継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第三章四幕 新たな指令

 武蔵が陸へ戻った頃何か用事でもあったのか、提督は鎮守府内から出てくるところだった。

 

「伊勢から話があると聞いたのだが」

 

「伝えておかなければならない案件を思い出してな。ドッグ入りは少し遅らせてもらうが構わんか?」

 

「中破程度だ。問題ない」

 

「ならば丁度花壇に鳳翔達もいる。そちらで話すとしよう」

 

――これは、線香の匂い?

 

 前をキビキビと歩く提督からほのかに漂ってくるのは間違いなく香の香りだった。早朝提督と顔を合わせる時は時折あるのだが、日中にこの匂いをさせたのは初めて。今回の呼び出しも合わせて多少違和感があったが、提督におかしなところは見られないことから辺に突っ込むことはなく、後を追うことに。

 

「お茶飲まれますか?」

 

 鳳翔達と合流するやいなや、水筒を手に飲み物を薦めてくる。

 

「後ほど頂く」

 

「私は少し貰うとしよう」

 

 提督は断ったものの、武蔵は伊勢に実力を褒められたことで舞い上がっている可能性を考慮し、気持ちを入れ替える意味でも鳳翔の厚意を受け取ることにした。

 

 彼女は微笑み、水筒の蓋ではなく湯呑みにそそいで渡してくれた。湯気も出ておらず器越しに熱が感じられないことから冷めているものと判断し、啜らずに中身の半分を口内に流し込む。

 

 緑の香りと後を引かない味は、スッと喉の奥へと消えていく。それと同時に熱のこもっていた心臓が冷やされる感覚がした。

 

 二口目で全て飲み干し、礼を述べてから鳳翔に湯呑みを返したところで提督は話を切り出した。

 

「鳳翔には予め伝えておいたが、二週間後に行われる軍事訓練に武蔵も同行させるつもりだ」

 

 遂にかと内心溢す。

 

 武蔵は提督に言われたことを反芻しながらも胸の高鳴りを感じ取る。

 

 軍事訓練とは他の鎮守府の艦娘を複数集め、来たる決戦に備えて誘導性艤装装甲の扱い方を教えるのが目的だ。当然半端な者に任せられるものではないため、これまで武蔵だけ除外されていた。

 

 それが今日。今この瞬間。お前ならば大丈夫だと提督に認められたのだ。嬉しくないわけがなかった。

 

「わかっているとは思うが、武蔵はまだ教育する側の経験がない。次までにどうしたら良いか教えてやってくれ」

 

「それは構いませんが、確か次は」

 

「ああ、大和の心配も最もだ。これまでより規模が大きくなる。現状召喚がかかっているのは五十の鎮守府だな。艦娘の数だけで言うならば三百は越えている」

 

 鳳翔は知っていたのだろう。涼しい顔をしているが、大和に龍鳳、そして武蔵も同じく動揺していた。規模の話は酒の席で愚痴と一緒に聞いてきてはいたが、それでも百前後が精々だった。それがいきなり三倍になったのだから、初めてやるにしては大規模過ぎないかと少なからず気後れしてしまう。

 

「当日多少数の変動はあるだろうが、大和と龍鳳は七十ずつ担当するつもりでいろ。武蔵は残りを鳳翔と共に。基本は鳳翔にやらせる。お前は補助をしながら鳳翔の立ち回りを見て、次回以降の参考にするのが一番の仕事だ」

 

 そう言われ、やや安堵する。

 

 想定では多くても二十ないし三十人程度見れば良いのだろうという考えは、見通しが甘かったようだ。

 

「でもその人数ですと一日では厳しいのでは?」

 

 龍鳳の疑問は最もだった。

 

 武蔵とて今の状態まで成長できたのは、毎日のように教えてくれる人が近くにいたからこそだ。それを三百を越える数をたった四人でこなすには、時間が圧倒的に足りない。

 

 これまでは艦娘の数は少ないものの、コンスタントに行われてきた軍事訓練だからこそ成り立っていたものをそこまで広げれば、必然拾えない部分が出てくることはわかっているはずだ。

 

「龍鳳の言う通り一日では足りない。そのため今回は三日間行われる。それだけ上が誘導性艤装装甲を受け入れだしたということだろう」

 

 どうやら大本営もお飾りだけがいるわけではないようだ。三日あるならば基礎の基礎を教えるには十分だろう。過去の訓練に参加した艦娘ならば一つ先に進める可能性もある。

 

 贅沢を言うならば一週間だが、防衛の穴を考えれば妥当だろう。軍事訓練に参加条件が、一定数の功績を上げている鎮守府に限るのだから尚更。

 

 何より鎮守府間で衝突する確率が一緒にいる時間が長いだけ上がるというもの。そういった意味では三日は理想なのだろうと、武蔵は一人頷く。

 

「そういえばまだ場所は決まっていなかった覚えがありますが、そちらは?」

 

「そちらも先日決まった。場所は静岡県の南伊豆町だ。恐らく人里から離れ、海が近く、大本営からも遠くないという理由で選ばれたのだろう」

 

「静岡の伊豆ですか。温泉が有名なところですね」

 

「らしいな。最も今じゃどこも営業していないから期待しても温泉には入れんぞ」

 

 少なからず考えてはいたのか、大和は自分から話を振っておきながら目をそらしていた。

 

 同じ大和型として情けない……とまでは言い切れない。武蔵もまた温泉には興味があっただけに、少々後ろ髪が引かれる思いとなる。

 

「だがそうだな。戦争が終わった暁には、お前達とゆっくり旅行の一つでもやりたいものだ」

 

「良いんですかそんなことを言ってしまっても。本気にしますよ?」

 

 鳳翔が悪戯っぽく反応を示すのに対し、提督は大きく頷き、ハッキリと答えた。

 

「本気にしてもらって構わない。まぁ、お前達さえ良ければだが」

 

「もうバッチリオッケーです!」

 

「大和もいつでも行けます!」

 

 歓喜の声を上げながら提督に詰め寄る二人に、提督は気が早いと窘める。

 

 盛り上がる龍鳳と大和を鳳翔は微笑ましく見守り、それらを見ながら武蔵は一人夢想する。そのような平和な時が来る瞬間を。

 

 十三年にもなる、長い戦争が終わる時を夢見て。

 

 

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