IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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転校生、正夢か?

 

なぜか本当に転校生が来た。夢の内容と同じだ。

……だが、流石に枕の件まで一緒ではないだろう。と言うか、一緒じゃないことを祈る。枕ガードはするけどな。

もちろんえすえすな機関は入っていない……はず。

……きっと入ってない。…………うん、きっと。

 

そう考えつつ、俺は頬に向かって飛んできた平手を枕で受け止める。

……ちょっと埃が舞った。強く叩きすぎると中の綿が切れて埃みたいに舞うんだぞ。この枕中身水銀だから関係無いけど。

 

…………あれ? じゃあこの埃はどこから……?

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

そう言ってくる銀髪眼帯黒兎に向かって、俺はいつもの眠そうな表情を崩さないようにして聞き返す。

 

「……ごめん、眠くてよく聞こえなかった………もう一回お願いできる?」

 

ぴきっ、と縄に亀裂が入ったような音がしたような気がした。気のせいだな。そうだ気のせいだ。例え目の前の銀髪眼帯黒兎の額につい数秒前までは確実になかった怒りマークがあっても、気のせいで押し通す。

 

「……って言うかその前に…………誰?」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「あ、覚える気ないから。ついでに存在自体が眼中にないから。さっさと空いてる席に座ったら? そこにいつまでも木偶の坊みたいに突っ立っててもなんの役にもたたないどころか織斑先生の授業と話の邪魔になるだけなんだからさ。そう思わないか?」

 

そう言ってやると銀髪眼帯黒兎は憎々しげに俺を睨んで、後ろの方の空いた席に座ってから腕を組んで目を閉じた。

 

……ん~、最初の頃のセシリーを思い出すね。あれはそのうち俺の大切なものに手を出すと見た。

……その時は覚えてろ? …………俺は、執念深いぞ?

 

所で、この世界には水を自在に操るナノマシンがあるそうだ。きっと水銀でも使えるよな。エネルギー食いそうだけど。

……水銀は金属だ。ランブルデトネイターで爆破できる。

そして気体にすれば毒性を持ち、頭をぶっ壊す事も肺の中で爆破することもできる。

 

……欠点は、気体になると無差別攻撃しかできない上、IS使用中には恐らく使っても意味がないと言うことだ。ウォーターカッターのように直接ぶちこんでやるんだったら効果はありそうだが。

 

……さてと。それじゃあさっさと着替えて第二グラウンドまで行かないとな。

 

「ああ織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

ちー姉さんはそう言った。やっぱりそうなるかぁ……。面倒臭いよなぁ……着替えなんて千の顔を持つ英雄で一瞬で終わるからいいけどさ。

 

「君が織斑君?」

「いいから先に着替えに行くよ。あとわかると思うけど寝てて自己紹介とか何一つ聞いてないから後で教えてね」

 

さて、それじゃあ行こうかね。

 

「毎回空いてるアリーナの更衣室での着替えになるから覚えといてくれ。……ところで、足は速い方?」

「え、えっと……人並みには。走るんだったらついていくから大丈夫だよ?」

 

そっか、人並みか。じゃあ多分ついてこれないから手を引っ張って行こうか。捕まったら多分怒られるの俺だし。

 

「それじゃ行くぞ?」

 

IS発動、ライドインパルス。バレないように展開は最小限に。

……よい、しょっと。

 

「え、ちょっ……きゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 

この日、IS学園の廊下には、金髪の少年(……にしては骨盤の形が変だし、股関節の骨のくっついてる所の隙間が広すぎると思うんだよなぁ………)の悲鳴が響きわたった。

……原作だったら女の子だったはずだけど、TSなんて結構よくある事だし、気にしないことにした。なにより面倒だし。

 

 

「はい到着。毎時間調べておかないといけないから気を付けろよ? …………平気か?」

 

その問いに少年(……にしては以下略)は、荒い息をつきながら首を横に振った。まあ、あれだけきゃーきゃー叫べば疲れるわな。

 

「……俺って足速くてさ。人並みだったらついてこれないと思って。捕まったら厄介だしね」

 

主にちー姉さんの出席簿クラッシュが。あれ面でも痛いんだわ。枕ガードしても衝撃抜けてくるし。

 

「……はぁ……はぁ……っ、うん、大丈夫……」

「そっか。知ってると思うけど俺が織斑一夏だ。おりむーでも一夏でも好きに呼んでくれ。ただいっくんだけは勘弁な」

「すー、はー……うん、よろしく一夏。僕の事もシャルルでいいよ」

「わかった、シャルル」

 

………………ん? ‘シャルル’?

 

「……なあシャルル」

「? どうしたの?」

 

‘シャルル’は不思議そうな顔で聞き返してくる。間違っていると言う訳じゃ無さそうだ。

くんくんと鼻を寄せてみる。‘シャルル’は顔を赤くして離れようとしたが、逃がさないように手は掴んだままだ。

 

「……シャルルってさ……ほんとに男?」

 

びくっ!と体を跳ねさせた。わざわざこうして無駄に近付いて平常心を奪った訳じゃない。素直な反応が返ってきてくれて嬉しいよ。

 

「……な、何を言ってるの? 僕は男だよ?」

「……それにしては、弾とかカズみたいな男っぽい匂いがしないんだよな……どっちかって言うとののちゃんとか鈴によく似た感じの匂い」

「そ、そういう体質なんだよ!」

 

……まあ、‘シャルル’がそう言うんだったらそれでいいけど。名前が偽名とかそんなのも含めて。

 

「……ふーん。そう。まあ良いけどね」

 

さっさと着替えて行っとくか。千の顔を持つ英雄でISスーツはもう着てるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

いい勝負、鈴・セシリーvs真耶先生

 

ISスーツに着替え終わり、ちー姉さんに言われた通りに第二グラウンドに向かう。絡まれそうになったが逃げ切れた。かなり楽だったな。シャルルは手を引かれて悲鳴上げてたけど。

 

「そりゃあげるよ……なんであんなに足速いの?」

「俺だから」

「……なんでだろう。一夏のことはよく知らないはずなのに、なんだかすっごく納得できる」

 

仕方ないさ、俺だもの。

さてと、もうすぐ授業開始だし、さっさと並んでおかなくちゃな。

 

 

 

「では、本日から格闘および射撃を含む実戦訓練を開始する」

「はい!」

 

一組と二組の合同練習なので人数はいつもより多い。俺としては鈴がいるのが嬉しいね。

 

「あたしも一夏と一緒は嬉しいわね」

 

そう? ならよかった。

 

「……今日は戦闘を実演してもらおう。凰!オルコット!前に出ろ!」

「はい!」

 

……なんだろう、原作と同じはずなんだが、なぜかちー姉さんがイライラしてる気がする。俺が鈴と一緒は嬉しいと言ったからか?

