継承の鋼2~空っぽの弾薬庫~   作:アザロフ

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所謂後日談の一環です

空っぽの弾薬庫を書く前から考えてあった結末後の戦い

書こうかどうしようか悩みましたが、結局書いてしまいました

完全な蛇足なのでいらないと思ったらすっ飛ばしてもらって構いません

それでもおkって方は短いですがどうぞお楽しみください


闘争の鋼

 人は誰しも争い、時として傷つけ合う。それが心か肉体か、はたまた両方かは場合による。

 

 そして今木曽たちが行おうとしているものは、まず間違いなく肉体が傷つくことだった。

 

「本当にいいんだな伊勢さん」

 

「もう何度目だそれは。アタシがいいって言ってるんだから遠慮なんてするな。こっちは鈍った体をさっさと戻したいんだし」

 

 肌に触れる優しい潮風とは裏腹に、二人の間ではビリビリと空気が振るえ始める。

 

 もうこれ以上問答をしてもしょうがないと、両腰にさしている刀剣を一気に引き抜く。

 

 左手に持つは軍刀、サーベル状のものを。

 

 右手には新たに打ってもらった木曽専用の日本刀型の明丸《鋼・改(あらため)》。

 

 元々持っていたものは武蔵が改二になる時に材料として使用してしまったため、突貫で明石に作ってもらったものだ。問題は正式明丸と違って強度が脆いのだそうだが、基本装甲を纏わせて使うのだから問題はないだろう。

 

 伊勢は伊勢で、そちらも突貫で作ってもらった野太刀型の明丸《鋼》の鯉口をいざ切ってみせた。

 

 縦真っ直ぐに立てた野太刀を親指だけでツバを弾き、野太刀をまるっと上方へ飛ばそうとする。その際に刃先がでかけた瞬間に鞘で弾くことで回転させ、落ちてきたところを掴み取る。

 

 昔は見ることもどうやっているかもわからなった行動だが、今では手に取るようにわかる。なんだったら再現まで可能だ。

 

「は、存外この辺くらいならまだ鈍ってなかったみたいだ」

 

 だが所詮お遊びにすぎない。

 

 やろうと思えば臼杵鎮守府の者ならば全員再現は可能だろう。

 

 伊勢も伊勢であくまで装甲や体の感覚を確かめるのが目的なのだろう。その程度と見余っていい相手ではないからだ。

 

「それじゃあそろそろ行こうかね」

 

「あぁ、だな」

 

 二人して自分たちの提督である池上剣造へ視線を送り、合図を寄越せと目配せをする。

 

「お前らに無茶をするなと言っても無駄だろうからそれ以上は言わん。他の者もいるのだ。致命傷を負っていようと即ドッグ行きだ」

 

 提督の左右には臼杵鎮守府の艦娘がずらりと並んでいる。見学兼剣造の護衛目的だ。

 

 念の為砲撃は禁止のルールが課せられてはいるが、戦いに夢中になり忘れることを考慮してのこと。

 

「伊勢、木曽。お前達二人は新旧でのエースだ。気の済むまでやってみろ」

 

 本当に人をやる気にするのが上手い人だと木曽はつくづく思う。伊勢も同じ気持ちなのか、懐かしそうに笑みを浮かべている。

 

「では準備はいいな。それでは────初め!」

 

 剣造の掛け声とともに木曽は縮地を行い接近する。

 

 元々鎮守府湾内のためあまり距離は取れず、精々一〇メートル程度しか離れてない。となれば接触するまで一秒さえも不要だった。

 

「────ふぅっ」

 

 息を短く吸い込み左右の刀剣を上段から一気に振り下ろす。

 

 伊勢はまだ一歩も動いてはいなかったが、来るとわかっていたのだろう、安々と野太刀で受け止めていた。

 

 木曽も木曽で伊勢との戦闘など何万回とシミュレートしてきた。簡単に勝てる相手ではないことは百も承知である。

 

 木曽は受け止めさせる体勢のまま伊勢の顎先へと蹴りを放つと首の動きだけで避けられ、お返しとばかりにハイキックが飛んでくる。肘打ちを合わせて間をかけさせてから再度斬り込みに行く。

 

 サーベルを投げ飛ばし避けさせてからの日本刀で胴を斬りつけるが防がれる。直後にやってきた拳が顔を狙っていたため首だけの動きで避け、投げたサーベルを一度虚数へ送り再度手元へ出現さ、腕を狙って切り上げた。が、寸でのところで伊勢が足の裏に装甲を展開したのだろう。独楽のように回って避けつつも柄頭で側頭部を打ち付けに来た。

