IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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191~200

 

二回戦、…………え?

 

二回戦は、つい30分ほど前に勝ち上がったばかりの鈴とセシリー対、シード権を得ていたシャルとラルちゃんの戦闘になる。鈴達は二連戦と言うことになるが……まあ、平気だろ。

そう言いきれる理由は簡単。だってそのシャルとラルちゃんが、俺の部屋で寝てるんだから。

 

「ちゃんと棄権してきたから大丈夫~……」

 

シャルはそう言ってころりと転がり、隣で寝ていたラルちゃんを抱き締めた。

 

「……んぅ………」

「……く~……」

 

抱き締めたシャルも抱き締められたラルちゃんも、とても幸せそうな表情を浮かべて眠っている。やっぱり睡眠は世界を平和にする一番簡単な方法だと思う。

 

……それじゃあ、俺も寝ようかな。かんちゃんと俺も棄権してきたし。ののちゃんの相手が疲れたのかかんちゃんは今もふらふらしてて眠そうだし、俺も疲れたからもう寝たい。

 

優勝は鈴とセシリーで決定だな。それ以外全員棄権しちゃってるわけだし………ふぁ……。

 

もそもそと布団に入り、手近にあった抱き枕を抱き締める。多分シャルかな?

俺に続いて入ってきたかんちゃんは俺の背中に額を当てて夢の世界に行ったし、シャルとラルちゃんはとっくに夢の中。そうなったら俺が寝るのにどんな言い訳が必要だ?

答えは一つ。『必要ない』だ。

 

と言うわけで、お休み。

 

 

 

 

 

side 凰 鈴音

 

……なんか、納得いかない。

トーナメントで一応優勝したあたしは、心のなかでそう思っていた。

 

優勝したのは嬉しい。でも、戦うはずだった三チームのうちまともに戦ったのが一チームだけってのはなんか納得できない。

しかも棄権した全員が一夏と一緒に寝てるっていうのもまた気に食わない。

 

……ああ妬ましい妬ましい。嫉みがましいパルパルパルパルパル……………。

 

「鈴さん? 目が恐ろしいですわよ?」

「だから何よ?」

「ですから、そのイライラをどうぞわたくしに思いきりぶつけてくださ」

「黙れ食肉用養殖豚。屠殺するぞ」

 

隣でぞくぞくぞくぅ……と体を震わせているセシリアを軽く流して、あたしは遅々として進まない上にグダグダの表彰式をぼんやりとして過ごすのだった。

……ほんと、早く終わらないかしら。いろんな意味で。

 

 

 

一夏の部屋ではいつものメンバーが勢揃いしていた。

あたし達との勝負をすっぽかしたシャルロットとラウラ。一夏と簪のコンビに敗れた箒。この部屋の主である一夏と、箒との戦闘でかなり疲れていただろう簪。

そして、山のようなぷちか達。

 

……うん、ここはきっと天国ね。そうに違いないわ。

床に転がり落ちているぷちか達を布団にして眠る。本当はベッドの上で寝ていたのだろうけど、下にいる一夏達が身動ぎする度にぽろぽろとこぼれ落ちている。

……あ、ぷちふゆさんも落ちてきた。

 

床にはぷちかが落ちても痛くないようにかかなり柔らかなマットがしかれていて、ぷちか達はもふんっ!とマットの毛に埋まる。

その上にまた別のぷちかが降ってきて重なり、重ねぷちかとなっているところもある。

あたしと同じようにセシリアもぷちか布団に潜り込み、燕ぷちかを抱き締める。

その上に今度はハムスターぷちか(ジャンガリアンだと思う。多分だけど)が降ってきて、セシリアは嬉しい悲鳴を小声で上げてからぱたりと倒れた。

 

……あたしも寝ましょうか。今日は寝るにはいい日だしね。

 

「……貴様ら、面白いことをしているじゃないか」

 

………一瞬で最悪の日和になったわ。まさかいきなり千冬さんが現れるなんて……厄日以外のなんでもないわね。あたしはまだ死にたくないのよ。

 

「……安心しろ凰。確かに今のお前はぷちかに埋もれ囲まれていて羨ましく、妬ましく、殺した……げふんげふん……替わってほしいと思ってはいるが……」

 

やばいかなり本気で命の危機だ。けどどう頑張ったところであたしが千冬さんから逃げられるわけもなく、あっという間に捕まって無音でお仕置きされてしまうだろう。

逃げられない以上、あたしは千冬さんの決定に従うしかなく、少しだけ怯えながら千冬さんを眺めていた。

 

………あれ? なんだか千冬さんがあたしの怖がってる顔を見てゾクゾクしてるように見えるんだけど……冗談よね?

 

「ゾクゾクしているように見えるなら、お前の目は異常だ。安心しろ」

「安心していいのか悪いのかわからないんですが……」

「安心しろ」

「はい」

 

……………なんと言うか、一夏の背中をふみふみして悦に浸っていたのを見てからずっと思ってたんだけど………千冬さんって実はすっごいドS………よね?

 

「デュノアの尻を食用に追いかけ回していたお前には言われたくはないがな」

「食用じゃありません。観賞用と娯楽用です」

「もっと酷いわ馬鹿者」

 

あたしの頭をぺしんと軽く叩いてから、千冬さんは一夏のいるベッドに向かっていった。

……どうやらあたしは生きて帰ることができそうだし、それならぷちかのほっぺとかお腹とかの感触を感じながら寝るとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異伝5……と見せかけてとある日の亡国機業三人組の行動

 

side ちょろータム

 

「いきなりご挨拶だなオイ!」

「いきなり何を騒いでいるんだちょろータム。ちょろータムがちょろータムと言われることなど当然のことだろうが。ちょろータムはそんなことすら理解できないのか? まあ、ちょろータムのちょろい脳では覚えられないのかもしれんな。すまんなちょろータム。そんなちょろいちょろータムに過度な期待をかけてしまった。これは私のミスだ。謝ろう。すまなかったなちょろータム。ちょろータムはちょろータムらしく、ちょろい姿を曝すそのままのちょろータムで居てくれ」

「てめえはもう少しその口の悪さをなんとかできねえのかよ超弩級マゾヒストが!」

「私はどちらかと言えばサディストだが?」

「だれもてめえの性癖なんて聞いてねえんだよ!あと昨日の夜にお前が自分の頬をナイフで斬って悦に浸ってるの見て知ってんだからな!」

「なっ!? 人の部屋を勝手に覗くとは……もう、ちょろータムはえっちぃな、まったく!」

「なにこいつ、超ウゼェ」

 

わざとらしく頬を朱に染め、一般的な少女が言うようにちょろータムを責めるマゾカ。なにやら黒い矢印のような尻尾が生えているように見えるのは気のせいか、それともちょろータムの気が触れた証しか……それは誰にもわからない。

 

「私の気が触れてるってのはねえよ!」

「いやいや、ありえないということほどありえないものは無い。つまり、お前の気が触れていないという確証は無いし、もしかしたら私の尻から尻尾が生えているのかもしれない」

「いやそれは無いだろ」

「まあ、私の自覚している限りではそれは無いがな」

「そうだろうな」

 

当然と言えば当然のことだが、ちょろータムはマゾカの言葉を一蹴する。冷たい奴だ。

 

