十三世界でただ一人   作:来海杏

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ファンタジー武器商人

つい先ほどまで続いていた戦闘は終わり、今は残党の掃討に入っている。悲鳴に命乞い、金属同士がぶつかり合う音、ゴーレムの関節が軋む音、死霊達が上げる呻き声、靴底がザリザリと地面を削る音、鼻につく血の匂いは何度嗅いでも酷く吐き気を催す。人の中身の血や糞の匂いで穢れた空気は肺に入ると自然現象やら人体の構造に任せて口から出て来て俺のかじかんだ手を温める。

 

 

「どう思うね?」

「どうとは?将軍」

枯れ木の様な身体に穏やかに細められた目、30年も教会の地下牢の閉じ込められていた伝説の異教徒の将軍とはとても思えない(油断しちゃあならない、この人は私を暗殺しに来た屈強な兵士三人を素手で引き裂いてのけた)

「気付いているだろう?彼らが使っている武器」

「えぇ、私が売った物だ、次回からは少し値段に色を付けねばなりませんね」

 

装備の損耗、精神的苦痛、行動が遅れた結果失われる得られた筈の利益、人員に関しては…、お、総員異常なし、遠巻きに眺めていたらこちらの視線に気づいた様で護衛隊の隊長が合図を送ってくる。

 

「ま、言いだせばキリはありませんがそこらへんは飲み込みましょうか」

「ふむ、それだけか」

「えぇ、私達、軍人でも殺し屋でもありませんから」

 

まぁ、大体考えて居る事は分かりますよ

「親から遺産を受け継いだだけの御用商人の三代目、しかも両親から商人としての教育を受けるまもなく孤児となった餓鬼、そんな餓鬼が吐いた言葉に見合った覚悟があるのか試そうとしたって所ですかね」

 

実際はもう少し酷かった、俺を僧院にぶち込もうとしハゲタカの様に父が1から拡げていった事業を啄む父の元側近達、退職金にしては額の大きすぎたそれらを取り返すのにここまで時間が掛かった。

 

びゅうと風が吹く、恐ろしく標高の高い山(何て名前だったか、忘れた。後で先輩に聞こう)そこから吹き降ろす風は山の万年雪に冷やされて酷く冷たく乾いている。雪に白く化粧されただけの荒野、荒野荒野荒野。こんな所で死にたくは無かっただろうに、襲撃なんか仕掛けるから

 

「はっはっは、覚悟に関しては疑っては居なかったがな、それと人間の生き死にと言うのはまた別だ」

 

「なるほど、でしたら大丈夫ですよ。人の生き死にも商品の内です」

 

私が呟くように続けた言葉に被さる様に先輩の操縦するゴーレムが地面に深く穴を掘る轟音が響く、北の連邦に近いこの土地は夜には気温が氷点下近くまで下がるのだ、地面は凍り人間の力ではとてもではないが何十人もの人間の死体を埋めるだけの穴は掘れそうもない。私の言葉で彼を納得させる事が出来たのか、絶えず微笑んでいる様な表情でいる老人からは読み取れ無かった。

 

「なるほど、了解したオーナー、出過ぎた真似を許してくれ」

「構いませんよ、書類上は奴隷となっておりますが実質的には貴方は私の軍事顧問と言った所ですから」

 

 

見渡す限りの白色に嫌気がさして来た。ここは寒すぎる、皇都から最新式の魔法と科学のハイブリット技術を採用した鉄道で一週間と言った距離だろうか、早く学園に帰りたい。

 

「早く帰りたかったんですけどね」

「商売事は分からんが、難しそうか?」

「時間と賄賂が増えそうだ、第二皇女との約束にも遅れるかもしれない」

 

あぁ、死霊達を指揮棒でも振るかの様に指先で操る彼女を見つめる。あぁ、あぁ、あぁぁ、愛しの魔女、私の魔女、素晴らしき死霊術師アンナ。

 

アンナが私に手を振る、それに私は手を振り返す

 

「だけどまぁ、考えすぎても過ぎたものはどうしようもない。将軍、とりあえず列車で待っていましょうか」

 

また、乾いた冷たい風が吹きすさぶ。

 

「そうしよう、老体にこの寒さ堪える」

「チャイを入れましょう、最近練習しているんですよ」

 

そう言った私にそれは将軍が楽しみだと答え、私達は列車の中へと入る。

 