……まさかね。

 

「それで、相手の方はどちらに? ……まさか、また一夏さんにいじめてもらえるんで」

 

ドズッパァン!!

 

「……あんたも大概馬鹿ね、セシリア」

「ああ、痛いですわ………ハァ……♪」

 

ダメだこの金髪、早くなんとかしないと……。

 

恐らくこれはほとんどの者が思ったことだろうと思う。シャルルも冷や汗をかいていた。

 

妙な空気になったところで、真耶先生が現れた。いつもと同じように柔らかな雰囲気だが、ISを装備しているとなんとなくきりっとして見える。入試の時にあまりにも慌てすぎてるのが見ていてわかったからゆっくりと宥めてやった人と(身長と顔と体格と体型と声と網膜とDNA以外は)同一人物に見えない。

 

「……そこまで一緒なのだったら同一人物と言って差し支えなかろう」

 

特に網膜な。あれ同じ人はまずいないそうだし。

 

……真耶先生が使っているISは隣にいるシャルルの実家の作った第二世代型量産機の……………………バザール・デゴザール…………だったっけ?

 

「一応言っておくがラファール・リヴァイヴだ。けしてバザール・デゴザールなどという名では無いからな」

「あ、やっぱり? 絶対違うと思ってたんだよね」

 

やっぱりね~。

 

「さっさと始めろ小娘共。いつまで惚けているつもりだ?」

「……作戦会議は何分頂けますか?」

「実戦の中でやれ」

 

お、始まった始まった。頑張れ鈴~、頑張れセシリ~。

真耶先生は強いだろうけど頑張れ~。

 

 

 

 

side 凰 鈴音

 

試合開始直後にセシリアとプライベート・チャネルで作戦会議をする。

 

『あたし前衛、あんた後衛、あたしは隙を作ることに専念するから、できたら撃って』

『わかりましたわ。……ですが、わたくしは一夏様と戦った時のわたくしではありませんわ。新しい世界への扉と一緒にいろいろ開きましたの♪』

『そう。だったら頑張ってね』

 

そう言ってからあたしは突撃して死角を作る。その隙にセシリアはビットを二機だけ飛ばして、自分も動きながら山田先生に少しだけプレッシャーをかける。

あたしもあたしで至近距離からの拡散型で低威力の衝撃砲を連発しながら山田先生の機動の邪魔をする。

 

セシリアに銃を撃ちたい時に向けられた銃口に衝撃砲を撃ち込んで邪魔をし、ビットを落とそうとする所で邪魔をし、邪魔をしてできた隙にセシリアがレーザーを撃ち込む。山田先生はなんとか避けているけれど、それでも僅かずつシールドエネルギーは減っていっているはず。

そうでなければ山田先生がこんなに難しそうな顔をしている理由がないし。

 

…………それにしても強い。いつものあたふたとした姿からは全く想像できない強さね。

 

セシリアやビットを狙うとあたしに邪魔されるということであたしを狙うようになった山田先生は、乗っているのが第二世代の機体とは思えないような強さを持っていた。

 

正確な射撃。高速かつ精密なスラスター出力調整とその機動。フェイントの巧みさ。どれをとってもあたし一人では絶対に勝てないだろう。

 

そう。あたし一人では。

 

あたしにできた隙をつこうとする山田先生に、セシリアの操るビットからの青い光条が二本突き刺さる。

それで勢いを削がれた山田先生は、一度下がる……と見せかけてさらに突っ込んできた。武器は近接ブレードと近距離用ショットガン。

 

確かにあたしに近付けば誤射を恐れてセシリアの射撃は少なくなる。けど、私にだって意地がある!

 

双天牙月をバラしたまま振るい、ショットガンの銃口をあたしに向けさせないように弾く。衝撃砲はコンパクトに連発し、できるだけ撹乱する。

 

……でも、そろそろ詰みね。

今までも何発か食らってるし、ショットガンの銃口を向けられた直後にぶちこまれたのも二回三回じゃない。その度にセシリアからのレーザーが山田先生に当たりはしたけど直撃には程遠い。機体の性能差で覆そうにも、あたしの技量じゃ無理。

 

『……ちょっとこれは……』

『やっぱり難しいわよね?』

『勝つのは……難しいですわね』

 

……まあ、それでも。

 

『諦めるわけにはいかないわよねぇ?』

『その通りですわ!』

 

一夏に追い付くまでは。

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

……ふむ。想像以上に粘るな。これも一夏効果か?

 

そう思いながら一夏を見るが、肝心の一夏はいつもの通り、七割程度は眠ったまま授業を受けている。

 

……やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼ご飯、壊れシャルル

 

「はぅあ~~~♪」

 

シャルルが壊れた。俺がつれてきたぷちか達を見たら壊れた。現在黒猫ぷちかを抱き締めているが、頬の緩みが物凄いことになっている。写真に残しとけば黒歴史入りは間違いないな。

……やっとくか。面白そうだし。

 

「……あんたも悪ねぇ……パシャリと」

「鈴には言われたくないかな。その手に持ってるのはなんだ?」

「カメラよ?」

「全く、貴様らは何をしようとしてるんだ………録画オフと」

「な、何か聞こえましてよ!? 撮ってましたわね? 完全に撮ってましたわね!?」

 

まあ気にするなよセシリー。気にしたってシャルルが壊れてしばらく帰ってきそうにないことは変わらないんだから。

さてと。飯にしようか。弁当はちゃんと作ってきたからな。

 

「シャルル、おいシャルル!」

「ん~♪ かわいいにゃ~♪」

「…………やれやれ……剥くぞ?」

「はっ!?」

 

そう言ってやったらようやくシャルルが帰還してきた。黒猫ぷちかはその隙にシャルルの腕から抜け出し、鈴の膝に座っていた獣耳24号チェシャ猫ぷちかの隣に飛び込んだ。

 

「ぅ~~」

「はいはい、怖かったわね~………ところで一夏。シャルルの名前は呼べるのね? なんで?」

「偽名だからじゃね?」

「!!?」

 

びっくーん!と全身を強ばらせるシャルル。バレバレだからね?