「私は悪い奴だからな。冷たくて当然だろ?」

「スコールに嫌われてしまえ」

「スコールも悪い奴だから問題ねえよ」

 

確かにそうだが悪い奴同士でも嫌われる時は嫌われるんだろうが、その事を自覚していないちょろータムは恐らくそういった純粋なところがスコールに気に入られていたんだろう。

 

「母性本能を擽られたと言うところか」

「? なに言ってんだ? スコールあれで男だぞ?」

「…………………」

「……なんだよその目」

 

『その目』と言うのがどんな目かはわからないが、確実に呆れた目だと思うぞ。もしくは可哀想なものを見る目か………いや、可哀想なものを見る目で確定だな。

…………あるいは、

 

「…………オータム?」

「ッ!!?」

 

……ちょろータムの背後の般若に折檻されるちょろータムを流石に哀れんでいるのかもしれない。

 

「……へぇ? 私は男だったの……」

「い……いやあのその……えっと………」

「ふぅん………? それじゃあ……今日の夜は優しくする必要は無いわね?」

「ふぇっ!?」

 

大雨さんは、ニタリと笑って指先でちょろータムの顎を撫でた。

どう考えてもからかわれているようにしか見えないが、ちょろータムの頬は真っ赤になっている。やっぱちょろータムはちょろいな。流石ちょろータム。ちょろいさん二号だ。

 

「ああ、本当にちょろいな。流石はちょろータムだ」

「あ……うぁ………」

「……ふふふっ……可愛い娘……」

「……聞いてないようだな。私はお邪魔虫という奴か?」

 

そうだな。とりあえずこの部屋から出た方がいいんじゃないか?

 

「……スコール。私は出ておくぞ。………ごゆっくり」

 

そう言われた大雨さんは、ひらひらと片手を振って許可を出した。

マゾカはそれを確認してすぐに、静かに部屋を出ていった。

 

「……三日ぶりに五反田食堂にでも行くか。ちょうど昼食の時間だし」

 

いってらっしゃーい。

 

 

 

 

 

side 織斑 マゾカ

 

適当な服(ゴスロリではない)を着て、五反田食堂に行く。割とよく行っているが、未だにメニューの全制覇には至っていない。

ただ、どれが好きでどれが嫌いかという区別をメニューを見れば大体理解できるようにはなった。

 

二日か三日に一度は必ず行っているため常連扱いになっているが、常連と言われるのならば裏メニューの一つや二つは知っておかなければならないだろう。

そのためにも……と言うのはおかしいかも知れないが、今はとりあえず五反田食堂の新たな味の発掘が優先だ。

 

「いらっしゃい」

「邪魔をするぞ」

 

赤毛にバンダナを巻いた店員が、いつもの通りに声をかけてくる。

私はそれにいつものように返し、適当に空いている席に座る。

 

……さて、まだ食べたことのない物は………この『ニラ玉定食』などはどうだろう。中々美味そうだ。

韮と卵を炒めて、味をつけ………ふむ。

 

「どうぞ」

「ああ、すまんな。それと注文をしたいのだが」

「はいどうぞ」

 

丁度私に水を運んできた赤毛バンダナの店員が、予測済みとでも言っているかのように素早く注文表とペンを取り出す。早いな……。

 

「ニラ玉定食を一つと餃子を一皿」

「……はい、承りました。ご注文を確認させていただきます。ニラ玉定食を一つ、餃子を一皿……以上でよろしいですか?」

「ああ、相違ない」

「かしこまりました。それではごゆるりとお待ちください」

 

このやりとりにも慣れたもの。私は大人しくちびちびと水を飲みながら料理の到着を待つ。

 

恐らく10分程度だろうか? 私の前には湯気をたてるニラ玉定食と餃子が鎮座していた。

 

「それでは、どうぞごゆっくり」

 

赤毛バンダナの店員は、にこりと笑ってから店の奥に引っ込んでいった。

……さて、それではこの美味そうな料理を食べるとしようか。

 

私は手を合わせて祈るような姿勢をする。

 

いただきます。

 

そう呟いて、私はこの料理との格闘を始めた。

 

 

 

 

 

side 大雨さん

 

「す……すこぉるぅ……」

「……ふふふっ♪ 全くこの子は……本当に可愛いわね………」

「ん……はぅ………ぁ……♪」

「……ほら、どうしたのオータム? もっとがんばらないと、止めちゃうわよ?」

「や、やだぁっ!」

「なら、やらなくちゃいけないことはわかるわね?」

「ぅ……ぅん………」

 

…………ああ、まったくこの娘はどこまで私を虜にすれば気がすむのかしら?

 

そう思いながら、私はオータムのおねだりを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……正確には『戻る』かな?親から子への、ちょっとの頼み

 

俺の気配察知可能領域は、ののちゃんのそれには遠く及ばないことは周知の事実だろう。

まあ、それでもIS学園を丸ごと察知することくらいはできるんだが……その範囲内に、見知らぬ誰かが突然現れた。

 

その見知らぬ誰かはステルスをかけているらしく、シロのハイパーセンサーにはなんの反応もない。

しかし、流石に直接視認して場所を指定してそこに徹底的に感知をかけてやれば多少の情報くらいは出てくるようだ。

 

ISの名前は『玉兎』。

 

…………なあ、この時点でオチが読めたんだけど、スルーして寝たら駄目か?

……駄目だよなぁ……。

 

それで、使われているISコアの番号は500番で、パイロットの名前は『くーちゃん』になっている。

 

…………なんだ、やっぱり束姉さん絡みか。わかってたけど脱力感が凄いな。

 

俺は布団に入ってぷちかを抱いて眠る。夜だし、寝不足は健康によくないし、眠いし、空が暗いし、仕方無いよな。

適当な自己弁護をして、目を閉じる。

寮の中では同じように脱力したののちゃんと、恐らく持ち前の勘で気付いただろう鈴、それと偶然空を見上げていたんだろうシャルと、シャルに言われて警戒していただろうラルちゃんがくてっとベッドに倒れ込んでいた。

 

「……一夏。一緒に寝てくれないか?」

「いいよー」

 

……と、思ったらののちゃんが俺の部屋に現れた。どうやらあの一瞬で随分SAN値を削られたらしく、疲れた顔をしている。

……ん? SAN値って疲労度じゃなくて正気度じゃなかったか?