 

 どうするかと悩むのも刹那。咄嗟に前転して野太刀と腕の間に足を通し、伊勢の左腕に絡みついた。

 

 戦艦の膂力ならば重雷装巡洋艦の木曽の総重量、二〇〇キロ未満など屁でもないだろう。

 

 それでも動きを抑制するには十分だった。

 

 左腕を切り落としに行きながら右腕は心臓部へと突きを放つ。

 

 もし戦艦の装甲をフル活用して吹き飛ばそうとしても、足は腕を掴んでいるため離れることはない。

 

 防ぐための手段など本当に限られている。両方だと尚更。

 

 大体のものがこの状況だと心臓を躱すか防ぐかをして腕を捨てるのだ。だというのに伊勢は両方を守ってみせた。

 

「マジかよ」

 

「マジだ」

 

 切っ先が触れる場所へピンポイントで装甲を出現させていた。

 

 木曽は木曽で今装甲は切っ先にだけ集中させていたため、もし伊勢が装甲を分散させていたならば、装甲の総量の差を越えて斬りつけることができたのだが、その上を伊勢は行く。

 

 こうなると絡みついていた足が仇となる。

 

 伊勢は離れようとした自分の足を右手でつかみ取り、まるでタオルでも振り回すように振りかぶってから海面に叩きつけようとした。

 

 戦艦の膂力に装甲の力が加味される。おまけとばかりに人が散々練習して得た技である自分だけでの反発現象をやってのけたため、更に加速。こうなると艦娘は対処できなければ大破は確定。木曽でも例外ではない。

 

 ならばと木曽は両方の刀剣を握りしめ、海面に叩きつけられるよりも早く、海を切り裂いた。

 

 叩きつけられる海面がなければただ振り回しているだけ。しかも叩きつける際に投げる予定だったのか、拘束から開放された木曽は海底につくまでの間に姿勢を整えて見事着地してみせる。逆に伊勢の足場をなくしたことでバランスを崩し、落下させることにも成功した。

 

 とは言えってもあの伊勢だ。切り裂いた海の側面を蹴って上がるだけかと思いきや、わざわざ海底まで降りてきて、一緒に波に揉まれていく。

 

 装甲から先の視界全てが深い青色で満たされた海中で二人は歩み寄り、このままやり合うのかと思いきや、上に行こうと指を刺され、断る理由もないことから了承した。

 

「あの泣きべそがここまでやるようになっているとはね」

 

「ちょっと待て、血反吐は何度も吐いてきたが泣いてなんかないぞ」

 

「そうだっけ?」

 

 普段どおりの会話。

 

 このまま何もなかったように終わって酒でも飲むのはありだろう。

 

 だが、木曽も伊勢もそれを選ばなかった。

 

 至近距離からの斬撃。

 

 互いにぶつけ合った重い一撃は両者の明丸が堪えきれず、根本から折れてしまった。

 

 でも木曽にはサーベルがあるとそちらで斬りつけようとして、目元に何かが飛んでくるのを咄嗟に回避する。それが折れた刀の破片を伊勢が握りつぶして投げてきたのだと知るのは終わってからのこと。

 

 躱しつつ斬りつけたサーベルは伊勢が手の平で受け止め、握りつぶした。

 

 その合間を縫って木曽は拳を叩き込む。

 

 初めてのクリーンヒットが伊勢の頬へ突き刺さった。

 

 体勢が崩れた伊勢に畳み掛けようと接近仕掛け、再び何かを投げられ横へズレると、待ってましたと言わんばかりに伊勢が蹴りを放ってきた。ギリギリで装甲により防げたものの完璧とはいい難く、鼻血を流すには十分だった。

 

 邪魔くさいと親指で拭き取り腰を低くすると、伊勢も懐かしい構え、ファイティングポーズを取っていた。

 

 いつかの思い出。

 

 伊勢と行った修行の数々。

 

 その中には必ずあの構えが存在した。

 

 越えたい壁。越えられなかった壁。もう届かないと思っていた壁。

 

 それが今、目の前にあった。

 

──師匠を越えるのが弟子の努め、だよな伊勢さん。

 

 絶対に勝つ。

 

 何が何でも。

 

 細く鋭い呼吸とともに、伊勢はかつての願いを踏み越えるように一歩足を前に出した。

 

