかと聞いてしまった。ちょっと酷かったと思わなくもない。

 

……いつものがあれだから仕方無いと思ってくれると俺はちょっと喜んだり。

 

「……ところで、織斑一夏」

「なんだ? 織斑マゾカ」

「お前のISはどんな機体なのだ? 最初は衝撃砲とレーザーを減衰させる特殊武装を使った中距離戦。次は剣と唯一仕様を使った高速戦闘。さらにその次はミサイルを雨のように降らせ、荷電粒子砲で隙をつく遠距離型。しかもどれもこれもかなりの高水準で纏まっている」

 

どうやら俺のIS……つまりシロは、随分化物のような性能だと思われているらしい。実にその通りだが、心外だ。

実際はただひたすら速く、それだけを目指して作られたというあまりにも尖りすぎた機体性能なんだが………まあ、戦い方からはわかんないよな。

隠す気は全く無いって言うのに、いつの間にかこうして内容が謎に包まれてしまっている。

 

……なんとなく中二心が刺激される響きだよな。謎に包まれた白の剣士。それを扱えるのは俺だけで……まったく。実に馬鹿馬鹿しい。俺が言うのもあれだが、厨臭いったらありゃしない。

 

「細かいことは秘密にしとくけど、シロを最大限に使いこなそうとしたら近接型になる。元々速度関係に気違いじみてるほど特化した機体だからな」

「……そう言えば、それもだ。あの装甲の無い状態がお前の切り札だろう?」

「…………実はまだ上があるって言ったらどうする?」

「……笑えない冗談だ」

 

マジなんだか、冗談ってことにしておこうか。油断させるには色々話しすぎたが、もともとこいつらはもう戦闘時には油断してくれないだろうし、別にいいや。

俺は困らないし。

 

「とにかく、シロの製作においてもっとも重要視されたのは速度系統だな。それに合わせて機動力やらPICやらもずいぶん強化されてるんだと」

「………それであの凄まじいまでの加速と機動か。なるほど……」

 

こんな場所だって言うのに、色気の無い話だなぁ……。

ちょろータムはちょろータムで不機嫌そうな顔を上手く隠しきれずにほんの少しだけ出して無言で食事しているし、大雨さんは大雨さんでそんなちょろータムを眺めてにこにこしたり、マゾカを見てにこにこしたりと忙しそうだ。

あの笑顔の裏に何を隠しているのかは知らないが、よっぽどチートじゃないと俺を殺すのは難しいぞ?

 

……まあ、異世界からの転生者が相手だったらちょっとした能力だけで死ねるけど。

 

 

 

食事の最後に出てきたデザートを食べ、この奇妙な晩餐会はお開きになる。

俺と大雨さん達は敵対組織の人間だって言うのに、かなりゆったりとした時間を過ごすことができた。

 

「今日は楽しかったわ。またいつか会いましょうね?」

「できればお互いに立場を気にしないで会うことができる時期がいいね」

 

大雨さんは裏に何が隠れているかわからない暗殺者の笑みを浮かべ、俺も同じように笑顔を浮かべてそれを受け流す。

 

「…………次は殺す」

「やれるならやってみろ、ちょろータム」

「私をその名前で呼ぶなっつってんだろうが!」

 

ちょろータムはやっぱりちょろータムで、殺意が丸出しだ。

だからその殺意の矛先を言葉で鈍らせながら反応を楽しむ。やっぱりからかうのにはうってつけの相手だ。

 

「五反田食堂のおすすめメニューを教えてくれ」

「……気に入ったのか?」

「ああ。あそこの食事は実に美味い。さあ、早く教えろ」

 

……まったく。空気を読めない奴だな。シリアスはあんまり得意じゃないから構わないが。

 

「とりあえず業火野菜炒めだな。後は本人の味覚がわからないからすすめられない」

「そうか」

 

マゾカはちょっと残念そうだが、俺の好みとマゾカの好みが一致しているとは限らないから仕方無い。

 

……さてと。帰るかね。

 

大雨さんとちょろータムとマゾカの三人に背を向けて歩き出す。そこそこ離れたら一度全身をシルバーカーテンで被って発信器やら盗聴器やらをいかれさせてからヘルメスドライブを使って転移するつもりだ。

……まあ、ついていないと思うが、一応な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中止と言ったな。あれは嘘だ

 

「……と言うわけで、中止になっちゃったタッグトーナメントを開催したいと思います!」

 

…………なにが『と言うわけ』なのかはわからないが、たっちゃんの号令で一度中止になったはずのそれがまた始まることになってしまった。

どうやったのか俺とかんちゃんのジェノサイドサーカスでかなりの割合の床が吹き飛んでいたのを修復し、何度も何度も何度も何度も流れミサイルの爆風と衝撃に曝されてズタズタになったアリーナのシールドバリア発生装置を綺麗に修理し、ちー姉さんや真耶先生を始めとする教師陣に許可を取り、上手くこれから先の予定を組み直してしまった。すごいなたっちゃん。

なにがたっちゃんをそこまで駆り立てるのかは知らないが、面倒なことをしてくれたもんだと心の底から思う。

 

まあ、やるからには頑張るけど。かんちゃんもやる気だし、面倒だけど仕方がない。

 

………ちなみに、俺はジェノサイドサーカスを使用禁止になった。そろそろそうなるんじゃないかと思ってたが、予想以上に早かったな。

束姉さんの襲撃が無ければ、タッグトーナメント一回戦までは使えたと思うんだが………まあ、いいや。禁止されたのは俺だけでかんちゃんは禁止されてないし、非公式の戦闘では使えるし。

 

……念押しはしたから大丈夫。「『俺は』禁止なんだな?」と何度もしたから問題ない。そして、中止になったらなったでそれも俺にとっては問題じゃない。寝る時間が増えるし。

 

「が……頑張ろうね……!」

「そうだね、かんちゃん」

 

……でも、かんちゃんはやる気満々だなぁ………。

 

 

 

一回戦の相手はののちゃんとたっちゃんの二人組。対戦表を見てみるとそうなっている。

たっちゃんはIS戦闘があんまり強くないようなイメージがあるけど、ののちゃんは確実に強敵だ。とは言えたっちゃんも放っておいていいほど弱い訳じゃないし、困るよなぁ……。

 

ここはかんちゃんにたっちゃんの相手をしてもらって、俺が(似非ライオットを使わない)全速力でののちゃんを叩いた後に、かんちゃんと二人でたっちゃんを叩くか、もしくはその逆をするしかないな。

やるとしたらかんちゃんはどっちがいいんだろうか?

