十三世界でただ一人   作:来海杏

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ロボ×異世界×フルダイブ2

 

 

 

風が吹いている。

 

 

豊かに実った黄金色の畑の中で僕はただ立って居て、じっくりと風を感じている。

 

 

何でなのかとか、そう言うものは一切分からないけど、だけど、僕は何時もこの瞬間溢れだす程に満足している。もっと言えば満足と言うか、正確に言葉に出来るなら僕はこの瞬間、ものすごい達成感を感じているのだ。

 

 

 

やった!やったんだ!僕はやったんだ!

 

 

 

頬や、身体や、全身を撫でる風の感覚だけが僕の頭か心か、そういうものの中に残って

 

 

ただ、影の様な風の感覚だけを、風の反響だけを身体に感じているのだ。

 

 

 

 

 

フルダイブの瞬間は、何時も不思議なイメージが頭の中に流れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 それが何故生まれるかと言われると何時も説明に困ると言うか、ゲームのロード中に流れるヤツ?とか、個人によってかなり違うので難しいのだけれど、彼女は僕のイメージに黄金の波と名前を付けてくれた。

 

 

 

 

 

沢山の植物、多分、麦か何か。

 

 

 

 

 

そんなものが地平線まで豊かに実をつけていて、僕は畑の様な場所に立ってただじっくりと風を感じている。

 

 

 

 

 

 

 

クイーン、君はどんな景色を見て居たんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

そもそも景色だったのか、人によっては音楽や歌みたいなものが聞こえたり、犬の様なものを撫でて居る感覚がする、なんて人もいるらしいから。

 

 

 

 

 

何であれ、彼女が感じていたそれがいいものであります様にと、彼女の事を考えながらゆっくりと目を開けて。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでやっと僕はログインが完了した、無事にアルトリア大陸に着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームシステムとして僕らプレイヤーは各々が設定した地点で目を覚ます。それって言うのはかなり柔軟に設定出来るもので、ベッドの上に設定したり、機体の操縦席に設定したり、人によっては洞窟の中なんてやつもいるらしい。

 

 

 

そして、そうすると小さな塩梅ではあるが簡単な安全領域みたいなものが設定されたりもするから、まぁ大体の人間は操縦席の中を自分のリスポーン地点に設定する訳なんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お城!お城だよ!皆で自分の部屋とか作っちゃえるよ!?

 

 

 

 

 

見て見て!噴水あるよ!すっごー!!

 

 

 

 

 

皆で一緒に晩御飯食べたりさ!作戦会議とかやっちゃおうよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ不便だよこれ、クイーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 埃の積もった部屋の中、もういない彼女の名前を呼びながら天蓋付きのベッドから起き上がる。クイーンは顔を見て話す事に拘ったし、僕達も別にそれを嫌がらなかった、多分、みんな寂しかったんだと思う、けれどやっぱり、そういうものを抜きにして考えるとここはもう、本当に不便で仕方ない。ゲームの拠点としてなら攻めにくく守りやすく旨味が無いと言う三拍子で優秀なのだろうが、住むには一切向いていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒いんだよなぁ、冬がさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにせ、クエストの報酬で貰ったこのお城は大陸の平均と比べるとずっと小さいものではあるのだけれど、それだってたった四人で整備するには余りにも大きなものだし、NPCを雇ってどうにかしようにもそれはそれで不便な場所にあるせいで、小まめにログインしないと労働の管理みたいなものが行き届かなかったりする。

 

 

 

それに、裏手を大きな山脈が囲って居て、正面には大きな湖があるものだから冬はとてつもなく寒いのだ、当然雪が降るし、一度降り出したら山脈に冷やされた風と冷えた湖のせいで春の中頃まで居残り続けるもので、そうなって来るとNPCの商人も容易にはここまで来ることは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が一番どうしようも無いと言えばだ、一番このお城を愛していたクイーンが居なくなってみても、今度は彼女との思い出がそこらじゅうにあってしまって、もうここから離れられなくなっていたと言う事で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クランの解散時に管理をどうしようと言う話にはなったが、不思議と放っておけば良いとか近くの貴族NPCなりに売り飛ばしてしまおうとか、そう言う話は出なかった。

 

 

 

結局、細かい仕事の好きなブルが管理の表を作ったりして皆で何とか掃除をして回している、僕は彼らと会う勇気も無いのに、そう言う約束は大事に思って守ったりしてしまっているのだ。

 

 

 

 

 

そう言う所が、自分でもみっともないと思えたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこかで花を買わないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分で自分の気を逸らそうとして、独り言を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このお城と言うのは多分、山脈の向こうにあった帝国が海に対しての守りとか、監視塔みたいなつもりで作ったのだと思う。

 

 

 

