十三世界でただ一人   作:来海杏

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超能力青少年

イエーガー7  漣 幸一(さざなみこういち)

 

魂を何処かに置いてきた。

 

中東に二度、欧州へ駐在武官として一度、東南アジアへ三度。それなりに優秀な兵士であった筈だが一度のミスと何度も繰り返す後悔にいつの間にやら俺に残ったのは心の中に空いた穴の様なものだけだった。

 

魂の穴だ、埋めようもない、戻しようもない大きな穴だ。

 

「クソつまらない」

スクリーンの中では落ち目の俳優がただひたすらに殺人鬼から逃げ回っているだけの衝動的な脚本と80年代風の演技が合わさり僅か40分の長さでありながら観客席に地獄を生み出している。

【つまらない小説を最後まで読む事を勇気と言うらしいですよ、きっと映画に関しても同じことが言えるんじゃないでしょうか?】

隣に座った少女が俺の言葉に反応しそんな事を言う。

「聞いたことの無い言葉だ、何でそんな事知ってるんだ?」

【昔、ある人に聞いたんです】

嘘をつけよ

「ほんとは今思いついたんだろ?」

【いいえ、ほんとに聞いたんですって】

 

そんなはずが無い、何故ならば彼女は俺の妄想の産物で医者は彼女の存在をもって俺をイカレてると判断したのだから。俺はクソ程つまらない映画から目を離し彼女の方を見る。スクリーンの中では往年の名アクション俳優が殺人鬼相手にショットガンをぶっ放し殺人鬼の割れた頭からエイリアンらしき何かの顔が新しく生えて来ている。

 

「君は俺の妄想だ、俺の知らない事を君が知ってる筈が無い」

【そう言う細かい事を気にするからモテないんですよ】

 

思わぬクリーンヒットに俺は思わず黙り込んだ、いやちょっと待てよそれはまた違う話だろうに、俺はしかめっ面でまたスクリーンの方を見る。俺の妄想のクセしてコイツはどんどん口が悪くなる。

 

【すいません、図星を突きましたかね?】

「好きに言ってろ、全く」

 

俺以外に観客が居ない館内で暗闇に紛れる様に周囲を敵が取り囲む、敵、そう敵だ。長らく勤め上げた前の仕事を辞める際に

 

「おい、ポップコーン食うか?」

スクリーンの中では殺人鬼に生えたエイリアン頭がクリオネの様に裂け、ヒロイン役の若い女の腹に喰らいついている、これはあと10分かそこらで収拾がつけれるのだろうか?おれはスクリーンの方を向いたまま周囲の連中に話しかけるが誰も答えようとはせずただ黙って俺に銃口を向ける。

 

「そうか、誰もいらないか」

 

掌にポップコーンを乗せ手首を叩く、そこそこに綺麗な放物線を描き口元に入ると口の中に安っぽいキャラメルの味が広がった。

 

「何でそんなにも怒り散らしてるんだ??君たちはさぁ!!!不思議でたまらない、一体何が不満だというんだ?こんなにも素晴らしい映画だと言うのに!!」

 

【さっきと言ってる事変わってませんか?】

「うるさいなぁ!!分かったクソだよ実際この映画は!!特大のクソだ!けど素晴らしいクソだよ!!」

 

急に興奮しだした俺の様子にガチャガチャと周囲の銃口が一斉にこちらを向く、何て言うんだっけこう言う時?そうだ、そうそう

 

「判断が遅い」

【微妙に間違ってません?】

 

精神干渉には意外に繊細な過程が存在する、そいつの精神に干渉するには一時的にそいつの考えてる事にダイヤルを合わせなければならない、人間何を考えてるのかなんて通常は分かりはしない。念仏唱えてる坊主だろうがコカイン決めてるロックスターだろうが人間の思考はとてもじゃないが当てようがない訳だ。

 

【不本意ですがおっしゃる通りと申すほかありませんね】

「逆転の発想だよな、発想の転換?」

【どちらでも、完了しました。どうします?】

 