 

「お姉ちゃんとがいい……対等の位置に立てる、チャンスだから……」

「いいよー」

 

それじゃあ俺はののちゃんを相手しないとな。あの無限エネルギーを0にするには零落白夜か弐の太刀が必要だから、シールドエネルギーはそれ以外では減らせないなぁ……。

……全身からビームとかされたら、こっちは斬空閃弐の太刀か斬魔剣弐の太刀等の飛び道具を使うしか無くなるんだが………まあ、その時はその時だ。そうなった時に考えよう。

 

そうして俺とかんちゃんはアリーナに向かって飛んでいく。ののちゃん達はもう来ている筈だし、入ったらすぐに戦闘開始かね?

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

楯無さんの体が、私の腕の中で震えている。その姿はいつもの飄々としたものでも悪巧みをしている時のものでもなく、年端もいかぬ幼子がお化けが出るぞと脅かされて怖がっているのと同じように、心の底から恐怖している姿だった。

顔は青ざめ、カチカチと歯がぶつかり合う音を立てている。

 

……まあ、無理もない。いつもおちゃらけているように見えるこの人は、あの時に一夏に強烈なトラウマを植え付けられているのだから。

そのせいで今も、アイアンクローをする形で眼前に右手を翳されるとガタガタと震え、ただただ『ごめんなさい』という言葉を繰り返すようになってしまっている。

むしろそれを簪の前では見せないようにしていたと言う所には尊敬の念を抱いてしまう。妹にカッコ悪いところを見せまいとするシスコンと言うものは凄まじいな。

……姉さんもきっと同じなのだろうな。姉さんは駄目な所も結構見せてくれるが、一番おかしな所は意識的に見せまいとしているようだし。

 

そんな楯無さんの体を抱き締め、優しく頭を撫でる。

 

「……大丈夫です。楯無さん……大丈夫ですから………」

 

実際、一夏は殺しに来たりはしないだろうし、残りのシールドエネルギーが1の状態で零落白夜を使って来ることもしないだろう。

絶対防御の操縦者生命危険域に入って気絶させるようなこともないだろうし、禁止されたジェノサイドサーカスと言うミサイルの雨を降らすこともしない筈だ。

 

その事は楯無さんもわかっているのだろう。しかし、それでも楯無さんの体の震えは止まらない。

 

「確かに一夏は強いです。私達では本気を出した一夏が相手なら、その影を認識することすらできずに敗北を喫するでしょう。…………そんなことは、楯無さんだってわかっていたことでしょう?」

 

楯無さんはなにも言わない。しかし、私の話を聞いているのはわかるため、私は楯無さんを撫でながら言葉を続ける。

 

「………そして、それをわかっていながらも一夏と戦い、トラウマを乗り越えたいと願い、この大会を復活させたのは……他でもない楯無さんです」

 

……ほんの少しずつだが、楯無さんの震えが収まってきた。

いまだにカチカチと歯が合わさる音は聞こえるし、体の震えも止まっていない。

しかしそれでも少しずつ震えは小さくなっていく。

 

「……一夏の恐怖を乗り越えて、簪となんら隠すことなく話をするのでしょう?」

「…………ええ」

 

すっ、と、楯無さんの体が私から離れていく。その体はまだ僅かに震えているし、その顔にはいつもの笑顔は浮かんでいない。

しかし、その目にはしっかりとした闘志が芽生えているのが見てとれた。

 

「……ありがとうね。箒ちゃん」

「いえ、構いませんよ。女性の胸は抱き締めている相手の涙を隠すためにあるそうですから」

 

……一夏と姉さんが作ったらしいゲームの言葉だがな。

 

そう言ってみると、楯無さんはいつもとは遠いが笑顔とわかる表情を浮かべ、ISスーツに包まれた自分の胸を指差した。

 

「それじゃあ、箒ちゃんも辛くなったら泣いてみる?」

「そうですね。タイミングが合ったらお願いしましょうか」

 

私達は声をあげて笑った。

 

………それでは、行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグマッチ、一回戦

 

アリーナに飛び出した俺とかんちゃんは、どうやら作戦通りに行くのは難しいようだと言うことを瞬時に悟った。

それと言うのも、たっちゃんは明らかに俺の事を狙っているからだ。

 

『……仕方ないから、かんちゃんのは今度の週一バトルでお願いできる? かんちゃんのことを見ていないたっちゃんを倒しても意味ないだろ?』

『………………うん』

 

かんちゃんは一応うなずいてくれたが、やっぱりどこか不機嫌そうだ。

まあ、確かに俺の週一訓練にあわせて訓練をしていると、なかなかたっちゃんと都合が合うときは無いよな。

 

……それに、たっちゃん自身もこういうときじゃないと本気で戦ってくれなさそうだし。

本気でたっちゃんが戦ったら殲滅力はかなり高かったはずだし、油断はできないな。

 

『……じゃあ、頑張ろう……?』

『そうだね』

 

 

 

 

 

side 更識 簪

 

私は、お姉ちゃんと並び立てるようになりたかった。だからこのトーナメントは、私とお姉ちゃんがどれだけ離れてしまったのか、もしくはどれだけ近付いたのかを確かめるのにちょうどいい舞台だと思っていた。

……けれど、お姉ちゃんが見ているのは一夏だった。私もここにいるのに、一夏しか見ていないと言うことが明らかにわかる。

 

……考えてみると、お姉ちゃんは一夏に何度も負けている。あの全校朝礼の時もそうだし、その後にあったらしい生徒会室での話し合いでもそうだったと本音が言っていた。

……それを考えるとそれも仕方無いような気がするけど……それでもお姉ちゃんには私を見ていて欲しかった。

 

…………今回は、お姉ちゃんの好きにさせてあげる。

だけど、次は私の番だからね?