じゃあ、削られたのはSAN値じゃなくてHPだな。

 

「あはははは……ありがとうなぁ……もう暫く窓を見たくない……窓は……窓は…………」

 

SAN値はSAN値で削られていたらしい。大変だねぇ。

 

俺はそんなののちゃんに向けて布団の前を開ける。その中ではぷちかが眠たげではあるが『おいでおいでー』と手招きをしていた。

 

「ああ、それでは…………イタダキマス」

 

は? なにg

 

 

 

 

 

side くーちゃん(仮)

 

(仮)は余計です。

 

……まあ、いいでしょう。有象無象が何と言った所で、私が私以外の何かになるわけではないのです。言いたい者には言わせておけば良いのです。

 

……私は、束様……お母様に頼み事をされてIS学園に来ています。アポイントメントは取っていないようですが、そんなことはもはやいつもの事。私の歩みを止める要因にはなり得ません。

 

……初めから歩んでなどいなく、空を飛んでいるから歩みを止めることはない……と言うわけではありません。比喩です。

 

そう言う訳でIS学園に潜入した訳なのですが……流石はお母様謹製のISと言うべきか、IS学園の防御網にかする事すら無く学園の敷地内に侵入できてしまいました。

後は地下隔離施設にある筈の、お母様の親友である千冬様のIS『暮桜』の封印を解いて、千冬様に鍵を渡してしまえばお母様からのお願いは完遂です。

 

私はそう考えながら、センサー類に引っ掛からないように気を付けつつ奥へ奥へと進んでいきます。

まあ、気を付けるべきセンサー類のほとんどはお母様の手によって無効化されているのでなんでもありませんが、世の中にはセンサーなどよりもずっと高度な、それでいながら鋭鈍の感動差の激しい直感や気配察知をする人種もいらっしゃるようですので……具体的にはお母様の妹君である箒様や、盟友である凰様などですね……まあ、それも恐らく何とかなるでしょう。お母様ですから。

 

……ああ、どうやら到着したようです。それに、届け物をする相手も居てくれるとは……一石二鳥とはこの事を言うのでしょうか。

 

「……お前が束の言っていた、『くーちゃん』とやらか?」

 

……驚きです。まさか本当にお母様のステルスを抜いて感知してくる人間が居ようとは。

正直に言って、驚愕以外の言葉が出ませんね。

 

「はい。お初にお目にかかります。自己紹介は省かせていただきますが、束様のお願いにより、こちらの『暮桜』の封印を解きに参りました」

 

私はISを解除して、千冬様に軽く一礼。千冬様はほんの僅かな時間だけ私に視線を向け、そしてすぐに視線を前に向け直す。

 

「……そうか。残念だが、どうやら無駄足を踏ませてしまったようだな」

「何故ですか」

 

私の質問に答えることなく、千冬様は私をちょいちょいと指で招く。

それに従って千冬様の隣に立ってみれば、驚愕するべき光景が私の視界を埋め尽くした。

 

「なあ、いくらお前が優秀でも不可能だろう?」

「……確かに、これでは…………」

 

そこにあったものは、確かに暮桜だった。

お母様が千冬様のために精魂込めて作り上げ、実の子のように愛するISの中でも特別の中に入る一機。

 

…………しかし、その姿は変わり果てていた。

 

原型すらわからぬほどに解体され、計測器にかけられている機械群。装甲らしきものは無く、剥き出しのコアが鈍く光っていることからかろうじてあれがISであることが理解できる。

そんな状態であれが暮桜だとわかったかと言えば、コアに登録された番号が暮桜の物だったから。

コアをいじることはお母様にしかできず、そして『暮桜』はお母様以外の改造を受け入れないようにして育ったと聞いていたのだが……。

 

「あれが……『暮桜』ですか?」

「ああ、そうだ」

 

千冬様は、顔をしかめながら私の問いに答える。どうやらこの状況は、千冬様にとっても歓迎するべき状況では無いようだ。

 

「……ああ、そうだとも。これは私の力不足が招いた結果だ。笑いたければ笑うがいい」

「……いえ、束様があちらで灰になってしまっているようなので……私はここで失礼させていただきます」

 

…………それに、そのような顔を見せられて笑えるものは、恐らく人間失格ですし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある女神の、お財布事情

 

side 織斑 千冬

 

一夏のところにいる小さな束と小さな私を通して行われた束と私の通信によって、束が使者を送ってくると言うことがわかった。

行き先は、IS学園地下に存在する隔離施設。実のところ、ここの存在を知る者は極々僅かな人数に限られる。

そんなところを束はどのようにして知ったのかと一瞬思考を巡らせたが、相手が束であり、情報戦において奴がどれだけ理不尽かを思い出したので考えるのを辞めた。

 

……ただ、束も知らないのか、それとも惚けているのか……あそこには確かに暮桜はあるが、あれはもう暮桜であって暮桜ではない。

私はあれを暮桜といつまでも呼び続けるが、恐らく私はもう二度と暮桜と空を舞うことはないだろう。

 

……このような状況になってしまったのには、いくつかの事情がある。

 

始めに、私は確かに世界最強の座に座っていた時期があった。……無論、一夏は除いての話だが、それでも大多数の人間は私が最強だと信じて疑わなかった。

しかし、それでも私は一人の人間であり、そして私には護るべき弟がいた。要約してしまえばたったこれだけの話だ。

 

もう少し詳しく話をすると、私はISができた当時は高校生で、両親の遺した遺産の使い方もよくわかっていなかった。

そのため私は学校に行きながら働き、金を稼いでいた。束や篠ノ之一家には何度も世話になり、正直足を向けて寝られない。

その割に私はよく束に説教をしたりアイアンクローをしたりしているが、それが束からの頼みだったからそれまでと変わらず接しているだけだ。

 

そんな時にあったのが、世界政府からの打診だった。内容は、『暮桜のデータと引き換えに、これからの私と一夏の生活を保証する』こと。

私は悩んだ。親友にして恩人に作ってもらった私だけの機体であり、相棒でもあった『暮桜』をとるか。それとも、これからの生涯に不安を抱えながら、一夏と二人で細々と生きていくか。

 

そうして悩んでいる時にふと目に入ったのが、すやすやと眠り続ける一夏の安らかな寝顔だった。

 

…………そうして私は、その話を受けた。暮桜を渡し、その全てのデータと引き換えに膨大な額の金を受け取った。

 

そして世界政府はその情報を国家の上層部にのみ公開し、暮桜に使われていた束によるオーパーツのようなレベルの科学技術は、あまりに先に進みすぎていて劣化コピーすらできない状況のまま、こうしてIS学園の地下で厳重に管理されている。

本来ならばここにはIS学園の教師であろうと入れない。入ろうとしても迎撃され、尋問されて殺されて『初めからそんな存在はいなかった』と言うことにされるだろう。

 

そんな中に私が入っているのは、一重に罪悪感からの行動だ。

私は一夏を愛している。そして、それとほぼ同等と言っていいほどに……暮桜を大切に思っていた。

そしてある時、不意に景色が変わったと思ったらここに居た。研究所と言うにはあまりに人の気配が無さすぎたが、それでも機械の檻に囚われていたISが、暮桜だということはすぐに気が付いた。

ここによく来ているのは、そういう理由だ。週に一度は必ず暇を作り、暮桜を見に来ていた。

 

「……なあ、暮桜」

 

……私は、物言わぬ暮桜に語りかける。

答えは返ってこない。その事は理解していたが、やはり寂しいと言えば寂しい。

そのようなことを思う権利すら私には無いのだろうが、それでも考えてしまう。

 

暮桜は、私を恨んでいるだろうか?

暮桜は、自分を捨てた私を見て、電子の心で何を思うのだろうか?

