IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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41~50

クラス対抗戦、見所皆無

 

金髪の独壇場でした。終わり。

 

さてと。それじゃあクラス対抗戦の前にあったちょっとした事件のことでも話そうか。

 

「……一夏? オルコットが頬を染めて身悶えしてるんだが……」

「気にしない気にしない。」

 

気にしたところで扱いは変わりゃしないんだから。

 

「……お前はそこまでオルコットが嫌いか?」

「ん? 別にもう大して嫌いじゃないけど?」

「………じゃあ、なぜそこまできつい態度をとるんだ?」

「本人にそういう態度でいてほしいって言われたからだな」

「…………原因はオルコット自身か……」

 

ののちゃんはそう呟いて頭を抱えた。

まあ、いつものことだな。

 

このことは話すのが面倒だから、夢の中の回想で勝手に見てくれ。

 

 

 

side 織斑 一夏

 

鈴が転入してからしばらくして、鈴から模擬戦のお誘いを受けた。

ちなみにこれは睡眠時間を削ろうとしているわけではなく、シロの一次移行の手助けをしたいかららしい。

 

なんでも一次移行をする前とした後では機動力や馴染み方が全く違うらしいので、さっさとやっておかないと困ったときに大変だからと聞いた。

週に一回のアリーナの訓練と週に一回の整備室での整備ではデータが足りないらしく、こっちも望むところとOKサインを出した。

 

その時に金髪がその相手に立候補してきたが、遠距離武器系統のデータの方は足りているので断っておいた。

 

……普通のISは一つ一つではなく全体で一気に変わるものだと思ってたんだが…………まあ、これも束姉さんが作ったコアを複数使った初めての機体だからこれが仕様なんだと納得しておくことにした。

そういう機体だって無いとは言えないよな!

 

「さて、それじゃあ始めましょうか。」

「そうしよう」

 

俺と鈴はアリーナでISを装着したまま浮いている。アリーナは借りきったので、ステージには俺と鈴以外は誰もいない。

……ところで、俺がアリーナを使うときにはなぜか毎回観客席がいっぱいになるんだが、理由は知らないか?

 

「一夏はもてるからじゃないかしら?」

「まさか」

 

原作一夏だったらともかく、俺だぞ? 無い無い。

 

「……ああ、そうだ。一夏の戦闘記録見たんだけど………手加減してね♪」

「それなりにね♪」

 

……さてと。それじゃあ始めようかね。それなりに手加減するけど。

 

とりあえず今回は近接ブレード(名前はまだ無い)を展開する。右手の衝撃砲の最大威力……というか、アリーナのバリアをぶち抜ける以上の威力を出すのは禁止されたから、右手に。

 

「あれ? そんな武器あったの?」

「あったよ? 使ってなかったけど」

「へぇ………それじゃ、始めましょうか」

 

弾と鈴と一緒に行った喧嘩では、面白がってこんなことをやっていた。

 

腰を落とし、下げるようにして開いた左膝に左手を置き、右手は広げたまま鈴に差し出す。ブレードはなぜか腰元で浮いている。鞘に入ってないのにな。

 

「お控えなすって。手前、生まれも育ちも日の本の国。無限の空の生国で、一人の姉と共に生き、その生の大半を睡眠に費やして来やしたが、何の因果か空を動かし、こうしてこの学園にて、生を繋ぐために力をつけるために空を舞っておりやす」

 

ここで一度切って、息継ぎをする。

 

「名は、『世界最強の弟』何て呼ばれちゃいますが、血でその者の全てが決まるはずも無し……凰 鈴音が友、織斑一夏と言う者でござんす。………失礼ながら、お手前は?」

 

ちなみに鈴の名前の所で少し止まった訳は、シロのハイパーセンサーで出てきた鈴の本名を参考にしていたから。

 

それを知らない鈴は少し驚いた顔をしたが、すぐにくすりと笑って俺と同じポーズをとった。

 

「あたしは生まれは中華の国、凰家食房が娘。想い人に毎日の糧を作れるように修行の日々を送っております。両親の思いやりを胸に、想い人に再会いたしました……織斑一夏が友人、凰 鈴音と申します」

 

……いきなりなのによく会わせられるな。驚きだよ。多分俺もできるけど。

 

「……って、行きなり言われてあたしが気付かなかったらあんたただの痛い人よ?」

「鈴だったら気付くと思って。実際気付いたし」

「まあ、そうなんだけどね」

 

お互いに笑い合う。けらけらと。くすくすと。

 

そして全く同じ時に笑いを止めて。

 

 

「―――いざ!」

 

俺が吠える。

 

「―――尋常に!」

 

鈴が叫ぶ。

 

 

「「―――勝負!!」」

 

 

……そして、お互いの武器がぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想像以上、鈴vs俺

 

……ふぁ………ん。

 

……ん? なんだ、まだ見終わってないのか。仕方無いな……もう一眠りするかね……。

 

……すか~…………。

 

 

 

side 織斑 一夏

 

アリーナの中央で武器をぶつけ合った俺と鈴は、その場ですぐさま次の攻撃に移った。鈴は片手で持った大刀を枯れ枝のように振り回し、俺は右手の名無しのブレードで正面から斬り返す。

 

「さっすが一夏!やるじゃない!」

「鈴こそ凄いな。まだなんか隠してるだろ」

「もちろん!今から出すから――食らいなさい!」

 

そうして鈴の肩部分のアーマーが開く。そこにあった球体から、拳にある衝撃砲と同じ空間の歪みが現れる。

それに合わせてこちらも左の拳を鈴の肩に向けて衝撃砲を撃ち出す。

 

バギンッ!と空間が弾け、お互いに撃った衝撃砲がかき消える。

 

「まだまだいくわよ!」

「こっちもだよ!」

 

斬り合いながら拳を振るい、衝撃砲を撃ち合いながら武器をぶつけ合う。鈴の場合は勘で間合いや攻撃を読んでくるからやりづらいところがある。

 

こういった近距離ではフリッカーは使いづらいので、某一歩を踏み出すボクシング漫画の尾張の竜のスクリューブローを真似る。これもまた連射が利いてその上貫通力があるので、衝撃砲同士をぶつけても多少の威力差なら引っくり返せる。

当然直接ぶつけても威力があり、拳自体も結構な威力を持っている。普通こんだけ反応速度と速さを持たせたら他のなにかが落ちる所なんだが………束姉さんマジで凄い。

 