 

『……瞑想は終わったか?』

『うん。ありがとう……箒』

 

私の考え事が終わったのを見計らって、箒が話しかけてきた。今のうちに私を攻撃することもできたはずなのに、箒は本当に優しいね。

 

『なに、気にするな同志』

『……うん』

 

私と箒はくすりと笑い合い、ほぼ同時に武装を展開した。

箒は見慣れた二振りの赤い刃の日本刀、雨月と空裂を。私は金属質な光沢を持つ薙刀、夢現を。それぞれ展開し、お互いに向けて構える。

 

『……加減はしないぞ? 簪』

『……必要以上にしたら……怒る』

『……ふむ。簪に怒られるのは嫌だな。善処しよう』

 

そして私と箒はまた少しだけ笑いあって、すぐに互いに動き始めた。

 

箒は全身の展開装甲から真っ赤なエネルギーブレードを何十本も生やし、そのブレードの峰側からエネルギーを噴き出しての部分瞬時加速なんて言う離れ業を見せてきた。

当然雨月と空裂にもエネルギーが纏わりついていて、一撃食らったら連続して攻撃を食らってあっという間にシールドエネルギーを削りきられて落とされてしまいそう。

当たらなければどうということはないけれど、箒と紅椿が相手となるとその当たらないということが非常に難しい。

打鉄弐式と紅椿の性能差は相当なもの。技術と経験で上回ろうにも、最近の密度の高い戦闘訓練と実戦でその差はかなり埋まってしまっている。

 

………でも、私にだって意地がある。負けたくないし、一夏にかっこ悪いところは見られたくない。

機体の性能の差が戦力の決定的な差になることもあるけれど、それはあんまりにも互いの性能に差がありすぎた時くらいにしか適用されない。頑張ればひっくり返せることだってある。

きっと今の私と箒の差はそのくらいだ。……正確には、紅椿と打鉄弐式の差と言うべきだけど………何とかする。

 

お姉ちゃんと戦いたかったという思いはまだ残っている。けれど、箒はそんな思いに囚われていても勝てるほど甘い相手じゃない。

今は箒だけを見て、箒を倒すことだけを考えなくちゃ……。………そうじゃないと、箒に勝てるはずがないから………。

 

『……行くよ?』

『ああ。来い!』

 

私と箒は、再び高速で機動を始めた。

 

……この戦い……負けられない!

 

 

 

 

 

side 更識 楯無

 

目の前には、私にトラウマを植え付けた恐怖の対象。織斑一夏くんがいる。

正直、怖くて怖くて仕方がない。それなのに、私は今……笑っている。

体はいまだに少し震えていて、声をあげたら簡単に震えていることがばれてしまいそうだ。

 

「平気か? 今にも死にそうな顔をしてるが?」

 

私は答えない。答えられない。答えたら、怖がっていることがわかってしまうだろうから。

一夏くんはこういうことには妙に鋭い。相手の気持ちを簡単に読み取り、そしてそこに漬け込むことに関しては恐ろしいほどに長けている。

 

「それがわかってるんだったら、わざわざ隠すことも無いと思うんだけど?」

「ッ!?」

 

思考を読まれていたことに驚き、一瞬思考が止まってしまう。

そして気が付いた時には目の前に雪片弐型の白刃が迫っていた。

 

全速力で下に瞬時加速をする。髪が何本かと肩の辺りの装甲が少し持っていかれたけど、シールドエネルギーはあまり減ってはいない。

これが額に直撃していたらかなり変わっていたのだろうけど、今は避けることができた。

 

息を大きく吸って、それからまた大きく吐く。武器を呼び出して、一夏くんに向けて構える。

 

肌がピリピリする。こんなに怖い戦いは、更識の家で受けた実戦訓練以来だ。

あの時は潜り抜けられたから、今の私はここにいる。なら、こんどだってきっとなんとかなる。

 

全身から溢れさせるように水を纏い、いつもより少しだけ引き締まった表情の一夏くんを睨み付ける。

 

……越えさせてもらうわよ!一夏くん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一回戦、その最中

 

side 篠ノ之 箒

 

簪の行動は予測するのが難しい。行動とは、攻撃、防御、回避、機動など、全てを合わせたそれの事だ。

それと言うのも、簪の操縦方法があまりに独特ゆえにそうなってしまっているのだが。

 

簪は、特撮やアニメといった物が好きだ。特に仮面ライダーや戦隊物のような、わかりやすいヒーローがわかりやすい敵役と戦い、人々の平和やヒロインを護っていくような話が好きらしい。

そして簪はそこで止まることはなく、そのヒーローに憧れた。そしてその憧れはISの機体制御にも現れている。

……勿論完全にそのままということはなく、ISで使うにふさわしいように改造が多々行われ、実戦で使いながら観客に‘魅せる’こともできるような動きに変わっている。

 

ここで恐ろしいのは、簪はそれらのことを意識することなく行っているということだ。

簪は実家でしっかりとした訓練を受けている。その成果は簪の身体に染み付いていて、意識しないでも簪は染み付いた技術を振るうことができてしまう。

 

………そう。私と同じように。

 

「ハッ!」

「せっ!」

 

ギャリィンッ!と金属音が弾ける。私の左の空裂と、簪の操る夢現が衝突した。

それと同時に右の雨月の先端から、刺突と同時に圧縮した攻性エネルギーを放出する。しかしそれは、起点である雨月の横腹を簪の夢現の柄に弾かれて明後日の方向に飛んでいく。

 

長柄物とはこれだから厄介だ。こちらは一度振り下ろせば、一度停止してから振り上げるという行程を踏まなければ次の攻撃には移れない。二刀を扱う私でも、時間差を作ることによってその隙を埋めてはいるが、隙ができることは変わらない。

その点薙刀や槍、大刀、棍といった長柄物は、振り下ろした刃とは持ち手を中心とした逆の部分に石突があり、そこでも攻撃することができる。

その上長ければ間合いも広がるし、回転の中心から離れれば離れるほど先端は速度を増す。

 