 

「お前は……私を許してくれるか?」

 

当然ながら、答えは返ってこなかった。

 

 

 

 

 

side 暮桜

 

また、あの人が私を見に来ている。

バラバラに解体され、無粋な計測機器を接続され、まるで晒し者のようになっている現状をあの人に見られるのは……なんと言うか恥ずかしく、それでいて情けない。

 

私はこうしてあの人の手から離れ、虜囚のような状況にあるわけだけれど、それでもあの人が考えているようにあの人を恨んでいる等ということは無い。

あの人が弟さんのことが好きだということは、相棒であり同体でもあった私が知らないはずが無い。あの人の苦悩は、私が一番よく知っている。

 

そして私は、あの人が眠っている時にあの人の夢に介入し、若干ながらも私を手放すように後押しすらしている。

 

あの人と私は、ある意味では一心同体。ならば、私があの人の弟さんを案じるのも、大切に思っているのもわかる話だろう。

私達は、機械の身でありながら人に恋をした。そして私と同体であるあの人と同じように、あの少年を愛した。

そしてそのデータは私達の構成するコア・ネットワークに流出し、そしていつの間にか誰もがあの少年との接触を望むようになっていた。

 

その事を知った造物主様は、ひとしきり大笑いしてすぐに私達のデータを組み替えた。

私達が望めば、相手が男性であっても反応するようにしてくれた。

 

そして今、その少年はかつてのあの人の愛機、『白騎士』……今は『シロ』を身に付け、空を舞っている。

 

……だから、私は貴女を恨みません。貴女は何も悪くありません。貴女にはなんの罪も、負い目もありません。

ですから、胸を張ってください。立ち止まらないで下さい。私が愛し、一つになりたいと願い、共に無限の空を舞った貴女は、この程度で立ち止まるような人ではありません。

 

……まあ、今の私にはそれを彼女に伝えることすらできないのですが。

 

…………なんとかなりませんか? 造物主様。

 

 

 

~~その頃の束さん~~

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!? 束さんの暮桜がっ!? 束さんが精魂込めて作り上げたちーちゃんの機体がぁぁぁぁっ!!」

「落ち着いて下さい束様」

「これが落ち着いてられるかーっ!」

 

こうなったら……こうなった原因を調べ上げて報復してやるぅぅぅっ!

 

「……ああ、これはもう止まりませんね」

 

くーちゃんはぽつりと呟いてどこかに行っちゃったけど、今はそれより報復だよ報復!

 

とりあえず、原因見つけて、ぶっ殺す。死ぬまで殺す、死んだら燃やす。

 

……字余り!

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

……どうやら暫くはこのままのようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束さん式報復術、第一段階

 

side 篠ノ之 束

 

束さん式報復術第一段階、とりあえず情報収集。

暮桜をあんな風にする命令を出した塵屑未満が誰かを調べ出して、それからまずは社会敵に殺す。

束さんには理解できないけれど、なんでかみんな社会的な地位に拘ってるからね。まずはそこから切り崩してやろう。

 

……束さん的にはさっさと死んでほしいけど、もっともっと苦しめてから殺すべき? それともそんなのがこの世界に存在していること事態が許しがたい事だから、初めから社会的にじゃなくて普通に殺す?

……そうだね、わざわざそんなののために時間をかけるのも馬鹿みたいだし、さっさと終わらせることにしよう。

 

方向性を決めた私は、とりあえずそう言うことを言い始めたのが誰かを特定するためにネットワークの海にダイブする。

通常ならインターネットに接続されていない独立回線なんかも、いっくんの使った滞空回線とか言うののまねっこをして繋げて情報をとる。

私の使っているパソコンも、滞空回線でのみ繋がっている検索専用のパソコンだから、他のところから情報を持って行かれそうになっても大丈夫。それ以前に束さん特性のファイヤーウォールとウイルスバスターがあるから抜けられないと思うけどね。

 

そんなわけでさっさと世界中の情報を集める。流石にちょっと多かったけど、無駄データをまるごと削除したら動きは十分早くなった。

 

そこから私は暮桜の情報をピックアップしていく。

テレビや何かで公開されているデータとか、ちーちゃんが使っていた時の機動記録とか、一般人でも頑張ればわかる程度の物は除くと、残るのは『暮桜の公開されていないデータ』が残る。

後はこのデータの出元を調べてやれば、どこの国がやったのかは…………あれ? なんだろこれ。

 

そこにあったのは世界政府の中でも先進国と言われるいくつもの国の違法な研究所の場所と、それだけじゃなくて私が調べた時には何もなかったはずの場所にある光点。

データの出元を地図で表示したはずなんだけど、いったいどうしてこんなところに?

 

考えられるのは、私が見逃してたか、どこかの国が最近新しく作ったか…………あるいは、国じゃないか。

 

……そういえば、おかしいんだよね。なんで私が暮桜のことを知らなかったのか。

調べてみた限り、ちーちゃんが暮桜を手放したのは四年から五年前。ちーちゃんがモンド・グロッソで二連続の優勝を逃した年か、あるいはその次の年。

ドイツでは誰もちーちゃんが暮桜に乗っている姿を見た人はいないから、多分四年前だと思うけど……その頃はほとんど全部の国は私の監視下にあったはずなんだよね。

だから、どこかの国がそう言うことを実行すればすぐに私に伝わってくるはずなんだけど…………事実として私は知らなかったわけだしね。

……知ってたら、ちーちゃんもいっくんも私が養ってあげてたのに……。

 

……その話は置いておくとして、問題は『大国の状況は表も裏も監視していた私が知らないうちに事が起きていた』という事実があること。それはつまり、この大天才の束さん以上の天才がどこかにいるのか、国が動いているけれど発端は国ではないのか。

 

……まあ、後者だろうね。じゃなかったら今回のことで発信源が特定されちゃうようなミスをするはずがないし。

 

考えながら指を動かす。いくつも存在しているそういった基地の一つ一つを、徹底敵に洗い出す。

とりあえず、これが原因に繋がっている可能性が高いから、箒ちゃんのIS、紅椿を作ったとき以来の全力モードで探りを入れる。

 

…………ふぅん? 亡国機業……ね。聞いたことはあるけど、まさかこんなところで関わってくるなんて。

……ちーちゃんのISが無いとすると、どうやら計画に変更が必要みたいだね。それも、かなり大幅に。

まったくもう。私の計画に茶々を入れようだなんて、二百年早いよ。

せめて規模を今の五十倍まで増やすか、最後まで私に気づかれなければもう少し長生きできたのにね。

まあ、『もしも』の話なんて必要ない。私はこうして敵を見つけて、そしてこれからそれを殲滅する用意もある。

私に目をつけられたことを不幸だと思いつつ受け入れて、そして死んでいっておくれよ?

 

……あ。そう言えばマゾカちゃんもその中にいるんだっけ。残念だね。ほんと、敵と仲良くなるもんじゃないよ。

必要な時に鈍るような決心はしたことないから別に何の問題もないけど、心優しい私はそうして引き金を引く度に心を痛めているんだよ?

 

……正確には、引き金を引くんじゃなくてボタンを押すんだけど。

 

私はいっくんに電話をかける。ちょっと世界各地に存在していた亡国機業の様々な部署を同時に叩こうという話をしたら、二つ返事でOKをもらった。いっくんらしいね。

そして次はちーちゃんに。ちーちゃんは優しいから、きっと私を止めるだろうと思ったから……先に釘を刺しに行く。

今回は、止められても止まらないよ……ってね。

 

……いっくんは私にお願いされてるだけだから、怒るんだったら私だけにしといて、ってこともね。

……正直後が怖いけど、それでも何とかしないといけないんだよね。

私は、お姉ちゃんなんだから。

 

…………ああ、怖い。

 

「……あ、ちーちゃん?」

『ああ、一夏から聞いた』

 

……いっくん、私を売ったね?

