IS~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

9 / 22
81~90

臨海学校、準備中

 

もうすぐ臨海学校があるらしい。そのための準備は一応してあるけど………泳がないし、水着なんていらないよな。

 

そう言ったら、鈴とののちゃんとシャルが一瞬でアイコンタクトを交わし終え、いつの間にか買い物に行くことになっていた。メンバーはいつもの六人。多分ちー姉さんもくることになると思うけど。

週末の日曜に駅前のショッピングモールに行くことになったが、どんな水着を買えばいいのやら。

 

「俺、泳がないよ? 砂浜で寝てるよ?」

「それじゃあパラソル買いましょパラソル。ずっと日の下に居て熱中症になったら困るものね」

「そうだな。スポーツドリンクは……学園で買えばいいか」

「それと、僕達の水着も選んでくれると嬉しいかな」

 

そんな感じで話は進み、たまに絡んでくる頭の悪そうな男と女にはニアデスハピネスで肺を内側から軽く爆破してちょっとやばい状態にしたりしながら買い物をする。

 

「一夏。こっちのワンピース型とこっちのタンキニ型はどっちがいいと思う?」

「ん……黄色いほうかな? 鈴にはそっちの方が似合うと思うぞ?」

「そう。じゃあこっちにするわね」

 

なんでかシャル以外の分の水着まで俺が選んでいる。まあ、みんな似合ってるけど。

セシリーだけは自分で用意した水着を着るらしい。なんのためにここに来たんだろうね。

 

ラルちゃんは誰の入れ知恵かは知らないけど黒が主体でレースがついている水着。確か原作でもこんなのを着ていたはずだ。

 

「ふふん。どうだ一夏」

「……ほー……意外だけど似合ってると思うぞ」

「そうだろうそうだろう。くくくく……」

 

なんで威張ってるのかはわからないけど、その姿も似合ってる。

でも、試着室から出てくるときはちゃんと元の服に着替えてから出てこような? 見られてもいいなら別にいいけど。

 

「一夏。こっちの白と赤とならどちらがいいと思う?」

「なんでみんな俺に聞くんだ? ちなみに最大限ぶっちゃけるとどっちも似合ってるから選びづらいんだよ」

 

強いて言うならののちゃんには性格的に『情熱の赤』より『純粋な白』が合ってるような気がするが。

 

「そうか、白が似合うか。なら白にしておくか」

 

なんで喋ってないのにわかるんだろうな? 便利だから別にいいけど。

 

「いや便利だからって……」

「シャルも読んでるじゃん」

「そうですわよシャルロットさん。あと、そろそろ性別の公表をしたらどうですか?」

「……大丈夫かなぁ……?」

「平気平気。一夏が止めないってことはなんとかなるってことだから」

 

妙な信頼をされてるな? 確かにこれについては問題ないだろうけど。

ちなみにシャルの水着はおそらく原作通り。黄色いし所々黒いし背中で紐が交差してるし。違うかもしれないけど似合ってるし問題ない。

 

「あっ! 織斑君!」

「一夏と………貴様等か。何をしている?」

「一夏に水着を選んでもらっていました。千冬さんも選んでもらったらどうですか?」

 

真耶先生とちー姉さんが現れた。なんでちー姉さんはちょっと不機嫌?

 

「あ、織斑先生は織斑君に誘ってもらえなくって拗ねて」

「山田くん。学園に戻ったら武術組手をしよう。折角だし五十本ほど」

「そんなことをしたら折角の織斑君との時間が無くなっちゃいますよ? 織斑先生?」

 

なんだか真耶先生が強かだ。ちー姉さんが原作よりも一部子供っぽい分が真耶先生の方に行っているんだろうか?

 

「……織斑先生が選んで貰わないなら、かわりに私が選んでもらっちゃいます♪ ということで……どっちが似合うと思いますか?」

 

そう言って真耶先生が見せてきたのは、共にワンピースタイプでパレオ付きの水着。色は薄いピンクと黄緑色

 

「黄緑の方で」

「そうしちゃいますね。………ほら、織斑先生も」

「うむ……どちらがいいと思う……?」

 

真耶先生にせかされたちー姉さんが俺に見せたのは、機能性重視な白の水着と、機能性だけでなくおしゃれの方まで視野に入れられて作られただろう黒い水着の二つ。

まあ、即決だよな。

 

「黒い方。その方がちー姉さんの髪が映えるんじゃない?」

「……そうか」

 

ちー姉さんはそう言うと、白い水着の方を戻しに行った。

ちなみに俺は原作の一夏のように気に入った方を先にじっくりと見ることはない。とりあえずほとんど均等にしているつもりだ。

 

……全員分の水着選びは終わったことだし………寝たい。

 

なぜか最近さらに小さくなれるようになり、今では100センチメートルを切ることもできるようになっている。

と言うか、気を抜くと勝手に縮む。そして争うように獣耳が遠隔展開してくる。

その度にお持ち帰られそうになったり、実際にお持ち帰られたりしている。

 

……ただし、お持ち帰りできてるのはシャル(まだ同じ部屋)と鈴(泊まっていく)とののちゃん(同じく)とちー姉さんくらいなものだ。

 

「寝たいなら寝ればいい。運んでやるぞ? 一夏は軽いしな」

「ん……ありがと……」

 

ののちゃんのお言葉に甘えて、ののちゃんの背中に乗せてもらう。剣道で竹刀を振っているお陰か、確りと筋肉がついていて安定感がある。

……昔にしてもらったちー姉さんの背中もこんな感じだったよなぁ………。暖かいんだよ。凄く。

 

そして誰かが―――まあ、鈴だろうけど―――が俺の体が冷えないようにと肩になにかを羽織らせてくれた。嬉しいね。

 

…………すか~……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、移動中

 

バスに揺られて移動中。止まってるときの細かい揺れはともかく、動いてるときの大きな揺れは寝るのに丁度いい。揺りかごみたいで。

ちなみに俺の隣は、百に届きそうな数十回のあいこの結果、ラルちゃんが取っていった。

 

鈴の勘とののちゃんの気配とセシリーの理論を抜けた理由は、左目を使うことによる動体視力の底上げで出す手を読んでいたらしい。どこかで聞いたことのあるじゃんけんの必勝法だと思ったが………まあ、ルールは守ってるし問題はないだろ。

 

それとこれは俺達の中ではもはや当然のことなんだが、手を上げてから下ろすまでの間に手の形が四~六回変わる。俺は身体能力任せで五~六十回程度は変えられたりもするが……まあ、使わない無駄能力だな。

それでもあいこが続いたのは、流石にラルちゃんは手の動きが追い付かなかったらしく、最後のに合わせて手の形を変えるのに苦労したからだろう。

 

……シャル? シャルは頑張ってついていこうとしたけど、六十三回目で脱落。流石に幸運だけでは勝てなかったらしい。自分の出したチョキを凄く恨めしそうな顔で見詰めていたのを俺は知っている。

 

それは置いておくとして、俺は今、ラルちゃんと寄り添うようにして眠っている。起きているところは五厘(0.5%)程度。正直寝てるのと変わりない。

 

何で起きているかと言うと、夏になると蚊が多くなるから自動で潰せるようにだ。痒いのは嫌。そしてあのモスキート音(本物)も嫌。大嫌いだ。

いつもはそれ専用のライトで何とかするんだけど、ここで使うと勝手に触られて感電されても困るし使えない。普通の人間ならまず死ぬ威力だし。

 

……まあ、何でもいいけど。ここに蚊はいないみたいだし。

 

…………ふぁ……。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

ラウラと一夏が眠っているのを、私は(自分では見えないが、おそらく)優しい目で見守る。一夏の隣になれなかったのは残念だが、こうして一夏を眺められるのだから……まあ、いいだろう。

 

「可愛いわよね」

「本当にな」

「……いや待ってよ。何で鈴がここにいるのさ!? このバスは一組のバスだよね!?」

「千冬さん……っと、織斑先生を一夏の生写真と実際に使っていた腹巻きで買収したわ」

「それいいの!? いや駄目だよね!?」

「五月蝿いぞシャルロット。一夏が起きたらどうするつもりだ。一夏がくれたソードサムライXの錆にしてやろうか? 手入れはするから錆にすらさせないが」

「ちょ……冗談だよね? 冗談なんだよね!?」

 

シャルロットは小声で叫ぶという器用な真似をしてみせた。まあ、これなら冗談にしても構わないか。

 

「もちろん冗談だとも。なあ鈴」

「そうよ。あたし達がこんな人目のあるところで殺るわけないじゃない。どうしても殺るならセシリアの出番よ」

「その通りですわね。バレるような真似はいたしませんわ」

「冗談にしても酷すぎるからね!? 冗談に聞こえないんだってばぁ!?」

 

ん? 『冗談に聞こえない』だと?