………前に誰かが言っていた。こうやってちょっとずつ追い詰めていく過程が一番楽しいと。

 

「……そんなことを言ったのって誰? ちょっと一夏に変なことを教えた罰を与えてきたいんだけど?」

「同感だな。緋宵の切れ味を確かめるちょうどいい試し切りの材料になってくれるだろうよ」

「そうですわね。最近になって偏向射撃もできるようになりましたし、試し撃ちもいいかもしれませんわね」

「怖いよ!? 冗談なんだよね!?」

「さあ? ちなみに言った奴はちー姉さんと束姉さんの手で人間失格とも言える生活を世界のどこかで送ってるらしいけど」

 

いいツッコミだシャルル。ツッコミの上手い奴には悪い奴はいないらしいからな。問答無用でO☆HA☆NA☆SHIは勘弁してやろう。

 

「……それで、なんでシャルルは偽名使って男のふりしてまでここにいるのかしら?」

「な……なんのこと? どうして僕が偽名使ってるって話になるのさ? それに、僕は正真正銘の男だよ」

 

シャルルは顔を真っ青にしつつ、それでも言い訳を続ける。

 

……でもなぁ……無駄なんだよ。

 

「男じゃないってわかった方の理由は簡単。ってかばれない方がおかしいと思うんだが……骨格違うじゃん」

「普通一目じゃわかんないよね!?」

「普通わかるに決まってるだろ? なに言ってんだか」

「ええぇぇぇぇっ!?」

 

簡単だろ。スリーサイズはわかんないけど骨格はわかるんだよ。

 

「偽名の方はもっと簡単だ。……俺が覚えられたからな」

「どんな理由さ!?」

 

シャルルのツッコミはキレが良いな。

 

「まあまあ落ち着け。犬と猫どっちが好き?」

「どっちもだけど……って、話をそらさないでよ!」

「はい柴犬ぷちかと三毛猫ぷちか。こいつらを撫でながら落ち着いて聞け」

「にゃう!」

「わぅ!」

「…………っ!?」

 

シャルルはぷちか二体を膝の上にのせ、上目使いを食らってくらくらだ。ああ見ていて面白い。

 

「一夏はね………他人の本名を覚えられないのよっ!」

 

どーん!と効果音が出そうなくらいに威張りながら鈴は俺の特性について説明をしてくれた。

ちなみに俺の特性は、日本語に直して平仮名片仮名三文字以上……と言っていたが、ローマ字に直してaiueoの五つの母音の数が三個未満(特例として『ん』は母音カウント)の名前なら覚えられる。

 

だが、シャルルの名前はローマ字に直すとsyaruruで母音は三つ。本名なら覚えられるはずがない。

ただし、偽名や愛称などの本名とは違う名前や開発コードだったらなぜか覚えられる。

 

それを利用して偽名発見なんてことをできるんだが………シャルルが引っ掛かるとは少ししか思ってなかった。

ついさっきまで俺はシャルルのことを、女顔で声が高くて男性ホルモンの匂いが希薄で女性ホルモンの匂いの強い、骨格が女性そっくりで胸をなにかで押さえつけている性染色体がXXの男だと思っていたからな。

 

多分ののちゃんとセシリーが

 

「性染色体がXXの男が居るわけ無いだろ」

 

的なことを言ってくれてなければ気づかなかったろうね。

 

……ちなみに、XXのみってのは確かにいないけど、XX|(Y)だったらたまに居たりする。人間の細胞はファジーにできてるな。

 

「……そこまで解ってたなら気付きなさいよ」

「だってそれを踏まえて『ほんとに男?』って聞いてもイエスって答えたんだし、なにか知られたくないことがあるんじゃないの?」

 

例えば、父親が外に作った愛人の子供で母親が死んでから父方に引き取られたけど偶然ISとの相性がよかったからテストパイロットになったはいいけど愛情なんて全く注がれることなく育ってきて、最近落ち目の実家の会社を立て直すために俺とシロのデータを取りに来たスパイみたいなものにさせられてるとか。

 

「……いつもの勘?」

「……いつもより当たるだろう勘……かな?」

 

原作知識だけど。

……………ああ、そんなことのために俺の貴重な睡眠時間を削ろうと画策していやがったのか。ムカつくな。実にムカつくな。

 

「……シャルル。今の一夏の話で外れてるところとかある?」

 

鈴が憤怒を抑え込んでいる声でシャルルに問いかける。鈴は元々激情家だし、当たり前かね。特に家族関連のことは。

 

…………しかし、ぷちかに挟まれて壊れていたシャルルはと言うと…………

 

「うぇへへへへぇ…………♪」

 

女としては出してはいけない笑い声を出しながら、ぷちか達を可愛がっていた。

気持ち悪いほど蕩けた顔と頭とは違い、手はしっかりとぷちかを優しく撫でていたことを確認した。やっぱり悪いやつじゃないな。

 

………三分以内に帰ってこなかったら痛いと評判のデコピンをかましてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食、シリアスムードに

 

‘シャルル’は帰ってこなかったので、痛いと評判のでこぴんをした。本気じゃないからソニックブームも出なかったし、食らった‘シャルル’が吹き飛ぶといったことも無かった。

 

「―――ッ!? ―――――――ッ!?」

「…………うわぁ……」

「……一夏。どれだけ力を込めたのだ?」

「…………わたくしの額があのでこぴんを……はぁ……♪」

 

約一名を除いて‘シャルル’の反応に引いていたが、三十秒もすると痛みが引いてきたのか半泣き(半分どころか全泣きしてるような気もするが)で俺のことを睨んできた。

 

「俺の話を完全に無視してあり得ないほど蕩けた笑顔で涎を垂らしていたお前が悪い」

「え!? う、うそっ!?」

 

そう言いながら‘シャルル’はポケットからハンカチを取り出し、ごしごしと口の周りを拭き始めた。

 

「ほらこんな顔してたんだぞシャルル」

「ッ!?」

 

‘シャルル’は俺の携帯の画面に映った写真を見て顔を真っ赤にする。確かにこれは恥ずかしいよな。

 

「け、消してっ!」

「はいはい………………で、本題といこうか」

 

‘シャルル’の緊張も解れたようだし、質問タイムだ。盗聴機その他はいつもの通りチャフで無効化してある。ぷちか達に頼んでおけば、学園中のどこにでもすぐさま張ってくれるからいいよな。

 

「ある程度の予想はついているんだ。さっきシャルルがだらしない顔をしてた時に話したんだけどな」

「あ、あれはもう忘れてよ……」

 

…………‘シャルル’って、からかうと楽しいな。

 

「……とりあえず、イエスかノーかはいかいいえでお答えください」

「……わざわざ二ヵ国語で言う意味はあるの?」

 

無いよ?