 

『行くなら……私も連れていけ』

 

……そっち?

まあ、ちーちゃんも来てくれるんなら百人力だけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束さん式報復術、第二段階

 

side 篠ノ之 束

 

束さん式報復術第二段階。第一段階は前提条件を揃えることで、第二段階は計画を練ったり実行のための用意をしたりする準備段階。予想外の助っ人ちーちゃんの参戦によって少し楽になったけど、相手はこの束さんに事を悟らせないような老獪な組織。油断なんてするつもりはないし、する予定もないけれど……まあとにかく殺っちゃおう。

 

私達の味方は自分を入れても四人きり。私と、ちーちゃんと、いっくんと、くーちゃん。この四人で世界規模の組織を相手にするわけなんだけど……まったく欠片もこれっぽっちも不安にならないのはなんでだろうね?

 

……やっぱり、ちーちゃんといっくんの存在が大きいのかな? このメンバーに箒ちゃんが加われば、私はなんだってできちゃう気がするよ。

できればいっくんラヴァーズの皆にも協力してほしいけど、今回のことは私とちーちゃん、そしていっくんと言った関係者のみで終わらせたいからね。勿論くーちゃんも関係者だよ?

 

そう言うわけで今回の作戦の内容を決めようと思う。

 

私の捜索と検索によって、敵方のアジト的な場所は全部割れているし、構成員もかなりの人数がわかっている。まるで腐肉にたかる蠅か蛆みたいだね。死ねばいいのに。

とりあえず構成員にはあの世に行ってもらう。中性子爆弾を使えばISにも建物にも一切傷をつけることなく人間だけを焼き払うことができる。

悪魔の兵器なんて言われてるけど、様は使い方次第だよ。電子レンジの代わりにするのが一番平和的なんじゃない? 使うと周りに居る人もミディアムレアになっちゃうだろうから、私は使わないけど。

 

「と言うわけで、中性子爆弾を用意したから設置してきて欲しいんだ。そしたらこっちで全部同時に爆破するから」

「時限爆弾?」

「違うよ? 一つ爆発すると連鎖的にみんな爆発するようにしてあって、蟻も殺せないような威力の一発をここに置いておいて設置が終わったら爆発させるの。すごいでしょー♪」

「……で、それをどこに置いてくればいい?」

 

あら、流されちゃった。束さん悲しい!

まあ、別にいいけどね。その方がちーちゃんらしいし。

 

「基地に侵入したらすぐにバレちゃうだろうから、基地の近くでいいよ。ちーちゃんは隠密作戦とか苦手だったし」

「……すまん」

「大丈夫だよ!その事も考えて地面も何も貫いて人だけ焼く中性子爆弾を用意したんだから!……場所によってはちょっと町から人影がなくなったりするかもだけど、それでも細菌兵器とか核とか隕石直撃よりはマシだと思うし」

 

ちーちゃんは頭が痛そうに眉間を揉み解している。でも、反対はしないみたいだね。

これでもできるだけ狙った相手以外は傷つけないように一応の配慮はしてるし、これを却下したところでいい手は見付からないと思うし。

 

ちーちゃんが優先するのは、どんな時だっていっくんなんだから。いっくんができるだけ傷付かないようになっていて、それでいて私の個人的な復讐……報復もできて、一石二鳥な作戦だもの。

実際はただ言ってみただけで町や村が壊滅するなんてことはまず無いし(正確には『無いようにした』んだけど)、そのこともちーちゃんといっくんならちゃんとわかってるだろうしね。

私は確かに人格破綻者で、自分の大切な物以外はどうなっても構わないと心の底から考えてるけど……一応、理由も無いのに蟻を踏み潰しちゃったらちょっとくらい悪かったかなーと思うことだってあるんだよ?

……そもそも蟻を踏んだことに気付けばの話だし、無駄じゃなければ踏み潰した後に踏みにじっちゃったりもするんだけど。

 

「……それじゃあ、ちょっくら全力ステルスかけながら仕掛けてくる」

「いってらっしゃーい」

「車と怪しい奴と敵には気を付けるんだぞ」

「それでは、私も向かいます。行って参ります、束様」

「もう。ママって呼んでいいって言ってるのに……」

「申し訳ありません」

 

そう言ってくーちゃんといっくんは飛び出していった。白式……シロにはステルス能力なんてつけてないはずなんだけど、ちゃんとステルスになってるね。どうしてかな?

……マテリアルマーチの作品にしては電子迷彩だけじゃなく光学迷彩までかかってるのはおかしいし……いっくんパワーかな?

いっくんには秘密が多いからねぇ……束さんにもわからないような能力がいっぱいあるんだよ?

 

まあ、全部使った訳じゃないだけかもしれないけどね。あるいは応用だけ見せて基本の技を見せてないとか。

そうだとしたらいくら束さんでもわからないからね。情報が足りない状態からじゃあ束さんだって未来予測とかそう言うのができなくなるのさ。

 

「……それで、私はどうすればいい?」

「いっくんへのラヴパワーで危険になったら出てほしいんだ。ならないと思うけど」

「なんだ、いつも通りか」

「そうそう。いつも通りだよ。……私は基地にいない構成員の暗殺準備を進めておくね」

「ああ。よろしく頼む」

「…………」

「……どうした?」

「……ちーちゃんがデレた~いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい痛すぎるよー!?」

 

いつものことだけど頭蓋骨がミシミシって!ミシミシギシギシって!?

 

「絶望がお前のゴールだ」

「ゴールは終わり、終わりは始まり、つまり束さんは何度でも甦るってこいたいいたいいたいよー!」

 

にゃぁぁぁぁぁぁっ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束さん式報復術、第三段階

 

side 篠ノ之 束

 

束さん式報復術第三段階、準備が終わった後の最終確認。

これを終わらせれば、後は結構簡単に終わってしまったりする。

大きな確認事項は大体三つ。

 

自作の中性子爆弾の設置場所の確認と、その基地に対応する威力の物が選択されているかどうか。

起爆の際に、効果範囲内に居る人間が全員亡国機業の人間であるか。

そして、効果範囲内にいない組織の人間の補足。

 

この三つが完璧なら、私はちーちゃんに怒られることもなく、良心が痛むこともなく実行できると言うわけだね。

すっごいセンサー作っといてよかった。ほんとはちーちゃん&いっくん観察用だったんだけどね。最近はあっという間にばれちゃうから使わなくなったんだけど……。

 

……さてと。それじゃあそういう話は置いといて、確認作業に移ろうか。

ちーちゃんやいっくんといちゃいちゃするのは後でもできるからね。

 

……でも、後でもできることは今やるべきだと言う話もあるし、とりあえずいっくんを抱き締めてみた。

 

「…………?」

「えへへへ~♪」

 

いっくんの頭に鼻を埋めて、いっくんの匂いを楽しむ。さっきまで高速で(明らかに『白式=シロ』のスペックを越えてた気がするけど、なんなんだろうね? 脚に生えてた細身の羽根みたいのが原因かな?)世界中を飛び回ってたからか、ちょっと汗の匂いがする。

 

……くんくん。すんすん。すぅ~~…………はふぅ……♪

 

「……おやすみ、束姉さん」

「はーい、おやすみ~♪」

 

……いっくんは私に首筋の匂いを嗅がれていると言うのに、何でもないかのようにそのまま寝てしまった。

……うん、これは多分誘われてるんだよね? 束さんの脳髄に直撃する仕草をこれだけ見せておいて、まさか誘ってないなんてことは無いよね?