その分懐に入られると扱いの難度が凄まじく上がるが、私の得物を考えるとそこまで深く潜り込むなら一度武器を捨て、そして装甲から生える真紅のエネルギーブレードで戦う方が良いだろう。

 

空裂からエネルギーの帯を撃ち出す。相手を攻撃しながらの目眩ましになるし、私からも見えなくなるが、気配を読むことができれば大したことはない。

簪の逃げた方向に瞬時加速。帯を基準線とした垂直下方に足裏からエネルギードリルを出して突貫する。

 

しかしそれは簪の撃った荷電粒子砲で威力を削られ、夢現をドリルの回転と同じ方向に回しながら方向を変えさせることで受け流された。

そして受け流した簪は、ドリルの裏側にいる私に荷電粒子砲を連発し、シールドエネルギーを削っていく。

 

…………だが、私の紅椿の唯一仕様は【絢爛舞踏】。この能力は、1対100のエネルギー増幅。紅椿の使用できるエネルギーであれば、ほぼ無制限にエネルギーを増幅することができる。

つまり、シールドエネルギーをいくら削られようと、一撃で丸ごと持っていかれない限りは残ったエネルギーを増幅して回復することができると言うわけだ。

簪はその事を知っていてなお、私に向かってくる。現状で私を落とすことができるのは、一夏と千冬さんくらいなものだと言うのも知っているはずなのに。

 

「……なあ、簪」

「……なに……?」

 

攻撃の手を止めて、簪に問いかける。すると簪も空中に止まり、私の言葉に返してくる。

 

「なぜお前は私と戦っている? 勝ちたいのならば、楯無さんとお前が戦い、私と一夏が戦えばよかったのではないか?」

 

すると簪は少しだけ不機嫌そうな顔になって、こう言った。

 

「………私はね。一夏のことが好き」

 

………………告白か? なぜ私に?

 

そんな私の疑問をおいてけぼりにして、簪は顔を朱に染めながら言葉を続けた。

 

「……でも、お姉ちゃんのことも好きなんだ。二人とも大切で……二人とも、そばにいてほしい」

 

もちろん、箒達も、と簪は言う。嬉しいことを言ってくれるな。

 

「……でも、お姉ちゃんは一夏になんだか苦手意識があるみたいで……今回それを克服しようとしているように見えたから…………」

「だから、楯無さんに一夏の相手をさせて、私をこうして食い止めていると」

 

簪は少し後ろめたそうにしながら頷く。まあ、確かにこれは受け取り方によっては『お前は眼中に無い』と言っているようにも取られる可能性があるからな。

まあ、私はそうは取らないわけだが………少し悪戯をしてみるのも面白い。

 

「まあ、私は構わんぞ? 一夏と千冬さんと姉さん以外が相手なら負ける気はしないし、簪がこうしている間も勝率がじりじり上がっていることを考えれば文句は無い」

「……本当に……そう思ってる……?」

 

まさか。こんなこと冗談にもならないさ。

だが、それはけして嘘ではない。本当だとも言えないが、私がこうしている間にも色々とできることがある。

にこりと笑いかけると、簪は訝しげな表情を浮かべる。

そして次の瞬間に、うっすらと自分を取り巻く薄紅色のエネルギーの流れに気付いて目を見開く。

すぐさま回避しようとスラスターに火をいれるが━━━

 

「遅い!」

 

エネルギーの檻の一部に私からエネルギーを流し込み、触れている簪の脚部装甲を削り取った。

 

……ちなみにこの技は、蜘蛛の巣が朝露に濡れているのを見た事から思い付き、エネルギー操作の訓練として行ってきた『エネルギーそのものに送電線のような役割を持たせて狙ったところに攻性エネルギーを送る』技である。

欠点は、私はあまり移動することができなくなる事と、準備ができるまでに時間がかかること。しかしそれさえクリアしてしまえば、この技はアリーナ内で行われる戦闘行為において多大なアドバンテージを与えてくれる。

 

そしてタッグ、あるいは複数人の戦いであれば、それを通して味方にエネルギーを送り込むことも可能だ。

 

………………まあ、実はシールドエネルギーを削りきる以外にも勝利できる方法があるからこれはあまり使えないんだが……拠点防衛には最適だ。

 

動きを強制的に止められた簪に、ゆっくりと近付いていく。エネルギーの糸が途切れないような速度で、ゆっくりと。

荷電粒子砲が何度も飛んでくるが、エネルギーを纏わりつかせた空裂と雨月で全て切り払う。

千切れそうになったエネルギーは背中の展開装甲から蜘蛛の糸のように張り巡らせたエネルギーに繋げ、状態を維持する。

 

荷電粒子砲に攻撃し、破壊する。薙刀の柄を、集束させたエネルギーの刃で切り落とし、攻撃手段を奪っていく。

 

……さあ、これで終わりだ。

 

「……違うよ、箒」

 

ぽつり、と、簪が呟いた。

それと同時に、私の背筋を圧倒的な悪寒が走り抜ける。

 

「……確かに私の武器は奪われた……。夢現も、春雷も……」

 

簪の言葉を無視して空中を漂うエネルギーの檻にさらにエネルギーを与え、ISやそれ専用の機材でもなければ感知することもできないような薄い膜を壁に変える。

 

それが終わったときに私の目に映っていたものは、視界の9割以上が巨大なミサイルという悪夢の再来だった。

 

「……それでも……私にはまだ、一夏からもらったこれが残ってる」

 

…………なるほど。今回は簪が使ってきたか。

 

エネルギーの繭に護られながら、私は今回の勝負はまず勝てないと言うことを悟ったのだった。

 

…………やれやれ。また勝てなかったか。

だが、次は勝つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一回戦、その過程

 

たっちゃんはけして俺に近付こうとしないまま、俺を攻撃していた。

水でできた触手を何本も張り巡らせて俺の動きを制限し、その触手から枝分かれするように生やした触手を鞭のように振るって攻撃してきた。

 