ガギィンッ!と音をたてて鈴の使う両刃の大刀が分かれ、それぞれが上下左右から襲いかかって来る。まあ、後ろからは来ないのが救いと言えば救いだな。

それでも俺は追い付いて切り払う。速度特化舐めんなってな。

 

「よく片手ずつで衝撃砲と剣撃を全部落とせるわね。いろんな意味で、一夏って人間?」

「多分」

「そこは断言してよ怖いじゃない。『初恋の相手が人外とか…………あれ? 一夏だったら問題ないのかしら?』」

 

初恋カミングアウト。びっくりした。ついでに途中からオープン・チャネルからプライベート・チャネルになってた。流石に聞かれたくはないよな。わかるわかる。

 

ピロリン♪

 

『メールだよ!らぶりぃ束姉さんからメールだよ!早く、あ・け・て♪』

 

………………。

 

「……一夏? どうしたの?」

「あーうん、ちょっと驚愕すべき厄介事。メール入ったからちょっと待っててくれ」

「……ISってメール着信機能なんてあった?」

「普通は無いと思うよ。俺のが確実に普通じゃないだけで」

 

……さてと。どんなメールかね?

 

開いてみると、いきなり目の前に束姉さん({ヘンゼル+グレーテル}÷2)が現れた。

 

『やっほー♪ プリティーチャーミー束さんだよ、いっくんは元気してるかな? してるよね? してなかったら言ってねすぐ行くから(真剣)。まあいいや。これからそっちに練習台送るから活用してね!生きてるのが相手だと手加減しちゃうと思ったから無人ISだよ!安心した? 安心したらやってくるそれを倒しちゃおう!それと、防御がすっごく固いから左手じゃあダメージほとんど無いよ。ブレードと右手で頑張ってね!右手を使うとビームで相殺するようになってるけど』

 

そこまで読んだところでアリーナの遮断シールドがぶち抜かれて、何かが―――訂正、束姉さん作の無人ISが落ちてきた。

 

そちらに意識を向けながらも、メールの最後まで目を通す。

 

『相殺するようになってるけど、頑張ってね!ちなみにこのメールはいっくんが読み終わったら勝手に消えちゃいます。履歴とかも残らないから安心しちゃっていいよ? じゃあまたね~♪』

 

……そしてヘンゼルとグレーテルを足して2で割ったような格好をしている束姉さんが消え、メールが届いた痕跡が全部まとめて消え去った。

 

…………だから、その科学力をもう少し別のところに使いなさいと。

……無駄だとは思うけど。

 

……………………さて、と。折角の束姉さんからの好意(多分それ以外もあるけど)だし、戦うとしようか。わりかし本気(ISのみだけど)で。

 

 

束姉さんに俺が頼んだ装備は三種。一つは既に使っている衝撃砲。これについてはよく知っているだろうが、普通は直線軌道のみのはずなんだが、出力調整で曲げ撃ちができる。

 

二つ目は空間固定兵器とそれの応用。俺の考えた使い方は、物理的なものに対する盾だったり空中に作る足場だったり、固定する空間を細い細い糸状にして相手が突っ込んできた時に首を飛ばすとかその程度だ。

 

三つ目は……秘密。どうせまだ使えないし。

 

そこに恐らくちー姉さんのリクエストの雪片弐型(原作知識)と零落白夜が追加され、悪夢の兵器(高速で接近してきて一撃食らうと死亡、その上動くとなぜか切られるため動くに動けず銃を撃っても防がれ、光学兵器はチャフで封殺)が完成する。マジ外道。

 

ちなみに空間固定兵器だが、ラ……ラ………銀髪眼帯黒兎の使うAICとは別物だ。

あっちは慣性を打ち消すが、こっちのは簡単に言えば『空間を動かない物質に変える』もの。だから相手が突撃してきた時に顔の前に出してやれば顔をぶつけるし、相手の出したエネルギーに応じて消費するエネルギーが変わるAICと違ってこちらは一定だ。

どちらが便利かははっきりとは言えないが、使い勝手だったらこっちが上だ。

 

……ただ、たまにAICもほしくなるけど。慣性を打ち消して良いときと悪いときがあるし。

 

「鈴。あれは俺のだ」

「……本気? 相手はアリーナのシールドを軽くぶち抜くISよ? 衝撃砲だって効くかどうかわからないし、エネルギーも減ってるでしょ?」

 

……まあ、その通り。確かにエネルギーは三割ほど削られてるし、シールドバリアも満タンとはいえあれが相手じゃ心細い。

 

……それでも、やるけどな。

 

「…………はぁ……なに言っても無駄みたいね。この続きはまたいつかやるわよ」

 

そう言って鈴は下がってくれた。ありがと。

 

…………やるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想外、俺vs無人IS

 

名乗っても返事は帰ってこないだろうと思うので名乗らない。ただ剣を左に持ち替えて、構える。

 

すると目の前の無人ISがどこかで見たことのあるポーズを取って、機械音声で流暢に話し始めた。

 

「お控えなすって。手前、生まれも育ちも月の南極。真空の中で生まれ、道具として生き、漸く死に場を見付けた老兵でござんす」

 

よし待とうか束姉さん。なんで束姉さんがこれを知ってるんだよ。見てたの?

……まあ、いいや。とりあえず名乗りの間は攻撃しないのが決まり事だし、このくらいのことなら乗ってやろう。

 

「呼び名は色々ありやすが、今の名前はゴーレムⅠと申すものでござんす…………失礼ながら、お手前は?」

 

……仕方がないので俺も乗る。始めたのは俺だし、ここでやらなかったら空気の読めないやつだし。←今更。

 

「俺は生まれは日の本の国、織斑家が末弟、睡眠時間の延長を夢見る男でござんす。凛々しき姉に見守られ、この場所まで来ることになりやした………『人外筆頭』、織斑一夏と申す者でござんす」

 

ちなみに一部プライベート・チャネル。ちー姉さんや鈴に聞かれると割とマズイ。特にちー姉さんには本気で怒られる。

 

「……それではすぐに参りましょう。この老兵の、屍を越えて先に行けぃ!」

「一応言っとくと……歳は俺のが上だ若僧が!」

 

真面目にやるかね!

