継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第四章四幕 波乗り伊勢

 更に二〇〇キロ東へ移動したところで木曽の指示により、一旦小休止を入れた。

 

 互いに向き合いながら木曽と武蔵はシガリロを取り出し、伊勢はマルボロを咥えて火をつける。

 

 煙を大きく吸い込み、肺を循環させてから吐き出す。

 

 やっていることは至極単純ではあるが、それが気分を良くしてくれた。

 

 太平洋のど真ん中。三六〇度全てが青い海。波も穏やかで風も強くない。空も雲が時折影を作るが、雨雲の類は一切なく、青空が伊勢達を見下ろしていた。

 

「この開放感はたまんないね~」

 

「同感だ。椅子かハンモックでも置いてのんびりしたいもんだ」

 

「ハンモックとかまた微妙なところを……そういえば椅子で思い出したが、海外艦の中には艤装自体が椅子の艦娘もいるらしいな」

 

「なにそれ羨ましい」

 

 紫煙を吐き出しながら口先を尖らせる。

 

 艤装は明丸のような作ってもらうものならある程度自由がきくが、元々艦娘。それも一種の艦に与えられる艤装に変更はできない。近頃ではコンバートと言って一部艤装が変化するものもあるが、それでも根本的に変わることはない。

 

 仮に明丸として作ってもらったところで、

 

「木曽さん。私達も明石さんに作ってもらおうよ」

 

「どうやって持ち歩くんだよ。邪魔でしかないだろ」

 

 戦闘には完全に不要な物であるため、文字通りお荷物にしかならない。武装を取り付けたところで重量が増すことからデメリット部分も増えてくる辺り、諦めるのが得策だ。

 

「あーあ。私の船体も椅子だったらなぁ」

 

「そうは言うが伊勢の飛行甲板も似たようなものだろ」

 

 武蔵に突っ込まれるが、それはそれ、これはこれである。

 

 何より伊勢の持つ飛行甲板は明石に改造してもらってはいるが、所詮可愛いギミック。椅子とは比べ物にならない。

 

 現在非武装状態であるため仕舞っていた飛行甲板を出現させるも、想像上とはいえ、やはり腰を下ろせるか否かの差は大きかった。

 

「一緒に見える?」

 

「あー、なんというかその……悪かった。少し話を盛ってしまったかも知れない」

 

 追撃とばかりに謝られてしまい、より虚しさが増した。

 

 大人しく甲板を消してからため息混じりに煙を吐き出す。

 

――早いところ敵艦出てきてくれないかな。

 

 完全に八つ当たりであり、気晴らしにしたく深海棲艦の出現を待つ。

 

 今こうしてわざわざ警戒海域の中で第一種の更に上、特種警戒海域内で小休止しているのには理由があった。

 

 幾ら縮地が使えるとはいえ太平洋は広すぎる。移動するにしても見つけるにしても。逆に見つかるにしても。そのため自分達を撒き餌に《タルタロス》を釣るというのが今回目的だ。

 

「っと奴さんのお出ましだ」

 

 噂はしてないが影はあった。

 

 伊勢から見て右後方、一二〇〇メートル先に艦隊が出現。いきなり砲撃してきた。

 

「よーし今度は私がやっちゃうから」

 

 まさか本当に出てきてくれるとは思ってもみず、状況確認するよりも先にヤる気全開で宣言した。

 

「まぁ待て。数は……六百いるかどうかか。小規模だな。通信は」

 

「良好。通信不能どころかノイズも何もないな」

 

「改flagshipも一隻のみで他はflagship止まりか。おし、なら伊勢、気晴らしに行ってこい」

 

 木曽から許可も下りたため、迫る砲弾を軽くいなし、遠慮なく縮地で一気に飛び出した。

 

 幾つもの水柱を上げながらポケット灰皿に吸いかけのタバコを押し込み、船体部分を出現。全砲門一斉射。

 

 砲撃による衝撃が良い意味で刺激となったのか、血がたぎりだすのがわかり、ほくそ笑みながら急接近し、敵の砲撃に合わせて大きく跳躍した。敵本陣にめがけて。

 

「イヤッホー!」

 

 船体出現時に同じく出しておいた飛行甲板。それをスライドさせ、長い板状にしてから脚部艤装を解除し、その上に伊勢は乗った。

 

 迫りくる砲弾を全て受け止めながら落下。敵艦を一つ潰しながら着水し、そのまま航行を。否、ライディングを始めた。

 

「テイクオフ! さぁ張り切っちゃうよ」

 

 飛行甲板。もといサーフボードと化した明丸《三津峰》を装甲で操りながら伊勢型に標準装備されている日本刀を抜き、すれ違いざまに切り捨てていく。

 

「斬り捨て御免。なーんちゃって」

 

 気分が上がるのと一緒に舌も回り始める。

 