それは当然だろう。私だけでなく、鈴やセシリアもそこそこ本気なのだから。

 

……まあ、それを表に出すようなことはしないがな。一夏のそばに居られなくなるのは困る。

 

「はっはっは、シャルロットは小心だな? いいことだと思うぞ?」

 

戦いには必要だ。恐怖が無ければ人間はどんどんと退化していくだろうし。

 

…………おや、どうやら目的地に到着したようだな。一夏を運んでやらなければ。

 

「篠ノ之。織斑は私が運ぶ。お前はボーデヴィッヒを運べ」

「……職権乱用では?」

「フッ……権力とは使うためにあるのだ」

 

そう言って千冬さんは、いつもと同じく小さくなった一夏を背負ってバスを降りていった。

 

……まったく。千冬さんはブラコンだな。それも超弩級の。

 

「仕方無いわよ。だって千冬さんだもん」

「……まあ、そうだな」

 

やれやれ。

 

心の中でため息をつきながら、私はラウラを背負う。

……軽いな。ちゃんと食べているのか?

……いや、体格からしてこれが適正体重なのか? 私はあまり気にしていないからよくわからないが………。

 

「気にしてないのにその体型って言うのは……羨ましいわねぇ………ちょっとくれない?」

「私としても少し貰って欲しいのだがな。残念ながらそういった技術がない。諦めてくれ」

 

私はもう少し小さい方がよかった。手のひらにはギリギリ収まらないくらいの大きさがよかったのだがなぁ……。

 

理由? この胸で寝ている一夏を抱き締めると、一夏を窒息させてしまう可能性があり、抱き締められないからだ。かなり悲しい。そしてその点では千冬さんが羨ましい。

 

…………まあ、羨んでも事実は変わらないので諦めてはいるがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、睡眠中

 

目が覚めるとちー姉さんがいた。が、気にせず眠ることにした。

ちー姉さんの腕枕はいいね。固すぎず柔らかすぎず、高すぎず低すぎず……。

それに、よく俺の髪をなでりなでりと撫でてくれるし。ぎこちない撫で方のはずなんだけど、なんでか気持ちがいい。

 

「……ふにぅ………」

 

……どうやら今は猫系がくっついているらしい。猫っぽいあくびが出たし、尻尾が猫だし、耳も感触的に猫だし。

まあ、いつものことだ。

 

もう一眠りしようとまたあくびをして、そこで俺が空腹だったと言うことに気が付いた。

…………まあ、いいか。眠いし寝よう。一食や二食抜いたところで死には………。

……すか~…………。

 

 

 

 

side 織斑 千冬

 

くきゅう、という軽い音で目を覚ました私は、とりあえずその音の音源を探してみることにした。

 

きゅくぅぅ~……

 

……それはすぐに見付かった。それもそのはず。その音は私のとなり、一夏から聞こえてきたのだから。

さらに正確に言うならば、一夏の腹から聞こえてきたのだが。つまり空腹なのだろう。

 

……そう言えば、一夏は昔から食事を抜いてまで寝ていたな。今日は昼抜きか。

ならば、夕食は確りと食べさせなければいけないな。一夏の健康のためにも。

 

「ん……ぅみゅ………」

「ぐふっ!?」

 

…………だが、夕食の時間にはまだ早い。もう少し一夏を堪能していてもいいはずだ。この柔らかな一夏の抱き心地を離すのは惜しいしな。

 

一夏を抱き締め、頭を撫でる。一夏の髪に鼻を埋め、ゆっくりと深呼吸をする。

…………ふぅ。愛情が暴走してしまいそうだ。

 

 

 

 

side セシリア・オルコット

 

隣に座る一夏さんを見る。一夏さんは起き抜けということもあり、いつも以上に眠そうにしている。

たとえばふらふらと揺れる体や、こっくりこっくりと船を漕ぐ頭。そして

 

「………ふにゅ……」

 

という可愛らしい寝言。これのお陰で多くの方達が血の海に沈んでいる。

それは当然耐性の低い生徒だけではなく、花月荘の従業員にも飛び火しているあたり、流石一夏さんだと思う。

生き残っているのは……わたくし、鈴さん、箒さん、シャルロットさん、ラウラさん、更識さん、布仏さん、山田先生、そしてここの女将の九人だけ。後は血の海か暴走して鎮圧されたか前後不覚ですわね。

 

……まったく。修行が足りませんわよ?

 

「ふにゃぅ……」

 

くねりと揺れる猫尻尾。たまにピクリと震える耳。可愛らしい声と行動。

 

…………あぁ……天国ですわ……♪

 

「一夏さん。あーん、です」

「……んぅ………ぁむ……」

 

……ふぅ………こんなに幸せだと明日が恐ろしいですわ……。

 

 

 

 

side 篠ノ之 箒

 

臨海学校一日目の間、一夏はバスを降りて(降ろされて?)から夕食まで、私達の前に出てくることはなかった。千冬さんの手によって教員室の布団の中に監禁されているのだろう。鎖のかわりに千冬さんが抱き締めていたと見た。

 

………実に羨ましい。妬ましい。

 

「はいはい、割と本気の冗談はいいから。今は一夏の写真を撮るのが大切よ………パシャリと」

「……ふむ、その通りだな。妬むより先に私達にできることをやろう………ええい携帯の画像が粗いな。こんなことになるのなら姉さんに改造してもらえばよかった………まあ撮るが」

「後で送ってね」

「無論だ総帥」

「総帥になった覚えは無いわ。……あたしはIIIの本部長よ」

「それは失礼した、本部長殿」

 

鈴と私はちらりと視線を合わせてから、同時にフッと笑う。

 

「あ、一夏がおねむよ? 行ってきたら?」

「そうしたいのはやまやまだが、今行ったら確実に千冬さんがラウラにやったあれを仕掛けてくるだろう。ラウラと違って私はか弱いからな。あんなものはできれば食らいたくない」

「……自分が膝の上に乗っけてるものをよく見てから言ってみなさい」

「膝の上……?」

 

鈴に言われて自分の膝の上を見てみると……おや一夏。いつの間に私の膝に頭を乗せたのだ?

 

「…………」

 

それと千冬さん。そんな雰囲気が悪いと一夏が怖がるぞ?

 

そういったことを視線に乗せて送ってみると、凄まじい殺気が私‘だけ’を貫いた。気配を読んでみると、見事に殺気が一夏を避けている。

 

「……命知らずね……」

「たまに言われるよ」

 

……さてと。姉さんへの頼みが増えてしまったな。報酬は一夏の風呂上がり(髪の毛しっとり、肌上気、タオルでわずかに湿っている頭を私に拭かれている)の写真で構わないだろうか?

