長門を狙ったと思わしき砲弾は、その全てが長門に当たることはなく、近くの海面に叩きつけられ水柱を上げていた。
「あの距離を外した?」
「違うよく見ろ。あれは長門が受け流したんだ」
隣に立つ木曾に言われ、特定の敵に砲塔の角度から着水場所を予測。長門は迂回するでもなく真っ直ぐに突き進んでいることから、動きは早くはあっても計算は簡単なものだった。
――flagshipだと確実だな。あれなら絶対に。
当たる角度だと自分でも確信して見続けていると、マークしていた複数の敵艦が一気に砲塔から火を吹かす。
完全に見切れてはいないことから途中の軌跡は追いきれていないが、それでも外れるとは思えない砲弾が、またしても長門に当たること無く反れる。
「装甲ってのは艦娘であれ深海棲艦であれ常に使い続けている。ただその強弱を理解して使える奴は最近増えてきてはいるが、それでも数が限られている。大半は未だに無意識に任せているという有様だ」
「常に。ならば私もか?」
「その通りだ。だからこそ艦娘は一撃で沈むことはそう無いと言われているわけだ」
シガリロを取り出し吸い始める木曾。戦場での煙草に一言苦言を出したい気持ちにもなるが、敢えて黙って続きを待つ。
「んでここからが重要だが、初日に言った通り装甲の本質は反発にある。だが残念ながら射程は体ないし艤装から十センチ先が限界。その結果肉弾戦するハメになってるわけだ」
シガリロを差し出してくるが、断ることに。今は煙草を楽しむ余裕等何処にもない。
「でだ、初日にお前の砲弾を掴んでみせたのはちょっとした曲芸じみた物で、実際戦場ですることはないから安心しろ。おまけをつけるなら武蔵、当然だがお前の主砲は無駄じゃない。十分有効な武器だ」
「簡単に掴んで見せた人に言われてもな」
「あれはオレもお前も動いていない。撃つタイミングも角度もわかっているからできることだ。でなければ初速の早い四六センチの主砲を、あの距離で掴むなんてオレでもできない」
誇りとしていた砲を褒められ、悪い気はせず思わず口角が緩む。
それを気取られたくなくて、目に力を入れて無理に真顔を作る。
「重巡以上の砲ならば装甲を使いこなしている深海棲艦相手でも、目くらまし以外にも使えることが多い。大和型の戦艦なら尚更な。その辺は既に大和で実証済みだから一度詳しく聞いてみると良い」
大きく紫煙を吐き出し、潮風と一緒に空気中に消えていく。
「話は戻るが装甲の本質は反発だが、方向は一つじゃないってのがミソだ」
「ん? 相手に返すんじゃないのか」
「それは反射だ。反発と反射の違い。説明が必要か?」
「あぁ、そういうことか」
反発はあくまで自分に来る障害に対して跳ね除けること。反射は自分に来る障害を障害の発信源に戻す行為。似ているようで異なることを改めて強調され、理解した。
「わかったのなら先を続けるが、装甲は反発だからこそ自分が好きな方向に反発する力場みたいなのを出せる。例えば今長門がやっている拳の先に出して真っ直ぐ殴るのが一般的だな」
いつの間にか敵艦隊の陣形内に入り込んでいた長門は、拳を振るって深海棲艦を沈めていた。時折砲撃音を鳴らしていることから、装甲を使った肉弾戦一辺倒ではないと知れただけでも今日の収穫としては十分だった。
「拳を突き出しても反発の方向を調整すれば色々できるぞ。例えば首の動きだけで避けられても、十センチ以内なら装甲の射程範囲だから、再度拳を振るわなくても装甲を当てられたりとかな」
慣れるまで難しいがと補足はつけられるが、それでも力がどんなものか想像し易いだけに大変ありがたかった。
「つまり反発を上手く使うと、砲撃に対し真っ直ぐ装甲をぶつけなくてもいいと」
「そういうことだ。これも慣れだが防ぐより受け流すほうが簡単だったりもするぞ。装甲ってのは使える量が艦種毎に違うが、それでも一度に使う量を調整しなきゃ次の瞬間に使えなくなることもある。受け流すほうが装甲を使う量が少なくて済む分有効というわけだ。まぁ角度を間違えたりすると大惨事になるがな」
木曾はクックと笑っているが武蔵には笑い話には思えず、釣られて笑うが引き攣ってしまい、乾いた声が漏れ出るだけだった。
「何はともあれ、初めて装甲を使った戦闘を見るのはどうだ。悪くないだろ」
「ああ。私も早く使えるようになりたいと思える程度にはな」
「そいつは重畳だ。因みに武蔵、お前という存在がいない時の話だが、長門はうちの艦娘だと一番弱いから、お前はアイツを超えられるように頑張れよ」
「一番弱いだと? あれでか」
歯を食いしばって装甲で砲弾を受け止め、反撃に主砲を一斉射。追い打ちに拳を振るって沈めている長門の姿に、最弱という言葉は不似合いにしか思えない。が、それが臼杵鎮守府での当たり前なのだと今は無理矢理に納得した。
「ところで木曾さんならあの敵艦隊。どれくらいで片付けられるんだ?」
長門が最弱ならば木曾は最強。少なくとも提督から木曾が一番強いことは聞いているため、参考までにと聞いてみたが、耳を疑うようなことが飛び出した。
「そうだな。あの程度なら十分いるかどうかってところか」
「冗談、だろ」
「ま、近いうちに実際見せてやるよ。見えたら、だがな」
予想の斜め上を行く言葉が次々に出てきて、最早想像すら出来ない。虚偽なのか真実なのかわからない内容に、驚きを通り越して呆れてしまっている。
「一本、もらっていいか」
ここまで来ると気を紛らわせていなければ此処から先、全て流してしまいそうな心境に一度断ったシガリロを要求するが、木曾は快く差し出してくれた。
気分を紛らわすため、口内喫煙しかしてこなかった武蔵は肺にまで煙を送り込み、吐き出す。少々キツくはあるが、それでも気分転換には丁度良く、今尚一人戦い続けている長門には悪いが喫煙を楽しませてもらった。
そこで初日から思っていたがつい聞く機会がなく、今日まで引き伸ばしていたことを思い出し、気分転換代わりに問いてみることに。
「なぁ木曾さん」
「なんだ」
「最初に言われたが無敵艦隊って恥ずかしくないか?」
暫しの沈黙が落ちる。聞こえるのは遠くで鳴り響く砲撃音のみ。次に木曾の口が開くまで数秒要した。
「………………気持ちはわからんでもないが回りが勝手に言ってることだ。オレ達じゃどうしようもない」
大人しく受け入れろと、どこか遠い目をしている木曾の横顔に、もしかして気に入っていたのかななどと邪推しつつも声には出さず、紫煙と一緒に飲み込んだ。