 それなりに練度は高いのか、陣形内にいても敵艦は砲撃を止めることはない。それどころか魚雷まで放ってくる辺り、よほど自信があるのだろうか。

 

「ま、関係ないけどね。ほらほらもっと気張らないとどんどん減っちゃうよ」

 

 ボードに乗ったまま装甲で跳ねて魚雷を避ける。その際に回転を加え、独楽よろしく近くにいた三隻ほどを切り伏せ、着水後装甲によるライディングを再開した。

 

 それから三十分ほどし、あらかた片付け、四〇メートル先に敢えて残しておいた改flagship、リ級と向き合う。

 

 一隻だけいた改flagshipも複数いると厄介ではあるが、一隻程度敵ではない。それでも全く遊べないわけではないため、どうやってしまおうかと決めあぐねる。

 

 改flagshipクラスになると縮地を使ってくる個体も珍しくなくなってくるが、どうやらこのリ級は使えないようで、専ら砲撃を行うのみ。

 

 その代わり防ぐことの装甲が匠なようで、現状傷一つついてはいない。意図的に残したとは言え、回りを蹴散らすまで全く手を出さなかったわけではない。幾つか砲撃を行いもすれば、軽くひき逃げでもやってやろうかと突っ込んだこともあるが、尽く防がれている。

 

――向こうの火力じゃ沈むことはないけど、こっちもジリ貧になったらやだなー。

 

 正直言えば真正面から殴ればそれで沈められる。装甲の使い手としてはこちらの方が数段上を行くのだから当たり前だ。ただそれをするのは面白くない。戦闘には適度なユーモアさが必要だと伊勢は常々思っている。ただそれは回りを楽しませるためではなく、自分の気に入った行動ができるかどうかが大きい。

 

 他の者にとってはそれが予想外の動きとなり、予測がつかなくて厄介だなどと言われもするが、そんなこと知ったことではない。自分が楽しむ。それが一番だ。

 

「うん決まった!」

 

 この一ヶ月の鬱憤を晴らすべく、最後の仕上げにと、ボードを走らせた。

 

 リ級の顔がより引き締まるのが見て取れる。

 

 果敢に砲撃を行ってくるが、被弾する前に全て装甲によって弾いてしまっているため、怪我などしようもない。

 

 それはこちらの同じで牽制用に放ってはいるが、有り難いことに砲撃だけで倒すのは無理なようだ。そのため、仰角をズラし、手前の海へ鉄の塊を撃ち放つ。僅かな間を開けてから立ち上る海水。それに目掛けてボードの底に装甲を展開。前方に高波が発生するよう調整する。

 

 ぶつかり合う波と柱は一秒にも満たない間だけ、新たな道を作り上げた。

 

 船体部分を仕舞い、ジャンプ台となった高波に迷うことなく伊勢は乗り、縮地との合わせ技で大きく飛び上がった。

 

 リ級も改flagshipだけあってさすがと言うべきか。即座に頭上まで迫ったボード目掛けて砲撃する。が、

 

「残念だけどもうそこにはいないんだな」

 

 伊勢はボードを踏み台に更に跳躍していた。

 

 足元でボードが砲弾の衝撃によって弾かれ、砲弾自体はボードによって跳弾し明後日の方へと飛んでいく。完全に予測の範囲外だったのか、ボードの影から見えたリ級は、目を見開いていた。

 

 慌てて再度砲撃の準備をしていたがもう遅い。

 

「必殺、呉落とし・改!」

 

 船体部分を再び出現。自由落下に重量を加算させ、おまけとばかりに柄頭に装甲を展開。思いっきりリ級の頭部目掛けて振り下ろした。

 

 耐久面は得意なだけあって一瞬抵抗を感じたが、それでも容易く貫き、頭部から股にかけて潰してみせた。

 

 軽く残党がいないか周囲を確認しても見当たらず、これで終わりだと悟り、少し残念に思いつつ達成感が胸を暖かくしてくれる。

 

「やっほー終わったよー」

 

 通信越しに終わったことを伝える。どうせなら次もやらせて欲しいなと考えていたが、一向に返事が帰ってこない。

 

 よく見れば木曽達が声を上げ、こちらに向かって慌てて来ようとしているのが見えた。

 

 遅れてやってくる寒気。

 

 全身を蛇が絡みついたかのような不快な冷たさが、伊勢を包み込む。

 

 まずいと思った時には木曽達に向かって縮地を使い前転。途中捻りを入れて視界を前後入れ替え、何に対して恐怖を覚えたのか見ようとすると、それは距離を取った伊勢の目の前にいた。

 

「――――あ、あ」

 

 寒気、気後れ、恐れ、畏怖、恐怖。

 

 幾つか負の感情を思い浮かぶが、これは。こいつはそんな生易しいものではない。

 

 あるのは唯一つ。

 

「伊勢逃げろ!」

 

――――絶望だった。

 

 

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