背後に少し距離を開けて山脈があって、正面には大きな湖があってそれを迂回しながらじゃないと正面に辿り着けない、標高としてそこそこ高い位置にあるものだから海の様子はここから少し登った所にある監視塔に行けば一望出来る。

 

 

 

 

 

「そりゃあ住みやすさとかは考えちゃいないよな」

 

 

 

 

 

兎も角、花を買うにも野に咲いてる様なものは冬のこの辺りには無い。湖を越えた、それよりもずっと向こうにある小規模な港町に行けば魔法で作ったようなものが幾つか手に入るだろうから、そいつを買って、彼女のお墓に向かうしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら歩き続けていると格納庫に着き、整備の足りて居ないせいで妙にギシギシと音を立てる分厚い木製押し開ける。どこかのタイミングで扉の整備をするか、メモの一つでも残しておかないといけないなと、格納庫の中へ階段を下りて行く。

 

 

 

 

 

かんかんと鉄か何かで出来た階段が音を立てる。

 

 

 

 

 

 それにしても、改めて考えるとこの城は妙な構造である、上から見ると開いたUの形と言うか、丸いVの様な形をしていて、屋上に機体を配置してくださいと言わんばかりにUだかVだかの先頭の部分には銃座の様なものが作られていたりする。

 

 

 

 

 

それにだ、一応三階建てのお城ではあるのだが一階と二階はそのほとんどが吹き抜けの形で格納庫を作っており、お陰様で寒い中でこんな妙に長くて急な階段を下らないといけない訳だから面倒でしょうがないのだ。

 

 

 

 

 

そうして降りていってもだ、あるのはせいぜい簡素な寝室と妙に広いキッチン併設の食堂、それから会議室とクイーンが呼んでいた縦に長い部屋が一部屋あるだけ。

 

 

 

 

 

「一応お城って話で貰ったけど、やっぱここ兵隊の詰め所かなんかだよな?」

 

 

 

 

 

良い様に使われたのかもな、まぁ良いさ、帝国は滅んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 兎も角、格納庫には僕の機体があって、そういうものを使っても三時間位は掛かる所に街があって、そしてその近所に彼女のお墓があるのだ。

 

 

 

 

 

「久しぶりに散歩しようか、相棒」

 

 

 

 

 

 薄暗い格納庫の中、黒のカモフラージュ用コートに包まれた僕の機体だけが誰かの呼び掛けを待つように片膝を着きうなだれて居る。

 

 

 

動くだけの必要最低限の部品だけを付けた相棒の姿は一見すると黒いコートをフードまで被った骸骨の様で。

 

 

 

 

 

そう言う姿が今の自分の有り様と重なった。

 

 

 

 

 

「悪いな、お前も付き合わせちゃって」

 

 

 

 

 

 

 

 名前はお互いもう無い、昔の装備は使う気にも捨てる気にもなれなくて、インベントリの中にしまい込んで居る、誤魔化しているのだ、捨てられないから誤魔化している。

 

 

 

 

 

皆はどうしているのだろうか?

 

 

 

 不思議なもので、管理の当番が各々月に一度、四人で当番を回しているから年に三回位は回って来るのだが、そう言うタイミングを抜きにしても格納庫には皆の機体が有ったり無かったりする。

 

 

 

当番なら皆、リスポーン地点を兼ねた機体をここに置いておくのが便利が良いと思うのだが、それにしたってそうでない時にもたまには置いてあったりもするから、何となく皆クイーンを思い出したい時にはここに来るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

もう皆自分で拠点だとか所属の様なものを作っているそうだから、多分そう言う事なのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機体に近づくと機体の側が僕の体温だか魔力だかを検知し自動でアイドリング状態になる、ゲーム上のフレーバーとしてはそんな感じの理屈だったか。

 

 

 

アイドリング状態特有の緩んだ弦が弾かれる様なヴーンヴーンと言う音があたりに響く、思考が逸れても身体は覚えて居るもので、機体から自動で差し出された掌に乗って胸の真ん中、空いた操縦席まで持ち上げられぼーっとそこへ飛び込んだ。

 

 

 

全周モニターが起動し、幾つかの起動シークエンスと点検の為に必要な動作がモニター写る。久しぶりの起動なので省略せず、五段階の認証に合わせてラジオ体操の様なそれを行っていく、手首と指に始まり全身の関節部分を動かしながら機能と操作の再確認。

 

 

 

 

 

良かった、特に怪しい所は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機体の構造はそれぞれなのだ、例えば魔法で動いたり燃料で動いたりと違えば、操作法まで違ったやつもあって。

 

 

 

身体の動きをそのままトレースして本人の格闘センスで戦ったりだとか、機械とかロボットだのと言うよりは殆ど鉄で出来た恐竜だかドラゴンだかと言った風情のものも有ったりもして。

 

 

 