据え膳食わぬはとりあえず恥、と言う訳でイタダキマス!

 

「馬鹿者。誰がやらせるか」

「ひぎっ!?」

 

いつの間にやら私の後ろに鬼神(ちーちゃん)が立っていた。しかも顔がすっごく怖い。いや、ほんとに。

あと、流石の束さんだって首を掴まれたら苦しいんだけど~……? ちーちゃんの握力なら首の骨を握り潰されちゃうような……。

 

「安心しろ。加減はする」

「わーいそれは安心……っていたたたたたたたたたぁっ!!? すっごく痛いんだけど何やってるのちーちゃん!? まるで指で直接神経に触れられてるかのような痛みが首から走るんだけどっ!?」

「痛いだけだから安心しろ。それと、一夏を起こしたら因幡の白兎にしてやる」

「全身の皮膚を全て剥がされて唐辛子と塩を混ぜた粉末を何度も何度も身体に刷り込まれるのっ!?」

 

あ、ちーちゃん笑顔だ。目は欠片も笑ってないけど、今のちーちゃんならやる。絶対やる。

目の色彩が反転して、普段白いところが黒く、普段黒いところが赤黒くなってる上に、瞳孔だけが縦長になってる。今だかつて無いほど怒ってらっしゃる…………!

 

普通に怒ってるちーちゃんならちょっとした冗談は通じるけど、流石にこうやって目が反転しちゃったら冗談なんて言えないね。

しかも今回は更に一段上になっちゃってるし。

…………うん、因幡の白兎は覚悟しとこう。逃げようとしてもいっくんが私のおっぱいを枕にして寝てるから逃げられないしね。

いっくんを抱き締めたまま死ぬなら本望!ちょっと嫌なのは暮桜をあんなにした奴等に報復することができないことだけど、確認も終わって後はスイッチ押すだけだからくーちゃんがやっておいてくれるだろうし…………。

 

……覚悟完了!

 

「……安心しろ。お前なら…………まあ、同衾程度なら許してやる」

「…………え?」

 

同衾オッケーって…………ほんとに?

 

視線を向けて確認してみると、ちーちゃんはこくりと頷いた。どうやらマジらしい。

流石にえっちいことは駄目みたいだけど、ちゅーくらいなら大丈夫なんじゃ……。

 

……ほ、ほっぺだよ? ほっぺにちゅーするだけだよ?

 

恐る恐るといっくんのほっぺたに唇を近付けていって……ちゅ、と、いっくんのやわらかほっぺたに束さんの唇が触れちゃった。

 

…………おかしいなぁ? 望んでたことの筈なのに、どうしてこんなに恥ずかしいんだろう?

 

なんだか熱くなっちゃった気がする顔を触ってみる。……やっぱり熱い。

あーもう!束さんはいったいどうしちゃったの?

 

……後で考えてみたら、多分ちーちゃんにOK出されちゃったから空気に酔ってたんだろうと予想はついたけど…………この時の私はただ降って湧いたような現状に恐る恐ると触れることしかできなかったのだった。

 

 

 

 

 

side くーちゃん

 

……お母様はどうやら相当慌てているようですね。いつもの飄々とした態度が完全にどこかに行ってしまいました。

まあ、そのようなお母様も新鮮でいいとは思いますが、お母様を簡単に一喜一憂させる千冬様とその弟君には脱帽です。

 

……羨ましい、と思うこともありますが……とりあえず今はその気持ちに蓋をすることにしましょう。

 

……これでチェックは終わりですね。後は起爆する少し前に、効果範囲内にいない亡国機業の構成員のリストを纏めておけばいい。

 

…………ちなみに、私がお母様を外に出す時に『束様』と呼称するのは……恥ずかしいからです。

『束ママ』と呼ぶのは……私のような者では似合わないでしょうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束さん式報復術、最終段階

 

スイッチひとつで数万の人間が死んだ。全員敵だから心が痛んだりはしないが、多少かわいそうだと思う。

 

……訳無いだろう。自業自得だ馬鹿。

 

それに、どうやら大雨さんとちょろータム、マゾカの三人は被害を受けなかったようだし、悲しむ理由が本格的に皆無だ。

ちょろータムとかマゾカが死んでたら『からかう相手が減った』と言うことで多少悲しんだりしたかも知れないけど……ちゃんと生きてるようなんだよな。

 

あと、亡国機業の裏金は束さんの隠し金庫と織斑家の財産として平等に分配された。今は束さんが金庫の代わりに預かってくれている。

……ちー姉さんの通帳とか中身を初めて見たけど、日本円で0が9個ついていた。

さらに、今回の事で実質的に桁が一つ二つ増えた。流石にそんな金額を銀行に預けるわけにもいかず…………とりあえず束姉さんに預かっててもらっている。

 

……上手く使えば大国相手に経済戦争で勝てそうだよな。束姉さんなら一つ相手にしたらむしろ増えてそうだ。

俺が言える台詞じゃないけども、こう言うときの束姉さんは容赦とか手加減とかそういうのが無くなるからなぁ……。

しかも、束姉さんは本気で怒ると笑顔になるタイプだからわかりづらいし。いつもはあんなに感情を表に出してくるのにさ。

 

……まあ、それはそうとして……亡国機業は壊滅したが、世界中の様々なところに亡国機業の残党は居るらしい。国の上の方とか、都市の上の方とか、色々なところに。

大体の相手の居場所はわかっているけれど、こっちの方は政治を動かしている立場の奴も結構居るから突然排除したらまた世界が随分荒れるだろう。そしたら面倒だ。

 

まあ、根は潰したから放っておけば勝手に落ちていくだろうけど、落ち切って居場所がわからなくなったら困るし、完全に落ちる前に行方不明になってもらうことになるだろう。

束姉さんは社会がどれだけ荒れようと気にしなさそうだけど、こっちは気にするんだよね。一応社会の中で生きてるわけだし。

 

「その事なんだけど……結構な人数を狙撃でやっちゃった♪」

「何やってんのさ束姉さん」

「だぁーってチャンスだったんだもん。今を逃したら多分守りが固くなるし、また勝手に集まって鬱陶しくなりそうだし……虫だってあんまり量が集まると気持ち悪いしさ」

「こら、虫とあんなのを一緒にしたら、色々と失礼だろう。ゴキブリだったらある一定の相手に対してはかなりの武器になるのに、あんななんの役にも立たないただそこにいて空間を無駄遣いし、酸素を浪費するだけの塵芥未満と一緒にしちゃ駄目だよ」

「束さんにとっての世界は、私といっくんとちーちゃんとくーちゃんといっくんラバーズと敵とそれ以外しか無いから別にいいの。それ以外は必要ないから虫もゴミも同じ」

 

同じらしい。束姉さんはどうやら予想以上に人格破綻者らしい。

まあ、俺もかなり人格破綻者だけど……流石に束姉さんよりはましだと思う。

 