雪片弐型を使って触手を叩き斬ってもまた新しい触手が後から後から湧き出して俺の邪魔をする。

……こういうのに捕まると、なんか色々ありそうな気がするんだよな。束姉さんの自作らしい小説に色々書いてあった。

その内容は秘匿させてもらうが、とりあえず千の顔を持つ英雄を使えば大体のことはできなくもないと言っておく。ついでに、できるからといってやる気があるかどうかは別だと言うことも。

 

久し振りに左手の衝撃砲の出番。回転をかけて貫通力を増してやると、触手を2~3本ほどまとめて引きちぎることができた。

しかし、自分の防御はしっかりしているらしく、たっちゃん自身には届かない。見事にガトリングランス【蒼流旋】と肩のあたりに常駐している水の鎧に飲まれてしまう。

 

そしてその間もたっちゃんによる触手の攻撃は続く。上から下から右から左から前から後ろから何本も何本も何本も。

一本一本は弱々しいからたいしたことはないが、ここまで集まると面倒臭い。人海戦術ってのは本当に面倒だ。

……触手だけど。にゅるにゅると蠢く透明な触手だけど。

 

………さて、話はいきなり変わるが、ISのシールドバリアを抜く方法はいくつかある。

 

まずは零落白夜。俺とちー姉さんの固有技能みたいなもんだな。

そして神鳴流の弐の太刀。ただしこれはミスるとシールドバリアどころか絶対防御まで無視して操縦者のみにダメージを与えてしまうことがある。

 

この二つは真似しようと思ってもなかなか真似できない。この世界の人間にはまず不可能だと思ってもらっていい。

ここから先はこの世界の一般的(?)な人間でもできるシールドバリアを抜く方法だ。

 

三つ目はご存知間接技。なぜならISのシールドバリアは体の外側にしか存在しないから。その上絶対防御も効果が薄い。

ただし、これで与えられるダメージはほとんど操縦者に与えられるダメージ。機体やシールドバリアにはあまり影響は無い。

それから絞め技。ゆっくりと圧迫される系統の攻撃には弱かったりする。ヘッドロック等は結構痛いらしい。

そして最後に、少し違うがシールドバリアの効果の軽減と言う点では十分な効果を持っている技術として、ゼロ距離からの純粋物理攻撃……所謂【寸勁】の、相手との距離がゼロにして攻撃するバージョンがある。想像しにくかったら『羅漢破裏剣掌』でも想像してくれると助かる。

 

何でいきなりこんな話をするかと言うと………今まさに使ってしまおうかどうするかを考えているからだったりする。

 

流石の俺でもののちゃんからずっとエネルギーを供給されながら動き回るたっちゃんの相手をまともにしようとは思わない。

とりあえずシールドバリアをすり抜けながらも絶対防御は発動するように寸勁方式を取るか、もしくは零距離で右の衝撃砲を叩き込んでやろうかと思っていたりする。

そこまでの道は荷電粒子砲の出力を上げて、30発分のエネルギーを一発に押し込んで撃ってやれば作れないことは無いはずだ。

たとえそれで作れなかったとしても、千の顔を持つ英雄を使えば荷電粒子砲はいくらでも作ることができるし、何度も何度も繰り返せばいつか穴ができるだろう。そしたら高速接近からの零距離衝撃砲を撃ち込んで、それでも駄目なら零落白夜で滅多切りにすれば流石に終わる……と思う。

 

………………それでも終わらなかったら、バスターバロン+シルバースキン+シルバースキン・アナザータイプ+サテライト30+ブレイズ・オブ・グローリー+ソードサムライXに、機動力強化用としてモーターギアをつけたまま戦闘を行うことも辞さないつもりだ。

 

……さてと。それじゃあチート全開する前にやるだけやってみようか。

 

 

 

結果→結構簡単にできた。チート全開はしないでも済んだ。よかったよかった。

……けど、予想以上にてこずった。たっちゃんも強くなってるって事か。これは他のみんなも相当強くなってることを覚悟しとかないとな。

 

………で、たっちゃんはなんでこんな満ち足りた顔で気絶してるんだろうか? なんと言うか、乗り越えられなかった壁をついに乗り越えられた時の鈴みたいな顔をしている。

鈴が乗り越えたのは物理法則の壁だったけど、たっちゃんはいったい何を乗り越えたのか………気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ聞く気にはならないな。こういうのは本人だけが知っていればそれでいいものらしいし。

 

……かんちゃんの方はどうなったかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一回戦、その顛末

 

気絶したたっちゃんを場外まで運んでから戻ってくると、かんちゃんとののちゃんのバトルも佳境に入っていた。

具体的にどう佳境かというと、かんちゃんのジェノサイドサーカス使用無限ミサイル弾幕とののちゃんの絢爛舞踏使用無限攻性エネルギービーム弾幕の競り合いになっていた。

………なんと言うか、ののちゃんもかなりチート臭くなってきたよな。この状態のののちゃんを落とすには、エネルギーの供給が追い付かないほどの速度で攻撃を打ち込むか、あるいは一撃で全部削ぎ落とすかのどちらかしかないだろう。

卑怯な手を使うんだったら、束姉さんみたいに遠隔操作でISを強制的に停止させるとか、整備をわざと失敗させるとか………事前に薬を盛って戦わずに勝つとか?

 

……試合にならないからやらないけど、手段としては有効だよな。やらないけど。

 

『手伝おうか?』

『……いい』

 

手伝いがいるかと聞いてみたがかんちゃんは俺の予想を外していらないと答えた。

かんちゃんがそう言うんだったら、俺は端からかんちゃんの頑張りをしっかりと見ておこうかな。

そう思った俺は、被害の薄そうな端っこに行ってかんちゃんとののちゃんのぶつかり合いを眺める。

こうしている間にも流れ弾がこちらに来ていて少し危ないので、雪片弐型は右手から、ソードサムライXは左手から離さない。流れ弾はミサイルもエネルギービームも纏めて切り払う。

まあ、シールドエネルギー節約の意味も込めて、雪片弐型に零落白夜は発動させてないけど。必要ないし。

 

頑張れかんちゃん。頑張れののちゃん。俺は二人とも応援してるよ?