 

「まず始めに、前提としてお前の染色体が全てXXであるということは確認済みだと言うことを頭に置いとくとして………シャルルは望んで男として来た」

「……ノーだよ」

 

やっぱりか。じゃあ次だ。

 

「お前のところの実家の社長である父親の命令?」

「イエス」

「社長には本妻と愛人が居て、シャルルは愛人の子供?」

「イエス」

「本妻に暴力を振るわれた経験がある」

「イエス」

「父親から愛情らしきものを受け取った覚えはない」

「イエス」

「俺達にバレたからフランスに戻ろうとしている?」

「イエス」

「フランスに戻ったら最低でも牢獄生活、最悪社会的に社長に抹殺されるとわかってる?」

「イエス」

 

淡々と答える‘シャルル’の言葉に、周りの三人が怒りを押さえられないといった顔をしている。俺? 俺はそんなことはない。

……ただ、そう言う親は嫌いだけどな。

 

「目的はシロと俺のデータ取り?」

「イエス」

「それも社長の命令?」

「イエス」

「……ちょっとだけだったが、ここは楽しかったか?」

 

この質問に、‘シャルル’は一瞬戸惑ったものの、儚げな笑顔を浮かべて答えた。

 

「……うん。楽しかったよ…………ほんとにちょっとだけだったし、大変だったけどね」

 

そうかそうか。それはよかった。

 

「……できるなら、まだシャルルはここに居たい?」

「……無理だよ。だって」

「イエスかノーで答えろって」

 

すると‘シャルル’は少し迷って、小さくイエスと答えた。

 

…………よしよし。素直なのはいいことだよ。

いくらでもやりようはあるし、束姉さんが本気であっちにつかない限り負けはない。

 

俺はにっこりと笑って言う。

 

「そっか」

 

……試したことはないけど、多分できると思うんだよね。

 

「ののちゃん。鈴。セシリー。ちょっと行ってくる」

「……あたしたちの出番は無いってことね。その分しっかり思い知らせてあげてね…………誰に喧嘩を売ったのか」

「そうだな。行ってこい、一夏」

「いい報告をお待ちしております、一夏さん」

「ん」

 

……さてと。やるかね。

 

 

 

千の顔を持つ英雄で、幻想を殺す右手を持った不幸な少年が主人公の世界の滞空回線を作り上げる。あれは学園都市だけだったが、こっちのは全世界を覆い尽くせるような馬鹿みたいな数を出す。

これだけでもかなり疲れるが、ここからが本番。

 

魔力を持った武器が作れた。形をもっていれば作れた。だったらこいつも作れるはずだと、ネギま世界の電脳兵器、力の王笏を作り上げた。

ここから滞空回線を通じてハッキングをかける。後のことは………まあ、多分なんとかなる。

 

とある銀行のデータを騙くらかして、架空の口座に架空の金を大量に用意し、勝手に‘シャルル’の実家の会社を買い取った。ネット上でのあっという間のことだったので、恐らく誰一人として気付いていないだろう。

……ちなみに電子精霊千人長七部衆の姿は手のひらサイズのぷちかだった。きびきび働いてたけど。

 

……さーて後は‘シャルル’を合法的に雇い直して、それから社長を軽く脅してやろう。それには遠距離で当てないように狙撃でもやればいいな。

滞空回線でその場所を見ながらだったら簡単に千の顔を持つ英雄でライフルでも何でも出せる。ああ便利。

周りのことは知らないね。面倒臭い会社のことは任せるよ。潰れるだろうけど。

そしたらテロ組織の亡国機業に罪を擦り付けて‘シャルル’のISだけ貰っていってやる。

 

俺の機嫌を損ねた報いを受けるがいい!みたいな?

 

……おっと、脅迫メール出しておかないと。

 

 

 

side セシリア・オルコット

 

一夏さんは黙って目を閉じて、それから数分動かなかった。

しかし次に目を開けた時、そこにはわたくしを封殺して苛めぬいた時と同じ光が宿っていました。

 

「……ふぅ………」

「……終わったみたいね。はい一夏。あーん」

「……はむ」

 

一夏さんはもきゅもきゅと美味しそうに鈴さんの作ってきた青椒肉絲を食べる。何をやったのかはわかりませんが、どうやら終わったようですわね。

 

「多分しばらくすれば答えが出るから、それまでここにいろ」

「それが一番ね。……そう言えば、あんた名前は何て言うの? あたしは凰 鈴音よ。鈴でいいわ」

「私は篠ノ之 箒だ」

「わたくしはセシリア・オルコットですわ。以後よろしく」

 

わたくしたちがそう言うと、デュノアさんはしばらくぽかんとわたくしたちを見て…………その目に涙を浮かべた。

 

そしてぽろぽろと涙をこぼしながら、ありがとうという言葉を繰り返していた。

 

「いいから飯にしようぜー。ほらシャルルも笑って笑って」

 

一夏さんの言葉に従い、デュノアさんもわたくしも食事を始める。

 

…………ちなみに、わたくしが自作したサンドイッチは酷い味でしたので自分で食べるようにしました。甘苦いタマゴサンドは少しトラウマですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ISできたよ!やったねかんちゃん!

 

‘シャルル’の実家の会社をハッキングして脅しつけた次の日の事。俺はいつもの通りにIS整備室に行ってシロの調整をする。

乗るたび乗るたび調整しているが、それでも調整の種は尽きない。いくらでも要望は出てくる。

 

例えば前回は瞬時加速時の移動距離調整が少しぶれていたのである程度固定したし、その前は銃火器を使うときに必要なロックオンシステムがなかったので追加したりもした。

必要以上のエネルギーがスラスターに振られていてスラスターがエネルギーを持て余していた時にはそのエネルギーを別のところに回すように調整することもあったし、装甲の調整も多少とはいえした。

 

……ちなみに、シロの調整結果はぷちか達の使うミニシロにそのまま繋がっているため手は抜けない。元々抜く気はないけど。

 

……そして今日は、いつもお手伝いをしてくれているかんちゃんのISが完成したというおめでたいことがあった。ちなみに、機体だけ。

それと今必要なのは稼働データと武装。荷電粒子砲はともかく、ミサイルの方は今度の個人トーナメントでとあるものを試してみようと思っているため協力できるだろう。

 

かんちゃんにはよく助けてもらってるし、こっちから助けてあげたいと思うのも不思議じゃないはず。

流石に今度の個人トーナメントには間に合わないけど、原作では六巻であった弾丸より早いレースには参加できるんじゃないかと思っている。

 

……一応使えるんだし、荷電粒子砲も使うことを視野に入れとくか。

 

「……いいの? シロは……近接型でしょ?」

「違うんだよねぇ。確かに近接白兵戦闘能力が高いのは認めるけど、実際には遠中近距離どこでもいける万能型」

「……でも、武器がない……」

「それについてはなんとかなるようになってる。ミサイルも荷電粒子砲も」

 

具体的には千の顔を持つ英雄で。

 

「ほら、よく言うじゃん。そんなものは気合いでどうとでもなるって」

「…………いくらなんでも無理だと思う……」

「そう思うのは気合いが足りないからだって。『気合い』を『意思』に変えてみればよくわかると思うよ? 力があっても技術があっても、それを使う意志が無ければ宝の持ち腐れだし」

 

だから俺は千の顔を持つ英雄をよく使っているわけだが。

 

「まあ、俺も自分にあった戦い方を見付けられてないわけだし、それを探すついでだよ。ラッキーとでも思っときなって」

 

けらけらと笑いながら近くにあったクッキーをかじる。カロリーのことを考えてバターを使わずに作ってみた。サクッとした歯応えではなく、どちらかと言うとガリッといった歯応えだが、それはそれで美味い。

 