ちなみにその写真は鈴がアナログオンリーで撮った写真だから流石の姉さんも持っていない………らしい。嘘臭いが。

………当然だが服は着ていたぞ? 流石の私や鈴も一夏の裸を無断で撮ろうとはしない。

 

……………何があってそうなったのかは知らないが、鈴と、鈴の友人の一人は許可をもらっているらしいが。

 

「………………」

「ちょ、箒、あたしを巻き込まないでよ。千冬さんからの視線がいきなり強くなったじゃない」

「それはすまないな、本部長殿」

「次は無いわ。私が出会う前の一夏の写真をくれたら考えないでもないけど」

 

……あったか? 出会いが確か小学校だから……………ああ、あるな。

 

「ちょうだい?」

「構わんぞ。私と千冬さんと姉さんも写っていてもよければ」

「……大事なの?」

「まあ、相当な」

 

出会ったばかりの一夏と私は、お世辞にも仲が良いとは言えなかった。姉同士が友人だったから、たまたま千冬さんが私の実家の道場に通っていたから……程度の仲だったな。

 

……それが変わったのは…………いつのことだったか……。

 

「……箒。回想に入ろうとしてるところ悪いんだけど、千冬さんの視線と殺気がそれだけで殺人レベルにまで強くなってきてるから辞めて。いくらあたしでもそろそろ胃が痛いわ」

「……回想という逃避から戻って見れば……ここまでの濃密な殺気は一夏が本気でキレた時以来だな」

「…………え? あんたもアレ見たの?」

「……なんだ鈴もか」

 

あの時の一夏を思い出してみて………一気に体温が下がった気がする。だから私達は何も言わずに食事を終わらせ、すぐに席を立つ。

私のかわりにシャルロットに膝枕をさせて、すぐさま退散する。

 

…………シャルロットの胃の冥福を祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、まだ睡眠中

 

…………すか~……。

 

 

 

side 凰 鈴音

 

あたし達はいま、鬼の寝床に来ている。

 

「誰が鬼だ、誰が」

 

千冬さんです。…………と言いたいのを我慢して何も言わずにスルー。何か言ったら……プチッ、されちゃいそうで怖い。もしくはラウラみたいに

 

【ガッ!ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂ…………ヴォンヴォンドゴッ!ガズッ!ゴッ!ヴォンガゴォンッ!ズダンッ!!ゴリゴリゴリゴリゴリ………………(かなりショッキングな映像であるため、効果音だけでお送りしました)】

 

……っていうのにはなりたくないしね。あの後しばらくラウラの目のハイライト消えてたし。瞳孔が開きっぱなしになってたし。怖かったわね。

 

ちなみに、一夏は今は寝ている。お腹も膨らませたし、しばらく起きないだろう。

 

「……それで、あたし達を呼んだ理由はなんですか? 一夏の写真を全部渡せって言うのだったらIS使ってでも抵抗しますよ」

「安心しろ、それは違う………が、後で商談があるんだが」

「後でですね、わかりました」

 

どうやらいつもの千冬さんに戻ったらしく、あたしや箒やシャルロットに殺気を叩きつけるようなことはしないでいてくれている。

 

「なに、ちょっとした興味でな。……お前達、一夏のどこを好きになったんだ?」

 

千冬さんは片手で一夏を撫で、もう片方の手でビール(作業用オイル、と悪戯書きがされている)を飲みながら聞いてきた。はいはいそういう話ですか。千冬さんも女なんですね。

 

「あたしは優しいところです。あと、辛いときにそばにいてくれるタイミングの良さ?」

「同じく、辛いときにそばに居て色々な方法で励ましてくれる優しさですね。可愛いからというのも無いとは言いませんけど」

 

こうしてすぐさま答えを返すのはあたしと箒。箒はどうだか知らないけど、あたしは前に『一夏のどこが好きなのか』を考えたことがあったからすぐに答えられた。

 

「そうですわね………優しく厳しく激しくわたくしを教育《ちょうきょう》して下さったから……と言うのが始まりで、今は…………純粋に好きだから……ですわね。どこが好きなのかはわかりませんが」

 

まあ、あるわよね。どこが好きなのかわからないけど、なんでか好きって言うのは。

 

「僕は――やっぱり、優しいところ、です……」

 

初々しいわね。可愛い可愛い。一夏ほどじゃないけど。

 

「な……なんで撫でるの?」

「可愛らしいから?」

 

にこにこと笑いながら言ってみる。

 

「ラウラは………ラウラ?」

「……すぅ…………」

 

気が付いたらラウラは一夏のすぐそばで眠っていた。

……ラウラ。起きないと危ないわよ。千冬さんのアイアンクローが少しずつ迫っていってるわよ。言ったら矛先がこっちに来るから言わないけど。

 

「……起きろ、ボーデヴィッヒ」

「むぐっ!?」

 

おお、口封じ《マウスキラー》。口だけじゃなくて鼻も塞いでるように見えるけど……大丈夫かしら?

それに、ギヂギヂとまではいかないけどミシミシって音はしてるし。骨が軋んでるんじゃ?

 

「……!………!!」

 

ぱたぱたと無音で暴れるラウラに千冬さんは冷たい視線を向け、静かに手を離した。こんな時でも止まらずに一夏の髪を撫でたり指先に絡めたりしている逆の手とのギャップが恐ろしい。

 

「……話は聞いていたか? ボーデヴィッヒ」

「はい、教官」

 

びしっ、とラウラが千冬さんに敬礼を返すけれど、さっきまでのことを見ていたからシュールでしかないわね。

 

「私は、一夏の心の強さに惹かれたのです」

 

確かに一夏の心は鋼鉄の粘りとダイヤモンドの硬度を併せ持ったような強さを持ってるわよね。

そのくせ霧や煙みたいに掴み所がなくって、どんな形にも見えるっていう不思議設計だし。

 

まあ、それでも普通に優しいっていうのはわかるんだけど。

 

「まあ、色々聞いたわけだが……一夏はお前達にはやらん」

「構いません。奪い取りますから」

「あたしは一夏の方から選ばせてみせようかしら? それなら千冬さんも邪魔できないでしょうし」

「わたくしはそばにいられるだけで幸せですわよ? できることなら少し構って欲しくはありますけど」

 

あたし達三人はニヤリと笑う。ラウラとシャルロットもあたし達の言葉を聞いてやる気になっている。

そして、そんなあたし達を見て、千冬さんはニヤリと………いや、むしろニタリと笑った。ゾクゾクときそうな笑顔だった。

 

「それでいい。女ならば惚れた男の一人くらい奪って見せろ」

 

……うわかっこいい。いつも一夏にデレデレしている千冬さんと同一人物とは思えないわね。周りがキャーキャー騒ぐ理由もわかる気がするわね。あたしは一夏がいるから特に騒がないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、まだまだ睡眠中

 

こしこしと目を擦って……夜であることを確認した。

……ん。じゃあ寝よう。よい子は寝る時間だよー、と。

 

…………すぴー……。

 

……はみ……はみ…………。

 

 

 

side 織斑 千冬

 

私の夜は、一夏に抱き締められて気絶することで幕を閉じる。たまに人生の幕も降りてしまいそうになることもあるが、そんなものは気合いと一夏への愛情でどうとでもなる。

私が死んでしまったら、誰が一夏をどこかの国や個人の魔の手(人体実験上等な不法な研究所など)から守るというのだ!