 

 

 

side 凰 鈴音

 

……わーお。これは確かに色々無理ね。一夏とゴーレムと名乗ったISの戦闘を見てそう思う。

なんで無理だって言い切れるかというと…………見えないんだもの。一夏が。

 

ゴーレムって名乗ったISに切りつける瞬間に影だけ見えるような速度で移動して、あとは大概見えない。ただかなり直線的に移動をしているみたいで、アリーナの遮断シールドや床や壁には衝突した時の足跡が残っている(遮断シールドはそこに衝突したという名残がある)。

けれど移動の途中に軌道を曲げたり曲げなかったりして、相手になかなか捉えさせない。あの速度で曲がって無事でいられるって……一夏の体の作りが本当に気になる。

 

……まあ、一夏だししょうがないわね。きっとなんでもありなのよ。

 

そう思いながらハイパーセンサーを高速戦闘用の超高感度ハイパーセンサーに切り替える。すると今まで全く見えなかった一夏の軌道が残像だけ――それでも残像だけ――見ることができるようになった。

 

近接ブレードを振り、ゴーレムの体にしっかり当てながら削るようにブレードを滑らせる。明らかにシールドエネルギーを削ろうとしている動きだ。

その度にゴーレムは高速で回転しながらビームを撃つが、回転を始めた時には一夏は既に射程外にいる。

 

………うん、ちょっとこれは手を出せないわね。失敗したら一夏に当たっちゃいそうだし。というか一夏本当にすっごい手加減してくれてたのね。あたしと釣り合うくらいに。

 

「……まだまだ一夏には遠いかぁ……」

 

あーあ。結構頑張ったんだけどな……。

 

 

 

side 山田 真耶

 

「……あの、織斑先生。それは塩です」

「……なぜ塩があるんだ」

「いえそれは知りませんけど……って織斑先生。それコーヒーじゃありません、醤油です」

「…………なぜ醤油があるんだ」

「いえそれも知りませんけど………ってだから織斑先生。それはコップじゃなくて砂糖壺で……ああ、お砂糖がみんなダメに……」

「…………なぜ砂糖壺がこんなところにあるんだ」

「……あの……織斑先生、落ち着いてください、ってそれさっきの塩入り醤油ですから飲んじゃダメですって落ち着いてください」

「……なぜこれがこんなところに」

「織斑先生がさっき作ったからですよってだからコーヒー入り砂糖を飲もうとしないで下さい体に悪いですから!」

 

ああもう織斑先生も織斑くんが心配なのはわかりますけどもう少し落ち着いて

 

「だからコーヒーを醤油で作らないでください!塩分過多で死にますよ!?」

 

織斑くーんっ!はやくなんとかしてぇぇっ!

 

 

 

side 織斑 一夏

 

なんか真耶先生に助けを求められた気がした。ちー姉さんが何かしたのかな? 具体的にはコーヒーと間違えてインクを飲もうとしたりとか。

 

そう思いながらもゴーレムを切りつける。めちゃくちゃ硬い堅い固い三つ揃った非常識な硬さだ。

ちなみに名前を呼べてる理由はハイパーセンサーに出てるから。

 

それでも少しずつ削り続けているんだが、だんだんゴーレムもこっちの機動を読み始めている。

まあ、読まれたらパターン変えるだけだから別にいいけど。

 

『やっほういっくんさっきぶり!』

『いきなりこられてビックリしました、後ででこぴんです』

『いっくんのでこぴんは痛いんだよ? 頭が割れちゃいそうなくらい痛いんだよ?』

 

大丈夫。割れない割れない。

……多分、きっと、恐らく、パーハップス。

 

『それで、いっくんが予想以上に強かったから束さんも参戦するよ!ゴーレム操るから頑張ってね!』

 

その次の瞬間、ゴーレムは急激にその動きを変えた。

 

……マジで勘弁してくれや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想定外、俺vs束姉さん

 

『いっくよぉー!』

 

そう言って束姉さんは、先程までは巨大な一発を撃つだけだった両腕の砲口からまるでショットガンかガトリングのように小さなエネルギー弾をばらまき始めた。

 

俺はブレードを右手に持ち替えて左の連射(貫通型)で応戦する。

しかしそれでも落とせない弾はブレードで切り落とし、それでも駄目なら局所的な空間固定で凌ぐ。止める空間が小さければ小さいほど使うエネルギーは少なくて済む。

 

『まだまだーっ!どーんっ!』

 

そう言われて出てきたのはワイヤーブレードが十二本。エネルギーを纏ったままこっちに向かってくる。こっちくんな。

 

それでも俺のやることは変わらず、ただその攻撃を避け、防ぎ、そしてできるなら一撃をぶちこむ。防御が硬すぎてたいしたダメージを与えられていないのが現状だが、なんとか削ることは出来ている。

……まったく。厄介すぎるぞ。たまに被弾するようになってきたし。

 

 

お互いにシールドエネルギーを削り合う。束姉さんはほとんど無駄弾は撃たなかったし、撃ったエネルギー弾を空中で方向転換させると言うどこかの光学兵器の真似事とも言える荒業をやって来もしたが、段々弾幕が薄くなってきたのを見ると無尽蔵にエネルギーを持っていると言うわけでは無さそうだ。

 

とは言え、こっちもこっちで割と限界が近い。シロに大した破損はないが、シールドエネルギーがそろそろ不味い。

 

これじゃあもし零落白夜が出たとしても、一発食らわせられるかどうか。

…………なんか忘れてるような気が……あ。そうだそうだ、丁度相手は無人機だし、確かめてみようか。

 

斬魔剣・弐の太刀が、シールドバリアを無視することができるか否か!

 

狙う場所はあの厄介極まる腕。シールドバリアを抜いて攻撃できれば、使えなくなること請け合いだ。

 

……確かラカンもこれをやるときはイメージトレーニングをしてたし、俺もそれに肖ろう。

 

……剣を振って、気を飛ばして、バリアをすり抜けてどーん。

 

……なんか失敗するイメージが浮かばないんだが、何でだろうな?

まあ、成功するのは良いことだし、構わないけど。

 

「よいせっと」

 

名無しの近接ブレードを振ると、本当に何か出た。

出てきた何かは束姉さんの操るゴーレムに当たり、その右腕を縦に切り裂いた。

 

…………なあ、あれってもしかしてシールドバリアどころか絶対防御すら発動させずにダメージ与えてないか?

 

『わっ!? いっくん今のってなに? 確かに当たって斬られたのに、シールドエネルギーがまったく減ってないんだけど』

 

……人間相手じゃ使えないな。今度は絶対防御だけに当たるように調節してやってみるかね。

 

斬魔剣・弐の太刀、百花繚乱!

 

次からは避けられると思ったので、斬撃を薄くしてハイパーセンサー無しだと見えないようにしつつ全体攻撃。観客の皆さんには当たらないように考慮してアリーナの遮断シールドで消滅するように頑張った。

 

………失敗したらごめんね?

