継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第一章二幕 歓迎会

 

 

 乾杯の音頭を取るためか、提督は一人立ったまま一度ぐるりと見渡し、口を開く。

 

「それでは武蔵の歓迎会を執り行う」

 

 食堂マミヤに臼杵鎮守府の面々が集まった。キャパシティが四人がけテーブル二つとL字のカウンターが七席であるため、全員が席につくと椅子の殆どが埋まってしまっている。そのため元々あまり広い方でないマミヤの中がかなり窮屈に感じられるが、今日が初めての武蔵は取り敢えず流される形で提督の隣に腰を下ろしていた。

 

「弁舌はあまり得意ではないため、長々と話すつもりはない。まずは武蔵。うちに来てくれたことを感謝する」

 

 真っ直ぐな目のまま礼を述べられ、悪い気はせず、表面上何でもない風に取り繕いながらも内心ほくそ笑む。

 

「今日は急な案件でない限り連絡が来ないようになっている。故に昼間ではあるが楽しんでくれ。全員グラスを手に」

 

 各々自分の呑む物。酒の種類が決まっているのか違うグラス、違う色の液体が入っており、見た目はバラバラだが、何故か一体感はあった。

 

 武蔵も目下にあった生ビールの注がれたジョッキを目元まで掲げる。妙にそわそわする空気に当てられ、鼓動が少し早くなるのを感じ取る中、

 

「それでは乾杯」

 

「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」

 

 遂に宴は始まった。

 

 あちらこちらからグラスやジョッキ等をぶつかる音は歪ながらも不快さはなく、寧ろ高揚させる心地よささえあった。

 

 武蔵も誘われるままに右の提督、左の木曾と音を奏でてからジョッキを煽る。味覚情報として予めあった生ビールの味は、実際に知ることで具現化する。苦味があるのに爽やかで、後を引かないキレのある味わいは意外と悪くない。

 

「いきなり一気飲みとは豪快だな」

 

 ただ好みかと言われるとそうでもないため、ビールを一気飲みすると、木曾の呑んでいる物に興味が湧く。

 

「それは何だ」

 

「ウイスキーだが、試してみるか?」

 

 木曾が呑みかけのグラスを渡してくることからそのまま受け取り、舌先に乗せるようにして味わう。

 

 香りや味わいは悪くないのだが、これも惜しくはあるも、求めている味ではない。

 

「気に入らなかったか?」

 

「悪くはないが、もうちょっと違う物が好みなようだ」

 

「近いか。となるとウイスキーの中のどれか。もしくはブランデーかもしれないな」

 

「ならば近いうちに人里で幾つか見繕うか」

 

 木曾と提督は話をしながら慣れた手つきで煙草を取り出し、口に咥えた。それが合図だったかのように武蔵を除く全員が煙草の類を取り出し、吸い始める。

 

 マミヤの中は一瞬にして紫煙によって支配された。

 

 目の前に出されていた料理の匂いよりも煙草の臭いの方が強かったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 

「こいつもやってみるか?」

 

 物珍しそうに見ていたからか木曾に吸いかけを渡され、一つ口内で吸ってみると、

 

「存外に悪くないな」

 

 思っていた以上に気に入り、このまま貰おうかと思っていると木曾から新しい物を渡される。一言例を述べてから木曾から受け取ったのは、ゴールドシールシガリロ。何でも数年来吸い続けているとか。

 

 通りで手慣れているわけだ。

 

 軽く香りを鼻先で感じ取りながら微笑を浮かべてから火をつけた。やはり味は悪くない、どころか好みなようで、想像と味とがシンクロする。

 

「最近は味だの香りだの大体持って建造されるから損だよな」

 

「損なのか?」

 

 唐突に話題を振られ、首を傾げる。既に知っていることが当たり前な武蔵としては、知らないことに対し、逆に戸惑ってしまうのではとさえ思うほどだ。

 

「あぁそうか。最近の艦娘は日常に含まれる情報。嗜好品の類まで手に入れたのだったな」

 