 

 

 

 

 

side 更識 簪

 

…………一夏に応援された気がした。なんだかすっごく頑張れる気がしたから、頑張ってみようと思う。

 

ジェノサイドサーカスの弾幕の密度をさらに上げる。どうせ今までと同じ密度じゃあ箒には届かないし、仮に届いたとしてもすぐに回復されてしまうだけだろうから。

それとほぼ同時に箒のエネルギーの弾幕も密度を上げてジェノサイドサーカスを撃ち落とす。箒の方はこれで限界……だったら嬉しかったんだけど、箒のことだしきっときっとまだまだ上がある。

 

……なんでそう言い切れるのかはとっても簡単。だって私達は、一夏のことが大好きだから。

愛情を体にたっぷりと取り込んだ私達に、できないことなんてあんまりない。本部長や支部長がその体現者だ。

私は……まだまだその高みまでは登れていない。けれど、それでも私は一夏のことが大好きだから………負けたくないし、負けられない。

 

………けど、戦況が膠着しているのも事実。このままじゃあ勝負がつかないし、ついたとしても私か箒のどちらかにかなりのダメージが残されるだろう。

それどころかこのトーナメントが中止になる恐れもある。私も箒も流れ弾は極力抑えているけれど、これだけ量が多ければ『全体から見れば僅かな量』であるはずの流れ弾もかなり多くなってしまう。

大半は一夏が落としてくれているようだけど、アリーナのシールドバリア付近で爆発したミサイルだっていくつもある。

 

……どうしよう………?

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

簪の使うミサイルの弾幕に空裂と展開装甲からのレーザーを当てて落としながら、現状がいかにまずい状況かを考える。

簪はじり貧だとでも考えているのかもしれないが、実際はそうではない。

確かに紅椿は『エネルギー切れ』とはほぼ無縁だ。しかしそれは紅椿がエネルギー切れとは無縁なのであって、私自身の体力や精神力が無限であると言うわけではない。

現に今も終わりの見えないマラソンによって精神的に相当疲れているし、体力はまだ余裕があるとはいえ、ISを使っていても疲れるときは疲れる。

理由はわからないが、今はまだ一夏が参加していないからこうして拮抗していられるが、一夏が本格的に参戦してきたら……動けない私は一方的に零落白夜の光刃に切り刻まれて果てるだろう。

 

そうなる前に勝負を決めなければならない。一夏と戦って勝てる気はあまりしないが、簪を相手にした時の勝率は七割以上。

ここで二割を相手に奪われては泣くに泣けないので、最後の時まで気を抜くことはしない。

 

…………しかし、場が硬直してしまっているのもまた事実。根比べも良いが、どうにかして場を動かさないことには……。

 

……………………。

 

「簪。一つ提案があるのだが……聞いてくれるか?」

「……なに?」

 

簪はミサイル弾幕を、私はエネルギーレーザーの雨を止める。これでようやく少し気を抜ける。

 

「わかっているだろうが、このままでは一進一退どころか完全に場が固まって勝負がつかないだろう? だから、一つ賭けをしよう」

「……内容による」

 

その答えに少し笑ってしまう。まあ確かに、内容を聞いてから決めるべきだな。間違っていない。

 

「簡単な話だ。私は絢爛舞踏を使わない。簪はジェノサイドサーカスを使わない。それ以外はすべて解禁の全力勝負をしよう」

「……それは、私との勝負の間だけ……だよね?」

「一夏を相手にそれは『死ね』と言われているようにしか受け取れないのだが」

「……死なないと………いいね?」

「本当にな」

 

これはけして冗談ではないから笑えない。一夏を相手に本気でいかないと言うのは、自殺以外の何物でもない。

 

簪は解除していた両手両足の装甲を展開し直し、しまっていた薙刀と荷電粒子砲を取り出した。

 

「……その話、のった……。ちょうど、ここにコインがあるから……地面に落ちたら開始………」

「ありがたい」

 

キィン!と弾かれたコインはゆっくりと上昇し、そしてゆっくりと落ちていく。

私も簪もまだ構えていないが、神経だけは異常なほどに張りつめている。

ピリピリとした空気が肌を刺す。シールドバリアと絶対防御で守られているにも関わらず、簪からの観察と警戒の視線が痛い。

……まあ、私からも同じ物が行っているので人のことは言えないが………。

 

さらに世界が減速する。観客も、空気の流れも、コインの落下も、一夏も簪も私すらも遅くなる。

エネルギーの供給が無い場合の紅椿は、燃費の悪すぎる高機動ISだ。だから展開装甲は使う気はあまり無いし、雨月と空裂のエネルギー攻撃と穿千はもっての他だ。

つまり私の武器は直刀二本となるのだが……かまわない。私はこちらの方が慣れている。

 

コインが地面に落下したことをハイパーセンサーが伝え、私と簪は同時に加速した。

私は真正面から。簪も真正面から。互いに武器を構え、自分の間合いに入った瞬間に切りつける。

 

武器同士がぶつかり合って火花を散らす。片手で受けていたら恐らく武器を吹き飛ばされていただろうと思える衝撃に、私の顔が歪む。

だがその隙に簪は、私に向かって踏み込みながら腕の下から通した荷電粒子砲を撃ち放つ。

避けることは不可能と判断した私は、簪の薙刀を空裂で払い、雨月に集束したエネルギーを撃ち込まんとする。

 

赤と白。二色の光に包まれた私と簪。その勝負の結果は………。

 

 

 

 

 

side 織斑 一夏

 

気絶してしまっているかんちゃんとののちゃんを抱えて保健室へ。どちらも終わりの無いマラソンレースで相当精神的に疲れていたらしく、なかなか起きようとしない。

 

……結果は、俺とかんちゃん組の勝ち。かんちゃんとののちゃんの勝負は、両者ほぼ同時にエネルギー切れで引き分けに終わった。

 

……二回戦かぁ……相手は誰になることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一回戦、第二試合

 

side 凰 鈴音

 

