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空が真っ赤だった。
あの日、悲鳴があちこちから聞こえてきて目が覚めた俺は怖くて布団の中で丸まってた。悲鳴をあげないように隣で眠る妹の手を強く握る、確かめたことは無いが多分妹も、アリサも起きてたと思う。妹の手は震えていた。
勢いよく開いた襖の向こうに親父の影が見えて酷く安心したのを覚えている、親父は俺達に急いで上着を着せた後、山の方に住んでたバァちゃんを迎えに行くと言い家を出て行った。
俺には二言だけ、船に隠れてろ、妹の手を絶体に話すな。
父親から息子への最後の言葉にしてはドライかも知れないが、あの時は誰もが死ぬなんて思っちゃいなかったし。死ぬより酷い状況になるなんて考えても居なかった。
大丈夫、大丈夫だアリサ
何度も繰り返した、そこらじゅうで悲鳴が聞こえ火事で空が真っ赤に染まっている。手を離さない様に親父はアリサの手と俺の手を手拭いで結んだ。
漁師だった親父が馬鹿力で結んだせいでその時のアザが今でも俺とアリサの手には残ってる。
大丈夫だ、大丈夫だよアリサ
俺は狂った様に繰返していた。
ーーーーー
中国地方 日本皇軍 海軍管理島 伊五七零番
東側海岸係留桟橋 クルーザー内
「おにーちゃーん居るのー?ちょーっと困った事になったのぉー」
愛すべき妹の声に二日酔いで寝惚けた頭がうっすらと覚醒する、仕事終わりにバカとの打ち上げに付き合った結果深夜の(朝の?)4時まで呑み明かし、酷く傷む頭で時計を確認すれば時間はまだ昼の12時を僅かに過ぎた程度で。
俺に言わせれば非常識の範囲に入る時間だった。
「アァー、アリサ、勘弁してくれよ二日酔いで死にそうなんだよ」
殺したって死なないでしょお兄ちゃんは、開けるわよ?
カーテンを閉じて遮って居た日の光が扉から差し込み顔を照らす、あぁ愛しい妹よ、この世でたった二人の家族になった妹を親父や母さんの分まで愛そうと彼女の望みを聞きまくった結果彼女はちょっとばかし、アレな人間になってしまった。
ほんとに、何処で間違えたのか
……まぁ、深く関わらないなら妹は素晴らしい人間だ
母さんに似た神話じみた美貌と親父に似た肝っ玉のデカさ。自由に生きて自由に死んでいく奔放な精神。
ただ、問題の方も大きくてだな
その、まぁ、なんと言うか
「ちょーっと、困った事になったのお兄ちゃん」
両手を頭の後ろで組んで露出の多いドレスを着たアリサが入ってくる、後ろで時代錯誤に黒のスーツを着た男が頭に拳銃を突き付けて居るのが見える。
助けて、お兄ちゃん。ウィンクしながら俺にそう言った妹は、その、少しばかり下半身も奔放で。
兄の贔屓目で見たとしてもちょっとばかし、なんと言うか。
アバズレであった。
ーーーーー
美貌と人間的魅力を武器にして色々な(本当に色々な)人間と下半身を起点とした問題を起こしてきた妹は困った時には兄を頼ると言う悪い癖がある。
妹は銃を突き付けられたまま椅子に座らされ、俺はトランクス一丁で両手を後ろ手に結束バンドで縛られている、二日酔いの寝起きには少しばかりハードだ。
「アリサ、悪いんだけどコーヒー入れてくんないか?」
立ち上がろうとしたアリサを手で押し留めカチャリと側頭部に拳銃を突き付ける。
「ナメてんのか?」
驚いた、喋れたらしい
「驚いた、喋れたんだな」
妹が可笑しそうにクスクス笑い、その様に顔を赤くし表情を失った男が銃底で妹を殴り付ける。思わず立ちあがりかけた俺に男が勝ち誇った顔で銃口を向けた。
「ジョークは俺も好きだが妹の為にならないぞ?」
三流以下の脅し文句、決めた、どんな事情であれ妹に手をあげたコイツは歯の全てと鼻をへし折って海に沈める。
蟹の餌だ
「わかったよ、話を聞かせてくれ」
妹の奔放さへの復讐ならもっと話は簡単だ、肝心要の妹の身柄は押さえてるんだ、俺の寝込みや夜道を襲って妹の前で拷問するなりして俺とアリサの死体を見せしめに街道に晒せば良い。
それをしないって事はそれなりの理由がある筈だ。
ピクリと男の眉が動く
「とっとと連れてけよ、用があるんだろ?」
顔を覚える為に男の顔をジッと見る。
こう見えて物覚えは良い方だ。