彼女に出会ってから使える様になったこの能力は(使い方まで彼女が懇切丁寧に説明してくれた)…正直使えねぇ。

 

【貸してるだけだと言うのを忘れないでくださいよ?】

何時でも取り上げていいのだぞと暗に言い彼女は俺の正面に回って下から見上げるように睨みつけて来る。ハハハ、若いな

「そりゃ困る、無きゃ無いで何だか勿体無い」

乱暴に頭を撫でればしっかりと彼女の体温と毛髪の手触りを感じる、医者が妄想だと言うんなら妄想なんだろう、上等だ、これが妄想だっていうのなら妄想で構わない。映画の中で見たことの無い指揮者を真似してタクトの様に指を振り上げてみれば今の今まで俺達を殺そうとしていた筈の人間が気を付けの姿勢で綺麗に半長靴の音を揃える。

 

「ハハハ、爽快だな」

 

思考の空白、思考の押し付け、1秒に何度も変化する金庫の鍵だろうが番号をこちらが決めれるなら後は何の問題も有りはしない。半年前から気になっていた映画が外れだろうが大して気になりもしない。

 

【どうしますか?】

「安全に街の外まで送って貰おうじゃないか、見たい映画は見終わった所だ」

【また外れでしたね】

「次があるさ」

 

細かい命令は彼女を通さないと未だに上手く行かないのが残念な所であるが。

 

「今日の晩御飯は何にする?」

【また外食ですか?】

「ハハハ、俺が料理出来る人間に見えるか?」

【ハァー、私が作りますよ】

「嘘つけよ、出来ないだろ?」

【出来ますよ、こう見えて料理上手なんです】

「嘘つけって、君は俺の妄想の筈だろ?」

でなければ色々説明がつけようが色々あるのだが、医者が彼女は俺の妄想だと言うんだから彼女は俺の妄想なのだ。そう決めた

 

周囲を俺を殺そうとした特殊部隊の連中に守らせ俺達は悠々と映画館を出ていく、元々アート寄りのネットの片隅でしか見付けられない様な映画を好んで上映する様な小劇場なのだ、俺達を殺そうと考えた時に抑えるべき人数も配置するべき場所も事前に調べてある。

 

それに予想が間違ってても残機は軽く20はある。ほら早速

 

【4人意識が飛びました恐らく重症、死んでは居ません。狙撃手が二人に、なんでしょうこれ?】

「この匂いはC4だな、今じゃレトロの部類にも入る様なトラップだ」

「配置は?」

【事前に想像してた通りです】

「ハハハ、入れ食いだ、連中情報共有されて無いらしい、組織間の横の付き合いってのは重要だな」

【何の映画で見たんですか?】

「経験則だよ」

 

おかげさまで俺は東南アジアの山奥で死に掛け、仲間達は生きたまま生皮剥がされ焼き殺された。

 

【経験則】

「そう、経験即だよ」

 

奴らにも教えてやろう。

 

 

確認の取れた配置に加えて予想しうる配置、その全てから見える位置に一人送り込み意識を取り戻させる。勿論身体の自由は効かない状態にした上でだ、泣き叫ぶ同僚、映画みたいだろ?勝手に動く身体が脳天を吹き飛ばすべく拳銃をコメカミに突き付ける。奴らは怒りに心を支配される。

 

大漁大漁、鍵は空いた

 

【確認できました、強い怒りに何人かは恐怖】

「コントロールは取れたか?」

【全員、民間人は見えて聞こえた範囲ですが】

 

よし

 

「帰ろう、重症の連中は民間人に運ばせて死ななない様に治療を受けさせてくれ」

【トラップは?】

「仕掛けたヤツを見付けられないか?頭の中から設置場所を引き出してくれ」

【あー、見つけました】

「その情報を適当に誰か一人にコピーして先導させてくれ、あと念のため他のヤツの脳味噌も確認してくれ、情報の共有がされてないとしても噂ぐらいは聞いてるかもしれない、情報が分断されてたら厄介だ、記憶の中の会話に限らず視覚情報も頼む」

