二種類の生き物が居た
片方は遠い宇宙で生まれ人類と同じ様な道を辿り知恵を得て少しずつ少しずつ知恵を育てていった別の人類、地球人類には発せぬ呼び名の彼ら。
ハナカマキリに似た昆虫を祖先に持つ彼らは人類と似たり寄ったりの歴史を送るが、歴史の中で着々と知性を磨き、ある日、自分自身の身体をある波に変換する科学技術に至る。
波となれば他者と他者が完全な合一を果たす、真に理解をしあうことが出来ると信じた彼らは被験者二人を波にする実験を行った。被験者二人の交じり合う意識、激しい拒絶感、他者の意識の何と汚い事か、悪意と苦痛に満ちたことか。共鳴する苦悶絶望悪意殺意悲しみ苦しみ。
合一を果たしながらも流れ込んでくる他者の苦痛はその技術が未完成である事の確かな証拠であったがそれを研究者に伝えるより早く被験体であった二人は狂った、彼らの文明において美しく聡明な男女の恋人同士であった。
合一の結果生まれた他者を滅ぼさねばならぬという焦燥感を抱えた波、波に変換した存在を元に戻す技術は存在していたがそれには波の側からの協力が必要不可欠だ。それに対し波は自身の波長を自在に変調させ巧みに彼らを滅ぼしていく。先ずは一瞬の内に研究所が消えた、次に研究所のあった街が消えた、その次に州が、その次に国が。そこで初めて彼らは波の存在に気付き戦争を始めたが、彼らの人類より遥か先の科学力を持ってしても波を僅かに跳ね返す事が出来るのみ。
その僅かな抵抗でさえ始めるまでの準備に多大な時間が掛かり、ようやく彼らが僅かばかりの安息の地を得たのは彼らの7割近くが塵となった後だった。
正体すら分からぬ敵にこのまま抵抗すら出来ず自分たちは滅ぼされるのか、彼らは考える。何かを探さねば、何か、何か無いのか、そうして長い時間探し続けた。そして消えてしまった多くの記録、その中から自分達を救うかもしれない技術を見つけたのだ。
波により大地は死に絶え緑や虫の声は途絶えた、雨は汚染され海には魚たちの死骸が浮く。彼らには時間が無かった。そうしてまた長い時間を掛けやっと彼らは僅かに残った資料からその技術を作り出すことに成功する。
生き残った全ての彼らはその技術に身を任せる、小さな男の子は近所の女の子に恋をしていた、妊婦は子供を産むかどうか夫と話し合い勇気を振り絞ってこんな世界でも産むのだと決めた。老人は残ろうとして若者に止められ背負われながら感謝に涙する、心を病んでいた男はたまたま隣に立っていた長く病気を患っていた女をデートに誘い二人は手を繋ぐ。ある家族の父親は妻と子供をずっと一緒だと抱きしめ、孤独な者には誰かが寄り添い声を掛けた。
そして、スイッチが彼らの大統領により押される。
彼らが僅かに残った資料から見付けた技術、それは人間を波に変えるというものだった
彼らは自分が何と戦っていたのかすら理解して居なかった
そうして、彼らの星には死んだ大地と汚染された海、僅かな深海生物だけが残った。
合一を果たした彼らには他者を滅ぼさねばという使命だけが残っている、だがもうこの星に自分達以外の一定以上の知能を有した存在は居ない。だが、他者を滅ぼさねば、自分以外が存在する事など絶対に許してはならないのに、どうすれば
そこで彼らは気付く、自分達以外が発する周期的な波。夜空の星々
無限の宇宙を目掛け彼らは同心円を広げていく様に羽ばたく、あの光の中に他者が居るかは分からない、だが他者は滅ぼさねばならない。
こうして、間違った確信を持った焦燥感が全宇宙に広がっていった。
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もう片方は?
地球上の大阪市、深夜3時の南港にある倉庫で死に掛けている男だ。
殴りつけられ晴れ上がった瞼に切り落とされた両耳、剥がされた爪と割られた膝。夜が明けるまでに彼は大きな金網に針金で縛りつけられ大阪湾に沈む、絶対にここから生きて出る事は無い。金網なのは腹を確りと割けば網目からガスが抜け死体が浮きあがってこないからだ。彼を縛り付けた男が最初にとても丁寧に彼に説明した。
今彼が何もされず座って居られるのは自分の娘に手を出した愚か者が死ぬ姿をこの目に焼き付けたいと、娘とともにこちらに向かっているボスを彼を取り囲む4人の男達が待っているからだ。
彼は神戸坂口組系列城崔会構成員、城嶋コウジ。
3次団体でありながら僅かな機会を手繰り寄せ、まだ高校生である神戸坂口組組長の娘を口説き落とし。妊娠させた挙句逃げることにすら失敗した愚か者であった。