五両編成の個人用魔道機関車、皆好き勝手な名前で呼んでいるが私は単に専用車としか呼んでは居ない、将軍は指揮車両と呼んでいたかな。どこからそんな発想が出て来るんだか、流石としか言いようが無い。

 

二重構造の窓と赤の派閥の魔女による研究を基にした暖房設備は俺の鍛え方の足りない身体と将軍の老体を温める。

 

俺の部屋兼用の専用車両でチャイを入れながら何となく窓の外を眺める。

 

「うむ、美味しい、いい淹れ方だ何処で習ったんだい?」

「企業秘密と言う事でここは一つ」

「はっはっは、分かったよ」

 

所で

 

「オーナー、君、人生何回目だ?」

「…驚いたな、将軍はそこまで見通されますか」

2回目です、そう答えた私に今度は将軍が驚いた顔をする。

「これに関してはたまたまだよ、昔祖母から聞いたことがあったんだ」

 

魔女と言うのは扱う魔法ごとに派閥で別れて居ても目的自体はこの世の根本原理の追求なのだと、中でも何か研究に関して役立つものでもあったのか、祖母が子供の頃に一人だけ黒の魔女が小さな村の外れのに住み着いた事があったそうだ。

 

「まぁ、アンナの様な二つ名を持つほどの魔女では無かったそうだが」

「それ、本人の前ではあまり言わない様にしておいて下さい、本人は不本意だそうです」

「偉大なる死?」

「単なる実験の失敗だそうです」

「素晴らしき死霊術師」

「何だったかな、大工の家を誉めず釘の打ち方だけを褒められる様なもの、だそうです」

 

「なるほど、気を付ける事としよう」

 

…まぁ、まぁだ、詳細は省くとして、その魔女と祖母は仲が良かったらしくてね。少しだけ研究目的とでも言うべきものを教えて貰ったんだ、どうにも子供向けに砕かれた内容だったそれは要約するとこんな内容でな。

 

「魂魄とは一体何で構成されているのか、ですよね?」

「ふむ、やはりか、アンナだな?」

「えぇ、僕も細かい事は未だに理解出来ては居ませんが、手品の種は彼女の魔法です」

と言っても、前回の彼女の、と付けねば正確ではありませんが。

 

生まれ死んで行く魂魄はその死後どうやって消えていくのか、そもそも消えていくのか?我々の魂魄はどのような過程を持って作られ、この体に定着するのか。

 

「死霊術などと言うのはその研究の過程で得られる余禄の様なものであって、そればかりに注目するから誰も彼女達が本来求めるものの神髄に気付かない、私に掛けられた魔法は体系として呪術に近い魂魄に刻み付けられる様な形の物らしくてですね。死んで何処かに回収される魂魄は時間的な制約を受けるのか、もしその、仮に【場】と呼ばれるそこに時間的な制約が無いならば【場】ではなく私の魂魄自体に干渉する事で私自身にもう一度生まれ直す事が出来るのではないか?」

 

とか何とか

 

「殆どカケに近い理論だったそうですが私達はそれに勝ったんです」

「なるほど、自分で聞いておいて難だが想像以上の話だな」

「えぇ、今のところ知っているのはアリスと私、そしてたった今聞いた将軍だけです」

 

と言うか、信じるんですか?

 

 

「正直に言えば、そこまで信じては居ない、と言うより私には真偽がどうあれ関係ないと言った所か」

「もしその魔法を使えば今度は敗戦する事無くあなたの故郷を守り抜く事が出来るかもしれませんよ?」

 

達観し、枯れた様な年相応のその態度に勝手に彼に復讐者としての共感を抱いていた私は少々では収まらない無礼な質問を将軍にする。

 

「そうかもしれん、だがあの戦争を凌いだとて疫病に周辺諸国との領土争い王家の跡継ぎを巡る後継者争いが私の考える限り確実に起きていただろう、仮にそれらを凌いだとしても永遠に生きてあの国を守り続ける事は出来ない」

 

出来たとてする気はないがね、オーナー。君とアンナのいう所の魂魄の休養が必要になる。

 

「意外かもしれないがね、疲れるものだよ?英雄で居るというのは」

妻の死に目にも立ち会えなかった。

 

……

 

「すみません、勝手に腹を立て無礼な質問をしました」

私は心の底から頭を下げる、年相応で、何処までも沈み込んでいく様な彼の悲しみに私は不用意に触れてしまった。

 

「構わないさ、君のそう言う若さは私を懐かしい気持ちにしてくれる」

 

 

嫌いじゃないと、要するにそう言う事だ

 

 

 

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