継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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第六章二幕 右翼戦線

「武蔵生きているか?」

 

「当然だ。そう簡単にくたばってたまるか」

 

 背後にいる相棒に声を投げかけると、ぶっきらぼうに返されてしまった。

 

 だが、雑ではあるがまだ気力を感じ取れるだけ長門は安心し、深く呼吸を入れる。

 

「それよりお前はどうなんだ。怪我とか負ってないだろうな」

 

「人の心配する余裕があるとは恐れ入ったよ」

 

 戦闘が続きすぎて気持ちの昂ぶりが抑えられないのか、皮肉で返した。あんまりな言い方に自分でも口にしてからしまったと思うが、存外に武蔵は気にしていないようで、

 

「耳が痛いが、そいつは後で纏めて聞くとしよう」

 

 僅かに乱れていた呼吸を整えることに集中しているようだった。

 

「長門さん。あんたはどれだけ沈めたか覚えているか?」

 

 武蔵に言われ、数秒考え込むが、流石に数など全て覚えているわけがない。

 

「大雑把でいいならば」

 

「構わん。しょせん戯れ言だ」

 

 気分転換の世間話といったところなのだろう。

 

 何十時間と戦い続けているのだからそれも当然かと内心頷く。

 

 声を出さなければ言葉を忘れてしまったのではという錯覚は、長門にも覚えがあるだけに、否定する要素などどこにもない。

 

「恐らく一万と五千といったところだろう」

 

「やはりか」

 

「そういう武蔵はどうなのだ」

 

「まぁ似たようなものだ。一万三千か四千辺りで間違いはないだろう」

 

「ならば二人合わせて二万八千辺りか」

 

 そう考えるとかなりの数をこれまで倒してきたことになるが、それでも敵は全部で十五万。同じ数を左翼と中央で沈めたと仮定しても、九万未満。やっと折り返しを超えたと言ったところだ。

 

 そこまで考えに至り、登っていく朝日とは逆に沈みそうになった。

 

「まだまだ先は長そうだ」

 

 他の者達がもっと多くの数を沈めていると期待して、小休止から戦線に復帰する。

 

 近場にいた姫クラスの集団に真正面から向かう。

 

 休憩しながらも敵からの攻撃は止んでないため、依然戦争は続いている。

 

 上空には敵艦載機が飛行しており、時折爆撃を行ってくる。精密な砲撃も行われているため、防御を疎かにしていい時が瞬きほどもない。

 

 臼杵鎮守府において建造初期は全員誘導性艤装装甲で防ぐことばかり教えられる。長門も同じく防御ばかり教育され、納得の行かない感情に駆られていた時期もあったが、今この瞬間ほど感謝したことはない。

 

 呼吸を行うように最適の量を導き出し、防ぐ。

 

 両腕に装備された明丸《鉄腕》は手甲型だ。それも北上の攻撃するためのものとは違い、防ぐためのもの。

 

《スティンガー》についていた杭打機のあった部分には、西洋の盾を縦長にしたようなものがついていた。

 

 長門は迫りくる凶弾達に盾を向け、広げた。

 

 長門の腕の倍程度にしか横幅のなかった盾は、羽を広げるように左右へ拡張され、次々と砲弾を表面で滑らせそらしていく。

 

 それた砲弾は後方へと離れていき、逆に長門は敵に向かって一歩一歩確実に進んでいく。

 

 長門の戦い方は単純だ。

 

 最短で近づき、殴る。

 

 そのため昔の被弾率は相当に酷いものだったが、自分が竹を割ったような性格であることを理解しているだけに、細かい技を取り入れながらの戦いというものを不得手としていた。武蔵が建造されるまでは。

 

 それまでは長門以外は実直なものなどいないため、客観視というものができなかった。他にも木曽が近い存在ではあったが、レベルが違いすぎて参考にもならない。そのためどれだけ自分がおかしいことをしているか気付けないでいた。映像で見てもピンとこずにいたものの、武蔵の戦い方を見てからというもの、自分の不格好な行いにやっと気付けたのだ。かと言っていきなり戦闘スタイルを変えられるほど器用でもない。故に繰り返し鍛え続けたのが、最初は嫌がっていた受け流すという術だ。ただいきなりやれと言われてできるほどの柔軟性もないため、よりやりやすいようにと造られたのがこの《鉄腕》だった。

 

 始めは使い方が雑で全て防ごうとしていたが、今ではそらすことの難しい攻撃のみを選定し防ぐ、というより高度な状態にまで至る。

 

