キング
アラスカ条約?たった21の国が批准しただけの条約が何の役に立つって言うんだ?
本来陸上で見つかる筈のない鉱脈、文字通りの宝の山は各国軍産複合体から果ては小国の軍事政権までを呼び寄せ、今じゃこの国の戦場は外人の傭兵連中や小銭を稼ごうって武器商人の方が多い有り様だ。悲しい事に俺もそう言う戦場を食い物にする一人だった。
キャパを志していた若かりし日々よ、今なら言える
「カメラじゃ世界は変わらない」
トラックの荷台、キャビンと言うには乗り心地の悪すぎる其処で煙草を吹かしながら俺はそう呟いた、荷台に相席している傭兵部隊との橋渡し役の現地人が振り向く
聞こえちまったか
何となくバツが悪くて俺は荷台の縁にもたれて空を仰ぐ。
豊かな天然資源を有する国だった、それだけでは言い表せない程の素晴らしい国だった。様々な国の神話にも登場する森や湖、一時は世界遺産の候補にもなった遺跡群、そして豊富な地下資源。
「変わりますよ、きっと変わります」
綺麗な英語で俺に語りかけたその声に一瞬誰が言ったのか戸惑うが荷台には二人きりだ、俺は何と返せば良かったのか分からなかった、夢の見すぎと鼻で笑えば良かったのか。
それは、俺の青春を捧げた夢だ
結局俺は空に昇って行く煙を眺めたまま何も言えなかった。
ーーーーー
政府軍の航空基地に間借りしている傭兵部隊、ここに来たのは偉く強いIS乗りが居ると聞いたからだった。情報源のジャーナリスト仲間は世界の滅亡を熱心に願って居る上にヘロイン中毒だったが、ヤツのISに掛ける情熱は本物だ。ヤツはISこそが世界を滅ぼす鍵になると信じていた。実際、俺は複数の情報源を当たり、偉く強いIS乗りの話がホラじゃない確証を得ている。
大空の帝王、最強の機体。キングと呼ばれているヤツがここに居る。
きっと金になる絵面が撮れる筈だ
アラスカ条約を批准していない国に籍を置く警備会社、その実体がどうであれそこに所属するこの傭兵部隊にISがあることは違法ではない。その警備会社の株式の実に80%以上を超大国の軍産複合体、そのどれかしらの企業が所持しているとしてもだ。
「行きましょう、この基地の司令官とは話がつきました」
応接室の様な場所に仏頂面で案内されそのまま1時間程一人で待っていると基地司令官との交渉に出ていた現地人が帰ってきた。
事前に渡していた幾らかの金銭に更なる上乗せを司令官は要求して来たが微々たる物だ、俺は快く支払うと言った。命の値段と考えれば安いものだ
そう言えばコイツの名前はなんだったか。
「なぁ、アンタ、名前はなんだったかな?すまない」
偉く複雑な発音の現地語は俺には覚えきれそうも無く、そんな思いが顔に出たのか男はトムと呼んで下さいとそう言う、コードネーム、007みたいなモノだと、この国の外の人には僕の名前は覚え辛いだろうからと。
「ありがとう、トム」
助かるよ、心の底から俺はそう言った。
ーーーーー
基地の一室に、最初とはうって変わってニコニコとしながら案内された俺は荷物を置くとそのまま傭兵部隊のいる第三格納庫へと向かう。滑走路を横断しながら俺を先導するトムは平気な顔をしているがこの国は妙に湿度が高い、ジットリとシャツが肌に貼り付いた。
遠巻きにでも見えていたバカでかい格納庫が間近に迫って来たときだ。現地人の少女がヨタヨタと麻の籠をもって格納庫の中に入って行くのが見えた。
彼女がこちらを振り向く、綺麗な青い瞳だ、それが分かるくらいにはお互いの距離は近い。
「あの」
トムが声を掛けようとし、そして同時に俺がカメラを構えシャッターを切ろうとした時には彼女は猫の様にサッと、それでもどこかヨタヨタとしながら格納庫の中に逃げてしまって居た。
脚を怪我して居るのか?それにあの瞳の色、そうだ、ダークブルー。宇宙に近い空の色
トムが妙に西洋的に肩を竦めまた歩き始める、撮影した写真を確認するとブレた画像に線を引く様に、僅かにダークブルーが写っていた。