かじりかけのそれを、かんちゃんの膝の上に座っているリスぷちかに渡すと、かりかりかりと食べ始める。

そんなぷちかを見たかんちゃんは、少しだけ頬を緩めてぷちかの頭を撫でている。

 

「……何て言うか、そうやって撫でてるところを見ると親子に見えなくもないよな」

「………………へ?」

 

そう言ってみると、珍しくかんちゃんの呆けた顔が見れた。これはなかなか珍しい。

 

「髪の色は違うけど、ぷちかもかんちゃんになついてるみたいだし」

「……そう…………かな?」

「そう思うよ? 確かにぷちかは純粋で人見知りはしないけど、悪い人にはなつかないからな」

 

何でかは知らないけど、実際その通り。悪人というかこっちを利用してやろうとするやつにはなつかなかった。

……まあ、手がかからなくっていいけど。

 

……さてと。それじゃあそろそろ帰って寝ようかね。‘シャルル’も待ってるだろうし。

 

「それじゃあまたね」

「……うん」

 

 

 

 

side リスぷちか

 

カリカリカリカリカリ………

 

……クッキーおいし♪

 

 

 

side 更識 簪

 

……あれ? いまなにか…………あれ?

 

……気のせいなの?

 

…………。

 

………………気のせいだったみたい。疲れてるのかな。

 

基本部分は出来上がった打鉄弐式のことを思う。武装のマルチ・ロックオン・システムや荷電粒子砲はまだ完成していないけど、一人で悩んでいた時に比べればずいぶん早くできたと思う。

……これも、織斑くんの協力のおかげ。

 

……織斑くんは、シロの悪いところを改善するのに協力してほしかっただけで、協力した訳じゃない……って言いそうだけど……。

 

本当は……わかってる。織斑くんは……本当についでに助けただけ。……でも……その割には随分よく整備室に来ていた。……それも、わざわざ私の居るところに。

 

織斑くんにとっては大したことじゃあなくっても……そうしたわかりにくい心遣いの積み重ねに気付くと……嬉しくなってくる。

 

…………こうやって、織斑くんは……無意識に、女の子を落としてるのかもしれない。

 

……だって……織斑くんと初めて出会ってから……二ヶ月とちょっと………たったそれだけの付き合いなのに…………私は……織斑くんに惹かれてる。

 

ちょっと前までなら……嫌な気分になっていたかもしれないけど……。

……今は……なんだか心地いい。

 

ふと、考えていた相手の名前を口にしてみる。

 

「織斑くん」

 

私は、それだけでひどく赤面した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束姉さん参上!そしてちー姉さんによる惨状

 

「やっほーいっくん、おひさしー。はぐはぐしに来たよ~」

 

部屋に戻ると‘シャルル’の代わりに束姉さんが居た。何をしたのかよくわからなかったので一度部屋を出て確認してみようとしたら、束姉さんに捕まってベッドに引きずり込まれた。

 

「もう、つれないなぁいっくんってば。束さんへの愛はそんなものだったのかい?」

「いえ、びっくりしたのでとりあえずちー姉さんに電話をしようかと」

「おぉっとやらせないよ? 昔からちーちゃんはいっくんのことになると怖いからね。残念だけど連絡を取れないように電波障害を起こしてあるのさ!」

 

……簡単に言ってるけど、そいつは現代の科学力で簡単にできることじゃないぞ束姉さん。

 

「束姉さんの科学力は世界一ぃ!」

「知ってます」

 

それこそ嫌っていうほどに。でなけりゃISなんて作れやしないだろうし。

 

「いいからいっくん!さあはぐはぐの時間だよ~♪」

「……お風呂は」

「? 束姉さんと一緒に入るかい?」

「まだ鬼籍に入る気も人生の墓場に行く気も無いので遠慮しときます」

 

怖い怖い。束姉さんは言ったら本当にやるからね。有言実行のマッドサイエンティスト、束姉さん。

 

「じゃあいますぐだね。束姉さんの胸に飛び込んでおいで~」

 

束姉さんはにこにこ笑いながら両手を広げるが、俺はそれを努めて無視して束姉さんの隣に寝転んだ。

 

「いっくんってばほんとにつれないなあ。でも抱き締めちゃうよー」

「……どーぞ」

「許可が出たよ!じゃあさっそく束姉さんの束姉さんによる束姉さんのためのはぐはぐタイム!はっじまっるよー!」

 

テンションがアホみたいに上がった束姉さんは俺のことを思いきり抱き締めながらベッドに転がった。少し息が苦しいから手加減してほしいところだけども……まあ、無理だろうな。

 

「はぅぁ~久し振りのいっくんだぁ~♪」

「はいはい、一夏ですよ~」

 

そんなことを言いながらも、俺はゆっくりと意識を手放していく。束姉さんはなかなか信用できないけれど、信頼できない訳じゃないからな。

 

………ふぁ……はふ…………。

 

…………すか~……。

 

 

 

 

side 篠ノ之 束

 

しばらくいっくんを抱き締めていると、寝息が聞こえてきた。そこでいっくんの息がつまらないように少し隙間を開ける。

 

じっ、と見つめていると、いっくんは何でもないように眠り続けている。

 

……私は知っている。いっくんがISに乗れるとわかってから、いっくんのことを誘拐しようとした組織の半分は、いっくん自身の手で排除されていたことを。

この場所に来てからはそういうことは減ったけれど、その代わりに盗聴機やカメラの個数がずっと増えたことと、それをすぐに学園が仕掛けた護衛用とそうでないものに分けて。護衛用以外を壊していたことを。

一人になった夜に、いっくんの部屋に入ろうとしてちーちゃんに捕まった女のことを。

 

そして、それを知っていてなにも知らないように振る舞っていたいっくんを。

 

……束さんじゃあちょっと足りないかもしれないけど、いっくんをこうして抱き締めてあげることはできる。

……ほんとはちーちゃんが一番いいんだけどね。いっくんはちーちゃんが大好きだから。

 

ちーちゃんは今、色々忙しい。原因の大半は私だけど、だからこそちーちゃんは忙しい。

……ごめんねちーちゃん。でも、いっくんを守ってあげたいっていう気持ちは束さんにもあるから、安心してね?

