継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第二章五幕 武蔵VS不知火

 開始と同時に不知火は何の躊躇いもなく砲塔から火を吹かす。

 

 沈める気のある凶弾は、ほんの少し前まで武蔵の頭部があった場所を通過していった。

 

 通信も繋いでおらず声も聞こえない距離だが、舌打ちをしていそうな形相でこちらを睨みながら再度砲撃体勢に不知火が移るが、武蔵も負けじと四十六センチの全砲門を開く。駆逐艦のような砲撃とは比べ物にならないほどの重低音を鳴らし、衝撃が海面にまで到達する。近くに人がいたならば衝撃波だけで死ぬ可能性のあるほどだ。

 

 そんな強烈な勢いを持って吐き出された砲弾、計九発は至近弾が七、直撃が二という結果となった。被弾した不知火はまだ一ミリたりとも動いていない。動くことを予想して撃っていた武蔵としてはいきなりの想定外なことではあるが、戦場では常に場は変わりゆくもの。多少の差など誤差の範囲内の切り捨て次弾を装填する。

 

 煙の向こうで不知火が無傷なのは百も承知だからだ。

 

『四十六センチ砲の威力。初めて受けましたが、さすがは世界最大の艦砲射撃といったところですか』

 

 煙の晴れた先から唐突に差し込まれた通信に返事をすることなく、徐々に距離を詰めながら主砲の照準を修正する。間に副砲で挟みつつ、一旦横っ跳びをした。

 

――いつの間に魚雷を。

 

 軌跡の見え辛い酸素魚雷が足下までに迫っていた故のとっさの反応。完全に狂ってしまった照準を合わせるより先に、不知火の砲撃が再開された。

 

『ですがこれだけでは不知火は沈みませんよ』

 

 砲撃を行いながらの前進。

 

 不知火は迷うこと無く真っ直ぐに距離を詰めに来る。

 

 今度は放つ瞬間がハッキリ見えた。魚雷は逃げ道を塞ぐためか、武蔵に放たれることはなく、扇状に広がっている。

 

 魚雷に狙われていないのは武蔵としては好都合で、駆逐艦の砲撃だけならば撃つ瞬間さえわかれば、例え距離が近かろうと防ぐことは容易であり、主砲の狙いを付けるにも十分な時間と余裕があった。

 

「この武蔵の主砲、伊達ではないぜ」

 

 一発二発が防がれるならばそれ以上を叩き込めば良いだけの話。しかも近接戦になった方が武蔵としては優位とさえ言えた。

 

 木曾によると装甲の一度に使える量は戦艦ほど多く、駆逐艦程少ない。その分再使用までの時間は逆になるそうだが、その影響で駆逐艦や軽巡だと縮地の連続で相手を撹乱してから決めに行くそうだが、今はその縮地を封じられている。後は自分が不知火の近接戦に対応さえできるならば十分勝機はあるというもの。

 

 不知火の攻撃の瞬間を冷静に見極めながら主砲を斉射。砲塔の向きから射線が読まれたのか、殆どを避けられてしまったが、二つの仮説が生まれる。

 

――避けるほどの威力だった。もしくはそう思わせるためのブラフか。

 

 どちらにせよ武蔵にとってやることは変わらない。攻防の隙間を縫って主砲を叩き込む。

 

 装甲の安定性がまだない武蔵にとって、当たれば必ず一定の成果が出る主砲の一撃の方が確実。何より木曾が認め、そして先に建造された大和が装甲が使える相手に戦果を上げたのだと聞いていることから、自分の主砲への信頼は元通り厚いものとなっている。

 

――いや、装甲が使えるようになってより一層か。

 

 互いに距離を詰めていたことから距離一〇メートルまで狭まり、数度目の主砲の一斉射をする。だが不知火には完全に読まれているのか、膂力だけの跳躍で避けられ、空中で反撃の砲弾が飛んできた。

 

 こればかりは不知火の技量を認める他無く、歯を食いしばって耐えながら次弾装填。ここからは不知火の一挙手一投足見失わないよう高まっていた神経を更に過敏にする。

 

「砲撃は中々ですね」

 

 最早肉声が届く位置まで来たことにより、通信はない。通信越しと肉声の違いなどないと言えるくらいには艦娘の通信機能はしっかりとしていたのだが、肉声を聞いた瞬間。不知火の存在を大きく感じる程度には五感以外の何かが感じ取る。

