ある日高校時代にタイムリープした俺はお笑いであの子を救うと決めた。
【ある日突然】なんて言葉に続くのは困る事が殆どだと思う。
ある日突然
「父親が本当は男が好きだとカミングアウトしたら?」
「いや、困るよ?困るけどそこは応援しようよ」
「新しい人生を?」
「新しい人生を」
「…新しい人生なぁ」
ある日突然
「え、俺かよ!?」
「お前だろー」
「アンタでしょー、何逃げてんのよ」
「逃げてへんわ!えっと、ある日突然?サイヤ人になってたら、とか?」
「お、悩むねそれ」
「何?サイヤ人って、漫画?」
「はぁ!?ドラゴンボール知らねえの!?」
「出たそう言うの、だからアンタ不良なのに微妙にモテないのよ」
「あー、何か言いたい事は分かるかも」
「なんでやねん、…え、え、マジ?」
「「そう言う所だな」」
ある日突然
「じゃあ、アタシの番ね?」
「そう言う事だな」
「精々面白いの期待してるわ」
「童貞ヤンキーは黙っててよ」
「アァ!?童貞ちゃうわ!?」
「シモに逃げるのはなぁ、評価出来ないよぉ?」
「確かにちょっと今のは逃げたわね、んじゃあ、」
ある日突然、お笑いで天下を取るって幼馴染が言い出したら、とか?
「最高じゃん?」
「ドン引きやろ」
「ナハハ、実際どうでした?そこんところの感想的なの」
んふふふ
「そこんところは勝って来てからね」
「マジ?」
「マジ」
「よっしゃ気合出て来たわ」
「噛んだら殺す」
「お前こそってもんですよ、後頭部ブーメラン農園か何かですか?」
「茂らせてこうじゃないの、男だったら豊作目指そうやないの」
「茂らせちゃダメでしょ、定期的に刈り取ってかないと上向き辛くなるぜ?」
「上手い事言うやんけ、なんか俺もやる気出て来たわ」
「じゃ、お二人さん、アタシ観客席で見てるから」
「あいよー」
「動画撮っといて、後で反省会するわ」
「お、いいねそれ、俺んち?」
「うちこいよ、お袋が会いたがっとったわ」
「オッケー」
んじゃ、まぁ行きましょうか
ーーーーーー
ある日突然、高校時代にタイムスリップしたら?
なんて言われても困ると思う。
だってそうでしょ、年齢は?肉体は?今のニコチンとアルコールの合わせ技で出来上がった不摂生丸出しの肉体で過去に戻ったって大変だ、どうすんの?過去の自分に会いに行って
「俺は未来から来たお前だ!」
なーんて言う訳?ヤバイだろう色々、何事も無く通報されるだけで済むならまだ良い、三食昼寝付きの夢の生活がその後待ち受けているからね。鉄格子の隙間から見る青空もさぞかし目に染みる事だろう。
まぁ、今回は幸いそうじゃなかった(今回は、なんて言い方してるけどタイムスリップなんて経験したのは初めてだ)
目を覚ましたら見覚えのある天井に匂い、辺りを見渡せば学生時代の実家の光景が記憶のままに広がっている。あぁ懐かしい我が家、高校を卒業してすぐにもう二度と地元には帰らないと制服を着る類の仕事に就いたのに目の前にそのままの姿で出て来るとこんなにも懐かしい。
最初俺はこれが夢だと思っていた、いや、まぁ今も夢の可能性を否定は出来て居ないんだが、そう言うレベルの話ではなくもっと、こう、シンプルな意味での夢。
何故かって言えば最後の記憶の中にある俺は酷く酒に酔っていて、オマケにどれだけ吸い続けても身体に合っちゃくれない煙草を吸った後に酸欠気味の脳味噌に任せて気を失うみたいに眠りについていた筈で、部屋の中なんかもう最悪よ、適当に袋に詰められた弁当のごみに灰皿代わりのビールの空き缶。人が来る予定も誰かを部屋に呼ぶほど他人様と親しくなる予定もないもんだからお構いなしだ。
そんなもんで、俺はこれを夢だと思って居た訳だ。奇跡だとか偶然だとかその手のモノがこの身に降り掛かる程立派な人生じゃあなかったから。
でも、もしだ。もしこれが神様だとか悪魔だとかそう言う感じの連中が起こしたサービス的なあれだったんだとしたら。
そんな事を考えながら俺は部屋にある唯一の時計を見る(記憶の通りの場所にあった)
朝の七時二十九分、そろそろだ。奔放で自由の塊みたいな振る舞いで生きてるのに彼女は何時も時間にだけは正確だったから。
十、九、八、七
一体一秒に何回鼓動する気だ俺の心臓、これが夢なら寝てる間に死んじまう。
三、ニ、一、
…ダメか、流石に。夢だからってそこまで都合良く「わッ!!!」
「ウオァァァッ!!?!?」
「何?びっくりさせようと思ったんだけど、いくら何でもびっくりしすぎじゃない?」
あぁ、神様、仏か?それとも彼女は自分で命を絶ったから地獄の悪魔かもしれない。記憶の通りの彼女がそこに立っていて、俺は、良い夢だなぁと思いながら彼女を抱きしめる。全力でそこに彼女は居るのだと確認するように何度も何度もぎゅうと力を込めて彼女を抱きしめる。
彼女は俺の幼馴染で、タコが食べられなくて、犬好きで、煙草の煙が苦手で、兄弟の事が大好きで、高校二年生の夏の夜、自分で命を絶った二度と会えない筈の人だった。
彼女の瞳を見詰める、見慣れた色に香り、体温。十年近くたった筈なのに忘れられない記憶の通りのそれが俺の心に溢れかえる。
「会いたかったッ、ずっと会いたかったッ!」
「へぇ!?…なんていうか」
「おっす、昨日ぶり?」
片手をひょいと上げてそんな事を言う彼女に、俺はえづくまで泣き続けた。