十三世界でただ一人   作:来海杏

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夜に溶けたい②

「傷付いたからって誰かを傷付けて良い理由にはならない」

 

 

 

夜中の2時過ぎ、ウチの生徒が警察に補導されたと宿直の警備員に連絡が入りあれやこれやの職員室内の政治を経て僕に彼女を迎えに行く仕事が回ってきた。

 

 

 

どういう意味?

 

 

 

つぶらな瞳で彼女が此方を見上げてくる、歳のわりには大人びた格好をしているがまだまだ子供だ。ホントならこんな時間に出歩いてたら親が心配してたり、探し回ったり、そう言う、そんな思考に没入し掛けて深く息を吸う

 

 

 

「……所詮は期間限定の仕事か」

 

 

 

 

 

明日の朝が早いのに起こされた事への怒りや、職員室内の政治何て言う下らない物への怒り、どうしようも無い彼女の両親への怒り。全てを呑み込んで彼女を見つめる。

 

 

 

 

 

「皆苦しいんだ、生きるって、生きてるってそう言う事なんだよ」

 

 

 

……そんなの知らないよ、私は私以外じゃないし、それに、それに!!

 

 

 

「ストップ」

 

 

 

そっと彼女の頭に手を置きクルクルとしたつむじを人差し指でトントンと優しく叩く。

 

 

 

彼女の、あの子の好きだった動き、こうすると何時もあの子はくすぐったそうに笑った。

 

 

 

 

 

触らないでッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

強く払い除けられた手はあの子と彼女は決して同じでは無いのだと言う事と、……そんなことをここまでしないと感じる事すら出来ない僕の無神経さを証明していた。

 

 

 

 

 

「悪かったよ、昔の知り合いに似ててね」

 

 

 

 

 

……知り合いって誰?

 

 

 

怪訝な顔で、でもおそるおそるって目で彼女が聞く。安物の腕時計で時間を確認すればもう間もなく朝の4時になろうかと言う所であった。

 

 

 

 

 

「真面目に学校通って、しばらく悪させずにマトモに生きられたら教えてあげるよ、今日はもう眠すぎる」

 

 

 

とりあえずタクシーを捕まえて彼女を送らないと、そう思い幹線道路に向かい歩いて行く。

 

 

 

覚悟は決めたが気分は沈んだまま、徐々に夜は白んでいく。クソったれだ、クソばかりだ、こんな世の中滅んじまえ。安い呪詛を頭の中で吐いたところで重苦しい現実も寝不足の頭も変わりはしない。

 

 

 

 

 

そっ

 

 

 

 

 

気付かれたくない見たいに、怯える様に彼女が俺の左手を掴んだ。

 

 

 

 

 

「……クラネコ先生、歩くの早いよ」

 

 

 

「あ?あぁ、ごめんね、気を付けるよ」

 

 

 

初めて彼女の目を真っ直ぐに見た気がする、僕は曖昧に笑おうとして、頬が引きつるのを感じた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「君の嫌な噂ばかりを聞くんだ」

 

 

 

生徒指導室で知り合って以来、彼女の方から何度も話し掛けられ、いつの間にやら彼女に勉強を教える位の中にはなっていた。

 

 

 

 

 

彼女と仲良くなれば自然と聞こえてくる話もあって、やれ学園の外で歳上のオスを相手に楽しげにホテルの中に入って行ったとか、やれ裏市に普段から出入りしているとか、酷い話だと肉食でワルの彼氏の為に草食の親父を誘きだして売り飛ばして居るなんて話もあった。

 

 

 

 

 

見ない振り、聞こえない振り、知らない振り

 

 

 

何度も頭の中で繰り返した

 

 

 

見ない振り、聞こえない振り、知らない振り

 

 

 

 

 

父が家庭の中で傍若無人な王として君臨していた頃繰り返していた言葉、処世術

 

 

 

でも限界だった、処世術の結果、僕は独りになっている。母も妹も失って、その上彼女まで失う事を想像したら泣きそうになる。

 

 

 

 

 

どうやら、なんと言うか僕は

 

 

 

夜眠れなくなる位には彼女の事が大切だった。

 

 

 

 

 

 

 

そうして、未熟で気高い17歳の僕は彼女に向き合う覚悟を決めきれ無いまま、水が零れ落ちる様にその時を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

それは彼女に頼まれて勉強を教えて居た時だった。場所は図書室、彼女は悪い意味で有名だったから、なんでこんな所にコイツが?って顔で皆が彼女を見ていた

 

 

 

なんでも無い顔で彼女に勉強を教えて、彼女の笑顔に頬が熱くなって、彼女と手が当たって鼓動で胸が痛くなって、彼女の匂いに少しだけ興奮して

 

 

 

そうして窓から夕陽が差し込む様になって来た頃、僕は震える声で彼女に言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「君が傷付くと僕は悲しい」

 

 

 

 

 

しまった、やらかした。そうすぐに思った

 

 

 

 

 

氷よりも尚冷たい目、生き物が死んでその魂が抜ける瞬間の目、彼女の魅力的な黒の毛並には不思議と似合うそんな目を彼女はしていて。

 

 

 

現実逃避だった

 

 

 

「アンタ何様よ?」

 

 

 

しまった、やらかした。僕はまたすぐにそう思った

 

 

 

世界が止まる、呼吸の仕方を忘れそうになる。彼女は酷く怒っていた

 

 

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