 

……束? あの奇人変人極まりない奴に託せと? 本気で言っているならば、私は貴様の皮膚を剥ぎ取り筋肉と神経を切り分けて筋肉を硝酸で溶かし、神経と血管と骨だけになった体を鑢で少しずつ削って粉にして魚の餌にしてくれる。

 

まあ、慣れのお陰でしばらくは一夏を抱き締めたり撫でたり頬擦りしたり頬や額にキスしたり嘗めたりできる。堪能しよう。

 

「……かぷ」

「ッ……!? ッ………!?」

 

「はむ……」

「っぐぅ……!?」

 

「……はみ……はみ………」

「…………」(へんじがない、ただの萌え死死体のようだ)

 

……ぎゅっ……。←とどめ

 

 

side 織斑 一夏

 

起きたらちー姉さんが幸せそうな顔で俺を抱き締めていた。何でここまで幸せそうなんだろう……? と思いつつ、俺はちー姉さんを抱き締め直してまた目を閉じる。

 

……そう言えば、昨日の記憶が無いなぁ…………。また寝てたか?

睡眠こそが俺の生き甲斐だから、別にいいけど。

 

………ちー姉さんって、なんかいい匂いがするよな……。

 

 

 

side 織斑 千冬

 

前にも言った通り、私の朝は一夏の寝顔を眺めることから始まる。今回は写真ではなく、一夏本人が私の腕の中に居るため、愛情チャージがいつもより早い。

狼耳を着けたぷちかも私の背中に身を擦り寄せていて………ああ、うむ、役得だ。

 

ただ、そろそろ一夏に離してもらわないと愛情が暴走して何をしてしまうかわからん。姉弟でそういったことは不味いと頭では理解しているのだが、頭の片隅で悪魔が私に囁くのだ。

 

『食べちゃえ食べちゃえ』

『法律なんて周りが勝手に決めただけのものだし、IS学園では親近婚は禁止されていない』

『それに、もうキスはしてしまったんだからおんなじだよ。誤差誤差』

 

……い、いや、しかしだな………

 

『やっちゃいなって。弟さんも喜ぶと思うよ? 痛いのは君だけだし』

『我慢は体によくないよ? ほら、もう限界なんじゃあないのかい?』

『きっと弟さんの体は美味しいよ? 柔らかくて、すべすべしていて……』

 

……う…………。

 

『……もしかしたら、君のトモダチに食べられちゃうかもよ? ぱくっ♪ ……てさ』

『くすくすくすくすくすくす……ほらほら、食べちゃいなよ、織斑千冬。きっとすっごく美味しいよ?』

 

「……ちー姉さん?」

 

はっ!? と気が付くと、一夏が私のことを見つめていた。

 

「……大丈夫? 目が血走ってるけど……」

「……あ……ああ、大丈夫だ、問題ない」

 

一夏がここで話しかけてこなかったら……まずかったかもしれないがな。

 

「そっか………まあ、ちー姉さんが平気って言うならそれでいいよ」

 

そして一夏はまた私に擦り寄り、肩のあたりに顔を埋めて寝息をたて始めた。

 

「………………」

 

私は無言で一夏の頭を撫でる。まったく、可愛い奴だよこいつは。

 

……それにしても、一夏が寝ているところを見ると眠くなるな。起きたばかりだと……言う………の……に………………。

 

 

 

目を開くと一夏がいた。ぷちか達がいた。たくさんいた。

右を見る。ぷちかが折り重なって眠っている。

左を見る。一夏が私の腕と小さな私を抱えて眠っている。

布団がない。ここはどこだ?

 

「ふはははははぁ~!ここはいっくんとちーちゃんの夢の中っ!束さんの超科学によりちーちゃんといっくんの夢の世界をくっつけてお邪魔したのだ~っ!」

「出ていけ」

「あぅ、ちーちゃん酷い!束さんはすっごく頑張ったのに!慰謝料を請求します!具体的にはいっくんをハグハグさせあばばばばばばばい~た~い~よーーっ!?」

「当然だ。痛くしているんだからな」

 

ふざけたことを言い始めた束の頭を締め上げる。骨が軋みを上げるが、知ったことではない。

 

「ちょっと前より格段に強いよーっ!?」

「一夏の貞操を護るためならば、私は鬼にだってなるさ」

「ぴぎぃぃぃっ!?」

 

数分間締め上げてから振り回して真上に投擲。落ちてきたところで掴んで頭から地面に埋めてやった。犬上家だな。

スカートの中身が見えないように、その辺にあった紐で脚にくくりつけ、放置する。一夏の教育に悪いからな。

 

「……っぷはぁ!痛かったよちーちゃん。いっくんをハグハグするくらいいいじゃないか。初めてって訳じゃないんだから」

「………初めてじゃない、だと……?」

 

私がそう聞き返すと、束は私から目をそらして大量の冷や汗をかきはじめた。

 

「……え、えー? 束さんそんなこと言ったかナー?」

「一夏。束に抱かれたことはあるか?」

 

束に聞いてもらちが明かないので、今度は一夏に聞く。

 

「………むぅ……キスまでしかされてない……………」

 

そう言って一夏は小さな私を抱き締めて意識を落とした。

 

……‘抱く’とはそういう意味では無かったのだが…………そうか、キスまでか。

 

「ち……ちちち……ちー……ちゃん……?」

 

…………ああ、ここまで怒るのは久し振りかもしれないな。確か、一夏を拐おうとした黒服の言葉を盗み聞きした時以来だ……ッ!

 

……頭が冴える。すかーっと青空のように澄み渡っていて、それでいて氷河のように冷静だ。

その上体は火照っていて、まるで私が焦熱地獄か煉獄の炎にでもなったような…………そんな気分だ。

 

「さあ、束…………貴様の罪を数えろ!」

 

「に゛ゃぁあぁぁああぁぁぁっ!!!」

 

私の夢のなかで、束の悲痛な叫びが響いた。

 

 

 

side 織斑 一夏

 

………起きてみると、ちー姉さんはなんだか変な顔をしていた。具体的には怒りと憤怒と激情が入り雑じったような…………同じか。

 

……どんな夢を見てるんだろうね?

 

 

 

 

 

※千冬の夢の中身はただの夢です。束ならあり得る話ですが、今回はただの夢です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、漸く起きた

 

ちー姉さんを起こして一緒にご飯を食べる。ちー姉さんにあーんで食べさせたり、ぷちー姉さんにあーんで食べさせたり、ちー姉さんにあーんで食べさせてもらったり、ぷちー姉さんが小さい雪片を振り回そうとしていたのでぷちかに頼んで止めてもらおうとしたらなぜかころころ転がっていったり、ちー姉さんの膝の上で撫でられたり、白猫耳がくっついていたので猫のポーズをとりながら「にゃん♪」と鳴き真似をしてみたら周囲が赤に染まったりとか……………まあ、色々あった。

 

ちなみに、ののちゃんと鈴も鼻を抑えている手の隙間から血を溢れさせていた。

 

「……血じゃ……ないわ………」

「これは……血ではなく………」

「……っく………一夏様への……」

 

「『愛情』よ!」

「『愛情』だ!」

「『愛情』ですわ!」

 

……仲が良いね。良いことだと思うよ。いろんな意味で。

ついでに言うと、シャルはちょっと致命的とも言えそうなだらしない笑顔で気絶していて、ラウラは鼻血は出していないものの頭がオーバーヒートしたらしく気絶中。

起きている鈴とののちゃんとセシリーも、出血多量で動けないらしい。

 

……何が言いたいかと言うと、

 

「可愛すぎるよいっくーーーんっ!!」

 

こうして俺を拉致ろうとしている束姉さん(一人不思議の森のアリス)を止めることはできないと

 

「たぁあぁぁばぁああぁぁぁねぇえぇぇえぇぇっ!!」

 

復活したちー姉さんのアイアンクロー!束姉さんはえげつないダメージを受けた!