 

「ですがまだまだ甘い」

 

 距離七メートル。

 

 艦娘ならば十分間合いと言える距離まで二人は近づいた。

 

 武蔵はそこで航行を止め、純粋な脚力だけでジグザグに跳ねる不知火を迎え撃つ。

 

「――――シッ」

 

 短い呼吸が吐かれる音と共に、ハイキックが放たれた。

 

 これまで足技を受けたことのない武蔵は、攻撃の来る瞬間を感じ取り、反射に任せて腕を上げながら装甲を展開した。

 

「明丸での頭部攻撃は禁止じゃなかったか」

 

「何を言っているんです。これはただの蹴りです」

 

 紙一重で防いでみせたハイキックは不知火も予想外だったのか、一旦距離を取って様子を見ているようだった。

 

 武蔵としても今の一撃の威力。そして速度から吟味し、不知火の技量を暫定的に決める。

 

――威力は、木曾さんの加減した一撃に近いか。だが深く突き刺さる感じがないな。速さは完全に木曾さんが上だ。これならば。

 

 行けると確信一歩手前の感情に突き動かされ、今度はこちらからだと体が前へと出る。

 

 自分から近寄るのは良いが近寄られるのは嫌うのか、不知火は円を描くようにして距離を一定に保とうとしながら砲撃を行ってくる。だが不知火の加減がないであろうハイキックを耐えた以上、駆逐艦の砲など効くはずもない。蹴りの精々半分が良いところだった。

 

 完全に予定が狂った不知火は眉間に皺を寄せながら睨んでくるが、受け流さずに真正面に突き進み拳で返事をした。

 

 突き出した右拳はあっさりと外に流され、不知火がお返しとばかりに腹部に向けて拳を突き上げる。だが、そう来るのはわかっていただけに受け止めるのは容易。反撃に懐まで来てくれた不知火に肘打ちを落とすも、一歩半程距離を取られて避けられてしまう。

 

 舌打ちをしようとしたところで不知火が回し蹴りのモーションに入る。距離をとってから少したりともこちらに踏み込んでいないのにだ。

 

 不知火の足の長さならばまず届かない。凡ミスと言える行動に、したり顔を浮かべるより先に瞬時に次の行動を決めた。

 

 胴の高さで振るわれている蹴りが通過したら仕掛ける。

 

 そう思った瞬間、全身の毛が総毛立つ程の寒気が走り、気付けば装甲を腹部周辺に全力展開していた。

 

 振るわれるは不知火のミドルキック。

 

 位置との兼ね合いから絶対に届くはずのない蹴りは、迷いのない動きから一変。中頃まで振るわれたところで海面に叩きつけるような変則軌道を取った。

 

「まさか不知火にグラスホッパーを使わせるだけでなく防ぐとは」

 

 今何が起きたのかと確認するべく、一旦距離を取って落ち着こうとしたが、それよりも先に腹部に痛みが走る。蹴られたことによる鈍痛ではない。細く鋭い何かで裂かれたかのような感覚が武蔵を襲う。

 

「切られただと」

 

 遅れて傷口に沿って火傷でもしそうな熱を感じ取り手で抑えるが、隙間からは血がこぼれ落ちていく。

 

 視線を落としたことで衣服にも目が行き、一部破損してしまっているのが見て取れる。

 

「初見でグラスホッパーのブレードを防いだことは称賛に値します」

 

 釣られて不知火の足ともに目をやると、先程までなかった刃物がレッグアーマーの側面に一振りずつ付いており、羽のように広がっていた。

 

――さっきの変則的な蹴りの軌道は防げていたからか。

 

 無意識に対処したとは言え、自分がやったことに自ら褒め、大きく息を吐く。

 

「ここからはもう加減はしません。貴女を格下と蔑みもしません。ただ北上さんの食事を遅くさせるわけにもいきませんので、全力で相手をします」

 

 最後が本音だろうとは茶化さず、奥歯を噛み締めた。

 

 表情は冷ややかでありながら、言葉の端々に熱を感じる。

 

 チラリと腹部に目をやられたが、

 

「こんなのかすり傷だ」

 

 手を振るって血を飛ばした後、砲塔を不知火へと向ける。

 

 腹部の傷はあまり深くはなかったためか、既に血は出ていない。

 

 鼓動が一つ大きく鳴るのを感じ取りながら、それに応えるよう主砲を撃ち放った。

 

 

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