 

 

そこでようやくフィッティングが終わったようで、その事を伝えるメッセージと確認ボタンが現れた。

 

………まあ、これについては後で一人の時に押すとしよう。確かまた何かあったはずだし、その時に不意をつく的な意味でもその方がいいだろう。多分。

 

面制圧の斬撃が飛び、ゴーレムのシールドを抜いて腕とワイヤーを切り落とす。

……こんだけ撃ってるのに腕以外は擦らせるだけで済ましている束姉さんの操縦技術にちょっとキレそう。一体束姉さんはどこまで天才で天災なんだろうか。

 

頭のなかで、束姉さんがにこにこ笑いながら言った。

 

「どこまでもだよ、いっくん!」

 

…………納得できるのがまた嫌だ。

 

……まあ、一次移行もできるようになったことだし、さっさと終わらせようか。卑怯だけど。

 

空間固定で、ゴーレムのコアだけを固定する。高速機動中にそんなことをすれば、当然コアが機体からべぎりといや~な音を立てて剥がれ落ちる。

 

「『ありがとね、束姉さん』」

「『いいよいいよ。かわいいいっくんのためだからね!今度また抱き締めにいくから覚悟しておいてね!』」

 

そう言ってゴーレムの機体は自爆した。最後の最後まで悪の科学者風だったな。

自爆は科学者のロマンだと聞いたけど、わざわざISでそれをやることはないと思うんだけど。

 

…………やっぱり、天才とかそういうのは置いておいても束姉さんの考えることはわかんないな。

 

……あー、疲れた。眠いや。

 

「……鈴」

「? なに一夏。どうしたの?」

 

近付いてきた鈴に笑顔を向けて。

 

「……あとよろしく」

 

シロを解除して落ちる。すぐに抱き止められたけど、しばらく起きないから。

 

悪いね、鈴。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも以上、保健室にて

 

……意識がゆらりと浮き上がる。特に体に悪いところはないが、どうやら随分と寝ていたらしい。腹が減った。

 

目を開けると、すぐ近くにちー姉さんの顔があった。どうもかなり心配そうだ。

 

「一夏。気が付いたか」

 

ちー姉さんが話しかけてくる。……くんくん……襟元から醤油の臭いがする。インクじゃなくって醤油とコーヒーを間違えたのかな。

……理由はわかるけど、ちー姉さんはやっぱり俺の事になると慌てやすいな。

 

「痛いところはないか?」

「……ん、大丈夫。ちょっと腹減ったけど……」

 

これから食べに行くから大丈夫、と言おうとしたのだが、いつのまにか現れた鈴がその手に丼を持っていた。中身はどうやら卵粥らしい。

 

「はい千冬さん。熱いので冷ましてから食べさせてあげてください」

「ああ、わかっている。……すまないな、凰」

「いえ。一夏の事が好きですし、一夏のためだと思えば何でもないです」

 

鈴はそう言ってから俺に視線を向けて、にっこりと笑ってから保健室を出ていった。

 

……そう言えば、初恋カミングアウトされたんだっけね。いつも普通に好きだなんだと言ってたから忘れてたけど。

 

「……ふぅ……ほら一夏、口を開けろ」

「ん……あー……はむ」

 

……ん、美味しい。

ちょうどよく冷まされた卵粥が喉を通り、じんわりと胃に広がっていく。

 

「っ……、一夏」

「ん……あー……あむ」

 

また次の一口。そしてまた一口。うん、美味しい。

……まだまだって言ってたけど、腕を上げたな、鈴。

……ちー姉さんももう少し料理ができるようにならないと、お嫁の貰い手が居なくなるよ? せめて食べても害の無いものを作れるようになろうよ。もう遅いかもしれないけど。

 

 

食べ終わって一息つくと、なんだかまた眠たくなってきた。さっきまで寝てたのに。

……まあ、いつもの事だ。普通普通。

 

「……それじゃちー姉さん。お休み……」

「ああ。お休み、一夏」

 

眠りに落ちる寸前、何かに頭を撫でられたような気がした。

……この不器用な撫で方は、きっとちー姉さんだろうな。

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

すやすやと眠っている一夏の頭を撫でる。

額を撫でれば頬を緩め、頬を撫でれば撫でた手に頬を擦り付け、顎先を撫でれば甘く鳴き、唇を撫でると熱い舌が私の指をざらりと舐める。

 

…………っ!危ないところだった。一夏を血で汚すわけにはいかないからな。

……さて、お持ち帰りするか。

 

一夏を横抱きにして保健室を出る。やはりと言うかなんと言うか、一夏はかなり軽い。五十キロどころか四十キロあるかどうかといったところか。

 

珍しく途中で誰かと出会うことなく寮長室に到着する。騒がれて一夏が起きるということにならないので別に問題はないが、少し奇妙に感じた。

 

扉を開け、一夏をベッドに寝かせる。すやすやと眠っている一夏に背を向けて、私はスーツが皺にならないようにたたんでからジャージに着替える。

それを終えて、私は一夏の眠っているベッドによこになる。すると一夏が私の腕を控えめに抱き締めて―――花が開いたような笑顔を見せた。

 

…………落ち着け織斑千冬。深呼吸だ。前に五反田が言っていただろう、落ち着かなければならないときには深呼吸をしろと。

深く息を吸って、それから長く吐く。もう一度吸って……一夏の匂いが脳髄を直撃する。

 

くっ…………五反田め。使えないではないか!今度あった時は覚えて

 

「……くぅ………」

 

一夏が私の腕にすりすりと頬を擦り付ける。一夏はそんなに襲われたいのか?

 

そう考えていると、ぼんやりとまではいかないが懐中電灯を遠くから見たような光が一夏の頭に集まり、昔に見た垂れた犬耳とぷちかが現れた。

 

「……………わぅ」

 

ぷちかは小さく鳴くと、もぞもぞと一夏とは反対側の私の腕にしがみついて目を閉じた。

 

すぐに聞こえ始める柔らかな寝息。両側を一夏とぷちかに挟まれ、私はそこで頭が沸騰してしまったらしく、なにも思い出せない。

ただ、久し振りに朝の一夏成分補給が普段の十分の一の時間で済んだことは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お引っ越しです、ののちゃんが

 

朝。目が覚めるとそこにはちー姉さん。少し驚きつつ抱き締め直して二度寝を敢行する。今日は休日だし、平気だろう。多分。

なんでちー姉さんと一緒に寝てるのか疑問ではあるけども……たまにあることだし、別にいいか。

 

もう一度目が覚めると、既に太陽は空高く昇っていた。昨日寝たのが六時頃で、今は確実に十時は過ぎている。

 