なんと、一夏を落としてしまった!

 

「大丈夫? 一夏」

 

しかし、鈴に拾われた。鈴は一夏を拾った!

 

「…………ん。大丈夫だ………お休み」

「これから装備の稼働テストがあるんだから、すぐに起きてもらうわよ」

 

…………どうせシロには使えないと思うけどな。

 

そう言えば、かんちゃんは機体だけはもうできてるからこの臨海学校にも来てるし、装備もいくつか送られてきていたはず。それ使うのかな?

 

確か完成したって聞いた後、色んな人に話を聞いてちょこちょこ強化していったみたいだし、マルチ・ロックオン・システムはまだ七割程度だけど荷電粒子砲の方は完成したって言う話だ。直接聞いたんだけど。

 

……もしかして、俺の分までかんちゃんがやることになるのかね? それならそれで問題無いような気がするけど。

 

 

 

「それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。迅速に行え」

 

うん、かっこいいよちー姉さん。でもさ、その右手に掴まれてヤバい感じに痙攣してる束姉さんにはちょっと引く。

 

「あ……あの……織斑先生? そちらの方は………?」

 

真耶先生がちー姉さんに恐る恐る聞きにいくと、ちー姉さんは不思議そうに自分の右手を持ち上げて……

 

「……ああ、忘れていたな」

 

いやいや、人を一人掴んでおいて忘れるってなにさ。掴んでるのが当然みたいな状態か?

 

「これは束だ。篠ノ之はこっちに来い」

「は……はい………」

 

当たり前のように言うけれど、束姉さんはあれでもISを作った大天才(天災?)科学者なんだけど…………いいのかあれ。

……まあ、いいか。どうせすぐ復活すると思うし。束姉さんもたいがいシスコンだからな。ののちゃんとの話のときには元通りになっているだろ。

 

 

 

束姉さんはやっぱりすぐに復活した。今はののちゃんと話をしている。

 

「やあ!久しぶりだね箒ちゃん!」

「ええ。お久し振りです姉さん。お元気なようで何よりです」

「もちろん元気さっ!箒ちゃんも元気みたいでよかったよ!それにしても大きくなったよね。特におっぱいが」

「姉さんのほうが大きいではありませんか」

「最近またおっきくなっちゃってね~」

「そうですか。やはり大きすぎるのも困り物ですね」

 

ののちゃんと束姉さんは仲良く話を続けているけど、周りの目が怖いよ。特に一部の人の目が。

ちなみにかんちゃんはそこまで怖くはないけどなにも映していないような目でののちゃんと束姉さんの胸を凝視している。

 

「あははは……この合宿では関係者以外はこの島には入っちゃいけないはずなんですけど………」

「んん? 珍妙奇天烈なことを言うね? ISの関係者と言うなら、一番はこの私をおいて他にはいないよ」

「関係者というのが『ISの関係者』ならばその通りですが、『学園の関係者』としては少しばかり足りないような……」

 

おお、言い返した。

 

「……ですので、篠ノ之さんと織斑君と……できればそれ以外の人のISも少し見ていただければ『臨時の技術者』として処理できるのですが……」

「やだよ」

「………ですよね。織斑先生に聞いてましたが、やっぱりそうですよね」

 

まあ、諦めたほうがいいと思うよ? 束姉さんは俺と同じくらい我儘だから。

 

「まあ、安心していいよ。私は箒ちゃんに頼まれた物を持ってきただけだしね。ついでにフィッティングもしていくけど、別にいいよね」

 

質問の形をとってはいるけど、どう聞いても引く気はないな。

それがわかったらしい真耶先生は、小さくため息をついてしまった。

 

「……もう好きにしてください」

「いい判断です山田先生。こいつは何を言っても無駄ですから、山田先生は各班のサポートをお願いします」

「……はぁ………はい、わかりました」

「むぅ、ちーちゃんが優しい……さてはこのおっぱいでたぶらかしたなおっぱい魔神め~!」

 

そう言って束姉さんが真耶先生に飛びかかって行って………視界がなにかに塞がれた。多分鈴の手。耳も塞がれている。多分こっちはののちゃんだろ。

 

……まあ、何が起こってるのかは大体わかってるけどさ。気配と原作知識で。

 

十秒くらいしてから解放される。そこには顔を真っ赤にしながら胸を両手で庇っている真耶先生と、頭から砂浜に突っ込んでいる束姉さん。そして束姉さんが立っていただろう場所の一歩後ろに立つちー姉さんがいた。

……何があったのかわかりやすいな。本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校、紅椿参上!

 

「……姉さん。大丈夫ですか?」

「うう……ちーちゃんが酷いんだよ箒ちゃん………傷心の束さんを慰めて?」

「はいはい」

 

そう言いながらののちゃんは束姉さんの頭を撫でる。どっちが姉がわかったものじゃない。

 

「……復活!」

「ならもう一度いっておくか」

「ひーん助けて箒ちゃーん!」

「織斑先生。話が進みませんのでそろそろ……」

 

……本当に、どっちが姉か…………。

まあ、束姉さんは楽しければ良いって感じなんだろうし、ののちゃんを守るのはちゃんとやってるから姉としての仕事はやってると言ってもいいんだけど。

……不器用だけど。

 

「うう……ありがとう箒ちゃん………」

「構いませんよ。姉妹じゃないですか」

「そんな優しい箒ちゃんにお姉さんからプレゼントぉーっ!があるよ。さあさ大空をご覧あれっ!」

 

腰に左手を当て、右手を空に向かって突き上げる束姉さん。それを見ていたほぼ全員は、つられて空を仰ぐ。

 

ズムッ!

 

鈍い音が響き、銀色の塊がそこに現れていた。

落ちてきたようには見えなかったし、見えないほどの高速で落ちてきたにしては衝撃波やらなにやらが少なすぎる。しかしそれでも放射状の落下跡があるので落ちてきたはずなんだが……………まあ、慣性停止か何かをやったんだろう。束姉さんだし。

 

「じゃじゃーん!これぞ私が箒ちゃんのために作った専用機こと『紅椿』!箒ちゃん以外が乗ろうとするととりあえず周りに居る奴皆殺しにするまで止まらないようにプログラムしてあるから注意してね!」

「……何をやっているんですか姉さん。危険すぎるでしょう」

「しょうがないよ。全スペックが現存するほとんどのISを凌駕するISだからね。奪われたときのこともしっかり考えておかないと。まあ、皆殺しにするって言ってもちーちゃんといっくんと箒ちゃん、そして私自身は平気なんだけど」

 

……あれ? 現行IS全てを上回るんじゃ?

 

「ちなみに、速度関係と一部の機動系は白式……いや、シロが上だよ? シロはそれに特化して作ってあるからね」

 

………なるほど、そのせいか。確かに原作ではコアは一つだったはずだし。

もしかして、紅葉の方もコアをいくつか積んでいたりするのか?