 

いっくんは強い。戦ったらまず勝てない。だから私は、いっくんが本気を出せない状況にして。その上で戦わずに勝つ。

そのために私は白式を………シロを作ったんだし、その中に爆弾代わりの仕込みもした。これでいっくんは死なないまま、ちゃんと強くなれるはず。

相手に選んだあの子も、いっくんを一度は追い詰められるくらいに強くなるように技術提供もした。その結果も期待通りだった。

 

……だから、きっと大丈夫。

 

………………大丈夫。

 

私は心細さを隠すように、いっくんを強く抱き締めた。

 

……起きた時には、いつも通りの『束姉さん』に戻ってなくっちゃ。

 

 

 

……そして、朝。

 

「………………」ぎぢぎぢぎぢぎぢぎぢぎぢぎぢぎぢ……

 

ちーちゃんに見付かってアイアンクローをされた。頭蓋骨が軋むとかそんなレベルの話じゃなくって、もっとこう直接的な命の危機にさらされてるような痛みが……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦闘、俺vs‘シャルル’

 

‘シャルル’がここに来てからはや五日。初日に性別詐称が発覚するも、俺は全く気にすることなく同室で寝泊まりしていた。

たまに俺のベッドに鈴やののちゃんが居たりして騒ぎになることもあるが、なかなか楽しい生活だ。

 

……ちなみに‘シャルル’の実家の会社だが、いつの間にか経営が少し良くなっていた。忘れてたけど俺って一応黄金率と幸運スキル持ってるし、当然……なのかもな。

現在の経営者は俺だし、言うことを聞かなかった‘シャルル’の父親はちょっと洗脳したから言うことを聞いてくれるようになったし、問題ない。

 

そして現在、俺は衝撃砲以外の遠距離武器の練習ついでに‘シャルル’と模擬戦をしている。

ラピッドスイッチの真似事をして遠近両用にしているが、やっぱり面倒臭い。一発の威力も必要だけど、やっぱり弾幕張れる武器の方が好みだ。楽だし。

ちなみに基本戦法は、相手のバランスを崩すとかして意識をそらし、不意を打つように近付いて荷電粒子砲または雪片で攻撃して離れる。わざわざこんなところで手の内を見せたくないし。

 

ただ、荷電粒子砲って面白いな。束姉さんの使ってた遠隔操作型のISみたいに曲げることはできなくとも、衝撃砲とは違って速度があるし、縦に裂いて散弾のようにすることができる。

エネルギーをアホみたいに食うのが厄介だけど、元々攻撃特化型のISであるシロはそんな感じだし気にしない。

 

……どんな手を使っても良いんだったらこの世界ではどんなやつにも勝てる自信があるが、流石に人前でディープダイバー使って地面に相手を引きずり込んで地中に放置するのは不味いしな。

 

「っ!? い、いま何か怖いこと考えなかった?」

「考えてないぞ。ただ、どうやればシャルルを落とせるかってことだけを考えてる」

「……それはそれで怖いような……」

 

戦闘中はそんなもんだろ。それ以外のことを考えていて落とされて死んじゃいました、何てことになったら多分ちー姉さんが泣くだろうし。

だから、手加減はちょっとしかしないぞ?

 

 

中々いい勝負をした。使い慣れない射撃系武器を使って、よくもまあここまで粘れたな。偉いぞ俺。

 

「と、言うことで吹っ飛べ」

「ちょっ!? グレネードがあるなんて聞いてな」

 

どっかん。

‘シャルル’は不意打ちで放られたグレネードの爆発に巻き込まれ、シールドエネルギーを0にした。

あと、言ってないんだから知らなくてもおかしくはないさ。

 

「……まーた強くなったわね? 少しはのんびりしたらどうなのよ」

「してるさ。週一しか乗ってないしね」

 

その代わりに週一でメンテナンスしてるし、出力調整もしてるけど。

 

鋼龍に

 

「甲龍よ。読みはシェンロン。クシャルダオラじゃないわ」

 

そうだったか。すまん。だが俺は覚えられない!だから呼び名はコドラで。

 

「……まあ、ポルンガよりはましかしら。甲のドラゴンでコドラ?」

「正解、と言うことで正解者にはハグしてあげます」

「バッチこいね。あたしにも一夏にも損のない美味しい話じゃない」

「ああ、できれば私も良いか?」

「わたくしはむしろ椅子にしてもらいたいですわね。一夏さんの重みを体で受け止める………ああ、なんて気持ち良さそうな……」

「黙れよ養殖マゾヒスト」

「あはうぁ!」

 

セシリーは自分の体を抱き締めるようにしながら恍惚とした表情を浮かべた。

その上頭のネジが外れたのか、くるくるとその場で回っている。

 

「お……オルコットさんはどうしたの?」

「あの変態は気にしちゃ駄目だ。変態が移ったら大変だからね」

「普通移らないよね!?」

「普通じゃなければ移るんだけどね?」

 

普通は移らないって言うことはそう言うことだよな。普通じゃなければ移ってもなんらおかしいことはないわけだ。

 

「……普通じゃ……ないの?」

「変態って言うのは新しい種族として考えても問題ないと思うんだよな」

「ぁああぁぁぁ……♪」

「一夏、もうやめてあげて。それにこれ以上は一夏の貞操が危ないわ」

「てっ!?」

 

? ‘シャルル’はいったい何を驚いてるんだろうな? 貞操の危機なんて割と多かったよ?

原因は基本的に束姉さんと鈴とちー姉さんだったけど。

実際に襲われたことは一度もないし、大丈夫だと思われる。

…………と言うか、思いたい。

 

……さてと。それじゃあ俺は個人トーナメントに向けて銃の練習もしとくかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習中、眼帯兎に絡まれる

 

しばらく練習をしていると、銀髪眼帯黒兎が現れた。乗っている機体はドイツのシュヴァルツェア・レーゲン。量産の目処が立たないある意味欠陥機らしい。シロよりはまだましだろうけど。

 

「おい」

 

さてと。俺は適当に練習を続けるとするか。関係ないし。

 

「……おい」

 

それが終わったら明日には整備室に行かないとな。整備は大切だし、データをかんちゃんに見せてあげたいし。

やることはいっぱいだな。

 

「っ!おい!聞いているのか!」

 

……さっきからおいおい五月蝿いな。誰だよ。

 

「そう言えば、韓国語でキュウリの事を『オイ』って言うらしいぞ。種のことは『シー』で、日本人が美味しいって言うと韓国語では『キュウリの種』ってことになるんだとさ」

「へー、一夏ってそう言う無駄知識は多いわよね」

「まあ、役に立つとは到底思えないが、面白くはある」

「だろ? ところで、さっきからキュウリキュウリ言ってる韓国人だと思われる人は何をしたいんだろうな?」

「一夏わかってて言ってるでしょ!?」

 

さて? なんの話やら。

 

「え? だって呼び掛けてるにしては名前を言う気配もないし、傲岸不遜だし、俺の名前はオイじゃないし、高慢な口調がムカつくし、第一俺はあいつのこと好きじゃないしどうでもいいし話したくないし戦いたくないしあいつが俺の事を憎んでるとかどうでもいいし嫌ってる理由なんて聞く気もないし話し合う理由もないし優しく返してやる義理もないし生憎と叩かれそうになった相手に対する優しさの持ち合わせはないし最大限ぶっちゃけると面倒臭いから関わり合いになりたくない」

「そこまで言うの!?」

「まだ加減してるけど無くしてみる?」

「やめてね?」

「加減を?」

「違うからね!? 本気を出すのをやめてってことだからね!?」

 

わかってるとも。

 

「……貴様…………」

「貴様って誰だろうね?」

「キサマって人が居るんじゃない? 世界のどこかに」

「いないとは言えんな。そうかそんなものを呼んでいたのか……幻覚でも見ているのか?」

「……どうせ見るなら一夏様に苛められる幻覚でも見たいものですわねぇ………」

「どうしよう僕には止められないよ……」

 

おちょくりは人数が増えると格段にレパートリーが増えるからな。止めるのも大変だろうな。

 

「それにしても、こんなに訓練機の多いところで周りに確認もしないで戦闘行為をするなんてまず無いよな。馬鹿のやることだし」

「ぬぐっ……」

 

こらこら、俺の前でそんな風に悔しそうな顔をしちゃ駄目だっての。そこにつけこんで罵倒しちゃうよ?