「……寝過ごした………ふぁ……」

 

……ああ、そうだ。シロの一次移行が確認ボタン押してないだけでできてるんだった。さっさと移行させてスペックの確認とか出力調整とかしないと………。

原作だとこのあとも更に厄介なことに巻き込まれてた筈だし、一日十五時間睡眠を破らない程度にできることはやっとかないと。

 

…………それにしても腹減ったな。十八時間近く飯食ってないんだから当たり前だけど。

 

くぅくぅと騒ぐ腹を宥めながら食事にいく。頭には四号の犬耳が付きっぱなしで、後ろにぷちか四号がついてきてるけどその辺りはスルー。

 

「あ、一夏じゃない。体はもう平気なの?」

「平気と言うかあの程度で壊れるようなヤワな体してない」

 

文字通り反則《チート》な体をしてるんでね。その体を持ってても寝るんだけど。

 

「そう。まあ、元気ならいいわ。……一緒にご飯食べない? 箒もいるけど」

「それじゃあ御一緒しようかな」

 

鈴に手を引かれて食堂に行く。ここを使うのも久し振りかもしれない。なんでかそんな気はあまりしないんだけど。どうしてかね?

……まあ、いいや。よくあることだよくあること。束姉さんが騒ぎを起こすのと同じくらいよくある。

 

「箒、一夏連れてきたわよー」

「む、そうか。まあ、座れ。頼まれたものはもう来ているぞ」

 

そう言われて机の上を見てみると、なぜか俺の分まであった。こうなることを予想していたのか?

 

「そうよ。いいから座りなさい、また私達が食べさせてあげるから」

「え、起きたばっかりだし自分で食べられるけど?」

「食べさせてあげるから」

「食べさせてやるから」

 

………ああ、そう言えば告白されたんだっけ。いつも普通に好きだと言い合ってたからまた忘れてた。

俺はよく理解できないんだが、好きな相手に手ずから食べさせてあげるのは、また食べさせてもらうのは嬉しいことなんだとか。

 

………俺は寝てる方が良いけどねぇ。

 

「いただきます」

「いただきます」

「ところで、さっきからずっとドアの影から一夏を見てる金髪はなに?」

 

…………ああ、セリエスか。

 

「あの金髪はセメント・オムニバス。喧嘩を売ってきたから買ってボコしたらそのせいで新しい世界の扉を開けた変態だ」

「箒、名前だけ教えて」

「セシリア・オルコット。あとは一夏が言った通りだ。戦闘のデータは見ただろう?」

「…………ああ、あの可哀想なのね。……度々悪いんだけど、なんであれは頬を染めてゾクゾク体を震わせてるの?」

「変態だから」

「……ああ、また目覚めさせたのね」

「待ってくれ。『また』?」

 

おっとののちゃん、そこは気にしちゃいけない所だよ。

いいじゃないか、中学時代に弾の事を馬鹿にした奴(他の学校の奴だった)の精神の支柱を根こそぎ全部へし折ってやったら被虐趣味に目覚めた事とか、小学校の時にちー姉さんの悪口を言った男性教師を縛り上げて目隠しをして知り合いの漢女に引き渡して次見たときには薄く化粧をするようになってた事とか、どうでもいいじゃないか。

 

「他にもあるけど、聞く?」

「……いや、辞めておこう」

「あたしもそれがいいと思うわ……はい、あーん」

「……あむ」

 

………ん、うまい。

 

「……あれ? ぷちかも欲しいの? しょうがないわねぇ……はい、あーん」

「わぅ……はぅむ……」

 

膝の上に乗っている犬ぷちか(ダックスフンド)が鈴におねだりしたらしく、鈴は手のかかる幼子を見る母親のような目で見ながらぷちかに合わせた大きさの肉をあげていた。

 

周りは微笑ましげな目をしたお姉様方と、嫉妬のあまり呪詛を吐きながら壁に頭を叩きつけていたり、恍惚とした表情のままだくだくと血を流し続ける少女たちで溢れている。掃除が大変そうだ。

…………まあ、いいか。今は。

 

「……………(ギリリッ!)」

 

だからちー姉さん。そんなにするくらいだったらこっちおいでって。

……来ないなら来ないでいいけどね。

 

 

 

 

食事も終わって部屋に戻る。すると、部屋からののちゃんの荷物がきれいさっぱり無くなっていた。

……そう言えば、この時期だったな。ののちゃんの引っ越し。忘れてたよ。

 

…………今日から一人寝か。ぷちかがいなかったら毎晩枕を抱いてたかちー姉さんの部屋に突撃かけてたかもね。

一人になったから常にここにチャフを撒いとこう。またいくつか盗聴機やカメラが増えてるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一次移行、協力感謝

 

武骨な手甲だったシロは、一次移行を終わらせると白い腕輪に変化した。前のとずいぶん違って見えるが実のところ大して違いはないらしく、妙にと言うか奇妙にと言うか…………非常に硬い。九ミリ拳銃弾くらいならゼロ距離で受けても全く問題無さそうだ。

 

もちろん変わったのは外見だけじゃなく、その性能も変わっている。

 

元々の性能もあるだろうが、意思疏通がさらに高速円滑に行われるようになったような感じだ。

加速も減速も今まで以上にうまく行うことができ、衝撃砲も空間固定もさらに安定して応用することができるようになった。

例えば衝撃砲の曲げ撃ちで曲げることができる角度が大幅にきつくなったり、空間固定を視界外でも座標に合わせて確実に出すことができるようになった。

 

………まったく。恐ろしい性能だなシロは。

 

そして原作通り、ワンオフ・アビリティーとして零落白夜が使用可能に。使ったことはないが、原作を読んでいる限り、接近戦の切り札的存在になるだろうことが予想される。

 

……三つ目の追加武装はまだ秘密。武装と言うか、正確には能力のようなものなのだが………まあ、できることならあまり使いたくはない。確実にちー姉さんに怒られるから。

 

「……それにしても、シロは凄い」

「あ、やっぱりかんちゃんもそう思う?」

「……」

 

俺が聞くとかんちゃんは普段通りの顔で頷いた。

確かにシロは凄い。衝撃砲の即時切り替えは、ある意味では第四世代の先駆けと言っても良いし、零落白夜の展開装甲は束姉さん式の第四世代の解答とも言える技術だと言うことは明白だ。

欠点らしい欠点と言えばエネルギーの消費がかなり早く、動けば動くだけガリガリ削られると言うことと、武装が少ないと言うこと。

二十ものコアを組み合わせて作っているためか空き容量はそれなりどころではなくあるのだが、シロはその空き容量の中に中々物を入れようとはしない。使うだけなら問題ないから別にいいんだけどね。

……頑固なのかどうなのかは知らないけど、ちょっとちー姉さんに似てる気がするんだよな。シロ。

 

確かちー姉さんの使っていたISの……‘くー’は、完全にブレードオンリー機体であり、異常とも言える機動力と本人の類い希なる反射神経によって、かつて世界一の座に輝いていた。

 

そのちー姉さんと同じように、シロもなんとなく一つの事を極めるべく他のものを受け付けていないような気がする。

 

……なんでそんな気がするのかは、知ったことじゃない。なんとなくだ。

 

…………とにかく、その欠点を埋めるべく俺はかんちゃんと一緒にシロの出力調整をしていた。

かんちゃんの専用機の…………なんだっけ? 撃鉄弐式?