珍しいものだとAIみたいなものと意思疎通が取れて自分で育てないといけない機体まであるらしい、このゲームは妙に機体に関しては自由度が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がり、格納庫の扉をゆっくりと開ける。

 

 

 

 

 

強大な両開きの扉が名も無き相棒のエンジンが唸るに合わせてゴゴゴと開いていく。

 

 

 

どうにも扉の動きが悪い、やはり、掃除やら簡単な日曜大工の様な事をやったとて人が住んで小まめに手入れをしないとどうしても家と言うものは悪くなっていくのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また意識が逸れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉が開く、そうして僕はお城の外に出て、そうすると城の周囲の名も分からぬ針葉樹から魔物と野生動物の中間の様な鳥たちが飛び立って。

 

 

 

僕はモニターに表示されたそれを目安に北の、海岸沿いの街に向かって歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には現実と言うものと比べて時差がある。

 

 

 

 

 

例えば僕がフルダイブしたのは二十二時である訳なのだけれど、こっちに来れば色々と役に立たなかったりする。

 

 

 

月に関してはまぁ、暦の読み方が違うからまぁ良いとして、問題としては時間が違うと言うか、大体8時間ほど現実より先に時間が進んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 さらに不思議な所として、ログインしていない間の時間は大体三倍程の時間で進んでいるらしくて、これはもう、現実とログイン中の人間の間をどういう風に処理しているのか、どうすれば計算出来るのかも良く分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 具体的には、僕達が魔王討伐をやったのは三年前なのだけれど、こっちの世界では色々な不思議の嚙み合わせで十年経っていて、これは他のプレイヤー達の行動と不思議な調整が働いたその上で確定した十年だからどうしようも無かったりして。

 

 

 

 

 

そういうところがあるものだからネット上の冷静な連中などはやはりこのゲームを人体実験と言うのだけれど、だが、ゲーム上で死んだとしても幾つか日にちが空いて蘇るものだから、結局、現代人と言うものは問題の無いものとしてこのゲームに飛び込んで来たりする訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深々とした雪交じりの針葉樹の森が続く、濃緑に白が重なった景色はどうしても考え込んでしまう僕の思考を冷静にさせて、操縦席の扉を開くとこの世界の冷え切った空気のお陰で、脳の中に溜まっている様な不健康な思考が吹き飛ばされて行った。

 

 

 

 

 

風を感じながら歩いていると、機体の足が雪に隠れた段差で滑り操縦席から落ちかける。

 

 

 

 

 

「うおぉっ」

 

 

 

 

 

僕の異常を感知して緊急で操縦席が閉まる、危ない、こんな所で死んでたら間抜けすぎる。

 

 

 

 

 

 シートベルトの重要性なんかを考えながら改めてしっかりと操縦席に座り直す、モニターには機体の音に反応して遠く、種類の分からぬ鳥か何かが集団で飛び立って行く姿が見えて。

 

 

 

 

 

「ごめん、驚かした」

 

 

 

そう言う、自分でも不思議なほど柔らかい声が出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、参ったなぁ、こんなにボロボロだったっけ?」

 

 

 

 

 

 道と言うのは人間が通らないとすぐにダメになるものなんだな、とそんな事を考えながら歩いていく。

 

 

 

 

 

まぁ、どこかでふんわり聞いただけの知識なのだけれど、それってコンクリートみたいなものでちゃんとやった道路でそうなのだから、当然、こういう中世?みたいな、ちょっと昔の世界だともっとすぐにダメになってしまう。

 

 

 

 

 

一応モニター上にはこの辺りの地図が表示されて居て、お城から線を引くみたいに今までの道のりが書き込まれているから現在地が分かるのだけれど、それを踏まえた上で道の状態が最悪なのだ、どうしようも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「去年はここまで酷く無かった筈なんだけどなぁ?」

 

 

 

元々荒れて居たから判断が難しいのだが、一年でここまで一気に荒れるものなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余りに状態の悪い道にモニターへ警告が表示される、音声は切ってあっても目に付く赤色で表示されるものだから鬱陶しくてしょうがない。

 

 

 

人間でも危ない状況なのだ、そこへ機体ってどうしようも無く重いモノで通ろうと言うのだから仕方が無いとは思うが。

 

 

 

 

 

「この分だと夕方になるかもな」

 

 

 

 

 

急ごうにもこの機体は動けるだけの最低限の状態なのだ、ブースターは取り外していて歩いて行く他ないし、細かなものまで含めると操縦席用のヒーターまで外している。

 

 

 

 

 

「寒い、ヒーター外したのは不味かったかも」

 

 

 

 

 

 現実のどういう所や国をモチーフにしているか分からないが、日が沈むと一体どれぐらいの温度になるのだったか。

 

 

 

 

 

「凍死は嫌だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

兎も角、急ぐことにする、最低限である以上ラジエーターなんかも大した性能では無い、熱に注意しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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