 

「積んでるよ?」

 

積んでるそうだ。恐ろしいな。

 

「さあさあ箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをするからね。おいでおいで~♪」

「……全く、姉さんは………」

 

ののちゃんはそんなことを言っているが、ちょっと嬉しそうだ。

原作と違って大抵の場合笑っているようになったののちゃんの『ちょっと嬉しそう』は、『すっごく嬉しそう』と訳して構わない。

 

「……それでは、お願いします」

「堅いよ~。実の姉妹なんだからもっとキャッチーな呼び方でいいのに」

「…………………………………………例えば、どんな?」

 

あ、これ本気でわからなかったんだな。嫌みとかそういうのじゃなくて。

 

「……うーん……」

「……むぅ…………」

「…………うーん…………」

「…………むぅ………………」

「似た者姉妹だと言うのはよくわかったから、さっさとフィッティングとパーソナライズを終わらせろ。悩むのはそれからだ」

「わかったよちーちゃん。それじゃあ箒ちゃん、あとで一緒に考えようね~」

 

ぽちっ、とよくあるボタンを押す音が鳴り、紅鮭(きっと違う。と言うか違ってほしい)がしゃがんでから操縦者を受け入れる形態に移る。しゃがむ機能とか地味に便利だな。

 

「そうですね。あとで一緒に」

 

ののちゃんは束姉さんににっこりと笑顔を向けて言った。原作よりもずっと仲が良い。よかったよかった。兄弟姉妹で仲が悪いのは嫌だよ俺は。

みんな仲良くが一番だ。その方が厄介事も減って睡眠時間が増えるし。いいことずくめだ。

 

「え~っと、箒ちゃんの戦い方は基本は剣だよね?」

「はい、そうですが」

「よかったよかった。近接戦闘主体の万能型に調整してあるからすぐ馴染むと思うよ。なんと自動支援装備付き!すごいでしょ?」

「姉さんの頭がどうなっているのか本気で気になるくらい凄いと思いますよ。流石姉さん」

「えっへん!」

 

それは誉めて……るんだろうね。ののちゃんの誉め方はよくわからない。

まあ、束姉さんは嬉しそうにしてるし、別に良いけど。

 

「はい、フィッティング完了~♪ パーソナライズが終わるまでは大人しくしててね?」

「はい。…………それにしても、凄い機体ですね。スペックから色から装備から何から何まで」

「そりゃあもうね。束さんが箒ちゃんのために直々に作ってる訳だし、特別であって当たり前だよ」

 

まあ、束姉さんもシスコンをこじらせてるしね。特別製で当然でしょ。

 

あとセシリー。こう言う時には話しかけない方が良いぞ。束姉さんはちー姉さんとののちゃんと俺以外には―――原作にはもう一人、娘としているくーちゃんとやらが居たけど、俺は知らないから省くとして―――基本毒舌だから。また心を折られても知らないぞ。

 

そこで、群衆の中から小さな声が聞こえた。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけで」

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

……そうか?

 

「身内って結構大切なことだと思うけどな。俺もちー姉さんの身内じゃなかったらIS学園に来る前に拐われて解剖なり実験なりに使われてたと思うし」

 

なんかいきなり空気が重くなった。なんでだろうな?

 

「そもそもなんで家族のことに口を出すのかわからないんだが。こんなの誕生日の贈り物と変わらないだろうに。ちなみにISのやり取りは法律で禁じられているけど、それは『前に束姉さんから渡された467機について』の話だと明言されてるから、束姉さんが新しく作ったISは束姉さんの好きにしちゃって良いんだよね。悔しかったら束姉さんに気に入られるように動けば? もう無理だけど」

「い……一夏? なんで挑発してるの? と言うか誕生日のプレゼントにしては規模が大きすぎると思うんだけど!?」

「挑発? してないよそんなの。なんであんな現実を見てない知識も足りない脳が足りない奴にどうして俺が時間を使ってやらなくっちゃいけないんだ? そんなことをやってる暇があるなら寝るよ」

「同感だね。あれは歴史の勉強をしたことがないか、あるいは夢見がち過ぎる脳味噌のお陰で宗教の教主とか為政者の建前だけの戯言を心の底から信じ込んじゃっている可哀想な馬鹿なんだから。あんなのに挑発の言葉を向けるくらいならいっくんを膝枕していた方がずっと有益だよ」

「それってただの欲望ですよね!?」

「シャルロット。諦めろ。姉さんも一夏もこうなったら暫く止まらん」

「あ、そうだいっくんシロ見せて。束さんはシロがどんな風に進化してきたのかに興味津々なんだよ」

「良いですよ」

「止まったぁ!?」

 

止まるさ。面倒だし。

 

………おいで、シロ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一部を除き)最高性能、紅椿

 

束姉さんがシロを調べている間にののちゃんの紅梅のパーソナライズが終わったらしい。ハイパーセンサーに出てきたらしいそれを視線でクリックしてから、ののちゃんはゆっくりと空に浮かび上がり始めた。

 

「で、いっくんのシロに新しい機能をつけてあげよっか? コスプレ機能で千種くらいの服が展開できるように」

「辞めてください」

「そう言うと思ってたよ。だからこれあげる。コスプレ用のISね」

 

そう言って束姉さんが渡してきたのは灰色っぽいISコア。二次移行はしていないらしく、まだ丸い。

…………束姉さんは何を考えてこんなのを作ったんだろうか? あと、名前は?

 

「名前はそのまま【コスプレイヤー】だよ。【クロゼット】でも良いけどね」

「じゃあクロで」

「クロゼットからクロね。いいんじゃない? なまじシロっていうISを持っているせいで色だと勘違いしちゃうよね」

 

……まあ、そのあたりはしょうがない。呼ぼうとするとまた変な呼び名になると思うし。クラレットとか。

 

ちなみにクラレットと言うのは赤ワインのことらしい。あんまり一般には知られていないけど。

だから、ホテルに行って「クラレット一つ」ってからかうのはやめてあげよう。新米だったらまず引っ掛かるから。

 

「それじゃあパーソナライズも終わったみたいだし、空飛びついでに刀を使ってみようか?」

「刀……ああ、これですか」

「そうそう、それそれ。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器のデータ送るよー」

 

束姉さんはちゃちゃっと空中に指を走らせて武器データをののちゃんに送る。それを確認したらしいののちゃんは、同時に二本の刀を抜いた。

そう言えば、ののちゃんは二刀流の方が強かったね。一本の方がちょっとだけ上手いんだけど。

 

「束姉さんの解説付きだよ~♪ 雨月と空裂、どっちからがいい?」

「……では、雨月から」

「おぅけぃ!雨月は対一使用の武装で、打突にあわせて刃部分からエネルギー刃を出せるんだよ。なんと連射機能つき!射程はアサルトライフルくらいでたいして広くないけど、紅椿の機動性なら大丈夫!やってみて?」

 

束姉さんのお願い(?)を聞いたからかどうかはわからないが、ののちゃんは右手に持った雨月を雲に向けて突き出した。

するとののちゃんの右手の周りに赤色の光球が現れ、次々に飛び出してその雲を見事に穴だらけにした。

 

「次は空裂ねー。こっちは対集団用で、斬撃に合わせて帯状の攻勢エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動展開してくれるから超便利、というわけでこれ落としてみてね」

 

束姉さんが出したのは、十六連装のミサイルポッドが二つ。それが現れたと思った瞬間に、一斉射撃を行った。

 

「ののちゃんがんばー」

「百人力だ!」

 

ののちゃんがそう言ったのと腕を振るったの。いったいどっちが早かったのやら。

とにかく紅楸の出した攻勢エネルギーの帯がミサイルをまとめて撃ち落とす。出力すごいな……。

 

「まあ、これで武装の説明は終わりだよっ。あとは慣れていくにつれてちょこちょこ追加されていくはずだけど」

 

……後々になって凄まじい超兵器が出てくるような気がしたのは間違いだろうか?

