来る拳を受け流し、サーベルを下から上へと切り上げていく。
しかし相手の方が装甲の総量が上か、防ぐために上げた膝に阻まれ、代わりに頭部へ回し蹴りが飛んでくる。
しゃがんで躱すように見せかけつつその場で一回転して踵落としを繰り出すが受け止められた。が、それは誘いだった。二本の刀剣を相手の首筋めがけて振り下ろす。
流石に三ヶ所同時に防ぐのは避けたいのか一気に距離を取られてしまう。
着水しながらも次はどう攻めるべきか思案するよりも先に、巨大な黒い物体が目の前まで迫ってきていた。
慌てて防ぐものの相当な威力だっただけに即座に切り替え、蹴りながら黒い物体を踏み台に、自分から距離を取ることにした。
「フ、ヤルジャナイカ、キソ」
「は、まさか艤装を蹴って武器に変えるとはな。恐れ入ったよ」
自動で戻る機能でもついているのか、黒い半球状の艤装は元々そこにあったかのように融合棲姫の背後に存在する。
融合棲姫特有の行動や現象は幾つもあったが、これもまた特殊なことかと思うものの、翌々考えれば艦娘でも不可能ではないことを思い出し、久しぶりに長めの息を吐きだす。
──駄目だな。疲労かどうかは知らんが、少しばかり思考が鈍くなってきてるか?
融合棲姫との戦闘は始まってから既に二時間経過していた。
お互いにまだ決定打はない。
それどころかまともな外傷など与えるには至っていない。
完全なる平行線が二時間の間ずっと続いていた。
──とはいえだ、あいつはまだ砲撃の一発も行ってない。前も一回使っているんだ。あの玉から伸びてる砲塔が飾りなわけ無いだろうし、弾薬が付きているなんてこともないだろう。要はまだあいつにとっては遊びの範囲内ってところか。
普通の砲弾ならば木曽にとって目くらましにもならないが、相手はイレギュラーな存在。大和型の倍の火力があっても不思議ではないだろう。
これだけ使ってこないのだからこれ以上警戒するのは注意散漫にもなりうるが、無警戒でいていい程生易しい相手ではないため、結局は意識を割かずにはいられなかった。
そしてそれは、この後功を奏すこととなる。
再び縮地を使って接近してきた融合棲姫は直前で一回転する。踵落としをするには早すぎ、二回転するならば隙だらけすぎた。
わざとだろうと木曽は右へ避けると、融合棲姫は自分の艤装の砲塔を掴み鉄球のように振り下ろす。だけではなかった。
立ち上る水しぶきは視界を覆い、その奥から真横に切り裂くように何かがやってきた。
とっさの判断で柄頭を当てて軌道をそらすと金属音を奏でたが、そんなことはどうでも良かった。
背筋を走る寒気。
切り裂かれた水しぶきの向こうでニタリと笑みを浮かべる融合棲姫。
木曽は軌道をそらしている体勢のまま縮地を使い離れるが、完全に狙われているのがわかった。
消えない寒気がその証拠。
どうするか悩むよりも先に、融合棲姫の口が開かれる。
「シズメ!」
木曽の耳に届くと同時に内蔵までもを揺らす轟音が鳴り響く。
縮地の影響でまだ空中にいる木曽では行動に制限がかかりすぎていた。故に思考よりも先に反射が機能した。
右手に持っていた日本刀で海を斬りながら再度縮地を行いつつ、左手のサーベルで飛翔体を切り払いに行く。
経験上これで切り抜けたことは何度かあった。何千何万と経験した訓練や戦場の中で幾度か実際に行ってきた行為。
経験に裏打ちされた反射だったが、融合棲姫はあっけなく先をいく。
「なっ」
──んだとぉ!
切り払いに行ったサーベルは飛翔体。砲弾に触れる直前で弾かれてしまった。そして砲弾は止まることなく進み、木曽の左肩を削り取りながらも勢いは止まらず、遥か後方まで突き進んでいった。
──馬鹿な、今のは砲弾だったはずだ。なのに弾かれただと!
肩にある痛みよりも驚きが大きく、海中に落としたサーベルにも意識は行かなかった。寧ろ痛みが思考を回し、一つの結論を導き出す。
「まさか、お前の砲弾は」
「アアソノトオリダ。アタシノホウダンハナキソ、オマエタチノイウ、ソウコウガハレルンダヨ」
自分の艤装の上で胡座をかきながら自慢気に話す。
「トウゼンソウコウガナクテモ、イリョクモソクドモ、オマエタチヨリウエダガナ」
「は、はは。やばいやばいと思ってはいたがそれほどとはな」
相手が相手だけに想定外を想定してはいたが、それ以上のものが飛んできたために、動揺が走る。
「ダガ、イマノガヨケラレルトハオモワナカッタゾ。コイツトイッショニ、ハジョウコウゲキヲシカケタンダガナ」
融合棲姫は左腕を突き出す。その先には刀が。否。
「野太刀か。つくづく猿真似が好きなやつだな」
先程波しぶきを切り裂いたものが何なのかがわかったものの、状況は好転するどころか悪化していた。
相手の手の内は恐らく殆ど出せたはずだが、それだけに限界に気付く。
無理だと。
どう分析しようにも分が悪すぎるのだ。
仮にまだ無傷だったとしても、恐らく刺し違えるつもりで戦わなければ勝つ見込みは薄いだろう。
──まさか防御不可能な攻撃とか有りかよ……。
そこまで考えると同時に、かつていた伊勢の最後を思い出す。
──そういや伊勢さんも頭部を負傷してたな。なんか砲弾にカラクリがあるとかどうとか。なんでオレはそんな重要なことも忘れちまってたんだろうな。
右手に握られたものに視線を落とす。そこにはその伊勢が残した置き土産。折れた野太刀を打ち直し、日本刀として蘇らせた明丸《鋼》があった。
これは木曽にとって誇りであり、誓いであり、何より生きる意味だ。
──ああ、そうだな。何度も。そう何度もだ。これまで窮地に立たされることなんてあった。死物狂いでここまで来たんだ。自分より強い相手だってこれまでいたが、それでもまだオレはこうして生きている。そしてオレは誓ったはずだ。剣造に、この刀に、最強の艦隊を作ってみせると。だったら負けるわけにはいかない。無理だろうがなんだろうが食らいつき、最後には勝つ。これまでも、これからも。
「そうだよな、伊勢さん」