継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第一章三幕 日常

 武蔵が建造されて一週間。特に何かがあったということはなく、大凡標準的な艦娘としての訓練と座学を繰り返すだけで、出撃することは一度もなかった。

 

 装甲の指導といった類も何一つ無く、尋ねても後でとはぐらかされるだけで直接的に教えてもらったのは建造された日のみだった。

 

「で、どうだ。俺以外の人と会うのは」

 

 現在は臼杵市の更に奥。人里がある宇佐方面から帰ってきている最中だった。

 

 買い出しも含め、戦場に出る前に守るべき存在を見せるために連れ出された訳だが、正直なところピンとこない。

 

「特に何も。あぁ、一応生きてはいるんだなといった程度だ」

 

 見て、触れて、それでも尚武蔵には守るべき対象には映らなかった。艦娘はあくまで提督を守るための盾であり矛なのだから当然ではある。そして提督もそれがわかっているからか、そうかと軽く流すだけで、指摘したり補足することもなく会話は打ち切られた。

 

 手持ち無沙汰になったことから、武蔵は木曾に貰ったシガリロを取り出してから火をつけることに。窓を空けていなかったことから一気に車内はシガリロの香りで満たされる。ただそのままにすると提督に悪いため、適度に香りを楽しんでから窓を開けて煙を逃した。

 

 吸い込まれるように外へと逃げていく紫煙を視線だけで追いかけると、瓦礫の山が最初に目につく。人間が住んでいた時の名残がまだ微かに残っているが、大部分は雑草が生え、緑に覆われ始めている辺り、自然に還りつつあるのでは無いだろうかと何気なしに思う。

 

 現在通っている道路もひび割れたアスファルトから一部飛び出している辺り、自然の強さというものを目の当たりとする。

 

 そこでふと気づく。小さな違和感に。

 

「えらい道路が綺麗だな」

 

 つい思考が口から漏れ出たが、気にせず先を続けた。

 

「歩道とかは雑草ばかりだが道路上は少ないし舗装した後も見えるが、まさか提督がやったのか?」

 

「それこそまさかだ。舗装は昔艦娘(お前達)に頼んでやってもらったのを維持してるだけだ。雑草が少ないのもその一環で引き抜いているからだな」

 

 言うのは簡単だが距離が距離であり、他にも花壇に菜園等もやっている。当然ながら提督としての業務を並行してやっているのだから仕事量が多いのではと疑問に思っていると、提督から察してか補足してきた。

 

「木曾達にもたまにやらせているし、間宮が率先して動いている。俺一人でやっているわけではない」

 

 まだ全員がどのような日常を過ごしているかは把握していないが、先日間宮が一人、陸路で鎮守府外に出ているのを思い出し、嘘ではないのだろうと納得した。その内自分もそこに交じる未来を想像しながら。

 

 程なくして臼杵鎮守府に到着すると、そこで待っていたのは鳳翔と大和だった。ここ数日見ている限り、どうやら大和は鳳翔を慕っているようで、北上と不知火の関係程ではないが、離れている姿を見かけたのは二度くらいだろうか。

 

 二人で仲良くポニーテールを揺らしながら歩み寄って来、下車した提督に向かって頭を下げた。

 

「提督。買い出し有難う御座います。後はこちらで片付けておきますね」

 

「頼む。他に帰還した者は」

 

「木曾さんでしたら既に。龍鳳と長門も先程戻ってきました」

 

 柔らかい所作と物言い、それでいて凛とした立ち振舞いはこれこそ大和撫子なのではと思えるほど美しかった。大和が慕うのも頷ける。

 

「明石さんはもう少し釣りをするので遅れるそうです。北上さん、不知火さん、伊勢さんの三名はもう直終わるそうです」

 

 鳳翔の言葉を引き継ぎ、大和が現状報告をした。

 

 物腰の柔らかかった鳳翔とはうって変わり、ハキハキとした物言いに、性格の差が伺える。

 

 身長差で大和のほうが圧倒的に高いにも関わらず、一つ一つの行動を見ていると鳳翔が大和の母親に見えなくもないのが何とも可笑しく、頬が緩む。

 

「武蔵どうかしました?」

 

「いや何でもない。提督。この後私の予定はどうなっている?」

 

 大和に目ざとく見られていたため、話題をすり替えることに。

 

 少なくとも決まっていなかったことは事実なだけに後ろめたさはない。

 

 予定の確認のためか、手に持っていたクリップボードに目を落としながら暫し思案をしていたが、決まったのか視線がぶつかる。

 

「武蔵。お前も片付けを手伝っておけ。基礎教養は終わっているから今日は残りの時間を自由に使って構わない」

 

 一度言葉を区切り、クリップボードとを目が行き来してから決定事項を告げられる。

 

「明日はお前の初陣だ。敵艦と戦うことはまださせないが、心構えだけはしておけ」

 

「無論だ」

 

 不敵に笑んで見せる。

 

 まだ海戦は許可されないが、それでも装甲を使った戦いを生で見られるのは、この一週間お預けを食らっていた武蔵としては興奮を抑えろというのが無理な話。心臓の脈動を感じ取りながら、早く明日が来いと海を睨みつけた。

 

「気持ちは分からないでもないけれど武蔵。先ずは食料品を運びますよ」

 

 高揚した気分を台無しにすることを姉妹艦に言われ、ジト目で見ると鳳翔にクスリと笑われてしまい、なし崩しで落ち着いた興奮をしまい込み、ため息混じりにトレーラーから荷物をおろし始めた。

 

 

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