 棚引く外套を置き去りにするような高速の縮地を連続で行う。

 

 伊勢は背後に回っても首を動かすことはなく、じっと前を見たまま構え続けていた。

 

 舐めているわけではない。

 

 下手に動くと逆手に取られるのをわかっているから動かないだけなのだと、今の木曽にならばわかる。そして背後こそ最大に警戒していることも。

 

 ならばとあえて火中の栗を拾いに行くように、背後から攻め込んだ。

 

 右ストレートで背骨を狙いに行くと、伊勢は軸をズラしながらも反転。自分の拳へ左腕を合わせるように突き出してくる。

 

 装甲の差で本来ならば負けることが必定だが、誘いで放った右拳を開き、受け止めるようにしながら左の掌底を伊勢の伸びた肘に叩き込む。

 

 苦痛に歪む伊勢。

 

 それもそのはずだ。いまので確実に骨を折ったのだから。

 

 でもさすがは伊勢と言うべきか。

 

 かつて最強の名を欲しい物にしていただけのことはあった。

 

 木曽の攻撃に合わせて反撃として膝を突き立てていたのだから。

 

 モロに受けた木曽は肋骨が三本程折れたことを自覚しながらも、その場で高速回転し、受け流しに使用した右腕で裏拳を放ち、お返しとばかりに肋骨を二本ほど頂いた。

 

 負けじと伊勢が右拳を振るうが、木曽は即座に距離を取り、最接近する。伊勢が対処しづらい左側から。

 

 伊勢は持ち前の反応速度で足刀蹴りを放ってきたが、木曽はそれを支え代わりに利用してドロップキックを決める。が、ダメージは浅く隙だらけの肋骨にアッパーカットが決まってしまった。

 

「がふっ」

 

 左右両方の肋骨をやられたことでただ歩くだけでも激痛が走るが痛覚を抑え込み、やられた体勢のまま伊勢の頭を蹴り飛ばした。

 

「がぁ、くっそがあ!」

 

 しかし空中での身動きを取るには制限がかかりすぎ、海面に足をつけている伊勢の方が早いのは道理。

 

 着水するよりも前に接近し、がら空きの腹部へ拳を突き立てに来る。

 

 万事休すかと木曽自身も思ったが、体は自然と動いていた。

 

 来た伊勢の左拳を両手に集中していた装甲で受けずに反らしつつ、腕を支点にして回り、伊勢が通り過ぎるよりも前に背中へと肘を突き刺した。

 

 空中での攻撃の影響で受け身がお互い取れなかったが、装甲の再使用は重雷装巡洋艦である木曽の方が早い。故にと一気に攻め込んだ。

 

 しかし伊勢はそれさえも読んでいたのか、接近直後の木曽に左腕を繰り出す。

 

 今更止まれるものかと木曽も拳を突き出した。首をひねりながら。

 

 突き刺さったのは、木曽の拳だけだった。

 

 頬を擦り耳は持っていかれたが、伊勢の拳は木曽へダイレクトに当たることはなく、木曽の拳は逆に伊勢の頬を確実にとらえていた。

 

「やるじゃないか、木曽」

 

 そう言って、伊勢は海面に腰を落とす。

 

 もう闘志のようなものは感じられず、穏やかな表情をしていた。

 

「あんたの勝ちだよ」

 

 ゆっくりと伝えられた敗北宣言にわけも分からず、周りを見回し、剣造の顔を見ると頷いており、それでやっと自分が伊勢に勝ったことを理解した。

 

「やったあああああああああああああああ!!」

 

 柄にもなく叫び声をあげ、ガッツポーズまでもを取っていた。

 

 でも今だけは許して欲しい。

 

 たどり着きたかった域へ。

 

 隣に立ちたいと思っていた人の側へ行けたのだから。

 

 




以上が後日談的なものの一つです

これにて木曽は伊勢に勝利を収めていますが、まぁ実際は戦力は互角です。勝ったり負けたりするような関係にまで木曽が頑張ってなったので

といってもこの時の伊勢はまだ自分の体に戻ってからの感が鈍っており、若干能力に下方修正が入っていますが

でないとどっちか必ず致命傷を負う戦いになるので……

因みにどちらもこの時は指輪をしていません。なので能力ブーストもされていない、いわば標準的な艦娘としての限界値まで登りつめた者同士の戦いということになりますね

ではこれにて終わりとさせていただきます。それでは
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