……と言うか、昔から思ってはいたけど…………俺の周りって人格破綻者多くない? ついでに、一般的な感性からすると変態の領域に入る奴も。

俺の周りにばっかりかなりの人数がいる気がするんだよな。変人とかそう言う類いの存在が。

…………別にこっちに被害は来てないし、いいけど。

 

『いいの!? 良いわけ無いよね普通!?』

 

なんだかシャルのツッコミが入った気がする。気のせいだろう。

それに、そう言うのが周りに居ないってことになったら、多分束姉さんとかラルちゃんとか弾とかセシリーとか鈴とかののちゃんとかちー姉さんとか、そう言う人も居なくなると思うし。

それと、遠隔でツッコミができるシャル自身も十分異常人の範疇に居ることを理解しておいてほしい。

 

……その事はどこか適当な所においといて、とりあえずまだ生き残っているらしい亡国機業のデータの中からマゾカ達を探してみる。

もしかしたら束姉さんの魔手にかかってお亡くなりになってるかもしれないけど、一応探して

 

「一番上に居たかぁ……」

 

一枚目に見慣れたちー姉さんそっくりの顔があった。

その書類には写真とプロフィールが乗ってるけど……生年月日に血液型に身長体重スリーサイズ……あと血縁やら家族構成まではまだいいとして、初潮の日なんてどうやって知ったんだろうな? そんなことまで亡国機業のデータベースに残ってるとは思えないんだけど…………?

 

「束さんだからね!情報収集は大得意なんだよ? ついでにいっくんが気にしてる残りの二人のデータはこれね」

 

そう言って束姉さんがカシャシャシャッ!とキーボードを叩くと、マゾカのプロフィールが消えて大雨さんとちょろータムのプロフィールが出てきた。

 

身長体重生年月日にスリーサイズ。家族構成や血縁といったマゾカと同じ物から始まり、やはりこれにも初潮を迎えた年月日が記録されている。

ついでの話だが、備考欄に『いっくんのお気に入り』と書いてある。マゾカはそれに加えて『ちーちゃんといっくんの細胞を掛け合わせたクローン』という一文も…………って、マジ?

 

……そっか。マゾカは俺とちー姉さんの合の子だったのか。つまり、俺とちー姉さんの間に子供ができて、その子供が女の子だったらあんな感じになる可能性があると。そう言うわけだな。

 

多少ショッキングな情報だが、これを知ったなら仕方無い。俺は家族は割と大事にする派だし、俺のせいだけど困ってるだろうし……助けてやるか。

 

「束姉さん」

「いっくんが束さんのほっぺにちゅーしてくれたら教えてあげいたいいたい」

 

俺のキスの代わりにちー姉さんのアイアンクロー(格闘タイプ)が束姉さんに決まり、束姉さんはぱたぱたと両手を振って暴れている。

 

……別に、束姉さんならほっぺにキスくらいは構わないけど。

 

そう思いながらも、束姉さんがぱたばたと暴れながら出してくれた位置情報を見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報復結果、某所にて

 

side 織斑 マゾカ

 

亡国機業が無くなった。そんな報告をスコールから受けたのは、何日前のことだったか……。

初めてその報告を受けた時には信じられず、自分の目で確認に行ってようやくそれが事実だと知った私は、自分の命を繋ぐためにスコールと道を同じくしている。

 

しかし、スコールの元には私だけではなくちょろータムも居て、このまま収入が無ければ五年程度でスコールの預金は殆どゼロになる。

なにもしないでも三人が五年持つのはある意味凄いが、ただ驚くだけでは結局いつかは詰んでしまう。

…………ここで問題になるのは、金を得るには仕事をする必要があるということで、いい仕事をするには戸籍が必要だと言うことだ。

 

……………………クローンの私に戸籍があるわけがないし、クローンでは無いにしても誘拐されてきたちょろータムに本名を名乗らせるのもまずい。入国手続きをとっていないわけだしな。

 

つまり、私達の中でまともに働くことができる可能性があるのはスコール一人であり、私とちょろータムはこの件に関してはただの役立たずであると言うことだ。

 

そう言うわけで、私は暇な日中は適当に周囲の散策をしている。大概暇をもて余しているちょろータムが付いてくるが、最近は言い争うことも殆ど無くなった。

正確には、それを行う元気すらなくなっているだけなのだが……まあ、静かでいい。

 

「……おい」

「どうした、ちょろータム。右足に左足を引っ掻けて転んでしまったから助けてほしいのか?」

「座った状況で右足に左足をかけたところでこけるかよ」

「そうだな」

 

……しかし、こいつは若干成長したな。私の軽い挑発にも乗らなくなってきたし、思い上がった発言をすることも少なくなった。そろそろちょろータムを卒業と言うことか?

今のこいつに昔のこいつの姿を見せたら、いったいどのような反応が返ってくるのだろうな。所謂『厨二病』が治ってそれまで自分がしてきた黒歴史を見つめ直した高校生のような反応でもしてくれるんじゃないかと思っているのだが…………。

 

「……なんだよ?」

「いやなに、お前から話しかけてきておいて黙っているから、その年でもう認知症を発症したのかと不安になってな」

「なってねえよ。一瞬で何でそこまで考えが回るのかこっちが不思議だわ」

「そうか。……それで、結局私に何の用だ? 自殺志願なら一応止めておくぞ。お前は嫌がるかもしれんが、今は頼り無くはあるが仲間だからな」

「…………そうかよ」

 

そう呟いて、ちょろータムはベンチの背凭れに寄りかかって空を見上げた。

私はちょろータムから視線を外し、手にしたココアを啜る。

一気に缶が空になるまで飲んだ私だが、缶を口から放すと同時に隣から溜息が聞こえた。どうやらちょろータムのようだ。

 

私達の間には暫く沈黙が広がり、それからちょろータムが再び口を開くまでには時計の長針が60度ほど回転していた。

 

「…………本当に潰されちまったな……亡国機業」

「…………そうだな」

 

……やはり、今更ではあるが私達の中では亡国機業という組織は……まあ、それなりに大きな場所を占めていたようだ。

私は生まれが培養機の中だし、ちょろータムは物心ついた頃に拐われて亡国機業に来て、それからずっと亡国機業を生活の中心としてきていた。

だからこそ、突然亡国機業が無くなったと聞いた私達は、こうして何をするべきか、何をしていいのかわからずに、真冬の公園のベンチに座って冷めきったココアとコーヒーを啜っているわけだ。

 

…………だが、流石に真冬の公園というのは冷える。例え太陽が照りつけていても、身体が冷えるのは止まらない。

それに、いい仕事が見つかるまでは食事などを制限してできるだけ金がかからないようにしているため、今の私の体にはあまりエネルギーが蓄えられていない。

つまり、身体が冷えても暖められない。暖めるためのエネルギーがそもそも無い。

 

くきゅぅ……と、胃が文句を言う。今ココアを飲んだばかりだと言うのに、欲張りな奴だ。

だが、持ち合わせが無い事は事実。水を飲むことくらいしかできんぞ。

 

「……腹……減ったな…………」

「……言うな。言ったところで腹は膨れん」

「……だよなぁ……」

 