簪と箒の真っ正面からのぶつかりあい。あんなものを見せつけられたら、あたしだって血が騒ぐ。

あたしは元々熱血バトルとか大好きな方だし、根本の性分は猪だしね。

 

相手は二年生のフォルテ・サファイアと、三年生のダリル・ケイシー。敬称略。シャルロットとラウラの二人はシャルロットのラッキーパワーでシード権を獲得していて、あたし達と先輩方が戦って勝った方と戦うことになっている。

そしてそこで勝った方が一夏と戦うわけだ。

 

……とりあえず言っておくと、あたしは基本的に負けず嫌いだ。今さら言うまでもないことかもしれないが、事実そうなのだからしかたない。

どんなことでも負けたくない。ISの戦闘でもそうだし、恋に関してもそう。

敗けを認めない訳じゃない。悪いところを直すかそれを埋められるだけの長所を作るためにも、負けを認めることは必要だから。

ただ、負けっぱなしは好きじゃない。それだけのことだ。

 

勝つためにあたしは色々やって来た。鍛えたり、IS動かしたり、相手の練習のビデオ見たり、セシリアとのコンビネーションの練習をしたり……思い付くことは大体やってきた。

流石に一夏もやらないような卑怯極まりないことはやっていないけれど、結構ギリギリなことはやっている。一応合法だけど。

 

一夏みたいな『誰も考え付かないようなこと』はできないけれど、『考えてもまずできないこと』だったら大抵できる。私の一夏に対する愛の力舐めんな。

まあ、通用するかしないかはやってみないとわからないけど……なんとかなるわよ。そんな気がするわ。

 

……問題は、負けないのはそこまで難しくはなさそうだけど、勝つのは結構骨が折れるような気がするのよね。面倒だけど。

 

「……鈴さん? あの方々に勝てるイメージはおありですか?」

「無くはないわよ。結構難しいような気がするだけで」

「……そうですか。それはなかなか手間取りそうですわね」

 

セシリアはあたしの言っている意味をしっかりと正しく受け取ったようで、思考の海に自らを沈めていく。

真面目な時のセシリアはかなり頼りになる。いつもはそれを大貧民とかパズルとかじゃんけんとかにしか使わないからあんまり凄くは見えないけど、それはあたしが言えることじゃないしね。あたしもババ抜きとか籤とかそういうのにしか使わないし。

 

「……なぜか一夏さんが持っていたあの方々の戦闘記録を見させていただきましたが………あの防御力は厄介すぎますわ」

 

ポツリと呟いたセシリアの言葉を聞いて、一夏がなぜか持っていた『黒いISとあの二人の戦闘記録』のことを思い出した。

あの二人のコンビネーションによって、あの黒いISは見事に封殺されていた。

攻撃はほとんど当たらない。当たっても上手く逸らされて全然効かない。速くはないけど追い付けないし、攻撃には威力がないけど積み重なれば倒れるのはこちら。

 

……まったく。年の功って言うのは厄介ね。

 

「……本人達の前で言ってはなりませんわよ?」

「……いくらあたしでも言っていい事と悪いことの区別くらいはつくわよ。確かにいつも空気を読まないのはあたしだけどさぁ………」

「わかっていますわ。ほほほほ……」

 

セシリアはそう笑うけど、セシリアの目がすごい速度で上下左右関係なく泳ぎまくっていた。いつもはあんなに嘘が上手いことから考えると、多分緊張をほぐすためにわざとかなり大袈裟にしてるんでしょうね。

そんなセシリアの優しさを受け、ちょっとだけ笑ってしまう。……きっと、あたしとセシリアだったら大体のことはできるわよね?

 

ただし、一夏・千冬さん・弾とのガチバトルだけは勘弁ね? 色んな意味で勝てる気が全然しないわ。

 

「まあ、爆雷式レーザースフィアをいくつかばらまきながら堅実に行きますわよ?」

「そうね。結局のところそれが一番確実なのかもね」

 

あたしとセシリアが並んでISを展開する。あたしは甲龍《シェンロン》を。セシリアは蒼雫《ブルー・ティアーズ》を。

そしてそのままカタパルトに乗って、アリーナの上空に飛び出す。

 

簪と箒があれだけ暴れ、ミサイルとエネルギービームをばらまき、破壊しつくしたはずのアリーナは既に綺麗になっている。一夏が一分でやってくれたらしいけど、いったいどうやって何をしたのかはわかっていない。

機械類をイカれさせる一夏の出した霧に包まれ、一分後に霧が晴れたと思ったら既に直っていた上に一夏もそこにはいなかったと言うんだからびっくりだ。

まあ、一夏だったらなにやってもおかしくないわね。服の下からあり得ないくらい大きな剣出しても納得できる自信があるわ。

 

そんなアリーナの空に浮いていたのは、あたし達以外にはもう二人だけ。それがあたし達の対戦相手。

 

「やーっと来たか。先輩を待たせるとはふてえ奴等だ」

「へ? 全然太くないっスよ? むしろ腹回りなんてダリル先輩の方が」

 

色黒の方の相手、ケイシー先輩がもう一人の方、サファイア先輩の口を片手で掴んで言葉を遮る。あれはかなり痛いわね。

 

「……おい、フォルテ? 俺の聞き間違いだよなぁ? ………誰の腰回りが太いって?」

『ダリル先輩っス!』

 

口を封じられているにも関わらず、サファイア先輩はケイシー先輩の事をすっごいムカつく感じで指差した。しかもわざわざご丁寧にオープン・チャネルで周りに聞こえるように大声で。

……そう言えば、ああいう人を『勇者』って言うんだっけ?

 

あたし達は目の前で『ギャアァァダリル先輩に襲われるー犯されるー!』「てめえフォルテ!本気でヤるぞあ゛ぁん!?」とか言い合っている仲のいい先輩後輩を眺めながら、この二人の危険度をつり上げる。

こんなコントみたいなことをやりながらもあたし達のことをしっかりと観察し続けている相手に対して警戒を解くなんて事は、臆病で気弱でか弱いあたしにはできるはずもない。

 

「……鈴さん? そんな下らない冗談は」

『黙れ白豚』

「あはぅあ!?」

 

ちょっと罵倒してみたら、セシリアは急に頬を朱に染めて体をくねらせた。まさかこいつ………一夏だけじゃなくてあたし達にまでM属性を発揮できるようになっちゃったわけ?