 

「……奇遇ね一夏。あたしもなーんか嫌な予感がするわ」

『うむ。妙な気配が近付いてきている気がするしな。遠すぎてあまりはっきりとはしないが』

 

…………うん、たぶんそれ束姉さんのやったアレだと思う。なんだっけ………シルベスタ・スタローン? 違う気がするけど。

例えるならば、ラルちゃんのISの名前がツヴァノレシェフ・レーズンだっていうのと同じくらいおかしい気がする。

 

「それはおかしいわね。いろんな意味で」

「おかしいよな。色々と」

 

うん、おかしいな。

 

「ああ、姉さんに質問が」

「ん? なにかな~? 箒ちゃんの質問だったらなんでも答えちゃうよ~?」

「……もう一つ武装があるのですが………」

「…………え?」

 

ひゅん!と風を切って降りてきたののちゃんが、束姉さんに自分の見ている画面を見せる。

 

「……もう出ちゃったのか。っていうか、流石の束姉さんもアレだけで穿千を構築するなんて予想してなかったよ………」

「……やっぱり、おかしいですか?」

「ほんとなら十月くらいに構築されると見てたんだけど…………まあ、速いならそれに越したことはないから良いけどね」

 

なるほどね。本当なら………確か……七巻で構築されるアレか。出力可変型のプラスターライフル。威力と射程距離は折紙付きの。

 

「うーん……ついでに試し撃ちしてみる? 大出力すぎてPICを姿勢制御に結構回さなくっちゃまともにあたらないけど」

「いえ。エネルギーがそろそろ切れそうなので」

 

ののちゃんはしっかりそっちにも目をやっていたらしい。流石武人だ、視野が広い。

でも、確か紅榎にはワンオフがあって、エネルギー切れとは無縁のはずだけど。

 

…………ああ、そうか。まだ使いこなせていないんだな。貰ったばっかりだし、当然と言えば当然か。

 

「……紅椿だよ。もう、色々凄いことが起きすぎて頭が痛くなってきたよ………」

 

そんなことを言うシャルに、その場で座った俺は自分の足を指差して聞く。

 

「寝る? 俺の膝枕とか貴重だよ」

「フゥハハハハァー!いっくんの膝枕は頂いたいいたい痛い痛い痛い頭がぎしぎしぎしぎちぎちぎちぎぢぎぢぎぢ言っちゃってるよちーちゃあぁぁあぁぁん!?」

 

……お大事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緊急事態、わー大変

 

ちー姉さん、事件です。いや、本気で。

原作通りと言っちゃえばそれで終わりなんだけど、なんか明らかに空気が痛い。あと眠い。

 

「一夏。今は流石に寝ちゃ駄目よ」

「ん~………わかった」

 

眠いんだが……。まあ、仕方無いか。ゾナハ虫による監視網で見ている限り、どうも面倒なことになっちゃったみたいだしね。

ハワイ沖で試験稼働中だった軍用ISが暴走したようだ。名前は……シルフィード・エヴァンジェル………だっけ? 違う気がするけど。

 

とにかくそれが暴走して、何故かここのすぐ近くを通過するルートを取るようだ。一時間はかからないくらいで。

地球上のどこにでもいる監視用ゾナハ虫でわかっていたけど、本当に面倒。

ののちゃんがISを手に入れて、そのスペックを見せつけた当日にこんなのが来るなんて………おかしいとは思わないか? 俺は思った。これ絶対束姉さんが絡んでる。原作でもそうだったはずだし。

 

ちなみにいまはもう説明が終わり、作戦会議の真っ最中だ。

 

そのIS……シルバリオ・ゴスペル(空間投影型ディスプレイに載ってた)の仕様は、広域殲滅用の特殊射撃型。銃ではなくそれ専用の射撃用の武装があるらしい。弾丸は実弾ではなくエネルギー弾で、触れると小規模ながら爆発を起こす。

エネルギー総量は軍用ISだけあってかなり多く、かなり長い時間飛び続けることができそうだ。

その上攻撃と機動力に特化した機体で、ちょっとシロに似てる。武器が剣か射撃武器かの差はあるが、たった一つしか武装がないところもそっくりだ。

 

……きっついな………セシリーが超遠距離から狙撃して曲げ撃ちで一方的にぼこせればなぁ……。

ISを使わなくてよくて、さらに後々のことを考えないでいいんだったら、千の顔を持つ英雄で束姉さんが作ったあの無人ISを数億単位で作って蹂躙させるなり宇宙戦艦降らせるなりしてやれば楽にいけるけど……………後の事を考えると………無理なんだよなぁ……。

 

ミサイル弾幕も多方向同時射撃とエネルギー弾の爆散が相手なら相当多くつぎ込まないといけないだろうし、原作そのものよりたぶん少し強くなっているだろうから厄介だ。

束姉さんが何を考えているのかはわからないが、俺とののちゃんだけを強くして用意した敵役を強くしない……何てことがあるわけないし。

 

…………嫌な予感がするな。これは三枚目の切り札も切らされるのか?

……使いたくないな……あれ使ったら絶対ちー姉さんに怒られる。

 

もうミサイルを秒間一万くらい撃ち込み続けるとか、大出力レーザー兵器で一撃必殺とかそっちの方が楽だと思う。

駄目だしされたらもうアリス・イン・ワンダーランドで方向感覚とハイパーセンサーいかれさせてシルバースキン・リバースで動きを止めてから叩き斬るしか

 

「一夏っ!」

「わうっ!?」

いきなり尻尾を掴まれて変な声が出てしまった。びっくりしたぁ………。

 

「なに? 尻尾は敏感なんだから優しくしてくれよ」

「あ、ごめん。……で、話は聞いてた?」

 

全く聞いてない。どうやって潰すかばっかり考えてたから。

 

それを敏感に感じ取ったのか、鈴は溜め息をついた。溜め息をつくのはいいから尻尾をわしゃわしゃしないでほしい。腰の内側からぞくぞくしてくるから。そしてなんか妙な気分になってくるから。

 

「ふぁっ!ぁ、ゃ……んんっ!?」

「…………箒。ちょっと私のこと殴ってくれない? 手が……止まらない…………っ!?」

「ぁ、ぅあ、や、鈴、だめだって、あ、ふぁあっ!」

 

………いやいやいやかなり本気でこれはまずいって声抑えられないし体は動いてくれないしやばいやばい本当に待っ

 

ゴガスッ!

 

鈍い音が響いて鈴の手が尻尾から離れた。本気でやばかった。真面目に意識とか色々なものが飛ぶところだったぞ。

そうやって抗議したいところだが、全身がくったりとして動きたくない。動けるだろうけど動きたくない。

 

「―――凰。貴様、私の一夏に手を出すとはいい度胸だな」

「ぉおぅあぁぁ……あ、頭が……頭が割れ……っ!」

 

ちー姉さんの情報端末クラッシュ!鈴は頭を抱えて悶絶している。痛そうだな。なにもしてやらないけど。

 

「一夏、大丈夫?」

「……ぉー」

「………大丈夫じゃなさそうだね。一夏が福音を落とすことになったんだけど………いける?」

「……十分休ませてくれればなんとか………」

「うん、わかったよ」

 

どうやらここは原作通りに俺とののちゃんが行くことになったらしい。すっごい体力使った………前まではこんなこと無かったんだけど、なんで急にここまで敏感になったんだ?

