何でも屋 : 白鯨
この国の軍事勢力は国外勢力の影響を受けた結果として併合やら同盟やらを繰り返し、大きく二つに纏まった。
先ず第一に、範囲は小規模だが海沿いの首都や国内全域をカバーする電波塔を押さえている政府軍。そして第二に俺達とは別の国外勢力に援助を受け、開発済みの油田や例のレアメタル鉱山を押さえている反政府軍。
まぁ、妥当といえば妥当な流れと言うか。我ながら他人行儀な言い方だとは思うが。
軍の一部と国内右派団体が結託し武装蜂起した反政府軍は当初すぐに鎮圧されると思われていたが、前代の首相アレナィ・イルサと主な閣僚陣が爆弾テロにより死亡、政治的混乱により反政府軍への軍の対応が遅れ、その間に山脈を要塞化されそこに連中の本拠を作られるに至り情勢は拮抗、今の泥沼の内戦に至った。
そもそもこの国における基盤が違うのだ、レアメタルと言う甘い汁目当てのその他大勢が生き残れる筈もない、求心力と言うのは金銭と同じくらい重要な要素だ。
聞こえの良い言葉だけでは腹が減る、金だけあっても心が腐る
そうだ、生きてる限り腹が減る。
これから、どうしたもんか?。
今日付けで俺は軍を抜けた、しかるべき手続きで退職した訳ではなく柵をちょいとばかし乗り越えて。
乗り越えてと言うのは比喩表現で実際の所はフェンスと鉄条網を幾つか切った訳だが。まぁそんな事は良い、要する所の脱走で、晴れて今日から脱走兵であった。
基地から盗み出してきたサイドカー付きのバイク、燃料は満タンだ。遠くを流れる月明かりに照らされた山脈、ハンドルに吊り下げたラジオから海賊放送のロックが流れてくる。フェイスオブザコイン、センスの良い曲だ。
サイドカーの中には愛用の工具一式と申し訳ばかりの拳銃が一丁。水と食料も有るが二日持てば良い方だろう。
「どうしたもんか」
そう言葉にして、俺は月を見上げた。
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軍産複合体から新たな支援として送られてくる軍事兵器【モビーディック】
ISが空を飛ぶために使用しているPICを解析して得た技術で作られた重巡航機、空母機能すら備えた空飛ぶ要塞、白鯨の名に恥じぬその巨体の整備長としての辞令を受けたのが今朝だ。
首都にある軍本部、本来なら俺の階級でこんなところに呼ばれる筈も無いのだが有名になりすぎたのか。そんな事を考えながら殆ど着る機会も無く真新しいままの制服に袖を通し、少しばかり誇らしげな気持ちで足を踏み入れた自分を殴ってやりたい。
お偉いさんに渡された鯨の概要書、対空ミサイル類をメインとした対空近接防御システム類や、簡易的ながらPICやシールドバリアーすら備えたその機体と通常兵器と連動したIS傭兵部隊が居れば簡単に反政府軍に奪われた国土を取り返せるだろう。
つまり、戦争が終わる?
薄暗い部屋の中で顔を上げた俺を軍のお偉いさんは苦々しげな表情で見ていた。放り投げるように渡された国家機密と赤字で判が押された薄い冊子、そこに書かれていた内容は頭の狂った連中の纏めたISに関する研究結果で
要するに、現在の科学の限界として人が乗らなきゃISは動かないし、それに関連した各種機能も発動しないと言う事だ。
白鯨、その説明書には重巡航機と書かれているだけでISから得た機能についてその手の事は一切書かれて居なかった。どういう事だ?これは
「貴官の腕は聞いて居る、ISの簡易整備マニュアルの製作や各基地毎の予備パーツのデータベース化による情報共有によって我が軍は多いに効率化が図られた、その腕を見込んでここまで情報を明かすのだ、これは、反政府軍から国土を奪い返す大きなチャンスなのだ」
「それが奴等にとって違法な人体実験の成果を試すだけの物に過ぎなくともな」
それは、つまり
「拒否権は無い、元隊に戻り転属に備えつつ整備マニュアルの作成にあたれ」
俺の内心を察したのか、タイミング良くお偉いさんは何処かへ消え、俺は一言も発さぬまま軍本部を後にした。
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今、バイクを駆る俺の懐にはデータの中から見付け出した白鯨の弱点を纏めたUSBが入っている。暗号化すらされていないそのデータをどうしたものか、誰に渡したものか。
「どうしたものか」
俺の戸惑いが、月下の荒野に溶けて行く