遠くで鳴り響く砲撃音を耳にしながら北上はパイプをくわえ込む。
やや湾曲しているプリンス型の物に予め葉を詰めて携帯していたことから、後は火をつけるだけ。湿気対策の施されたマッチケースを取り出し、ワンタッチで開いてから差し込まれているマッチを一本取り出し、内側についている摩擦シートで擦ってから火を灯す。
今日は風が穏やかなため何本も使用する必要もなく、一本でパイプに火を移せたことに満足する。
呼吸するように煙を吸い込み、空気に溶け込ますように吐き出す。
隣でシガリロを吸う木曾を軽く流し見てから再度演習風景に目を戻した。
距離を最低でも一キロ以内をキープしているが、肉眼では見辛いため望遠機能を使いながら観戦している。
始まる前、縮地を封じられていたとしても戦力差を考えるならば七対三で不知火が有利。そう思っていたのだが、いざ始まってみると予想は覆され、現在では五分五分の戦いを眺めるハメとなっていた。
――直ぐ終わるかと思ってたんだけどなぁ。
北上の予想では二ないし三合もやりあえば終了すると踏んでいただけに、未だ続いている二人の戦いは、あくびが出そうなほど退屈なものだった。
「ちゃんと見といてやれよ」
「あははやだなー。ちゃんと見てるって」
こちらの顔を見ずに内心を完璧なまでに言い当てられながらも棒読みで返す。
仕方ないとなぁなぁに眺めながらパイプを拠り所にこの場は耐え忍ぶことに。
「今日久々にお前達と出撃したが、不知火のあれにはお前気付いているのか?」
何のことだ?
などと素知らぬ顔でいようかと一瞬思ったが、即座に煙と一緒に吐き捨てる。この姉妹艦。妹でありながら先輩というちぐはぐな関係を持つ木曾に、その手の嘘は通用しないのは長い付き合いからわかっているため、正直に答えた。
「まーねー。一応主に育ててるの私だし」
「面倒臭いからとかほざいたら張り倒すぞ」
「いや、木曾さんの張り倒すは洒落にならないから勘弁」
煙を吸い込み、遠くで見える硝煙に重ねるように吐き出しながら言葉を続けた。
「まぁ何ていうか、あの手のは自分で気付けてなんぼかなと」
「お前らしいと言えばらしいか。だが不知火は教えられたほうが伸びるタイプだろ」
「私もそう思うけど、人に教えられて強くなるだけじゃ、この先危ういかなって思って」
これは正直な感想だった。
不知火は特別優れているわけではない。他の鎮守府ならばエースになれるが、残念ながら臼杵鎮守府では没個性と言えるほどだ。
北上の持論としては、ユニーク差はそのまま戦力に直結するものだと思っている。生真面目すぎる不知火はその辺が欠如していることから伸びないのだとも。
今回の演習とて最初不知火は渋っていたのだが、北上としてはほんの少しでも刺激を得られることがあればと思って薦めたのがやる切っ掛けなのだが、
――ホント、気まぐれでやるとろくなことないね。
決着がまだ付きそうにない二人だけの戦場に後悔する。
「さっさと帰りたそうな顔だな」
「事実帰りたい」
「昔のお前なら喜びそうな光景だろうに」
「や、未だあの状態なら今頃海の底だろうし」
あんたの手によってとは口が裂けても言えず、軽い世間話を挟んだ。
「それにしても武蔵はかなりやるね。まだ建造されて二月も経ってないのにさ」
「アイツは才能があるってのもあるだろうが、後は相性か。多分オレと馬が合うんだろう」
「相性ね~」
才能は確かにあるのだろう。でなければ四年も先に建造されている不知火とあそこまでやりあえないだろう。だが成長するのに相性はそこまで関係するのかは甚だ疑問だった。装甲の扱い方など軽く教えられただけで使いこなせるようになった北上としては尚の事に。
だが否定する要素もないため、取り敢えずはぼかすように流した。
位置が位置のため、時折流れてくる砲弾を装甲で弾きながら見続ける。もう始まって十分は経過しただろうか。退屈で仕方のない北上に、木曾から一つ提案を持ちかけられる。
「暇でしょうがないんだろ?」
「まねー。もう先に帰っちゃおうかと思う程度には」
特にいることは強制されていない。木曾さえいれば何も問題ないからだ。しかし木曾の誘いは北上としても存外悪いものではなく、心揺さぶられるものだった。
「ならお前、武蔵の砲撃を受けないか」
その言葉だけで全てを察した。木曾が何をやろうとしているのかを。
退屈をしていた北上としても刺激的な誘いに、思わず口元がニヤける。
「へぇいいの。そんなことやっちゃって」
「寧ろあの状態で戦えるようになったらアイツ自身の成長にもなるだろうしな」
「そのかわりに沈んじゃうかもね」
「そうさせないためのオレがいるんだろ」
自身たっぷりな物言いに触発され、これはもうやらないわけにもいかず、いや寧ろ自分がやりたいし見たいという感情に駆られ、パイプを仕舞い込んでから戦い続けてる二人に近づいていく。
不知火の本性を表に出すために。そしてつまらない演習をぶっ壊すために、笑みを浮かべたまま北上は弾道方向を予測し続けた。