 

「……一夏は意外とSなのだな」

「今さら気付いたの? 一夏はあれで嫌いな相手を苛めるのが大好きよ? あと好きな人に愛でられるのも」

「嫌いな相手と好きな相手に対する態度が全然違うのですわね……わたくしはどちらなのでしょうか……?」

 

セシリーは嫌いじゃないよ? どっちかって言うとギリギリ好きに入るかな。

少し前に襲ってこなければ普通に好きにはいってたんだけどね。

 

「……じゃあ俺は戻って寝る。あとは好きにして」

「だったら一夏の部屋に泊まろうかしら」

「駄目だよ!? 女の子が男と一緒なんて!」

 

そんな風にぎゃいぎゃいと騒ぎながら俺達はアリーナから去る。ギリギリと歯を軋ませる銀髪眼帯黒兎をほっぽって。

 

……ってか、名前なんだっけ? ランサー・ボーキサイト?

 

……違う気がすんなぁ……どうでもいいけど。

 

 

「そう言えば、何であの子は一夏に喧嘩を売ってきたのかしら?」

「第二回モンド・グロッソの会場内で誘拐されそうになってな。その時に誘拐犯を爆破してやったんだがそれが不味かったらしくて試合中止になったんだよ。つまり、俺のせいでちー姉さんの大会二連覇が無くなったって事で恨んでるんだろ。態度から見てちー姉さんの崇拝者みたいだし」

「あれって一夏が原因だったの!? 原因不明の爆発事故って聞いてたんだけど!?」

 

‘シャルル’が突っ込みをいれるが、原因不明でも原因はあるという事がわからない年じゃないはずなんだがな。

 

「ちなみに、爆発は指向性を持っている衝撃と熱をバラ撒くタイプ。起爆点から五十メートルほどが爆砕されていたってさ」

「自分のことだよね!? なんで他人事みたいな言い方をしてるの!?」

「月に秘密基地を持ってそうな知り合いのお姉さんからもらった防犯装置だったから」

「防犯装置に爆薬つけるの!?」

 

束姉さんだからね。自重を知らない束姉さんだからね。

 

ののちゃんはそういうことをしそうな人のことを知っているので、額に手を当てて空を仰いでいる。まあ、しょうがないね。

 

「たぶんそれが原因だと思うぞ? 俺は全く気にしないけど」

 

睡眠時間が削れることなく、さらに俺の身内(家族だけじゃなく友人含む)に被害がなければ。

あったら潰すけどな。

 

 

あと、原因は束姉さんじゃなくて普通に俺なんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書類整理、シロは俺のだ

 

白式の正式な使用者登録に関係している書類にサインをするという仕事で真耶先生に呼び出された。白式じゃなくてシロだって訂正しておいたけど。

一枚一枚丁寧に見ていたらかなりの時間がかかりそうだったから睡眠時間を多くとるために覚えた速読で読んでからさっさとサインを済ませる。

これで形式的にもシロは俺のISになった。元々束姉さんが作ってくれたやつだから俺のと言っても過言じゃなかったんだが。

 

ちなみにぷちか達にも小さなISコアがあるが、どうやらこっちの方は束姉さんの不思議技術で本格的なISのコア・ネットワークから独立したネットワーク(命名、ぷちか・ネットワーク)を構築しているらしい。

俺が獣耳を装着するとシロが一端既存のコア・ネットワークから外れ、ぷちか・ネットワークに入って状態を共有、ぷちか達の使うミニシロにシロの状態がフィードバックされてる仕組みになっているようだ。

ダメージを受けている時にはダメージのフィードバックは起こらないが、経験はしっかりと蓄積されていっているらしい。

 

………いったいどんな技術を使っているんだか。知りたいような知りたくないような…………。

……やれやれ。

 

 

一応晩飯を食べに行くと、もう鈴とののちゃんと‘シャルル’とセシリーはそこにいて談笑していた。初日でこの三人の前で盛大にバラしてやったが、どうやら大して気にしてないらしい。

俺の幼馴染み達は、何故か大体のやつが神経が図太い。弾や鈴が最もよく分かりやすいだろうし、最近ではののちゃんやセシリーもどんどん細かいことを気にしなくなってきている。

 

今のところ一番そういうことを気にするのは………蘭ちゃんか‘シャルル’のどっちかだな。

 

……自分でバラしといてあれだけども、性別詐称をあっさり受け入れると言うのはなかなか難しいだろうに。

しかもこの三人は、性別詐称になんとなく気付いていたとか。

 

理由は、ののちゃんが気配、セシリーが言動、鈴が勘。珍しくセシリーが一番マトモな答えを持っていた時には驚いた。

驚きすぎてつい足の甲を踏みつけて確認してしまったほどだ。ちなみに悦に浸っている表情をしていたことから本物と判断した。‘シャルル’のひきつったような笑顔が印象的だった。

 

 

特に山もなく谷もなく食事が終わり、今日という日も終わる。

俺は同室の‘シャルル’に背中を向けて眠る。今日のぷちかは何ぷちか? 白蛇ぷちか? 黒豹ぷちか? それともまさかの鴉ぷちか?

 

「ぷち束姉さんでしたー♪」

「……きゅう?」

 

出てきたのはデフォルトでうさみみ装備のぷち束姉さんと、同じく白いうさみみのぷちか六号。きゅーきゅー鳴く姿が可愛らしかったり。

中学の頃は鈴や弾にスティックにんじんをもらってはカリカリかじっていた、アイドル的存在だった。

……それは他のぷちか達も同じだが。

 

……まあ、いいや。さっさと寝ちゃおう。

 

「おおぅ、寝ちゃうのかい? だったらこのかわいいぷち束姉さんをはぐはぐしながら眠ってむぐっ?」

 

騒いでいたぷち束姉さんを抱き寄せて黙らせる。寝るときは静かにどうぞ。

ぷちかの方はぷち束姉さんを挟むように俺と逆のところに陣取ってぷち束姉さんを抱き締めている。

 

ぷち束姉さんがなんだかやばい痙攣を起こし始めたような気がするけど、気のせいだろう。

……というか、もしかしていつかぷちー姉さんが登場して俺と一緒に寝たりするのか?