「なんでこんなことになったのか知らないが、はた迷惑なことだよ。お陰で未知じゃない未知とか意味不明な状態になってるし」

 

「その影響で艦娘間によるデータリンクが行われたのでは。などと勘ぐる者もいたな」

 

 くだらなそうに提督は煙草を吐き出し、ジョッキの中の液体、麦茶を流し込む。

 

 木曾は木曾で自分がそのようになったことにあまりいい印象がないようで、フライドポテトを噛みちぎるように咀嚼していた。

 

 何でも過去の艦娘には自分のことと、人としての最低限の常識程度しか情報がなく、五感の類は何一つ持っていなかったそうだ。だが一年ほど前を境に唐突にその手の情報が最初から持っている状態にされたのだとか。

 

 ただどうせならば、

 

「情報が追加されたのならば、装甲の扱い方も増えていたら良かったのだがな」

 

 今日見せられた誘導性艤装装甲(インダクティブアーマー)を使う術が含まれていないことに、疑問がないわけではない。あれだけの力を見せられたのだ。あって困るものではないのは肌で感じ取っているだけに残念でしかない。

 

「そういやどうだったのさ、武蔵の相手は」

 

 L字カウンターの角を境に不知火と二人で呑んでいた北上が急に話を振ってくる。態度が態度だけに出会った初日だが、やや癇に障る言い方も相まってあまりいい印象はない。

 

「どっかの誰かさんよりは大人しかったな」

 

「うっへ藪蛇」

 

 木曾の言葉に軽いしかめっ面を浮かべているのにいい気味だと満足げに浸る。

 

「そんなに好戦的だったのか?」

 

「ちょっと新人黙ってようか」

 

 図星だったのか険のある物言いをしてくる。が、

 

「ほぉ、オレの前でそういう態度をとるか」

 

「うっごめんなさい」

 

 木曾に窘められ、大人しく引き下がった。自分には強気だが木曾には弱いようで、その反応に思わず笑ってしまっていると、北上の隣りにいた不知火からガンを飛ばされていることに気付く。

 

「今、北上さんのことを笑いましたか?」

 

「つい可笑しくてな」

 

 心境を正直に答える。師弟といった類の関係なのかと思い、軽い気持ちで言ったのだがどうやらその程度の間柄ではなかったのか、大人しい雰囲気から一変、殺気が溢れてきた。

 

「北上さんのことを馬鹿にするのなら、不知火が黙っていないですよ」

 

 静かに置かれたグラスとは相反するように感情が迸っている。

 

 他の艦娘も殺気に気がついたのか、先程まで和気藹々とした雰囲気は消え去り、耳に重い静けさが落ちる。

 

 唐突な変化に武蔵は焦りを感じ、反射的に唾液を嚥下した。

 

 不穏な流れとなり、どうするべきかと思案していると、助け舟がやってきた。

 

「北上」

 

 木曾の指示に従い、頭を掻いてから北上は不知火と向き直った。

 

「しょうがないなぁ。はいはいどうどう」

 

「でもアイツは北上さんのことを」

 

「あの程度問題ないっていつも言ってるじゃん」

 

「ふにゃ」

 

 尚も反発をしていた不知火だったが、北上に頭を撫でられた途端に情けない言葉を漏らしながら殺気は霧散、真っ赤ながらもだらしのない表情で受け入れていた。宛ら犬猫の類だと思いつつもまた噛みつかれては厄介なために、大人しく酒と一緒に飲み込んだ。

 

 再び喧騒の戻った食堂内。武蔵は酒を数口呑んでいると口の中が寂しくなり、近くにあったホタテのカルパッチョに手を付ける。新鮮だからか味は申し分なく、磯の香りと共に歯ごたえも楽しんでいると背後に気配を感じた。

 

「おーっす武蔵。呑んでる~」

 

 背後から抱きつかれ、驚きつつも真横までやってきた顔に視線を向けると、そこには柔和な表情をした伊勢がいた。

 

「誰かと思えば伊勢さんか。見ての通りだ」

 

