ぶつかり合う拳と拳。
衝撃が体を揺さぶり、微細な振動は血液を沸騰させるが如く熱し、身も心もを焦がしていく。
牽制用の砲撃を反らし、縮地による高速移動からの攻撃を屈んで躱し、タックルで反撃に移る。
相手も予期していたのか受け止められるが、装甲の出力が同じだったようで互いに反発しあって距離が開けてしまう。その隙を逃さずに砲撃を行うも、容易に弾かれる。
技術の差から致し方ないと割り切り、呼吸を整えてから拳を握りしめ、縮地を使い二人の距離をゼロに変える。
「長門おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「武蔵いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
振るわれる拳に声となって漏れ出た気持ちを込め、相手を倒さんがために振り抜きに行く。
勝敗は決した。
「はぁ、はぁ、はぁ。今回も、私の勝ちだな、武蔵」
海面に背中から倒れ伏した武蔵は、ボロボロながらも自分を見下ろす長門を目にし、自らの敗北を知る。
「手を、貸そうか」
「っいらん」
負けた悔しさと、一人になりたい気持ちをセットに拒絶する。
我ながら子供っぽい反応を示すも長門はそうかとだけ溢し、その場を去っていく。その背中を目で追うようなことはしない。今武蔵がするべきは負けた敗因を知ることにあるからだ。
建造されてから早半年。武蔵も改となり、一度に装甲が使える量も増え、砲撃の威力も向上した。縮地も覚え、一人で出撃する機会も増えてきたが、未だ尚臼杵鎮守府内において最下位の座に居続けていた。
大日本帝国が誇る最強の戦艦が最下位とは笑い話にもできない。
「わかっている。まだまだ未熟なのは」
何で負けたか。理由は幾つかある。
一つは純粋に経験が少ないことにある。長門は一年早く建造されたことからその差は大きい。
二つ目は装甲がどこまで扱えているかだ。最後の殴り合いは相打ちとなったのだが、押し負けたために敗北している。つまりまだ無駄が多いのだ。
そして最後に、最近長門が成長しているのが分かる。何があったのかは知らないが、確実に強くなっており、動きのキレがここ数ヶ月で格段に良くなっている。
武蔵自身も急激に成長しているためお互い様と言えるが、それでも負けるのをよしとするつもりはサラサラない。
「今日は中々惜しかったんじゃない?」
首だけを上に向けるとそこには伊勢が立っていた。
「見ていたのか……だが惜しくても負けたらそれまでだ」
「そうかな~。最近の長門を追い込めるだけ十分だと思うけど」
確かに接戦をこなせるようになっているのは、それだけ自分に実力が付いた証拠でもある。
「言っちゃうとさ。今の長門だと私でもいい勝負しちゃうくらいには強いよ?」
「そんなに、なのか?」
「そりゃああれだけ急成長されたらねー」
伊勢の中々に興味深い言葉に反応し、勢いよく起き上がる。仕舞うのすら億劫だった船体を即座に消し、正面から向き直った。
「やはりあいつの成長はかなりのものなんだな」
「武蔵に比べたらまだ可愛いものだけど、多分今の長門は大和や龍鳳、通常の不知火相手じゃ負けないんじゃないかな」
以前木曾の計らいで全員と一度手を合わせることがあったが、皆が皆本気で相手をしてくれていたわけでないのは承知している。あの時は縮地も満足に使えていなかったのだから尚の事手心があっただろうからだ。それを差し引いても強さは十分に伝わっていた。
「んでね、私の見立てじゃ武蔵は大和か龍鳳なら十分勝てると思うよ。悪くても引き分けにまで持っていけるかなー」
それらを相手にまともに打ち合えるようになった長門を、疲弊させるまで成長自分に少しばかり褒めたい気分になる。伊勢が本当のことを言っているのならばだが。
「少しは気が晴れたかな?」
「今の言葉さえなければな。乗せられた気分だ」
やや胡散臭い話になったため半眼で睨むも、前向きに捉えるには十分なことだっただけに、釈然としないながらも取り敢えずは納得した。
「それは失敬。でも提督が呼んでるからその辺は勘弁してね」
「提督が? 今日は特に予定などなかったはずだが」
「さぁ? 私も内容までは聞いてないから知らない」
小首をかしげ、今日から数日先までの予定を思い返すが、やはり呼ばれるようなことはない。問題になるようなこともしていないことから余計に疑問が募る。
――とはいえ行かない訳にもいくまい。通信を使わないということは火急なことではないのだろうが、人を使って知らせに来た以上待たせるのも悪いか。
長門とのやり取りで艤装はボロボロ。体もあちこち痛めつけているのを半ば無視して向かうことに。
「報せに感謝する」
「いってらっしゃーい。多分まだ花壇のところにいると思うから~」
見送る伊勢を背を向けながら手だけ振り、その場を後にした。