 

………束姉さんだったらあり得る話だが……実行はしないで欲しいなぁ……どういう反応をすればいいのかわからないから。

 

……さてと。寝ようか。

 

 

 

 

side 篠ノ之 束

 

ここだけの話。私と小さい私はISのセンサーのようなもので繋がっていて、小さい私が体験したことはこっちの私にも流れてくる。

 

……つまり、いまの束さんはヘヴン状態!非常で奇妙で異様なテンションで箒ちゃんの専用ISの紅椿を作っているのさっ♪

 

白式……今は違うんだったね。シロとは違って速度に特化した訳じゃあないけれど、全性能の特化に特化したIS。それが紅椿。

最高速度、加減速力、反応速度はシロに僅かに劣るけど、戦場に合わせた多様性と防御性能は紅椿の方が上。

武器についてはいっくんの千の顔を持つ英雄に届くことは流石に無いけど、それでも多彩な使い方があるようにしたし、箒ちゃんにも合うは

 

「ふぁあっ!?」

 

小さい私の背中をいっくんの(相対的に)太い指がなぞりあげていって、つい声が出てしまう。小さいいっくんも小さい私に抱きついていて、背中から小さい私の首筋に顔を埋めている。

こ、これはいくら束さんと言えども頭がぱーんってなっちゃうよ!? 溢れ出すリビドーに任せていっくんを襲っちゃうよ!?

 

ちっちゃい私はちっちゃいいっくんを、私はいっくんを襲うから、しっかり役割分担だよ!いっくんハーレムだよ!最後にはちっちゃいいっくんおっきいいっくんみんなまとめて束さんのだい!

 

ぱらりろぱらりらぺろ~♪

 

むむっ!この着信音はぁ……ちーちゃんだなぁっ!とうっ!

 

 

「いつもニタニタいっくんのそばに、そっと這い寄る混沌束さんだよっ!」

「……今お前、一夏に手を出してぷちかも連れていってハーレムだーとか言ってなかったか?」

 

……………………(汗)

 

「……………………そんなことは…………ない……よ?」

「……そうか。欲しいと言うならやってもよかったんだが」

「欲しい!」

「駄目だ」

 

ちーちゃんがいじめるー!いっくーん!傷ついた束姉さんを慰めてーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ののちゃんの独白、そして毒吐く

 

周りで騒ぐ者達を見て、私は一つ溜め息をつく。

彼女達は、一夏にいいように踊らされているに過ぎない。それはわかっている。

 

一夏は実は意地が悪い。こういう洒落になる範囲とならない範囲の見極めが上手く、ギリギリ洒落になるところをついてくるのがいつもの一夏の人のからかい方だ。私も昔はよくそれに振り回された。

 

だが、それでも一夏のことを嫌いになれないのは、一夏は一番辛いときにそこにいて、さりげなく手を貸してくれたり叱咤してくれたりするからだ。

それを恩着せがましく言うでもなく、ただそこにいてうつらうつらと船を漕ぎ、人の事をからかう。

どんなときでも変わらないその在り方は、色々なものを私に教えてくれた。

 

……主に諦めとかそういった系統の事だが。

 

そのお陰で私は性格が少し丸くなったし、人当たりもよくなった。ストレスにも強くなったし、姉さんの奔放さを受け入れることができるようにもなった。

 

私は、姉さんの事が嫌いではない。むしろ好きであると言っていい。

あの自由奔放な社会不適合者には色々な事で迷惑を被ってきたが、それでもだ。

 

……そう、一夏と付き合えるだろうと頑張った剣道の試合当日に引っ越しさせられても、重要人物保護プログラムで東西問わずに引っ越しさせられて友達の一人もいない青春(今も青春だが)を送ることになってしまっても、一夏にもらった電話の電波を解析されて居場所がわかるのは困るとかいう取って付けたような理由で政府がテレビ電話を壊しても(日本政府に呪詛を送ってみたところ、当時の総理など八人が同時に盲腸で入院した)、姉さんの事は嫌いじゃない。

 

……よく私は姉さんの事を嫌わないでいられるな。自分で驚きだ。その分政府の方に行っているような気がしなくもないが。

 

確かにISがなければこんなことにはならなかっただろうが、それをわざわざ戦争に使おうとしたりする馬鹿共がいなければ問題なかったんだ。

そもそもなんだ日本は。初めのうちはISがあったのは日本だけだったのだから交渉の材料にするなりなんなりして日本有利に動かせばいいものを、アメリカに好き勝手にむしられよって。弱腰外交も時と場合を考えてやれ。まったく情けないな。あまりにも理不尽な要求は突っぱねればよかろう。

 

……理不尽と言えば、最近IS学園に転入してきたラウラ・ボーデヴィッヒ。一夏に勝手に恨みを持ち、憧れに泥をつけたと憎み、初対面で暴力を振るおうとしたあげくに喧嘩を売ってくる、軍の特殊部隊の隊長をしているものが、あれでは駄目だろう。

 

別に私はボーデヴィッヒが一夏を恨むのが気にくわないわけではないし、それを止めようとも思わない。

だが、それに周囲を巻き込むのはいただけない。

 

IS訓練中にやって来たボーデヴィッヒは、恐らくあのまま一夏が去って行ったら容赦なく肩のレールカノンを撃ち込んでいただろう。

 

……周囲の事を考えることもなく。

 

一夏とボーデヴィッヒの問題に首を突っ込むことはしたくないが、こちらに被害が来るならば首を突っ込むしかないだろうに。

 

…………やれやれ。困ったものだな。

 

ちなみに、デュノアはともかく、私と鈴は一夏の心配はまったくしていない。

理由と言えるかどうかはわからないが、戦略や戦術はともかくとして、戦闘で一夏が負ける姿が想像できない。

これにはセシリアも同意していて、どう想像しても一夏がボーデヴィッヒをボロボロにしている画面に繋がったとか。

その想像の中には、一夏は生身でボーデヴィッヒはIS使用と言うものもあったのだが、セシリアの中ではそれでも一夏が勝ってみせたらしい。

 

………笑い飛ばせないのが一夏の恐ろしいところだ。何らかの方法で相手を落としてみせそうで、なかなか怖い。

 

「……できそうよね」

「……違和感が欠片も無いな」

「二人ともおかしいからね!? 生身の人間がISに勝てるわけないでしょ!?」

 

私達も、一夏が普通だったら諸手を上げてその言葉に賛同しただろうが、生憎と私達は一夏の非常識さを知ってしまっているし、理解もしている。

 

私と鈴はデュノアの肩に手を置いて、言う。

 

「「ようこそ、非常識な一夏のそばに」」

 

デュノアは頭を抱えた。

 

 

 

 

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