 

「……打鉄弐式」

 

そうそう、それ。それのスラスターの方に、シロほどじゃないにしろ速度が欲しいらしくて、手伝ってもらう代わりにデータの一部を参考として見ていっている訳だ。

 

……ただ、かんちゃんは自分の事を凡人だのなんだのと言っているんだが、信用できない。

 

……とりあえず言わせてもらうと…………凡人は、両手両足で、八つの、キーボードを、同時に、かつ、完璧に、操作することは、できない。……それもかなりの早さでな。常人には無理だって。

 

その事を理解していないかんちゃんは、自分を凡人だと思い込むことで努力の源としてきたのかもしれないが、まずはIS学園に入れたと言うだけでも相当優秀だと気付いて欲しい。

 

……頭の方は凡人な俺が落ち込む前に、是非とも。

 

……まあ、そう思ってもなにも言わないのが俺なんだけど。

 

他人の事に口出しはしない。それは面倒だからと言うこともあるけど、前世からの俺の処世術でもある。

俺自身、そういう自分の欠点に口出しされるのは嬉しくない。それがたとえ自分一人の思い込みでも、そう言うもんだ。

自分の信じていたことを、正面から間違っていると言われて腹の立たない奴はそうそういないだろう。

特に、コンプレックスが酷い奴には。

 

「……さてと。今回はこれで終わりにするか。もうすぐ晩飯だし」

「……わかった。それじゃ」

 

かんちゃんはそう言うと、自分のISに向き直ってなにやら弄り始めた。どうやらまたインスピレーションが湧いてきたらしい。

 

「……出来たら教えてね。かんちゃん」

 

俺の言葉に対してかんちゃんから言葉は帰ってこなかったが、僅かに頷いてくれたのがわかった。

 

―――頑張れ、とは言わない。頑張っているかんちゃんに、それは酷な言葉だから。

 

―――信じてる、とも言わない。原作では確か、先輩達の助けがあったにしろ完成させていたから。

 

だから、俺は何も言わない。手伝いはするし、溜まってた不満や愚痴を聞いてあげたりはするけれど、向こうからなにかを言って来なければなにもしない。

 

きっかけはある。一歩を踏み出せるかどうかは、かんちゃん次第。

 

―――頑張れ、とは言わない。信じてる、とも言わない。

 

 

―――でも、楽しみにはしてるよ?

 

 

俺はくすりと笑って、かんちゃんのいる整備室から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久し振り、遊びに来たよ

 

久し振りに弾の家に遊びに行く。電話で確認とったから大丈夫。

ちなみにIS学園を出る時に使ったものはディープダイバーとモーターギアのマリンダイバーモード。特に意味は無いけれどバレないように外出してみた。こっちも許可はとってあるから大丈夫。

 

ある程度IS学園から離れたら人目の無いところで地上に上がり、ライアーズマスクで変装しながら弾の家を目指して歩く。有名人(かなり本気で)なので、色々と面倒くさ

 

「ちょっとそこの。コンビニで水買ってきて」

 

…………。アリス・イン・ワンダーランド、収束。

洗脳してやるから、黙って壁に頭をぶつけてろ。

 

……面倒臭いな。やれやれ。

 

 

 

弾の家の前でライアーズマスクを解除。いつも通りの顔で弾と対面。

 

「お、来たか。久し振りだな一夏。ちゃんと飯食ってるか?」

「鈴とののちゃんに言われて食べてる。大丈夫」

「そうか。……っと、立ち話もアレだな。入れ入れ」

「お邪魔しまーす」

 

言ってみただけ。こう言うときには大切らしい。

 

 

弾の部屋に入って落ち着くと、弾の方から話しかけてきた。例えば、ちゃんと寝てるか、とか、なんか新しい曲でも作ったか、とか、そう言った最近のことだ。

……まるで父親だな。

 

ちなみに新曲(とは名ばかりのボカロのパクリ)をいくつか楽譜にして渡しておく。それなりに長い間楽器に触れてきた弾は、楽譜を見ればどんな曲かがすぐに理解できるようになっている。

 

「……お~、すげえなこれ。どうしてこうぽんぽんと曲が出てくるんだ?」

「絶対に世に出ない既存の曲をパクっただけ」

 

絶対と言う理由は、この世界にボカロは無くて、そして俺も作る気がないから。

……さてと。久々の弾の家だし…………寝るか。

 

「おーい一夏。人ん家来ていきなり寝るってのはどう言うことだよ」

「……俺だから仕方ないことじゃね…………?」

「………一瞬無条件で納得しかけたぞおい」

 

そのまま納得しとけって。その方が楽だぞ?

 

……すか~…………。

 

 

 

 

side 五反田 弾

 

久し振りに一夏と会ったんだが、やっぱ一夏は全然変わってねえ。

……いやまあ確かにそんな簡単に一夏が変わったらビビるが。

 

一夏はいつも通り勝手に俺のベッドに入る。そんな無防備晒して、襲われても知らねえぞ? 俺は襲わねえけどその分愛でる。

 

ベッドにもぐり込んだ一夏の頬をつつく。相変わらず指先に吸い付いてくるような肌をしているなこいつ。ほんとに男か?

 

そう思いながら頭を撫でて、額を撫でて……あっれ、なんか一夏の額が妙に眩しく見えるんだが……俺、また目覚めたか?