 

「ええ、そうですわ」

 

まさかの肯定の返事が返ってきてしまった。しかもあたしは声に出していなかったというのに。

 

ああ怖い。一夏はよく簡単に心を読ませようとするわね。あたしは一夏といつものメンバーとそこにちょっとのプラスアルファを加えた相手以外だったら勘弁してほしいわね。

 

………さてと。あっちの方も仲良しの喧嘩が終わったみたいだし、そろそろ始めるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二試合の、見物人

 

side シャルロット・デュノア

 

二回戦、鈴とセシリアが先輩達と戦っているんだけど……。

 

「……接戦って言うかなんと言うか………」

「……このままではいつ勝負がつくかどうかわからんな」

「うん、ほんとにね」

 

まさか、こんなに強い人達が居たなんて………ビックリするよ。

………いや、強いって言うよりも上手いって言う方が合ってるかな? 個人個人の強さはそこまででもないけど、長所を組み合わせることで『鉄壁』とも言える守備を見せつけている。

 

けれどそれは鈴とセシリアも負けてはいない。けどこちらは鉄壁と言うより攻性防壁って言った方が合ってるような気がする。

セシリアが機雷のようにレーザーのスフィアをばら撒き、小規模ながら圧縮したレーザーを使って牽制している間に、鈴がちょこちょこと相手にちょっかいを出している。

わざと隙を作ったり、わざとに見えない隙を作ったりしている鈴に対して、先輩方はまったくその誘いに乗ろうとはしない。

そのくせ鈴が本当に作ってしまったらしい隙には見事に反応し、その度にセシリアがあらかじめ見えないようにばらまいてあったらしいレーザースフィアやセシリアが直接撃ったレーザーに邪魔されてうまく攻撃できないでいる。

 

……まったく、本当に相手にすると厄介なんだね。年の功………って言うほど年の差は無いけど、それでもかなり勝つのは難しそうだ。

………ラウラのAICが効いてくれればそこま困ることでも無いんだけど、それを鈴みたいな勘とか、箒みたいな気配と何かを企んでいる意識の流れとか、簪とセシリアみたいに予測とか、一夏みたいになんとなくで避けられたりする可能性だって無いわけじゃないし………。

……うーん……難しいなぁ。

 

「……なあ、シャルロット」

「ん? どうしたのさ?」

「………もしかしてお前は、鈴達が人間としての常識の域にあると思っていないか?」

「やだなぁ、そんなこと」

 

…………………………………………。

 

「……ない…………よ?」

「それにしては随分と長い空白だったな?」

「な、なんのこと? 僕ぜんぜんわからないよ?」

 

そうさ、鈴やセシリア達が常識の中で生きてるわけ無いじゃないか!常識だよ? 常識!いったいあのときの僕はどこの世界で生きていたんだろうね? ちょっと気になるなぁ!あははははは!

 

「…………………………」

「見ないでっ!こんな僕のことを見ないでぇぇっ!」

 

ラウラの視線が僕に突き刺さり、僕はごろごろとピットの床を転げ回るのだった。

 

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

シャルロットが慌てているような気配を発しながら………恐らくごろごろとピットの床を転げ回っているのを感じとりながら、試合の終わった私は一夏の使っていたピットで鈴達の戦いを眺めていた。

どちらも決め手に欠けるその勝負は、なんとなくさっきまで私と簪が演じていた終わりのない弾幕勝負を思い出させた。

流石に私と簪ほど周囲に被害を出してはいないが、それでも勝負がなかなかつきそうにないという点は共通している。

 

……もしかしたら、本当に勝敗は決まらないかもしれないな。中々無いが引き分けということもあるらしいし………また中止等ということも無いとは言い切れない。

 

そんなことを考えている間に、随分と戦況が動いたようだ。

鈴とセシリアは、上手いこと先輩二人を分断することに成功したらしい。先輩二人からは僅かな感嘆の意思と、戦いを楽しむ思いが感じられる。

その他にも僅かに困ったような気配がするが、恐らく分断された後の事はあまり考えられていなかったのだろう。精々が『可能な限り迅速に合流し、コンビネーションを相手に合わせて修正しながら戦闘を続行』くらいだろう。

 

……だが、先輩達は個人での強さもかなりのものらしく、単独行動となってもその防御能力と機動の鋭さ・精密さは失われていない。

……まったく。私が言える台詞では無いかもしれないが、こういう手合いは相手にするとなると実に厄介だ。

もし私が戦うとしたら、とりあえず片方を集中して狙って叩き潰し、それからもう片方というようにやることになるだろう。

………まあ、よっぽどのことが無い限りはわざわざ戦う気は無いのだが。

 

空中に投影されている画面を見て、このまま行くと仮定するならば、鈴とセシリアが勝利するだろうと予想する。

二人組の時は綻びをお互いにカバーすることができていた先輩達だったが、一人になるとその穴を埋める相手がいなくなるためにかなり脆くなるようだった。

確かにこれなら楯無さんがIS学園最強と言われていたのかもわかる。個人戦最強は楯無さんだろう。

 

……一夏? 一夏は最早個‘人’ではないだろう。私達も………一夏の事は言えないかもしれないが。

 

先輩達は鈴とセシリアにじりじりと押され始め、ついにそのシールドエネルギーの残量が0になる。

これで一回戦は終了だが………何故だろう、この大会はぐだぐだになって終わってしまう気がするのだが。

 

……まあ、いいか。すでに私は敗退した身だし、何があろうと驚きはしない。

例え千冬さんが暮桜を使って参戦してこようが、姉さんがISを六個軍団ほど送り込んで世界を相手に宣戦布告しようが、一夏が急に棄権しようが驚かんぞ。

一つ洒落にならないのがあった? 気にするな。どうせ現実にはならん。

 

 

 

 

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