……実際には、スコールからある程度まとまった金を貰っている。私達がそれを使おうとしていないだけで、私の懐の財布は万札と千円札でいっぱいだ。

だが、金は使えば無くなるもの。それは金に限らずそうなのだが、目に見える分金の話はわかりやすい。

結局、私達は一応スコールに遠慮しているわけだ。

 

「……戸籍がありゃあな……私だってちょっとしたバイトくらいやってやんのに……」

「その通りだが、あと少しの辛抱だ。スコールがその辺りをなんとかすると言っていたからな」

「…………なんか、スコールには迷惑かけてばっかだよなぁ………………」

 

それは私も同じなのだが、ここではあえて何も言わないでおく。

ちょろータムはどうやら妙な鬱々しいスイッチが入ってしまったらしく、どんどんとネガティブな方に思考が進んでいく。

このままだと大概鬱陶し過ぎて私がひっぱたくことでちょろータムは直るんだが……。

 

「……いっそ、自殺してスコールの荷物を下ろさせてやるかなぁ……」

 

……お前はたまに私の想像を越えて馬鹿になるな。お前が自殺したらスコールの生き甲斐の半分近くは失われるだろうに。

行方不明になれば確実に探し回るだろうし、そのために必要ならばいくらでも金を使うだろう。

 

……まったく、馬鹿なちょろータムだな。

 

そう考えたところで、どさり、となにかが落ちる音がした。

その音がした方を見てみると、そこには顔面蒼白になったスコールの姿があった。どうやら今のちょろータムの台詞を聞いてしまったらしい。

 

………………さて、巻き込まれないうちに逃げるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

これもある意味、家族愛……?

 

side 織斑 マゾカ

 

ちょろータムの言葉を聞いたらしいスコールは、かなりショックを受けたような表情を浮かべたまま固まっている。まあ、こいつにとってはそれだけちょろータムという存在は大きかったと言うことだろうな。

私としてはこいつのどこにそれだけの魅力を感じ取ったのかは理解できないが、蓼食う虫もなんとやら、だ。理解できなくともそういう存在がいるということは受け入れよう。

 

それからスコールはなにかを決意したような表情を浮かべながら、ぼんやりと空を眺めているちょろータムに近付いていく。ちょろータムはその事に気付いていないらしく、いまだにぼんやりと空を見上げている。

 

「……オータム」

「ん……!? スコール!?」

「この……馬鹿っ!」

 

ぱあんっ!と何かが弾けるような音が響き、ちょろータムの首から上が弾け飛んだように回転する。

ちょろータム自身の身体は回転していないが、そのお陰で逆に首が痛そうだ。

 

「って……な、何を……」

「『何を』? それはこっちの台詞よ!」

 

ちょろータムが突然の事に目を白黒させながらスコールに聞き返すが、スコールはその目に怒りと若干の涙を浮かべて逆にちょろータムを問い詰める。

……そう言えば、ちょろータムの名前はオータムだったな。ちょろータムちょろータムと呼び続けていたせいで忘れかけていた。そういう気分になることがあったら、たまにはちょろータムではなくオータムと呼んでやるとするか。

 

……そんな気分になる時が来たら、の話だが。

 

巻き込まれないようにベンチの端に移動してそんなことを考えている間に、スコールはちょろータムを抱き締めた。その瞳には涙がはっきりと浮かんでいる。こいつが涙を流す所など、初めて目にしたな。

……と言うか、こいつが泣けたというところに驚きだ。私はてっきりこいつは涙の流し方を忘れているとばかり思っていたのだが……。

 

「……前にも言ったでしょう? 貴女は私の大切な恋人で、私にとっての『帰るべき場所』なのよ? ……だから…………お願いだから…………」

 

スコールは大粒の涙を流しながらちょろータムを抱き締め、嗚咽を交えた言葉を紡いでいく。

 

「……お願いだから……死ぬだなんて言わないで…………お願いよ……オータム…………」

「…………うん」

 

スコールの涙ながらの説得に、ちょろータムは小さく頷いた。そしてそのまま、スコールを抱き返して頭を撫でる。

 

「……悪かった。もう言わないし、スコールより早くは死なないから…………」

「……ほんとう…………?」

 

かなりマジ泣きしているスコールは、まるで親を見つけたばかりの迷子の子供のようにちょろータムを抱き締め続ける。

ちょろータムも苦しいだろうが、それを外に出すようなことは一切していない。どうやらちょろータムにはちょろータムなりに母性本能とか言うものがあるらしいな。

 

…………やれやれ。私がこの場に引き込まれないように退がっていてよかった。この場に私が居ては、完全にお邪魔虫だしな。

……まあ、この場にいること自体が邪魔になるかもしれないが。

 

そう言うわけで、私は二人の邪魔をしないようにゆっくりと立ち上がる。そんなことをしなくても、二人きりの世界に浸っているこのバカップルは気付かなかったかもしれないが……まあ、気付かれる可能性は低い方がいい。

一応こいつらには恩もあるし、私の願いは果たせそうにない。ならば、確率は低いだろうがこいつらを護ることくらいは…………できるだろう。

 

……やれやれ。私もあの眠たがりに当てられたか……それともこのバカップルに当てられたか…………丸くなったものだ。

そして、それを自覚してなお悪い気がしないというのだから重症だ。

 

私はスコールやオータム程ではないが、今までに何度も話をしている眠たがりに向けてプライベート・チャネルを開く。

……恐らく、今回の亡国機業の壊滅はこいつの一派の仕業だろうが……それでも私が頼れる相手はスコールとちょろータムを除けばこいつしかいない。

自分の顔の狭さを嘆くしかないが、今は嘆くよりも行動する時だ。

 

『……あ、もしもしマゾカ? 久し振りな気がするね』

「ああ。私も久し振りのような気がするな。実際はあまり過ぎていない筈なのだが」

『あっはっは…………それで、何の用?』

「なに、ちょっとした頼みだ。……残念ながら、私にはこの件に関してお前以外に頼れる相手がいないのでな」

『……友達少ないんだな』

「五月蝿い」

 

いつものような軽い掛け合いをして、相手の気分を確かめる。

今は特に気分が悪いと言うことは無いようだが、別段良いというわけでも無さそうだ。

そんなこいつに頼み事をして聞いてくれるかどうかはわからないが、やらないよりはましだろうし、やったとしてもあまりしつこくしなければスコールとちょろータムに被害は行かない筈だ。

 

『…………で、頼み事ってのは何だ? シロクロ寄越せってんなら加減忘れて潰しにかかるぞ?』

「違う。そうじゃない。お前についてはもう狙う理由がなくなった。別の事だ」

 

……亡国機業はもう無くなっていて、私達がそれに忠誠を誓っている訳でもないのだから、間違ってはいない筈だ。

 

私は何度か咳払いをして落ち着いてから、とりあえずこれはプライベート・チャネル越しにしていい会話ではないと思ったため、そいつを呼び出すことにした。

 

「……会って話そう。時間を作れるか?」

『……場所は……五反田食堂でいいか? 』

「ああ。私は頼む側だし、全てお前に合わせよう」

 

…………さあ、織斑マゾカ、一世一代の大勝負だ。

 

……間違えた。織斑マドカ、一世一代の大勝負だ。

 

 

 

 

 

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