今までに目覚めたのは……髪、うなじ、耳、二の腕、唇、ほっぺた(これが一番正しい言い方だと思ってる)、睫毛、指、太股、ふくらはぎ、脇、腹、背中、臍…………その他。

……俺も随分変態臭くなったもんだ。

 

でも、仕方ないだろ? 撫でるとさらさらと指を通す癖のつかない髪とか、切るのが面倒だからと言って少し長めの髪から覗く真っ白なうなじと髪のコントラストとか、桜色で柔らかな唇とか、寝ているときにぴったりと体に引き付けられた二の腕とか、優しく摘まんだり撫でたりするといい感触を返してくる耳とか、指でつつくと吸い付くような感触のほっぺたとか、なにかをする度にピクリと動く睫毛とか、抱きしめられている腕から出ようとすると控えめに服の端を摘まんでくる指とか、丸くなって眠っているときの太股とふくらはぎとか、起きて伸びをしたときにちらりと服の下から覗く腹とか脇とか、つぅっと指先で下から上に擽るとぞくぞくぅっと体を震わせてからちょっと睨み付けてくる背中とか(それでも視線で抗議するだけで逃げない)、寝返りを打つと時々服が捲れて見える臍とか…………。

これはもうしょうがないだろ?

 

……さてと。愛でるか。呼ばないと後々怖いし、蘭も呼んでおこう。一夏を愛でることに関しては俺の方がずっと上手いし慣れてるから、教えてやることもできる。

 

……とりあえず寝てる一夏を着崩して、喉元を開けて服の裾を出して腹チラさせて、腕はこうで……よし、パシャリと。

後は蘭にメールを打って、今撮った写真を添付して送る。これでよし。

 

ちなみにメールの内容は、一夏が俺の部屋に来てる。愛でたければ静かに俺の部屋に来い。

多分来るだろ。多分。

 

 

案の定来た。珍しくかなり気合いをいれたお洒落をして、顔を真っ赤にしながら。どうやら蘭にはあの一夏はレベルが高すぎたらしい。

 

「わ、わわ……わぁ…………」

 

顔を真っ赤にしながらも、蘭は一夏を恐る恐ると撫でている。あんまりそうしてると一夏に腕を掴まれ引き寄せられて抱き締められるぞ。言わねえけど。

 

……あ、やられたな。

 

「あうあうあう……」

「……まあ、役得だな。俺は店の方に行ってる。昼飯できたら呼んでやるから………健全な付き合いの範囲内で、ごゆっくり」

 

それだけ言い残して俺は部屋を出る。あの慌てようだと聞こえてたかどうかもわからないが、まあ、良いだろ。

蘭はあれでヘタレだから、一夏に手を出そうとしても出せないだろうし。

 

…………一夏が弟か。まあ、悪かないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとした噂、ほんとかな?

 

弾の家からIS学園に戻ると六時ごろだった。明日の快適な朝のために寝ようとしたところで、鈴がドアを開けて入ってきた。着替え中だったらどうするんだ。

 

「謝ってから出直すわね」

 

そうかい。

 

「それでね一夏。どうせあんたは夜食べないで寝ようとしてるだろうと思ったから誘いに来たのよ。一緒においで」

「『食べよう』とかそういうのじゃない辺りに鈴の性格が出てるよな」

「いいから来なさい」

 

そう言われて俺は鈴に手をとられて食堂に向かうことになった。あーれー。

 

 

いつもの通り、妙に多い食事を平らげてから、わざわざシルバーカーテンでステルスをかけながら女子の一団に近付いていく。鈴からは趣味が悪いと言われたが、俺の将来が勝手に決められそうになってるんだから首も手も突っ込んで当然だと思う。

 

きゃーきゃーと騒ぎ続けている一団の、一番俺の近くにいる生徒に声をかける。あえて話したことのない相手に話しかけるのがポイント。

 

「ずいぶん騒いでるけど、なんの話?」

 

小さいときの俺の声はぶっちゃけ女子でも通用する程度に高い。だからあえてそのまま話しかけてみたんだが、見事に引っ掛かってくれた。

 

「それが、今度の学年別トーナメントで優勝すると、なんと織斑君と交際できるのよ!」

 

……そう言えば、原作でそういう話があったな……。俺の方を見もせずに言った誰かさん。情報提供感謝するよ。

 

「そうなの?」

「そうなのよ!」

「……情報源はどこ?」

「それが―――」

「ちょ、待ちなさいバカ!」

「え? なん……織斑君!?」

 

ようやく俺に気付いたらしく、その一団の全員が噂の相手である俺の登場に驚愕していた。

 

「……面白い噂だね?」

 

にっこりと笑って言うと、なんでか全員が俺から引いた。

 

「……一夏。あんたがそういう笑い方すると、千冬さんが怒った笑顔にそっくりなのよ。知ってた?」

「知らなかった」

 

そうか、あの笑い方にそっくりなのか。それは引くな。

 

「……まあ、別にそんな噂くらいじゃ怒らないけどね」

 

そう言うと空気が軽くなり、全体的に引いていた一団も元の場所に戻った。

 

「それじゃあ……その噂って本当なの?」

 

その問いに、俺はさっきと同じ笑顔を浮かべる。

すると質問をして来た女子生徒は慌てたような顔で、何やら言い訳らしいことを言い始めた。

 

「あ、ご、ごめんね織斑君!そんなわけないよね、うん。変なこと聞いてごめんね? みんなデマに決まってるよね……」

「さあ? それはどうかな?」

 

空気が固まった。それはもう、ビシッ……という音が聞こえたような気がするほど。

 

「……え? えっと……つまりそれは…………」

「……聞いた話によると、今年の学年別トーナメントは二人一組らしいから、仮に交際することになったら、優勝した組のどっちかが引かなくっちゃいけないんだけど」

 

ここで笑い方の質を変える。鈴曰くのちー姉さん笑いから、いつもののんびりした笑い方に。

 

「………頑張ってね?」

 

直後、俺の声が聞こえていたらしい(そう言えば、途中から食堂全体が静まり返っていたような気がする)全員が、爆発したかのような歓声を上げた。

 

「マジ!?マジで!?」

「織斑君から直接言われたんだよ!?マジだよマジ!」

 

食堂全体がきゃーきゃーと騒がしくなる。先程の一団だけじゃないらしく、周り全員が、だ。

 

…………でも、なんでか鈴とののちゃんは慌ててないんだよな。これはバレてるか?