 奇しくも、自分が嫌がっていたものが一番の武器になるのだから皮肉なものだ。

 

 両腕を最適な角度に合わせ、倒すべき敵艦まで最速で近付く。

 

 ターゲットになったのは重巡棲姫。

 

 理由など何もない。この乱戦下において一番近かったから。ただそれだけ。

 

 近寄られた重巡棲姫は焦りを見せつつ自身も、白い大蛇――――人類側では白蛇(びゃくい)と呼ばれている――――も操り砲撃の手を休めない。それは回りも同じだったのだが、重巡棲姫が前に出た瞬間、僅かな空白ができた。

 

 確かこのような間を天使が通ると西洋では言うのだったかと、以前読んだ本の内容が脳裏を掠めつつ、更に一歩踏み込んだ。

 

 砲撃の残響だけが周囲に広がる中、砲台の役割を担う白蛇と重巡棲姫も大きく踏み込み、喰らいつくように上下で攻めてくる。

 

 巨大な顎門(あぎと)となってくる二つの存在に、長門は下からやって来る白蛇の上顎を掴み取り、振るい上げた。

 

 鞭のようにしなった白蛇は重巡棲姫の体を激しく打ちつつも崩壊。重巡棲姫は真上へと強制的に方向転換させた。

 

 重巡棲姫は苦悶に歪むよりも先に、この後自分が待ち受けている未来に絶望してか、悲痛な表情を浮かべていたが、長門は容赦なく落下速度に合わせて拳を振るい、腹部をぶち抜いた。

 

 腕に装備していた《鉄腕》が遅れて重巡棲姫の胴体を押しつぶしながら両断。上下に分かれた体は海に落下しながら液体へと変わっていった。

 

 休む暇もなく長門は反応の遅れた戦艦ル級の頭部を鷲掴みし、近くにいた他の深海棲艦目掛けてぶん投げまとめてなぎ倒しつつ、近場にいた軽空母ヌ級を投げたモーションの振り返りざまに裏拳で頭部を消し飛ばす。

 

 背後を見せたことで縮地で攻めてきたeliteのレ級の拳を首の動きだけで避けてから、腕をへし折りながら腹部に膝を入れ、ひるんでいる間に尾角を掴み、やってきた砲弾の弾除け代わりに振り回して防いだ。レ級はダメージから装甲が使えなかったのか、全弾被弾し、振り終える頃には手元から消えていた。

 

 全体的に砲弾数が減っていることから自然と長門の攻撃の手数が増えていき、敵艦を削ぐ速度が加速していく。

 

 五〇メートルも離れていない武蔵の方へ軽く視線を投げると、胸元のさらしとスカートの一部が焦げてはいるが、それも敵の攻撃の層が厚かった十数時間前の話。今は攻勢に出られているからか表情に陰りは見えず、脆さを感じさせない。

 

 長門としても思い通りに戦えることがこうまでストレスに影響するのだと、初めて自覚しただけに、思わず顔がほころぶ。

 

 途中臼杵鎮守府専用の信号弾が上がったりして不安なことは何度かあったが、現状安定しており、このまま押し通せるのでは。

 

 そう思った直後のことだった。

 

「――――武蔵!」

 

 寒気を覚えた長門は名を叫ぶと同時に、脳に直接杭を刺されたかのような頭痛が襲いかかる。

 

 あまりに唐突なことに膝を付きそうになるのを懸命にこらえ、奥歯を噛み砕きながら両腕の盾を腹部の交差させ、全力の装甲を展開する。

 

 寒気と頭痛の因果関係など調べるよりも先に、一つの結果を長門は知った。

 

「……く、そ」

 

 両腕の装備された盾。

 

 交差された鋼鉄の塊は迫りきた飛翔体を、鈍い音を響かせつつ形を歪めながらも防ぐことに成功した。が、

 

「長門さん! おい長門!」

 

 防いだものは跳弾し、長門の左太ももを打ち抜き、大穴が空いていた。

 

 武蔵がふらつきながらも跳んでくるのが視界の端に映しつつ、膝が崩れ落ちる。

 

――頭痛の原因はなんだ? それに今の砲弾。《鉄腕》で防ぐどころか装甲を貫いて……。

 

 思考が結論に至るよりも先に、幾つもの砲身が自分を狙っていることに気付き、吹き出る脂汗と一緒に歯噛みする。

 

 少なく見積もっても五十は飛んでくる砲弾。

 

 先ほどまであった防御への自信など、既に消え失せていた。

 

 

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