…………束姉さんがなにか弄ったのか? 俺がシルファリオン・ドスペラードに苦戦するように。

 

「一夏。シルファリオン・ドスペラードではなくシルバリオ・ゴスペルだ。お前の特性はよくわかっているから言うが、無理をして呼ぶ必要は無いぞ」

「じゃあシルバリオファミリーで」

「シルバニアファミリーか。そこまで呼べるならシルビーでもシーでもギンでも良いだろうが」

「じゃあギンにする。」

 

……ああ、よかったよかった、普通に喋れるくらいまでは回復した。回復できなかったらどうしようかと思ったよ。

 

ぽてりと転がり、シャルの膝に頭を乗せる。ちょうどいい高さだと思いながら、鈴がちー姉さんにお仕置きを受けているのを見る。

 

「……………」

 

ギシギシギシギチギチギヂギヂギヂギヂ…………(アイアンクローで締め上げている音)。

 

ヴォンヴォンドガンッ!ガッ!ガッ!ドムッ!ヴォンドムッ!ダズンッ!!(そのまま振り回して机、壁、壁、床、振り回してからの床の順番で叩きつけてから踏みつけた音)

 

ドゴスバゴンッ!ダムボゴッ!(蹴り上げて天井に叩きつけられて落ちて床にぶつかった所に鳩尾のあたりにちー姉さんの爪先が入った音)

 

「お。織斑先生!いくらなんでもやりすぎです!凰さん死んじゃいますよ!?」

「安心しろ山田先生。凰はこの程度ならあっという間に復活する」

「そんなわけが」

「ぷはぁっ!あー、自業自得とはいえ死ぬかと思ったわ」

「なんで無事なの!? あんなにボコボコボロボロズタボロで、あのときのラウラより酷かったのに!?」

「気合いよ。あと一夏への愛と謝りたいという強い思いの力」

「どんなさ!?」

 

……今って一応緊急事態のはずなんだけどね。緊急事態(笑)になっちゃった。

まあ、こうして笑い合っている方が俺達らしいと言えば俺達らしいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出発、紅と白

 

回復した俺はののちゃんに運ばれて作戦区域に入る。もうすぐ白マリオ(違うはず。方向転換の度に気の抜けるような音が聞こえるようなISは嫌だ)と接触するはずだから、それなりに気を張っている。

ただ、運ぶ時は軽い方が良いだろうと言うことで小さく小さくなっている。現在の身長は92センチくらいのはず。

 

このサイズになったときにシャルが暴走しかけてラウラとセシリーに止められていたのが記憶に残っている。正直に言って、ちょっと怖かった。ついさっきの鈴よりはましだったけど。

その鈴は自分の右手を左手で掴んで

 

「鎮まれ……あたしの右手……っ!こんなところで暴走しちゃ駄目なのよ……!」

 

という中二感溢れることをやっていた。確かに実際に暴走されるとまずいことになるから助かるけど。

 

展開装甲から放出されている真紅のエネルギーを放出し、俺を乗せているとは思えないほどの速度で紅椿《べにつばき》は空を駆ける。

 

「……一夏。惜しいが違う。紅椿《べにつばき》ではなく紅椿《あかつばき》だ。アカでいい」

「アカちゃん?」

「ちゃん付けはよせ。私の力が抜ける」

 

それはまずいな。もしギンとぶつかれなかったら作戦遂行が難しくなる。

束姉さんがよっぽどの事をしていなければ勝てると思うんだが、束姉さんはそれをまるごとひっくり返せるような『よっぽどの事』を用意しているかもしれないし、油断はできない。

 

してなければしてないでその方が嬉しいけどな。最善は、今の俺がこうして考えていることが全部的外れの考えすぎで、束姉さんとはなんの関係もない暴走事故だった、って所かね。ついでに新兵器の暴発かなにかで自滅してくれるとさらに嬉しい。

……ないだろうけど。

 

「……想像以上にエネルギーの消費が早いな………これでは本当に一夏を運んだ後は大したことはできんぞ」

「この速度で運んでくれてるだけでもありがたいけどな」

「そうか。一夏がそう言うならばよしとしよう。…………まだ眠いか?」

 

ののちゃんはまだ小さい俺を見てそう言う。ある意味では俺はいつでもどこでもどんな時でも眠いんだけど。

 

「……大丈夫だ。接敵五秒前には起きてるよ」

「……ならばいいがな。…………あと十秒だ。集中しろ」

「あいよ。ののちゃんも接敵後は自己判断で頑張って」

 

俺はそれを最後に意識をギンだけに集中する。

できれば一撃で落として何事もなく帰りたいんだけど…………という思いを込めて、零落白夜を雪片を振る一瞬だけ発動して攻撃をする。

瞬時加速からの零落白夜はエネルギーの問題であまり使ったことがなかったが、数回使ってみた時以上にガリガリとエネルギー残量が削られる。これも高速戦闘仕様ならではのことだろうな。

 

しかし、ギンはなんと当たる直前にぐにゃりと体をよじらせて零落白夜の光刃を避けた。中の人間のことが心配になるような避け方をしたんだが、大丈夫なのか?

やってるんだから平気だろうと割り切って、俺は速度を落とさないまま反転してギンに攻撃を加える。速度だけならののちゃんのアカにも負けないシロは、僅かにギンの装甲を削り取った。

 

『……敵機確認。危険度Aと判断。攻撃レベルAで対処する』

 

ギンは異様に正確な機動で剣を避け、至近距離から弾幕を撃ち放ってきた。

……っておいなんだあの弾幕の密度は。気持ち悪いんだよ。

 

「お前のやったミサイル弾幕も似たようなものだ」

 

ののちゃんがそう言いながら現れ、ギンの弾幕を纏めて切り捨てた。エネルギーを相当食いそうだけど便利だな。

 

「ののちゃん」

「わかっているさ。援護する」

 

以心伝心だな。

 

ギンの翼のようなスラスターに数多く存在している砲口から、小さな羽根のようなエネルギー弾が発射される。弾幕ゲームは神経使うからあんまり好きじゃないが、苦手じゃない。

何が言いたいかというと、このくらいの弾幕なら普通に避けられると言うことだ。

それにしても、ギンのエネルギーはどれだけあるんだろうか? 二時間半以上高速飛行を続け、今はこうして高機動戦闘に加えて圧縮エネルギー弾幕をばら蒔いているというのに、一向に切れる気配がない。

 

「…………一夏。一分預かるぞ」

 

なにかを考え付いたのか、ののちゃんは高速で転回して彼方へと飛び去っていった。何がしたいのかはわからないが、ののちゃんに任されちゃったんだから仕方無い。一分くらいだったら普通に持たせられるだろうし、別にいいけど。

 

ののちゃんがいなくなった分密度を上げたギンの弾幕だが、この程度だったら速度と気合いにまかせて避けきれる。

時々掠りそうになるが、シールドエネルギーが削れるだけで大したダメージは無い。

 

『一夏。それの動きを止められるか?』

 

急にののちゃんからプライベート・チャネルの通信が入る。まあ、可能か不可能かで言えば可能なんだが………そこまで離れて何をするんだ? アカには遠距離系の武器は……………あったな。そう言えば。

 

『あいよ。でも止めるのはちょっと時間がかかるから、少し待っててくれ』

『わかっているさ。落とされるなよ』

 

通信が切れて、ののちゃんが飛んでいった方向からかなりのエネルギーが感知された。

同時にギンも気が付いたらしく、ののちゃんの方に向かって飛んでいこうとしたが、

 

「よっと」

 

瞬時加速で回り込んだ俺がその道を塞ぐ。ギンはこの程度では止まってくれそうもないので、ショットガンをばら蒔くことで無理矢理足止めをする。

 

高速飛行時には実弾系射撃武器の威力は上がる。ギンはショットガンの弾を見事に避けきって見せたが、速度が僅かに落ちたし機動の道も見えた。

 

「そこだ」

 

その道を通ろうとしたところで、空間固定で動きを止める。あとは俺がののちゃんとギンを繋ぐ直線から移動すれば、ののちゃんが決めてくれるだろう。

ギンの全身を固めている空間固定を維持しながら、俺はその場から十メートル左に移動する。

 

『恐らく、これを撃ち終わったら紅椿のエネルギーは切れるだろう………運んでくれよ?』

 

まあ、画面を見る限りかなりのエネルギーを集中しているわけだし、予想はしてたからいいけどね。

 

『穿千……発射!』

 

カッ!と真紅のエネルギービームが超高密度圧縮状態で放たれた。

 

 

 

 

 

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