 

 

 

 

side 凰 鈴音

 

いつもと同じ笑顔で周りのやつらを引っ掻き回している一夏を見ると、溜め息が出てくる。

それはどうやら隣に座った箒も同じらしく、私達は同時に溜め息をついて、それから目を合わせる。

 

「……気付いてる?」

「……ああ。……全く、質の悪い………」

 

そう言って箒はまた溜め息をつく。

原因は、もちろん一夏の事だ。

 

さっき一夏が言った言葉は、噂が本当だといっているように聞こえる。

 

けれど実際は、噂がただのデマだよねと確認している女子に向かって『さあ?』と曖昧な返事をして、それから例えの話をしただけ。

つまり一夏は、噂のことを否定はしていないけれど、肯定もしていないということだ。

 

それを勝手に周りが肯定だと取り、一夏は詳しく聞かれる前にその場を立ち去る。

 

…………中学時代にもよく見た騒乱の種の蒔き方だ。だからわかる。

 

そして周りが勝手に騒いで、優勝したから付き合ってと言ったらその事を引っ張り出して言いくるめるんだろう。

……その前に、優勝すると言うことは、一夏にも勝たなければならないと言うことだからまず無理だと思うけどね。

 

無人ISとの勝負のデータはなぜか欠片も残っていなかったし、あの時は外に出ることはできるけれど中に入ることはできないという状態だったから、あの時ステージに居た私とピットに居た千冬さんと山田先生、そして箒くらいしか一夏の本気は知らないと思う。

…………ああ、そう言えばセシリアも居たわね。ピットに。

 

だからみんな一夏の全力はセシリアと戦った時のあれだと思ってるはず。あれでも私は勝てる気しないけど。

 

「……とりあえず、私達は静観ね」

「そうだな。それがいいだろう」

 

騒いでいる周りには悪いけど、私達はなんにも教えてあげない。だって、その方がやる気が出るでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転校生、…………ん?

 

俺が噂話に爆薬をくべた次の日のこと。転校生がやって来た。しかも、二人。

 

……どうでもいいが、普通はクラスを別にするよな? 何でわざわざ同じクラスに放り込むんだ? 向こうさんたっての願いか?

 

……正直なところ、なんだっていいんだけどさ。俺とちー姉さんと鈴とののちゃんに被害が来なければ。

後は、無いと思うけど蘭ちゃんと弾とカズも。ついでに心配無用だと思うけど束姉さんにも。

 

……手を出したら……プチッ、しようかね。物理的に。呼吸音を『ぜひ』に変えてやる方が面白いかも。

 

とは言え、この世界では俺は誘拐されてないし、教室の前の方に居る…………銀髪眼帯黒兎に恨まれる原因は無いし、平気だと思うがね。

ちなみにこの思考は、転校生が入ってきたすぐ後の、自己紹介もまだの短い空白の時間で行っている。千の顔を持つ英雄を自在に操れる身体能力の中に、思考速度も入っていたらしい。

 

……まあ確かに、いくらラカンと同等の身体能力があっても、巨大な隕石を空に向かってぶん投げるとかそういうことは無理だろうし、そう考えれば不思議ではないな。ラカン並なのは身体能力じゃなくって気の量だけらしい。しっかり読んでみたらそう書いてあった。わかりづらいことこの上無い。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」

 

あ、自己紹介が始まったな。まあ、一応覚える努力はしておこうか。シャルル……だったか。

……間違ってたら悪いね。先に謝っとくよ。

 

……ふぁ……と欠伸をして、自己紹介を前から後ろへ聞き流す。正直言ってあんまりこいつに興味ないし、どうでもいいかね。

 

ただ、どうもなんか違う気がするんだよな。空気と言うか、雰囲気と言うか………とにかくそういったものが。

周りで男だ守ってあげたくなる系だと騒いでいるが、静かにしてやれって。

 

………やれやれ、元気だねぇ……。

 

……嫌な予感。Lv6の枕を準備しておこう。

 

そう思ってちょうど枕を出し終わった所で、もう一人の転校生……ランドクルーザー・ボロボロ……だっけ? が、俺に近付いてきた。それと多分名前は違う。まず違う。

……ののちゃんに聞かれたら、ひどい間違いだって言われんだろうな。

 

ボスッ!

 

枕ガード!今回は成功した。前回はコットンガードって言ったんだっけ?

 

「……で、誰?」

「そこから!? いま自己紹介したよね!?」

 

シャルル・ディアブロが突っ込みを入れた。昔、突っ込みの上手い奴に悪いやつは居ないと誰かが言ってたような気がしなくもない。

 

「私はみとぶっ!?」

 

仕返しの枕アタック。ただしこの枕は自動式。某使徒がコアとして持っていたえすえす機関なんて使ってないよ!ほんとかもよ!

 

「くっ!きさまぶっ!」

 

抱き枕用の長い枕は勝手に動き、ランドスターの腕に絡み付いて頬を殴り付ける。中身は綿………ではなく、ウォーター枕に見せかけたマーキュリー枕なので中々痛いはずだ。コアもあげふんげふん。

 

「……知らないのか? 最近の日本製枕は使用者の安眠のことを考えてあって、寝ている時や寝ようとしている時に襲われると反撃するんだぜ? しかも中々強いんだ」

「そんなわけないよね!? そんな物騒な枕はないよね!?」

 

目の前に強い枕があるじゃないか。現実を認めろよ。

 

「ちなみに枕は、はじめての使用者を決める際に一対一の決闘を挑み、それに負けた時にのみ使用者を使用者と認めると言う。勿論ナイフ等を使っても良いが、素手で押さえ付けてやらないと使えなくなるからな……苦労したぜ……」

「ウソだよね? ねえウソなんだよね!?」

 

やれやれ、だから目の前にその強い枕があるって言ってるのに。

 

「……一夏め……いつの間にあれほど腕のたつ枕を……」

「あれ? 僕がおかしいの? 何でこの教室のみんな当然みたいな顔をしてるの!?」

「……ふっ。まさかこれほどの枕を使用しているとはな……どうやら私は貴様のことを見くびっていたらしい」

「え!? こっちも!?」

「IS使いの中ではどれ程強い枕を使っているかがステータスとなる。……まさかこれほどの枕と出会えるとは!」

「……俺は、もっと強いぞ?」

 

俺は、枕と向き合いながら俺の顔を見て笑う銀髪眼帯黒兎を見て、笑う。

 

「いいだろう!これからお前は私の好敵手《ライバル》だ!」

「面白いことを言うねえ……受けて立とうじゃないか」

 

そうして笑い合う俺たち二人の近くで、シャルルが頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

「……って言う夢を見たんだ」

「……一夏だったらほんとにやりそうだから怖いわね」

「待て待て、いくら一夏でもそれは」

「ここに自動で動いて警護をしてくれる枕(水銀入り)がね?」

「やめろよ?」

「やめなさいね?」

 

怒られた。

 

 

 

 

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