【えー、人使い荒くないですか?】

「俺の脳味噌に住んでるんだ、家賃代わりだ」

【この上料理までさせると?終わりました、取り越し苦労でしたね】

「俺は外食で構わないんだけどねぇ、了解、流石だ、足が吹き飛ばされるよりは良いさ」

 

干渉して支配した脳味噌を使った高速演算、俺なんかは脳味噌あっての精神だと思っているが彼女に掛かれば精神から始まり脳味噌をパソコンだかスマホだかに変えてしまう。

 

「悪魔的だな、全く」

【何がです?】

「言わない、君は怒ると長い」

 

大体想像は付きますけどね、そう言ってリスの様に膨れる彼女の頬を指でつつく。むにむにとした頬、空気が抜ける度に彼女は楽しそうにまた膨らませる。

 

「皿うどんにしよう」

【はいー?】

「皿うどん、今日の晩御飯」

 

好物なんだよ、皿うどん。

 

【ムフフフフ、分かりました】

「俺も手伝うよ」

【ムフフフフ、はーい】

 

妄想の中で俺は悪魔と契約した様だ、おかげで毎日こんなにも平和で幸せで。

 

「アー、そうだ」

「そうだよな」

【どうしたんですか漣さん?】

「そうだ、アー」

「しまったなー、俺なー」

【漣さん?立って、立って漣さん!!】

「なんで忘れちまってたんだろう」「一瞬でも幸せなんて思っちまったんだろう」「なんで俺こんな風になっちまったんだろう」【漣さん!!】「畜生、俺は、畜生ダメだもう、畜生俺は一体どうしたかったんだ」「なんでこんな」「畜生」

「アァー、アァァァァァァァァァ!!!!!」【あぁもう、しょうがないなぁ】「アァァッ、ァァァァァ」

 

「落ち着きなさい、漣幸一」

暖かい、何かに包まれている、暖かい、柔らかい何か

「落ち着きました?漣さん」

優しくポンポンと背中を叩くそのリズムに、遠い記憶の何処かで聞いたハミング。

「覗いたのか?俺の記憶」

 

「全部じゃありません、誓って」

「俺の妄想だろ君は、誓う神なんて居ないだろうに」

「神様に何て誓いませんよ」

「じゃあ何に」

彼女の鼓動に耳を傾ける、柔らかな良い音だ。そうだ昔仕事中にナイフで対象の胸を刺した時心臓の鼓動が刃を伝【ダメですよ】なんだっけ、まぁいいや

 

「ちゃんとお薬飲みました?」

「俺は壊れちゃいない、壊れちゃいないんだ」

「んもー、じゃあ漣さん?」

 

優しく俺を呼ぶ声に俺は彼女の顔を見上げる、額に落ちる柔らかな口づけ。

 

 

「私から離れちゃ駄目ですよ絶対、一生、永遠に、ずっと、ずっとずっと」

まじかに彼女の顔を眺めて、そこで初めて彼女の瞳が左右で若干違う事に

「…目の色、微妙に違うんだな茶色でも濃淡っていうのか、ともかく微妙に違う」

 

「な、なんです??急に」

赤らんだ頬が色白の肌に良く映える

「なんでもないよ、行こう」

もう大丈夫だ、そう言って立ち上がり歩き出す。

【大丈夫ならよかったです、行きましょうか】

手を繋いで歩き出す、俺の妄想は手まで暖かいんだから大したものだ。

 

あぁー、後な。一生はちょっと怖ぇぇよ

【んにゃー!!】

イッテ!!ローキックは止めろローキックは!!!

 

 

 

管理番号007

イエーガー7 精神干渉能力:夜海原の歌姫(アドリアーナ F 07)

 

漣 幸一 元特殊作戦群 零課第五班 外部工作(国外暗殺業務)担当

       現無職

 

 

 

 

 

 

 

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