 取り敢えずとして自分用に出してもらったジャックダニエルを掲げてみせる。氷が溶けてきたことから子気味よい音が奏でられた。

 

「私のことはさんとかつけなくていいよ~。そのまま呼び捨てで呼んで」

 

「……わかった。今後伊勢と呼ばせてもらう」

 

 良いのかと聞き返そうかとも思ったが、本人がそうしろと言うのだからと、そのまま受け入れて呼び捨てで名を口にする。

 

 本来先に建造された者へは敬称である《さん》をつけるものなのだが、どうやら伊勢は敬称で呼ばれるのが嫌なようだ。

 

「で、伊勢は呑んでいるのか」

 

「そりゃ勿論! 生もいいけどジンって最高だよね~」

 

 抱きついたままジンのロックを器用に呑む。喉の音が聞こえるくらいの飲みっぷりは、感心してしまいそうなほどであった。

 

 ジンのロックをそのように呑むものなのかはやや疑問は残るが。

 

「ところでさ、武蔵は装甲のことちゃんと説明受けた?」

 

「誘導性艤装装甲のことか? まぁ簡単にだが」

 

「そっか。じゃあ覚えたい気持ちもあったり」

 

「無論だ。使えて損はないだろ」

 

 詳しい説明はまだ受けていないが、それでも力として有益であることは目の前で見せられているため、もっと知りたい気持ちはそれ相応にある。今日は自分の歓迎会ということで後日に教えるからと先延ばしにされているが、知りたい欲求は消えていない。

 

「へぇ、じゃあこれは成長が早いかもね~。ね、木曾さん」

 

「まぁな。自尊心(プライド)を持っているが否定的じゃない。新しい物事を飲み込もうとする意志もあるから今後が楽しみではあるな」

 

 目の前で褒められ、むず痒い感じがしながらも悪い気はせず、口角が緩むのを隠すためにグラスを傾ける。

 

「そうそう。特に長門には苦労したもんね~」

 

「む、私がどうかしたのか」

 

 話題を振られ、一人静かに呑んでいた長門が顔を上げる。

 

 生真面目そうな見た目は顔に表れており、最初見た時はつけていたヘッドギアは邪魔なのか外されており、長い黒髪を垂らした姿は大和撫子よりも提督に近い、軍人や武人といった雰囲気を漂わせている。

 

「ん~長門が装甲を覚えるのに時間がかかった話」

 

「……それは致し方ないだろう。あのような力があるとは知らないのだから」

 

 真顔を曇らせている辺り、覚えるまでの苦労が垣間見えた。

 

「どれくらいかかったんだ?」

 

「どっちの意味で?」

 

 これから習う身として、参考までにどれだけ時間を有したのか気になり尋ねてみたが、逆に質問で返され困惑する。

 

「どっちとはどういうことだ」

 

「力を意識して使えるまでになったのか、力を受け入れた時のどっちかってこと」

 

「受け入れる?」

 

 伊勢の言葉に尚更困惑する。あれだけの物を見せられたならば受け入れも何も無いのではないだろうか。それが武蔵の感覚なのだが、長門は違ったのだろうかと流し見すると、渋面を作っていた。

 

「そ。長門はね~。受け入れるまでに二ヶ月もかかったんだよ。苦労したな~」

 

「因みにだが伊勢は口で説明しただけで受け入れたな」

 

 伊勢の遠い目にも気にはなるが木曾の捕捉にも中々に驚かされる。

 

「口だけでということは見てもいないのに、と言うことか」

 

「ああ。教える側としては楽でいいが拍子抜けでもあったな。最初は否定的な奴が多いから余計に。まぁその分じゃ武蔵は楽な方だ。その日に受け入れているからな」

 

「ほぉ。もっとその辺を詳しく聞きたいものだな」

 

 中々に興味深い話に根掘り葉掘りと聞くことに。

 

 まだかと回りに飽きられつつも続けていたため、気付けば一同は夜まで呑んでいた。

 

 

 

 

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